(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記パルス変調器の前段に設けられ、前記オーディオ信号に対して、イコライジング処理、低域強調処理、サラウンド処理、ステレオ変換、モノラル変換処理、周波数変換処理、レベル検出処理の少なくともひとつを実行可能に構成されたデジタルサウンドプロセッサをさらに備えることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のオーディオ出力回路。
【背景技術】
【0002】
微弱なオーディオ信号を増幅し、スピーカやヘッドホンなどの電気音響変換素子を駆動するために、オーディオ出力回路が用いられる。
図1は、D級アンプを備えるオーディオ出力回路100rの構成を示す回路図である。オーディオ出力回路100rは、パルス変調器110、第1ドライバ112、第2ドライバ114、第1D級アンプ116、第2D級アンプ118を備える。パルス変調器110は、オーディオ信号S1をパルス幅変調、あるいはパルス密度変調する。パルス変調されたオーディオ信号(以下、パルス信号という)S2p、S2nは、第1ドライバ112、第2ドライバ114に入力される。
【0003】
負荷である電気音響変換素子2は、第1D級アンプ116および第2D級アンプ118に対して、BTL(Bridge Transless)接続される。第1フィルタ104は、電気音響変換素子2の正極端子+と第1D級アンプ116の出力の間に挿入され、第2フィルタ106は電気音響変換素子2の負極端子−と第2D級アンプ118の出力の間に挿入される。フィルタ104、106はそれぞれ、シリーズインダクタL1(L2)とシャントキャパシタC1(C2)を有する1次フィルタである。
【0004】
第1ドライバ112は、パルス信号S2pに応じて、第1D級アンプ116のハイサイドトランジスタとローサイドトランジスタを相補的にスイッチングする。同様に第2ドライバ114は、パルス信号S2nに応じて、第2D級アンプ118のハイサイドトランジスタとローサイドトランジスタを相補的にスイッチングする。
【0005】
図2は、
図1のオーディオ出力回路100rの差動動作時の波形図である。本明細書における波形図やタイムチャートの縦軸および横軸は、理解を容易とするために適宜拡大、縮小したものであり、また示される各波形も、理解の容易のために簡略化されている。
【0006】
ここでは理解の容易のため、三角波とオーディオ信号S1の比較によってパルス信号S2p、S_2が生成される場合を説明する。差動方式のD級アンプでは、パルス信号S2p、S2nは逆相となる。その結果、出力電圧Vo
+とVo
−が差動信号となり、差動信号Vo(=Vo
+−Vo
−)の振幅は、第1D級アンプ116および第2D級アンプ118の電源電圧V
DDの2倍となる。
【0007】
差動型のD級アンプにおいて、第1フィルタ104、第2フィルタ106は、差動信号Voのスイッチング周波数を除去して、もとのオーディオ信号S1を再生するためのローパスフィルタとして機能する。
【0008】
近年、
図2で説明したD級アンプの差動動作に代えて、フィルタレス動作が採用されている。
図3は、オーディオ出力回路100rのフィルタレス動作時の波形図である。フィルタレス動作では、オーディオ信号S1と三角波の比較によってパルス信号S2pが生成され、オーディオ信号S1の反転信号#S1と三角波の比較によってパルス信号S2nが生成される。電気音響変換素子2に印加される差動信号Voの振幅は、差動動作の1/2となる。この方式では、スイッチング周波数を除去するためのローパスフィルタが不要であるため、フィルタレス動作あるいはフィルタレス方式と称される。ただし、不要輻射(EMI:ElectroMagnetic Interference)を抑制するために、フィルタを外すことはできず、フィルタレス方式では第1フィルタ104、第2フィルタ106は、EMI除去用フィルタとして機能する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
フィルタレス方式のオーディオ出力回路100rでは、フィルタ104、106のシリーズインダクタL1、L2に、パワーインダクタと称される部品が採用されるのが一般的である。ここでパワーインダクタは最小のものでも25mm
2(=5mm×5mm)の面積を有している。ステレオのオーディオ出力回路100rでは、左右各チャンネルについて2個、合計4個のパワーインダクタが必要であるため、その実装面積は合計で4×25mm
2となり、プリント基板上の専有面積が大きくなる。
【0011】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、オーディオ出力回路の小型化にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のある態様は、電気音響変換素子を駆動するオーディオ出力回路に関する。オーディオ出力回路は、第1D級アンプと、第2D級アンプと、オーディオ信号を受け、第1D級アンプおよび第2D級アンプそれぞれをフィルタレス方式で駆動するための、第1パルス信号および第2パルス信号を生成するパルス変調器と、第1パルス信号に応じて第1D級アンプを駆動する第1ドライバと、第2パルス信号に応じて第2D級アンプを駆動する第2ドライバと、その一端が第1D級アンプの出力端子と接続され、その他端が電気音響変換素子の正極端子と接続される第1コイルと、その一端が第2D級アンプの出力端子と接続され、その他端が電気音響変換素子の負極端子と接続される第2コイルと、第1コイルおよび第2コイルが巻装されるコアと、を有するコモンモードチョークコイルと、第1D級アンプの出力信号と第2D級アンプの出力信号に相対的な遅延を与える遅延設定回路と、を備える。
【0013】
この態様によると、第1D級アンプの出力信号と第2D級アンプの出力信号の相対的な遅延量を制御することで、コモンモードチョークコイルによって2つの出力信号に与えられる歪みを補償することができ、音質の低下を抑制できる。また2個のパワーインダクタを1個のコモンモードチョークコイルに置換できるため部品点数を削減でき、また部品の専有面積を小さくできる。
【0014】
遅延設定回路は、全高調波歪+ノイズ(THD+N)が小さくなるように遅延量を設定してもよい。
遅延量を変化させると、EMIと、全高調波歪+ノイズ(THD+N)が変化する。そこでEMIの規格を満たす範囲において、THD+nがなるべく小さくなるように遅延量を設定することで、高音質を実現できる。
【0015】
遅延設定回路は、オーディオ信号のレベルに応じて遅延量を変化させてもよい。
オーディオ信号にもたらされる歪み量を低下させる最適な遅延量は、オーディオ信号のレベルに依存する場合がある。この場合に、遅延量をオーディオ信号のレベルに応じて適応的に変化させることで、高音質を実現できる。
【0016】
オーディオ出力回路は、オーディオ信号のレベルを検出するレベルメータをさらに備えてもよい。遅延設定回路は、レベルメータの検出結果に応じて遅延量を設定してもよい。
【0017】
オーディオ出力回路は、パルス変調器の前段に設けられ、設定されたボリウム値に応じて、オーディオ信号の振幅を変化させるボリウム回路をさらに備えてもよい。遅延設定回路は、ボリウム値に応じて遅延量を設定してもよい。
【0018】
オーディオ出力回路は、遅延量を指示するデータを外部のプロセッサから受信するインタフェース回路と、受信したデータを格納するレジスタと、をさらに備えてもよい。遅延設定回路は、レジスタに格納されたデータにもとづいて遅延量を設定してもよい。
【0019】
遅延量の調節可能な範囲の上限値は、100ns以上であってもよい。
【0020】
遅延量の調節可能な範囲の下限値は0nsであり、その上限値は300ns以上であってもよい。
【0021】
オーディオ出力回路は、一端が電気音響変換素子の正極端子と接続され、他端が接地された第1キャパシタと、一端が電気音響変換素子の負極端子と接続され、他端が接地された第2キャパシタと、をさらに備えてもよい。
【0022】
オーディオ出力回路は、一端が電気音響変換素子の正極端子と接続され、他端が電気音響変換素子の負極端子と接続された第3キャパシタをさらに備えてもよい。
【0023】
オーディオ出力回路は、パルス変調器の前段に設けられ、オーディオ信号に対して、イコライジング処理、低域強調処理、サラウンド処理、ステレオ変換、モノラル変換処理、周波数変換処理、レベル検出処理の少なくともひとつを実行可能に構成されたデジタルサウンドプロセッサをさらに備えてもよい。
【0024】
本発明の別の態様は電子機器に関する。電子機器は、電気音響変換素子と、電気音響変換素子を駆動する上述のいずれかのオーディオ出力回路と、を備えてもよい。
【0025】
電子機器は、オーディオデータを生成する音源をさらに備えてもよい。オーディオ出力回路は、オーディオデータにもとづいてオーディオ信号を生成してもよい。
【0026】
本発明の別の態様は、オーディオ用集積回路である。このオーディオ用集積回路は、コモンモードチョークコイルとともに、電気音響変換素子を駆動するオーディオ出力回路を構成する。コモンモードチョークコイルは、その一端が電気音響変換素子の正極端子と接続される第1コイルと、その一端が電気音響変換素子の負極端子と接続される第2コイルと、第1コイルおよび第2コイルが巻装されるコアと、を有する。オーディオ用集積回路は、その出力端子が第1コイルの他端と接続されるべき第1D級アンプと、その出力端子が第2コイルの他端と接続されるべき第2D級アンプと、オーディオ信号を受け、第1D級アンプおよび第2D級アンプそれぞれをフィルタレス方式で駆動するための、第1パルス信号および第2パルス信号を生成するパルス変調器と、第1パルス信号に応じて第1D級アンプを駆動する第1ドライバと、第2パルス信号に応じて第2D級アンプを駆動する第2ドライバと、第1D級アンプの出力信号と第2D級アンプの出力信号に相対的な遅延を与える遅延設定回路と、を備える。
【0027】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、オーディオ出力回路を小型化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0031】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合や、部材Aと部材Bが、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0032】
図4は、実施の形態に係るオーディオ出力回路100の構成を示す回路図である。
オーディオ出力回路100は、電気音響変換素子2を駆動する。オーディオ出力回路100は、オーディオIC102、出力フィルタ108を備え、フィルタレス方式のD級アンプを構成する。
【0033】
オーディオIC102はひとつの半導体基板に集積化された機能ICであり、出力端子OUTP、OUTN、データ入出力端子I/Oを備える。
【0034】
出力フィルタ108は、コモンモードチョークコイル140、第1キャパシタC1、第2キャパシタC2を含む。コモンモードチョークコイル140は、第1コイル142、第2コイル144、コア146を有する。第1コイル142および第2コイル144は、共通のコア146に巻装される。第1コイル142の一端は、第1出力端子OUTPに接続され、その他端は電気音響変換素子2の正極端子+と接続される。また第2コイル144の一端は第2出力端子OUTNに接続され、その他端は電気音響変換素子2の負極端子−と接続される。第1キャパシタC1は電気音響変換素子2の正極端子+と接地端子の間に設けられ、第2キャパシタC2は電気音響変換素子2の負極端子−と接地端子の間に設けられる。出力フィルタ108は主として不要輻射(EMI)を低減するために設けられる。
【0035】
オーディオIC102は、パルス変調器110、第1ドライバ112、第2ドライバ114、第1D級アンプ116、第2D級アンプ118、可変遅延回路120、遅延設定回路122、レジスタ124、インタフェース回路126を備える。
【0036】
パルス変調器110はオーディオ信号S1を受ける。パルス変調器110は、オーディオ信号S1をパルス変調し、第1D級アンプ116および第2D級アンプ118それぞれをフィルタレス方式で駆動するための、第1パルス信号S2pおよび第2パルス信号S2nを生成する。パルス変調器110の構成、変調方式は特に限定されず、ΔΣ変調器を用いてもよいし、三角波はのこぎり波をオーディオ信号S1のレベルでスライスするパルス幅変調を用いてもよい。
【0037】
第1ドライバ112は、第1パルス信号S2pに応じて第1D級アンプ116を駆動する。同様に第2ドライバ114は、第2パルス信号S2nに応じて第2D級アンプ118を駆動する。
【0038】
遅延設定回路122は、第1D級アンプ116の出力信号Vo
+と第2D級アンプ118の出力信号Vo
−に相対的な遅延τを与える。相対的な遅延τを与えるために、第1パルス信号S2p、第2パルス信号S2nの少なくとも一方の経路上には、可変遅延回路120が設けられる。本実施の形態では、可変遅延回路120pが第1パルス信号S2pの経路上に、可変遅延回路120nが第2パルス信号S2nの経路上に設けられる。可変遅延回路120p、120nはそれぞれ、第1ドライバ112、第2ドライバ114に内蔵されてもよいし、それらはパルス変調器110に内蔵されてもよく、またアナログ遅延回路であってもよいしデジタル遅延回路であってもよい。可変遅延回路120p、120nを総称して、単に可変遅延回路120という。
【0039】
遅延設定回路122は、可変遅延回路120p、120nの遅延量を制御する。本実施の形態において、遅延量τは、外部のCPU(Central Processing Unit)4から設定可能となっている。
【0040】
CPU4とオーディオIC102のI/O端子はI
2Cバスなどを介して接続される。CPU4は、遅延量τを指示するデータD3を生成し、I
2Cバスを介してオーディオIC102に伝送する。インタフェース回路126は、CPU4からデータD3を受信し、その値をレジスタ124に書き込む。遅延設定回路122は、レジスタ124に書き込まれたデータD3に応じて、可変遅延回路120p、120nそれぞれの遅延量を設定し、第1パルス信号S2pと第2パルス信号S2nの相対的な遅延量τを設定する。詳しくは後述するように、遅延量τは、全高調波歪+ノイズ(THD+N)が小さくなるように定められる。
【0041】
以上がオーディオ出力回路100の構成である。
【0042】
続いてその動作を説明する。本発明者らは、オーディオ出力回路100にコモンモードチョークコイル140を利用するにあたり、以下の課題を認識するに至った。なおこの認識を当業者の一般的な技術常識としてとらえてはならない。
【0043】
図5は、コモンモードチョークコイル140を用いたオーディオ出力回路100の動作を示す波形図である。ここでは、可変遅延回路120p、120nが与える相対的な遅延量τがゼロの場合を示す。フィルタレス方式においては、オーディオ信号S1のレベルに応じて、第1パルス信号S2p(Vo
+)と第2パルス信号S2n(Vo
−)の間の、差動成分と同相成分のバランスが変化する。すなわちオーディオ信号S1がセンターレベル(バイアスレベルSb)から離れたレベルをとるとき(
図5のA)、第1パルス信号S2pと第2パルス信号S2nの差動成分が大きくなり、反対にオーディオ信号S1がセンターレベルに近くなると(
図5のB)、それらの同相成分が大きくなる。
【0044】
ここでコモンモードチョークコイル140は、2つの第1コイル142と第2コイル144の同相成分をキャンセルするように作用する。したがってフィルタレス方式のオーディオ出力回路100においては、同相成分が支配的な領域、つまりオーディオ信号S1がセンターレベルに近いときに、2つの出力信号Vo
+、Vo
−の同相成分が打ち消しあい、負荷である電気音響変換素子2に印加される電圧Vloadは、ゼロクロス付近で歪んでしまう。
【0045】
実施の形態に係るオーディオ出力回路100は、遅延τを設定することにより、ゼロクロス付近の歪みを低減する。
図6(a)、(b)は、実施の形態に係るオーディオ出力回路100による歪みの低減の様子を示す波形図である。なお
図6(a)、(b)の波形は、コモンモードチョークコイルの作用を概念的に示したものであり、実際の波形とは異なることに留意されたい。
【0046】
図6(a)は、遅延τがゼロのときの波形を示す。差動信号Voの波線は、コモンモードチョークコイル140により同相成分が除去されない場合の波形を、実線は同相成分が除去されたときの波形である。同相成分の除去は、差動信号Voのパルス幅T1をT1’に短くすることと等価である。同相成分が除去され、パルス幅が小さくなると、負荷電圧Vloadが小さくなり、波形が歪む。
【0047】
図6(b)は、出力信号Vo
−に適切な遅延τを与えたときの波形である。遅延τを与えることにより、同相成分が除去される前の波形Vo(波線)のパルス幅T2は、T1+τとなる。このパルス幅T2を有する波形から、コモンモードチョークコイル140によって同相成分が除去されるとパルス幅がT2’に短くなる。したがって、短くなった後のパルス幅T2が、
図6(a)のパルス幅T1と一致するように、遅延量τを設定すれば、波形歪みを抑制できる。
【0048】
以上がオーディオ出力回路100の動作である。
【0049】
オーディオ出力回路100によれば、以下の効果を得ることができる。
(第1の効果)
図1のオーディオ出力回路100ではそれが2個必要であるところ、コモンモードチョークコイル140は1個でよいため、部品点数を削減できる。くわえて、パワーインダクタに比べてコモンモードチョークコイル140は小さい。具体的には、現在市販されるパワーインダクタのサイズが25mm
2であり、
図1のオーディオ出力回路100ではそれが2個必要であるところ、コモンモードチョークコイル140のサイズは16mm
2(=4mm×4mm)である。したがってオーディオ出力回路100の実装面積を削減し、小型化が可能となる。
【0050】
(第2の効果) また、遅延制御を行い、遅延量を最適化することにより、高音質なオーディオ信号を再生できる。
図7(a)は、遅延τを与えないときの、
図7(b)は、適切な遅延τを与えたときの負荷電圧Vloadを示す波形図である。
図7(a)、(b)は、実際のオーディオ出力回路100の負荷電圧Vloadをオシロスコープで測定した波形図をキャプチャしたものである。測定は、電源電圧V
DD=12V、オーディオ信号の周波数f=1kHz、負荷インピーダンスRL=8Ω、出力電力Po=10mWの条件で行った。第1キャパシタC1、第2キャパシタC2の容量値は1000pFである。
【0051】
図7(a)に示すように、遅延τを与えない場合、コモンモードチョークコイル140の影響によってゼロクロス付近で波形歪みが発生する。これに対して、適切な遅延τを与えることで、
図7(b)に示すようにゼロクロス付近の波形歪みを改善できる。
【0052】
オーディオ信号の品質を示す指標のひとつとして「全高調波歪+ノイズ(THD+N)」が知られる。
図8は、出力電圧と全高調波歪+ノイズの関係を示す図である。(i)は、パワーインダクタを用いた
図1のオーディオ出力回路100rの特性を示す。(ii)は、コモンモードチョークコイル140を用いて遅延制御を行わない場合の特性を示す。(iii)は、コモンモードチョークコイル140を用いて遅延制御を行った場合の特性を示す。測定は、電源電圧V
DD=12V、オーディオ信号の周波数f=1kHz、負荷インピーダンスRL=8Ωの条件で、20Hz〜20kHzの帯域で行った。
【0053】
特性(ii)に示すように遅延制御を行わずにコモンモードチョークコイル140を用いると、その値はパワーインダクタを用いた場合(i)に比べて低出力時のTHD+nは顕著に悪化する。これに対して、遅延制御を行うことにより、コモンモードチョークコイル140を用いた場合の低出力時のTHD+nを大幅に改善することができる。
【0054】
以上がオーディオ出力回路100の効果である。
【0055】
続いて、遅延量τの範囲について説明する。
図9は、遅延量τと、THD+nおよびEMIの関係を示す図である。
図9に示すように、遅延量τを変化させると、不要輻射EMIおよびTHD+nが変化する。EMIは、規格で定められる上限値(破線)より小さければ十分であるのに対し、THD+nは、小さければ小さい方が好ましい。したがって、遅延量τは、EMIの規格を満たす範囲において、THD+nがなるべく小さくなるように最適化することが望ましい。最適な遅延量τは、コモンモードチョークコイル140の種類、第1キャパシタC1、第2キャパシタC2の容量値、電源電圧V
DD、オーディオ信号S1のレベルなどに応じて異なる値をとる。したがってオーディオ出力回路100の設計者は、シミュレーションや実測によって最適な遅延量τをあらかじめ見積もっておけばよい。
【0056】
EMIのみを考慮する場合、遅延量τの絶対値(以下、単に遅延量という)はたとえば数十nsのオーダーで十分であるが、高音質なオーディオ信号を得るために必要な遅延量τは、コモンモードチョークコイル140の性能によっては、100ns以上となる場合もある。そこで遅延量τの調節可能な範囲の上限値は、100ns以上であることが望ましい。また本発明者らが検討を行ったところ、最適な遅延量τは出力電力Poに応じて異なる場合があり、300ns以上の遅延量が必要となる場合もある。そこで、可変遅延回路120p、120nはそれぞれ、遅延量τの下限値が0nsであり、その上限値が300ns以上となるよう構成することが望ましい。
【0057】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0058】
(第1の変形例)
図10は、第1の変形例に係るオーディオ出力回路100aの構成を示す回路図である。上述のように、良好なTHD+nを与える最適な遅延量τは、出力電力に応じて異なる場合がある。そこでオーディオ出力回路100aにおいて、遅延設定回路122は、オーディオ信号S1のレベルに応じて遅延量τを変化させる。
【0059】
オーディオIC102aは、
図4のオーディオIC102に加えて、レベルメータ130およびボリウム回路132を備える。ボリウム回路132は、前段からのオーディオ信号S1’を受け、ボリウム値に応じた係数を乗ずることにより、オーディオ信号S1のレベル(振幅)を調節する。レベルメータ130は、パルス変調器110に入力されるオーディオ信号S1のレベル(振幅)を検出する。
【0060】
オーディオ信号S1’本来のレベルは、そのときどきによって変化し、したがってオーディオ信号S1のレベルは変化する。またオーディオ信号S1’のレベルが同じ場合であっても、ボリウム回路132のボリウム値が変更されると、オーディオ信号S1のレベルは変化する。そこでレベルメータ130によってオーディオ信号S1のレベルを検知し、その結果に応じて遅延量τを設定することにより、幅広い出力電力Poにおいて、高音質なオーディオ信号S1を再生できる。
【0061】
出力電力Poごと、言い換えればオーディオ信号S1のレベルごとに最適な遅延量τは、あらかじめシミュレーションあるいは実測により取得しておけばよい。
【0062】
また
図10には、出力フィルタ108の変形例が示される。
図10の出力フィルタ108aは、
図4の第1キャパシタC1、第2キャパシタC2に代えて、第3キャパシタC3を備える。第3キャパシタC3は、電気音響変換素子2の正極端子+と負極端子−の間に設けられる。
図4のオーディオIC102においても、出力フィルタ108に代えて
図10の出力フィルタ108aを用いてもよい。また第3キャパシタC3を、第1キャパシタC1および第2キャパシタC2と組み合わせてもよい。
【0063】
(第2の変形例)
図10のオーディオ出力回路100aにおいて、オーディオ信号S1’の振幅が実質的に一定に制御される場合、オーディオ信号S1のレベルは主としてボリウム回路132のボリウム値に依存することになる。この場合、レベルメータ130を省略し、遅延設定回路122は、ボリウム回路132のボリウム値に応じて遅延量τを設定してもよい。
【0064】
最後に、オーディオ出力回路100のアプリケーションを説明する。
図11は、オーディオ出力回路を備える電子機器1を示す回路図である。
【0065】
電子機器1は、オーディオ出力回路100bに加えて、CPU4、音源6を備える。音源6とオーディオIC102bのI/O端子I/O2はI
2Sバスなどを介して接続される。音源6は、デジタルのオーディオデータD1を生成する。
【0066】
オーディオIC102bは、パルス変調器110の前段に設けられたDSP(Digital Sound Processor)150と、オーディオインタフェース回路166を備える。オーディオインタフェース回路166は、音源6からのオーディオデータD1を受け、オーディオ信号S1’をDSP150に出力する。
【0067】
DSP150は、オーディオ信号S1’に対してさまざまな信号処理を施す。たとえばDSP150は、イコライザ152、バスブースト回路154、ボリウム回路156、サラウンド回路158、ステレオ・モノラル変換回路160、プリスケーラ162、レベルメータ164の少なくともひとつを備える。
【0068】
イコライザ152は、オーディオ信号S1’に対してイコライジング処理を行う。バスブースト回路154は、オーディオ信号S1’に対して低域強調処理を行う。ボリウム回路156は、オーディオ信号S1’に対してサラウンド処理を行う。サラウンド回路158は、オーディオ信号S1’に対してサラウンド処理を行う。ステレオ・モノラル変換回路160は、オーディオ信号S1’に対してステレオ変換、モノラル変換を行う。プリスケーラ162は、オーディオ信号S1’の周波数変換を行う。レベルメータ164は、オーディオ信号S1のレベルを検出する。各ユニットは個別にオンオフが切りかえ可能であり、また処理順序も任意に設定可能である。
【0069】
遅延設定回路122は、CPU4からのデータにもとづいて、あるいはDSP150からの指令値にもとづいて、可変遅延回路120の遅延量τを設定する。
【0070】
図12(a)〜(c)は、電子機器1の外観図である。
図12(a)は電子機器1の一例であるディスプレイ装置600である。ディスプレイ装置600は、筐体602、スピーカ2を備える。オーディオ出力回路100は筐体に内蔵され、スピーカ2を駆動する。
【0071】
図12(b)は電子機器1の一例であるオーディオコンポ700である。オーディオコンポ700は、筐体702、スピーカ2を備える。オーディオ出力回路100は筐体702に内蔵され、スピーカ2を駆動する。
【0072】
図12(c)は電子機器1の一例である小型情報端末800である。小型情報端末800は、携帯電話、PHS(Personal Handy-phone System)、PDA(Personal Digital Assistant)、タブレットPC(Personal Computer)、オーディオプレイヤなどである。小型情報端末800は、筐体802、スピーカ2、ディスプレイ804を備える。オーディオ出力回路100は筐体802に内蔵され、スピーカ2を駆動する。
【0073】
図12(a)〜(c)に示すような電子機器にオーディオ出力回路100を用いることにより、音質の低下を抑制しつつ、コモンモードチョークコイル140を用いることができ、筐体を小型化したり、本来パワーインダクタが占有していた箇所に、別の回路部品を実装することが可能となる。