(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記グリーンシートを仮焼する工程では、前記グリーンシートを大気圧より高い圧力に加圧した非酸化性雰囲気下でバインダー分解温度に一定時間保持することにより前記バインダーを飛散させて除去することを特徴とする請求項1に記載の希土類永久磁石の製造方法。
前記グリーンシートを仮焼する工程では、前記グリーンシートを水素雰囲気下又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気下において200℃〜900℃で一定時間保持することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の希土類永久磁石の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る希土類永久磁石及び希土類永久磁石の製造方法について具体化した一実施形態について以下に図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0028】
[永久磁石の構成]
先ず、本発明に係る永久磁石1の構成について説明する。
図1は本発明に係る永久磁石1を示した全体図である。尚、
図1に示す永久磁石1は扇型形状を備えるが、永久磁石1の形状は打ち抜き形状によって変化する。
本発明に係る永久磁石1はNd−Fe−B系の異方性磁石である。尚、各成分の含有量はNd:27〜40wt%、B:0.8〜2wt%、Fe(電解鉄):60〜70wt%とする。また、磁気特性向上の為、Dy、Tb、Co、Cu、Al、Si、Ga、Nb、V、Pr、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Ag、Bi、Zn、Mg等の他元素を少量含んでも良い。
図1は本実施形態に係る永久磁石1を示した全体図である。
【0029】
ここで、永久磁石1は例えば0.05mm〜10mm(例えば1mm)の厚さを備えた薄膜状の永久磁石である。そして、後述のように圧粉成形により成形された成形体や磁石粉末とバインダーとが混合された混合物(スラリーやコンパウンド)からシート状に成形された成形体(グリーンシート)を焼結することによって作製される。
【0030】
また、本発明では特にグリーンシート成形により永久磁石1を製造する場合において、磁石粉末に混合されるバインダーは、樹脂や長鎖炭化水素や脂肪酸メチルエステルやそれらの混合物等が用いられる。
更に、バインダーに樹脂を用いる場合には、構造中に酸素原子を含まず、且つ解重合性のあるポリマーを用いるのが好ましい。また、後述のようにホットメルト成形によりグリーンシートを成形する場合には、成形されたグリーンシートを加熱して軟化した状態で磁場配向を行う為に、熱可塑性樹脂が用いられる。具体的には以下の一般式(1)に示されるモノマーから選ばれる1種又は2種以上の重合体又は共重合体からなるポリマーが該当する。
【化1】
(但し、R1及びR2は、水素原子、低級アルキル基、フェニル基又はビニル基を表す)
【0031】
上記条件に該当するポリマーとしては、例えばイソブチレンの重合体であるポリイソブチレン(PIB)、イソプレンの重合体であるポリイソプレン(イソプレンゴム、IR)、1,3−ブタジエンの重合体であるポリブタジエン(ブタジエンゴム、BR)、スチレンの重合体であるポリスチレン、スチレンとイソプレンの共重合体であるスチレン−イソプレンブロック共重合体(SIS)、イソブチレンとイソプレンの共重合体であるブチルゴム(IIR)、スチレンとブタジエンの共重合体であるスチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBS)、2−メチル−1−ペンテンの重合体である2−メチル−1−ペンテン重合樹脂、2−メチル−1−ブテンの重合体である2−メチル−1−ブテン重合樹脂、α−メチルスチレンの重合体であるα−メチルスチレン重合樹脂等がある。尚、α−メチルスチレン重合樹脂は柔軟性を与えるために低分子量のポリイソブチレンを添加することが望ましい。また、バインダーに用いる樹脂としては、酸素原子を含むモノマーの重合体又は共重合体(例えば、ポリブチルメタクリレートやポリメチルメタクリレート等)を少量含む構成としても良い。更に、上記一般式(1)に該当しないモノマーが一部共重合していても良い。その場合であっても、本願発明の目的を達成することが可能である。
尚、バインダーに用いる樹脂としては、磁場配向を適切に行う為に250℃以下で軟化する熱可塑性樹脂、より具体的にはガラス転移点又は融点が250℃以下の熱可塑性樹脂を用いることが望ましい。
【0032】
一方、バインダーに長鎖炭化水素を用いる場合には、室温で固体、室温以上で液体である長鎖飽和炭化水素(長鎖アルカン)を用いるのが好ましい。具体的には炭素数が18以上である長鎖飽和炭化水素を用いるのが好ましい。そして、後述のようにホットメルト成形により成形されたグリーンシートを磁場配向する際には、グリーンシートを長鎖炭化水素の融点以上で加熱して軟化した状態で磁場配向を行う。
【0033】
また、バインダーに脂肪酸メチルエステルを用いる場合においても同様に、室温で固体、室温以上で液体であるステアリン酸メチルやドコサン酸メチル等を用いるのが好ましい。そして、後述のようにホットメルト成形により成形されたグリーンシートを磁場配向する際には、グリーンシートを脂肪酸メチルエステルの融点以上で加熱して軟化した状態で磁場配向を行う。
【0034】
グリーンシートを作製する際に磁石粉末に混合されるバインダーとして上記条件を満たすバインダーを用いることによって、磁石内に含有する炭素量及び酸素量を低減させることが可能となる。具体的には、焼結後に磁石に残存する炭素量を2000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下とする。また、焼結後に磁石に残存する酸素量を5000ppm以下、より好ましくは2000ppm以下とする。
【0035】
また、バインダーの添加量は、スラリーや加熱溶融したコンパウンドをシート状に成形する際にシートの厚み精度を向上させる為に、磁石粒子間の空隙を適切に充填する量とする。例えば、磁石粉末とバインダーの合計量に対するバインダーの比率が、1wt%〜40wt%、より好ましくは2wt%〜30wt%、更に好ましくは3wt%〜20wt%とする。
【0036】
[永久磁石の製造方法]
次に、本発明に係る永久磁石1の製造方法について
図2を用いて説明する。
図2は本実施形態に係る永久磁石1の製造工程を示した説明図である。
【0037】
先ず、所定分率のNd−Fe−B(例えばNd:32.7wt%、Fe(電解鉄):65.96wt%、B:1.34wt%)からなる、インゴットを製造する。その後、インゴットをスタンプミルやクラッシャー等によって200μm程度の大きさに粗粉砕する。若しくは、インゴットを溶解し、ストリップキャスト法でフレークを作製し、水素解砕法で粗粉化する。それによって、粗粉砕磁石粉末10を得る。
【0038】
次いで、粗粉砕磁石粉末10をビーズミル11による湿式法又はジェットミルを用いた乾式法等によって微粉砕する。例えば、ビーズミル11による湿式法を用いた微粉砕では有機溶媒中で粗粉砕磁石粉末10を所定範囲の粒径(例えば0.1μm〜5.0μm)に微粉砕するとともに有機溶媒中に磁石粉末を分散させる。その後、湿式粉砕後の有機溶媒に含まれる磁石粉末を真空乾燥などで乾燥させ、乾燥した磁石粉末を取り出す。また、粉砕に用いる溶媒は有機溶媒であるが、溶媒の種類に特に制限はなく、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノールなどのアルコール類、酢酸エチル等のエステル類、ペンタン、ヘキサンなどの低級炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなど芳香族類、ケトン類、それらの混合物等が使用できる。尚、好ましくは、溶媒中に酸素原子を含まない炭化水素系溶媒が用いられる。
【0039】
一方、ジェットミルによる乾式法を用いた微粉砕では、粗粉砕した磁石粉末を、(a)酸素含有量が実質的に0%の窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気中、又は(b)酸素含有量が0.0001〜0.5%の窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気中で、ジェットミルにより微粉砕し、所定範囲の粒径(例えば1.0μm〜5.0μm)の平均粒径を有する微粉末とする。尚、酸素濃度が実質的に0%とは、酸素濃度が完全に0%である場合に限定されず、微粉の表面にごく僅かに酸化被膜を形成する程度の量の酸素を含有しても良いことを意味する。
【0040】
次に、ビーズミル11等で微粉砕された磁石粉末を所望形状に成型する。尚、磁石粉末の成形には、例えば金型を用いて所望の形状へと成形する圧粉成形や、磁石粉末を一旦シート状に成形した後に所望の形状へと打ち抜くグリーンシート成形がある。更に、圧粉成形には、乾燥した微粉末をキャビティに充填する乾式法と、磁石粉末を含むスラリーを乾燥させずにキャビティに充填する湿式法がある。一方、グリーンシート成形は、例えば磁石粉末とバインダーとが混合したコンパウンドをシート状に成形するホットメルト塗工や、磁石粉末とバインダーと有機溶媒とを含むスラリーを基材上に塗工することによりシート状に成形するスラリー塗工等による成形が有る。
【0041】
以下では、特にホットメルト塗工を用いたグリーンシート成形について説明する。
先ず、ビーズミル11等で微粉砕された磁石粉末にバインダーを混合することにより、磁石粉末とバインダーからなる粉末状の混合物(コンパウンド)12を作製する。ここで、バインダーとしては、上述したように樹脂や長鎖炭化水素や脂肪酸メチルエステルやそれらの混合物等が用いられる。例えば、樹脂を用いる場合には構造中に酸素原子を含まず、且つ解重合性のあるポリマーからなる熱可塑性樹脂を用い、一方、長鎖炭化水素を用いる場合には、室温で固体、室温以上で液体である長鎖飽和炭化水素(長鎖アルカン)を用いるのが好ましい。また、脂肪酸メチルエステルを用いる場合には、ステアリン酸メチルやドコサン酸メチル等を用いるのが好ましい。また、バインダーの添加量は、上述したように添加後のコンパウンド12における磁石粉末とバインダーの合計量に対するバインダーの比率が、1wt%〜40wt%、より好ましくは2wt%〜30wt%、更に好ましくは3wt%〜20wt%となる量とする。尚、バインダーの添加は、窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気で行う。尚、磁石粉末とバインダーとの混合は、例えば有機溶媒に磁石粉末とバインダーとをそれぞれ投入し、攪拌機で攪拌することにより行う。そして、攪拌後に磁石粉末とバインダーとを含む有機溶媒を加熱して有機溶媒を気化させることにより、コンパウンド12を抽出する。また、磁石粉末とバインダーとの混合は、窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気で行うことが望ましい。また、特に磁石粉末を湿式法で粉砕した場合においては、粉砕に用いた有機溶媒から磁石粉末を取り出すことなくバインダーを有機溶媒中に添加して混練し、その後に有機溶媒を揮発させて後述のコンパウンド12を得る構成としても良い。
【0042】
続いて、コンパウンド12をシート状に成形することによりグリーンシートを作成する。特に、ホットメルト塗工では、コンパウンド12を加熱することによりコンパウンド12を溶融し、流体状にしてからセパレータ等の支持基材13上に塗工する。その後、放熱して凝固させることにより、支持基材13上に長尺シート状のグリーンシート14を形成する。尚、コンパウンド12を加熱溶融する際の温度は、用いるバインダーの種類や量によって異なるが50〜300℃とする。但し、用いるバインダーの融点よりも高い温度とする必要がある。尚、スラリー塗工を用いる場合には、トルエン等の有機溶媒中に磁石粉末とバインダーとを分散させ、スラリーをセパレータ等の支持基材13上に塗工する。その後、乾燥して有機溶媒を揮発させることにより、支持基材13上に長尺シート状のグリーンシート14を形成する。
【0043】
ここで、溶融したコンパウンド12の塗工方式は、スロットダイ方式やカレンダーロール方式等の層厚制御性に優れる方式を用いることが好ましい。例えば、スロットダイ方式では、加熱して流体状にしたコンパウンド12をギアポンプにより押し出してダイに挿入することにより塗工を行う。また、カレンダーロール方式では、加熱した2本ロールのギャップにコンパウンド12を一定量仕込み、ロールを回転させつつ支持基材13上にロールの熱で溶融したコンパウンド12を塗工する。また、支持基材13としては、例えばシリコーン処理ポリエステルフィルムを用いる。更に、消泡剤を用いたり、加熱真空脱泡を行うこと等によって展開層中に気泡が残らないよう充分に脱泡処理することが好ましい。また、支持基材13上に塗工するのではなく、押出成型によって溶融したコンパウンド12をシート状に成型するとともに支持基材13上に押し出すことによって、支持基材13上にグリーンシート14を成形する構成としても良い。
【0044】
以下に、
図3を用いて特にスロットダイ方式によるグリーンシート14の形成工程についてより詳細に説明する。
図3はスロットダイ方式によるグリーンシート14の形成工程を示した模式図である。
図3に示すようにスロットダイ方式に用いられるダイ15は、ブロック16、17を互いに重ね合わせることにより形成されており、ブロック16、17との間の間隙によってスリット18やキャビティ(液溜まり)19を形成する。キャビティ19はブロック17に設けられた供給口20に連通される。そして、供給口20はギアポンプ(図示せず)等によって構成される塗布液の供給系へと接続されており、キャビティ19には供給口20を介して、計量された流体状のコンパウンド12が定量ポンプ等により供給される。更に、キャビティ19に供給された流体状のコンパウンド12はスリット18へ送液されて単位時間一定量で幅方向に均一な圧力でスリット18の吐出口21から予め設定された塗布幅により吐出される。一方で、支持基材13はコーティングロール22の回転に伴って予め設定された速度で連続搬送される。その結果、吐出した流体状のコンパウンド12が支持基材13に対して所定厚さで塗布され、その後、放熱して凝固することにより支持基材13上に長尺シート状のグリーンシート14が成形される。
【0045】
また、スロットダイ方式によるグリーンシート14の形成工程では、塗工後のグリーンシート14のシート厚みを実測し、実測値に基づいてダイ15と支持基材13間のギャップDをフィードバック制御することが望ましい。また、ダイ15に供給する流体状のコンパウンド12の量の変動は極力低下させ(例えば±0.1%以下の変動に抑える)、更に塗工速度の変動についても極力低下させる(例えば±0.1%以下の変動に抑える)ことが望ましい。それによって、グリーンシート14の厚み精度を更に向上させることが可能である。尚、形成されるグリーンシート14の厚み精度は、設計値(例えば1mm)に対して±10%以内、より好ましくは±3%以内、更に好ましくは±1%以内とする。尚、他方のカレンダーロール方式では、カレンダー条件を同様に実測値に基づいて制御することで、支持基材13へのコンパウンド12の転写膜厚を制御することが可能である。
【0046】
尚、グリーンシート14の設定厚みは、0.05mm〜20mmの範囲で設定することが望ましい。厚みを0.05mmより薄くすると、多層積層しなければならないので生産性が低下することとなる。
【0047】
次に、上述したホットメルト塗工によって支持基材13上に形成されたグリーンシート14の磁場配向を行う。具体的には、先ず支持基材13とともに連続搬送されるグリーンシート14を加熱することによりグリーンシート14を軟化させる。尚、グリーンシート14を加熱する際の温度及び時間は、用いるバインダーの種類や量によって異なるが、例えば100〜250℃で0.1〜60分とする。但し、グリーンシート14を軟化させる為に、用いるバインダーのガラス転移点又は融点以上の温度とする必要がある。また、グリーンシート14を加熱する加熱方式としては、例えばホットプレートによる加熱方式や熱媒体(シリコーンオイル)を熱源に用いた加熱方式が有る。次に、加熱により軟化したグリーンシート14の面内方向且つ長さ方向に対して磁場を印加することにより磁場配向を行う。印加する磁場の強さは5000[Oe]〜150000[Oe]、好ましくは、10000[Oe]〜120000[Oe]とする。その結果、グリーンシート14に含まれる磁石結晶のC軸(磁化容易軸)が一方向に配向される。尚、磁場を印加する方向としてはグリーンシート14の面内方向且つ幅方向に対して磁場を印加することとしても良い。また、複数枚のグリーンシート14に対して同時に磁場を配向させる構成としても良い。
【0048】
更に、グリーンシート14に磁場を印加する際には、加熱工程と同時に磁場を印加する工程を行う構成としても良いし、加熱工程を行った後であってグリーンシートが凝固する前に磁場を印加する工程を行うこととしても良い。また、ホットメルト塗工により塗工されたグリーンシート14が凝固する前に磁場配向する構成としても良い。その場合には、加熱工程は不要となる。
【0049】
次に、
図4を用いてグリーンシート14の加熱工程及び磁場配向工程についてより詳細に説明する。
図4はグリーンシート14の加熱工程及び磁場配向工程を示した模式図である。尚、
図4に示す例では、加熱工程と同時に磁場配向工程を行う例について説明する。
【0050】
図4に示すように、上述したスロットダイ方式により塗工されたグリーンシート14に対する加熱及び磁場配向は、ロールによって連続搬送された状態の長尺シート状のグリーンシート14に対して行う。即ち、加熱及び磁場配向を行う為の装置を塗工装置(ダイ等)の下流側に配置し、上述した塗工工程と連続した工程により行う。
【0051】
具体的には、ダイ15やコーティングロール22の下流側において、搬送される支持基材13及びグリーンシート14がソレノイド25内を通過するようにソレノイド25を配置する。更に、ホットプレート26をソレノイド25内においてグリーンシート14に対して上下一対に配置する。そして、上下一対に配置されたホットプレート26によりグリーンシート14を加熱するとともに、ソレノイド25に電流を流すことによって、長尺シート状のグリーンシート14の面内方向(即ち、グリーンシート14のシート面に平行な方向)で且つ長さ方向に磁場を生じさせる。それによって、連続搬送されるグリーンシート14を加熱により軟化させるとともに、軟化したグリーンシート14の面内方向且つ長さ方向(
図4の矢印27方向)に対して磁場を印加し、グリーンシート14に対して適切に均一な磁場を配向させることが可能となる。特に、磁場を印加する方向を面内方向とすることによって、グリーンシート14の表面が逆立つことを防止できる。
また、磁場配向した後に行うグリーンシート14の放熱及び凝固は、搬送状態で行うことが好ましい。それによって、製造工程をより効率化することが可能となる。
【0052】
尚、磁場配向をグリーンシート14の面内方向且つ幅方向に対して行う場合には、ソレノイド25の代わりに搬送されるグリーンシート14の左右に一対の磁場コイルを配置するように構成する。そして、各磁場コイルに電流を流すことによって、長尺シート状のグリーンシート14の面内方向で且つ幅方向に磁場を生じさせることが可能となる。
【0053】
また、磁場配向をグリーンシート14の面内垂直方向とすることも可能である。磁場配向をグリーンシート14の面内垂直方向に対して行う場合には、例えばポールピース等を用いた磁場印加装置により行う。具体的には、
図5に示すようにポールピース等を用いた磁場印加装置30は、中心軸が同一になるように平行配置された2つのリング状のコイル部31、32と、コイル部31、32のリング孔にそれぞれ配置された2つの略円柱状のポールピース33、34とを有し、搬送されるグリーンシート14に対して所定間隔離間されて配置される。そして、コイル部31、32に電流を流すことにより、グリーンシート14の面内垂直方向に磁場を生成し、グリーンシート14の磁場配向を行う。尚、磁場配向方向をグリーンシート14の面内垂直方向とする場合には、
図5に示すようにグリーンシート14に対して支持基材13が積層された反対側の面にもフィルム35を積層することが好ましい。それによって、グリーンシート14の表面の逆立ちを防止することが可能となる。
【0054】
また、上述したホットプレート26による加熱方式の代わりに熱媒体(シリコーンオイル)を熱源とした加熱方式を用いても良い。ここで、
図6は熱媒体を用いた加熱装置37の一例を示した図である。
図6に示すように、加熱装置37は発熱体となる平板部材38の内部に略U字型の空洞39を形成し、空洞39内に所定温度(例えば100〜300℃)に加熱された熱媒体であるシリコーンオイルを循環させる構成とする。そして、
図4に示すホットプレート26の代わりに、加熱装置37をソレノイド25内においてグリーンシート14に対して上下一対に配置する。それによって、連続搬送されるグリーンシート14を、熱媒体により発熱された平板部材38を介して加熱し、軟化させる。尚、平板部材38はグリーンシート14に対して当接させても良いし、所定間隔離間させて配置しても良い。そして、軟化したグリーンシート14の周囲に配置されたソレノイド25によって、グリーンシート14の面内方向且つ長さ方向(
図4の矢印27方向)に対して磁場が印加され、グリーンシート14に対して適切に均一な磁場を配向させることが可能となる。尚、
図6に示すような熱媒体を用いた加熱装置37では、一般的なホットプレート26のように内部に電熱線を有さないので、磁場中に配置した場合であってもローレンツ力によって電熱線が振動したり切断される虞が無く、適切にグリーンシート14の加熱を行うことが可能となる。また、電流による制御を行う場合には、電源のON又はOFFで電熱線が振動することにより疲労破壊の原因となる問題が有るが、熱媒体を熱源とした加熱装置37を用いることによって、そのような問題を解消することが可能となる。
【0055】
ここで、ホットメルト成形を用いずに一般的なスロットダイ方式やドクターブレード方式等によりスラリー等の流動性の高い液状物によってグリーンシート14を成形した場合には、磁場の勾配が生じているところにグリーンシート14が搬入されると、磁場が強い方にグリーンシート14に含まれる磁石粉末が引き寄せられることとなり、グリーンシート14を形成するスラリーの液寄り、即ち、グリーンシート14の厚みの偏りが生じる虞がある。それに対して、本発明のようにコンパウンド12をホットメルト成形によりグリーンシート14に成形する場合には、室温付近での粘度は数万Pa・sに達し、磁場勾配通過時の磁性粉末の寄りが生じることが無い。更に、均一磁場中に搬送され、加熱されることでバインダーの粘度低下が生じ、均一磁場中の回転トルクのみで、一様なC軸配向が可能となる。
【0056】
また、ホットメルト成形を用いずに一般的なスロットダイ方式やドクターブレード方式等により有機溶媒を含むスラリー等の流動性の高い液状物によってグリーンシート14を成形した場合には、厚さ1mmを越えるシートを作成しようとすると乾燥時においてスラリー等に含まれる有機溶媒が気化することによる発泡が課題となる。更に、発泡を抑制する為に乾燥時間を長時間化すれば、磁石粉末の沈降が生じ、それに伴って重力方向に対する磁石粉末の密度分布の偏りが生じ、焼成後の反りの原因となる。従って、スラリーからの成形では、厚みの上限値が実質上規制される為、1mm以下の厚みでグリーンシートを成形し、その後に積層する必要がある。しかし、その場合にはバインダー同士の絡まり合いが乏しくなり、その後の脱バインダー工程(仮焼処理)で層間剥離を生じ、それがC軸(磁化容易軸)配向性の低下、即ち残留磁束密度(Br)の低下原因となる。それに対して、本発明のようにコンパウンド12をホットメルト成形によりグリーンシート14に成形する場合には、有機溶媒を含まないので、厚さ1mmを越えるシートを作成した場合でも上述したような発泡の懸念が解消する。そして、バインダーが十分に絡まり合った状態にあるので、脱バインダー工程での層間剥離が生じる虞が無い。
【0057】
また、複数枚のグリーンシート14に対して同時に磁場を印加させる場合には、例えばグリーンシート14を複数枚(例えば6枚)積層した状態で連続搬送し、積層したグリーンシート14がソレノイド25内を通過するように構成する。それによって生産性を向上させることが可能となる。
【0058】
その後、磁場配向を行ったグリーンシート14を所望の製品形状(例えば、
図1に示す扇形形状)に打ち抜きし、成形体40を成形する。
【0059】
続いて、成形された成形体40を大気圧より高い圧力(例えば0.2MPa以上であり、0.5MPaや1.0MPa)に加圧した非酸化性雰囲気(特に本発明では水素雰囲気又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気)においてバインダー分解温度で数時間(例えば5時間)保持することにより仮焼処理を行う。水素雰囲気下で行う場合には、例えば仮焼中の水素の供給量は5L/minとする。仮焼処理を行うことによって、バインダーを解重合反応等によりモノマーに分解し飛散させて除去することが可能となる。即ち、成形体40中の炭素量を低減させる所謂脱カーボンが行われることとなる。また、仮焼処理は、成形体40中の炭素量が2000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下とする条件で行うこととする。それによって、その後の焼結処理で永久磁石1全体を緻密に焼結させることが可能となり、残留磁束密度や保磁力を低下させることが無い。また、上述した仮焼処理を行う際の加圧条件を大気圧より高い圧力で行う場合には、15MPa以下とすることが望ましい。尚、加圧条件は0.2MPa以上とすれば特に炭素量軽減の効果が期待できる。
【0060】
尚、バインダー分解温度は、バインダー分解生成物および分解残渣の分析結果に基づき決定する。具体的にはバインダーの分解生成物を補集し、モノマー以外の分解生成物が生成せず、かつ残渣の分析においても残留するバインダー成分の副反応による生成物が検出されない温度範囲が選ばれる。バインダーの種類により異なるが200℃〜900℃、より好ましくは400℃〜600℃(例えば600℃)とする。
また、特に磁石原料を有機溶媒中で湿式粉砕により粉砕した場合には、有機溶媒を構成する有機化合物の熱分解温度且つバインダー分解温度で仮焼処理を行う。それによって、残留した有機溶媒についても除去することが可能となる。有機化合物の熱分解温度については、用いる有機溶媒の種類によって決定されるが、上記バインダー分解温度であれば基本的に有機化合物の熱分解についても行うことが可能となる。
【0061】
また、仮焼処理によって仮焼された成形体40を続いて真空雰囲気で保持することにより脱水素処理を行っても良い。脱水素処理では、仮焼処理によって生成された成形体40中のNdH
3(活性度大)を、NdH
3(活性度大)→NdH
2(活性度小)へと段階的に変化させることによって、仮焼処理により活性化された成形体40の活性度を低下させる。それによって、仮焼処理によって仮焼された成形体40をその後に大気中へと移動させた場合であっても、Ndが酸素と結び付くことを防止し、残留磁束密度や保磁力を低下させることが無い。また、磁石結晶の構造をNdH
2等からNd
2Fe
14B構造へと戻す効果も期待できる。
【0062】
続いて、仮焼処理によって仮焼された成形体40を焼結する焼結処理を行う。尚、成形体40の焼結方法としては、一般的な真空焼結以外に成形体40を加圧した状態で焼結する加圧焼結等も用いることが可能である。例えば、真空焼結で焼結を行う場合には、所定の昇温速度で800℃〜1080℃程度の焼成温度まで昇温し、0.1〜2時間程度保持する。この間は真空焼成となるが真空度としては5Pa以下、好ましくは10
−2Pa以下とすることが好ましい。その後冷却し、再び300℃〜1000℃で2時間熱処理を行う。そして、焼結の結果、永久磁石1が製造される。
【0063】
一方、加圧焼結としては、例えば、ホットプレス焼結、熱間静水圧加圧(HIP)焼結、超高圧合成焼結、ガス加圧焼結、放電プラズマ(SPS)焼結等がある。但し、焼結時の磁石粒子の粒成長を抑制するとともに焼結後の磁石に生じる反りを抑える為に、一軸方向に加圧する一軸加圧焼結であって且つ通電焼結により焼結するSPS焼結を用いることが好ましい。尚、SPS焼結で焼結を行う場合には、加圧値を例えば0.01MPa〜100MPaとし、数Pa以下の真空雰囲気で940℃まで10℃/分で上昇させ、その後5分保持することが好ましい。その後冷却し、再び300℃〜1000℃で2時間熱処理を行う。そして、焼結の結果、永久磁石1が製造される。
【0064】
以下に、
図7を用いてSPS焼結による成形体40の加圧焼結工程についてより詳細に説明する。
図7はSPS焼結による成形体40の加圧焼結工程を示した模式図である。
図7に示すようにSPS焼結を行う場合には、先ず、グラファイト製の焼結型41に成形体40を設置する。尚、上述した仮焼処理についても成形体40を焼結型41に設置した状態で行っても良い。そして、焼結型41に設置された成形体40を真空チャンパー42内に保持し、同じくグラファイト製の上部パンチ43と下部パンチ44をセットする。そして、上部パンチ43に接続された上部パンチ電極45と下部パンチ44に接続された下部パンチ電極46とを用いて、低電圧且つ高電流の直流パルス電圧・電流を印加する。それと同時に、上部パンチ43及び下部パンチ44に対して加圧機構(図示せず)を用いて夫々上下方向から荷重を付加する。その結果、焼結型41内に設置された成形体40は、加圧されつつ焼結が行われる。また、生産性を向上させる為に、複数(例えば10個)の成形体に対して同時にSPS焼結を行うことが好ましい。尚、複数の成形体40に対して同時にSPS焼結を行う場合には、一の空間に複数の成形体40を配置しても良いし、成形体40毎に異なる空間に配置するようにしても良い。尚、成形体40毎に異なる空間に配置する場合には、空間毎に成形体40を加圧する上部パンチ43や下部パンチ44は各空間の間で一体とする(即ち同時に加圧ができる)ように構成する。
尚、具体的な焼結条件を以下に示す。
加圧値:1MPa
焼結温度:940℃まで10℃/分で上昇させ、5分保持
雰囲気:数Pa以下の真空雰囲気
【実施例】
【0065】
以下に、本発明の実施例について比較例と比較しつつ説明する。
(実施例1)
実施例はNd−Fe−B系磁石であり、合金組成はwt%でNd/Fe/B=32.7/65.96/1.34とする。また、バインダーとしてはポリイソブチレン(PIB)を用いた。また、磁石原料はトルエンを有機溶媒に用いた湿式粉砕により粉砕した。また、加熱溶融したコンパウンドをスロットダイ方式により基材に塗工してグリーンシートを成形した。また、仮焼処理は、成形前の磁石粉末を大気圧(尚、本実施例では特に製造時の大気圧が標準大気圧(約0.1MPa)であると仮定する)より高い0.5MPaに加圧した水素雰囲気下において600℃で5時間保持することにより行った。尚、仮焼中の水素の供給量は5L/minとする。また、グリーンシートの焼結はSPS焼結(加圧値:1MPa、焼結温度:940℃まで10℃/分で上昇させ、5分保持)により行った。尚、他の工程は上述した[永久磁石の製造方法]と同様の工程とする。
【0066】
(実施例2)
混合するバインダーをスチレンとイソプレンの共重合体であるスチレン−イソプレンブロック共重合体(SIS)とした。仮焼時の加圧は0.5MPaとする。他の条件は実施例1と同様である。
【0067】
(実施例3)
混合するバインダーをイソプレンの重合体であるポリイソプレン(イソプレンゴム、IR)とした。仮焼時の加圧は0.5MPaとする。他の条件は実施例1と同様である。
【0068】
(実施例4)
混合するバインダーを1,3−ブタジエンの重合体であるポリブタジエン(ブタジエンゴム、BR)とした。仮焼時の加圧は0.5MPaとする。他の条件は実施例1と同様である。
【0069】
(実施例5)
混合するバインダーをスチレンとブタジエンの共重合体であるスチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBS)とした。仮焼時の加圧は0.5MPaとする。他の条件は実施例1と同様である。
【0070】
(比較例1)
混合するバインダーをポリイソブチレン(PIB)とした。仮焼時の加圧は大気圧(約0.1MPa)とする。他の条件は実施例1と同様である。
【0071】
(比較例2)
混合するバインダーをスチレン−イソプレンブロック共重合体(SIS)とした。仮焼時の加圧は大気圧(約0.1MPa)とする。他の条件は実施例1と同様である。
【0072】
(比較例3)
混合するバインダーをイソプレンの重合体であるポリイソプレン(イソプレンゴム、IR)とした。仮焼時の加圧は大気圧(約0.1MPa)とする。他の条件は実施例1と同様である。
【0073】
(比較例4)
混合するバインダーを1,3−ブタジエンの重合体であるポリブタジエン(ブタジエンゴム、BR)とした。仮焼時の加圧は大気圧(約0.1MPa)とする。他の条件は実施例1と同様である。
【0074】
(比較例5)
混合するバインダーをスチレンとブタジエンの共重合体であるスチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBS)とした。仮焼時の加圧は大気圧(約0.1MPa)とする。他の条件は実施例1と同様である。
【0075】
(比較例6)
仮焼処理に関する工程は行わずに製造した。他の条件は実施例1と同様である。
【0076】
(比較例7)
混合するバインダーをポリブチルメタクリレートとした。他の条件は実施例1と同様である。
【0077】
(実施例のグリーンシートの外観形状)
ここで、
図8は実施例1の磁場配向後のグリーンシートの外観形状を示した写真である。
図8に示すように実施例1の磁石配向後のグリーンシートでは磁石表面に逆立ちは見られなかった。従って、
図8に示すグリーンシートを打ち抜いて所望の形状とする実施例1の永久磁石では、焼結後の修正加工をする必要がなく、製造工程を簡略化することができる。それにより、高い寸法精度で永久磁石を成形可能となる。
【0078】
(実施例と比較例の比較検討)
上記実施例1〜5及び比較例1〜7の各磁石内に残存する酸素濃度[ppm]及び炭素濃度[ppm]を測定した。また、実施例1〜5及び比較例1〜7の各磁石について残留磁束密度[kG]と保磁力[kOe]を測定した。
図9に測定結果の一覧を示す。
【0079】
図9に示すように、実施例1〜5と比較例1〜7とを比較すると、仮焼処理を行った場合は、仮焼処理を行わない場合と比較して、磁石粒子中の炭素量を大きく低減させることができることが分かる。特に、実施例1〜5では、磁石粒子中に残存する炭素量を400ppm以下とすることができ、更にバインダーとしてPIBやSISを用いた場合には250ppm以下とすることができる。即ち、仮焼処理によってバインダーを熱分解させて、仮焼体中の炭素量を低減させる所謂脱カーボンを行うことが可能であり、特にバインダーとしてPIBやSISを用いることによって、他のバインダーを用いる場合よりもより容易に熱分解及び脱カーボンを行うことが可能となることが分かる。その結果として、磁石全体の緻密焼結や保磁力の低下を防止することが可能となる。
【0080】
また、実施例1〜5と比較例1〜5とを比較すると、同一のバインダーを添加しているにもかかわらず、仮焼処理を大気圧より高い加圧雰囲気下で行った場合は、大気圧下で行った場合と比較して、磁石粒子中の炭素量を更に低減させることができることが分かる。即ち、仮焼処理を行うことによって、バインダーを熱分解させて、仮焼体中の炭素量を低減させる所謂脱カーボンを行うことが可能となるとともに、その仮焼処理を大気圧より高い加圧雰囲気下で行うことにより、仮焼処理において脱カーボンをより容易に行うことが可能となることが分かる。その結果として、磁石全体の緻密焼結や保磁力の低下を防止することが可能となる。
【0081】
また、比較例7を参照すると、バインダーとして酸素原子を含まないPIBやSIS等を用いた場合には、バインダーとして酸素原子を含むポリブチルメタクリレート等を用いた場合と比較して、磁石内に含有する酸素量を大きく低減させることができることが分かる。具体的には、焼結後に磁石に残存する酸素量を2000ppm以下とすることが可能となる。その結果、焼結工程でNdと酸素が結合しNd酸化物を形成することなく、また、αFeの析出を防止することができる。従って、
図9に示すように、残留磁束密度や保磁力についてもバインダーとしてポリイソブチレン等を用いた方が高い値を示している。
【0082】
以上説明したように、本実施形態に係る永久磁石1及び永久磁石1の製造方法では、磁石原料を磁石粉末に粉砕し、粉砕された磁石粉末とバインダーとを混合することによりコンパウンド12を生成する。そして、生成したコンパウンド12をシート状に成形したグリーンシート14を作製する。その後、成形したグリーンシート14の磁場配向を行い、更に、グリーンシート14を大気圧より高い圧力に加圧した非酸化性雰囲気下において200℃〜900℃で数時間保持することにより仮焼処理を行う。続いて、グリーンシート14を焼成温度で焼結することにより永久磁石1を製造する。その結果、焼結による収縮が均一となることにより焼結後の反りや凹みなどの変形が生じず、また、プレス時の圧力むらが無くなることから、従来行っていた焼結後の修正加工をする必要がなく、製造工程を簡略化することができる。それにより、高い寸法精度で永久磁石を成形可能となる。また、永久磁石を薄膜化した場合であっても、材料歩留まりを低下させることなく、加工工数が増加することも防止できる。
また、グリーンシート14を焼結する前に、グリーンシート14を非酸化性雰囲気下でバインダー分解温度に一定時間保持することによりバインダーを飛散させて除去するので、磁石粒子の含有する炭素量を予め低減させることができる。その結果、焼結後の磁石の主相と粒界相との間に空隙を生じさせることなく、また、磁石全体を緻密に焼結することが可能となり、保磁力が低下することを防止できる。また、焼結後の磁石の主相内にαFeが多数析出することなく、磁石特性を大きく低下させることがない。特に、大気圧より高い圧力に加圧した非酸化性雰囲気下で仮焼処理を行うことによって、バインダーの分解及び除去を促進し、磁石粒子の含有する炭素量をより低減させることができる。また、有機溶媒を用いた湿式粉砕により磁石粉末を粉砕したり、アルコキシドや金属錯体等の有機金属化合物を添加した場合であっても、焼結前に残存する有機化合物を熱分解させて磁石粒子中に含有する炭素を予め焼失(炭素量を低減)させることができる。
また、仮焼処理を水素雰囲気下又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気下において200℃〜900℃で一定時間保持することにより行うこととすれば、磁石内に含有する炭素をメタンとして排出することが可能となり、磁石内に含有する炭素量をより確実に低減させることができる。
また、バインダーは、酸素原子を含まないモノマーの重合体又は共重合体からなる樹脂であるので、磁石内に含有する酸素量を低減させることができる。また、特にバインダーとして熱可塑性樹脂を用いれば、加熱することにより一旦成形されたグリーンシート14を軟化させることができ、磁場配向を適切に行わせることが可能となる。
特にバインダーとして酸素原子を含まないポリイソブチレンやスチレンとイソプレンの共重合体を用いることにより、仮焼によってバインダーを分解させ、磁石粒子の含有する炭素量を低減させることができるとともに、磁石内に含有する酸素量についても低減させることができる。
また、ホットメルト成形によってグリーンシート14を成形するので、スラリー成形を行う場合等と比較して磁場配向時において液寄り、即ち、グリーンシート14の厚みの偏りが生じる虞が無い。また、バインダーが十分に絡まり合った状態となるので、脱バインダー工程での層間剥離が生じる虞が無い。
【0083】
尚、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
例えば、磁石粉末の粉砕条件、混練条件、仮焼条件、焼結条件などは上記実施例に記載した条件に限られるものではない。例えば、上記実施例では、スロットダイ方式によりグリーンシートを形成しているが、他の方式(例えばカレンダーロール方式、コンマ塗工方式、押出成型、射出成型、金型成型、ドクターブレード方式等)を用いてグリーンシートを形成しても良い。また、有機溶媒に磁石粉末やバインダーを混合したスラリーを生成し、その後に生成したスラリーをシート状に成形することによってグリーンシートを作成することとしても良い。その場合にはバインダーとして熱可塑性樹脂以外を用いることも可能である。また、仮焼を行う際の雰囲気は非酸化性雰囲気であれば水素雰囲気以外(例えば窒素雰囲気、He雰囲気等、Ar雰囲気等)で行っても良い。
【0084】
また、上記実施例では、バインダーとして樹脂や長鎖炭化水素や脂肪酸メチルエステルを用いることとしているが、他の材料を用いても良い。
【0085】
また、上記実施例では、グリーンシート14の加熱工程と磁場配向工程とを同時に行うこととしているが、加熱工程を行った後であってグリーンシート14が凝固する前に磁場配向工程を行っても良い。また、塗工されたグリーンシート14が凝固する前(即ち、加熱工程を行わなくてもグリーンシート14が既に軟化された状態)に磁場配向を行う場合には、加熱工程を省略しても良い。
【0086】
また、上記実施例では、スロットダイ方式による塗工工程と加熱工程と磁場配向工程とを連続した一連の工程により行っているが、連続した工程により行わないように構成しても良い。また、塗工工程までの第1工程と、加熱工程以降の第2工程とに分けて、夫々連続した工程により行うこととしても良い。その場合には、塗工されたグリーンシート14を所定長さに切断し、静止した状態のグリーンシート14に対して加熱及び磁場印加を行うことにより磁場配向を行うように構成することが可能である。
【0087】
また、本発明ではNd−Fe−B系磁石を例に挙げて説明したが、他の磁石(例えばコバルト磁石、アルニコ磁石、フェライト磁石等)を用いても良い。また、磁石の合金組成は本発明ではNd成分を量論組成より多くしているが、量論組成としても良い。また、異方性磁石だけでなく等方性磁石に対しても本発明を適用することが可能である。その場合には、グリーンシート14に対する磁場配向工程を省略可能である。