(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969787
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】生体内のメイラード反応抑制剤またはAGEs生成抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/19 20060101AFI20160804BHJP
A61K 31/131 20060101ALI20160804BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20160804BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20160804BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20160804BHJP
A61P 13/00 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
A61K31/19
A61K31/131
A61P3/10
A61P27/02
A61P9/00
A61P13/00
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-65240(P2012-65240)
(22)【出願日】2012年3月22日
(65)【公開番号】特開2012-211130(P2012-211130A)
(43)【公開日】2012年11月1日
【審査請求日】2014年12月10日
(31)【優先権主張番号】特願2011-64698(P2011-64698)
(32)【優先日】2011年3月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306014736
【氏名又は名称】第一三共ヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161160
【弁理士】
【氏名又は名称】竹元 利泰
(74)【代理人】
【識別番号】100146581
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 公樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153039
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真有
(74)【代理人】
【識別番号】100160462
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 有希子
(74)【代理人】
【識別番号】100164460
【弁理士】
【氏名又は名称】児玉 博宣
(72)【発明者】
【氏名】杉山 大二朗
(72)【発明者】
【氏名】鳥住 保博
【審査官】
前田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/093534(WO,A1)
【文献】
特開昭61−056114(JP,A)
【文献】
特開2002−205916(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/003965(WO,A1)
【文献】
特開平10−265323(JP,A)
【文献】
特開2010−229117(JP,A)
【文献】
特開2010−083882(JP,A)
【文献】
特開昭53−136528(JP,A)
【文献】
特開昭62−087506(JP,A)
【文献】
特開2010−138170(JP,A)
【文献】
1.3.10 ジイソプロピルアミンジクロロアセテート,新しい化粧品素材の効能・効果・作用(上),島 健太郎 株式会社シーエムシー
【文献】
関根茂ら,新化粧品ハンドブック,2006年10月30日,518−519頁
【文献】
Clinical and Experimental Nephrology,2001年 6月,Volume 5, Issue 2,pp 90-96
【文献】
機能性化粧品III,株式会社シーエムシー,2000年 1月 1日,pp.27-35
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラネキサム酸とジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンを含有することを特徴とする、高血糖による障害の予防または治療剤組成物。
【請求項2】
高血糖による障害が、糖尿病性白内障、血管障害または腎機能障害である、請求項1に記載の予防または治療剤組成物。
【請求項3】
投与経路が外用または内服である請求項1〜2のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内で起こるメイラード反応を抑制する組成物、または、アドバンスド・グリケーション・エンド・プロダクツ(Advanced Glycation End Products:AGEs)の生成や蓄積を抑制する組成物に関する。特に、皮膚褐変化や肌透明度低下、糖尿病性の白内障、血管障害または腎機能障害を抑制または改善する内服または外用剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ブドウ糖などの還元糖は、タンパク質またはアミノ酸との間で糖化反応(メイラード反応)が起り、糖化産物が生成することは食品等の褐変現象として古くからよく知られているものである。生体内でも、特に糖尿病などで高血糖状態が続いたり、加齢により分解反応が進行し難くなると、タンパク質またはアミノ酸の糖化反応が起こり、糖化産物の生成に傾くため、タンパク質の機能が損なわれたり、糖化産物が蓄積したりすることがある。
【0003】
このメイラード反応による糖化産物は最終的に終末糖化産物(Advanced Glycation End Products:以下、AGEsと略称することもある)となる。AGEsの生成は不可逆反応であるが、生成したAGEsは代謝によって体外へ排出される。しかし、加齢等により代謝速度が遅くなると、生体内の各組織にさらに蓄積されやすくなってくる(以上、例えば、特許文献1〜2参照)。
【0004】
AGEsが生体内の各組織に蓄積したり、その受容体と結合したりすると、種々の症状が引き起こされる。例えば、皮膚では肌の褐変化や肌のくすみの一因になり、高血糖状態では白内障、血管障害、腎機能障害が原因となる。従って、AGEsの生成を予防または抑制することは極めて重要である(例えば、特許文献1〜2参照)。
【0005】
これまでに、食品のメイラード反応を抑制する安全な物質として種々の天然成分が探索されてきた(例えば、特許文献2の「従来の技術」参照)。また、皮膚におけるAGEs生成抑制成分として、種々の植物抽出成分が探索されてきている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
一方、ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン(Diisopropylamine dichloroacetate:以下、DADAと略称することもある)は、皮膚組織賦活作用による皮膚老化防止効果(特許文献4参照)や、肝機能改善作用(例えば、非特許文献1参照)、抗疲労作用(特許文献5参照)を有することが知られている。さらに、DADAは皮膚血行促進剤または細胞賦活剤として市販の化粧品に配合されており(例えば、特許文献6参照)、慢性肝疾患における肝機能の改善の効能を有する医薬品として供されてきている(例えば、非特許文献2参照)。
【0007】
また、抗プラスミン剤であるトラネキサム酸は、1)抗出血作用、2)抗アレルギー作用、3)抗炎症作用、等が知られている医薬である(例えば、非特許文献2参照)。さらに、トラネキサム酸は消炎剤として化粧品にも配合されており(例えば、特許文献7参照)、内服のトラネキサム酸含有組成物は、しみ(肝斑に限る)に対する効能を有する一般用医薬品として供されてきている(例えば、非特許文献3参照)。
【0008】
しかし、DADAもトラネキサム酸も、メイラード反応抑制作用、ひいては、皮膚褐変化、肌透明度低下、糖尿病性白内障、糖尿病性血管障害または糖尿病性腎機能障害の予防または抑制作用は知られておらず示唆もない。さらに、DADAとトラネキサム酸の配合について報告された文献は一つも見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−248148
【特許文献2】特開2004−035424
【特許文献3】特開2003−212749
【特許文献4】特開昭53−136528
【特許文献5】特開2010−138170
【特許文献6】特開昭61−56114
【特許文献7】特開平04−36215
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】平山千里ほか:肝胆膵 Vol.6 No.4 1983 p.637-645
【非特許文献2】2009年版 医療用医薬品集 JAPIC 2008
【非特許文献3】日本医薬品集 一般薬2010−11 じほう 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、内服しても外用であっても安全で、かつ優れた生体内メイラード反応抑制剤組成物またはAGEs生成抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために長年にわたり研究を重ねた結果、DADAとトラネキサム酸とを併用することにより、生体内メイラード反応が抑制され、その結果としてAGEsの生成が抑制されることを見出した。
【0013】
上記知見に基づき、DADAとトラネキサム酸を含有する組成物が、生体内メイラード反応またはAGEs生成および蓄積に起因する、皮膚褐変化、肌透明度低下、さらには、高血糖による障害である糖尿病性白内障、血管障害または腎機能障害の有効な予防又は改善剤となることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は、
(1)トラネキサム酸とジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンを含有することを特徴とする、医薬または化粧料組成物であり、好適には、
(2)トラネキサム酸とジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンを含有することを特徴とする、生体内のメイラード反応抑制剤組成物、
(3)トラネキサム酸とジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンを含有することを特徴とする、アドバンスド・グリケーション・エンド・プロダクツの生成抑制剤組成物、
(4)トラネキサム酸とジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンを含有することを特徴とする、皮膚褐変化または肌の透明度低下抑制剤組成物、
(5)トラネキサム酸とジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンを含有することを特徴とする、高血糖による障害の予防または治療剤組成物、
(6)高血糖による障害が、糖尿病性白内障、血管障害または腎機能障害である、請求項5に記載の予防または治療剤組成物、または、
(7)投与経路が外用または内服である上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の組成物である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の、生体内メイラード反応またはアドバンスド・グリケーション・エンド・プロダクツ(AGEs)の生成抑制剤は、皮膚褐変化、肌透明度低下、糖尿病性白内障、糖尿病性血管障害または腎機能障害を予防または改善することができ、しかも極めて安全であり、かつ経口投与でも外用でも有効なため有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】トラネキサム酸、DADA、および、それらの併用におけるAGEs生成抑制効果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明におけるジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン(DADA:Diisopropylamine dichloroacetate)は日本薬局方外医薬品規格2002に収載されており、トラネキサム酸は第15改正日本薬局方に収載されているため、いずれも容易に入手できる。
【0018】
本発明の組成物は、医薬品、医薬部外品または化粧料として使用される。本発明の投与経路は、経口的および経皮的のいずれの投与形態であってもよい。
【0019】
本発明の剤形は特に限定されないが、皮膚に適用される外用剤の場合は、例えば、ローション、乳液等の液剤、クリーム、ゲル、または軟膏等の半固形製剤、あるいは、テープ、パッチ、パップ等の貼付剤が挙げられる。また、経口投与の場合には、例えば、錠剤、カプセル剤、液剤等が挙げられる。
【0020】
本発明の組成物が内服剤の場合、DADAおよびトラネキサム酸の投与量としては、いずれも好適には、1日当たり0.1〜2000mg、より好適には1〜1000mgであり、それらを1〜3回に分けて服用する。
【0021】
また、本発明の組成物が外用剤の場合、DADAおよびトラネキサム酸の配合量としては、いずれも好適には製剤全体の総量を基準として0.01〜50w/v%、より好適には0.1〜20w/v%であり、それらを1〜3回に分けて塗布する。
【0022】
本発明の、生体内メイラード反応抑制剤、または、アドバンスト・グリケーション・エンド・プロダクツ(AGEs)生成抑制剤は、本発明の効果を損なわない限り、DADAおよびトラネキサム酸に加えて、他の薬効成分である美白剤、抗炎症剤、抗酸化剤、各種糖尿病治療薬を配合することができる。また、製剤用の成分として基剤、香料、防腐剤、保存剤、保湿剤、界面活性剤、潤沢剤、賦形剤、pH調節剤、矯味剤、香料等、一般に許容されている医薬または化粧品添加剤成分を併せて配合することができる。
【0023】
本発明を医薬品、医薬部外品または化粧料として用いるための製剤は、第15改正日本薬局方製剤総則に記載の方法や、通常用いられている公知の化粧料の製造方法に準じて製造することができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明について実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
<製剤例1>ローション
(A)DADA10g、トラネキサム酸15g、クエン酸ナトリウム0.1g、ピロリドンカルボン酸1g、1,3−ブチレングリコール5gを混合し、精製水で全量を100gとした。
(B)POE(30)POP(6)デシルテトラデシル0.6g、防腐剤適量、エタノール10gを混合した。
(A)と(B)を50℃で加温溶解し、(B)を(A)に攪拌しながら可溶化した。攪拌しながら冷却し、30℃で攪拌を止め、放置した。
【0026】
<製剤例2>乳液
(A)DADA10g、トラネキサム酸15g、ニコムルス41を2g、スクワラン10g、防腐剤適量を混合し、精製水で全量を100gとした。
(B)カルボキシビニルポリマー0.1g、キサンタンガム0.2g、精製水10gを混合した。
(C)トリエタノールアミン0.1g、1,3−ブチレングリコール5g、精製水4.9gを混合した。
(D)ヒアルロン酸ナトリウム2g、精製水3gを混合した。
(A)を80℃で加温し、均一に混合した。(B)〜(D)は常温で溶解した。(A)を攪拌しながら(B)と(C)を加えた。攪拌しながら冷却し、50℃以下で(D)を加え、35〜30℃で攪拌を止め、放置した。
【0027】
<製剤例3>液剤
DADA25g、トラネキサム酸15g、果糖ブドウ糖液糖100g、pH調整剤適量を混合し、精製水で全量1000gの液剤を調製した。
【0028】
<製剤例4>錠剤
DADA25g、トラネキサム酸15g、乳糖 350g、結晶セルロース適量を投入・混合し、結合剤としてヒドロキシプロピルセルロースを噴霧し造粒顆粒を調製した。造粒顆粒49.5gにステアリン酸マグネシウム0.5gを混合・打錠して裸錠を調製した。
【0029】
<製剤例5>散剤
DADA25g、トラネキサム酸15g、乳糖350g、結晶セルロース適量を投入・混合し、結合剤としてヒドロキシプロピルセルロースを噴霧し散剤を調製した。
【0030】
<試験例1>蛍光性AGEs生成阻害活性試験
(被験薬)
DADAおよびトラネキサム酸はいずれも第一三共製のものを使用した。
【0031】
(サンプル溶液の調製)
DADAとトラネキサム酸の合剤は、1/15Mリン酸緩衝液(pH7.2)を用いて、それぞれの成分が所定の濃度となるように希釈を行い、サンプル溶液とした。
【0032】
(アルブミン溶液の調製)
ヒト血清アルブミン(シグマアルドリッチ社製)を1/15Mリン酸緩衝液(pH7.2)を用いて、24mg/mLとなるように調製した。
【0033】
(グルコース溶液の調製)
グルコース(和光純薬社製)を1/15Mリン酸緩衝液(pH7.2)を用いて、0.6Mとなるように調製した。
【0034】
(被験溶液の調製)
1.5mLチューブ中で、サンプル溶液群150μL、グルコース溶液150μL、アルブミン溶液150μLを混合し、60℃で40時間保持して試験液を得た。次に、該試験液に370nmの励起光を照射し、生じる440nmの蛍光を測定した。この測定で得られた結果を測定値Aとする。
【0035】
(blankの調製)
被験溶液blankの調製は以下のように行った。1.5mLチューブ中でサンプル溶液群150μL、グルコース溶液150μLを混合し、60℃で40時間保持した後、アルブミン溶液150μLを混合して試験液を得た。該試験液に370nmの励起光を照射し、生じる440nmの蛍光を測定した。この測定で得られた結果を測定値Bとする。
蛍光性ADEsの生成量を下記の式によりえられる蛍光量として算出した。
AGEs生成量(蛍光量)=測定値A―測定値B
【0036】
(試験結果)
被験薬を含有しない(対照)におけるAGEs値に対する、DADA(10mg/mL)およびトラネキサム酸(0.1mg/mL)の合剤でのAGEs値の結果を
図1に示す。なお、各値はN=6の平均値である。いずれもAGEs生成抑制作用の知られていないDADAとトラネキサム酸を併用すると、
図1に示すように顕著なAGEsの生成抑制効果が発現することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の組成物は、皮膚褐変化、肌透明度低下、糖尿病性白内障、糖尿病性血管障害または腎機能障害を予防または改善することができ、しかも、安全であり、かつ経口投与でも外用でも有効なため、極めて有用である。さらに経口投与であっても外用してもよく、医薬品、医薬部外品または化粧料として利用可能である。