特許第5969796号(P5969796)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイカ工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969796
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】ホットメルト接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 175/04 20060101AFI20160804BHJP
【FI】
   C09J175/04
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-87341(P2012-87341)
(22)【出願日】2012年4月6日
(65)【公開番号】特開2013-216750(P2013-216750A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松葉 聡
【審査官】 佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−084623(JP,A)
【文献】 特開2005−290280(JP,A)
【文献】 特開2011−225636(JP,A)
【文献】 特開2005−036128(JP,A)
【文献】 特開2010−084110(JP,A)
【文献】 特開2005−194353(JP,A)
【文献】 特表2001−525429(JP,A)
【文献】 特表2011−508026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非結晶性ポリエステルポリオールと,結晶性ポリエステルポリオールと,23℃で液状のポリエステルポリオールと,ポリエーテルポリオールと,ポリブタジエンポリオールと,イソシアネート化合物とを反応させて得られた反応性ウレタンプレポリマーから成り,ポリブタジエンポリオールは,重量平均分子量が300〜5000であって,非結晶性ポリエステルポリオール100重量部に対して30〜50重量部であることを特徴とするホットメルト接着剤組成物。
【請求項2】
結晶性ポリエステルポリオールは,非結晶性ポリエステルポリオール100重量部に対して60〜90重量部であることを特徴とする請求項1記載のホットメルト接着剤組成物。
【請求項3】
前記23℃で液状のポリエステルポリオールは,非結晶性ポリエステルポリオール100重量部に対して120〜160重量部であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のホットメルト接着剤組成物。
【請求項4】
ポリエーテルポリオールは,非結晶性ポリエステルポリオール100重量部に対して75〜110重量部であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のホットメルト接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,排気と吸気を紙素材の仕切板で隔てて交差させ,熱・湿気を移し替える熱交換エレメントの形成に使用するホットメルト接着剤組成物に関し,詳しくは,一方向に複数の樋形状の凹凸が形成されたポリプロピレン製の波形板状体と紙とを接着するホットメルト接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂の接着面を特別に処理することなく良好な接着性を有する接着剤組成物として,活性水素基含有液状ジエン系重合体,ポリイソシアネート化合物及び瀝青物質からなるポリオレフィン樹脂接着用組成物が提案されている(特許文献1)。ここでいう活性水素基含有液状ジエン系重合体とは,分子末端に水酸基,アミノ基,イミノ基,カルボキシル基,メルカプト基などの活性水素基を有する数平均分子量が300〜25000,好ましくは500〜10000の液状ジエン系重合体であり,該液状ジエン系重合体とは炭素数4〜12のジエン重合体,ジエン共重合体,さらにはこれらジエンモノマーと炭素数2〜22のα−オレフィン性付加重合性モノマーとの共重合体であり,具体的にはブタジエンホモポリマー,イソプレンホモポリマー,ブタジエン−スチレンコポリマー,ブタジエン−アクリルニトリルコポリマーなどが例示されている。
【0003】
一方,特許文献1に例示され分子末端が水酸基を有するポリブタジエンポリオールをを必須とするポリオール成分にイソシアネート成分を反応させてなり,該ポリブタジエンポリオールが1,2−ビニル結合を有する特定の構造単位を85%以上有するものである反応性ウレタンプレポリマー,および,熱可塑性ポリマーとしてスチレン−イソプレン−スチレン系ブロックコポリマーを前記ポリオール成分100重量部に対して10〜40重量部の割合で含有してなる,湿気硬化型接着剤組成物が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−219279号公報
【特許文献2】特許第4327006号公報
【0005】
しかし,特許文献1に示されるポリオレフィン樹脂接着用組成物は,あくまでポリオレフィン樹脂に対する接着性能が良好な接着用組成物として提案はされていても,本願発明が目的としている熱交換エレメントを形成する,ポリプロピレン製の波形板状体と紙,とを接着する用途では十分な接着性能を有していないという課題がある。
【0006】
また,特許文献2に示される湿気硬化型接着剤組成物は,熱可塑性ポリマーを含有しているため,一の被着体が紙素材である場合には,該熱可塑性ポリマーが紙素材を汚染し,湿気の透過性能を阻害する場合があるという課題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は,熱交換エレメントを形成する,ポリプロピレン製の波形板状体と紙,との接着用途において十分な接着性能を有し,また,紙を汚染する可能性がある熱可塑性ポリマーを含まないホットメルト接着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は,非結晶性ポリエステルポリオールと,結晶性ポリエステルポリオールと,23℃で液状のポリエステルポリオールと,ポリエーテルポリオールと,ポリブタジエンポリオールと,イソシアネート化合物とを反応させて得られた反応性ウレタンプレポリマーから成り,ポリブタジエンポリオールは,重量平均分子量が300〜5000であって,非結晶性ポリエステルポリオール100重量部に対して30〜50重量部であることを特徴とするホットメルト接着剤組成物である。
【0009】
請求項2記載の発明は,結晶性ポリエステルポリオールは,非結晶性ポリエステルポリオール100重量部に対して60〜90重量部であることを特徴とする請求項1記載のホットメルト接着剤組成物である。
【0010】
請求項3記載の発明は,前記ポリエステルポリオールは,非結晶性ポリエステルポリオール100重量部に対して120〜160重量部であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のホットメルト接着剤組成物である。
【0011】
請求項4記載の発明は,ポリエーテルポリオールは,非結晶性ポリエステルポリオール100重量部に対して75〜110重量部であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のホットメルト接着剤組成物である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るホットメルト接着剤組成物は,熱交換エレメントを形成する,ポリプロピレン製の波形板状体と紙,との接着用途において十分な接着性能を有するという効果があり,また,紙を汚染する可能性がなく,湿気の移動を阻害することが無いという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明について詳細に説明する。
【0019】
本発明のホットメルト接着剤組成物は,非結晶性ポリエステルポリオールと,結晶性ポリエステルポリオールと,23℃で液状のポリエステルポリオールと,ポリエーテルポリオールと,ポリブタジエンポリオールと,イソシアネート化合物とを反応させて得られた反応性ウレタンプレポリマーから成り,必要に応じて消泡剤,反応触媒が配合される。
【0020】
非結晶性ポリエステルポリオール
本発明に使用される非結晶性ポリエステルポリオールは,初期の接着力を向上させることを目的として配合される。イソフタル酸,テレフタル酸等の芳香族カルボン酸を含むカルボン酸と,エチレングリコール,ネオペンチルグリコール等の2以上の水酸基を有するポリオールとの縮合重合物であり,結晶性を有しない。重量平均分子量は2000〜4000が好ましい。重量平均分子量が2000未満では,初期の接着力が不足することとなり,重量平均分子量が4000超では,加熱溶融時の粘度が高くなり、作業性が低下することとなる。市販の非結晶性ポリエステルポリオールとしてはDYNACOLL 7131(商品名,Mw:3000,粘度:10Pa・s/130℃,水酸基価:約35,Evonik製)がある。
【0021】
結晶性ポリエステルポリオール
本発明に使用される結晶性ポリエステルは,ポリブタジエンポリオールと他のポリエステルポリオールやポリエーテルポリオールとの相溶性を向上させる目的として配合される。アジピン酸等の芳香族を含まないカルボン酸と1.6ヘキサンジオール等の2以上の水酸基を有するポリオールとの縮合重合物であり,結晶性を有する。重量平均分子量は,2000〜7000が好ましい。重量平均分子量が2000未満では,加熱溶融時の粘度が低くなり、接着力が低下することとなり,重量平均分子量が7000超では,加熱溶融時の粘度が高くなり、作業性が低下することとなる。市販の結晶性ポリエステルポリオールとしてはDYNACOLL 7380(商品名,Mw:3500,粘度:2Pa・s/80℃,水酸基価:約30,Evonik製)がある。非結晶性ポリエステルポリオール100重量部に対して60〜90重量部を配合することが好ましい。60重量部未満では粘着性が不足し,90重量部超では,塗布作業性が不良となる。
【0022】
23℃で液状のポリエステルポリオール
本発明に使用される23℃で液状のポリエステルポリオールは,粘着性能を保持しながら塗布作業時に加熱溶融させた際の粘度を低下させることを目的として配合される。アジピン酸等のカルボン酸と,エチレングリコール,ネオペンチルグリコール,1,6−ヘキサンジオール等の2以上の水酸基を有するポリオールとの縮合重合物であり,23℃で液体の性状を有している。重量平均分子量は,3000〜7000が好ましい。重量平均分子量が3000未満では,粘着性が不足することとなり,重量平均分子量が7000超では,加熱溶融時の粘度が高くなり、作業性が低下することとなる。配合量は,非結晶性ポリエステルポリオール100重量部に対して120〜160重量部が好ましい。120重量部未満では加熱溶融させた際の粘度が高く塗布作業性が不良となり,160重量部超では粘着性が不良となる。市販の23℃で液状のポリエステルポリオールには,DYNACOLL 7250(商品名,Mw:5500,粘度:5Pa・s/80℃,水酸基価:約21,Evonik製)がある。
【0023】
ポリエーテルポリオール
本発明に使用されるポリエーテルポリオールは,主として塗布作業時に加熱溶融させた際の粘度を低下させることを目的として配合される。エチレングリコール,ネオペンチルグリコール,1,6−ヘキサンジオール等の2以上の水酸基を有するポリオールにエチレンオキサイド,プロピレンオキサイド、テトラヒドロフランを付加重合することにより得られる。重量平均分子量は,500〜3000が好ましい。重量平均分子量が500未満では,加熱溶融時の粘度が低くなり、接着力が低下することとなり,重量平均分子量が3000超では,加熱溶融時の粘度が高くなり、作業性が低下することとなる。配合量は非結晶性ポリエステルポリオール100重量部に対して75〜110重量部であることが好ましい。75重量部未満では加熱溶融させた際の粘度が高く塗布作業性が不良となり,110重量部超では粘着性が不良となる。市販のポリエーテルポリオールには,ハイフレックスD−2000(商品名,Mw:2000,水酸基価:約56,第一工業製薬社製)や,ハイフレックスD−1000(商品名,Mw:1000,水酸基価:約110,第一工業製薬社製)がある。
【0024】
重量平均分子量500以上1500未満のポリエーテルポリオールと重量平均分子量が1500以上3000以下のポリエーテルポリオールを併用する場合は,重量平均分子量が500以上1500未満のポリエーテルポリオールの配合量は,重量平均分子量が1500以上3000以下のポリエーテルポリオール100重量部に対して,80〜120重量部であることが好ましい。80重量部未満では,加熱溶融させた際の粘度が高く塗布作業性が不良となり,120重量部超では粘着性が不良となる。
【0025】
ポリブタジエンポリオール
本発明に使用されるポリブタジエンポリオールは,主としてポリオレフィン樹脂に対する付着性を得るために配合される。ポリブタジエンポリオールは,分子末端に水酸基を有する液状ブタジエン共重合体であり,重量平均分子量は300〜5000が好ましい。重量平均分子量が300未満ではポリオレフィン樹脂に対する付着性が不良となり,5000超ではポリオレフィン樹脂に対する濡れ性が不良となる。配合量は非結晶性ポリエステルポリオール100重量部に対して30〜50重量部であることが好ましい。30重量部未満ではポリオレフィン樹脂に対する付着性が不良となり,50重量部超では加熱溶融させた際の粘度が低くなりすぎて塗布作業性が不良となる。市販のポリブタジエンポリオールとしては,G−3000(商品名,Mw:3000,水酸基価:約32,日本曹達製)やKRASOL LBH3000(商品名,Mw:3000,水酸基価:約33,出光製)がある。
【0026】
イソシアネート化合物
本発明に使用されるイソシアネート化合物は,特に制限されることはない。例えば,メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI),トリレンジイソシアネート(TDI),メチレンジフェニルジイソシアネートの水素添加物(水添MDI),ヘキサメチレンジイソシアネート(HDMI),イソフォロンジイソシアネート(IPDI)等がある。これらの中ではMDIが汎用的であることから,より好ましい。市販のMDIとしてはミリオネートMT(商品名,4,4‘メチレンジフェニルジイソシアネート,NCO重量%:33.6%,日本ポリウレタン工業製)がある。
【0027】
本発明のホットメルト接着剤組成物は,非結晶性ポリエステルポリオールと,結晶性ポリエステルポリオールと,23℃で液状のポリエステルポリオールと,ポリエーテルポリオールと,ポリブタジエンポリオールと,イソシアネート化合物とを反応させて得られた反応性ウレタンプレポリマーから成ることを特徴とするが,NCO基の数とOH基の数の比が1.5〜2.5として反応させることが好ましい。NCO基の数とOH基の数の比が1.5未満では加熱溶融時の粘度が著しく高くなり、作業性が悪化することとなり,2.5超ではイソシアネート含有率が高くなり,作業時のイソシアネート化合物の空気中への飛散が懸念され作業環境が悪化する。
【0028】
以下,実施例及び比較例にて本出願に係るホットメルト接着剤組成物について具体的に説明する。
【実施例】
【0029】
実施例1及び実施例2
表1に示す配合にて,イソシアネート化合物以外のすべての材料を攪拌装置,温度制御装置,真空ポンプを取り付けた1Lのセパラブルフラスコ内に投入し,100℃,減圧下で2時間攪拌し,脱水する。その後イソシアネート化合物であるミリオネートMTをNCO基の数とOH基の数の比を2.0となるように,表1に示す配合量を投入し,100℃窒素雰囲気下で2時間攪拌反応させ,23℃に徐冷し固体状態の湿気硬化型の反応性を有する実施例1及び実施例2のホットメルト接着剤組成物を得た。ダッポーSN−351(商品名,サンノプコ製)は消泡剤であり,触媒にはジモルホリノジエチルエーテルJD
DMDEE(商品名,三井化学ファイン製)を使用した。
【0030】
比較例1乃至比較例4
表1に示す配合にて,実施例1及び実施例2と同様の方法にて比較例1乃至比較例のホットメルト接着剤組成物を得た。なお,ポリカプロラクトンCAPA6500(商品名,Solvay製),エステルガムHT(商品名,荒川化学製),α−ポリオレフィンvestoplast508(商品名,Evonik製),ポリイソプレンポリオールPoly ip(商品名,出光製)は,ポリプロピレンに対する付着性を改良する目的で配合した。
【0031】
【表1】

【0032】
評価項目および評価方法
【0033】
粘度
実施例及び比較例のホットメルト接着剤組成物を,120℃に加熱溶融時の粘度をBrookfield社製 RVD V−1+(商品名)を用いて,29号ローター10rpm時の粘度を測定した。
【0034】
タックフリータイム
実施例及び比較例のホットメルト接着剤組成物を120℃で加熱溶融後,ただちに,幅30mm厚さ125μmでポリプロピレン板上に塗布し,1分おきに指触してタックが無くなった時間をタックフリータイム(分)として測定した。
【0035】
180度ピール強度及び破壊状態
実施例及び比較例のホットメルト接着剤組成物を120℃で加熱溶融後,ポリプロピレン板上に幅30mm厚さ125μmで塗布し,ただちに25mm×150mmの上質紙(坪量約68g/m)を貼り付ける。その後23℃50%RHで24時間養生し,デジタルフォースゲージ(商品名,IMADA製)で該上質紙を180度方向に引張り,その最大強度を180度ピール強度(N/25mm)として測定した。また破壊状態を目視で観察し,界面での破壊割合(%)と材料の破壊割合(%)を求めた。
【0036】
評価結果
評価結果を表2に示す。実施例1及び実施例2は粘度が10000mPa・s以下/120℃であり,塗布作業性は良好であり,またタックフリータイムは20分程度あるため,同様に塗布作業性が良好である。また180度ピール強度は10N/25mmで十分な接着性を有し,破壊状態も100%材料破壊であった。
【0037】
【表2】