特許第5969798号(P5969798)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969798
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】虫汚れ除去用洗浄剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C11D 3/43 20060101AFI20160804BHJP
   C11D 3/20 20060101ALI20160804BHJP
   C11D 1/72 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   C11D3/43
   C11D3/20
   C11D1/72
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-90271(P2012-90271)
(22)【出願日】2012年4月11日
(65)【公開番号】特開2013-216824(P2013-216824A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000115083
【氏名又は名称】ユシロ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】竹村 友良
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 將央
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−091197(JP,A)
【文献】 特開平01−221498(JP,A)
【文献】 特開昭52−077111(JP,A)
【文献】 特開2004−059806(JP,A)
【文献】 特開平11−152497(JP,A)
【文献】 特開2006−022171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00−19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(a1)、(a2)及び(a3)から選ばれる1種以上の成分(A)と、溶解パラメータ値が15以上のアルコール系溶剤(B)と、キレート剤(C)とを含み、
組成物全体を100質量%として、前記成分(A)を0.5質量%以上30質量%以下、前記アルコール系溶剤(B)を1質量%以上30質量%以下含み、
前記成分(A)に対する前記キレート剤(C)の質量比(C/A)が、30/70〜80/20である、
硬質表面に付着した虫汚れの除去に使用される洗浄剤組成物。
(a1)下記一般式(1)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル
O−[(CO)/(AO)]H (1)
(式(1)中、Rは炭素数8〜22の炭化水素基であり、AOは炭素数3〜5のアルキレンオキシド基であり、mはエチレンオキシド基の平均付加モル数であり、m=5〜15、nはアルキレンオキシド基の平均付加モル数であり、n=0〜5である。式(1)中、CO及びAOは、ランダム、ブロックのいずれの結合であってもよい。)
(a2)下記一般式(2)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエステル
COO−[(CO)/(AO)]H (2)
(式(2)中、Rは炭素数8〜22の炭化水素基であり、AOは炭素数3〜5のアルキレンオキシド基であり、oはエチレンオキシド基の平均付加モル数であり、o=5〜15、pはアルキレンオキシド基の平均付加モル数であり、p=0〜5である。式(2)中、CO及びAOは、ランダム、ブロックのいずれの結合であってもよい。)
(a3)炭素数8〜22のアルキル基を有するアルキルアミンオキシド
【請求項2】
組成物全体を100質量%として、前記キレート剤(C)を、0.5質量%以上30質量%以下含む、請求項1に記載の洗浄剤組成物。
【請求項3】
pHが10以下である、請求項1又は2に記載の洗浄剤組成物。
【請求項4】
前記硬質表面が車両の表面である、請求項1〜3のいずれかに記載の洗浄剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両等の硬質表面に付着した虫汚れに対する除去性に優れる洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高速で移動する鉄道車両は、特に先頭部に昆虫等が衝突して「虫汚れ」が生じやすい。虫汚れは、乾燥すると固化して容易に除去することができず、高い洗浄力を有する洗浄剤を用いる必要がある。例えば、洗浄力の高いアルカリ洗浄剤(pH12以上)を用いることが考えられるが、アルミニウム車両ではアルカリ腐食の問題を抱えており、アルカリ洗浄剤を適用することができない。一方で、中性の洗浄剤は虫汚れに対する除去性に劣り、短時間で作業ができず、物理的にこすり落とさなければならない。さらに、運用状況により洗浄時間が十分に取れない場合、虫汚れを完全に除去できないまま、洗浄作業を終了しなければならない。
【0003】
特許文献1には、高い洗浄性を有する洗車用洗浄剤組成物が開示されている。特許文献1にあっては、特定のグリコールエーテル系化合物に界面活性剤とアルカリ剤とを併用することで、高洗浄力が得られるとともにアルミニウム車体への悪影響が低減された洗浄剤組成物を提供することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−152497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に係る洗浄剤組成物にあっては、水酸化ナトリウム等のアルカリ剤を添加するものとしており、アルミニウム車両に対しては、依然としてアルカリ腐食が懸念された。また、高速車両において特有に生じる「虫汚れ」については、何ら着目しておらず、短時間で効率的に虫汚れを除去可能な新たな洗浄剤組成物が求められていた。
【0006】
そこで本発明は、硬質表面に付着した虫汚れに対する除去性に優れる洗浄剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等の所定成分と、アルコール系溶剤と、キレート剤とを、所定の含有量且つ所定の比率にて配合することで、虫汚れに対して良好な除去性を示す洗浄剤組成物とすることができることを知見した。当該洗浄剤組成物は、pH10以下においても虫汚れに対する除去性に優れ、アルミ車両への適用も可能である。
【0008】
すなわち、本発明は、下記成分(a1)、(a2)及び(a3)から選ばれる1種以上の成分(A)と、溶解パラメータ値が15以上のアルコール系溶剤(B)と、キレート剤(C)とを含み、組成物全体を100質量%として、成分(A)を0.5質量%以上30質量%以下、アルコール系溶剤(B)を1質量%以上30質量%以下含み、成分(A)に対するキレート剤(C)の質量比(C/A)が、30/70〜80/20である、洗浄剤組成物である。
【0009】
(a1)下記一般式(1)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル
O−[(CO)/(AO)]H (1)
(式(1)中、Rは炭素数8〜22の炭化水素基であり、AOは炭素数3〜5のアルキレンオキシド基であり、mはエチレンオキシド基の平均付加モル数であり、m=5〜15、nはアルキレンオキシド基の平均付加モル数であり、n=0〜5である。式(1)中、CO及びAOは、ランダム、ブロックのいずれの結合であってもよい。)
【0010】
(a2)下記一般式(2)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエステル
COO−[(CO)/(AO)]H (2)
(式(2)中、Rは炭素数8〜22の炭化水素基であり、AOは炭素数3〜5のアルキレンオキシド基であり、oはエチレンオキシド基の平均付加モル数であり、o=5〜15、pはアルキレンオキシド基の平均付加モル数であり、p=0〜5である。式(2)中、CO及びAOは、ランダム、ブロックのいずれの結合であってもよい。)
【0011】
本発明において、(CO)/(AO)(或いは、(CO)/(AO))とは、モル数m(或いはo)のCOとモル数n(或いはp)のAOが、ランダム結合又はブロック結合していることを意味する。
尚、本発明において「平均付加モル数x〜y」とは、付加モル数がx未満或いはy超である成分の混合であっても、全体としての平均付加モル数がx〜yの範囲となるのであれば、本発明の範囲に含まれることを意味する。このような場合、平均付加モル数は、付加モル数x未満の成分(X)と付加モル数y超の成分(Y)との質量比に基づいて求めるものとする。例えば、質量比でX/Y=1の場合、平均付加モル数は0.5×x+0.5×yとなるし、質量比でX/Y=2/3の場合、平均付加モル数は0.4×x+0.6×yとなる。
【0012】
(a3)炭素数8〜22のアルキル基を有するアルキルアミンオキシド
【0013】
本発明において、組成物全体を100質量%として、キレート剤(C)が、0.5質量%以上30質量%以下含まれることが好ましい。
【0014】
本発明において、pHが10以下であることが好ましい。
【0015】
本発明に係る洗浄剤組成物は、硬質表面に付着した虫汚れの除去に使用されることが好ましい。
【0016】
特に、上記の硬質表面は車両の表面であることが好ましく、アルミニウム材料を用いてなる車両の表面であることが特に好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、硬質表面に付着した虫汚れに対する除去性に優れる洗浄剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る洗浄剤組成物は、成分(a1)、(a2)及び(a3)から選ばれる1種以上の成分(A)と、溶解パラメータ値が15以上のアルコール系溶剤(B)と、キレート剤(C)とを含み、組成物全体を100質量%として、成分(A)を0.5質量%以上30質量%以下、アルコール系溶剤(B)を1質量%以上30質量%以下含み、成分(A)に対するキレート剤(C)の質量比(C/A)が、30/70〜80/20であることに特徴を有する。
【0019】
1.成分(A)
本発明に係る洗浄剤組成物には、成分(a1)、(a2)及び(a3)から選ばれる1種以上の成分(A)が含まれている。
【0020】
1.1.成分(a1)
成分(a1)は下記一般式(1)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルである。
【0021】
O−[(CO)/(AO)]H (1)
(式(1)中、Rは炭素数8〜22の炭化水素基であり、AOは炭素数3〜5のアルキレンオキシド基であり、mはエチレンオキシド基の平均付加モル数であり、m=5〜15、nはアルキレンオキシド基の平均付加モル数であり、n=0〜5である。式(1)中、CO及びAOは、ランダム、ブロックのいずれの結合であってもよい。)
【0022】
上記式(1)におけるRは炭化水素基である。虫汚れに対する除去性に優れる観点から、その炭素数は8〜22であり、8〜18が好ましく、10〜15がより好ましい。Rの炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基が好ましく、特にアルキル基が好ましい。
【0023】
上記式(1)におけるmはエチレンオキシド基の平均付加モル数である。虫汚れに対し優れた効果を示すmは5〜15(モル)であり、6〜12が好ましく、8〜12がより好ましい。
【0024】
上記式(1)におけるAOは、アルキレンオキシド基である。AOはメチル分岐、エチル分岐ないしはプロピレン分岐構造を有していても良い。AOは、炭素数3〜5のアルキレンオキシド基であり、3〜4が好ましく、特にプロピレンオキシドの付加反応で得られるプロピレンオキシ基(PO)であることが好ましい。
【0025】
上記式(1)におけるnはアルキレンオキシド基の平均付加モル数である。虫汚れに対し優れた効果を示すnは、0〜5(モル)であり、0〜3が好ましく、0〜2がより好ましい。
【0026】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(a1)は、そのHLB値が8以上15以下であることが好ましく、10以上15以下であることがより好ましい。HLB値は、例えば、グリフィン法(HLB値=20×親水部分の式量の総和/分子量)によって算出することが可能である。
【0027】
1.2.成分(a2)
上記成分(a1)と物性や虫汚れに対する作用が極めて類似していることから、本発明においては、成分(a1)に替えて、或いは成分(a1)とともに、下記成分(a2)を含ませることができる。成分(a2)は下記一般式(2)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエステルである。
【0028】
COO−[(CO)/(AO)]H (2)
(式(2)中、Rは炭素数8〜22の炭化水素基であり、AOは炭素数3〜5のアルキレンオキシド基であり、oはエチレンオキシド基の平均付加モル数であり、o=5〜15、pはアルキレンオキシド基の平均付加モル数であり、p=0〜5である。式(2)中、CO及びAOは、ランダム、ブロックのいずれの結合であってもよい。)
【0029】
上記式(2)におけるRは炭化水素基である。虫汚れに対する除去性に優れる観点から、その炭素数は8〜22であり、8〜18が好ましく、10〜15がより好ましい。Rの炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基が好ましく、特にアルキル基が好ましい。
【0030】
上記式(2)におけるoはエチレンオキシド基の平均付加モル数である。虫汚れに対し優れた効果を示すoは5〜15(モル)であり、6〜12が好ましく、8〜12がより好ましい。
【0031】
上記式(2)におけるAOはアルキレンオキシド基である。AOは、炭素数3〜5のアルキレンオキシド基であり、3〜4が好ましく、特にプロピレンオキシドの付加反応で得られるプロピレンオキシ基(PO)であることが好ましい。AOはメチル分岐、エチル分岐ないしはプロピレン分岐構造を有していても良い。
【0032】
上記式(2)におけるpはアルキレンオキシド基の平均付加モル数である。虫汚れに対し優れた効果を示すpは、0〜5(モル)であり、0〜3が好ましく、0〜2がより好ましい。
【0033】
ポリオキシアルキレンアルキルエステル(a2)は、そのHLB値が8以上15以下であることが好ましく、10以上15以下であることがより好ましい。
【0034】
1.3.成分(a3)
成分(a3)は、炭素数8〜22のアルキル基を有するアルキルアミンオキシドである。本発明者らが鋭意研究したところ、上記成分(a1)、(a2)と同様、成分(a3)も、虫汚れに対する除去性に優れる性質を有することを知見した。そこで、本発明においては、成分(a1)、(a2)に替えて、或いは成分(a1)、(a2)とともに、成分(a3)を含ませることができる。
【0035】
アルキルアミンオキシドのアルキル基炭素数は、虫汚れに対し優れた効果を示す観点から、8〜22であり、8〜15が好ましく、10〜12がより好ましい。
【0036】
本発明に係る洗浄剤組成物における成分(A)の含有量は、組成物全体を100質量%として、下限が0.5質量%以上、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、上限が30質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。成分(A)の濃度が低過ぎると虫汚れに対する十分な除去性が得られず、また、濃度が高過ぎると洗浄剤組成物の安定性に劣る。
【0037】
2.アルコール系溶剤(B)
本発明に係る洗浄剤組成物には、溶解パラメータ値(solubility parameter値、SP値)が15以上のアルコール系溶剤(B)が含まれている。
【0038】
「溶解パラメータ値」については以下の通り説明される。すなわち、液体の1モル当たりの蒸発エネルギーをΔE[kJ・mol−1]とし、そのモル体積をV[cm・mol−1]とすると、溶解パラメータ値δ[J1/2・cm−3/2]は、下記式(3)で定義される。
【0039】
δ=(ΔE/V1/2(3)
【0040】
溶解パラメータ値は、液体での分子間相互作用の大きさを示す物理化学定数として用いられている。種々の化合物について、実測のΔE値に基づいて、常温での溶解パラメータ値が知られているほか、特開2002−253652号公報に開示されているように、実測のΔE値が未知の化合物であっても、標準沸点T[K]を用いて、ΔE=2.54×10−4なる関係式からΔEを精度よく算出し、これを用いて溶解パラメータ値を算出することができる。或いは、標準沸点Tが未知の化合物についても、測定圧力での沸点を考慮しつつ、公知の計算式にて標準沸点Tを特定することが可能である。
【0041】
溶解パラメータ値が15以上のアルコール系溶剤(B)は虫汚れに対する除去性に優れる。本発明において、アルコール系溶剤(B)は1種だけ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。虫汚れに対して特に優れた除去性を示すアルコール系溶剤(B)は以下の通りである。
【0042】
芳香族アルコールでは、ベンジルアルコール(SP値23.7)が好ましい。
【0043】
ポリオールモノエーテル類では、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール(SP値20.3)、2−ベンジルオキシエタノール(SP値22.7)、2−フェノキシエタノール(SP値23.4)が好ましい。
【0044】
ポリアルキレングリコール類では、トリエチレングリコール(SP値24.5)、ジプロピレングリコール(SP値22.2)が好ましい。
【0045】
ポリエチレングリコールモノエーテル類では、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(SP値20.6)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値19.4)、トリエチレングリコールモノフェニルエーテル(SP値20.3)が好ましい。
【0046】
特に好ましいアルコール系溶剤(B)は、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、又は、ジエチレングリコールモノエチルエーテルである。
【0047】
本発明に係る洗浄剤組成物におけるアルコール系溶剤(B)の含有量は、組成物全体を100質量%として、下限が1質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、上限が30質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下である。アルコール系溶剤(B)の濃度が低過ぎると虫汚れに対する十分な除去性が得られず、また、濃度が高過ぎると洗浄剤組成物の安定性に劣る。
【0048】
3.キレート剤(C)
本発明に係る洗浄剤組成物には、キレート剤(C)が含まれている。本発明において、キレート剤(C)は1種だけ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0049】
キレート剤(C)としては、例えば、ニトリロ三酢酸、イミノ二酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、トリエチレンテトラアミン六酢酸、ジエンコル酸等のアミノポリ酢酸又はこれらの塩;ジグリコール酸、オキシジコハク酸、カルボキシメチルオキシコハク酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、シュウ酸、リンゴ酸、オキシジコハク酸、グルコン酸、カルボキシメチルコハク酸、カルボキシメチル酒石酸等の有機酸又はこれらの塩;アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、これらのアルカリ金属又はアミン塩;等を用いることができる。
【0050】
この中でも、虫汚れに対し一層優れた除去性を有することから、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グルコン酸、クエン酸又はこれらの塩がより好ましく、特に、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グルコン酸又はこれらの塩が好ましい。
【0051】
本発明に係る洗浄剤組成物においてキレート剤(C)は、上記の成分(A)に対して所定の比率となるように含まれている。具体的には、成分(A)に対するキレート剤(C)の質量比(C/A)は、下限が30/70以上、好ましくは40/60以上、より好ましくは50/50以上であり、上限が80/20以下、好ましくは70/30以下、より好ましくは60/40以下である。当該範囲を外れた場合、成分(A)或いはキレート剤(C)の濃度が低くなり過ぎ、虫汚れの除去性が劣る。
【0052】
また、本発明に係る洗浄剤組成物におけるキレート剤(C)の含有量は、組成物全体を100質量%として、0.5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。下限は、より好ましくは2質量%以上、特に好ましくは5質量%以上であり、上限は、より好ましくは20質量%以下、特に好ましくは15質量%以下である。上述の通りキレート剤(C)の濃度が低過ぎると虫汚れに対する十分な除去性が得らない場合があり、また、濃度が高過ぎると洗浄剤組成物の安定性に劣る場合がある。
【0053】
4.その他成分
本発明に係る洗浄剤組成物は、上記の成分(A)、アルコール系溶剤(B)及びキレート剤(C)を所定の含有量且つ所定の比率で含んでいれば、その他成分については特に限定されるものではない。例えば、残部をすべて水とすることが可能である。或いは、本発明の効果を損なわない範囲で、各種添加剤を添加することも可能である。添加剤としては公知の界面活性剤、ビルダー、増粘剤、上記アルコール系溶剤(B)以外のアルコール系溶剤等が挙げられる。
【0054】
以上の通り、本発明に係る洗浄剤組成物は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等の所定成分(A)と、アルコール系溶剤(B)と、キレート剤(C)とを、所定の含有量且つ所定の比率にて配合することで、虫汚れに対して良好な除去性を示す洗浄剤組成物とすることができる。すなわち、本発明に係る洗浄剤組成物は、硬質表面に付着した虫汚れの除去に好適に使用され、特に、車両の表面洗浄に用いることが好ましく、アルミニウム材料を用いてなる車両(例えば、鉄道車両)の表面洗浄に用いることが最も好ましい。
【0055】
本発明に係る洗浄剤組成物は、pH10以下においても虫汚れに対する除去性に優れ、アルミニウムに対する腐食の懸念もない。pHについては、取り扱い性等を考慮し、より好ましくは5〜9、特に好ましくは6〜8である。
【実施例】
【0056】
以下、実施例に基づいて、本発明についてさらに詳述する。
【0057】
<洗浄剤組成物の作製>
表1、2に示されるように、各成分を所定量・所定比率で配合し、実施例1〜12及び比較例1〜11に係る洗浄剤組成物をそれぞれ得た。各成分の詳細は以下の通りである。尚、実施例12で用いたソフタノール30、ソフタノール200は、ともにエチレンオキシド基の平均付加モル数mが5〜15の範囲から外れたものであるが、両者を混合したことによって、平均付加モル数mが5〜15の範囲内(具体的にはm=9.8)とした。
【0058】
1)ソフタノール30 (株式会社日本触媒製ソフタノール30、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、C12〜C14の2級アルコール100%、エチレンオキシド基の平均付加モル数m=3、HLB=7.9)
2)ソフタノール70 (株式会社日本触媒製ソフタノール70、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、C12〜C14の2級アルコール100%、エチレンオキシド基の平均付加モル数m=7、HLB=12.1)
3)ソフタノール120 (株式会社日本触媒製ソフタノール120、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、C12〜C14の2級アルコール100%、エチレンオキシド基の平均付加モル数m=12、HLB=14.5)
4)ソフタノール200 (株式会社日本触媒製ソフタノール200、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、C12〜C14の2級アルコール100%、エチレンオキシド基の平均付加モル数m=20、HLB=16.3)
5)A−1 (炭素数10〜14の1級アルコールに、エチレンオキサイドを平均9モル、プロピレンオキサイドを平均2モルの順にブロック付加させた化合物)
6)ソフミンL (東邦化学工業株式会社製ソフミンL、ラウリルジメチルアミンオキシド、30%)
7)MS−400 (三洋化成工業株式会社製イオネットMS−400、ポリオキシエチレンモノステアリン酸エステル、エチレンオキサイドの平均付加モル数o=9.1、HLB=11.9)
8)DG (株式会社日本触媒製シーホゾールDG、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、99%以上、SP値20.6)
9)ソルフィット (株式会社クラレ製ソルフィット、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、98%以上、SP値20.3)
10)クレワットGL (ナガセケムテックス株式会社製クレワットGL、グルコン酸ナトリウム、100%)
11)クエン酸三ナトリウム (磐田化学工業株式会社製クエン酸三ナトリウム、クエン酸三ナトリウム2水和物、99%以上)
12)MS−1000 (三洋化学工業株式会社製イオネットMS−1000、ポリオキシエチレンモノステアリン酸エステル、エチレンオキサイドの平均付加モル数o=22.7、HLB=15.7)
13)DPM (ダウ・ケミカル株式会社製ダワノールDPM、ジプロピレングリコールメチルエーテル、99%以上、SP値9.4)
14)PM (ダウ・ケミカル株式会社製ダワノールPM、グリコールエーテル(プロピレングリコールメチルエーテル)、99%以上、SP値10.2)
15)ピロリン酸カリウム (太平化学工業株式会社製ピロリン酸カリウム、二リン酸四カリウム、97%以上)
16)KOH (旭硝子株式会社製、液体苛性カリ、水酸化カリウム溶液、48%以上)
【0059】
<洗浄剤組成物の評価>
各洗浄剤組成物について、虫汚れ除去性、及び、アルミニウム材への影響をそれぞれ評価した。
【0060】
1.虫汚れ除去性
赤虫を塗装板に均一に載せ、50℃にて24時間放置した。その後、試料10mlを塗装板に滴下し、ブラシ(1125±113g)を装着したウォッシャビリティテスターで20往復洗浄し、外観を目視で評価した(赤虫は水中生物であるが、車両先頭部に付着する虫汚れと赤虫とは良く相関するため、先頭部に付着する虫汚れを模擬すべく、赤虫を使用した。)。評価結果を下記表1、2に示す。尚、評価指標は以下の通りである。
◎:優れる
○:良好
△:基準
×:劣る
【0061】
2.アルミニウム材への影響
アルミニウム材(A5083P)を各洗浄剤組成物に常温にて1日浸漬した後、外観を目視で評価した。評価結果を下記表1、2に示す。尚、評価指標は以下の通りである。
○:光沢変化なし
×:光沢低下あり
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
実施例1〜12に係る洗浄剤組成物は、虫汚れ除去性に優れ、且つ、アルミニウム材への悪影響もなかった。
一方、比較例1に係る洗浄剤組成物は、成分(A)の添加量が本発明の範囲よりも下回っており、虫汚れに対して十分な除去性が得られなかった。
比較例2に係る洗浄剤組成物は、アルコール系溶剤(B)の添加量が本発明の範囲よりも下回っており、虫汚れに対して十分な除去性が得られなかった。
比較例3及び6に係る洗浄剤組成物は、成分(A)のエチレンオキシド基の平均付加モル数mが本発明の範囲から外れており、虫汚れに対して十分な除去性が得られなかった。
比較例4に係る洗浄剤組成物は、アルコール系溶剤(B)のSP値が本発明の範囲から外れており、虫汚れに対して十分な除去性が得られなかった。
比較例5及び7に係る洗浄剤組成物は、成分(A)とキレート剤(C)との配合比C/Aが本発明の範囲から外れており、虫汚れに対して十分な除去性が得られなかった。
比較例8に係る洗浄剤組成物は、アルカリ剤として水酸化カリウムを用いた結果、組成物のpHが10を超えており、アルミニウムが腐食し変色してしまった。
比較例9に係る洗浄剤組成物は、アルキルアミンオキシドの添加量が本発明の範囲から外れており、虫汚れに対して十分な除去性が得られなかった。
比較例10に係る洗浄剤組成物は、ポリオキシエチレンアルキルエステルのエチレンオキサイドの付加モル数が本発明の範囲から外れており、虫汚れに対して十分な除去性が得られなかった。
比較例11に係る洗浄剤組成物は、ピロリン酸カリウムによりアルミが変色してしまい、また虫除去性に対しても十分な除去性が得られなかった。
【0065】
以上、現時点において、最も実践的であり、且つ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う洗浄剤組成物もまた本発明の技術範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る洗浄剤組成物は、硬質表面に付着した虫汚れを短時間で洗浄することができる。特に、鉄道車両の洗浄剤として好適に用いることができる。