(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記コンプレッサ膨張機流体機械を前記膨張機として作動させる場合に、前記第1クラッチを締結しかつ前記第2クラッチを開放するクラッチ制御手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の流体機械。
前記コンプレッサ膨張機流体機械を前記コンプレッサとして作動させる場合に、前記第1クラッチを開放しかつ前記第2クラッチを締結するクラッチ制御手段を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の流体機械。
前記リングギアと前記サンギアの歯数の比を、前記コンプレッサ膨張機流体機械を前記膨張機として作動させる場合に膨張機に要求される冷媒体積流量と、前記コンプレッサ膨張機流体機械を前記コンプレッサとして作動させる場合にコンプレッサに要求される冷媒体積流量との比に相当する値となるように設定することを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載の流体機械。
前記第1クラッチは、前記コンプレッサ膨張機流体機械を膨張機として作動させるときに、前記プラネタリキャリアと、前記リングギア及び前記サンギアのいずれか一方とを固定するワンウェイクラッチで構成されていることを特徴とする請求項1から5までのいずれか一つに記載の流体機械。
一方向に回転するときには冷媒の有するエネルギを機械的エネルギに変換して回転するモータとして、他方向に回転するときには冷媒を加圧して吐出するポンプとしてそれぞれ作動するポンプモータ流体機械と、
前記ポンプモータ流体機械とエンジンのクランク軸との間で回転を伝達する変速機構であって、前記ポンプモータ流体機械をモータとして用いるときは回転方向を同一のままで、また、前記ポンプモータ流体機械をポンプとして用いるときは回転方向を逆転させ、かつ、モータとして用いるときよりもエンジンのクランク軸に対するポンプモータ流体機械の回転速度が高くなるように回転を伝達する変速機構と、
前記変速機構がポンプモータ流体機械の回転を回転方向が同一のままで伝達するかポンプモータ流体機械の回転を逆転させて伝達するかを切換え得る複数のクラッチと
を備えることを特徴とする流体機械。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態の流体機械1のスケルトン図、
図2Aはスクロール流体機械11を膨張機としてとして働かせるときの、
図2Bはスクロール流体機械11をコンプレッサとしてとして働かせるときのスケルトン図である。
【0010】
第1実施形態の流体機械1は、スクロール流体機械11、遊星歯車31、2つのクラッチ41、42、プーリ51(第1の軸)から構成される。
【0011】
まず、スクロール流体機械11については
図3を参照して概説する。
図3はスクロール流体機械11の作動図である。
図3においてスクロール流体機械11は、円筒状のケース12、固定スクロール13、可動スクロール14から主に構成されている。
【0012】
固定スクロール13は、板状の基板部(図示しない)及び基板部から可動スクロール14側に突出した歯部13aとで構成される。可動スクロール14も、板状の基板部(図示しない)及び基板部から固定スクロール13側に突出する歯部14aとで構成される。各スクロール13、14の歯部13a、14aは、反時計方向に回転する渦巻き状に、かつ一端より徐々に曲率半径が大きくなるように形成され、ほぼ同様の大きさのこれら2つの歯部13a、14aを渦巻きの方向を同じにして組み合わせている。このとき、2つの歯部13a、14aは複数の箇所で線接触し、隣り合う2つの線接触の間に密閉空間(作動室)が形成される。
【0013】
固定スクロール13は円筒状のケース12に固定されている。可動スクロール14は円筒状のケース12中心の回転軸21(
図1参照)(第2の軸)より偏心した軸を中心として回動する。可動スクロール14を一方向(
図3で時計方向、反時計方向のいずれかの方向)に回動させると、隣り合う2つの線接触間に形成される密閉空間(作動室)に流体を閉じ込めたままで2つの歯部13a、14aの線接触位置が同一方向に徐々に移動する。このため、例えば可動スクロール14を
図3で反時計方向に回転(正転)させたときには、隣り合う2つの線接触間に形成される密閉空間の体積が徐々に大きくなる。この反対に可動スクロール14を
図3で時計方向に回転(逆転)させたときには、隣り合う2つの線接触間に形成される密閉空間が徐々に小さくなる。
【0014】
図3の最左側に、隣り合う2つの線接触間に形成される密閉空間のうち、最も小さい密閉空間15が2つ中央部に生じている。この2つの密閉空間15に着目すると、可動スクロール14が正転するにつれて、
図3の左側から2番目、3番目のように2つの密閉空間16、17へと徐々に大きくなり、かつその位置が外周へとずれていく。そして、
図3の最右側では最も大きい2つの密閉空間18となって最外周部に生じている。実際には、隣り合う2つの線接触間に形成される2つの密閉空間は他にもあり、その他の密閉空間でも同様の変化が生じる。
【0015】
一方、見方を変えると、
図3の最右側に、隣り合う2つの線接触間に形成される密閉空間のうち、最も大きい密閉空間18が2つ最外周部に生じている。この2つの密閉空間18に着目すると、可動スクロール14が逆転するにつれて、
図3の右側から2番目、3番目のように2つの密閉空間17、16へと徐々に小さくなり、かつその位置が内周へとずれていく。そして、
図3の最左側では最も小さい2つの密閉空間15となって中央部に生じている。実際には、隣り合う2つの線接触間間に形成される2つの密閉空間は他にもあり、その他の密閉空間でも同様の変化が生じる。
【0016】
可動スクロール14の回動に伴うこのような性質を利用して、スクロール流体機械11を正転時には膨張機として、逆転時にはコンプレッサ(圧縮機)として働かせることが可能となる。可動スクロール14には回転軸21を有している。
【0017】
スクロール流体機械11を駆動する流体(冷媒)をスクロール流体機械11に出し入れするため、
図3の最左側に示した2つの最小の密閉空間15に流体を出し入れする第1の出入口22(
図1参照)をケース12に設けている。また、
図3の最右側に示した2つの最大の密閉空間18に流体を出し入れする第2の出入口23(
図1参照)をケース12に設けている。
【0018】
スクロール流体機械11を膨張機として作動させるときには、
図2Aに示したように第1の出入口22から高温高圧の冷媒ガス(流体)を導入する。第1の出入口22から密閉空間15に流入した高温高圧の冷媒ガスは膨張する圧力で可動スクロール14を駆動する(回転軸21を正転させる)。この密閉空間15内の冷媒はその密閉空間が拡大するにつれて(
図3の右向きの状態変化を参照)、可動スクロール14を駆動する力を失っていき、やがて最外周まで到達した冷媒ガスは、
図2Aに示したように第2の出入口23から外部に排出される。第1の出入口22から高温高圧の冷媒ガスを連続的に導入することで、可動スクロール14が駆動し続ける(回転軸21は正転を継続する)。これによって、高温高圧の冷媒ガス(流体)の有する熱エネルギを回転エネルギ(機械的エネルギ)に変換することができる。
【0019】
一方、スクロール流体機械11をコンプレッサとして作動させるときには、スクロール流体機械11の回転軸21を外部からの動力で回転(逆転)させると共に、
図2Bに示したように第2の出入口23から冷媒ガスを導入する。第2の出入口23から密閉空間18に流入した冷媒ガスはその密閉空間が縮小するにつれて(
図3の左向きの状態変化を参照)圧縮され、やがて中央部まで到達した大気よりも高温高圧の冷媒ガスは、
図2Bに示したように第1の出入口22から外部に排出される。スクロール流体機械11の回転軸21の逆転を継続して第2の出入口23から冷媒ガスを連続的に導入することで、第1の出入口22から大気よりも高温高圧の冷媒ガスを連続的に吐出することができる。
【0020】
ここで、一方向に回転するときには流体の有するエネルギを機械的エネルギに変換して回転する膨張機として、他方向に回転するときには流体を加圧して吐出するコンプレッサとしてそれぞれ作動する流体機械を「コンプレッサ膨張機流体機械」と定義する。実施形態ではコンプレッサ膨張機流体機械としてスクロール流体機械11を例示したが、これに限られない。スクロールに限らず、ピストンやベーンなど、一方向に回転するときには密閉空間が大きくなり、この逆に他方向に回転するときには密閉空間が小さくなる主に容積式の流体機械であれば、これらもコンプレッサ膨張機流体機械に含まれる。従って、スクロール流体機械11に代えて用いることができる。
【0021】
また、一方向に回転するときには流体の有するエネルギを機械的エネルギに変換して回転するモータとして、他方向に回転するときには流体を加圧して吐出するポンプとしてそれぞれ作動する流体機械を「ポンプモータ流体機械」として定義するものがある。この定義で言うと、上記スクロール流体機械11は、このポンプモータ流体機械に含まれる。コンプレッサ膨張機流体機械に代えてこのポンプモータ流体機械を用いることができる。
【0022】
図1に戻り、スクロール流体機械11を膨張機として作動させるときには回転軸21を正転させ、スクロール流体機械11をコンプレッサとして作動させるときには回転軸21を逆転させる必要がある。このため、モータジェネレータの回転速度を切換えることで、スクロール流体機械の膨張機としての作動と、スクロール流体機械のコンプレッサとしての作動とを切換えるようにした従来装置が提案されている。
【0023】
しかしながら、従来装置では、膨張機としての作動とコンプレッサとしての作動とを切換えるのにモータジェネレータが必要であり、その分構成が複雑である。
【0024】
また、従来装置では、スクロール流体機械を膨張機として作動させるときにはモータジェネレータは発電機として作動する。このとき、モータジェネレータにはスクロール流体機械の回転が増速して伝達されるため、モータジェネレータ(発電機)が高速(例えば10,000rpm)で回転する。モータジェネレータが高速回転するのでは、フリクションが増加し、これによって回生の効率が落ち燃費効果の改善代が小さくなる。
【0025】
また、従来装置では、スクロール流体機械を膨張機として作動させるときに得られる機械的エネルギ(動力)の殆どを電力として回収し、これをバッテリに蓄積している。このため、動力を用いてエンジンの回転をアシストするときには、スクロール流体機械で得られる動力をモータジェネレータによって電力に変換し、その変換した電力を再び動力に変換することになる。つまり、変換による損失が大きいのであり、動力アシストによる燃費効果の改善代が小さくなる。さらにモータジェネレータを用いるときにはインバータなどの電気的な回路が必要となりコストアップになるし、回収した電力を蓄える容量の大きなバッテリが必要となる。この結果、従来装置は現実的にはハイブリッド車でのみ使える技術となり、多機種の展開性が低くなってしまう。
【0026】
そこで本発明は、モータジェネレータを用いることなく、スクロール流体機械の膨張機としての作動と、スクロール流体機械のコンプレッサとしての作動とを切換えることができないかと発明者が発想したところからなされたものである。すなわち、本発明は、遊星歯車機構31及び制御要素としての2つのクラッチ41、42とを用いてスクロール流体機械の膨張機としての作動と、スクロール流体機械のコンプレッサとしての作動とを切換えるようにしている。
【0027】
また、本発明では、スクロール流体機械11を膨張機として作動させるときに得られる機械的エネルギ(動力)をそのままエンジンに伝達してエンジンの回転をアシストする。すなわち、プーリ51とエンジン53のクランクプーリ54との間にベルト55を掛け回すことでベルト伝導装置を構成し、プーリ51とエンジンのクランクシャフトとが同期して回転するようにしている。なお、本発明はプーリによるベルト伝動装置に限定されるものでなく、チェーンを用いた伝動装置や歯車伝動装置にも適用がある。
【0028】
遊星歯車機構31は、サンギア32、リングギア33、サンギア32とリングギア33に共に噛み合いサンギア32の周囲を巡る複数のプラネタリギア34、これらプラネタリギア34の軸を固定するプラネタリキャリア35から構成される。
【0029】
プーリ51の回転軸52をリングギア33の軸と接続し、スクロール流体機械11の回転軸21をサンギア32の軸と接続する。プラネタリキャリア35とリングギア33との間にこれら2つの要素を締結・開放する第1クラッチ41を、またプラネタリキャリア35とハウジング36の間にこれら2つの要素を締結・開放する第2クラッチ42を設ける。第1クラッチ41の配置はこれに限られない。例えば、プラネタリキャリア35とサンギア32との間に第1クラッチ41’を設けてもかまわない(
図1の破線参照)。
【0030】
図4はプーリ52の回転速度が1000rpmの場合に2つのクラッチ41、42の締結・開放と使用用途との組み合わせでスクロール流体機械11の回転速度がどうなるのかをまとめた表図である。
図5は遊星歯車機構31の作動を示す速度線図である。
図6は
図5に合わせて実際の遊星歯車機構31の各要素の動きを示す図である。
【0031】
なお、
図5、
図6ではリングギア33とサンギア32の歯数の比を2:1としてある。このようにリングギア33とサンギア32の歯数の比を定めたのは、次の理由による。すなわち、スクロール流体機械11を膨張機として作動させる場合の冷媒体積流量要求値と、スクロール流体機械11をコンプレッサとして作動させる場合の冷媒体積流量要求値とを調べたところ、要求値の比は1:2であった。これより、コンプレッサとして作動させる場合には膨張機として作動させる場合より2倍の回転速度とする必要があるためである。なお、一般的にも冷媒体積流量要求値はコンプレッサとして作動させる場合のほうが膨張機として作動させる場合より多いことが知られている。
【0032】
図5の上段は第1クラッチ41を開放しかつ第2クラッチ42を締結した状態での速度線図である。このときにはエンジン53の動力によってプーリ51が駆動される。第2クラッチ42の締結でプラネタリキャリア35がハウジング36に接続されるため(
図2A参照)、プラネタリキャリア35の回転速度はゼロ[rpm]となる。説明の便宜上、プーリ51はエンジン回転に同期して1000[rpm]で回転しているとする。このとき、サンギア32の回転速度は減速比により増速されて−2000[rpm]となる。2000[rpm]の前の負の符号はサンギア33がプーリ51とは逆転することを示している。
【0033】
図5の中段は第1クラッチ41を締結しかつ第2クラッチ42を開放した状態での速度線図である。なお、
図5の上段との比較のため、プーリ51の回転速度は1000[rpm]であるとする。第1クラッチ41の締結でプラネタリキャリア35がリングギア33に接続されるため(
図2B参照)、リングギア33とプラネタリキャリア35とが同一の回転速度(1000rpm)となる。そのため、サンギア32の回転速度も同一の回転速度(1000rpm)となる。言い換えると、スクロール流体機械11の回転軸21とプーリ51とが直結状態となる。
【0034】
図5の下段は2つのクラッチ41、42を開放した状態での速度線図である。なお、
図5の上段、中段との比較のため、プーリ51の回転速度は1000[rpm]であるとする。このときにはプーリ51とスクロール流体機械11の回転軸21の間のトルク伝達をなくすことができる。なお、サンギア33の回転速度がゼロ[rpm]となるので、この点をプーリ51の1000[rpm]を結んだ線とプラネタリキャリア35の縦線とが一致する点の回転速度でプラネタリキャリア35が回転する。
【0035】
図5の上段ではプーリ51が駆動側であったが、
図5の中段ではスクロール流体機械11が駆動側となる。すなわち、
図5の中段より、スクロール流体機械11を膨張機として作動させて回転軸21を1000[rpm]で正転させれば、プーリ51を同じ1000[rpm]で正転させることができることがわかる。このように、スクロール流体機械11で流体のエネルギを回転エネルギに変換し、その変換した回転エネルギをエンジン53の回転補助として用いるのである。一方、
図5の上段より、エンジン53駆動によりプーリ51を1000[rpm]で正転させれば、回転軸21を2000[rpm]で逆転させることが、つまりスクロール流体機械11をコンプレッサとして用いることができることがわかる。
【0036】
上記のように本実施形態では、リングギア33とサンギア32の歯数比を2倍としたが、本発明はこの場合に限られるものでなく、リングギア33とサンギア32の歯数比を1.5倍から4倍までの間で設定することが可能である。これについて以下に説明する。
【0037】
エンジンが搭載された車で考え、車(あるいは搭載エンジンの排気量)が大きい場合と小さい場合とを比較する。乗員数が同じとすれば要求される空調能力にはほとんど変化がないことから、車が大きいときのコンプレッサの冷媒流量要求値は車が小さいときとほとんど変わらないのに対し、廃熱量は車が大きいほど大きくなるので、廃熱回収量をより増やそうとすれば、車が大きいときの膨張機の冷媒流量要求値は車が小さいときよりも大きくなる。仮に、コンプレッサ膨張機流体機械(の定格)を、車が大きいほど大きくしたとすると、車が大きい場合のコンプレッサの回転速度はそれほど高くする必要はないから相対的に歯数比を小さくする。一方、車が小さい場合のコンプレッサの回転速度は比較的高くする必要があるので、相対的に歯数比を大きくする。そして、実用的な範囲では、車の大きさ、すなわち実用的な搭載エンジンの排気量と、コンプレッサ膨張機流体機械の定格とを勘案し、歯数比の範囲を検討したところ、1.5倍から4倍が適切であることがわかった。
【0038】
図7は本実施形態の流体機械1を組み込んだランキンサイクル61のシステム全体を表した概略構成図である。
図8Aはスクロール流体機械11を膨張機としてとして作動させるときの、
図8Bはスクロール流体機械をコンプレッサとしてとして作動させるときのランキンサイクル61のシステム全体の概略構成図である。ランキンサイクル61は、冷媒ポンプ62、蒸発器63、膨張機としてのスクロール流体機械11、凝縮器(コンデンサ)64を備え、各構成要素は冷媒(R134a等)が循環する冷媒通路71〜74によって接続されている。
【0039】
冷媒ポンプ62の軸は、プーリ51の回転軸52と一体に構成されている(
図1参照)。従って、スクロール流体機械11の発生する出力(動力)によって冷媒ポンプ62を駆動すると共に、その発生動力をベルト伝導装置(51、55、54)を介しエンジン53に伝えてエンジン53の回転をアシストする構成である。
【0040】
冷媒ポンプ62からの冷媒は冷媒通路71を介して蒸発器63に供給される。蒸発器63は高温の媒体と冷媒ポンプ62からの冷媒との間で熱交換を行わせ、冷媒を気化して加熱する熱交換器である。上記高温の媒体としては、エンジンの冷却水を用いることができる。
【0041】
蒸発器63からの冷媒は冷媒通路72を介して膨張機としてのスクロール流体機械11に供給される。膨張機としてのスクロール流体機械11は、気化し過熱された冷媒を膨張させることにより熱を回転エネルギに変換する。膨張機としてのスクロール流体機械11に回収された動力は冷媒ポンプ62を駆動し、ベルト伝導装置を介してエンジン53に伝達され、エンジン53の回転をアシストする。
【0042】
膨張機としてのスクロール流体機械11からの冷媒は冷媒通路73を介して凝縮器64に供給される。凝縮器64は、外気と冷媒との間で熱交換を行わせ、冷媒を冷却し液化する熱交換器である。このため、ファン65によって冷却するようにしている。
【0043】
凝縮器64により液化された冷媒は、冷媒通路74を介して冷媒ポンプ62に戻される。冷媒ポンプ62に戻された冷媒は、冷媒ポンプ62により再び蒸発器63に送られ、ランキンサイクル61の各構成要素を循環する。
【0044】
このようにしてスクロール流体機械11を膨張機として作動させることができる。
【0045】
次に、冷凍サイクル80について述べる。冷凍サイクル80は、ランキンサイクル61を循環する冷媒を共用するため、ランキンサイクル61と統合されている。冷凍サイクル80は、コンプレッサ(圧縮機)としてのスクロール流体機械11、凝縮器64、エバポレータ82を備える。
【0046】
冷媒通路74から分岐して冷媒通路73に合流する第1バイパス通路81を設け、この第1バイパス通路81にエバポレータ82を介装する。また、冷媒通路72から分岐して、第1バイパス通路81の合流部85より下流の冷媒通路73に合流する第2バイパス通路87を設ける。
【0047】
コンプレッサとしてのスクロール流体機械11は、エンジンによって駆動され冷媒を圧縮して高温高圧の冷媒ガスにする。すなわち、エンジン53の駆動力はベルト伝送装置(54、55、51)を介して回転軸21に伝達され、スクロール流体機械11が駆動される。
【0048】
コンプレッサとしてのスクロール流体機械11からの冷媒は、第2バイパス通路87を介して冷媒通路73に合流した後、凝縮器64に供給される。凝縮器64は外気との熱交換によって冷媒を凝縮し液化する熱交換器である。
【0049】
凝縮器64からの液体冷媒は、冷媒通路74から分岐する第1バイパス通路81を介してエバポレータ82に供給される。エバポレータ82は、図示しないヒータコアと同様にエアコンユニットのケース内に配置されている。エバポレータ82は、凝縮器64からの液体冷媒を蒸発させ、そのときの蒸発潜熱によってブロアファンからの空調空気を冷却する熱交換器である。
【0050】
エバポレータ82によって蒸発した冷媒は冷媒通路73を介してコンプレッサとしてのスクロール流体機械11に戻される。なお、エバポレータ82によって冷却された空調空気とヒータコアによって加熱された空調空気は、エアミックスドアの開度に応じて混合比率が変更され、乗員の設定する温度に調節される。
【0051】
第2バイパス通路87の合流部には3つのポートA、B、Cを有する三方弁88を設けておく。三方弁88は流路を切換えるためものである。例えば三方弁88は、非通電状態でポートAとBを連通し、ポートAとCを遮断している。一方、通電状態でポートAとBの連通を遮断しポートAとCを連通する。
【0052】
スクロール流体機械11を膨張機として作動させるときには、
図8Aに矢印で示したように冷媒を循環させる必要がある。このため、冷媒通路73の冷媒が合流部83から第1バイパス通路81へと逆流することを阻止する逆止弁89を第1バイパス通路81に設けておく。
【0053】
一方、スクロール流体機械11をコンプレッサとして作動させるときには、
図8Bに矢印で示したように冷媒を循環させる必要がある。このため、冷媒通路74に冷媒通路74を開閉する開閉弁90を設けておき、スクロール流体機械11をコンプレッサとして作動させるときにはこの開閉弁90を全閉状態として、凝縮器64からの液体冷媒をエバポレータ82に導く。また、スクロール流体機械11を膨張機として作動させるときにはこの開閉弁90を全開状態として凝縮器64からの液体冷媒を冷媒ポンプ62に導く。
【0054】
また、スクロール流体機械11をコンプレッサとして作動させるときに、スクロール流体機械11からの冷媒が蒸発器63へと逆流することを阻止する逆止弁91を冷媒通路72に設けておく。
【0055】
三方弁88、開閉902つのクラッチ41、42及び三方弁88を制御するのはエンジンコントローラ95(クラッチ制御手段)である。ランキンサイクル61を運転する運転域が予め定められているので、エンジンコントローラ95では、運転条件がランキンサイクル運転域にあるか否かをみる。運転条件がランキンサイクル運転域になれば、スクロール流体機械11を膨張機として作動させる場合であると判断する。このときには開閉弁90に全開状態を指示し、第1クラッチ41を開放し、第2クラッチを締結する。三方弁88には通電しない。
【0056】
また、エンジンコントローラ95ではエアコン要求があるか否かをモニターしている。エアコン要求があり、かつエバポレータ82を出る冷媒の温度が上限温度を超えているときにはスクロール流体機械11をコンプレッサとして作動させる場合であると判断する。このときには開閉弁90に全閉状態を指示し、第1クラッチ41を締結し、第2クラッチを開放する。三方弁88には通電する。
【0057】
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
【0058】
本実施形態では、エンジン53のクランク軸に同期して回転するプーリ51(第1の軸)と、一方向に回転するときには冷媒(流体)の有するエネルギを機械的エネルギに変換して回転する膨張機として、他方向に回転するときには冷媒(流体)を加圧して吐出するコンプレッサとしてそれぞれ作動するスクロール流体機械11(コンプレッサ膨張機流体機械)と、このスクロール流体機械11の軸21(コンプレッサ膨張機流体機械に同期して回転する第2の軸)と接続されるサンギア32、プーリ51と接続されるリングギア33、リングギア33とサンギア32とに噛み合い、サンギア32の周囲を回転する複数のプラネタリギア34、このプラネタリギア34の回転軸を支持するプラネタリキャリア35で構成される遊星歯車機構31と、プラネタリキャリア35とリングギア33とを締結・開放する第1クラッチ41と、プラネタリキャリア35とハウジング36とを締結・開放する第2クラッチ42とを備えている。本実施形態によれば、従来装置のようにモータジェネレータが必要なく、簡単な構成で膨張機としての作動とコンプレッサとしての作動とを切換えることができる。
【0059】
また、膨張機として作動させるときに得られる機械的エネルギ(動力)を、従来装置では電力として殆ど回収するのに対して、本実施形態では電極に変換することなくそのままベルト伝導装置(51、55、54)を介してエンジンに伝えてエンジン回転をアシストする。本実施形態によれば、従来装置のように電力から動力への変換時の損失がなく、機械的エネルギでの動力伝達が可能なため効率が良い。従来装置にくらべて同じ膨張機出力であっても燃費効率が高いのである。また、機械的エネルギを電力として回収しないので、容量の大きなバッテリが必要なく、ハイブリッド車で使える技術に限定されず、多機種への展開が可能である。
【0060】
本実施形態によれば、スクロール流体機械11(コンプレッサ膨張機流体機械)を膨張機として作動させる場合に、第1クラッチ41を締結しかつ第2クラッチ42を開放するエンジンコントローラ95(クラッチ制御手段)を備えるので、プラネタリキャリア35とリングギア33とが一体回転することから、プーリ51とスクロール流体機械11とを同一方向に回転させることができる。さらに述べると、スクロール流体機械を膨張機として作動させるときに、従来装置ではモータジェネレータ(発電機)が高速で回転するのに対して、本実施形態では第2クラッチ42の締結でリングギア33をプラネタリキャリア35と一体化させている。本実施形態には不用意に高速回転する箇所がないので、高速回転に伴う効率の低下を招くことがない。
【0061】
本実施形態によれば、スクロール流体機械11(コンプレッサ膨張機流体機械)をコンプレッサとして作動させる場合に、第1クラッチ41を開放しかつ第2クラッチ42を締結するエンジンコントローラ95(クラッチ制御手段)を備えるので、プラネタリキャリア35の回転が停止することから、プーリ51とスクロール流体機械11とを逆方向に回転させることができる。
【0062】
本実施形態によれば、リングギア33とサンギア32の歯数比は1.5倍から4倍であるので、実用的な搭載エンジンの排気量に合わせた歯数比を設定することができる。
【0063】
本実施形態によれば、リングギア33とサンギア32の歯数の比(リングギア歯数÷サンギア歯数)を、スクロール流体機械11(コンプレッサ膨張機流体機械)を膨張機として作動させる場合に膨張機に要求される冷媒体積流量と、スクロール流体機械11をコンプレッサとして作動させる場合にコンプレッサに要求される冷媒体積流量との比に相当する値となるように設定するので、膨張機に要求される冷媒体積流量とコンプレッサに要求される冷媒体積流量とを共に満足させることができる。
【0064】
(第2実施形態)
図9は第2実施形態の流体機械1のスケルトン図、
図10は第2実施形態の流体機械1を組み込んだランキンサイクル61のシステム全体を表した概略構成図である。第1実施形態の
図1、
図7と同一部分には同一番号を付している。
【0065】
第1実施形態では、冷媒ポンプ62の軸がプーリ51の回転軸52と一体に構成されたものであった(
図1参照)。このため、冷媒ポンプ62は、スクロール流体機械11を膨張機として作動させるとき、コンプレッサとして作動させるときのいずれの場合にも駆動される構成であった。しかながら、
図8Bより分かるように、スクロール流体機械11をコンプレッサとして作動させるときには冷媒ポンプ62を実際に作動させることは必要ない。エンジン動力でスクロール流体機械11を駆動するときに、必要ない冷媒ポンプ62までも駆動することは、エンジン動力を無駄に消費することになる。
【0066】
そこで、第2実施形態では、スクロール流体機械11を膨張機として作動させるときに冷媒ポンプ62を駆動し、スクロール流体機械11をコンプレッサとして作動させるときは冷媒ポンプ62の駆動を停止するものである。このため、第2実施形態ではプラネタリキャリア35の回転軸35aにギア101を設ける。このギア101はプラネタリキャリア35と一体動する。そして、このギア101と冷媒ポンプ62を駆動するためのギア102とを噛み合わせ、冷媒ポンプ62を駆動する。冷媒ポンプ62としては例えばギア式のポンプを用いればよい。
【0067】
これによって、スクロール流体機械11を膨張機として作動させるときには第1クラッチ41が締結されるため、プラネタリキャリア35がプーリ51と1:1で回転する(
図5中段参照)。プラネタリキャリア35が回転すれば、プラネタリキャリア35と一体動するギア101、これに噛み合うギア102によって冷媒ポンプ62が駆動される。つまり、スクロール流体機械11を膨張機として作動させるときには冷媒ポンプ62が駆動されるのである。
【0068】
一方、スクロール流体機械11をコンプレッサとして作動させるときには第2クラッチ42が締結されるため、プラネタリキャリア35は回転しない(
図5上段参照)。プラネタリキャリア35が回転しなければ、ギア101、102も回転せず冷媒ポンプ62も駆動されない。つまり、スクロール流体機械11をコンプレッサとして作動作動させるときには冷媒ポンプ62は駆動されないのである。
【0069】
このように、第2実施形態によれば、第1実施形態の流体機械1を含み、液体の冷媒を供給する冷媒ポンプ62と、冷媒ポンプ62から供給される液体の冷媒を加熱して蒸発させる蒸発器63と、蒸発器63で蒸発した冷媒のエネルギを機械的エネルギに変換して回転する膨張機と、前記膨張機から排出される冷媒を凝縮させて液体の冷媒へと戻す凝縮器64とを備えたランキンサイクルであって、冷媒ポンプ62は、流体機械1のプラネタリキャリア35の回転軸によって駆動され、前記膨張機は、流体機械1のコンプレッサ膨張機流体機械11であるので、ランキンサイクル61を運転するときだけ冷媒ポンプ62が駆動することから、ランキンサイクル61を運転しないときにも冷媒ポンプ62を駆動することによるエンジン動力の無駄な消費を抑制できる。
【0070】
(第3実施形態)
図11は第3実施形態の流体機械1のスケルトン図、
図12は第3実施形態の遊星歯車機構31の概略平面図である。
図11において第2実施形態の
図9と同一部分には同一番号を付している。
【0071】
第3実施形態は第2実施形態を前提とするものである。すなわち、第3実施形態においてもスクロール流体機械11を膨張機として作動させるときに冷媒ポンプ62を駆動し、スクロール流体機械11をコンプレッサとして作動させるときは冷媒ポンプ62の駆動を停止する。さらに、第3実施形態は、遊星歯車機構31のうちのプラネタリギア34の全てにワンウェイクラッチ113を設けて、第1クラッチ41を廃止するようにしたものである。
【0072】
ワンウェイクラッチ113は3つのプラネタリギア34全てにに設けるのが通常であるが、場合によっては一部省略して1つのプラネタリギアにのみ設けることにしてもかまわない。この場合には、
図12に示したように、プラネタリギア34の一つ(
図12では上方のギア)を、回転軸111、この回転軸111と軸を同一としつつ回転軸111とは関係なく回動し得る外歯ギア112とに分離して設ける。そして、この外歯ギア112の内周と回転軸111の外周との間にワンウェイクラッチ113を介装する。なお、
図12ではワンウェイクラッチ113を上方のプラネタリギア34に設けているが、これに限られるものでない。
図12で左下や右下にあるプラネタリギア34にワンウェイクラッチ113を設けてもかまわない。
【0073】
ワンウェイクラッチ113は、ハウジング114、ボール115、スプリング116、スプリングリテーナ117で構成されている。ハウジング114は径方向に厚さを有する円弧状に形成され、その外周114aが外歯ギア112の内周に固定され、その内周114bは回転軸11の外周111aを摺動可能である。ハウジング114には内周側に2つの窪みを形成し、各窪みの中にボール115、このボール115を周方向の一方向(
図12で反時計方向)に付勢するスプリング116及びこのスプリング116を保持するスプリングリテーナ114を収納している。
【0074】
いま、
図12においてサンギア32が反時計方向に回転したとき、サンギア32と噛み合う外歯歯車112がワンウェイクラッチ113と共に時計方向に回転する。このとき、ボール115がハウジング114と回転軸111との間に嵌り込んで両者を固定する(ロックする)。このワンウェイクラッチ113のロックで外歯歯車112と回転軸111とが一体で動く。このため、プラネタリキャリア35が反時計方向に回転し、リングギア33も反時計方向に回転する。つまり、
図5中段に示したようにサンギア32、プラネタリキャリア35及びリングギア33が一体に回転する。ワンウェイクラッチ113がロックするときには第2実施形態の第1クラッチ41が締結されたときと同じ働きをするのである。
【0075】
一方、サンギア32が時計方向に回転するときには、ワンウェイクラッチ113においてボール115がスプリング116の付勢力に抗してスプリング116を押し縮める。このときには、ボール115はハウジング114と回転軸111との間を固定しない(ロックしない)。このため外歯歯車112の回転が回転軸111に伝わらず、プラネタリキャリア35は回転しない。つまり、
図5上段に示したようにサンギア32が回転してもプラネタリキャリア35は回転しない。ワンウェイクラッチ113がロックしないときには第2実施形態の第1クラッチ41が開放されたときと同じ働きをするのである。
【0076】
このように、ワンウェイクラッチ113は第2実施形態の第1クラッチ41と同じ働きをするので、第3実施形態では、
図11に示したように第1クラッチの位置にワンウェイクラッチ113を記載している。
【0077】
第3実施形態によれば、第1実施形態の第1クラッチ41は、コンプレッサ膨張機流体機械11を膨張機として作動させるときに、プラネタリキャリア35と、リングギア33及びサンギア32のいずれか一方とを固定するワンウェイクラッチ113で構成されているので、ランキンサイクル61を運転しないときにも冷媒ポンプ62を駆動することによる無駄な動力の消費を抑制できるほか、より簡素な構成とすることができる。
【0078】
(第4実施形態)
図13は第4実施形態の流体機械1のスケルトン図である。第1実施形態の
図1と同一部分には同一番号を付している。第1から第3までの実施形態では、膨張機としての作動とコンプレッサとしての作動とを切換えるため遊星歯車機構31を用いた。一方、第4実施形態は、遊星歯車機構31でない変速機構121を用いて膨張機としての作動とコンプレッサとしての作動とを切換えるものである。
【0079】
図13に示したように、変速機構121を、第1、第2、第3の3つのギア123、124、125を噛み合わせたギア列、第4、第5の2つのギア127、128を噛み合わせたギア列で構成し、これら2つのギア列を対向配置している。第2、第3、第5のギア124、125、128の軸はハウジング36に固定する。ここで、第1〜第3のギア123、124、125は同じ歯数、第4のギア127は第5のギア128よりも歯数を多くする。
【0080】
そして、第1ギア123の軸と第4ギア127の軸とを同じ位置に置き、両ギア123、127の軸を第2クラッチ42で接続する。また、第3ギア125の軸と第5ギア128の軸とを同じ位置に置き、両ギア125、128の軸を第1クラッチ41で接続する。
【0081】
いま、スクロール流体機械11を膨張機として作動させるときには、
図14Aに示したように第2クラッチ42を締結しかつ第1クラッチ41を開放する。このとき、回転軸21とプーリ51とが直結となる。つまり、膨張機としてのスクロール流体機械11によって得られる動力でプーリ51が駆動される。
【0082】
次に、スクロール流体機械11をコンプレッサとして作動させるときには、
図14Bに示したように第2クラッチ42を開放しかつ第1クラッチ41を締結する。このとき、回転軸21はプーリ51によって逆転する。つまり、エンジン動力によってコンプレッサとしてのスクロール流体機械11を駆動することで、冷媒ガスを圧縮して、大気より高温高圧の冷媒ガスにすることができる。回転軸21がプーリ51に対して回転方向が逆転するのみならず、第4のギア127は第5のギア128よりも歯数が多いので、プーリ51の回転を増速させて回転軸21に伝えることができるため、コンプレッサ(スクロール流体機械11)を増速させて回転させることができる。