(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記凝固工程においては、前記成膜基材を回転させながら、前記被凝固層の表面の一部に対して前記凝固液を接触させることを特徴とする、請求項2に記載の研磨パッドの形成方法。
【背景技術】
【0002】
ベアシリコン、半導体デバイス、磁気ディスク基板等は、その表面を平滑にするために研磨加工が施される。かかる研磨加工は、砥粒をアルカリ溶液等に分散させた研磨液(スラリー)を被研磨面に供給しながら、当該被研磨面に対し研磨パッドを押し当てて回転させるものであり、所謂化学機械研磨(CMP)と称されるものである。
【0003】
研磨パッドは、求められる平滑度に応じて種々の材質のものが用いられる。特に最終仕上げ用の研磨パッドにおいては、湿式成膜法により形成されたウレタン樹脂等の弾性材料からなる弾性樹脂シートが用いられることが多い。湿式成膜法とは、樹脂を溶解させた樹脂溶液を成膜基材の一方側の面に塗布し、これを凝固液の槽に浸漬することにより、塗布した樹脂溶液を凝固させるものである。樹脂溶液中の溶媒と凝固液とが置換されることにより樹脂溶液中の樹脂が凝集して再生(凝固)され、弾性樹脂シートが形成される。
【0004】
湿式成膜法により形成された弾性樹脂シートの内部には、弾性樹脂シートの一方側の面から他方側の面に向かって伸びる細長い気泡が複数形成される(下記特許文献1)。当該気泡は、湿式成膜法により樹脂が凝集する過程において形成されるものであり、研磨加工を行う際においては、スラリーを一時的に貯留するための空間として機能する。
【0005】
例えば、回転する研磨パッドの一部に被研磨物が押し当てられると、当該部分における気泡は収縮し、内部に貯留されていたスラリーが被研磨物に向けて排出される。また、被研磨物が他の部分に移動すると、上記気泡は拡大して元の大きさに戻り、その過程でスラリーを内部に貯留する。このように、気泡がスラリーの排出及び貯留を繰り返す(以下、このような動作を「ポンピング」と称することがある)ことで、研磨パッドの研磨面と被研磨物との間には常に所定量のスラリーが循環供給される。その結果、研磨パッドの目詰まりが防止されて研磨レートが向上し、且つ表面品位に優れた研磨を行うことが可能となる。
【0006】
本発明者らは、弾性樹脂シート内の細長い気泡を研磨面に対して略垂直に形成するのではなく、研磨面に対して傾斜するように形成すると、上記ポンピングの効果が更に向上することを見出した。この理由は以下のように推測される。
【0007】
細長く形成された気泡は、研磨面側の先端において開口を有しており、当該開口を通じて上記のようなスラリーの排出及び貯留が行われる。気泡が研磨面に対して傾斜していると、被研磨物が押し当てられて気泡が収縮を開始した時点においては、上記開口は未だ被研磨物によって塞がれていない。すなわち、気泡が収縮を開始するタイミングと、気泡先端の開口が塞がれるタイミングとに時間差が生じる。その結果、スラリーの排出が従来よりもスムーズに行われるためにスラリーの循環供給が促進され、上記ポンピングの効果が向上する。
【0008】
細長い気泡を研磨面に対して傾斜するように形成するための方法としては、湿式成膜法の凝固工程(樹脂を溶解させた樹脂溶液を、凝固液に浸漬して凝固させる工程)において、樹脂溶液が塗布された成膜基材を、凝固液の液面に対して垂直な状態を保ちながらゆっくりと下降させて浸漬してゆく方法が挙げられる。この場合、気泡は、成膜基材とは反対側(研磨面側)の先端が凝固液側(下方)に向かって傾斜するように形成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の方法により形成された気泡は、全て同じ方向に向かって傾斜するように形成される。このため、このような方法で形成された弾性樹脂シートを用いて上面視円形の研磨パッドを作成した場合、気泡の傾斜方向と、当該気泡の位置における周方向とのなす角度が、気泡毎に異なることとなる。
【0011】
すなわち、研磨パッドが回転して研磨を行う際、被研磨物が押し当てられて収縮した後に開口が塞がれるような気泡が存在する一方で、先に開口が塞がれた後で収縮するような気泡も存在する。その結果、上記ポンピングの効果は気泡毎に異なるものとなり、循環供給されるスラリーの量が、研磨パッドの研磨面において局所的に増加又は減少してしまう。このため、研磨ムラが発生してしまう可能性があった。
【0012】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、スラリーを貯留及び排出する機能がそれぞれの気泡において略一様に発揮され、研磨ムラの発生を抑制することができる研磨パッド、及びその形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明に係る研磨パッドは、平面視で円形を成す弾性樹脂シートの一方側の面を研磨面とし、他方側の面を被支持面とする研磨パッドであって、前記弾性樹脂シートの内部には、前記被支持面から前記研磨面に向かって伸びる細長い気泡が複数形成され、それぞれの前記気泡は、
大径部と、前記大径部から前記研磨面に向かって、少なくとも前記研磨面の近傍において、前記研磨面に対して傾斜するように
細長く延びる傾斜部
とを有しており、前記研磨面に対し垂直な方向に沿って見た場合において、前記傾斜部が伸びる方向と、当該傾斜部の位置における前記弾性樹脂シートの周方向とが成す角度を第一角度としたときに、全ての前記気泡は、それぞれの前記第一角度が互いに略同一となるように形成されていることを特徴としている。
【0014】
本発明に係る研磨パッドは弾性樹脂シートを有しており、当該弾性樹脂シートの内部には、被支持面から研磨面に向かって伸びる細長い気泡が複数形成されている。また、それぞれの気泡は、少なくとも研磨面の近傍において、研磨面に対して傾斜するように形成された傾斜部を有している。このような気泡が形成されているため、研磨加工を行う際にはそれぞれの気泡においてスラリーの貯留及び排出が行われ、被研磨面に対するスラリーの循環供給が促される。
【0015】
本発明においては更に、弾性樹脂シートをその研磨面に対し垂直な方向に沿って見た場合において、気泡の傾斜部が伸びる方向と、当該傾斜部の位置における弾性樹脂シートの周方向とが成す角度を第一角度としたときに、全ての気泡は、それぞれの第一角度が互いに略同一となるように形成されている。
【0016】
換言すれば、研磨面に向かって伸びる気泡の傾斜方向と、研磨加工を行う際において当該気泡が被研磨物に対して進行する方向とのなす角度が、全ての気泡について略同一となるように形成されている。このため、被研磨物が押し当てられて気泡が収縮するタイミングと、気泡の開口が被研磨物で塞がれるタイミングとの時間差は、全ての気泡について略同一となる。その結果、スラリーを貯留及び排出する機能はそれぞれの気泡において略一様に発揮されるため、研磨ムラの発生を抑制することができる。
【0017】
上記課題を解決するために本発明に係る研磨パッドの形成方法は、平面視で円形を成す弾性樹脂シートの一方側の面を研磨面とし、他方側の面を被支持面とする研磨パッドの形成方法であって、樹脂を溶解させた樹脂溶液を準備する準備工程と、前記樹脂溶液を、平面視で円形を成す成膜基材の一方側の面に塗布することで、被凝固層を形成する塗布工程と、前記被凝固層の表面に対して凝固液を接触させ、前記被凝固層を凝固させる凝固工程と、を有し、前記凝固工程においては、前記被凝固層の表面のうち前記凝固液と接触している位置が、時間の経過とともに前記被凝固層の半径方向又は周方向に沿って移動することを特徴としている。
【0018】
本発明に係る研磨パッドの形成方法は、準備工程と、塗布工程と、凝固工程とを有している。準備工程は、樹脂を溶解させた樹脂溶液を準備する工程である。塗布工程は、平面視で円形を成す成膜基材の一方側の面に上記樹脂溶液を塗布することで、被凝固層を形成する工程である。当該被凝固層は、後に弾性樹脂シートとなる部分である。凝固工程は、被凝固層の表面に対して凝固液を接触させ、被凝固層を凝固させて弾性樹脂シートと成す工程である。
【0019】
被凝固層が凝固液と接触すると、被凝固層の溶媒が凝固液に向かって排出され、当該部分では樹脂が凝集して再生される。その結果、被凝固層の内部においては、凝固液との接触部分に向かって傾斜するような形状の気泡が形成される。
【0020】
上記凝固工程においては、被凝固層の表面のうち凝固液と接触している位置が、時間の経過とともに被凝固層の半径方向又は周方向に沿って移動するように、被凝固層と凝固液との接触が行われる。このため、弾性樹脂シートの内部に形成された気泡の形状は、弾性樹脂シートの半径方向又は周方向に沿って傾斜することとなる。すなわち、弾性樹脂シートに形成された全ての気泡における上記第一角度が、それぞれ互いに略同一となる。
【0021】
その結果、本発明に係る形成方法により得られる研磨パッドにおいては、被研磨物が押し当てられて気泡が収縮するタイミングと、気泡の開口が被研磨物で塞がれるタイミングとの時間差が、全ての気泡について略同一となる。これにより、スラリーを貯留及び排出する機能がそれぞれの気泡において略一様に発揮されるため、研磨ムラの発生を抑制することができる。
【0022】
また本発明に係る研磨パッドの形成方法では、前記凝固工程においては、前記成膜基材を回転させながら、前記被凝固層の表面の一部に対して前記凝固液を接触させることも好ましい。
【0023】
この好ましい態様では、凝固工程において、成膜基材を回転させながら、被凝固層の表面の一部に対して前記凝固液を接触させる。このため、被凝固層の表面のうち凝固液と接触している位置は、時間の経過とともに弾性樹脂シートの周方向に沿って移動することとなる。その結果、形成された全ての気泡における第一角度が互いに略同一となる弾性樹脂シートを、容易に形成することが可能となる。
【0024】
また本発明に係る研磨パッドの形成方法では、前記凝固工程においては、前記凝固液の液面に対して前記被凝固層を対向させ、前記被凝固層の中央部が突出するように前記成膜基材を変形させた状態で、前記被凝固層を、前記凝固液に対して前記中央部から浸漬させることも好ましい。
【0025】
この好ましい態様では、凝固工程において、凝固液の液面に対して被凝固層を対向させ、被凝固層の中央部が突出するように成膜基材を変形させた状態とする。すなわち、被凝固層が凝固液の液面に対向するように成膜基材を配置した上で、被凝固層の中央部が凝固液に向かって突出した状態とする。
【0026】
この状態で、被凝固層を、凝固液に対して(突出した)中央部から浸漬させる。このため、被凝固層の表面のうち凝固液と接触している位置は、弾性樹脂シートの中央から外周部に向かって円形に拡がりながら移動する。すなわち、時間の経過とともに弾性樹脂シートの半径方向に沿って移動する。その結果、形成された全ての気泡における第一角度が互いに略同一となる弾性樹脂シートを、容易に形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、スラリーを貯留及び排出する機能がそれぞれの気泡において略一様に発揮され、研磨ムラの発生を抑制することができる研磨パッド、及びその形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0030】
まず、本発明の第一実施形態に係る研磨パッド1の構成について、
図1及び
図2を参照しながら説明する。
図1は研磨パッド1の一部を示す断面図であり、
図2は研磨パッドの弾性樹脂シート2に形成された気泡10の配置を示す図である。
図1及び
図2に示したように、研磨パッド1は、平面視で円形を成す弾性樹脂シート2を有している。
【0031】
弾性樹脂シート2の一方側の面は、被研磨物を研磨加工するための研磨面Spとなっている。また、弾性樹脂シート2の他方側の面は、研磨装置に研磨パッド1を取り付けるための被支持面Sfとなっている。本実施形態においては、被支持面Sfにはパッド基材20が接着されている。パッド基材20は、平面視で円形を成すシート状のポリエチレンテレフタレート(以下、PETと表記する)により形成されている。
【0032】
当該パッド基材20のうち被支持面Sfに接する面の反対側には、両面テープ30が貼り付けられている。両面テープ30の剥離紙(不図示)を除去した後で、研磨装置の研磨定盤上に両面テープ30を貼り付けることで、研磨パッド1が研磨装置に取り付けられる。
【0033】
弾性樹脂シート2の材質は、所謂湿式成膜法により形成されたポリウレタン樹脂が発明の目的を一層有効且つ確実に奏する観点から好ましいが、疎水性且つ極性溶媒に可溶の弾性材料であれば、特に限定されない。
【0034】
弾性樹脂シート2の内部には無数の気泡が形成されている。気泡は大小様々な大きさに形成されており、これらが網目状に連通した状態となっている。以下の説明では、これら気泡のうち、被支持面Sfから研磨面Spに向かって伸びるように形成された細長い気泡であって、且つ弾性樹脂シート2の厚さ方向の略全体にわたるように形成された比較的大きな気泡のみに着目し、これらを特に「気泡10」として表記することとする。このような気泡10は、弾性樹脂シート2の内部において多数形成されているが、図示及び説明の便宜上、
図1及び
図2においてはその一部のみを抜粋して描いている。
【0035】
図1に示したように、それぞれの気泡10は、パッド基材20側(被支持面Sf側)の部分において比較的大径に形成された大径部11と、大径部11から研磨面Sp向かって細長く伸びる傾斜部12とを有している。傾斜部12の伸びる方向は、研磨面Spに対して垂直ではなく、研磨面Spに対して傾斜する方向となっている。
【0036】
気泡10は、研磨面Sp側の先端において開口13が形成されている。一方、被支持面Sf側の先端には開口は形成されていない(尚、気泡10と被支持面Sfとの間には微小な気泡が存在しているため、これら微小な気泡を介して気泡10が被支持面Sf側と連通する場合はありうる)。
【0037】
気泡10はこのような形状を有しているため、研磨パッド1により研磨を行う際においては、研磨面Spと被研磨物との間に対しスラリーを循環供給するためのポンプのような機能を発揮する。すなわち、回転する研磨パッド1のうち研磨面Spの一部に被研磨物が押し当てられると、弾性樹脂シート2が変形することにより当該部分における気泡10は収縮し、内部に貯留されていたスラリーが被研磨物に向けて排出される。また、被研磨物が他の部分に(相対的に)移動すると、気泡10は拡大して元の大きさに戻り、その過程でスラリーを内部に貯留する。このように、気泡10がスラリーの排出及び貯留を繰り返す(ポンピングを行う)ことで、研磨パッド1の研磨面Spと被研磨物との間には常に所定量のスラリーが循環供給される。その結果、研磨パッド1の目詰まりが防止されて研磨レートが向上し、且つ表面品位に優れた研磨が行われる。
【0038】
図2に示したように、弾性樹脂シート2を研磨面Spに対し垂直な方向に沿って見た場合において、それぞれの傾斜部12が研磨面Spに向かって延びる方向(
図2において矢印AR1で示した方向)と、当該傾斜部12の位置における弾性樹脂シート2の周方向(
図2において矢印AR2で示した方向)とのなす角度(第一角度)は、全て約180度となっている。尚、弾性樹脂シート2の周方向とは、平面視で円形を成す弾性樹脂シート2が、その円周に沿って回転する方向である。本実施形態においては、弾性樹脂シート2が被研磨物に対して相対的に回転する方向ということもできる。
図2においては、上面視で円形を成す弾性樹脂シート2の中心を回転軸として、右回転する方向が周方向である。
【0039】
本実施形態に係る研磨パッド1は、上記第一角度が全ての気泡10において略同一(約180度)となっているため、以下のような効果を奏する。弾性樹脂シート2が被研磨物に対して相対的に回転すると、被研磨物は気泡10に対して大径部11側から接近することとなる。すなわち、被研磨物は矢印AR2とは反対の方向に向かって相対的に移動し、気泡10に接近することとなる。
【0040】
弾性樹脂シート2は被研磨物が押しつけられることによって変形するため、上記のように被研磨物が接近すると、まず気泡10のうち大径部11が圧縮されてその容積が減少する。このとき、当該気泡10の開口13は未だ被研磨物によって塞がれていない。従って、気泡10の内部に貯留されていたスラリーは、開口13を通じてスムーズに排出され、研磨面Spと被研磨物との間に供給される。
【0041】
その後、被研磨物は更に相対移動して開口13を塞ぐ。その直後、被研磨物が更に相対移動することで開口13は開放され、気泡10は元の大きさに戻る。その際、研磨面Spと被研磨物との間に存在していたスラリーが吸引され、気泡10の内部に再び貯留される。
【0042】
上記のように、気泡10の容積が減少し始めるタイミングと、開口13が塞がれるタイミングとに時間差が存在するため、スラリーの排出及び貯留がスムーズに行われる。当該時間差は、気泡10の傾斜部12が研磨面Spに対して傾斜していることに起因して生じるものである。
【0043】
更に本実施形態においては、第一角度が全ての気泡10について略同一(約180度)となっているため、当該時間差についても全ての気泡10について略同一となっている。その結果、スラリーを貯留及び排出する機能は、それぞれの気泡10において略一様に発揮されるため、研磨ムラの発生を抑制することが可能となっている。
【0044】
尚、気泡10を
図2のように配置する方法としては、例えば、傾斜部12の傾斜方向が一定方向となるように気泡10が形成された弾性樹脂シート2を複数枚用意し、これらを(それぞれ扇形に形成して)並べるという方法も考えられる。しかし、この場合、複数の弾性樹脂シート2を貼り合わせる必要があるため、製造工程が複雑なものとなる。更に、複数の弾性樹脂シート2の境界部分においては、境界部分から研磨パッド1の内部にスラリーが進入することにより両面テープの粘着力が低下し、当該部分において弾性樹脂シート2が剥離してしまう可能性もある。
【0045】
これに対し、本実施形態においては、上面視で円形を成す弾性樹脂シート2が単一のシートとして一体形成されるため、製造工程は比較的単純であり、境界部分において弾性樹脂シート2が剥離してしまう可能性も無い。
【0046】
続いて、研磨パッド1の製造工程について、
図3及び
図4を参照しながら説明する。
図3は研磨パッド1の製造工程の概略を示す工程図であり、
図4は、当該製造工程のうち、特に凝固工程を説明するための模式図である。以下、
図3に示した工程順に説明する。
【0047】
まず準備工程(S1)は、ポリウレタン樹脂を溶解させた樹脂溶液を準備する工程である。具体的には、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒、及び添加剤を混合することにより、ポリウレタン樹脂を溶解させる。
【0048】
有機溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)を用いた。ポリウレタン樹脂は、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等のポリウレタン樹脂から選択される。
【0049】
弾性樹脂シート2の内部に比較的大きな気泡10を形成することに鑑みれば、樹脂溶液はDMFにポリウレタン樹脂を20重量%で溶解させたものとし、その粘度は、B型回転粘度計を使用し25℃で測定した場合において3〜10Pa・sの範囲、好ましくは3〜6Pa・sの範囲とすることが望ましい。
【0050】
添加剤は、弾性樹脂シート2に形成される気泡10の大きさや個数等を制御するために添加されるものであり、カーボンブラック等の顔料、親水性添加剤、疎水性添加剤等を用いることができる。
【0051】
上記のようにして得られた樹脂溶液は、混合直後においては多数の気泡が混入している。従って、次の塗布工程を行う前において真空脱泡を施すことが望ましい。
【0052】
続く塗布工程(S2)は、上記準備工程で得られた樹脂溶液を成膜基材40の一方側の面に塗布し、被凝固層15を形成する工程である。当該被凝固層15は、後に弾性樹脂シート2となる部分である。成膜基材40とは、湿式成膜法によって弾性樹脂シート2を形成する際の土台となるものであって、本実施形態においては、平面視で円形を成すPETフィルムを用いた。当該成膜基材40の平面視における形状は、パッド基材20の形状と同一である。
【0053】
塗布工程では、樹脂溶液をナイフコータ等の塗布装置によって成膜基材40上に略均一に塗布する。本実施形態では、樹脂溶液の塗布厚さ(被凝固層15の厚さ)が0.8〜1.2mmの範囲となるように、ナイフコータの調整を行った。
【0054】
続く凝固工程(S3)は、上記塗布工程で形成された被凝固層15の表面に対して凝固液LQを接触させ、被凝固層15を凝固させて弾性樹脂シート2と成す工程である。凝固液LQとは、樹脂溶液中の溶媒(DMF)よりもポリウレタン樹脂に対して貧溶媒となる液体であって、本実施形態においては水を使用した。尚、ポリウレタン樹脂の凝固速度(再生速度)を調整するために、DMF等の有機溶媒を水に添加したものを凝固液LQとして用いてもよい。凝固液LQの温度は15〜20℃となるように管理した。
【0055】
被凝固層15(樹脂溶液)の表面に対して凝固液LQを接触させると、被凝固層15と凝固液LQとの界面におけるDMFが凝固液LQに向けて拡散し、当該部分における樹脂が再生されて被膜が形成される。その結果、被凝固層15の表面から厚さ数μm程度の範囲には、微細な気泡が多く形成された微多孔構造を有するスキン層が形成される。
【0056】
その後、DMFがスキン層を通じて被凝固層15内から凝固液LQに向けて比較的ゆっくりと拡散し、同時に、凝固液LQがスキン層を通じて被凝固層15内に浸透する。すなわち、DMFと水とが置換されていく。これに伴い、被凝固層15においては、スキン層の近くから成膜基材40側に向かって樹脂の凝集及び再生が進行していく。その凝集速度(再生速度)は、スキン層の近くにおいては速く、スキン層から遠ざかるに従って遅くなる。
【0057】
樹脂の凝集に伴い、被凝固層15の内部には凝固液LQに満たされた状態の気泡が形成されるが、凝集が上記のように進行する結果、当該気泡は成膜基材40側からスキン層側に向かって伸びるように細長く形成される。また、凝集速度の差に起因して、気泡は成膜基材40側では大径となり、スキン層の近くでは細長く形成される。以上のような経過を経て、
図1を参照しながら説明したような、大径部11と傾斜部12と有する細長い気泡10が形成される。
【0058】
図4を参照しながら、凝固工程について更に具体的に説明する。
図4は、凝固工程を行っている途中の状態を模式的に示している。
図4に示したように、一方の面側に被凝固層15が形成された成膜基材40は、当該面の法線方向が水平となるような状態で図示しない保持装置に保持されている。当該保持装置は回転機構を有しており、成膜基材40は、被凝固層15が形成された面の円周に沿って(矢印AR3で示した方向に)等速で回転している。
【0059】
この状態で、凝固液供給装置50から凝固液LQを吐出させ、吐出した当該凝固液LQを被凝固層15の表面に接触させる。凝固液供給装置50は、成膜基材40の半径と略同一の長さであるスリット51が形成された容器であって、内部に蓄えた凝固液LQを、スリット51から外部に吐出する装置である。凝固液供給装置50は、図示しない加圧装置を有しており、スリット51から吐出される凝固液LQの量(単位時間当たりの吐出量)が、当該加圧装置によって制御される。
【0060】
図4に示したように、凝固液供給装置50は、スリット51の一端を成膜基材40の中心位置に配置し、他端を成膜基材40の外周端に配置した状態で、スリット51を被凝固層15の表面に近接させた状態となっている。この状態で、スリット51から凝固液LQが吐出される。単位時間あたりに吐出される凝固液LQの量は、被凝固層15の表面のうちスリット51と対向している部分の全体が、常に凝固液LQに接触している状態が維持される程度の量である。
【0061】
凝固液供給装置50は静止しており、成膜基材40(被凝固層15)は上記のように回転している。このため、被凝固層15の表面のうち凝固液LQと接触している位置は、時間の経過とともに被凝固層15の周方向(矢印AR3とは反対の方向)に沿って移動して行く。
【0062】
被凝固層15の表面のうち、
図4におけるスリット51の近傍且つ上部の部分は、成膜基材40の回転に伴ってこれから凝固液LQに接触する部分である。当該部分においては、凝固液LQとの接触部分に向かって、すなわち下方に向かって樹脂の凝集が進行し始め、その後で凝固液LQと接触する。その結果、被凝固層15のうちスリット51を通過した部分においては、成膜基材40側から被凝固層15の表面に向かって伸びるように気泡10が形成された状態となっている。また、それぞれの気泡10は、表面側の部分が成膜基材40の回転方向(矢印AR3)に沿って傾斜した状態となっている。すなわち、
図1及び
図2を参照しながら説明したような傾斜部12が形成されている。
【0063】
スリット51からの凝固液LQの吐出を開始してから、成膜基材40の回転角度が360度以上となり、被凝固層の表面全体にスキン層が形成された時点で、成膜基材40の回転及びスリット51からの凝固液LQの吐出を停止する。このとき、上記のような気泡10が被凝固層15の全体に形成されており、
図2に示した状態となっている。このとき、凝固液の垂れを防止する観点から、凝固液中に増粘剤(水溶性多糖類、澱粉、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸等)を添加してもよい。
【0064】
続く洗浄・乾燥工程(S4)は、凝固工程により形成された弾性樹脂シート2を洗浄してDMFを除去し、その後乾燥させる工程である。洗浄は、洗浄液(水)が貯留された洗浄槽を用意し、弾性樹脂シート2及び成膜基材40の全体を洗浄液に複数回浸漬させることにより行われる。乾燥は、熱風により加熱乾燥する方式の乾燥機を用いて行われる。
【0065】
続く研削処理工程(S5)は、弾性樹脂シート2の表面側(成膜基材40とは反対側)に研削処理を施し、スキン層表面の凹凸を除去して平坦な研磨面Spを形成する工程である。かかる研削処理によって、弾性樹脂シート2の厚みばらつきが解消されると同時に、各気泡10の先端において開口13が形成される。
【0066】
続く貼り合わせ工程(S6)は、弾性樹脂シート2から成膜基材40を除去した後、弾性樹脂シート2の被支持面Sf(成膜基材40と当接していた面)に接着剤を介してパッド基材20を貼り合わせる工程である。パッド基材20のうち弾性樹脂シート2とは反対側の面には、一方の剥離紙を除去した両面テープ30が貼り付けられる。既に説明したように、両面テープ30は研磨パッド1を研磨装置に取り付けるためのものである。
【0067】
次に、本発明の第二実施形態に係る研磨パッド1aの構成について、
図5を参照しながら説明する。
図5は、研磨パッド1aの弾性樹脂シート2aに形成された気泡10aの配置を示す図である。
図5に示したように、研磨パッド1aは、弾性樹脂シート2aに形成された気泡10aの配置についてのみ研磨パッド1と相違しており、その他については研磨パッド1と同様である。以下の説明においては、当該相違点についてのみ説明することとし、研磨パッド1との共通点については詳細な説明を省略する。また、以下では、研磨パッド1aのうち研磨パッド1の構成(例えばパッド基材20)に対応する部分を、「パッド基材20a」のように「a」の文字を付して表記する。
【0068】
それぞれの気泡10aは、パッド基材20a側(被支持面Sfa側)の部分において比較的大径に形成された大径部11aと、大径部11aから研磨面Spa向かって細長く伸びる傾斜部12aとを有している。傾斜部12aの伸びる方向は、研磨面Spaに対して垂直ではなく、研磨面Spaに対して傾斜する方向となっている。この点に関しては、研磨パッド1の気泡10と同様である。
【0069】
一方、
図5に示したように、弾性樹脂シート2aを研磨面Spaに対し垂直な方向に沿って見た場合において、それぞれの傾斜部12aが研磨面Spaに向かって延びる方向(
図5において矢印AR4で示した方向)と、当該傾斜部12aの位置における弾性樹脂シート2aの周方向(
図5において矢印AR5で示した方向)とのなす角度(第一角度)は、全て約90度となっている。この点で、第一角度が全て180度であった研磨パッド1とは異なっている。
【0070】
本実施形態に係る研磨パッド1aは、第一角度が全ての気泡10aについて略同一(約90度)となっている。その結果、(研磨パッド1と同様の理由により)気泡10aがスラリーを貯留及び排出する機能は、それぞれの気泡10aにおいて略一様に発揮されるため、研磨ムラの発生を抑制することが可能となっている。
【0071】
更に本実施形態においては、
図5に示したように、全ての傾斜部12aが研磨面Spaの中央に向かって延びるように傾斜している。このため、開口13aから排出されるスラリーが研磨面Spaの中央に向かうこととなる結果、被研磨物と研磨面Spaとの間におけるスラリーの保持性能を向上させることができる。
【0072】
続いて、研磨パッド1aの製造工程について説明する。研磨パッド1aは、
図3に示した研磨パッド1の製造工程とほぼ同様の工程を経て製造されるが、その製造工程は、凝固工程の態様においてのみ研磨パッド1の製造工程と異なっている。以下では、研磨パッド1aの製造工程のうち当該凝固工程についてのみ説明することとし、他の工程については既に説明したものと同様であるため、説明を省略する。
【0073】
図6及び
図7を参照しながら説明する。これらは、研磨パッド1aの製造工程のうち凝固工程を説明するための模式図である。まず、
図6(A)に示したように、一方側の面に被凝固層15aが形成された成膜基材40aと、押型60が準備される。押型60は、上面視において成膜基材40aと同一の形状を有する円盤状の部材であって、その一方側の面61が球面の一部を成すように突出しているものである。押型60は、成膜基材40aよりも硬い材質であればよく、例えば金属製のものを用いることができる。
【0074】
その後、
図6(B)に示したように、成膜基材40aのうち被凝固層15aが形成されていない側の面(以下、裏面41aと称する)に対し、押型60の面61を押し付け、成膜基材40aを球面状に変形させる。このとき、裏面41aの略全体が面61に接触した状態となっており、かかる状態のまま押型60と成膜基材40aとが図示しない固定治具で固定される。その結果、被凝固層15aは面61に沿うように変形し、その中央部が成膜基材40a側とは反対側に向けて突出した状態となる。
【0075】
続いて、凝固液LQを貯留した凝固浴70に対して被凝固層15aを浸漬し、凝固させる。このとき、
図7に示したように、押型60と一体となった成膜基材40aは、その外周部分が凝固液LQの液面と略平行であり、且つ被凝固層15aの表面を凝固液LQの液面と対向した状態とされる。かかる状態を保ちながら、成膜基材40aをゆっくりと下降させ、被凝固層15aを凝固液LQに浸漬する。
【0076】
被凝固層15aは中央部が下方に向けて突出した状態となっているため、被凝固層15aの表面は、最初に上面視で円の中心となる部分が凝固液LQに接触する。その後、成膜基材40aが下降するに伴って、被凝固層15aの表面のうち凝固液LQと接触している位置は、被凝固層15aの中心から外周部に向かって円形に拡がりながら移動する。すなわち、時間の経過とともに被凝固層15aの半径方向に沿って移動する。
【0077】
このとき、被凝固層15aの表面のうち、凝固液LQの液面の近傍且つ上部の部分は、成膜基材40aの下降に伴ってこれから凝固液LQに接触する部分である。当該部分においては、凝固液LQとの接触部分に向かって、すなわち、被凝固層15aの中心に向かって樹脂の凝集が進行し始める。その後、成膜基材40aが更に下降するに伴って、上記部分が凝固液LQと接触する。その結果、被凝固層15aのうち凝固液LQの液面を通過した部分においては、成膜基材40a側から被凝固層15aの表面に向かって伸びるように気泡10aが形成された状態となっている。また、それぞれの気泡10aは、表面側の部分が成膜基材40aの中心に向かう方向に沿って傾斜した状態となっている。すなわち、
図5を参照しながら説明したような傾斜部12aが形成されている。
【0078】
被凝固層15aの全体が凝固液LQに浸漬された時点で、成膜基材40の下降を停止する。このとき、上記のような気泡10aが被凝固層15aの全体に形成されており、
図5に示した状態となっている。
【0079】
その結果、このような凝固工程を経て形成された弾性樹脂シート2aにおいては、全ての気泡10aにおける第一角度が、
図5を参照しながら説明したように全て約90度となる。
【0080】
参考までに、本発明の比較例に係る研磨パッド1bの構成について、
図8を参照しながら説明する。
図8は、研磨パッド1bの弾性樹脂シート2bに形成された気泡10bの配置を示す図である。
図8に示したように、研磨パッド1bは、弾性樹脂シート2bに形成された気泡10bの配置についてのみ研磨パッド1と相違しており、その他については研磨パッド1と同様である。以下の説明においては、当該相違点についてのみ説明することとし、研磨パッド1との共通点については詳細な説明を省略する。また、以下では、研磨パッド1bのうち研磨パッド1の構成(例えばパッド基材20)に対応する部分を、「パッド基材20b」のように「b」の文字を付して表記する。
【0081】
それぞれの気泡10bは、パッド基材20b側(被支持面Sfb側)の部分において比較的大径に形成された大径部11bと、大径部11bから研磨面Spb向かって細長く伸びる傾斜部12bとを有している。傾斜部12bの伸びる方向は、研磨面Spbに対して垂直ではなく、研磨面Spbに対して傾斜する方向となっている。この点に関しては、研磨パッド1の気泡10と同様である。
【0082】
一方、
図8に示したように、弾性樹脂シート2bを研磨面Spbに対し垂直な方向に沿って見た場合において、それぞれの傾斜部12bが研磨面Spbに向かって延びる方向(
図8において矢印AR6で示した方向)は、全て同じ方向(
図8においては下方向)となっている。気泡10bがこのように配置された弾性樹脂シート2bは、湿式成膜法の凝固工程において、樹脂溶液が塗布された(被凝固層15bが形成された)成膜基材40bを、凝固浴70に貯留された凝固液LQの水平な液面に対して垂直な状態を保ちながら、ゆっくりと下降させて浸漬してゆくことにより形成することができる。
【0083】
図8を見れば明らかなように、弾性樹脂シート2bにおいては、それぞれの傾斜部12bが研磨面Spbに向かって延びる方向と、当該傾斜部12bの位置における弾性樹脂シート2bの周方向(
図8において矢印AR7で示した方向)とのなす角度(第一角度)が、それぞれの気泡10b毎に異なっている。
【0084】
このため、研磨加工を行う際においては、被研磨物が押し当てられて気泡10bの容積が減少し始めるタイミングと、被研磨物により開口13bが塞がれるタイミングとの時間差が、気泡10b毎に異なるものとなる。その結果、スラリーを貯留及び排出する機能はそれぞれの気泡10bにおいて均等には発揮されない。すなわち、本比較例に係る研磨パッド1bにおいては、研磨ムラが発生してしまう可能性がある。
【0085】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。