特許第5969852号(P5969852)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969852
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】整形装置
(51)【国際特許分類】
   D06F 89/00 20060101AFI20160804BHJP
   A41H 33/00 20060101ALI20160804BHJP
   A41H 43/02 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   D06F89/00
   A41H33/00 Z
   A41H43/02
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-172565(P2012-172565)
(22)【出願日】2012年8月3日
(65)【公開番号】特開2014-30568(P2014-30568A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2015年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094248
【弁理士】
【氏名又は名称】楠本 高義
(74)【代理人】
【識別番号】100129207
【弁理士】
【氏名又は名称】中越 貴宣
(72)【発明者】
【氏名】下地 広之
【審査官】 大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−204790(JP,A)
【文献】 特表平10−511292(JP,A)
【文献】 実開平1−175796(JP,U)
【文献】 特表2005−534348(JP,A)
【文献】 特開2006−75443(JP,A)
【文献】 特開平6−57620(JP,A)
【文献】 特開平7−116373(JP,A)
【文献】 特開2001−271216(JP,A)
【文献】 特開平7−144079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06F 89/00
A41H 33/00、43/00−43/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縁部が画定された素地を支持する底面部材と、
前記底面部材に近接する下面、及び前記下面に隣接し起立した正面を有する保持部材と、
前記保持部材から前記正面の外方へ突出し、前記底面部材に素地の縁部の進入できる隙間を隔てて対面した縁形部材と、
前記隙間に前記正面から負圧を導くことにより吸引力を発生させる吸引手段と、
前記保持部材を素地の縁部に交差する方向に移動させる交差移動手段とを備え、
前記交差移動手段が前記保持部材を移動させる過程で、前記底面部材と前記縁形部材との隙間に進入する素地の縁部に前記吸引力を作用させ、前記隙間に進入する素地の縁部を前記保持部材の正面に突き当てることにより、前記保持部材に素地の縁部を位置決めすることを特徴とする整形装置。
【請求項2】
前記保持部材を前記保持部材の正面に沿う方向に移動させる並行移動手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の整形装置。
【請求項3】
前記交差移動手段による前記保持部材の移動に従わせ、前記保持部材に位置決めされた素地を整形することを特徴とする請求項1又は2に記載の整形装置。
【請求項4】
前記交差移動手段による前記保持部材の移動に従わせ、前記保持部材に位置決めされた素地の縁部をその内方へ押し込むように素地を撓ませることを特徴とする請求項1又は2に記載の整形装置。
【請求項5】
前記縁形部材が透明であることを特徴とする請求項1〜4の何れかの請求項に記載の整形装置。
【請求項6】
前記保持部材に位置決めされた素地の縁部の内方の部位を落とし込む凹状部を、前記底面部材に形成したことを特徴とする請求項1〜5の何れかの請求項に記載の整形装置。
【請求項7】
前記底面部材に支持される素地の縁部に摩擦部材を押し付け、前記底面部材に沿う方向に前記摩擦部材を移動させることにより、前記素地を前記摩擦部材と共に前記底面部材の外方へ移送する移送装置を備えることを特徴とする請求項1〜6の何れかの請求項に記載の整形装置。
【請求項8】
前記保持部材の下面に直交する方向に延びる支軸の周りに、前記保持部材を回動させる傾動手段を備えることを特徴とする請求項1〜7の何れかの請求項に記載の整形装置。
【請求項9】
前記保持部材の下面に、前記正面を限界として延びる複数の溝部、又は吸引孔を形成し、前記複数の溝部、又は吸引孔に負圧を導くことにより前記隙間に吸引力を発生させることを特徴とする請求項1〜8の何れかの請求項に記載の整形装置。
【請求項10】
前記底面部材に複数の吸引孔を開放し、これらの吸引孔に負圧を導くことにより前記底面部材に素地を吸着させることを特徴とする請求項1〜9の何れかの請求項に記載の整形装置。
【請求項11】
前記底面部材に支持される素地が検出エリアに進入し、又は前記検出エリアから退出したことを検出し検出信号を送出する縁部検出手段を備え、前記縁部検出手段が前記検出信号を送出するとき前記保持部材と共に前記保持部材に位置決めされた素地を移動させることを特徴とする請求項1〜10の何れかの請求項に記載の整形装置。
【請求項12】
前記底面部材に支持される素地が検出エリアに進入し、又は前記検出エリアから退出したことを検出し検出信号を送出する縁部検出手段を備え、前記縁部検出手段が前記検出信号を送出するとき前記保持部材と共に前記保持部材に位置決めされた素地を移動させ、
前記並行移動手段が前記保持部材を移動させ、前記保持部材と共に前記保持部材に位置決めされた素地の移動する行程に、前記縁部検出手段を配置したことを特徴とする請求項に記載の整形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟な素地を所望の形状に整形する整形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
糸を用いて素地が縫合された肌着は、その素地の裏にはみ出す糸によって肌着を着る者の皮膚を刺激することがある。そこで、糸に代わる接着剤を用いて複数の素地が次のように接合される。即ち、図27に示すショーツ201の材料となる1枚の素地203を2つに折り返し、この二つ折りの素地203が重なり合う脇部205を接合する場合、素地203の脇部205の内側に熱溶融性の接着剤を予め塗布しておき、ヒーターにより加熱されたプレス型を用いて素地203の脇部205を相互に押し付ける。上記の接着剤がヒーターの熱により溶融した直後、プレス型を素地203から離脱させ、接着剤の硬化するのを待って脇部205の接合が完了する。
【0003】
しかしながら、ショーツ201の材料として好まれる極めて柔軟な薄手の素地203は不用意に撓みやすい。このような素地203を接合する作業は著しく手間取るという問題がある。また、ロボットアームの動作により上記の作業を自動化するには、その対象となる素地203を的確に把持できる位置に、ロボットアームを位置決めし、或いは素地203を受け止めるテーブルの位置をロボットアームに対して調整する必要がある。例えば、カメラに入力される素地203の画像情報に基づきロボットアーム、又はテーブルを動作させる場合、これらにカメラを付加するコストが余計に生じるという問題がある。
【0004】
下記の特許文献は、シャツを袖立に被せ、このシャツを一対の曲面板の熱板によりプレスする技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−141291号公報
【特許文献2】特開2000−70597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の実情に鑑みて為されたものであり、素地の材質によって制限されることなく、その接合の準備を迅速かつ容易に行える整形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、縁部が画定された素地を支持する底面部材と、前記底面部材に近接する下面、及び前記下面に隣接し起立した正面を有する保持部材と、前記保持部材から前記正面の外方へ突出し、前記底面部材に素地の縁部の進入できる隙間を隔てて対面した縁形部材と、前記隙間に前記正面から負圧を導くことにより吸引力を発生させる吸引手段と、前記保持部材を素地の縁部に交差する方向に移動させる交差移動手段とを備え、前記交差移動手段が前記保持部材を移動させる過程で、前記底面部材と前記縁形部材との隙間に進入する素地の縁部に前記吸引力を作用させ、前記隙間に進入する素地の縁部を前記保持部材の正面に突き当てることにより、前記保持部材に素地の縁部を位置決めすることを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、前記保持部材を前記保持部材の正面に沿う方向に移動させる並行移動手段を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、前記交差移動手段による前記保持部材の移動に従わせ、前記保持部材に位置決めされた素地を整形することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、前記交差移動手段による前記保持部材の移動に従わせ、前記保持部材に位置決めされた素地の縁部をその内方へ押し込むように素地を撓ませることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、前記縁形部材が透明であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、前記保持部材に位置決めされた素地の縁部の内方の部位を落とし込む凹状部を、前記底面部材に形成したことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、前記底面部材に支持される素地の縁部に摩擦部材を押し付け、前記底面部材に沿う方向に前記摩擦部材を移動させることにより、前記素地を前記摩擦部材と共に前記底面部材の外方へ移送する移送装置を備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、前記保持部材の下面に直交する方向に延びる支軸の周りに、前記保持部材を回動させる傾動手段を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、前記保持部材の下面に、前記正面を限界として延びる複数の溝部、又が吸引孔を形成し、前記複数の溝部、又は吸引孔に負圧を導くことにより前記隙間に吸引力を発生させることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、前記底面部材に複数の吸引孔を開放し、これらの吸引孔に負圧を導くことにより前記底面部材に素地を吸着させることを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、前記底面部材に支持される素地が検出エリアに進入し、又が前記検出エリアから退出したことを検出し検出信号を送出する縁部検出手段を備え、前記縁部検出手段が前記検出信号を送出するとき前記保持部材と共に前記保持部材に位置決めされた素地を移動させることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、前記底面部材に支持される素地が検出エリアに進入し、又は前記検出エリアから退出したことを検出し検出信号を送出する縁部検出手段を備え、前記縁部検出手段が前記検出信号を送出するとき前記保持部材と共に前記保持部材に位置決めされた素地を移動させ、前記並行移動手段が前記保持部材を移動させ、前記保持部材と共に前記保持部材に位置決めされた素地の移動する行程に、前記縁部検出手段を配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の整形装置は、例えば長手方向の途中で二つ折りにされる素地が幅方向の両端の縁部を有する場合、保持部材に素地の縁部を適所に位置決めし、保持部材に素地の縁部を保持させることができる。この保持部材を動作させることにより、素地の総ての縁部が相互に幅方向で揃うように素地を整形することができる。また、素地の両端の縁部の延びる方向が相互に平行になるように素地を整形することもできる。このように整形された素地が長手方向の途中で二つ折りにされるとき、その縁部同士が正確に重なり合うので、本発明の整形装置によれば、極めて柔軟な薄手の素地を接合する準備を容易に、しかも迅速に行うことができる。
【0020】
更に、本発明の整形装置によれば、保持部材に素地の縁部を的確に保持させるために、保持部材と素地との相対的な位置を調整しなくて良い。このため、素地の縁部の位置を認識するためのカメラ等が不要であり、本発明の整形装置の製造コストを低減するのに有利である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係る整形装置、及びそれに適用した二つ折り接合装置の設置例を示す平面図。
図2】本発明の実施形態に係る整形装置、及びそれに適用した二つ折り接合装置の構成を示すブロック図。
図3】素地の平面図。
図4】(a)は本発明の実施形態に係る整形装置に適用した保持部材の使用例を示す断面図、(b)はその下面図。
図5】本発明の実施形態に係る整形装置に適用した保持部材の支持構造を示す平面図。
図6】(a)は本発明の実施形態に係る整形装置に適用した保持部材の動作の第1例を示す平面図、(b)はその使用例を示す断面図。
図7】本発明の実施形態に係る整形装置に適用した保持部材の動作の第2例を示す平面図。
図8】(a)は本発明の実施形態に係る整形装置に適用した保持部材の動作の第3例を示す平面図、(b)はその第4例を示す平面図。
図9】本発明の実施形態に係る整形装置に適用した移送装置の使用例を示す側面図。
図10】本発明の実施形態に係る整形装置に適用した移送装置の使用例を示す平面図。
図11】本発明の実施形態に係る整形装置の動作の第1例を示す平面図。
図12】本発明の実施形態に係る整形装置の動作の第2例を示す平面図。
図13】本発明の実施形態に係る整形装置による素地の位置決めの第1例を説明する平面図。
図14】本発明の実施形態に係る整形装置による素地の位置決めの第2例を説明する平面図。
図15】本発明の実施形態に係る整形装置に適用した二つ折り接合装置の動作の第1例を示す平面図。
図16】本発明の実施形態に係る整形装置に適用した二つ折り接合装置の動作の第2例を示す平面図。
図17】本発明の実施形態に係る整形装置に適用した二つ折り接合装置の動作の第3例を示す側面図。
図18】本発明の実施形態に係る整形装置に適用した移送装置が素地を移送する行程を説明する平面図。
図19】二つ折りにされた素地の平面図。
図20】本発明の実施形態に係る整形装置の要部の変形例を示す平面図。
図21】本発明の実施形態に係る整形装置による素地の位置決めの第3例を説明する平面図。
図22】本発明の実施形態に係る整形装置による素地の位置決めの第4例を説明する平面図。
図23】本発明の実施形態に係る整形装置による素地の位置決めの第5例を説明する平面図。
図24】本発明の実施形態に係る整形装置による素地の位置決めの第6例を(a),(b)の順に説明する平面図。
図25】本発明の実施形態に係る整形装置に適用した保持部材の使用例を(a),(b)の順に説明する断面図。
図26】(a),(b)は本発明の実施形態に係る整形装置に適用した保持部材の変形例をそれぞれ示す平面図。
図27】ショーツの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係る整形装置2、及び二つ折り接合装置4の要部を示している。整形装置2、及び二つ折り接合装置4の動作は、図2に示す制御装置5が以下に述べるエアシリンダー、又はモーター等の駆動源を制御することにより実現される。これらの詳細な説明、又は図示は省略する。
【0023】
図3は、矢印Lで指した長手方向の一端7と他端9とを有する一枚の素地11を示している。素地11は、一端7から長手方向の途中までの範囲で、矢印Wで指した幅方向の両端に一対の第1縁部13を形成し、他端9から長手方向の途中までの範囲で、幅方向の両端に一対の第2縁部15を形成している。素地11の一対の第1縁部13、及び一対の第2縁部15の少なくとも一方に熱溶融性の接着剤が塗布されている。第1縁部13、及び第2縁部15のそれぞれの位置は、素地11の幅方向に相違している。また、第1縁部13、及び第2縁部15は素地11の長手方向に対して傾斜する方向に延びている。
【0024】
図1,2に示すように整形装置2は、保持部材17、吸引手段22、縁形部材23、交差移動手段26、及び底面部材31を備える。
【0025】
底面部材31は、図1に示すように素地11を支持する平滑なパネル材である。図4(a)は、図1の矢印X1−X1線の断面として保持部材17を表している。図4(a),(b)に示すように、保持部材17は、底面部材31に近接する下面25、及び下面25に隣接し起立した正面21を有し金属製の中空の直方体である。保持部材17の下面25には、一列に並ぶ複数の吸引孔27が開放され、複数の吸引孔27から正面21を限界として延びる複数の溝部29が形成されている。
【0026】
吸引手段22は、図に表れていない方向制御弁を介して、エアブロワー33の吸気口を保持部材17の内部に接続したものである。エアブロワー33の吸気口に発生する負圧が4つの保持部材17の複数の吸引孔27に導かれることにより、素地11の一対の第1縁部13、及び一対の第2縁部15をそれぞれ保持部材17の正面21へ向けて吸引する吸引力が複数の溝部29に発生する。
【0027】
縁形部材23は、保持部材17から正面21の外方へ突出し、底面部材31に素地11の進入できる隙間を隔てて対面した帯状の薄板である。縁形部材23の材質は透明であることが好ましい。これは、保持部材17の上方に設置した光センサー等を用いて、上記の隙間に進入する素地11を監視できるからである。光センサー等を保持部材17の上下に配置しても良い。また、オペレーターは、透明の縁形部材23の上方から生地11を覗くことにより、生地11が隙間に進入しているか否か、ずれてないか等を容易に視認することができる。
【0028】
上記の方向制御弁は、保持部材17とエアブロワー33との間で負圧を遮ることにより吸引孔27の吸引力を適時に断つことができる。ここに述べた吸引力は、吸引孔27、及び溝部29が一つ以上であれば素地11に良好に作用する。以下の説明で吸引孔27と同じ呼称で示した孔には、ここに述べた原理によって素地11を吸引する吸引力が発生し、又はその吸引力が断たれるものとする。
【0029】
交差移動手段26は、図5に示すように、エアシリンダー38のピストンロッド40にブラケット42を接合し、ブラケット42の先端に支軸44を介して接合した支持体46に、保持部材17を取り付けたものである。図5図8(b)は、1つの保持部材17に注目したものであるが、これらの図面に示した保持部材17の支持構造は、図1に示す4つの保持部材17について同様である。
【0030】
符号36は、ピストンロッド40を水平方向に案内するガイドレールを指している。エアシリンダー38は、整形装置2の筐体等に支持されている。支軸44は、保持部材17の下面25に直交する鉛直方向に延びるピンである。ピストンロッド40が図5,6(a)に示すように進退することにより、保持部材17は、素地11の一対の第1縁部13、及び一対の第2縁部15に交差する水平方向に移動する。この方向を図1の矢印f、bが指している。
【0031】
整形装置2は傾動手段50を更に備えることが好ましい。傾動手段50は、ブラケット42にピン接合されたエアシリンダー52のピストンロッド54を、支持体46の支軸44と反対側にピン接合している。エアシリンダー52がピストンロッド54を進退させることにより、保持部材17が、支軸44の周りを図6(a)の矢印αの向きに回動し、図7に示すようにピストンロッド40の進退する方向に直交、又は所望の角度に傾斜した姿勢となる。
【0032】
整形装置2は、図1,2に示すように、縁部検出手段56,58、及び並行移動手段60を更に備えることが好ましい。縁部検出手段56,58は、底面部材31に支持された素地11の有無を検出し検出信号を送出するセンサーである。
【0033】
並行移動手段60は、図5に示すように保持部材17と支持体46との間に介在し、支持体46に固定されたシリンダー62に内装された電動機の出力により、保持部材17に接合したスライダー64をシリンダー62の軸方向に動作させる駆動源である。スライダー64の動作により、保持部材17は、スライダー64の動作に従って、保持部材17の正面21に沿う水平方向に移動する。
【0034】
図1に示すように、底面部材31に複数の吸引孔28を開放しても良い。これらの吸引孔28に吸引手段22の負圧を導くことにより、素地11の一対の第1縁部13、及び一対の第2縁部15よりも内方の部位を底面部材31に吸着させることができる。複数の吸引孔28の中から選択される吸引孔に、縁部検出手段56,58を内装しても良い。この場合、縁部検出手段56,58として、素地11が検出エリアに進入し、又は素地11が検出エリアから退出したことを検出する光センサーを適用しても良い。反射型の光センサーは、生地11の色や柄によってはその一部分を検出しないことがあるので、透過型の光センサーを適用するのが好ましい。
【0035】
図9は、素地11を整形装置2の底面部材31から二つ折り接合装置4に移送する移送装置37の設置例を示している。矢印Y1−Y1線で移送装置37を破断した断面が図10に表れている。移送装置37は、整形装置2、及び二つ折り接合装置4の上方に架設したガイドレール39に案内される4つの滑子41に、エアシリンダー43をそれぞれ取り付け、エアシリンダー43のピストンロッド45に摩擦部材47を連結したものである。図10に表れた4つの摩擦部材47は、滑子41を駆動する駆動源によりエアシリンダー43と共に素地11の長手方向に移動する。
【0036】
次に整形装置2による素地11の整形について説明する。以下の説明は、その中で指示する図面の番号に加え、図2を常に参照して行われる。制御装置5は、コンピューターを主体とし、このコンピューターがアクセスできる記憶媒体に書き込まれたプログラムに基づき整形装置2、移送装置37、及び二つ折り接合装置4の動作を制御する。これらの動作の工程を区分する指標として、以下の文頭に英文字を付している。
【0037】
図1に示す底面部材31には素地11が載せられる。これは手作業によって行われても良く、概ね同図に仮想線で示すように素地11を配置できれば良い。
【0038】
A:交差移動手段26は、4つの保持部材17を素地11から後退させた位置で待機させる。図5に示すように、傾動手段50は、エアシリンダー52のピストンロッド54を後退させ、4つの保持部材17を図1に示す素地11の一対の第1縁部13、及び一対の第2縁部15にそれぞれ平行な姿勢とする。並行移動手段60は、スライダー64をその動作する行程の途中で待機させる。
【0039】
B:整形装置2が保持部材17の吸引孔27に吸引力を発生させる。交差移動手段26が、図1に示す4つの保持部材17を素地11に前進するよう移動させる。この過程で、図6(b)に示すように、素地11の一対の第1縁部13が保持部材17の吸引孔27の吸引力を受けながら縁形部材23と底面部材31との隙間に進入し、保持部材17の正面21に突き当たる。これにより、素地11の一対の第1縁部13は、保持部材17に位置決めされ、吸引孔27の吸引力によって保持部材17に保持される。これは一対の第2縁部15についても同様である。図11は、4つの保持部材17に一対の第1縁部13、及び一対の第2縁部15がそれぞれ位置決めされた素地11を示している。
【0040】
上記Bの工程で、4つの保持部材17が素地11に前進する動作に従って素地11が整形される。即ち、素地11の一対の第1縁部13、及び一対の第2縁部15が素地11の幅方向の内方へ押し込まれた形状となる。
【0041】
C:傾動手段50が4つの保持部材17を矢印αの向きに回動させ、図12に示すように4つの保持部材17を素地11の長手方向に略平行な姿勢にする。これに従って素地11が整形される。即ち、一対の第1縁部13、及び一対の第2縁部15が素地11の長手方向に平行な姿勢になり、一対の第1縁部13、及び一対の第2縁部15のそれぞれの幅方向の位置が相互に合致する。
【0042】
図12に示す素地11の全幅は図11に示した素地11に比較して狭くなっている。これは、上記B,Cの工程で素地11の一対の第1縁部13、及び一対の第2縁部15が素地11の幅方向の内方へ押し込まれる分、素地11の幅方向の内方の部位が撓むことによる。符号35で指した線は、素地11の撓みにより生じた皺を表している。
【0043】
また、上記のように底面部材31に素地11が載せられる位置は必ずしも一定ではない。上記Cの工程が終えたとき、図13,14にそれぞれ仮想線で表したように、素地11が所望の位置から逸れていることがある。この場合、次に述べるDの工程が実行される。また、図13,14は説明の便宜により、保持部材17に位置決めされた素地11が保持部材17と共に移動する行程に、縁部検出手段56,58の両方を配置した例を示しているが、整形装置2は以下の説明で注目する縁部検出手段56,58の何れか一方を備えるものとする。
【0044】
D:本工程の第1例として、図13に仮想線で示す素地11が2つの縁部検出手段56に重なるとき、縁部検出手段56の送出する検出信号に基づき、図8(a)に示す並行移動手段60が保持部材17を矢印sの向きに移動させる。これにより、素地11が図13に実線で示す位置まで移動し、縁部検出手段56の検出信号が絶えることに基づき、並行移動手段60が保持部材17の移動を停止させる。本工程で総ての保持部材17が同じ動作をする。
【0045】
或いは、図13に仮想線で示す素地11が2つの縁部検出手段58から逸れているとき、図8(a)に示す並行移動手段60が保持部材17を矢印sの向きに移動させる。これにより、素地11が図13に実線で示す位置まで移動し、縁部検出手段58の送出する検出信号に基づき、並行移動手段60が保持部材17の移動を停止させる。
【0046】
上記Dの工程の第2例として、図14に仮想線で示す素地11が2つの縁部検出手段56から逸れているとき、図8(a)に示す並行移動手段60が保持部材17を矢印tの向きに移動させる。これにより、素地11が図14に実線で示す位置まで移動し、縁部検出手段56の送出する検出信号に基づき、並行移動手段60が保持部材17の移動を停止させる。
【0047】
或いは、図14に仮想線で示す素地11が2つの縁部検出手段58に重なるとき、縁部検出手段58の送出する検出信号に基づき、図8(a)に示す並行移動手段60が保持部材17を矢印tの向きに移動させる。これにより、素地11が図14に実線で示す位置まで移動し、縁部検出手段58の検出信号が絶えることに基づき、並行移動手段60が保持部材17の移動を停止させる。上記の矢印s,tは素地11の長手方向に一致する。
【0048】
E:整形装置2が底面部材31の吸引孔28に吸引力を発生させ、素地11を底面部材31に吸着させる。これにより素地11は底面部材31に位置決めされる。更に、整形装置2は、保持部材17の吸引孔27を断ち、上記Aの工程を繰り返す。
【0049】
F:移送装置37が、図9,10に示すように、4つの摩擦部材47を素地11の一対の第1縁部13、及び一対の第2縁部15に上方から押し付ける。底面部材31の吸引孔28の吸引力が断たれ、移送装置37が4つの摩擦部材47を二つ折り接合装置4に向けて底面部材31の前方へ移動させる。これにより、摩擦部材47と共に素地11が図15に示す位置まで移送される。二つ折り接合装置4は、本発明を特徴づける要素でないので、その動作についてのみ以下で言及する。
【0050】
G:二つ折り接合装置4が、図16に示すように素地11の一対の第1縁部13をその内方へ折り返す。同図のドットは、本工程で上向きに裏返された素地11の一面117に付されている。図17に示すように、二つ折り接合装置4が可動平面部材83を矢印θの向きに回動させる。これにより素地11を二つ折りにし、図19に示すように一対の第1縁部13と一対の第2縁部15とを互いに上下に重ね合わせることができる。図17に示す支持架材59は、図15,16で省略されているが、固定平面部材57の上方に架設された鋼棒である。
【0051】
上記C、又はDの工程が終えたとき、図18に示すように、素地11の長手方向を二等分する位置が底面部材31の所定の位置に合致する。この所定の位置から上記Fの工程で素地11が移送装置37により移送される行程の長さ[T]は一定である。このため、素地11の移送が完了した段階で、図16に示すように、素地11の一端7から長手方向を二等分する位置までが固定平面部材57に受け止められ、素地11の他端9から長手方向を二等分する位置までが可動平面部材83に受け止められる。この状態で、上記Gの工程が行われるので、互いに上下に重なる一対の第1縁部13と一対の第2縁部15とが正確に合致することになる。
【0052】
H:二つ折り接合装置4が、図17に示すプレス型111を一対の第2縁部15に下向きに押し付ける。これにより、互いに重なり合う一対の第1縁部13と一対の第2縁部15とが、プレス型111と支持架材59との間に強く挟まれる。プレス型111はヒーター等で予め加熱されており、プレス型111が素地11に接触するのと同時に、素地11に塗布された接着剤がヒーター等の熱によって溶融する。続いて、二つ折り接合装置4が素地11からプレス型111を離脱させる。これにより接着剤の温度が下がり、接着剤が硬化した時点で一対の第1縁部13と一対の第2縁部15との接合が完了する。
【0053】
以上に述べた整形装置2によれば、素地11が極めて柔軟な薄手の材料であっても、このような素地11を接合する準備を容易に、しかも迅速に行うことができる。即ち、整形装置2は、素地11の一対の第1縁部13と一対の第2縁部15のそれぞれの位置を相互に素地11の幅方向で揃え、しかも一対の第1縁部13と一対の第2縁部15のそれぞれの延びる方向を相互に平行になるように素地11を整形することができる。このように整形された素地11を二つ折り接合装置4が二つ折りにするだけで、その一対の第1縁部13と一対の第2縁部15とを正確に重ね合わせることができる。また、整形装置2は、二つ折り接合装置4の動作を簡潔にすることに貢献する。
【0054】
更に、整形装置2によれば、上記Bの工程で素地11の一対の第1縁部13と一対の第2縁部15をそれぞれ4つの保持部材17に位置決めできるので、保持部材17が素地11の一対の第1縁部13と一対の第2縁部15を的確に保持できるように、素地11と保持部材17との相対的な位置を調整する手間を省略できる。このため、素地11の一対の第1縁部13と一対の第2縁部15のそれぞれ位置を認識するためのカメラ等が不要であり、整形装置2の製造コストを低減するのに有利である。
【0055】
尚、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々なる改良、修正、又は変形を加えた態様でも実施することができる。素地11はフィルムや紙等であっても良く、その材質は限定されない。保持部材17の溝部29を省略し、保持部材17の正面21に吸引孔27を開放しても良い。
【0056】
図20に示すように、底面部材31に凹状部32を形成し、上記B,Cの工程で素地11の一対の第1縁部13、及び一対の第2縁部15の内方の部位が凹状部32に落とし込まれるようにしても良い。これは素地11に皺が生じるのを抑える利点がある。凹状部32は開口、切欠、又は溝等であっても良い。
【0057】
図21,22に示すように、素地11の第1縁部13、及び第2縁部15のそれぞれの全長よりも少し長い距離を互いに隔てた複数の吸引孔28に、縁部検出手段56,58をそれぞれ内装しても良い。
【0058】
上記Dの工程の第3例として、図21に仮想線で示す素地11が4つの縁部検出手段56に重なるとき、縁部検出手段56から送出される検出信号に基づき、4つの保持部材17が矢印sの向きに移動する。これにより、素地11が実線で示す位置まで移動し、縁部検出手段56の検出信号が絶えることに基づき、4つの保持部材17の移動が停止する。
【0059】
上記Dの工程の第4例として、図22に仮想線で示す素地11が4つの縁部検出手段58に重なるとき、縁部検出手段58から送出される検出信号に基づき、4つの保持部材17が矢印tの向きに移動する。これにより、素地11が実線で示す位置まで移動し、縁部検出手段58の検出信号が絶えることに基づき、保持部材17の移動が停止する。
【0060】
上記Dの第5例として、図23に示す4つの縁部検出手段56,58に素地11が重なるとき、縁部検出手段56,58から送出される検出信号に基づき、一対の第1縁部13を保持する2つの保持部材17が矢印sの向きに移動し、一対の第2縁部15を保持する2つの保持部材17が矢印tの向きに移動する。これにより、素地11の一端7から長手方向の途中までの部位と、素地11の他端9から長手方向の途中までの部位とがそれぞれ実線で示す位置まで移動し、素地11の長手方向の中央付近に撓みが生じる。この状態で、縁部検出手段56,58の検出信号が絶えることに基づき、4つの保持部材17の移動が停止する。符号35で指した線は、素地11の長手方向の中央付近が撓むことにより生じた皺を表している。
【0061】
また、図1に示す底面部材31の吸引孔28を省略し、上記Eの工程で、素地11と底面部材31との摩擦力にのみ依存して、素地11の一対の第1縁部13と一対の第2縁部15のそれぞれの内方の部位が底面部材31に対して静止を保つようにしても良い。素地11の外形が例えば長方形であれば、その縁部の傾斜を調整する必要はなく、傾動手段50を省略しても良い。底面部材31に素地11を載せる作業をするときに、素地11を底面部材31に位置決めする治具等を使用し、並行移動手段60を省略しても良い。
【0062】
整形装置2は一つ以上の保持部材17を備えれば良い。例えば、一つの保持部材17を図24(a)に示す方形の素地12の一辺の縁部16に前進させ、保持部材17の正面21に縁部16を突き当てる。これにより保持部材17に保持される素地12を、保持部材17と共に移動させ、同図(b)に仮想線で表した一対の三角形18の間を跨ぐ位置に縁部16が達したところで、保持部材17の移動を停止させても良い。
【0063】
上記Bの工程で素地11が整形されるとき、4つの保持部材17の動作に従って素地11の一対の第1縁部13、及び一対の第2縁部15が素地11の幅方向の内方へ押し込まれると記したが、素地がその外方に引っ張られても良い。例えば、図25(a)に示すように、適当に撓んだ素地12の縁部16を保持部材17に保持させた後、保持部材17を素地12の縁部16の外方へ矢印sの向きに移動させる。これにより同図(b)に示すように素地12が緊張したところで、保持部材17の移動を停止させても良い。
【0064】
また、素地の縁部の形状は特に限定されない。例えば素地12の縁部18の形状に合わせて保持部材17を図26(a),(b)に示すような屈曲した形状に変更しても良い。この場合、素地の有無を検出するセンサーの個数、及び位置を適宜変更しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、衣料品の製造に限らず、あらゆるシート状の可撓材料を整形するのに有益な技術である。
【符号の説明】
【0066】
2...整形装置、4...二つ折り接合装置、5...制御装置、7...一端、9...他端、11,12,203...素地、13...第1縁部、15...第2縁部、16,18...縁部、17...保持部材、18...三角形、21...正面、22...吸引手段、23...縁形部材、25...下面、26...交差移動手段、27,28...吸引孔、29...溝部、31...底面部材、32...凹状部、33...エアブロワー、35...線、37...移送装置、38,43,52...エアシリンダー、40,45,54...ピストンロッド、41...滑子、42...ブラケット、44...支軸、46...支持体、47...摩擦部材、36,39...ガイドレール、50...傾動手段、57...固定平面部材、56,58...縁部検出手段、59...支持架材、60...並行移動手段、62...シリンダー、64...スライダー、83...可動平面部材、111...プレス型、117...一面、201...ショーツ、205...脇部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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