特許第5969857号(P5969857)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969857
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】誘導加熱式金型装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/10 20060101AFI20160804BHJP
   H05B 6/44 20060101ALI20160804BHJP
   H05B 6/04 20060101ALI20160804BHJP
   B29C 33/08 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   H05B6/10 331
   H05B6/44
   H05B6/04 301
   B29C33/08
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-178912(P2012-178912)
(22)【出願日】2012年8月10日
(65)【公開番号】特開2014-38710(P2014-38710A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2015年7月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110158
【氏名又は名称】トクデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100113468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】外村 徹
(72)【発明者】
【氏名】藤本 泰広
【審査官】 宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0303194(US,A1)
【文献】 特開昭61−290014(JP,A)
【文献】 特開昭63−095919(JP,A)
【文献】 特開2003−303670(JP,A)
【文献】 実開平03−074496(JP,U)
【文献】 特開平09−024322(JP,A)
【文献】 特開2002−115977(JP,A)
【文献】 特開2005−288584(JP,A)
【文献】 特開2012−040847(JP,A)
【文献】 特開平11−309723(JP,A)
【文献】 特開昭62−055891(JP,A)
【文献】 特開2010−285308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/10
B29C 33/08
H05B 6/04
H05B 6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物が収容される金型と、
50Hz〜1000Hzの交流電圧が印加されて前記金型を誘導加熱するための誘導コイルと、
一方面に前記金型が取り付けられるとともに他方面側に前記誘導コイルが配置されており、気液二相の熱媒体が封入されたジャケット室を有し、前記被加工物を加圧すべく前記金型に力を加える非磁性体からなる押圧プレートとを具備し、
前記押圧プレートにおける前記誘導コイルに対向する面に短絡防止用スリットが形成されている誘導加熱式金型装置。
【請求項2】
前記誘導コイルを収容するためのコイル収容部を有するコイル保持部材を備え、
前記押圧プレートが、前記コイル保持部材に取り付けられて、前記誘導コイルが収容されたコイル収容部を閉塞するものである請求項1記載の誘導加熱式金型装置。
【請求項3】
前記押圧プレートの他方面側に複数の誘導コイルが配置されており、
前記ジャケット室が、前記複数の誘導コイルを含む範囲に亘って形成されている請求項1又は2記載の誘導加熱式金型装置。
【請求項4】
前記金型が、対をなす第1金型及び第2金型からなり、
前記誘導コイル及び前記押圧プレートが、前記第1金型及び前記第2金型それぞれに設けられている請求項1乃至3の何れかに記載の誘導加熱式金型装置。
【請求項5】
前記押圧プレートに、冷却用流体が流れる冷却用流路が形成されている請求項1乃至の何れかに記載の誘導加熱式金型装置。
【請求項6】
前記コイル保持部材が磁性体からなるものであり、
前記コイル収容部の内面に短絡防止用スリットが形成されている請求項2記載の誘導加熱式金型装置。
【請求項7】
前記誘導コイルの中心部に磁路用鉄心が設けられており、
前記誘導コイル及び前記コイル収容部の間に磁路形成体が設けられている請求項2記載の誘導加熱式金型装置。
【請求項8】
前記金型が、対をなす第1金型及び第2金型からなり、
前記第1金型又は前記第2金型の少なくとも一方が非磁性体金型であり、
前記第1金型及び前記第2金型に導電性を有する被加工物を収容して、前記非磁性体金型側の誘導コイルにより、前記非磁性体金型及び前記被加工物の両方を誘導加熱するものである請求項1乃至の何れかに記載の誘導加熱式金型装置。
【請求項9】
前記金型が磁性体金型であり、
前記磁性体金型における前記誘導コイルを向く面に非磁性体金属が密着して設けられている請求項1乃至の何れかに記載の誘導加熱式金型装置。
【請求項10】
前記金型が、対をなす第1金型及び第2金型からなり、
前記第1金型又は前記第2金型の一方に、前記誘導コイルが設けられており、
前記誘導コイルが設けられた側の金型が非磁性体金型であり、もう一方の金型が磁性体金型である請求項1又は2記載の誘導加熱式金型装置。
【請求項11】
前記金型の外側周面の周囲に外部誘導コイルが配置されている請求項1乃至10の何れかに記載の誘導加熱式金型装置。
【請求項12】
被加工物が収容される金型と、
前記金型を誘導加熱するための誘導コイルと、
前記誘導コイルに交流電圧を印加する交流電源と、
一方面に前記金型が取り付けられとともに他方面側に前記誘導コイルが配置されており、気液二相の熱媒体が封入されたジャケット室を有し、前記被加工物を加圧すべく前記金型に力を加える非磁性体からなる押圧プレートとを具備し、
前記交流電源が、3組の単相変圧器の1次巻線をY結線するとともに、2次巻線をΔ結線して、そのΔ結線の一端を開放して、この開放部から高調波成分を取り出すように構成された変圧器方式の3N(Nは1以上の奇数である。)倍周波数発生装置である誘導加熱式金型装置。
【請求項13】
被加工物が収容される金型と、
前記金型を誘導加熱するための誘導コイルと、
前記誘導コイルに交流電圧を印加する交流電源と、
一方面に前記金型が取り付けられとともに他方面側に前記誘導コイルが配置されており、気液二相の熱媒体が封入されたジャケット室を有し、前記被加工物を加圧すべく前記金型に力を加える非磁性体からなる押圧プレートとを具備し、
前記押圧プレートに、冷却用流体が流れる冷却用流路が形成されていることを特徴とする誘導加熱式金型装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱方式を用いた金型装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、誘導加熱方式を用いて金型を加熱する金型装置としては、特許文献1に示すように、金型内部に誘導コイルが埋設されたものが考えられている。
【0003】
しかしながら、金型内部に誘導コイルを埋設したものでは、金型を交換する場合に誘導コイルも併せて交換する必要があり、金型の交換作業に加えて、誘導コイルの配線作業も必要となってしまい、作業が煩雑となってしまうという問題がある。
【0004】
また、単に金型内部に誘導コイルを埋設する又は金型の外部に誘導コイルを配置するだけでは、金型に温度ムラが生じてしまい、被加工物を均一に加熱することができないという問題がある。
【0005】
さらに、高周波誘導加熱によって金型を加熱する場合、高周波になるに従って電力損失が多くなってしまうため、エネルギー効率が悪いという問題もある。また、高周波電源は、インバータを必要とするため、電源コストが大きくなってしまうという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−40847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、50Hz〜1000Hzの中周波電源を用いたものであり、共通の誘導加熱機構へ種々の金型の着脱を容易にし、金型の昇温速度を速くしつつ、金型の温度を均一化するとともに、被加工物の加圧を確保できるようにすることをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明に係る誘導加熱式金型装置は、被加工物が収容される金型と、50Hz〜1000Hzの交流電圧が印加されて前記金型を誘導加熱するための誘導コイルと、一方面に前記金型が取り付けられとともに他方面側に前記誘導コイルが配置されており、気液二相の熱媒体が封入されたジャケット室を有し、前記被加工物を加圧すべく前記金型に力を加える非磁性体からなる押圧プレートとを具備することを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、金型を50Hz〜1000Hzの中周波の交流電圧により誘導加熱するので、高周波電源を用いた場合に比べて電源コストを小さくことができる。つまり、50Hz〜1000Hzの中周波の交流電圧は、変圧器の結線によって簡単に生成できるため、インバータを要する高周波に比べて大幅な低コストの電源とすることができる。
また、誘導コイルにより発生した磁束を金型に通して金型を直接加熱する構成であるので、金型に対して外部熱源から熱を加える構成と比べて、押圧プレートに対する金型の固定構造を簡略化することができ、押圧プレートに対する金型の脱着作業を簡単化することができる。
さらに、金型を押圧プレートに取り付けて、当該押圧プレートにより金型を押圧しているので、金型を薄くして、金型の昇温速度を速くすることができる。ここで、従来の金型を用いて被加工物を加圧するものにおいて、単に金型を薄くすると、被加工物を加圧する際に金型が変形して、被加工物の加圧が不十分となってしまう恐れがある。一方、本発明では、押圧プレートによって金型を押圧しているので、金型の変形を抑えて被加工物の加圧を確実に行うことができる。
その上、押圧プレートに気液二相の熱媒体が封入されたジャケット室が設けられているので、金型を押圧する押圧プレートを用いて金型の温度を均一化することができる。
【0010】
前記誘導コイルを収容するためのコイル収容部を有するコイル保持部材を備え、前記押圧プレートが、前記コイル保持部材に取り付けられて、前記誘導コイルが収容されたコイル収容部を閉塞するものであることが望ましい。
これならば、コイル保持部材に押圧プレートを取り付けることにより、押圧プレート及び誘導コイルを一体構造とすることができ、誘導加熱機構をユニット化することができる。そして、この押圧プレートに対して金型を着脱させることによって、誘導加熱機構に汎用性を持たせることができる。また、装置の取り扱いを容易にすることができる。
【0011】
前記コイル保持部材が磁性体からなるものであり、前記コイル収容部の内面に短絡防止用スリットが形成されていることが望ましい。
これならば、誘導コイルにより発生した磁束を誘導コイル回りに効率良く循環させることができ、金型に磁束を効率良く導入することができる。また、コイル収容部の内面に短絡防止用スリットが形成されているので、コイル保持部材の発熱を防ぎ、当該コイル保持部材の発熱に伴う誘導コイルの発熱を抑えることができる。なお、短絡防止用スリットのスリット深さは、電流浸透深さ以上とすることが望ましい。
【0012】
前記金型が、対をなす第1金型及び第2金型からなり、前記誘導コイル及び前記押圧プレートが、前記第1金型及び前記第2金型それぞれに設けられていることが望ましい。
これならば、被加工物を覆う第1金型及び第2金型それぞれに誘導コイル及び押圧プレートが設けられているので、被加工物を全体に均一に加熱できるようになり、また被加工物全体を均一に加圧できるようになる。
【0013】
前記誘導コイルの中心部に磁路用鉄心が設けられており、前記誘導コイル及び前記コイル収容部の間に磁路形成体が設けられていることが望ましい。ここで、磁路形成体としては、誘導コイルの周囲に設けられた鉄心又は短絡防止用スリットが形成された磁性体カバー等が考えられる。
これならば、コイル保持部が磁性体でなくても、誘導コイルにより発生した磁束を効率良く循環させることができ、金型に磁束を効率良く導入することができる。
【0014】
前記押圧プレートにおける前記誘導コイルに対向する面に短絡防止用スリットが形成されていることが望ましい。
これならば、押圧プレートに生じる短絡電流を低減して押圧プレートの発熱を低減し、金型の発熱比を増加させることができる。
【0015】
前記押圧プレートに、冷却用流体が流れる冷却用流路が形成されていることが望ましい。
これならば、押圧プレートに取り付けられた金型の冷却速度を速くすることができる。これにより、使用後において例えば金型を押圧プレートから外すまでの冷却時間を短縮することができる。
【0016】
前記金型が、対をなす第1金型及び第2金型からなり、前記第1金型又は前記第2金型の少なくとも一方が非磁性体金型であり、前記第1金型及び前記第2金型に導電性を有する被加工物を収容して、前記非磁性体金型側の誘導コイルにより、前記非磁性体金型及び前記被加工物の両方を誘導加熱するものであることが望ましい。ここで導電性を有する被加工物としては、例えば、カーボンファイバー等の炭素繊維を基材として熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を有する複合材等である。
これならば、非磁性体金型側の誘導コイルにより発生した磁束は非磁性体金型を貫通するので、非磁性体金型を加熱することができる。非磁性体金型側の誘導コイルにより発生した磁束は、非磁性体金型を貫通した後に導電性を有する被加工物の内部を通過するので、被加工物を加熱することができる。これにより、非磁性体金型側の誘導コイルにより、非磁性体金型及び被加工物の両方を直接加熱することができる。
【0017】
前記金型が磁性体金型であり、前記磁性体金型における前記誘導コイルを向く面に非磁性体金属が密着して設けられていることが望ましい。
これならば、非磁性体金属に短絡電流を流すことによって金型発熱量の増大を図ることができる。
【0018】
前記金型が、対をなす第1金型及び第2金型からなり、前記第1金型又は前記第2金型の一方に、前記誘導コイルが設けられており、前記誘導コイルが設けられた側の金型が非磁性体金型であり、もう一方の金型が磁性体金型であることが望ましい。
これならば、非磁性体金型及び磁性体金型の間に被加工物を挟み、非磁性体金型に対して磁性体金型とは反対側に誘導コイルを設けて、誘導コイルにより発生した磁束が、非磁性体金型を貫通する構成としているので、非磁性体金型を加熱することができる。また、誘導コイルにより発生した磁束は、非磁性体金型を貫通した後に磁性体金型の内部を通過するので、磁性体金型を加熱することができる。これにより、被加工物を非磁性体金型及び磁性体金型により加熱することができる。さらに、非磁性体金型側に誘導コイルを設けるだけで良いので装置の構成を簡略化して大型化することも無く、被加工物の出し入れが容易となる。その上、誘導加熱により非磁性体金型及び磁性体金型を加熱することから加熱効率に優れている。
【0019】
ここで、誘導コイルに印加する交流電圧の周波数を50Hz未満の低周波とした場合、磁性体金型が加熱されにくく、また、磁性体金型の磁束密度が高くなり過ぎて飽和してしまう。一方、前記周波数を1000Hzを超える高周波とした場合、非磁性体金型が加熱されすぎて磁性体金型よりも温度が高くなり過ぎてしまう。
このため、前記誘導コイルに印加する交流電圧の周波数を50Hz〜1000Hzの範囲で変化させて、非磁性体金型と磁性体金型との発熱比を調整することが望ましい。
【0020】
また、非磁性体金型は、電流浸透度が高く、内外面ともに加熱される。一方、磁性体金型は、周波数500Hz、温度300℃において2mm程度の電流浸透度であり、被加工物に接触する内面が加熱されるため、被加工物の加工には効率が良い。
【0021】
また、前記誘導コイルに交流電圧を印加する電源が、変圧器方式の3N(Nは1以上の奇数である。)倍周波数発生装置であることが望ましい。
ここで、3N倍周波数発生装置は、商用電源周波数が50Hzの場合には、150Hz、450Hz、750Hzの中周波を出力し、商用電源周波数が60Hzの場合には、180Hz、540Hz、900Hzの中周波を出力する。なお、汎用インバータを用いることが考えられるが、汎用インバータは一般的に出力電圧をV、出力周波数をFとすると、V/F=一定で変化するように構成されている。このため、負荷温度を出力の増減で制御すると、電圧の変化に伴って周波数も常に変化することとなり、非磁性体金型及び磁性体金型は周波数の変化に伴って振動が激しくなる。一方、変圧器方式の3N倍周波数発生装置では、常に周波数が一定で、出力電圧のみを変化させる制御方式であり、非磁性体金型及び磁性体金型の周波数変動による振動が少なく、加工に悪影響を与えることが少ない。
【0022】
前記金型の外側周面の周囲に外部誘導コイルが配置されていることが望ましい。
これならば、金型の側壁を加熱することができ、被加工物全体をより一層均一に加熱することができる。
【発明の効果】
【0023】
このように構成した本発明によれば、金型の昇温速度を速くしつつ、金型の温度を均一化するとともに、被加工物の加圧を確保できるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施形態の誘導加熱式金型装置の断面図。
図2】同実施形態の第1金型及び第2金型の平面図。
図3】同実施形態の第1金型及びその周辺構造の部分拡大断面図。
図4】同実施形態の磁性カバーのスリットを示す平面図。
図5】同実施形態の第1、第2押圧プレートの平面図。
図6】変形実施形態の第1金型及びその周辺構造の部分拡大断面図。
図7】変形実施形態の押圧プレートの変形例を示す部分断面図。
図8】変形実施形態の第1金型及びその周辺構造の部分拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明に係る誘導加熱式金型装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0026】
本実施形態に係る誘導加熱式金型装置100は、被加工物Wを加圧加熱成型するための金型装置であり、金型を周波数50Hz〜1000Hzの中周波で誘導加熱するものである。なお、被加工物Wとしては、例えばカーボンファイバー等の炭素繊維を基材として熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を有する複合材(炭素繊維強化プラスチック(CFRP))である。
【0027】
具体的にこの誘導加熱式金型装置100は、図1に示すように、被加工物Wが収容される対をなす第1金型21(下金型)及び第2金型22(上金型)と、第1金型21を誘導加熱するための複数の第1誘導コイル31と、第2金型22を誘導加熱するための複数の第2誘導コイル32と、前記第1金型21及び第1誘導コイル31の間に設けられて第1金型21に加圧成型のための力を加える第1押圧プレート41と、前記第2金型22及び第2誘導コイル32の間に設けられて第2金型22に加圧成型のための力を加える第2押圧プレート42とを備えている。
【0028】
本実施形態の第1金型21及び第2金型22は、例えば鉄(SS)等の磁性体金属からなる磁性体金型であり、第1金型21及び第2金型22は、平板状をなす被加工物Wを加圧加熱成型するものである。つまり、第1金型21及び第2金型22の加工面(型面)が平面となるように構成されており、本実施形態では、図2に示すように、長手方向(幅方向)に延びた平面視概略長方形状をなすものである。なお、第1金型21及び第2金型22の加工面(型面)は、被加工物Wの成形形状に応じて種々の形状とでき、後述するコイル保持部材51、52、誘導コイル31、32、及び押圧プレート41、42も金型21、22の形状に合わせて種々の形状とすることができる。例えば、自動車のバンパーやボンネット等のボディ構成部品を成型する場合には、第1金型21及び第2金型22の加工面(及び当該加工面を有する壁)が湾曲形状をなすものとすることが考えられるが、この場合には、保持部材51、52、誘導コイル31、32、及び押圧プレート41、42も金型21、22の形状に合わせて概略湾曲形状等にすることが考えられる。
【0029】
第1誘導コイル31及び第2誘導コイル32は、概略円環状をなすものであり、図示しない交流電源により、周波数50Hz〜1000Hzの交流電圧を印加される。なお、交流電源は、変圧器方式の3N(Nは1以上の奇数である。)倍周波数発生装置により構成されている。この3N倍周波数発生装置の構成としては、例えば、3組の単相変圧器の1次巻線をY結線するとともに、2次巻線をΔ結線して、そのΔ結線の一端を開放して、この開放部から高調波成分を取り出すものが考えられる。
【0030】
また、第1誘導コイル31及び第2誘導コイル32はそれぞれ第1コイル保持部材51及び第2コイル保持部材52により保持されている。これらコイル保持部材51、52は、図1及び図3に示すように、各誘導コイル31、32が収容されるコイル収容部5aを有している。コイル収容部5aは、誘導コイル31、32の外径形状と略同一の開口形状を有するものであり、本実施形態では、第1誘導コイル31及び第2誘導コイル32が概略円形状をなすものであることから、概略円形状の開口形状とされている。なお、複数の第1誘導コイル31は互いに同一形状をなすコイルであり、複数の第2誘導コイル32は同一形状をなすコイルである。
【0031】
また、コイル保持部材51、52には、複数の誘導コイル31、32に対応して複数のコイル収容部5aが形成されている。つまり、第1コイル保持部材51は、複数の第1誘導コイル31を一体に保持するものであり、第2コイル保持部材52は、複数の第2誘導コイル32を一体の保持するものである。各コイル保持部材51、52において、複数のコイル収容部5aは、金型21、22の長手方向に沿った方向に等間隔に形成されている。これにより、複数の第1誘導コイル31は、図2に示すように、第1金型21において、その長手方向に沿って等間隔に配置されることになる。同様に、複数の第2誘導コイル32は、図2に示すように、第2金型22において、その長手方向に沿って等間隔に配置されることになる。
【0032】
このコイル収容部5aに収容された誘導コイル31、32の中心部には磁路用鉄心6が設けられている(図1及び図3参照)。これにより、誘導コイル31、32により発生した磁束を第1金型21及び第2金型22及びコイル保持部材51、52を通じて循環し易くしている。
【0033】
さらに、コイル収容部5a及び誘導コイル31、32の間には、図3に示すように、磁路形成体7が設けられている。本実施形態の磁路形成体7は、コイル収容部5aの内側周面及び底面を覆い、内部に誘導コイルが収容される有底円筒形状をなす磁性カバーから構成されている。また、この磁性カバー7には、短絡防止用スリット7sが形成されている。具体的に短絡防止用スリット7sは、図4に示すように、磁性カバー7の側壁において上下方向に亘って形成されたスリット7s1と、磁性カバー7の底壁において中心を通る1つの長スリット7s2及び当該長スリット7s2を挟むように形成された複数の短スリット7s3とからなる。なお、短絡防止用スリット7sの態様は種々変更可能である。また、磁性カバー7の外面に絶縁フィルム等の絶縁材を設けて、短絡防止用スリット7sにおける短絡電流を防止することも考えられる。
【0034】
また、磁路形成体である磁性カバー7を、誘導コイル31、32の外側周面の周囲に設けられた概略円筒状をなす珪素鋼板の積層円筒体と、コイル収容部5aの底面に配置される短絡防止用スリット入りの磁性金属体とから構成しても良い。ここで、積層円筒体は、例えば短冊状をなす多数の珪素鋼板を円筒状に積層することにより形成される。また、磁性金属体は鉄損が小さい鋳鉄を用いることが好ましい。その他、磁路形成体7は、誘導コイル31、32の外側周面の周囲に設けられた概略円筒状をなす鉄心としても良い。
【0035】
第1押圧プレート41は、例えばステンレス鋼(SUS304)等の非磁性体金属からなり、概略平板状をなすものである。本実施形態では、図2に示すように、第1押圧プレート41の平面視形状を、第1金型21の平面視形状と略同一にしている。そして、図1及び図3に示すように、第1押圧プレート41の一方の平坦面(上面)に第1金型21の下面が接触するように第1金型21が取り付けられる。また、第1押圧プレート41の他方の平坦面(下面)側に複数の第1誘導コイル31が配置される。具体的に、第1押圧プレート41の下面にコイル保持部材51が設けられる。詳細には、第1コイル保持部材51の上面に第1押圧プレート41が取り付けられることにより、当該第1押圧プレート41がコイル収容部5aを閉塞する。本実施形態では、コイル保持部材51の上面に第1押圧プレート41が嵌り、コイル保持部材51の上面と第1押圧プレート41の上面とが略面一となるように段差部511が形成されている。この状態で、第1押圧プレート41に第1金型21を取り付けると、第1金型21の下面周縁部がコイル保持部材51の上面周縁部に接触して、第1金型21の下面周縁部を除く部分が第1押圧プレート41の上面に接触する。このように、第1金型21の下面周縁部がコイル保持部材51の上面周縁部に接触することから、第1金型21及び第1コイル保持部材51の間の磁気抵抗を小さくして、磁束の循環を効率良くできる。また、第1金型21の下面と第1押圧プレート41の上面とが密着するので、非磁性体金属の第1押圧プレート41における第1金型21との密着面で生じる熱を第1金型21に伝達して、第1金型21の発熱量の増大を図ることができる。
【0036】
第2押圧プレート42は、前記第1押圧プレート41と同様に概略平板状をなすものであり、概略平板状をなすものである。本実施形態では、図2に示すように、第2押圧プレート42の平面視形状を、第2金型22の平面視形状と略同一にしている。そして、図1に示すように、第2押圧プレート42の一方の平坦面(下面)に第2金型22の上面が接触するように第2金型22が取り付けられる。また、第2押圧プレート42の他方の平坦面(上面)側に複数の第2誘導コイル32が配置される。具体的に、第2押圧プレート42の上面に第2コイル保持部材52が設けられる。詳細には、上記の第1コイル保持部材51及び第1押圧プレート41と同様に、第2コイル保持部材52の下面に第2押圧プレート42が取り付けられることにより、当該第2押圧プレート42がコイル収容部5aを閉塞する。本実施形態では、コイル保持部材52の下面に第2押圧プレート42が嵌り、コイル保持部材52の下面と第2押圧プレート42の下面とが略面一となるように段差部が形成されている。この状態で、第2押圧プレート42に第2金型22を取り付けると、第2金型22の上面周縁部がコイル保持部材52の下面周縁部に接触して、第2金型22の上面周縁部を除く部分が第2押圧プレート42の下面に接触する。このように、第2金型22の上面周縁部がコイル保持部材52の下面周縁部に接触することから、第2金型22及び第2コイル保持部材52の間の磁気抵抗を小さくして、磁束の循環を効率良くできる。また、第2金型22の上面と第2押圧プレート42の下面とが密着するので、非磁性体金属の第2押圧プレート42における第2金型22との密着面で生じる熱を第2金型22に伝達して、第2金型22の発熱量の増大を図ることができる。
【0037】
また、第1押圧プレート41及び第2押圧プレート42には、図3及び図5に示すように、気液二相の熱媒体が封入されたジャケット室4xが形成されている。具体的にこのジャケット室4xは、複数の第1誘導コイル31を含む範囲に亘って形成されている。このジャケット室4xは、特に図5に示すように、格子状に形成されており、第1押圧プレート41の長手方向一端部から他端部に亘って形成された複数(図5では3本)の第1のジャケット要素4x1と、当該複数の第1のジャケット要素4x1を連結するように形成された複数(図では25本)の第2のジャケット要素4x2とからなる。なお、図5には第1押圧プレート41を示しているが、第2押圧プレート42も同様の構成である。
【0038】
複数の第1のジャケット要素4x1は、押圧プレート41、42の短手方向において等間隔に形成されている。本実施形態では、平面視において、複数の誘導コイル31、32の中心を通るように1本の第1のジャケット要素4x1が形成されているとともに、押圧プレート41、42の幅方向両端側に1本ずつ第1のジャケット要素4x1が形成されている。また、複数の第2のジャケット要素4x2は、第1のジャケット要素4x1に直交するように形成されている。本実施形態では、平面視において、誘導コイル31、32毎に分けて形成されており、具体的には、誘導コイル31、32毎に5本ずつ形成されている。なお、第2のジャケット要素4x2を長手方向において等間隔に形成しても良い。このようにジャケット室4xが形成されているので、第1金型21及び第2金型22の長手方向の温度分布及び短手方向の温度分布を均一にすることができる。
【0039】
そして、第1押圧プレート41及び第2押圧プレート42における誘導コイル31、32に対向する面に、短絡防止用スリット4sが形成されている。本実施形態では、平面視において、格子状に形成されたジャケット室4xの間に短絡防止用スリット4sが形成されている。
【0040】
このように構成した本実施形態の誘導加熱式金型装置100によれば、各金型21、22を50Hz〜1000Hzの中周波の交流電圧により誘導加熱するので、高周波電源を用いた場合に比べて電源コストを小さくことができる。
また、誘導加熱式金型装置100によれば、各誘導コイル31、32により発生した磁束を各金型21、22に通して各金型21、22を直接加熱するので、各金型21、22に対して外部熱源から熱を加える構成と比べて、各押圧プレート41、42に対する各金型21、22の固定構造を簡略化することができ、各押圧プレート41、42に対する各金型21、22の脱着作業を簡単化することができる。
さらに、誘導加熱式金型装置100によれば、各金型21、22を各押圧プレート41、42に取り付けて、当該各押圧プレート41、42により各金型21、22を押圧しているので、各金型21、22を薄くして、各金型21、22の昇温速度を速くすることができる。
その上、誘導加熱式金型装置100によれば、各押圧プレート41、42によって各金型21、22を押圧しているので、各金型21、22を薄くしたことに伴う変形を抑えて被加工物Wの加圧を確実に行うことができる。
加えて、誘導加熱式金型装置100によれば、各押圧プレート41、42に気液二相の熱媒体が封入されたジャケット室4xが設けられているので、各金型21、22の温度を均一化することができる。
【0041】
なお、本発明は前記各実施形態に限られるものではない。
例えば、コイル収容部5a及び誘導コイル31、32の間に磁性カバー7を設ける構成に加えて、コイル収容部5aの内面に短絡防止用スリット5sを形成しても良い。ここで短絡防止用スリット5sは、コイル収容部5aの内側周面において上下方向に亘って形成されたスリットと、コイル収容部5aの底面に形成されたスリットとから構成することが考えられる。なお、スリット5sの態様は種々変更可能である。
【0042】
また、前記実施形態では、複数の第1誘導コイル31は、互いに概略同一円形状をなすものであったが、複数の第1誘導コイル31それぞれが、異なる形状又は大きさの誘導コイルであっても良い。複数の第2誘導コイル32も同様に、それぞれ異なる形状又は大きさの誘導コイルであっても良い。
【0043】
前記実施形態の第1押圧プレート41及び第2押圧プレート42が、図7に示すように、ジャケット室4xの他に、例えば冷却水などの冷却用流体が流れる冷却用流路4zを有するものであっても良い。この冷却用流路4zは、図示しない外部の冷却用流体の循環装置に接続されている。これにより、第1押圧プレート41及び第2押圧プレート42に取り付けられた第1金型21及び第2金型22の冷却速度を速くすることができる。これにより、使用後において例えば第1金型21及び第2金型22を押圧プレート41、42から外すまでの冷却時間を短縮することができる。
【0044】
前記実施形態では、第1金型21及び第2金型22がともに磁性体金属からなる磁性体金型であったが、第1金型21又は第2金型22の少なくとも一方を非磁性体金属からなる非磁性体金型としても良い。そして、第1金型21及び第2金型22の間に導電性を有する被加工物W、例えばカーボンファイバー等の炭素繊維を基材として熱可塑性樹脂を有する複合材等を収容して、非磁性体金型側の誘導コイルにより、非磁性体金型及び被加工物Wの両方を直接誘導加熱する構成としても良い。これにより、非磁性体金型側の誘導コイルにより発生した磁束は非磁性体金型を貫通するので、非磁性体金型に誘導電流が流れて加熱される。また、非磁性体金型側の誘導コイルにより発生した磁束は、非磁性体金型を貫通した後に導電性を有する被加工物Wの内部を通過して、被加工物Wに誘導電流が流れて加熱される。
【0045】
前記実施形態では、第1金型21及び第2金型22の両方に誘導コイルを設けているが、第1金型21又は前記第2金型22の一方に、誘導コイルが設けた構成としても良い。このとき、誘導コイルが設けられた側の金型を非磁性体金属からなる非磁性体金型とし、もう一方の金型を磁性体金属からなる磁性体金型とすることが考えられる。このよう構成すると、誘導コイルにより発生した磁束が、非磁性体金型を貫通する構成としているので、非磁性体金型に誘導電流が流れて加熱される。また、誘導コイルにより発生した磁束は、非磁性体金型を貫通した後に磁性体金型の内部を通過するので、磁性体金型に誘導電流が流れて加熱される。これにより、被加工物Wを非磁性体金型及び磁性体金型により加熱することができる。また、非磁性体金型側に誘導コイルを設けるだけで良いので装置の構成を簡略化して大型化することも無く、被加工物Wの出し入れが容易となる。さらに、誘導加熱により非磁性体金型及び磁性体金型を加熱することから加熱効率に優れている。
【0046】
このとき、誘導コイルに印加する交流電圧の周波数を50Hz〜1000Hzの範囲で変化させて、前記非磁性体金型と前記磁性体金型との発熱比を調整することが考えられる。
【0047】
前記実施形態の構成に加えて、図8に示すように、第1金型21及び/又は第2金型22の外側周面の周囲に外部誘導コイル8を配置しても良い。これならば、金型の底壁を加熱するだけでなく、金型の側壁を加熱することができ、金型全体の温度をより一層均一化することができる。
【0048】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0049】
100・・・誘導加熱式金型装置
21 ・・・第1金型
22 ・・・第2金型
31 ・・・第1誘導コイル
32 ・・・第2誘導コイル
41 ・・・第1押圧プレート
42 ・・・第2押圧プレート
4s ・・・短絡防止用スリット
4x ・・・ジャケット室
51 ・・・第1コイル保持部材
52 ・・・第2コイル保持部材
5a ・・・コイル収容部
5s ・・・短絡防止用スリット
6 ・・・磁路用鉄心
7 ・・・磁路形成体(磁性カバー)
8 ・・・外部誘導コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8