【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明に係る誘導加熱式金型装置は、被加工物が収容される金型と、50Hz〜1000Hzの交流電圧が印加されて前記金型を誘導加熱するための誘導コイルと、一方面に前記金型が取り付けられとともに他方面側に前記誘導コイルが配置されており、気液二相の熱媒体が封入されたジャケット室を有し、前記被加工物を加圧すべく前記金型に力を加える非磁性体からなる押圧プレートとを具備することを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、金型を50Hz〜1000Hzの中周波の交流電圧により誘導加熱するので、高周波電源を用いた場合に比べて電源コストを小さくことができる。つまり、50Hz〜1000Hzの中周波の交流電圧は、変圧器の結線によって簡単に生成できるため、インバータを要する高周波に比べて大幅な低コストの電源とすることができる。
また、誘導コイルにより発生した磁束を金型に通して金型を直接加熱する構成であるので、金型に対して外部熱源から熱を加える構成と比べて、押圧プレートに対する金型の固定構造を簡略化することができ、押圧プレートに対する金型の脱着作業を簡単化することができる。
さらに、金型を押圧プレートに取り付けて、当該押圧プレートにより金型を押圧しているので、金型を薄くして、金型の昇温速度を速くすることができる。ここで、従来の金型を用いて被加工物を加圧するものにおいて、単に金型を薄くすると、被加工物を加圧する際に金型が変形して、被加工物の加圧が不十分となってしまう恐れがある。一方、本発明では、押圧プレートによって金型を押圧しているので、金型の変形を抑えて被加工物の加圧を確実に行うことができる。
その上、押圧プレートに気液二相の熱媒体が封入されたジャケット室が設けられているので、金型を押圧する押圧プレートを用いて金型の温度を均一化することができる。
【0010】
前記誘導コイルを収容するためのコイル収容部を有するコイル保持部材を備え、前記押圧プレートが、前記コイル保持部材に取り付けられて、前記誘導コイルが収容されたコイル収容部を閉塞するものであることが望ましい。
これならば、コイル保持部材に押圧プレートを取り付けることにより、押圧プレート及び誘導コイルを一体構造とすることができ、誘導加熱機構をユニット化することができる。そして、この押圧プレートに対して金型を着脱させることによって、誘導加熱機構に汎用性を持たせることができる。また、装置の取り扱いを容易にすることができる。
【0011】
前記コイル保持部材が磁性体からなるものであり、前記コイル収容部の内面に短絡防止用スリットが形成されていることが望ましい。
これならば、誘導コイルにより発生した磁束を誘導コイル回りに効率良く循環させることができ、金型に磁束を効率良く導入することができる。また、コイル収容部の内面に短絡防止用スリットが形成されているので、コイル保持部材の発熱を防ぎ、当該コイル保持部材の発熱に伴う誘導コイルの発熱を抑えることができる。なお、短絡防止用スリットのスリット深さは、電流浸透深さ以上とすることが望ましい。
【0012】
前記金型が、対をなす第1金型及び第2金型からなり、前記誘導コイル及び前記押圧プレートが、前記第1金型及び前記第2金型それぞれに設けられていることが望ましい。
これならば、被加工物を覆う第1金型及び第2金型それぞれに誘導コイル及び押圧プレートが設けられているので、被加工物を全体に均一に加熱できるようになり、また被加工物全体を均一に加圧できるようになる。
【0013】
前記誘導コイルの中心部に磁路用鉄心が設けられており、前記誘導コイル及び前記コイル収容部の間に磁路形成体が設けられていることが望ましい。ここで、磁路形成体としては、誘導コイルの周囲に設けられた鉄心又は短絡防止用スリットが形成された磁性体カバー等が考えられる。
これならば、コイル保持部が磁性体でなくても、誘導コイルにより発生した磁束を効率良く循環させることができ、金型に磁束を効率良く導入することができる。
【0014】
前記押圧プレートにおける前記誘導コイルに対向する面に短絡防止用スリットが形成されていることが望ましい。
これならば、押圧プレートに生じる短絡電流を低減して押圧プレートの発熱を低減し、金型の発熱比を増加させることができる。
【0015】
前記押圧プレートに、冷却用流体が流れる冷却用流路が形成されていることが望ましい。
これならば、押圧プレートに取り付けられた金型の冷却速度を速くすることができる。これにより、使用後において例えば金型を押圧プレートから外すまでの冷却時間を短縮することができる。
【0016】
前記金型が、対をなす第1金型及び第2金型からなり、前記第1金型又は前記第2金型の少なくとも一方が非磁性体金型であり、前記第1金型及び前記第2金型に導電性を有する被加工物を収容して、前記非磁性体金型側の誘導コイルにより、前記非磁性体金型及び前記被加工物の両方を誘導加熱するものであることが望ましい。ここで導電性を有する被加工物としては、例えば、カーボンファイバー等の炭素繊維を基材として熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を有する複合材等である。
これならば、非磁性体金型側の誘導コイルにより発生した磁束は非磁性体金型を貫通するので、非磁性体金型を加熱することができる。非磁性体金型側の誘導コイルにより発生した磁束は、非磁性体金型を貫通した後に導電性を有する被加工物の内部を通過するので、被加工物を加熱することができる。これにより、非磁性体金型側の誘導コイルにより、非磁性体金型及び被加工物の両方を直接加熱することができる。
【0017】
前記金型が磁性体金型であり、前記磁性体金型における前記誘導コイルを向く面に非磁性体金属が密着して設けられていることが望ましい。
これならば、非磁性体金属に短絡電流を流すことによって金型発熱量の増大を図ることができる。
【0018】
前記金型が、対をなす第1金型及び第2金型からなり、前記第1金型又は前記第2金型の一方に、前記誘導コイルが設けられており、前記誘導コイルが設けられた側の金型が非磁性体金型であり、もう一方の金型が磁性体金型であることが望ましい。
これならば、非磁性体金型及び磁性体金型の間に被加工物を挟み、非磁性体金型に対して磁性体金型とは反対側に誘導コイルを設けて、誘導コイルにより発生した磁束が、非磁性体金型を貫通する構成としているので、非磁性体金型を加熱することができる。また、誘導コイルにより発生した磁束は、非磁性体金型を貫通した後に磁性体金型の内部を通過するので、磁性体金型を加熱することができる。これにより、被加工物を非磁性体金型及び磁性体金型により加熱することができる。さらに、非磁性体金型側に誘導コイルを設けるだけで良いので装置の構成を簡略化して大型化することも無く、被加工物の出し入れが容易となる。その上、誘導加熱により非磁性体金型及び磁性体金型を加熱することから加熱効率に優れている。
【0019】
ここで、誘導コイルに印加する交流電圧の周波数を50Hz未満の低周波とした場合、磁性体金型が加熱されにくく、また、磁性体金型の磁束密度が高くなり過ぎて飽和してしまう。一方、前記周波数を1000Hzを超える高周波とした場合、非磁性体金型が加熱されすぎて磁性体金型よりも温度が高くなり過ぎてしまう。
このため、前記誘導コイルに印加する交流電圧の周波数を50Hz〜1000Hzの範囲で変化させて、非磁性体金型と磁性体金型との発熱比を調整することが望ましい。
【0020】
また、非磁性体金型は、電流浸透度が高く、内外面ともに加熱される。一方、磁性体金型は、周波数500Hz、温度300℃において2mm程度の電流浸透度であり、被加工物に接触する内面が加熱されるため、被加工物の加工には効率が良い。
【0021】
また、前記誘導コイルに交流電圧を印加する電源が、変圧器方式の3N(Nは1以上の奇数である。)倍周波数発生装置であることが望ましい。
ここで、3N倍周波数発生装置は、商用電源周波数が50Hzの場合には、150Hz、450Hz、750Hzの中周波を出力し、商用電源周波数が60Hzの場合には、180Hz、540Hz、900Hzの中周波を出力する。なお、汎用インバータを用いることが考えられるが、汎用インバータは一般的に出力電圧をV、出力周波数をFとすると、V/F=一定で変化するように構成されている。このため、負荷温度を出力の増減で制御すると、電圧の変化に伴って周波数も常に変化することとなり、非磁性体金型及び磁性体金型は周波数の変化に伴って振動が激しくなる。一方、変圧器方式の3N倍周波数発生装置では、常に周波数が一定で、出力電圧のみを変化させる制御方式であり、非磁性体金型及び磁性体金型の周波数変動による振動が少なく、加工に悪影響を与えることが少ない。
【0022】
前記金型の外側周面の周囲に外部誘導コイルが配置されていることが望ましい。
これならば、金型の側壁を加熱することができ、被加工物全体をより一層均一に加熱することができる。