(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0016】
本発明の一形態に係るボラジン化合物の製造方法は、反応器中で、水素化ホウ素金属塩と(RNH
3)
nX(Rは水素原子、アルキル基、またはシクロアルキル基であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子であり、nは1または2である)で表されるアミン塩とを溶媒中で反応させてボラジン化合物を合成する合成工程を含む。そして、本形態に係る製造方法は、合成工程における原料の供給形態に特徴を有するものである。
【0017】
[合成工程]
以下ではまず、本発明の製造方法における合成工程について、詳細に説明する。
【0018】
ボラジン化合物の合成工程では、水素化ホウ素金属塩と、(RNH
3)
nX(Rは水素原子、アルキル基、またはシクロアルキル基であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子であり、nは1または2である)で表されるアミン塩とを、溶媒中で反応させてボラジン化合物を合成する。
【0019】
水素化ホウ素金属塩を構成する金属元素は、特に制限されない。前記金属元素の例としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム、ジルコニウム、ハフニウム、アルミニウム、ランタン、スカンジウム、ユウロピウム、鉄、ニッケル、クロムなどが挙げられ、好ましくは1価の金属元素(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム)または2価の金属元素(ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム)である。より好ましくは、入手上の利点から、ナトリウム、リチウムまたはカルシウムである。換言すれば、水素化ホウ素金属塩は、好ましくは水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウムまたは水素化ホウ素カルシウムである。
【0020】
一方、アミン塩((RNH
3)
nX)において、Rは水素原子、アルキル基、またはシクロアルキル基であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子)である。そして、Xが硫酸基である場合にはnは2であり、Xがハロゲン原子である場合にはnは1である。ハロゲン原子は、好ましくは塩素原子である。n=2のとき、Rは、同一であっても異なっていてもよい。合成反応の収率や取り扱いの容易性を考慮すると、Rは好ましくは同一のアルキル基または同一のシクロアルキル基である。アルキル基は、直鎖であっても、分岐であってもよい。アルキル基の有する炭素数は、特に限定されないが、好ましくは1〜8個であり、より好ましくは1〜4個であり、さらに好ましくは1個である。アルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などが挙げられる。また、シクロアルキル基の例としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。なお、これら以外のアルキル基やシクロアルキル基が用いられてもよい。従って、アミン塩の例としては、塩化アンモニウム(NH
4Cl)、モノメチルアミン塩酸塩(CH
3NH
3Cl)、モノエチルアミン塩酸塩(CH
3CH
2NH
3Cl)、モノメチルアミン臭化水素酸塩(CH
3NH
3Br)、モノエチルアミンフッ化水素酸塩(CH
3CH
2NH
3F)、硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
4)、モノメチルアミン硫酸塩((CH
3NH
3)
2SO
4)などが挙げられる。
【0021】
合成原料としての水素化ホウ素金属塩およびアミン塩の種類は、合成するボラジン化合物の構造に応じて選択されうる。例えば、ボラジン環を構成する3つの窒素原子にメチル基が結合しているN,N’,N”−トリメチルボラジンを製造する場合には、アミン塩として、モノメチルアミン塩酸塩などの、Rがメチル基であるアミン塩を用いればよい。
【0022】
水素化ホウ素金属塩とアミン塩との混合比は、特に限定されないが、アミン塩の使用量を1モルとした場合に、水素化ホウ素金属塩の使用量を1〜1.5モルとすることが好ましい。
【0023】
合成用の溶媒としては、特に制限されないが、例えば、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)等が挙げられる。
【0024】
本形態に係る製造方法の合成工程において合成されるボラジン化合物は、下記式で表される化合物である。
【0026】
式中、Rは、合成原料の説明の欄でアミン塩について記載した通りであるため、ここでは説明を省略する。N−アルキルボラジンの例としては、N,N’,N”−トリメチルボラジン、N,N’,N”−トリエチルボラジン、N,N’,N”−トリ(n−プロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(イソプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(sec−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(イソブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(tert−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(2−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(ネオペンチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1,2−ジメチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−エチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ヘキシル)ボラジン、N,N’,N”−トリシクロヘキシルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−エチルボラジン、N,N’−ジエチル−N”−メチルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−プロピルボラジンなどが挙げられる。なお、製造されるボラジン化合物の耐水性等の安定性を考慮すると、ボラジン化合物はN−アルキルボラジンであることが好ましく、N,N’,N”−トリアルキルボラジンであることがより好ましく、N,N’,N”−トリメチルボラジンであることが特に好ましい。
【0027】
[原料の供給形態]
本形態に係る製造方法は、合成工程における原料の供給形態に特徴を有するものである。以下、本形態に係る製造方法の実施に用いられる反応装置について説明した後、合成工程における原料の供給形態について、詳細に説明する。
【0028】
図1は、本形態に係る製造方法において、合成工程の実施に用いられる反応装置を示す垂直断面図である。また、
図2は、
図1に示すII−II線に沿った水平断面図である。
【0029】
図1に示すように、反応装置10は、反応器としての反応釜100を有する。反応釜100には、撹拌機110が設置されている。この撹拌機110は、合成工程において、反応釜100内の温度および原料濃度の偏在化を防止し、合成反応が均等になされるように、反応釜100の内容物を撹拌するための装置である。また、反応釜100には、添加原料スラリーを供給するための供給ノズル120が設置されている。さらに、反応釜100には、合成反応の進行に伴って生成する水素を含有するガスを反応釜の外へ排出するための水素含有ガス排出管130も設置されている。反応釜100から排出される水素含有ガスは生成物であるボラジン化合物を同伴していることから、水素含有ガス排出管130には、水素含有ガスに含まれるボラジン化合物を凝縮させて反応釜100へと還流させるための凝縮器140も設置されている。反応釜100の側面(さらには底面)外周部には、外部ジャケット150が周設されている。この外部ジャケット150は、合成工程において、反応釜100の内容物の温度を調整するための温度調整手段として機能する。
【0030】
本形態に係る製造方法では、上述した反応原料である水素化ホウ素金属塩またはアミン塩の一方、および溶媒を、反応釜100に初期仕込みする。本明細書では、初期仕込みされる原料(初期仕込み原料)と溶媒とを含む反応開始前の液を「初期仕込み液」と称する。なお、初期仕込み液は、初期仕込み原料および溶媒以外の成分を含んでもよい。例えば、例えば、反応に用いる触媒、添加物やスラリーを安定化する分散剤等が初期仕込み液に含まれうる。
【0031】
そして、本形態に係る製造方法は、撹拌機110により反応釜100の内容物を撹拌しながら、この初期仕込み液に、上述した反応原料である水素化ホウ素金属塩またはアミン塩の他方(初期仕込み原料ではない方)、および溶媒を含むスラリーを、供給ノズル120を介して供給する工程を含む。本明細書では、初期仕込み原料ではない方の原料を「添加原料」と称し、上記スラリーを「添加原料スラリー」と称する。なお、スラリーの性状や添加のしやすさという観点からは、添加原料は水素化ホウ素金属塩であることが好ましい。また、初期仕込み原料は、アミン塩であることが好ましい。添加原料スラリーもまた、必要に応じて、反応に用いる触媒、添加物やスラリーを安定化する分散剤等を含んでもよい。
【0032】
ここで、初期仕込み液および添加原料スラリーの組成について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、初期仕込み液の全量に対する初期仕込み原料の質量比は、好ましくは10〜40質量%である。また、初期仕込み液の全量に対する溶媒の質量比は、好ましくは60〜90質量%である。初期仕込み液の組成がかような形態であると、撹拌性や反応濃度の観点から好ましい。また、添加原料スラリーの全量に対する添加原料の質量比は、好ましくは10〜30質量%である。また、添加原料スラリーの全量に対する溶媒の質量比は、好ましくは70〜90質量%である。添加原料スラリーの組成がかような形態であると、添加原料の溶解性や定量的な添加のしやすさ、反応濃度の観点から好ましい。
【0033】
本形態に係る製造方法の特徴の第1は、添加原料スラリーを供給する際に、添加原料スラリーの供給の開始から終了までの間の少なくとも一時点において、供給ノズル120の先端120aが、反応液の液面から反応器の内側上面までの鉛直方向最大距離の液面から30〜100%の間に位置するという点にある。ここで、上述した「反応液の液面から前記反応器の内側上面までの鉛直方向最大距離」とは、反応液の液面の任意の位置からの反応器の内側上面までの鉛直方向の距離のうち最大のものをいう。
図1に示す形態では、距離L
1がこれに相当する。そして、
図1に示す形態において、供給ノズル120の先端120aは、反応液の液面から反応器の内側上面までの鉛直方向最大距離(L
1)の、液面から55%の点に位置している。言い換えると、上記距離L1に対する、反応液の液面から供給ノズル120の先端120aまでの鉛直方向の距離(
図1に示す距離L
2)の割合は、55%である。このように、供給ノズル120の先端120aが、反応液の液面から反応器の内側上面までの鉛直方向最大距離の液面から30〜100%の間に位置していれば、添加原料スラリーが、供給時に直接、または反応系の撹拌の衝撃で飛び跳ねて反応釜100内側壁に付着する虞が低減され、ひいては最終生成物であるボラジン化合物の反応収率および純度の向上が図られる。なお、添加原料スラリーの供給時における飛び跳ねを防止するという観点からは、供給ノズル120の先端120aがより液面近くに位置するように供給ノズル120を配置すればよいが、本発明のボラジン化合物の製造方法においては、合成工程において大量の水素が発生し、反応液の発泡によって液面が上昇することがある。また、合成反応の中間体としてアミンボラン(RNH
2−BH
3;Rは水素原子、アルキル基またはシクロアルキル基である)やボラザン、N−アルキルシクロボラザンのような昇華性物質が生成するという事情もある。したがって、供給ノズル120の先端120aがあまりにも液面近くに位置すると、供給ノズル120の閉塞が引き起こされるという問題もある。これに対し、上述した形態によれば、このような問題の発生も抑制されることを、本発明者らは見出したのである。
【0034】
なお、上述したような効果をより一層発現させるためには、供給ノズル120の先端120aは、反応液の液面から反応器の内側上面までの鉛直方向最大距離の液面から80〜100%の間に位置していることがより好ましく、90〜100%の間に位置していることが特に好ましい。
【0035】
また、本形態に係る製造方法の特徴の第2は、供給ノズル120の先端120aが、供給ノズルの先端を含む水平面(
図1に示すII−II線を含む水平面;
図2の紙面)の、当該水平面による反応器(反応釜)の断面形状(
図2に示す形状C
1)における重心Gを相似の中心としたときの前記断面形状(
図2に示す形状C
1)に対する相似比が0〜0.8の領域に位置するという点にある。そして、
図2に示す形態において、上記「相似比が0〜0.8の領域」は、
図2に破線で示す形状C
2の内部の領域(形状C
2を含む)に相当し、供給ノズル120の先端120aはその領域に位置している(
図2に示す点H)。ここで、供給ノズル120の先端120aが上記「相似比が0〜0.8の領域」に位置しているか否かは、次のようにして判定することができる。まず、供給ノズル120の先端120aを含む水平面(
図2の紙面)の、当該水平面による反応器(反応釜)の断面形状における重心Gを求める。当該断面形状における重心Gは、従来公知の手法により求めることが可能である。次いで、重心Gから供給ノズル120の先端120aの位置Hに向かう直線と当該断面形状との交点(
図2に示す点P)を決定し、線分GPの距離(
図2に示す距離L
3)を求め、さらに、線分GHの距離(
図2に示す距離L
4)を求める。そして、線分GPの距離(L
3)に対する線分GHの距離(L
4)の比の値(L
4/L
3)が、上記相似比0〜0.8に含まれる値であるとき、供給ノズル120の先端120aが上記「相似比が0〜0.8の領域」に位置していると判定することができる。このように、供給ノズル120の先端120aが上記「相似比が0〜0.8の領域」に位置していれば、添加原料スラリーが反応液に供給されたときに飛び跳ねたとしても、反応釜100の内側壁への付着が防止され、ひいては最終生成物であるボラジン化合物の反応収率および純度の向上が図られる。
【0036】
なお、上述したような効果をより一層発現させるためには、供給ノズル120の先端120aは、上述した相似比が0.4〜0.8の領域に位置していることがより好ましく、0.6〜0.8の領域に位置していることが特に好ましい。
【0037】
本発明者らは、従来のボラジン化合物の製造プロセスのより一層の改善を念頭に鋭意検討を行った結果、添加原料スラリーを供給する部位が反応器の内側壁に近いと、添加原料スラリーが、供給時に直接、または反応系の撹拌の衝撃で飛び跳ねて当該内側壁に付着することがあり、その結果、反応収率が低下するだけでなく、驚くべきことに最終生成物の純度も低下してしまうことを見出した。これに対し、供給ノズル120aの先端が配置される位置を上述したような構成とすることで、かような課題の解決が図られ、最終生成物であるボラジン化合物の反応収率および純度を向上させることが可能となるのである。
【0038】
ここで、反応装置10を構成するそれぞれの器具の具体的な構成について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。ただし、一実施形態において、供給ノズル120の内径は、1〜6cmであることが好ましく、2〜5cmであることがより好ましい。なお、「供給ノズルの内径」とは、供給ノズル120の先端部位における内径を意味する。ここで、供給ノズル120の内径が上述した下限値以上の値であれば、供給ノズル120の閉塞が効果的に防止されうる。一方、供給ノズル120の内径が上述した上限値以下の値であれば、添加原料スラリーの供給速度を低下させる必要があることに伴う閉塞発生の虞が低減されうる。
【0039】
また、反応器としての反応釜100は、耐食性金属(ハステロイなど)からなるものや、内表面がグラスライニング処理されてなるものであることが好ましい。特に汎用性から内表面がグラスライニング処理されてなるものであることが好ましい。上述したように、本発明者らの検討によれば、反応器として内表面がグラスライニング処理されてなるものを用いてボラジン化合物を製造する場合に、添加原料スラリーが反応器の内側壁に付着すると、添加原料スラリーと反応系との温度差に起因して、グラスライニング面が破損する虞があることも見出した。これに対し、供給ノズル120aの先端が配置される位置を上述したような構成とすることで、かような課題の解決が図られ、内面がグラスライニング処理されてなる反応釜100を用いて反応を行なった場合であっても、グラスライニング面の破損が防止されうるのである。
【0040】
なお、添加原料スラリーの供給形態は、一括して供給する形態以外の形態であればよい。添加原料スラリーの供給時間については、反応スケールや用いる化合物に応じて決定すればよい。例えば、3〜24時間かけて供給する。添加原料スラリーの反応釜100への供給は、連続的であっても、間欠的であってもよい。経験則や実験により供給量を決定できるのであれば、所定の量となるように供給を制御するとよい。また、添加速度を調節することによって、水素発生量を制御することもできる。
【0041】
水素化ホウ素金属塩とアミン塩との反応条件は、特に限定されない。反応温度は、好ましくは室温〜250℃であり、より好ましくは50〜240℃であり、さらに好ましくは100〜220℃である。上記範囲で反応させると、水素発生量の制御が容易である。なお、反応温度は、K熱電対などの温度センサーを用いて測定されうる。
【0042】
ここで、「反応温度」とは、水素化ホウ素金属塩とアミン塩との反応が進行する際の反応溶液の温度を意味する。反応溶液の温度は、反応を通じて一定でなくてもよく、変化させてもよい。例えば、反応の当初は、反応溶液を低温に制御して、N−アルキルシクロボラザンがN−アルキルボラジンへ変化することを防止し、そして、原料の大部分がN−アルキルシクロボラザンになったら、反応溶液の温度を上昇させ、N−アルキルボラジンの合成を完了させることもできる。このように、水素化ホウ素金属塩とアミン塩との反応が実質的に終了した後に、中間体をボラジン化合物に変化させるために、反応溶液の温度を上昇させて熟成する態様を採用する場合には、水素化ホウ素金属塩とアミン塩との反応が実質的に終了するまでの温度が「反応温度」に該当する。この場合、凝縮器140を用いてボラジン化合物を還流させながら、熟成工程を行うことが好ましい。
【0043】
なお、上述したように、本発明においては、添加原料として水素化ホウ素金属塩を用いることが好ましいが、この水素化ホウ素金属塩と溶媒とを含む添加原料スラリーを取り扱う際に、その温度を管理することで、反応速度を速めて効率的に反応を進行させることができ、またアミン塩の転化率を向上させることができる。
【0044】
具体的には、温度管理の方法の1つとして、反応釜100に添加原料スラリーを供給する際に、当該添加原料スラリーの供給時の温度を50℃以下にすることである。これにより、反応速度を速くすることができ、さらにアミン塩の転化率を向上させることができる。添加原料スラリーの供給時の温度はより好ましくは45℃以下であり、さらに好ましくは40℃以下である。
【0045】
合成されたボラジン化合物は、必要に応じて精製されうる。ボラジン化合物の精製方法としては、例えば、蒸留精製が用いられる。
【0046】
蒸留精製装置の大きさや種類は、環境や規模に応じて決定されればよい。例えば、大量のボラジン化合物を処理するのであれば、工業的規模の蒸留塔が用いられうる。ただし、このような蒸留装置を用いる実施形態に、本発明の技術的範囲が限定されるわけではない。
【0047】
蒸留精製の際の温度や圧力等の条件は特に制限されず、合成されたボラジン化合物の種類に応じて適宜設定されうる。これらの条件の一例としては、減圧条件(22kPa程度)下で70〜100℃程度で蒸留後、さらに常圧条件下で100〜170℃程度で蒸留精製を行うという形態が例示されうる。
【0048】
上述したように、本発明の製造方法によれば、最終生成物であるボラジン化合物の反応収率および純度の向上が図られる。
【0049】
製造されたボラジン化合物は、特に限定されないが、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層、エッチストッパー層などの形成に用いられうる。その際には、ボラジン化合物がそのまま用いられてもよいし、ボラジン化合物に改変を加えた化合物(例えば、ヘキサアルキルボラジン)が用いられてもよい。ボラジン化合物またはその誘導体を重合させた重合体を、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層またはエッチストッパー層の原料として用いてもよい。本明細書では、「ボラジン化合物」、「ボラジン化合物の誘導体」および「これらに起因する重合体」をまとめて、「ボラジン環含有化合物」と称する。ボラジン環含有化合物を用いて、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層またはエッチストッパー層を形成する手法としては、例えば、ボラジン環含有化合物を含む溶液状またはスラリー状の組成物を調製し、これを所望の部位に塗布することによって、塗膜を形成する手法が用いられうる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例および比較例を用いて本発明の実施の形態をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには制限されない。
【0051】
<実施例1>
内面がグラスライニング処理されてなる反応釜(内容積100L)を準備し、これに
図1に示すように撹拌機、供給ノズル、水素含有ガス排出管、凝縮器、外部ジャケットを設置した。この際、供給ノズルの先端が反応液面から反応釜の内側上面までの鉛直方向最大距離の液面から100%(L
2/L
1×100)のところに位置し、かつ、供給ノズルの先端が、供給ノズルの先端を含む水平面の、当該水平面による反応釜の断面形状における重心を相似の中心としたときの断面形状に対する相似比が0.76(L
4/L
3)のところに位置するように、供給ノズルを設置した。また、供給ノズルの内径は2.4cmであった。
【0052】
上記で準備した反応釜の内部を窒素置換した後、アミン塩として乾燥したメチルアミン塩酸塩を8.40kg、溶媒としてトリグライム30.1kgを仕込み、150℃まで昇温した。昇温後、水素化ホウ素アルカリとして水素化ホウ素ナトリウム5.25kgと溶媒であるトリグライム22.2kgとのスラリー混合物を、供給ノズルを通して7.5時間かけて供給した。その後、170℃まで昇温し、昇温後2時間170℃にて熟成した。反応中に生成した水素を含有するガスを凝縮器を通して冷却した後、水素含有ガス排出管を通して反応釜の外へと排出させた。
【0053】
得られた反応液にはN,N’,N”−トリメチルボラジンが4.5kg含まれており、反応収率は89%であった。なお、反応液中のN,N’,N”−トリメチルボラジンは、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した(条件は下記のとおり)。また、供給ノズルの先端への付着物は見られず、供給ノズルの閉塞も確認されなかった。さらに、反応釜の内側への付着物もなく、反応釜の破損もなかった。
【0054】
[ガスクロマトグラフィーの測定条件]
装置:株式会社島津製作所 GC−2010
カラム:DB−1
キャリアガス:N
2/Air
カラム温度:50度(15分保持)→10度/分→280度(5分保持)
気化室温度:150度
検出器温度:280度
続いて、得られた反応液から蒸留を行い、N,N’,N”−トリメチルボラジンを取り出した。留分中のN,N’,N”−トリメチルボラジンの濃度は65%であった。また、この留分中のハロゲン濃度をイオンクロマトグラフィーにより測定したところ、100質量ppm以下であった。測定条件は以下のとおりである。
【0055】
[イオンクロマトグラフィーの測定条件]
装置:日本ダイオネクス社製 ICS−3000
カラム:AS4−SC
溶離液:1.7mM NaHCO
3/1.8mM Na
2CO
3
<比較例1>
供給ノズルの先端が反応液面から反応釜の内側上面までの鉛直方向最大距離の液面から20%(L
2/L
1×100)のところに位置し、かつ、供給ノズル先端が、供給ノズルの先端を含む水平面の、当該水平面による反応釜の断面形状における重心を相似の中心としたときの断面形状に対する相似比が0.9(L
4/L
3)のところに位置するように、供給ノズルを設置したこと以外は、上述した実施例1と同様の反応装置を準備した。
【0056】
上記で準備した反応釜の内部を窒素置換した後、アミン塩として乾燥したメチルアミン塩酸塩を8.40kg、溶媒としてトリグライム30.1kgを仕込み、150℃まで昇温した。昇温後、水素化ホウ素アルカリとして水素化ホウ素ナトリウム5.25kgと溶媒であるトリグライム22.2kgとのスラリー混合物を、供給ノズルを通して8.5時間かけて供給した。その後、170℃まで昇温し、昇温後2時間170℃にて熟成した。反応中に生成した水素を含有するガスを凝縮器を通して冷却した後、水素含有ガス排出管を通して反応釜の外へと排出させた。
【0057】
得られた反応液にはN,N’,N”−トリメチルボラジンが4.0kg含まれており、反応収率は79%であった。なお、反応液中のN,N’,N”−トリメチルボラジンは、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した(条件は上記のとおり)。また、供給ノズルの先端には昇華物が付着し、供給途中に供給ノズルが閉塞したため、供給ノズルの交換を行った。さらに、反応釜の内側には、付着物が見られた。
【0058】
続いて、得られた反応液から蒸留を行い、N,N’,N”−トリメチルボラジンを取り出した。留分中のN,N’,N”−トリメチルボラジンの濃度は61%であった。また、この留分中のハロゲン濃度をイオンクロマトグラフィーにより測定したところ、3500質量ppmであった。
【0059】
<比較例2>
供給ノズルの先端が反応液面から反応釜の内側上面までの鉛直方向最大距離の液面から20%(L
2/L
1*100)のところに位置し、かつ、供給ノズル先端が、供給ノズルの先端を含む水平面の、当該水平面による反応器の断面形状における重心を相似の中心としたときの断面形状に対する相似比が0.9(L
4/L
3)のところに位置するように、供給ノズルを設置した。また、供給ノズルの内径は8cmであった。これら以外は、上述した実施例1と同様の反応装置を準備した。
【0060】
上記で準備した反応釜の内部を窒素置換した後、アミン塩として乾燥したメチルアミン塩酸塩を8.40kg、溶媒としてトリグライム30.1kgを仕込み、150℃まで昇温した。昇温後、水素化ホウ素アルカリとして水素化ホウ素ナトリウム5.25kgと溶媒であるトリグライム22.2kgとのスラリー混合物を、供給ノズルを通して15時間かけて供給したが、途中で2回供給ノズルが閉塞したことから、反応を途中で停止した。