【実施例】
【0027】
次に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、各実施例における操作は、特段の記載がない限り、常温、常圧(25℃、0.10MPa)下で行った。
【0028】
(実施例1)
原料として薄層黒鉛化合物(ブリジストンケービージー社製、商品名:WGNP)を用いた。スクリュー管(24mmφ(直径)×50mm)に原料20mgおよびヘキサン10mlを入れ、5分間の超音波処理により、薄層黒鉛化合物を分散させて原料分散液とした(原料分散液の原料質量/有機溶媒体積比:0.002g/ml)。
【0029】
原料分散液を100mlビーカーに入った100mlのイオン交換水にピペットを用いて0.2ml滴下した。原料分散液はイオン交換水表面で油滴状となり薄層黒鉛化合物は凝集した状態となった。その後、薬匙でイオン交換水を撹拌し、原料分散液を水中で再分散させた。撹拌を続け、しばらくすると水の表面にほぼ均一な灰色で半透明な膜が析出した。この膜をスライドガラス(26mm×76mm×1mm厚)に引き上げ、室温で乾燥させた。
図3にスライドガラス上に形成された膜の写真を示す。また、この膜を電子顕微鏡で微細構造を観察した結果(
図4)、ほとんどの粒子が平坦に並んでおり、配向性が高い膜であることが確認できた。
【0030】
(実施例2)配向膜の抵抗測定
図5に示すように銀電極8を形成したスライドガラス9上に、実施例1と同様にして配向膜を形成し、汎用のデジタルマルチメーターを用い、二端子法で抵抗測定を行った。抵抗は、成膜後に測定した後、同一試料について、大気中250℃×1時間の熱処理後、次いで更に大気中500℃×1時間の熱処理後、次いで更に大気中500℃×1時間の熱処理後に行った。表1に結果を示す。成膜直後に比べ、熱処理を行ったものは抵抗が低くなる傾向を示した。これは、粒子同士の間および粒子と電極との間に残存していた水や水酸基などが熱処理により無くなり、密着性が向上して接触抵抗が低下したためと考えられる。また、最後の500℃×1時間の熱処理で抵抗が上がるのは、炭素の一部が酸化により消失したためと考えられる。
【0031】
(実施例3)
原料として、薄層黒鉛化合物(ブリジストンケービージー社製、商品名:WGNP)を薄層化処理したものを用いた。これ以外は実施例2と同様にして成膜および抵抗測定を行った。得られた膜は実施例1と同等な光透過性を示した。測定した抵抗値を表1に示す。実施例2に比べ約1桁低い値が得られた。これは、薄層化による粒子自体の導電率が向上したこと、および薄層化に伴い粒子同士の密着性が向上し、接触抵抗が低下した効果によるものと考えられる。
【0032】
ここで行った薄層化処理は、本願の出願人と同じ出願人によって出願された特願2012−149565号に提案されている方法であり、黒鉛または黒鉛化合物の層間を高圧乳化法により剥離する高圧乳化処理工程を有する、薄層黒鉛または薄層黒鉛化合物の製造方法である。高圧乳化法の原理は、原料を含む液体に高圧をかけて、乳化ノズルと呼ばれる狭い隙間(細孔)を通すことにより、高速流を発生させ、その際のせん断力、摩砕力、衝撃力、キャビテーションなどで、乳化、分散、均質化、微細化を行うものである。
【0033】
具体的には以下のようにして薄層化処理を行った。原料黒鉛化合物(ブリジストンケービージー社製、商品名:WGNP、層厚(積層方向の厚さ)50nm以下、層の面方向の平均粒径約4μm)10gをエタノール100mlに分散させた後、純水900mlで希釈し、原料濃度1.01質量%の懸濁液とした。この懸濁液を高圧乳化機(商品名:DeBEE−2000、BEE International社)を用い、乳化圧力200MPaで、10回通液し、高圧乳化処理を行った。この際、乳化ノズルとして孔径0.13mm、孔長7.5mmのダイヤモンドノズルを用いた。また、処理速度は約300ml/minであったことから、ノズル内での懸濁液の流速は約377m/secと計算された。
【0034】
得られた高圧乳化処理後の懸濁液には微小な凝集体が発生し、凝集体と液相が分離していた。凝集体は吸引濾過により、容易に分離できた。この分離した凝集体を、実施例3における原料(前述の、薄層黒鉛化合物を薄層化処理したもの)として用いた。なお、乾燥した凝集体粒子をSEMにより観察したところ、粒子が薄層化していることが確認できた。高圧乳化後の凝集体の生成は、粒子の薄層化・微細化によるものと考えられた。また、凝集体粒子はエタノールなどの有機溶媒に容易に分散することが確認された。
【0035】
(実施例4)
原料として、薄層黒鉛(鱗片状黒鉛。伊藤黒鉛工業社製、商品名;Z−5F)を実施例3と同じ手法により薄層化処理したものを用いた。これ以外は実施例2と同様にして成膜および抵抗測定を行った。実施例1と同様に半透明膜が得られた。測定した抵抗値を表1に示す。実施例2に比べ約1桁高い値となった。
図6に配向膜の電子顕微鏡写真を示す。粒子は平坦に並んでおり、配向性が高いことが確認できたが、粒子の輪郭がはっきりしており、実施例1の薄層黒鉛化合物の層厚よりも厚いことが推察された。このため粒子自体の導電率が低いことや粒子同士の密着性が比較的低いため抵抗が実施例1に比べ高くなったものと考えられる。
【0036】
(実施例5)
原料分散液の有機溶媒をエタノールに替えた以外は、実施例2と同様にして配向膜を作製し、抵抗測定を行った。有機溶媒がエタノールの場合、ヘキサンとは違い、水に原料分散液を滴下するとほぼ同時に水の表面に薄層黒鉛化合物が析出した。これは、エタノールが水溶性溶媒であるため、エタノールに覆われた薄層黒鉛化合物が水面に浮上するのとほぼ同時にエタノールが水に溶け込むためと考えられる。得られた配向膜の光透過性は実施例1とほぼ同等であった。測定した抵抗値を表1に示す。抵抗もまた実施例1とほぼ同等であり、同様な配向膜が得られたものと考えられた。
【0037】
(実施例6)
原料分散液における原料質量/有機溶媒体積比を0.02g/mlとした以外は実施例1と同じ方法で行ったところ、得られた膜の電子顕微鏡での観察結果は実施例1と同様に、ほとんどの粒子が平坦に並んでいた。
【0038】
(比較例1)
原料分散液の有機溶媒をN−メチルピロリドンとした以外は実施例1と同様にして成膜を試みた。しかし、配向膜は得られず、薄層黒鉛化合物が水中で分散した。
【0039】
(比較例2)
原料分散液における原料質量/有機溶媒体積比を0.10g/mlとした以外は実施例1と同じ方法で行った。水中分散時に多量の凝集体が発生し、均一な配向膜は得られなかった。
【0040】
【表1】