特許第5969905号(P5969905)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5969905薄層黒鉛または薄層黒鉛化合物の配向膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969905
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】薄層黒鉛または薄層黒鉛化合物の配向膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/04 20060101AFI20160804BHJP
【FI】
   C01B31/04 101Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-258524(P2012-258524)
(22)【出願日】2012年11月27日
(65)【公開番号】特開2014-105123(P2014-105123A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】312016056
【氏名又は名称】ハリマ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】高橋 恒
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−241479(JP,A)
【文献】 特開2011−032156(JP,A)
【文献】 特開2011−079701(JP,A)
【文献】 特開2003−238131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 31/00−31/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄層黒鉛および薄層黒鉛化合物からなる群から選ばれる一種もしくは二種以上を原料として用い、有機溶媒中に前記原料を分散させた分散液を水に加え、水中で前記原料を再分散させることにより、水の表面に前記原料の配向膜を析出させる配向膜析出工程を有し、
ここで、前記有機溶媒として、常温における比重が1.0未満の有機溶媒を用い、
前記分散液として、前記有機溶媒の体積に対する前記原料の質量が0.0001〜0.05g/mlである分散液を用いることを特徴とする配向膜の製造方法。
【請求項2】
前記配向膜析出工程の後に、析出した配向膜を耐熱性基板に引き上げた後、乾燥および熱処理を行う工程をさらに有することを特徴とする請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄層黒鉛や薄層黒鉛化合物の配向膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
黒鉛(グラファイト)の結晶構造の基本となるグラフェンは炭素六員環が無限に連なる二次元平面結晶であり、その特異的な結晶構造から、優れた電気的特性、機械的特性、熱的特性、光学的特性、化学的安定性を示し、次世代高速電子デバイス、透明電極、蓄電デバイス、構造材料などの様々な分野への応用が期待されている。
【0003】
薄層黒鉛は、グラフェンが1〜数10層積層した構造を有するものを指す。薄層黒鉛化合物は、薄層黒鉛の層間に電子供与体あるいは電子受容体が挿入された層間化合物や、薄層黒鉛に化学的に官能基が結合したものを指す。
【0004】
これら薄層黒鉛および薄層黒鉛化合物は、単層グラフェンの電気的特性、機械的特性、熱的特性、光学的特性、化学的安定性には及ばないもののそれに準ずる特性を有するものと考えられる。
【0005】
薄層黒鉛および薄層黒鉛化合物の応用として、特に光透過性、電気的特性を考慮した透明電極や導電膜への期待が大きい。
【0006】
薄層黒鉛または薄層黒鉛化合物の導電膜の製造方法として、特許文献1には黒鉛から直接剥離、精製した薄層黒鉛を含む分散液を基板に塗布・乾燥し、薄層黒鉛の薄膜を製造する方法が開示されている。
【0007】
非特許文献1では、強酸化により得られた酸化黒鉛を剥離し合成した薄層酸化黒鉛を含む分散液を基板に塗布・乾燥した後、還元処理を行うことで薄層黒鉛化合物薄膜を製造する方法が開示されている。
【0008】
特許文献2および特許文献3には、化学気相成長法による薄層黒鉛薄膜の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−184264号公報
【特許文献2】特表2008−50228号公報
【特許文献3】特開2012−162442号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】月刊 ディスプレイ、Vol.18、No.1、P67、2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
薄層黒鉛および薄層黒鉛化合物はその構造から導電率の異方性が大きく、層面方向の導電率と層面に垂直方向の導電率とでは約2桁の差がある。そのため、低抵抗の透明電極や導電膜を得るためには、薄層黒鉛または薄層黒鉛化合物粒子を、透明電極や導電膜の面方向に配向させる必要がある。
【0012】
特許文献1および非特許文献1の方法では、分散液の乾燥時に部分的に凝集が起こるため、均一な配向膜を得ることが困難で、膜の抵抗が大きくなる傾向がある。
【0013】
また、特許文献2に記載される化学気相成長法では、高額な装置が必要なことや、銅などの触媒金属表面に一旦薄層黒鉛薄膜を形成した後に透明なプラスチィック基板に転写する必要があるため、工程が複雑であり、製造コストが高くなる。
【0014】
本発明の目的は、薄層黒鉛または薄層黒鉛化合物が均一に配向した配向膜を容易に製造することのできる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明により、
薄層黒鉛および薄層黒鉛化合物からなる群から選ばれる一種もしくは二種以上を原料として用い、有機溶媒中に前記原料を分散させた分散液を水に加え、水中で前記原料を再分散させることにより、水の表面に前記原料の配向膜を析出させる配向膜析出工程を有し、
ここで、前記有機溶媒として、常温における比重が1.0未満の有機溶媒を用い、
前記分散液として、前記有機溶媒の体積に対する前記原料の質量が0.0001〜0.05g/mlである分散液を用いることを特徴とする配向膜の製造方法
が提供される。
【0016】
この方法は、前記配向膜析出工程の後に、析出した配向膜を耐熱性基板に引き上げた後、乾燥および熱処理を行う工程をさらに有することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、薄層黒鉛または薄層黒鉛化合物が均一に配向した配向膜を容易に製造することのできる方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】配向膜の製造工程の一形態を説明するための図である。
図2】配向膜の析出原理を説明するための図である。
図3】実施例1で得られた黒鉛化合物配向膜の写真である。
図4】実施例1で得られた黒鉛化合物配向膜の電子顕微鏡写真である。
図5】抵抗測定用スライドガラスを示す図である。
図6】実施例4で得られた黒鉛配向膜の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明において用いられる原料としては、薄層黒鉛、薄層黒鉛化合物の何れであってもよい。原料として一種類のみの薄層黒鉛を用いることができ、あるいは、一種類のみの薄層黒鉛化合物を用いることもできる。また、二種以上の薄層黒鉛を用いることもでき、あるいは、二種以上の薄層黒鉛化合物を用いることもできる。一種もしくは二種以上の薄層黒鉛と、一種もしくは二種以上の薄層黒鉛化合物とを併用することもできる。すなわち、薄層黒鉛および薄層黒鉛化合物からなる群から選ばれる一種もしくは二種以上を原料として用いることができる。
【0020】
なお、薄層黒鉛および薄層黒鉛化合物の厚さ(層方向の厚さ)は、例えば100nm以下である。
【0021】
有機溶媒中に原料を分散させた分散液(以下、原料分散液と呼ぶことがある)の有機溶媒として、比重1.0未満の有機溶媒を用いる。その比重は、0.9未満が好ましく、0.8未満がより好ましい。比重が1.0以下であると、水の表面に配向膜が容易に析出し、原料が沈殿あるいは水中に分散してしまうことを容易に防止できる。ここでいう比重は、常温(典型的には25℃)における比重である(基準物質もその常温における水とする)。
【0022】
原料分散液における、有機溶媒の体積に対する原料の質量の比は、0.0001〜0.05g/mlとする。0.0001g/ml以上であると、原料分散液の滴下量が多くなって表面析出した油膜(油膜については後述する)が厚くなることを容易に防止でき、原料の再凝集を容易に防止でき、均一な配向膜を得ることが容易である。また、0.05g/ml以下、好ましくは0.02g/ml以下であると、原料を水中に再分散させることが容易であり、凝集物の発生を容易に防止でき、均一な配向膜を得ることが容易である。
【0023】
本発明の配向膜の製造工程の一形態を図1に示す。原料分散液2を水1に滴下し、その後、水中で原料の撹拌分散(再分散)を行うという簡便な手法で、水の表面に配向膜3を得ることができる。なお、攪拌は必要に応じて行えばよく、例えば有機溶媒としてエタノールを用いた場合など、攪拌せずとも原料を水中に再分散させることができることもある。
【0024】
配向膜の析出原理については、必ずしも明らかにはなっていないが、図2に示す原理で析出するものと考えている。有機溶媒5で覆われた原料の粒子4が水1中で単分散された後、蓮の葉状の氷のように水の表面に浮上する。水の表面に単分散状態で平坦に並んだ原料粒子を含む油膜6(有機溶媒の膜)が形成される。油膜形成の後に有機溶媒が蒸発するか、あるいは、油膜形成とほぼ同時に有機溶媒が水に溶け込むことによって、原料の配向膜7だけが析出する。
【0025】
本発明によれば、原料分散液を水に加え(例えば滴下し)、必要に応じて撹拌するという簡便な手法によって、原料の配向膜を容易かつ効率的に製造することができる。したがって、電気伝導性、透明性、機械的特性等に優れた、薄層黒鉛および/または薄層黒鉛化合物の配向膜を容易に製造することが可能となる。
【0026】
本発明の方法は、耐熱性基板に引き上げた後、乾燥および熱処理を行う工程をさらに有することができる。これによって、原料の配向膜が、基板に付いた状態で得られる。つまり基板付配向膜を得ることができる。例えば、水の表面に析出した配向膜を、ガラス基板等に容易に引き上げることができる。また、必要に応じて、配向膜を乾燥させること、すなわち、有機溶剤や水を蒸発させて除去することができる。さらに、乾燥の後に、熱処理を行うことができる。
【実施例】
【0027】
次に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、各実施例における操作は、特段の記載がない限り、常温、常圧(25℃、0.10MPa)下で行った。
【0028】
(実施例1)
原料として薄層黒鉛化合物(ブリジストンケービージー社製、商品名:WGNP)を用いた。スクリュー管(24mmφ(直径)×50mm)に原料20mgおよびヘキサン10mlを入れ、5分間の超音波処理により、薄層黒鉛化合物を分散させて原料分散液とした(原料分散液の原料質量/有機溶媒体積比:0.002g/ml)。
【0029】
原料分散液を100mlビーカーに入った100mlのイオン交換水にピペットを用いて0.2ml滴下した。原料分散液はイオン交換水表面で油滴状となり薄層黒鉛化合物は凝集した状態となった。その後、薬匙でイオン交換水を撹拌し、原料分散液を水中で再分散させた。撹拌を続け、しばらくすると水の表面にほぼ均一な灰色で半透明な膜が析出した。この膜をスライドガラス(26mm×76mm×1mm厚)に引き上げ、室温で乾燥させた。図3にスライドガラス上に形成された膜の写真を示す。また、この膜を電子顕微鏡で微細構造を観察した結果(図4)、ほとんどの粒子が平坦に並んでおり、配向性が高い膜であることが確認できた。
【0030】
(実施例2)配向膜の抵抗測定
図5に示すように銀電極8を形成したスライドガラス9上に、実施例1と同様にして配向膜を形成し、汎用のデジタルマルチメーターを用い、二端子法で抵抗測定を行った。抵抗は、成膜後に測定した後、同一試料について、大気中250℃×1時間の熱処理後、次いで更に大気中500℃×1時間の熱処理後、次いで更に大気中500℃×1時間の熱処理後に行った。表1に結果を示す。成膜直後に比べ、熱処理を行ったものは抵抗が低くなる傾向を示した。これは、粒子同士の間および粒子と電極との間に残存していた水や水酸基などが熱処理により無くなり、密着性が向上して接触抵抗が低下したためと考えられる。また、最後の500℃×1時間の熱処理で抵抗が上がるのは、炭素の一部が酸化により消失したためと考えられる。
【0031】
(実施例3)
原料として、薄層黒鉛化合物(ブリジストンケービージー社製、商品名:WGNP)を薄層化処理したものを用いた。これ以外は実施例2と同様にして成膜および抵抗測定を行った。得られた膜は実施例1と同等な光透過性を示した。測定した抵抗値を表1に示す。実施例2に比べ約1桁低い値が得られた。これは、薄層化による粒子自体の導電率が向上したこと、および薄層化に伴い粒子同士の密着性が向上し、接触抵抗が低下した効果によるものと考えられる。
【0032】
ここで行った薄層化処理は、本願の出願人と同じ出願人によって出願された特願2012−149565号に提案されている方法であり、黒鉛または黒鉛化合物の層間を高圧乳化法により剥離する高圧乳化処理工程を有する、薄層黒鉛または薄層黒鉛化合物の製造方法である。高圧乳化法の原理は、原料を含む液体に高圧をかけて、乳化ノズルと呼ばれる狭い隙間(細孔)を通すことにより、高速流を発生させ、その際のせん断力、摩砕力、衝撃力、キャビテーションなどで、乳化、分散、均質化、微細化を行うものである。
【0033】
具体的には以下のようにして薄層化処理を行った。原料黒鉛化合物(ブリジストンケービージー社製、商品名:WGNP、層厚(積層方向の厚さ)50nm以下、層の面方向の平均粒径約4μm)10gをエタノール100mlに分散させた後、純水900mlで希釈し、原料濃度1.01質量%の懸濁液とした。この懸濁液を高圧乳化機(商品名:DeBEE−2000、BEE International社)を用い、乳化圧力200MPaで、10回通液し、高圧乳化処理を行った。この際、乳化ノズルとして孔径0.13mm、孔長7.5mmのダイヤモンドノズルを用いた。また、処理速度は約300ml/minであったことから、ノズル内での懸濁液の流速は約377m/secと計算された。
【0034】
得られた高圧乳化処理後の懸濁液には微小な凝集体が発生し、凝集体と液相が分離していた。凝集体は吸引濾過により、容易に分離できた。この分離した凝集体を、実施例3における原料(前述の、薄層黒鉛化合物を薄層化処理したもの)として用いた。なお、乾燥した凝集体粒子をSEMにより観察したところ、粒子が薄層化していることが確認できた。高圧乳化後の凝集体の生成は、粒子の薄層化・微細化によるものと考えられた。また、凝集体粒子はエタノールなどの有機溶媒に容易に分散することが確認された。
【0035】
(実施例4)
原料として、薄層黒鉛(鱗片状黒鉛。伊藤黒鉛工業社製、商品名;Z−5F)を実施例3と同じ手法により薄層化処理したものを用いた。これ以外は実施例2と同様にして成膜および抵抗測定を行った。実施例1と同様に半透明膜が得られた。測定した抵抗値を表1に示す。実施例2に比べ約1桁高い値となった。図6に配向膜の電子顕微鏡写真を示す。粒子は平坦に並んでおり、配向性が高いことが確認できたが、粒子の輪郭がはっきりしており、実施例1の薄層黒鉛化合物の層厚よりも厚いことが推察された。このため粒子自体の導電率が低いことや粒子同士の密着性が比較的低いため抵抗が実施例1に比べ高くなったものと考えられる。
【0036】
(実施例5)
原料分散液の有機溶媒をエタノールに替えた以外は、実施例2と同様にして配向膜を作製し、抵抗測定を行った。有機溶媒がエタノールの場合、ヘキサンとは違い、水に原料分散液を滴下するとほぼ同時に水の表面に薄層黒鉛化合物が析出した。これは、エタノールが水溶性溶媒であるため、エタノールに覆われた薄層黒鉛化合物が水面に浮上するのとほぼ同時にエタノールが水に溶け込むためと考えられる。得られた配向膜の光透過性は実施例1とほぼ同等であった。測定した抵抗値を表1に示す。抵抗もまた実施例1とほぼ同等であり、同様な配向膜が得られたものと考えられた。
【0037】
(実施例6)
原料分散液における原料質量/有機溶媒体積比を0.02g/mlとした以外は実施例1と同じ方法で行ったところ、得られた膜の電子顕微鏡での観察結果は実施例1と同様に、ほとんどの粒子が平坦に並んでいた。
【0038】
(比較例1)
原料分散液の有機溶媒をN−メチルピロリドンとした以外は実施例1と同様にして成膜を試みた。しかし、配向膜は得られず、薄層黒鉛化合物が水中で分散した。
【0039】
(比較例2)
原料分散液における原料質量/有機溶媒体積比を0.10g/mlとした以外は実施例1と同じ方法で行った。水中分散時に多量の凝集体が発生し、均一な配向膜は得られなかった。
【0040】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6