(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記除去ステップにより前記高さ成分が除去された前記対象1次元高さデータの最高値と最低値との差を前記対象タイヤのランナウト値として算出するランナウト算出ステップを更に備える請求項1記載の計測方法。
【背景技術】
【0002】
タイヤは、ゴムや化学繊維、スチールコード等の各種材料が積層された複雑な積層構造を有している。複雑な積層構造を有するタイヤの接地面(トレッド面)では、タイヤの半径の変動に起因する縦振れ(ラジアルランナウト)を防止するために、半径の均一性を確保し、接地面のうねり(ランナウト)を抑制する必要がある。一方、サイドウォール面ではランナウトに加えバルジやデントと呼ばれる凹凸が生じることがあり、これらも同様に抑制する必要がある。
【0003】
したがって、タイヤの製造工程では、タイヤに対してトレッド面、サイドウォール面の形状を検査し、検査した形状を評価する必要がある。
【0004】
そこで、タイヤ製造の最終工程(タイヤ加硫後の検査工程)では、特にトレッド面のランナウト値の計測やサイドウォール面での形状不良の検査が行われている。トレッド面には溝、サイドウォール面には文字や模様に起因する意図的な凸部が存在し、近年ではそれらの影響を受けないようにタイヤ形状を計測する手段が求められている。
【0005】
近年、タイヤのランナウト値を計測する技術においては、レーザ距離センサ、三次元形状計測装置、又はカメラ等を用いてランナウト値を計測し、計測したランナウト値からタイヤを自動的に評価する試みが行われている。
【0006】
特許文献1には、光学変位計によりタイヤの1ライン分のサンプルデータを計測し、計測したサンプルデータから予め定められた信号パターンを除去することで、タイヤの表面に不要な凹凸が存在しても計測ラインを選ぶことなくタイヤの形状を計測する形状計測装置が開示されている。
【0007】
特許文献2には、非接触の変位形を用いてタイヤのドレッド面を周方向に走査してタイヤ1周分の数値データを取得し、注目位置の数値データと、注目位置に対して前後複数個の数値データ群のメジアンとの差が閾値より大きい場合、注目位置の数値データをノイズと判定する技術が開示されている。
【0008】
特許文献3では、サイドウォール面において、意図的な凸部を含む位置と当該凸部が含まれていない位置との2ラインのタイヤ表面の凹凸変位量を計測して2ラインの原波形A、Bを生成する。次に、生成した原波形A、Bのうねり成分を示す近似曲線A1、B1を生成し、原波形A、Bから近似曲線A1、B1を減じて、凹凸波形A2、B2を生成する。次に、凹凸波形A2と凹凸波形B2とを乗じ、意図的な模様が除去された凹凸形状を算出する。そして、その凹凸形状から欠陥凹凸を検出する技術が開示されている。
【0009】
特許文献4では、タイヤ表面の1次元の計測データを円状に並べて2次元の計測データに変換し、2次元の計測データに対して凸包型フィルタを適用し、凸包上に位置する計測データを抽出し、抽出した計測データを1次元の計測データに戻すことが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
タイヤの欠陥を示す凹凸は、文字や模様等の意図的に形成された凸部との判別が極めて困難であり、1ラインのみの計測データでは、意図的に形成された凸部を計測データから正確に取り除くことができず、凸部を、欠陥を示す凹凸と判定する可能性がある。
【0012】
特許文献1、2、4はいずれも1次元のデータしか計測されていないため、意図的に形成された凸部を正確に検出することができないという問題がある。また、特許文献3では、2ラインの計測データが計測されているが、これら2ラインの計測データは空間的に離れて位置しているため、意図的に形成された凸部を正確に検出することができないという問題がある。
【0013】
また、近年、ラインレーザを用いて一度に1ラインの計測データを取得する技術が開発されている。しかしながら、ラインレーザを用いたシステムはポイントレーザ式に比べ非常に高価になるという問題がある。
【0014】
本発明の目的は、ラインレーザを用いなくてもタイヤに意図的に形成された凸部を正確に抽出してタイヤから凸部の影響を排除し、正確にタイヤの表面形状を測定する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)本発明の一態様による計測方法は、凸部が形成されたタイヤのトレッド面又はサイドウォール面を計測面とし、前記計測面の表面形状を計測する計測方法であって、
前記計測面に
スポット光源からのスポット光を照射し、前記スポット光を主走査方向に走査させて反射光を受光して1ラインの計測データを取得する計測処理を、前記スポット光を副走査方向にずらしながら複数回実行し、複数の計測データを取得する第1計測ステップと、
前記複数の計測データのそれぞれから1次元高さデータを生成し、生成した複数の1次元高さデータをマトリックス状に配列し、前記計測面の2次元高さデータを生成する第1取得ステップと、
前記2次元高さデータから輪郭抽出フィルタを用いて前記凸部
の輪郭を抽出し、抽出した輪郭で囲まれた領域を前記凸部として抽出し、抽出した凸部の位置を前記2次元高さデータに対応付け、基準形状データを生成する生成ステップとを備え、
前記生成ステップでは、前記2次元高さデータの各位置の高さデータから前記凸部を除く背後領域の各位置の高さデータの平均値又は中央値を前記背後領域の基準値として求め、前記凸部の各位置の高さデータから前記基準値を減じることで、前記凸部の各位置の高さ成分を生成し、前記生成した高さ成分を前記二次元高さデータに対応付
け、
計測対象となる対象タイヤの前記計測面に対し、前記計測処理を実行し、前記1ラインの計測データを取得する第2計測ステップと、
前記第2計測ステップにより取得された計測データに基づき、1次元高さデータを生成する第2取得ステップと、
前記第2取得ステップにより取得された1次元高さデータである対象1次元高さデータと、前記対象1次元高さデータに対して前記副走査方向の位置が同一である前記基準形状データの1次元高さデータとを比較し、前記対象1次元高さデータから前記凸部の高さ成分を除去する除去ステップとを更に備え、
前記除去ステップでは、前記副走査方向の位置が同一である前記基準形状データの1次元高さデータから前記対象1次元高さデータにおける凸部の領域を特定し、特定した凸部の各位置の高さデータから高さ成分を減じることで、前記対象1次元高さデータから前記凸部を除去する。
【0016】
この構成によれば、スポット光を主走査方向に走査することで1ラインの計測データを取得する計測処理が行われる。そして、スポット光を副走査方向にずらしながら計測処理が繰り返され、複数の計測データが取得され、計測面全域の2次元高さデータが生成される。そのため、ラインレーザを用いて計測面全域の2次元の高さデータを生成する構成を採用する場合に比べて、装置の低コスト化を図ることができる。
【0017】
また、2次元高さデータに対して2次元の輪郭抽出フィルタを用いて凸部が抽出されている。そのため、注目する位置に対して主走査方向に隣接する高さデータのみならず、副走査方向に隣接する高さデータの情報も用いてエッジ値を算出することができ、意図的に形成された文字や模様等の凸部の輪郭を高精度に抽出することができる。
また、この構成によれば、計測対象となる対象タイヤに対して1ラインの計測データが取得され、対象1次元高さデータが取得されている。そして、対象1次元高さデータと副走査方向の位置が同じである1次元高さデータが基準形状データから特定される。そして、対象1次元高さデータと特定された1次元高さデータとが比較され、対象1次元高さデータから凸部の高さ成分が除去されている。そのため、対象1次元高さデータから凸部を正確に除去することができる。また、対象1次元高さデータから凸部が除去されているため、このデータを用いてタイヤの欠陥を正確に判定することができる。
【0019】
この構成によれば、計測対象となる対象タイヤに対して1ラインの計測データが取得され、対象1次元高さデータが取得されている。そして、対象1次元高さデータと副走査方向の位置が同じである1次元高さデータが基準形状データから特定される。そして、対象1次元高さデータと特定された1次元高さデータとが比較され、対象1次元高さデータから凸部の高さ成分が除去されている。そのため、対象1次元高さデータから凸部を正確に除去することができる。また、対象1次元高さデータから凸部が除去されているため、このデータを用いてタイヤの欠陥を正確に判定することができる。
【0020】
(
2)前記除去ステップにより前記高さ成分が除去された前記対象1次元高さデータの最高値と最低値との差を前記対象タイヤのランナウト値として算出するランナウト算出ステップを更に備えることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、凸部の高さ成分が除去された対象1次元高さデータを用いて、ランナウト値が算出されているため、凸部の影響を受けていないランナウト値を得ることができ、このランナウト値を用いて対象タイヤの欠陥を正確に評価することができる。
【0022】
(
3)前記輪郭抽出フィルタはソーベルフィルタであることが好ましい。
【0023】
この構成によれば、ソーベルフィルタが用いられているため、2次元高さデータから凸部の輪郭を精度良く抽出することができる。
【0024】
(
4)前記計測面が前記トレッド面である場合、前記主走査方向はタイヤの周方向であり、前記副走査方向は前記タイヤの幅方向であり、前記計測面が前記サイドウォール面である場合、前記主走査方向は前記タイヤの回転軸を中心とする同心円の方向であり、前記副走査方向は前記タイヤの径方向であることが好ましい。
【0025】
この構成によれば、計測面に応じて適切な主走査方向及び副走査方向にスポット光を照射することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ラインレーザを用いなくてもタイヤに意図的に形成された凸部を正確に抽出することで、凸部の影響を排除し、正確にタイヤの表面形状を測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図4は、計測対象のタイヤTの外観を示す模式図であり、(A)はタイヤTのサイドウォール面T2を示し、(B)はタイヤTのトレッド面T1を示している。タイヤTは、路面に対してほぼ垂直に立つ2つのサイドウォール面T2と、これら2つのサイドウォール面T2を繋ぐトレッド面T1とを含む。
【0029】
トレッド面T1は、タイヤTの径外方向に張り出するように湾曲した形状を持ち、タイヤTの外周を取り囲む。トレッド面T1には、径外方向に突出し、頂部が接地面となる複数のブロックBが形成されている。また、トレッド面T1には、ブロックBに挟まれた溝Cが形成されている。サイドウォール面T2には、多数の文字が凸状に形成され、複雑な凹凸が形状が形成されている。サイドウォール面T2に形成された文字は、例えば、タイヤの種類やメーカー名等を表す。また、サイドウォール面T2には文字以外にも細かい模様が形成され、周方向に細かい凹凸分布がある。本実施の形態では、トレッド面T1又はサイドウォール面T2を計測面とし、計測面の高さデータを得る。
【0030】
図1は、本発明の実施の形態による計測装置1の全体構成図である。計測装置1は、回転部2、センサ部3、エンコーダ4、画像処理部5、及びユニット駆動部10を含む。回転部2は、タイヤTを回転軸Rを中心軸として回転させる。具体的には、回転部2は、タイヤTの中心軸に取り付けられるシャフト及びシャフトを回転させるためのモータ等を含む。回転部2によるタイヤTの回転速度としては、例えば60rpmが採用される。
【0031】
センサ部3は、タイヤTのトレッド面側に設けられたセンサ部31と、タイヤTのサイドウォール面の上側に設けられたセンサ部32と、タイヤTのサイドウォール面の下側に設けられたセンサ部32とが存在する。センサ部31はトレッド面を計測する際に用いられ、センサ部32は上側のサイドウォール面を計測する際に用いられ、センサ部33は下側のサイドウォール面を計測する際に用いられる。
【0032】
センサ部31は、回転中のタイヤTにスポット光を照射することでスポット光をトレッド面の周方向(主走査方向)に走査し、タイヤTからの反射光を受光し、トレッド面の高さの情報を含む1ラインの計測データを取得する計測処理を実行する。そして、センサ部31は、1ラインの計測データを取得すると、ユニット駆動部10の制御の下、上下方向に所定ピッチ移動し、スポット光をタイヤTの幅方向(副走査方向)にずらし、再度、計測処理を実行し、1ラインの計測データを取得する。センサ部31は、このような計測処理を繰り返し回実行し、トレッド面の全域の計測データを取得する。
【0033】
センサ部32、33も、センサ部33と同様にして、それぞれ、スポット光を副走査方向にずらしながら、計測処理を複数回実行し、サイドウォール面の全域の計測データを取得する。なお、サイドウォール面を計測する場合、主走査方向は、回転軸Rを中心とする同心円の方向となり、副走査方向は、サイドウォール面の径方向となる。
【0034】
エンコーダ4は、タイヤTが所定角度回転する毎に、回転角度を示す角度信号を画像処理部5に出力する。角度信号は、センサ部3の計測タイミングを決定するために用いられる。
【0035】
画像処理部5は、例えば、専用のハードウェア回路や、CPU等により構成され、センサ部3から出力された計測データに対して後述する処理を行う。ユニット駆動部10は、センサ部31〜33を副走査方向に走査するための3本のアーム(図略)及び3本のアームをそれぞれ移動させるための3個のモータ等を含み、画像処理部5の制御の下、センサ部31〜33を位置決めする。
【0036】
なお、
図1において、センサ部3としてセンサ部31〜33を設ける態様を示したが、これに限定されない。例えば、センサ部31〜33のうちいずれか1個又は2個を省いてもよい。また、1つのセンサ部3を設ける場合、トレッド面の形状を計測するニーズが高いため、センサ部31を設けることが好ましい。
【0037】
図2は、センサ部3の詳細な構成図である。
図2では、トレッド面を計測する際のセンサ部3が示されている。
図2において、Y軸は回転軸R(
図1参照)と平行な副走査方向を示し、Z軸は計測点Pの法線方向を示し、X軸はY軸及びZ軸のそれぞれと直交する方向を示している。
【0038】
光源7は、半導体レーザ及び集光レンズ等を含むスポット光源であり、計測面に小径のスポット光201を照射し計測点Pを形成する。ここで、光源7は、Z軸と交差する方向からスポット光を照射する。タイヤTは回転部2によって回転されているため、スポット光201はタイヤTの計測面の全周を走査することができる。
【0039】
カメラ6は、カメラレンズ8、撮像素子(受光素子)9、及びデータ処理部(図略)を含む。カメラレンズ8は計測点Pからの反射光202を撮像素子9に導く。撮像素子9は、例えば、CCDやCOMS等のイメージセンサにより構成され、カメラレンズ8を介して反射光202を受光する。撮像素子9は、画像処理部5の制御の下、計測点Pを撮像する。データ処理部(図略)は、撮像素子9により撮像された撮像データから反射光の受光位置を特定する。そして、データ処理部は、タイヤTが1周する間に、特定した複数の受光位置を撮像素子9の画像メモリにプロットしていき、1枚の画像データを生成し、計測データとして画像処理部5に出力する。
【0040】
計測点Pの高さが変化すると、その変化に応じて反射光の受光位置も変化する。この変化が撮像素子9の例えば水平方向hに現れるとすると(
図1参照)、データ処理部は、受光位置の水平方向hの座標を垂直方向vに一定のピッチで画像メモリにプロットしてゆき、1ライン分の計測データを示す撮像データを生成し、画像処理部5に出力する。
【0041】
なお、反射光202は正反射光が好ましいため、カメラレンズ8は正反射光を撮像素子9に導くように構成される。
【0042】
図3は、
図1に示す計測装置1の機能構成を示すブロック図である。計測装置1は、計測部301、処理部310、表示部320、及び操作部330を含む。計測部301は、
図1に示す、回転部2、センサ部3、及びユニット駆動部10を含み、基準タイヤに対して、1ラインの計測データを取得する計測処理を繰り返し実行し、複数ラインの計測データを取得する。また、計測部301は、基準タイヤとは異なる計測対象となる対象タイヤの計測面に対し、計測処理を実行し、1ラインの計測データを取得する。
【0043】
処理部310は、
図1に示す画像処理部5により構成され、第1取得部311、生成部312、記憶部313、第2取得部314、除去部315、及びランナウト算出部316を含む。
【0044】
第1取得部311は、計測部301により計測された複数の計測データのそれぞれから1ラインの高さデータを生成し、生成した複数の1次元高さデータをマトリックス状の配列し、計測面の2次元高さデータを生成する。これにより、例えば、主走査方向のデータ数がN個、副走査方向のデータ数がM個とすると、M行×N列で高さデータが配列された2次元高さデータが得られる。
【0045】
ここで、第1取得部311は、1ラインの計測データに対して三角測量法などの幾何学的な手法を適用することで、1次元高さデータを算出すればよい。なお、第1取得部311は、三角測量法に変えて、TOF(Time of Flight)法を用いて1次元高さデータを算出してもよい。
【0046】
生成部312は、2次元高さデータから輪郭抽出フィルタを用いて凸部を抽出し、抽出した凸部の位置を2次元高さデータに対応付け、基準形状データを生成する。ここで、凸部は、意図的に形成されたものであり、計測面において立体的に形成された文字や模様が該当する。
図4(A)の例では、サイドウォール面T2に立体的に形成された文字が凸部に該当する。また、
図4(B)の例では、ブロックBが凸部に該当する。
【0047】
ここで、輪郭抽出フィルタとしては、例えば、ソーベルフィルタを採用することができる。但し、これは一例であり、凸部の輪郭を抽出することができる2次元の微分フィルタであればどのようなフィルタを採用してもよい。
【0048】
具体的には、生成部312は、2次元高さデータの各位置を注目位置として順次に設定し、注目位置に対して輪郭抽出フィルタの中心を重ね、2次元のフィルタ処理を行い、注目位置のエッジ値を算出する。つまり、生成部312は、2次元高さデータに対して2次元の輪郭抽出フィルタを例えばラスタ走査するようにずらしていき、各注目位置のエッジ値を算出する。そして、エッジ値が規定値よりも大きければ、そのエッジ値の位置は凸部の輪郭を表すと判定する。そして、生成部312は、エッジ値が規定値よりも大きな高さデータで囲まれた領域を凸部と判定し、凸部と判定した領域内の高さデータに対して凸部の高さを示す高さ成分を対応付ける。なお、高さ成分の算出の詳細については後述する。
【0049】
このように、本実施の形態では、生成部312は、2次元高さデータに対して2次元の輪郭抽出フィルタを用いて凸部の輪郭を抽出している。そのため、注目する位置に対して主走査方向に隣接する高さデータのみならず、副走査方向に隣接する高さデータの情報も用いて凸部の輪郭を抽出することができる。よって、1次元高さデータに対して1次元的なフィルタ処理を行って凸部の輪郭を抽出する場合に比較して、本実施の形態では凸部の輪郭を高精度に抽出することができる。
【0050】
基準形状データは、上述したように副走査方向にM個、主走査方向にN個の高さデータが配列されたデータ構造を有している。更に、基準形状データは、凸部に含まれる高さデータについては、凸部の高さ成分を示すデータが対応付けられている。以下、基準形状データにおける2次元高さデータのある位置の高さデータをHr(i、j)と表す。但し、iは1〜Mの整数であり、jは1〜Nの整数である。
【0051】
記憶部313は、例えば、不揮発性の書き換え可能な記憶装置により構成され、生成部312により生成された基準高さデータを記憶する。
【0052】
第2取得部314は、対象タイヤに対して計測部301により計測された1ラインの形状データから1次元高さデータを取得する。ここで、対象タイヤから取得された1次元高さデータを、基準タイヤの1次元高さデータと区別するために、対象1次元高さデータと記述する。
【0053】
除去部315は、対象1次元高さデータと、対象1次元高さデータに対して副走査方向の位置が同一である基準形状データの1次元高さデータ(基準1次元高さデータ)とを比較し、対象1次元高さデータから凸部の高さ成分を除去する。例えば、対象1次元高さデータがM=2の1次元高さデータであるとすると、除去部315は、記憶部313に記憶された基準形状高さデータからM=2の1次元高さデータを基準1次元高さデータとして読み出す。そして、基準1次元高さデータにおいて、N=3の高さデータHr(2、3)が凸部の高さデータあるとすると、除去部315は、対象1次元高さデータの位置のN=3の高さデータH(2、3)から、高さデータHr(2、3)に対応付けられた高さ成分Δh(2、3)を減じ、対象1次元高さデータから凸部の高さ成分Δhを除去する。
【0054】
ランナウト算出部316は、除去部315により高さ成分Δhが除去された対象1次元高さデータの最大値と最小値とを特定し、最大値と最小値との差分をランナウト値として算出する。
【0055】
表示部320は、液晶パネル等の表示装置により構成され、処理部310による処理結果を表示する。操作部330は、タッチパネルや種々のボタンにより構成され、ユーザからの操作指示を受け付ける。
【0056】
図5は、センサ部3がタイヤTを計測する様子を示した模式図である。
図5では、タイヤTはトレッド面T1が正面を向いている。センサ部31は、回転するタイヤTのトレッド面T1の計測点Pにスポット光を照射し、1ラインの計測データを取得する。そして、センサ部31は、1ラインの計測データを取得すると、下方向に所定ピッチ移動し、次の1ラインの計測データを取得する。センサ部31は、この処理を繰り返し、トレッド面T1の全域の計測データを取得する。
【0057】
また、センサ部32もセンサ部31と同様、サイドウォール面T2の計測点Pにスポット光を照射して、1ラインの計測データを取得する。そして、センサ部32は、1ラインの計測データを取得すると、右方向に所定ピッチ移動し、次の1ラインの計測データを取得する。これにより、サイドウォール面T2の全域の計測データが得られる。
【0058】
図6は、サイドウォール面T2の副走査方向のある位置における1次元高さデータの計測結果の一例を示したグラフである。
図6において、縦軸は高さを例えばミリメートルオーダーで示し、横軸は主走査方向のデータ数を示す。なお、データ数は、カメラ6の撮像レートに応じて決定され、撮像レートが高くなるにつれて増大する。
【0059】
図6に示すように、1次元高さデータには、文字や模様の凸部が現れていることがわかる。このままランナウト値を求めてしまうと、ランナウト値が意図的に形成された凸部の影響を受け、タイヤの欠陥を正確に評価することができない。
【0060】
そこで、本実施の形態では、対象タイヤの計測を開始する前に、対象タイヤと同じ位置に同じ凸部が設けられた基準タイヤに対して上述した計測を行い、基準形状データを求め、記憶部313に記憶させておく。つまり、対象タイヤと種類が同じタイヤである基準タイヤの基準形状データを予め求めておく。
【0061】
より詳しくは、
図5に示すように、サイドウォール面T2に対しては半径方向に、トレッド面T1に対しては幅方向に、それぞれ、1mm以下のオーダーのピッチでスポット光を走査して、計測データを取得し、取得した計測データから基準形状データを算出する。なお、ピッチの数値である1mm以下のオーダーは、一例にすぎず、タイヤのサイズや使用するスポット光のスポット径の大きさに応じて、適当な値を採用すればよい。
【0062】
そして、対象タイヤに対して1ラインの計測データが取得され、対象1次元高さデータが求められ、対象1次元高さデータと副走査方向の位置が同じである基準1次元高さデータとが比較され、対象1次元高さデータから凸部の高さ成分が減じられる。これにより、凸部の影響が除去された対象1次元高さデータを用いてランナウト値を求めることができ、タイヤの欠陥の評価に適したランナウト値を求めることができる。
【0063】
図7(A)は、高さデータを濃淡で示した場合の基準タイヤの2次元高さデータの一例を示した図である。
図7(B)は
図7(A)の2次元高さデータに対して凸部の輪郭702を重ねて表した図である。
図7(C)は
図7(A)の2次元高さデータから凸部701の高さ成分が除去された2次元高さデータの一例を示す図である。
【0064】
図7(A)では、凸部701として、「123/45 6 789」の文字が採用されている。
図7(A)に示す2次元高さデータに対して2次元の輪郭抽出フィルタを用いてフィルタ処理が実行される。ここでは、2次元の輪郭抽出フィルタとして、ソーベルフィルタが用いられている。但し、これは一例であり、2次元の輪郭抽出フィルタとしては、ラプラシアンフィルタ等の輪郭を抽出することができるフィルタであれば、どのようなフィルタを採用してもよい。また、種類の異なるフィルタを組み合わせて使用してもよい。例えば、2次元高さデータに対してソーベルフィルタ及びラプラシアンフィルタをそれぞれ個別に適用し、各位置のエッジ値の平均値を閾値と比較することで輪郭が抽出されてもよい。或いは、両フィルタを用いた場合の各位置のエッジ値の重み付け平均値を閾値と比較することで輪郭が抽出されてもよい。
【0065】
図7(A)に示す2次元高さデータに対してソーベルフィルタを用いてフィルタ処理を行うと、
図7(B)に示すように、エッジ値が閾値より大きい位置が凸部の輪郭702として抽出される。
【0066】
次に、輪郭702で囲まれた領域が凸部701として抽出され、2次元高さデータにおいて、凸部701以外の背後領域703の各位置の高さデータの基準値が算出される。ここで、高さデータの基準値としては、背後領域703の高さデータの平均値を採用してもよいし、中央値を採用してもよい。
【0067】
次に、凸部701の各位置の高さデータから高さデータの基準値が減じられ、凸部701の各位置の高さ成分Δhが算出され、
図7(A)に示す2次元高さデータと対応付けられて基準形状データが生成される。例えば、2次元高さデータのある位置(i、j)が凸部701に属しているとすると、高さ成分Δh(i、j)のデータ構造を持つ高さ成分が生成される。これにより、位置(i、j)は凸部701に属し、かつ、その高さ成分の値はΔh(i、j)であることが分かる。
【0068】
そして、
図7(A)に示す2次元高さデータから高さ成分Δhを減じると、
図7(C)に示す2次元高さデータが得られる。
図7(C)に示す2次元高さデータでは、
図7(A)で現れていた凸部701が除去されていることが分かる。なお、
図7(C)では、輪郭702の高さデータについては、高さ成分Δhが減じられた後、隣接する背後領域703の高さデータと凸部701の高さデータとを用いて線形補間が行われ、凸部701と背後領域703とが滑らかに繋げられている。
【0069】
図10は、本発明の実施の形態において、基準形状データを算出する処理を示すフローチャートである。まず、計測部301は、基準タイヤを回転させ、計測面にスポット光を照射し、反射光を受光することで、1ラインの計測データを取得する(S101)。
【0070】
次に、第1取得部311は、1ラインの計測データから1次元高さデータを算出する(S102)。次に、計測部301は、全ラインの計測データの取得が終了していない場合(S103でNO)、センサ部3を副走査方向に所定ピッチ移動させ(S104)、処理をS101に戻し、次の1ラインの計測データを取得する。
【0071】
一方、全ラインの計測データの取得が終了した場合(S103でYES)、生成部312は、全ラインの1次元高さデータをマトリックス状に配列し、2次元高さデータを生成する(S105)。
【0072】
次に、生成部312は、2次元高さデータに輪郭抽出フィルタを用いた2次元のフィルタ処理を実行し、2次元高さデータから凸部の輪郭を抽出する(S106)。ここで、生成部312は、フィルタ処理後の2次元高さデータを2値化して輪郭画像を生成する。これにより、凸部の輪郭が1、それ以外が0の値を持つ輪郭画像が得られる。
【0073】
次に、生成部312は、輪郭画像に対して収縮処理及び膨張処理を順次実行する(S107)。ここで、生成部312は、輪郭画像を複数のブロックに分け、1の値を持つ画素が所定個数以下のブロックは0、1の値を持つ画素が所定個数より大きいブロックは1の値を与え、輪郭画像を収縮する。次に、生成部312は、1の値を与えたブロックは全画素の値が1、0の値を与えたブロックは全画素の値が0となるように、圧縮した画像を元の解像度に膨張させる。これにより、電気ノイズやゴミ等の影響により2次元高さデータにおいて局所的に発生したノイズ(異常値)が除去される。
【0074】
次に、生成部312は、凸部の輪郭により囲まれた領域を凸部として抽出する(S108)。次に、生成部312は、凸部を除く背後領域の各位置の高さデータから背後領域の基準値を算出する(S109)。
【0075】
次に、生成部312は、2次元高さデータの凸部の各位置の高さデータから背後領域の基準値を減じ、凸部の各位置の高さ成分を算出する(S110)。次に、生成部312は、凸部の高さ成分を2次元高さデータに対応付けて基準形状データを生成する(S111)。次に、生成部312は、基準形状データを記憶部313に記憶させる(S112)。
【0076】
図11は、本発明の実施の形態において、対象タイヤを計測する処理を示すフローチャートである。
【0077】
まず、計測部301は、対象タイヤを回転させ、計測面にスポット光を照射し、反射光を受光することで、1ラインの計測データを取得する(S201)。次に、第2取得部314は、計測データから対象1次元高さデータを算出する(S202)。
【0078】
次に、除去部315は、対象1次元高さデータと副走査方向の位置が同一である基準形状データの1次元高さデータ(基準1次元高さデータ)を記憶部313から読み出す(S203)。例えば、基準1次元高さデータがM行の1次元高さデータから構成されるとすると、センサ部3が副走査方向に位置決めされる位置として1〜M番目の位置が存在することになる。したがって、除去部315は、センサ部3が副走査方向の何番目の位置に位置決めされたかに応じて、基準1次元高さデータが基準形状データの何行目の1次元高さデータに該当するかを特定することができる。
【0079】
次に、除去部315は、対象1次元高さデータと基準1次元高さデータとに対して位相調整処理を行う(S204)。対象タイヤ、基準タイヤは共に回転角度の回転基準位置が同じであるため、対象1次元高さデータと基準1次元高さデータとは基本的には位相のずれは生じていない。しかしながら、計測条件によっては回転基準位置が多少ずれることがある。この場合、対象1次元高さデータの凸部の位置と基準高さデータの凸部の位置とがずれてしまい、対象1次元高さデータから凸部の高さ成分を正確に除去することができなくなる。そこで、対象1次元高さデータと基準1次元高さデータとに対して位相調整処理を行う。
【0080】
具体的には、除去部315は、基準1次元高さデータに対して対象1次元高さデータをプラス方向に例えば5度、マイナス方向に例えば5度の範囲にずらしながら、最小二乗法を用いて基準1次元高さデータと対象1次元高さデータとの誤差が最小となる位置を探索し、誤差が最小となったときのずれ量を求める。そして、基準1次元高さデータに対して対象1次元高さデータをずれ量だけずらし、基準1次元高さデータと対象1次元高さデータとの位相を合わせる。なお、ずらすことにより基準1次元高さデータ及び対象1次元高さデータの一方のみが存在する領域については、演算対象から除去すればよい。
【0081】
次に、除去部315は、基準1次元高さデータから、対象1次元高さデータにおける凸部の領域を特定し、凸部の領域の各位置の高さデータから高さ成分を減じ、対象1次元高さデータから凸部を除去する(S205)。
【0082】
次に、ランナウト算出部316は、凸部が除去された対象1次元高さデータから最大値及び最小値の差分を求め、ランナウト値を算出する(S206)。
【0083】
図8は、高さデータを濃淡で示した場合の対象タイヤの2次元高さデータを示した図である。
図8に示す検査ライン上の形状データが計測され、対象1次元高さデータが取得されている。
【0084】
図9は、
図8に示す検査ラインC3上の対象1次元高さデータの計測結果を示すグラフであり、縦軸は高さを示し、横軸はデータ数を示している。また、
図9において、実線は高さ成分が除去される前の対象1次元高さデータを示し、点線は高さ成分が除去された後の対象1次元高さデータを示している。
【0085】
図9に示すように、基準1次元高さデータを用いて対象1次元高さデータから高さ成分を除去することで、点線に示すように、凸部の高さ成分が除去された対象1次元高さデータが得られていることが分かる。
【0086】
このように、本実施の形態では、対象1次元高さデータから精度良く凸部を除去することができ、タイヤの欠陥を正確に評価することができる。
【0087】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。特に、実施の形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、動作条件、計測条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。