(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
並列運転されるn(nは2以上の整数)台のコンプレッサCi(i=1〜nの整数)について、これらコンプレッサの運転効率を個別に推定する運転効率推定装置であって、
各時間tにおける、前記各コンプレッサCiで使用された個々の電力を示す電力使用量Wtiと、これらコンプレッサCiから供給された圧縮空気全体の流量を示す全体流量Qtとを収集し、これら電力使用量Wtiと全体流量Qtとを当該時間tのデータ組として記憶部へ格納するデータ収集部と、
前記記憶部に格納されている前記データ組のうちから、前記全体流量Qtが一定状態または増加中にあるデータ組を対象データ組Dtとしてm個(m>n)選択するデータ組選択部と、
これら対象データ組Dtに基づいて、当該全体流量Qtからなる目的変数を当該電力使用量Wtiからなる説明変数で表す重回帰式を求めることにより、当該重回帰式の偏回帰係数aiからなる前記各コンプレッサCiの運転効率Uiを計算する運転効率計算部と
を備えることを特徴とする運転効率推定装置。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[発明の原理]
まず、本発明の原理について説明する。
n(nは2以上の整数)台のコンプレッサC1〜Cnが並列運転される圧縮空気供給システムにおいて、各コンプレッサC1〜Cnの運転効率を、従来の方法で個別に観測して分析した結果、コンプレッサCi(i=1〜nの整数)において、電力使用量Wiと圧縮空気の空気流量Qiとの間に相関関係があることが確認された。一方、コンプレッサCiの原単位からなる運転効率Uiは、電力使用量Wiと空気流量Qiとの積で求められるため、この相関関数の傾きを推定することにより運転効率Uiを推定することができる。
【0020】
図2は、電力使用量と空気流量との関係を示すグラフである。この相関関係は、コンプレッサCiに固有の傾きaiを有していることが観測されたため、これら傾きaiを用いれば、コンプレッサC1〜Cnの全体流量Qは、次の式(1)で表すことができる。
【数1】
【0021】
ここで、コンプレッサCiがn台ある場合、傾きaiもn個ずつ存在するため、式(1)をn個分用意してこれらを連立方程式として解くことにより、コンプレッサCiごとに空気流量Qiを測定することなく、全体流量Qと電力使用量Wiとのデータ組から傾きaiすなわち運転効率Uiを求めることができる。
しかしながら、前述したように、各コンプレッサC1〜Cnの運転状態が負荷変動に応じて変更されるため、実測された全体流量Qと電力使用量Wiとの関係に、運転管理上無視できない程度のばらつきが生じ、運転効率Uiを精度良く求めることは難しい。
【0022】
本発明は、このような全体流量Qと電力使用量Wiとの関係に、無視できない程度ばらつきが生じることに着目し、式(1)を時間tごとにn個より多く用意して、全体流量Qtからなる目的変数を電力使用量Wtiからなる説明変数で表す重回帰式を求める重回帰分析処理を実行して、当該重回帰式の偏回帰係数aiからなるコンプレッサCiの運転効率Uiを計算することにより、ばらつきの影響が低減された運転効率Uiを得るようにしたものである。
【0023】
一方、各コンプレッサC1〜Cnの運転効率を、従来の方法で個別に観測して分析した結果、ある特定の時間帯で、運転効率が低下する傾向があることがわかった。また、より詳細に空気流量と運転効率との関係を分析した結果、空気流量が低下している時間帯に、運転効率が低下していることがわかった。
【0024】
図3は、空気流量の流量変化率に依存する運転効率特性を示すグラフである。ここでは、横軸が空気流量の変化率λ[%]を示し、縦軸が原単位からなるコンプレッサCi
の運転効率Ui[m
3/kWh]を示している。このグラフによれば、流量変化率λが0以上の正側領域、すなわち直前時間に比べて空気流量が同じまたは増加している場合、コンプレッサCiの運転効率Uiはほぼ一定であり、流量変化率λが0より小さい負側領域、すなわち直前時間に比べて空気流量が減少した場合、その流量変化率λの大きさに応じて運転効率Uiが低減している。この原因の1つとして、空気流量の減少時に、コンプレッサCiが流量を低下させようとして流量絞りを先に絞るが、流量絞りの動作よりも時間遅れを生んだ状態でモータの運転が低下するため、無駄な電流消費が発生することが考えられる。
【0025】
本発明は、このようなコンプレッサCiにおける空気流量の流量変化率λに依存する運転効率特性のうち、直前時間に比べて空気流量が同じまたは増加している場合、運転効率Uがほぼ一定であることに着目し、重回帰分析を行う際に用いるデータ組として、任意の時間tにおける全体流量Qtが直前時間に比べて一定状態または増加中である場合の全体流量Qtと電力使用量Wtiとのデータ組を選択して用いるようにしたものである。
【0026】
[第1の実施の形態]
次に、
図1を参照して、本発明の第1の実施の形態にかかる運転効率推定装置10について説明する。
図1は、運転効率推定装置の構成を示すブロック図である。
【0027】
この運転効率推定装置10は、全体としてコントローラ、サーバ装置、パーソナルコンピュータなどの情報処理装置からなり、複数のコンプレッサC(C1〜Cn)が並列運転される圧縮空気供給システム1から収集した、個々のコンプレッサC1〜Cnに関する電力使用量Wti(i=1〜nの整数)と全体流量Qtとに基づいて、個々のコンプレッサC1〜Cnに関する運転効率を推定する機能を有している。
【0028】
図1に示した圧縮空気供給システム1において、供給電力PWによりコンプレッサC1〜Cnを並列運転して得た圧縮空気は、管路2を介してバッファータンク3を経由して、管路4およびヘッダ5を介して、圧縮空気を消費する加工機などの各負荷6に供給される。これらコンプレッサCは、コンプレッサ制御部7により、管路4に設けられた流量計4Aで管理対象にしている所定の時間で時間測定した単位時間当たりの圧縮空気の全体流量Qtや、ヘッダ5に設けられた圧力計5Aで測定された圧縮空気の気圧Ptに基づく台数制御により、運転/停止、あるいはロード/アンロードが個別に制御されて、負荷6に対して圧縮空気を安定供給する。
【0029】
[運転効率推定装置]
次に、
図1を参照して、運転効率推定装置10の構成について説明する。
運転効率推定装置10には、主な機能部として、データ収集部11、操作入力部12、画面表示部13、記憶部14、データ組選択部15、および運転効率計算部16が設けられている。
【0030】
データ収集部11は、コンプレッサCi(i=1〜nの整数)ごとに設けられた電力計8(81〜8n)で測定された、各時間tにおける単位時間あたりに使用された個々の電力を示す電力使用量Wtiと、管路4に設けられた流量計4Aで測定された、これらコンプレッサCiから供給された圧縮空気全体の流量を示す全体流量Qtとを収集する機能と、これら電力使用量Wtiと全体流量Qtとを当該時間tのデータ組14Aとして記憶部14へ格納する機能とを有している。なお、電力量kWhが得られる計測器で、電力P(W)を測っている場合は、積算値にする必要がある。
【0031】
操作入力部12は、キーボードやマウスなどの操作入力装置からなり、オペレータの操作を検出して出力する機能を有している。
画面表示部13は、LCDなどの画面表示装置からなり、運転効率推定のための操作画面や各機能部で得られたデータ画面を表示する機能を有している。
【0032】
記憶部14は、ハードディスクや半導体メモリからなり、各機能部での処理に用いる各種の処理データやプログラム14Pを記憶する機能を有している。
プログラム14Pは、コンピュータで実行することにより各機能部を実現するためのプログラムであり、外部装置や記録媒体から読み込まれて、予め記憶部14に格納される。
【0033】
記憶部14で記憶される主な処理データとして、データ組14Aと係数データ14Bがある。
データ組14Aは、データ収集部11により収集された、各時間tにおける各コンプレッサCiでの電力使用量Wtiと全体流量Qtとの組からなるデータである。
図4は、データ組の構成例である。ここでは、データ収集部11で収集された電力使用量Wtiおよび全体流量Qtが時間tごとに格納されている。
【0034】
係数データ14Bは、各コンプレッサCiの運転効率Uiに相当する偏回帰係数aiを示すデータである。
図5は、係数データの構成例である。ここでは、コンプレッサCiごとに、偏回帰係数aiが格納されている。なお、この例では、コンプレッサCiごとに、後述の使用量変動に対する応答性の指標として運転効率特性係数biも格納されている。
【0035】
データ組選択部15は、記憶部14に格納されているデータ組14Aのうちから、全体流量Qtが同じ値で継続している一定状態または増加中にあるデータ組を対象データ組Dtとしてm個(m>n)選択する機能を有している。
【0036】
運転効率計算部16は、データ組選択部15により選択したm個の対象データ組Dtに基づいて、当該全体流量Qtからなる目的変数を当該電力使用量Wtiからなる説明変数で表す重回帰式を求める重回帰分析処理を実行することにより、当該重回帰式の偏回帰係数aiからなるコンプレッサCiの運転効率Uiを計算する機能と、これら運転効率Uiを画面表示部13で画面表示する機能とを有している。
【0037】
[第1の実施の形態の動作]
次に、本実施の形態にかかる運転効率推定装置10の動作について説明する。
まず、
図6を参照して、運転効率推定装置10での運転効率計算処理について説明する。
図6は、第1の実施の形態にかかる運転効率計算処理を示すフローチャートである。
データ組選択部15は、操作入力部12で検出されたオペレータ操作に応じて、あるいは一定時間ごとに、あるいは、プログラム等で設定された時間帯毎に、
図6の運転効率計算処理を実行する。なお、運転効率計算処理にあたって、記憶部14には、データ収集部11により収集された各時間tにおけるデータ組14Aが予め格納されているものとする。
【0038】
データ組選択部15は、まず、記憶部14のデータ組14Aから、未選択の時間tにおけるデータ組を選択し(ステップ100)、当該データ組の全体流量Qtを、例えば時間tから単位時間分だけ前に測定された全体流量Qt−1と比較して、Qtが一定状態または増加中であるか確認する(ステップ101)。
ここで、Qt<Qt−1の場合(ステップ101:NO)、データ組選択部15は、ステップ100へ戻って、未選択の時間におけるデータ組を新たに選択する。
【0039】
一方、Qt≧Qt−1の場合(ステップ101:YES)、データ組選択部15は、当該データ組のうち、運転中のコンプレッサCiの電力使用量Wtiに基づき、当該コンプレッサCiが定格出力を基準とする所定の定格運転範囲で運転されているか確認する(ステップ102)。
ここで、定格運転範囲で運転されていないコンプレッサCiが存在する場合(ステップ102:NO)、データ組選択部15は、ステップ100へ戻って、未選択の時間におけるデータ組を新たに選択する。
一方、運転中のすべてのコンプレッサCiが定格運転範囲で運転されている場合(ステップ102:YES)、データ組選択部15は、当該データ組を対象データ組Dtとして抽出し、記憶部14に格納する(ステップ103)。
【0040】
この際、コンプレッサの定格出力は、メーカから仕様として提示された値を用いればよいが、実際には、提示された値よりも大きな電力で稼働する場合もある。また、経年変化により、定格出力が低減している場合もある。したがって、このような場合には、コンプレッサCiごとに、実測した電力使用量Wtiの最大値を、定格出力として再設定しておけばよい。
【0041】
このようにして、データ組選択部15は、Qtが一定状態または増加中であるデータ組がDtとして、m(m>n)個分抽出されるまで(ステップ104:NO)、繰り返し実行する。
【0042】
Dtがm個分だけ抽出された場合(ステップ104:YES)、運転効率計算部16は、コンプレッサCiごとに偏回帰係数aiを割り当て(ステップ105)、これらDtに基づいて、Qtからなる目的変数をWtiからなる説明変数で表す重回帰式を求めることにより、当該重回帰式の偏回帰係数aiからなるコンプレッサCiの運転効率Uiを計算する(ステップ106)。
【0043】
この後、運転効率計算部16は、得られた偏回帰係数aiを記憶部14に係数データ14Bとして格納し(ステップ107)、記憶部14に予め格納されている各コンプレッサCiの定格効率Uriを取得し、これらUriから偏回帰係数aiすなわち運転効率Uiを減算した値をUriで除算することにより、運転効率劣化率Riを計算して、これらを画面表示部13で画面表示し(ステップ108)、一連の運転効率計算処理を終了する。
【0044】
図7は、運転効率の一覧表示画面例である。ここでは、運転効率Ui、定格効率Uri、および運転効率劣化率Riが、コンプレッサC1〜Cnごとに一覧表で表示されている。
この一覧表示画面により、各コンプレッサC1〜Cnに関する運転状況および運転効率を、容易に確認できるとともに、コンプレッサC1〜Cn間で容易に比較することができる。
【0045】
[第1の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、データ組選択部15が、記憶部14に格納されているデータ組14Aのうちから、前記全体流量Qtが一定状態または増加中にあるデータ組を対象データ組Dtとしてm個(m>n)選択し、運転効率計算部16が、これら対象データ組Dtに基づいて、当該全体流量Qtからなる目的変数を当該電力使用量Wtiからなる説明変数で表す重回帰式を求めることにより、当該重回帰式の偏回帰係数aiからなるコンプレッサCiの運転効率Uiを計算するようにしたものである。
【0046】
これにより、各コンプレッサCiの運転効率Uiが、一般的な圧縮空気供給システム1に予め設置されている電力計8で得られた各コンプレッサCiの電力使用量Wtiと、流量計4Aで得られた全体流量Qtとに基づき計算される。このため、コンプレッサCiごとに、例えば当該コンプレッサCiにおける流量データを測定するための流量計などの設備機器の追加を必要とすることなく、各コンプレッサCiの運転効率Uiを容易に推定することが可能となる。この際、電力計8が設置されていない場合には、コンプレッサCiごとに電力計8の追加が必要となるが、従来のようにコンプレッサCiごとに流量計まで追加する必要はない。
【0047】
また、コンプレッサC1〜Cnごとに運転効率が推定できるため、前述の
図7に示したような、運転効率の一覧表示画面により、各コンプレッサC1〜Cnが、実際にどのような運転効率で運転されているのかを、管理者が容易に把握することができる。これにより、台数制御における運転順序を見直すことができ、省エネルギーや省CO2を実現できる。また、各コンプレッサC1〜Cnに対するメンテナンスの要否、さらには、どのコンプレッサC1〜Cnから順にメンテナンスを実施するかを計画することができるとともに、コンプレッサC1〜Cnの交換要否判断や劣化に伴う更新時期の判断などにも極めて有用なデータを提供することができる。
【0048】
また、本実施の形態では、
図6の運転効率計算処理について、それぞれオペレータ操作に応じて、あるいは一定時間ごとに実行する場合について説明した。この際、コンプレッサC1〜Cnの運転効率特性については、それほど急激に変化するものではないため、運転効率計算処理については、例えばメンテナンス周期に合わせて、数ヶ月や1年単位で自動実行するようにしてもよいし、1日や1週間などの任意の頻度で自動的に行うようにしてもよい。
【0049】
また、
図6の運転効率計算処理において、得られた運転効率Uiの妥当性を検証する場合、次のような処理を実行すればよい。
まず、ステップ100〜104と同様にして、定格運転で全体流量Qtが一定状態または増加中である時間帯のデータ組Dtを、コンプレッサの台数nのk倍のm個分だけ抽出する。この際、kやmは、適宜設定し必要に応じて調整すればよい。
次に、ステップ105〜106と同様にして、m個の半分くらいあるいは適宜所要数のデータ組m1個を用いて重回帰分析を行い、重回帰式を得る。
【0050】
この後、得られた運転効率Uiと、m個から上記重回帰分析に使用しなかった残りのm2(=m−m1)個のデータ組の電力使用量Wt1〜Wtnとを、上記重回帰式に代入し、全体流量Qt’を逆算する。
ここで、逆算により得られたQt’と、m2個のデータ組の全体流量Qt(実測値)とを比較し、両者の流量差ΔQ=|Qt’−Qt|が許容範囲として想定できる範囲Eq(実用上の許容誤差)に収まっているか判定し、ΔQがEqの範囲に収まっていれば、
重回帰分析により求めた運転効率Uiに妥当性があると判定し、当該運転効率Uiを現在の運転効率(原単位)として保存あるいは表示すればよい。
【0051】
一方、ΔQがEqの範囲に収まっていなければ、求めた運転効率Uiに妥当性がないと判定して、m個のデータ組の中から再度m1個あるいはm1±Δm個のデータ組を再抽出する。この際、再抽出するデータ組は、未抽出のものであってもよく、その一部に抽出済みのものが含まれていてもよい。あるいは、前回とは異なるm個のデータ組を新たに抽出し直してもよい。
そして、抽出したデータ組を用いて重回帰分析を再実行し、ΔQとEqとの比較により、運転効率Uiの妥当性が得られるまで、データ組の再抽出を繰り返し実行すればよい。また、再抽出を規定回数繰り返しても運転効率Uiの妥当性が得られない場合には、アラームを出力したり、許容範囲Eqを見直したりすればよい。
【0052】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態にかかる運転効率推定装置10について説明する。
第1の実施の形態では、全体流量Qtが一定状態または増加中の場合を対象として、コンプレッサCiの運転効率Uiを計算する場合を例として説明した。本実施の形態では、全体流量Qtが減少中の場合を対象として、コンプレッサCiの運転効率Uiを計算する場合について説明する。
【0053】
前述の
図3に示したように、コンプレッサの運転効率特性は、空気流量の流量変化率λに依存する。特に、流量変化率λが0以上の正側領域、すなわち直前時間に比べて空気流量が同じまたは増加している場合、コンプレッサCiの運転効率Uiはほぼ一定であり、流量変化率λが0より小さい負側領域、すなわち直前時間に比べて空気流量が減少した場合、その流量変化率λの大きさに応じて運転効率Uiが低減している。
【0054】
本実施の形態は、この運転効率Uiのうち負側領域における運転効率特性が、1次関数で近似できることに着目したものである。時間tにおける全体流量Qtの流量変化率をλtとし、1次関数の切片および傾きをそれぞれai,biとした場合、時間tにおけるコンプレッサCiの運転効率Utiは、次の式(2)で表され、この切片aiが第1の実施の形態で計算した偏回帰係数aiに相当する。
【数2】
【0055】
また、切片aiおよび傾きbiは、各コンプレッサC1〜Cnに固有の値を持つことが観測された。このことから、この1次関数を用いれば、時間tにおけるコンプレッサCiの個別流量Qtiは、次の式(3)で表される。なお、時間tにおける全体流量をQtとし、時間tから単位時間だけ遡った時間t−1における全体流量をQt−1とし、上記1次関数の切片および傾きをそれぞれai,biとした場合、時間tにおけるλtは、次の式(4)で表される。
【数3】
【数4】
【0056】
したがって、時間tにおけるコンプレッサCiでの電力使用量をWtiとした場合、コンプレッサC1〜Cn全体の全体流量Qtは、次の式(5)で表される。
【数5】
【0057】
ここで、aiは既知であり、コンプレッサCiがn台ある場合、biもn個存在するため、式(5)をn個分用意すれば、これらを連立方程式として解くことにより、biを求めることができる。
さらに、コンプレッサC1〜Cn全体の全体流量Qtと各コンプレッサCiの電力使用量Wtiとは、大幅な設備を追加することなく、一般的な圧縮空気供給システム1において、時間tごとに容易に測定できる。
【0058】
したがって、本実施の形態では、時間tごとに測定したQtとWtiとのデータ組のうちから、Qtが減少状態にある対象データ組Dtをn個再選択して、これらDtを用いてn個の式(5)からなる流量算出式を生成し、これらn個の流量算出式からなる連立方程式を解くことにより、biを計算するようにしたものである。
また、この後、任意の時間xにおけるQx,Qx−1を式(4)に代入して求めたλxと、先に求めた当該コンプレッサCiのai,biとを式(2)に代入して、時間xにおける各コンプレッサCiの運転効率Uxiを求めるようにしたものである。
【0059】
本実施の形態において、データ組選択部15は、記憶部14に格納されているデータ組14Aのうち、全体流量Qtが減少状態にあるデータ組を新たな対象データ組Dtとしてn個再選択する機能を有している。
運転効率計算部16は、再選択されたこれら対象データ組Dtごとに求めた、当該全体流量Qtに関する単位時間当たりの流量変化率λtと、全体流量Qt、電力使用量Wti、および偏回帰係数aiと、コンプレッサCiごとの流量変化率と運転効率との関係を近似する1次関数の傾きを示す運転効率特性係数biとを用いて、式(5)に示す当該全体流量Qtに関する流量算出式を、対象データ組Dtごとにn個生成する機能と、これら流量算出式を連立方程式として解くことにより、運転効率特性係数biを計算する機能と、任意の時間xにおける流量変化率λxに、当該コンプレッサCiの運転効率特性係数biを乗算して、当該コンプレッサCiの偏回帰係数aiを加算することにより、当該時間xにおけるコンプレッサCiの運転効率Uxiを計算する機能とを有している。
【0060】
[第2の実施の形態の動作]
次に、本実施の形態にかかる運転効率推定装置10の動作について説明する。
まず、
図8を参照して、運転効率推定装置10での係数計算処理について説明する。
図8は、第2の実施の形態にかかる係数計算処理を示すフローチャートである。ここでは、第1の実施形態を実施後に運転効率特性係数biをステップワイズに計算する処理手順が示されている。
【0061】
運転効率計算部16は、操作入力部12で検出されたオペレータ操作に応じて、あるいは一定時間ごとに、
図8の係数計算処理を実行する。なお、係数計算処理にあたって、記憶部14には、データ収集部11により収集された各時間tにおけるデータ組14Aと、第1の実施の形態で得られた偏回帰係数aiを示す係数データ14Bとが、予め格納されているものとする。
【0062】
データ組選択部15は、まず、記憶部14のデータ組14Aから、未選択の時間tにおけるデータ組を再選択し(ステップ200)、当該データ組の全体流量Qtを、例えば時間tから単位時間分だけ前に測定された全体流量Qt−1と比較して、Qtが減少中であるか確認する(ステップ201)。この場合、流量変化率λtを先に計算して、このλtの正負を確認してもよい。
ここで、Qt≧Qt−1(λt≧0)の場合(ステップ201:NO)、データ組選択部15は、ステップ200へ戻って、未選択のデータ組を新たに選択する。
【0063】
一方、Qt<Qt−1(λt<0)の場合(ステップ201:YES)、データ組選択部15は、当該データ組のうち、運転中のコンプレッサCiの電力使用量Wtiに基づき、当該コンプレッサCiが定格出力を基準とする所定の定格運転範囲で運転されているか確認する(ステップ202)。
ここで、定格運転範囲で運転されていないコンプレッサCiが存在する場合(ステップ102:NO)、データ組選択部15は、ステップ100へ戻って、未選択の時間におけるデータ組を新たに選択する。
一方、運転中のすべてのコンプレッサCiが定格運転範囲で運転されている場合(ステップ202:YES)、データ組選択部15は、当該データ組を新たな対象データ組Dtとして抽出し、記憶部14に格納する(ステップ203)。
【0064】
この際、コンプレッサの定格出力は、メーカから仕様として提示された値を用いればよいが、実際には、提示された値よりも大きな電力で稼働する場合もある。また、経年変化により、定格出力が低減している場合もある。したがって、このような場合には、コンプレッサCiごとに、実測した電力使用量Wtiの最大値を、定格出力として再設定しておけばよい。
【0065】
このようにして、データ組選択部15は、Qtが減少状態にあるデータ組がDtとして、新たにn個分抽出されるまで(ステップ204:NO)、繰り返し実行する。
【0066】
Dtがn個分だけ抽出された場合(ステップ204:YES)、運転効率計算部16は、コンプレッサCiごとに運転効率特性係数biを割り当て(ステップ205)、Dtごとに、当該Qtに関する単位時間当たりの流量変化率λtを、前述した式(4)に基づき計算する(ステップ206)。
【0067】
続いて、運転効率計算部16は、DtごとのQtおよびWtiと、コンプレッサCiごとのai,biを用いて、前述した式(5)のQtに関する流量算出式を、Dtごとにn個生成する(ステップ207)。
この後、運転効率計算部16は、これらn個の流量算出式から、前述した式(6)のような連立方程式を生成し(ステップ208)、これを解くことにより、各コンプレッサCiのbiを計算し(ステップ209)、得られたbiを記憶部14に係数データ14Bとして格納し(ステップ210)、一連の係数計算処理を終了する。
【0068】
なお、運転効率推定装置10にかかる係数計算処理については、
図9に示す処理手順で実行してもよい。
図9は、第2の実施の形態にかかる他の係数計算処理を示すフローチャートである。ここでは、対象データDtを2×n組取得して連立方程式を解き、aiとbiとを同時に求める処理手順が示されている。
すなわち、
図8にかかるステップ201,202を不要として、ステップ200,203,204で2×n組データを抽出する。続いて、ステップ205−207を
図8と同様に実行して、ステップ208で2×n個の流量算出式から連立方程式を生する。この後、ステップ208で、この連立方程式を解けば、ai、biを求めることができる。
【0069】
次に、
図10を参照して、運転効率推定装置10での運転効率計算処理について説明する。
図10は、第2の実施の形態にかかる運転効率計算処理を示すフローチャートである。
運転効率計算部16は、操作入力部12で検出されたオペレータ操作に応じて、あるいは一定時間または所定の間隔ごとに、
図10の運転効率計算処理を実行する。なお、運転効率計算処理にあたって、記憶部14には、各コンプレッサCiごとに、偏回帰係数ai,運転効率特性係数biが係数データ14Bとして格納されているものとする。
【0070】
運転効率計算部16は、まず、記憶部14のデータ組14Aを参照して、運転効率対象として指定された任意の時間xのデータ組から全体流量Qxを取得し(ステップ220)、前述と同様にして、流量変化率λxを計算する(ステップ221)。
【0071】
この後、運転効率計算部16は、記憶部14の係数データ14Bから各コンプレッサCiのai,biを取得し、これらai,biと流量変化率λxとを前述した式(2)に代入することにより、時間xにおける運転効率UxiをコンプレッサCiごとに計算する(ステップ222)。
【0072】
また、運転効率計算部16は、記憶部14に予め格納されている各コンプレッサCiの定格効率Uriを取得し、UriからUxiを減算した値をUriで除算することにより、運転効率劣化率Rxiを計算し(ステップ223)、これらを画面表示部13で画面表示し(ステップ224)、一連の運転効率計算処理を終了する。この際、Uxi,Uri,Rxiを画面表示する際、ai,biも一括して画面表示してもよく、オプション設定で画面表示の要否を選択可能としてもよい。
【0073】
図11は、運転効率の個別表示画面例である。ここでは、各コンプレッサC1〜CnのうちコンプレッサC1に関する、特定の時間x「11:00」における運転効率Ux1と運転効率特性とが、グラフ表示されており、横軸が流量変化率λxを示し、縦軸が運転効率Ux1を示している。また、グラフには、コンプレッサC1の定格効率Ur1、定格効率Ur1を基準とした運転効率Ux1の劣化率を示す運転効率劣化率Rx1、偏回帰係数a1からなる最大効率Uxmax1、および運転効率特性係数b1からなる、単位流量変化率当たりにおける運転効率Ux1の低減率Rdx1が、ともに表示されている。
【0074】
この個別表示画面により、管理者は、運転効率Uxiや運転効率劣化率Rxiに基づいて、選択したコンプレッサCiが時間xにおいて、どのような状況で運転されているかを容易に確認することができる。また、最大効率Uxmaxiにより、コンプレッサCiで得られる最も良い効率を把握できるとともに、低減率Rdxiにより、流量変化率λxが低下するに連れて、どの程度の割合で運転効率Uxiが低下するのかを詳細に確認することができる。
【0075】
また、
図12は、運転効率の他の一覧表示画面例である。ここでは、前述した時間xにおける運転効率Uxi(=偏回帰係数ai:静特性)、定格効率Uri、運転効率劣化率Rxi、最大効率Uxmaxi、および低減率Rdxi(=運転効率特性係数bi:動特性)が、コンプレッサC1〜Cnごとに一覧表で表示されている。
この一覧表示画面により、時間xにおける各コンプレッサC1〜Cnに関する運転状況および運転効率特性を、容易に確認できるとともに、コンプレッサC1〜Cn間で容易に比較することができる。
【0076】
[第2の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、データ組選択部15が、記憶部14に格納されているデータ組14Aのうち、全体流量Qtが減少状態にあるデータ組を新たな対象データ組Dtとしてn個再選択し、運転効率計算部16が、再選択されたこれら対象データ組Dtごとに求めた、当該全体流量Qtに関する単位時間当たりの流量変化率λtと、全体流量Qt、電力使用量Wti、および偏回帰係数aiと、コンプレッサCiごとの流量変化率と運転効率との関係を近似する1次関数の傾きを示す運転効率特性係数biとを用いて、当該全体流量Qtに関する流量算出式を、対象データ組Dtごとにn個生成し、これら流量算出式を連立方程式として解くことにより、運転効率特性係数biを計算し、任意の時間xにおける流量変化率λxに、当該コンプレッサCiの運転効率特性係数biを乗算して、当該コンプレッサCiの偏回帰係数aiを加算することにより、当該時間xにおけるコンプレッサCiの運転効率Uxiを計算するようにしたものである。
【0077】
これにより、全体流量Qtが一定状態あるいは増加中である場合におけるコンプレッサCiの運転効率Uiだけでなく、全体流量Qtが減少中である場合におけるコンプレッサCiの運転効率Uiを精度良く推定することができる。したがって、実際の運用で全体流量Qtが増減している場合であっても、任意の時間における運転効率Uiを精度良く推定することが可能となる。
【0078】
また、本実施の形態において、コンプレッサCiごとの運転効率特性係数biを未知数とした連立方程式は、係数データをn×n行列A、定数データをn次元ベクトルd、として表記すると、運転効率特性係数を表す未知数ベクトルbを用いて、Ab=dという形に変換される。
この連立方程式を解く場合、係数データと定数データの組み合わせにより、解が不安定になることがある。その結果、要求される精度で個々のコンプレッサの運転効率指標を計算できないケースが存在する。
【0079】
このようなケースへの対応策として、連立方程式の係数データを用いた定解の安定性を表す指標である条件数(Condition Number)としてκ(A)=||A||・||B||(但し、B=A
-1)を計算する。
そして、条件数が事前設定した閾値以上の場合には、条件数が閾値未満となるまでデータのn個の組Dt(ただしt=1,2,…,n)の一部もしくは全部を入れ換えることで、新たな係数データA’および定数データd’に置き換えて連立方程式を解き、要求される精度を満たしたコンプレッサの運転効率指標を計算すればよい。一方、閾値未満という条件を満足するデータの組み合わせが存在しなかった場合には、それまでの計算結果を記憶しておき、履歴情報の範囲の中で最小の条件数を有する場合の計算結果を運転効率指標とすればよい。
【0080】
また、上記ケースへの対応策として、次の方法を用いることも可能である。まず、係数データAおよび定数データdのセットを事前にL個用意しておき、各セットjに対して未知数ベクトルb(j)(ここでj=1,2,…,L)とする連立方程式の解を求める。
そして、各iにおいて解bi(j)のjに関する分散を計算し、この分散が事前に設定した各iに対する閾値未満となる条件が、全てのiにおいて満足している場合、bi(j)のjに関する平均値または中央値等の統計量を運転効率指標とすればよい。
【0081】
ここで、あるiに対して条件を満足していない場合には、条件を満足する結果が得られるまで係数データAおよび定数データdのセットを順次追加して計算処理を実施する。データ組の追加は事前に設定しておいた追加上限数Mを限度とするため、最終的に条件を満たさなかった場合には、全ての計算結果bi(j)(ただしj=1,2,…,L,L+1,…,L+M)のjに関する平均値または中央値等の統計量をiに対する運転効率指標とすればよい。
【0082】
なお、連立方程式を用いて解の安定性を判定する方法として、閾値を用いた判定方法とは異なる判定方法も利用することができる。例えば、計算によって得られた運転効率指標を前述した式(5)に代入し、運転効率指標の算出時に利用されなかった全体流量Qtに関する流量変化率λtと、全体流量Qt、電力使用量Wtiに関する検証用データの組を用いて等式がある一定以内の誤差範囲で近似的に成立することを確認することで、解の安定性を判定することが可能である。
【0083】
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。また、各実施形態については、矛盾しない範囲で任意に組み合わせて実施することができる。
【0084】
また、各実施の形態では、運転効率を推定する対象として、コンプレッサで圧縮空気を生成して負荷へ供給する圧縮空気供給システムを例に説明したが、これに限定されるものではなく、圧縮空気以外、例えば水や冷媒などの混合ガスを圧縮して負荷へ供給する圧縮ガス供給システムなどの他のシステムにも、前述と同様にして各実施の形態を適用でき、同様の作用効果を得ることができる。