(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969916
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】かご形誘導電動機の回転子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 17/16 20060101AFI20160804BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20160804BHJP
H02K 15/09 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
H02K17/16 Z
H02K15/02 J
H02K15/09
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-281366(P2012-281366)
(22)【出願日】2012年12月25日
(65)【公開番号】特開2014-128069(P2014-128069A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103333
【弁理士】
【氏名又は名称】菊池 治
(74)【代理人】
【識別番号】100173451
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 彪
(72)【発明者】
【氏名】井上 晃一
(72)【発明者】
【氏名】大西 敏幸
【審査官】
宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−207708(JP,A)
【文献】
特開平11−018344(JP,A)
【文献】
実開昭56−139340(JP,U)
【文献】
実開平06−029381(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 17/16
H02K 15/02
H02K 15/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸の軸方向に垂直に広がっていて外周に互いに周方向の間隔をあけて複数のスロットが形成された複数の鋼板を軸方向に積層して、当該複数の鋼板の前記複数のスロットそれぞれが軸方向に並ぶように、前記回転軸に装着した鉄心と、
前記複数のスロットそれぞれに挿入されて軸方向に延びる複数のロータバーと、
を備えたかご形誘導電動機の回転子であって、
前記複数のスロットそれぞれは、外周に面した開口部と、前記開口部よりも半径方向内側に前記開口部に隣接して配置されて前記開口部よりも周方向の幅が広い幅広部とを備え、
前記複数のロータバーそれぞれは、前記開口部よりも周方向の幅が広く、前記幅広部内を軸方向に貫通して配置され、
前記複数のロータバーそれぞれの軸方向の両端は軸方向に垂直な方向に分割されて広げられることにより前記スロットの軸方向端部に押し付けられて当該スロットに固着されており、
前記複数のロータバーそれぞれの軸方向の両端の分割された分割部の最も奥の位置に、当該ロータバーの分割部の進展を止めるために、前記分割部に沿って貫通する円形の貫通孔たる進展止めが形成されていること、を特徴とするかご形誘導電動機の回転子。
【請求項2】
回転軸と、
前記回転軸の軸方向に垂直に広がっていて外周に互いに周方向の間隔をあけて複数のスロットが形成された複数の鋼板を軸方向に積層して、当該複数の鋼板の前記複数のスロットそれぞれが軸方向に並ぶように、前記回転軸に装着した鉄心と、
前記複数のスロットそれぞれに挿入されて軸方向に延びる複数のロータバーと、
を備えたかご形誘導電動機の回転子の製造方法であって、
前記複数のスロットそれぞれは、外周に面した開口部と、前記開口部よりも半径方向内側に前記開口部に隣接して配置されて前記開口部よりも周方向の幅が広い幅広部とを備え、
前記複数のロータバーそれぞれは、前記開口部よりも周方向の幅が広く、
当該製造方法は、
前記複数のロータバーそれぞれの軸方向の両端にスリットを形成するスリット形成ステップと、
前記ロータバーの両端の前記スリットの最も奥の位置に、スリットの進展を止めるために、前記スリットの面に沿って貫通する円形の貫通孔たる進展止めを形成する進展止め形成ステップと、
前記スリット形成ステップの後でかつ前記進展止め形成ステップの後に、前記スロットの幅広部それぞれに前記複数のロータバーを挿入するとともに当該ロータバーの軸方向両端が前記スロットの軸方向端部から突出するように配置するロータバー挿入ステップと、
前記ロータバー挿入ステップの後に、前記スリットを広げることにより前記ロータバーを前記スロットの軸方向端部に押し付けて前記ロータバーを前記スロットに固着させる固着ステップと、
を有すること、を特徴とするかご形誘導電動機回転子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄心とロータバーとを備えたかご形誘導電動機の回転子、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
かご形誘導電動機は、巻線形誘導電動機や直流電動機と比べて構造が簡単で堅牢であるが、他の形式の電動機にはない始動時のラッシュ電流(定格電流の3〜8倍の電流)が発生する。この事象はロータバーに熱応力や電磁力を与え、最悪の場合は、疲労してき裂発生あるいは折損するという事象に進展する。
【0003】
この不適合事象を防止するために、ロータバーをロータ鉄心のスロット(溝)に固く固定する必要がある。
【0004】
従来、ロータバーをロータ鉄心のスロットに固く固定する方法として、ロータバーを外周方向からたたいてスウェージングを施し、ロータバーを周方向に広げることによりスロットに固着させ長手方向(軸方向)に動かないように固定している。また、スウェージングを施す長さに関しては、各鉄心長において、回転子のロータバーに発生する共振応力を極力小さくし、ロータバーの折損を防止することができるスウェージング長さとする必要がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−18344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のロータバーのかしめ方法では、以上のようなスウェージング長さにする必要があり、鉄心長が長ければ長いほどスウェージング長さが長くなり、スウェージング作業に多くの時間を要している。
【0007】
この発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、かご形誘導電動機の回転子のロータバーをロータ鉄心のスロットに固く固定するための作業時間を短くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るかご形誘導電動機の回転子は、回転軸と、前記回転軸の軸方向に垂直に広がっていて外周に互いに周方向の間隔をあけて複数のスロットが形成された複数の鋼板を軸方向に積層して、当該複数の鋼板の前記複数のスロットそれぞれが軸方向に並ぶように、前記回転軸に装着した鉄心と、前記複数のスロットそれぞれに挿入されて軸方向に延びる複数のロータバーと、を備えたかご形誘導電動機の回転子であって、
前記複数のスロットそれぞれは、外周に面した開口部と、前記開口部よりも半径方向内側に前記開口部に隣接して配置されて前記開口部よりも周方向の幅が広い幅広部とを備え、前記複数のロータバーそれぞれは、前記開口部よりも周方向の幅が広く、前記幅広部内を軸方向に貫通して配置され、前記複数のロータバーそれぞれの軸方向の両端は軸方向に垂直な方向に分割されて広げられることにより前記スロットの軸方向端部に押し付けられて当該スロットに固着されて
おり、前記複数のロータバーそれぞれの軸方向の両端の分割された分割部の最も奥の位置に、当該ロータバーの分割部の進展を止めるために、前記分割部に沿って貫通する円形の貫通孔たる進展止めが形成されていること、を特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るかご形誘導電動機回転子の製造方法は、回転軸と、前記回転軸の軸方向に垂直に広がっていて外周に互いに周方向の間隔をあけて複数のスロットが形成された複数の鋼板を軸方向に積層して、当該複数の鋼板の前記複数のスロットそれぞれが軸方向に並ぶように、前記回転軸に装着した鉄心と、前記複数のスロットそれぞれに挿入されて軸方向に延びる複数のロータバーと、を備えたかご形誘導電動機の回転子の製造方法であって、
前記複数のスロットそれぞれは、外周に面した開口部と、前記開口部よりも半径方向内側に前記開口部に隣接して配置されて前記開口部よりも周方向の幅が広い幅広部とを備え、前記複数のロータバーそれぞれは、前記開口部よりも周方向の幅が広く、当該製造方法は、前記複数のロータバーそれぞれの軸方向の両端にスリットを形成するスリット形成ステップと、
前記ロータバーの両端の前記スリットの最も奥の位置に、スリットの進展を止めるために、前記スリットの面に沿って貫通する円形の貫通孔たる進展止めを形成する進展止め形成ステップと、前記スリット形成ステップの後
でかつ前記進展止め形成ステップの後に、前記スロット
の幅広部それぞれに前記複数のロータバーを挿入する
とともに当該ロータバーの軸方向両端が前記スロットの軸方向端部から突出するように配置するロータバー挿入ステップと、前記ロータバー挿入ステップの後に、前記スリットを広げることにより前記ロータバーを前記スロットの軸方向端部に押し付けて前記ロータバーを前記スロットに固着させる固着ステップと、を有すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、かご形誘導電動機の回転子のロータバーをロータ鉄心のスロットに固く固定するための作業時間を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係るかご形誘導電動機の回転子の製造過程で、ロータバーを鉄心のスロット内に挿入した直後の状態を示し、回転子を外周側から見たときの最も手前側の部分を示す部分正面図であって、
図2のI方向矢視図である。
【
図2】
図1のかご形誘導電動機の回転子の外周付近の部分側面図であって、
図1のII方向矢視図である。
【
図3】本発明に係るかご形誘導電動機の回転子の製造方法の手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明に係るかご形誘導電動機の回転子の製造過程で、ロータバーを鉄心のスロット内に挿入した直後の状態を示し、回転子を外周側から見たときの最も手前側の部分を示す部分正面図であって、
図2のI方向矢視図である。
図2は、
図1のかご形誘導電動機の回転子の外周付近の部分側面図であって、
図1のII方向矢視図である。
図3は、本発明に係るかご形誘導電動機の回転子の製造方法の手順を示すフロー図である。
【0013】
この実施形態の回転子10は、回転軸11に固定され、鉄心12とロータバー20とを備えている。鉄心12は、複数枚の円板状の鋼板を軸方向に積層したものである。各円板は軸方向に垂直に広がり、中央に回転軸11が貫通する孔が形成されている。鉄心12は回転軸11に固定されている。
【0014】
鉄心12の外周に沿って軸方向に延びる複数のスロット(溝)13が周方向に互いに間隔をあけて形成されている。各スロット13は、外周に面した幅のせまい開口部14が形成されその奥の幅広部15よりも幅が狭くなっている。
【0015】
このスロット13内にロータバー20を挿入して固定する手順を説明する。
【0016】
ロータバー20を鉄心12に挿入する前に、ロータバー20の両端部には、スリット16を形成し、さらにスリット16の最奥部に進展止め17を形成しておく(ステップS1)。進展止め17は、たとえば、スリット16の面に沿って貫通する円形の貫通孔である。
【0017】
つぎに、スロット13の幅広部15内に、軸方向に延びる棒状のロータバー20を軸方向に挿入する(ステップS2)。
図1および
図2はこのステップの終了時の状況を示している。このとき、ロータバー20の両端は鉄心12の軸方向の両端部から突出している。また、このとき、ロータバー20に形成された二つの進展止め17は、ともに、鉄心12の軸方向端部より内側にある。
【0018】
つぎに、ロータバー20の両端のスリット16を広げる(ステップS3)。たとえば、図示しない楔をスリット16に打ち込むことによりスリット16を広げることができる。このとき、進展止め17があることにより、スリット16がさらに奥まで進展してロータバー20が破壊するのを防ぐことができる。このようにスリット16を開くことにより、ロータバー20はスロット13の軸端部に押し付けられて固定される。このとき、スロット13の外周に面して幅のせまい開口部14が形成されていることにより、ロータバー20が外周方向に動いてスロット13から外れることはない。
【0019】
この実施形態によれば、ロータバー20にスウェージングを施す場合に比べて短時間の簡単な作業により、ロータバー20をスロット13内に固定することができる。
【0020】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0021】
10・・・回転子
11・・・回転軸
12・・・鉄心
13・・・スロット(溝)
14・・・開口部
15・・・幅広部
16・・・スリット
17・・・進展止め
20・・・ロータバー