特許第5969919号(P5969919)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許5969919最適化装置および方法ならびに制御装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969919
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】最適化装置および方法ならびに制御装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 13/02 20060101AFI20160804BHJP
   G05B 13/04 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   G05B13/02 J
   G05B13/04
【請求項の数】12
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-288116(P2012-288116)
(22)【出願日】2012年12月28日
(65)【公開番号】特開2014-130496(P2014-130496A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2015年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】田原 鉄也
(72)【発明者】
【氏名】清水 洋
(72)【発明者】
【氏名】岩本 聡一
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 徹
(72)【発明者】
【氏名】植木 亘
【審査官】 藤島 孝太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−504590(JP,A)
【文献】 特表平11−513149(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/073259(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B1/00−7/04
11/00−13/04
17/00−17/02
21/00−21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象が制御に用いた操作変数および前記制御対象が出力する制御変数を含む前記制御対象のデータを収集するデータ収集部と、
前記制御対象の数学モデルを記憶するモデル記憶部と、
前記データ収集部に収集されたデータのなかの最適化の対象となる最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して過渡状態時間後の値を予測する第1予測部と、
前記最適化対象変数のうち積分要素の出力を含まない制御変数に対して所定の時間後の値を予測する第2予測部と、
前記最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して所定の時間後の単位時間当たりの変化量を予測する傾き予測部と、
最適化対象変数の所定の時間後の値に対して制約を設定する定常状態変数制約設定部と、
前記最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して過渡状態区間における単位時間当たりの変化量に0以外の制約を設定する過渡状態傾き制約設定部と、
前記最適化対象変数のうち少なくとも積分要素の出力を含む制御変数と関係を持つ操作変数の過渡状態区間における値に対して制約を設定する過渡状態変数制約設定部と、
前記過渡状態傾き制約設定部および前記過渡状態変数制約設定部で設定された制約を満たしかつ与えられている最適化の評価関数を最適化する前記最適化対象変数の最適解を求める求解演算部と
を備え、
前記最適化対象変数は、所定の時間までの時間区間を過渡状態時間が経過するまでの1つ以上の過渡状態区間と、過渡状態時間が経過した後の1つの定常状態区間とに分け、前記過渡状態区間および前記定常状態区間における前記操作変数および前記制御変数の値を個別に最適化対象として設定された変数であることを特徴とする最適化装置。
【請求項2】
請求項1記載の最適化装置において、
前記データ収集部に収集されたデータから設定されている最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して前記過渡状態時間以降における単位時間当たりの変化量に制約を設定する定常状態傾き制約設定部を備えることを特徴とする最適化装置。
【請求項3】
請求項2記載の最適化装置において、
前記過渡状態傾き制約設定部および定常状態傾き制約設定部は、前記最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して上下限値によって制約を与え、
前記過渡状態傾き制約設定部は、前記定常状態傾き制約設定部と比べてより大きい上限値およびより小さい下限値を制約として与えることを特徴とする最適化装置。
【請求項4】
請求項2記載の最適化装置において、
前記過渡状態傾き制約設定部および定常状態傾き制約設定部は、前記最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して単位時間当たりの変化量の大きさに応じたペナルティを出力し、
前記過渡状態傾き制約設定部は、同じ単位時間当たり変化量に対して前記定常状態傾き制約設定部より小さいペナルティを出力し、
前記求解演算部は、前記評価関数に前記ペナルティを加算した関数の最適化を行うことを特徴とした最適化装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載の最適化装置において、
前記評価関数に応じて前記過渡状態傾き制約設定部および前記定常状態傾き制約設定部の設定を調整することを特徴とした目標値最適化装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の最適化装置が出力した目標値を用いる制御装置であって、
操作変数および制御変数が最適化装置が出力した目標値に向かうように制御し、少なくとも積分系の制御変数が目標値に整定するまでの時間を調整する整定時間パラメータを持つ制御部を備え、
前記過渡状態時間を前記整定時間パラメータと連動させて決定することを特徴とする制御装置。
【請求項7】
制御対象が制御に用いた操作変数および前記制御対象が出力する制御変数を含む前記制御対象のデータを収集するデータ収集ステップと、
前記制御対象の数学モデルを記憶するモデル記憶ステップと、
前記データ収集ステップで収集されたデータのなかの最適化の対象となる最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して過渡状態時間後の値を予測する第1予測ステップと、
前記最適化対象変数のうち積分要素の出力を含まない制御変数に対して所定の時間後の値を予測する第2予測ステップと、
前記最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して所定の時間後の単位時間当たりの変化量を予測する傾き予測ステップと、
最適化対象変数の所定の時間後の値に対して制約を設定する定常状態変数制約設定ステップと、
前記最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して過渡状態区間における単位時間当たりの変化量に0以外の制約を設定する過渡状態傾き制約設定ステップと、
前記最適化対象変数のうち少なくとも積分要素の出力を含む制御変数と関係を持つ操作変数の過渡状態区間における値に対して制約を設定する過渡状態変数制約設定ステップと、
前記過渡状態傾き制約設定ステップおよび前記過渡状態変数制約設定ステップで設定された制約を満たしかつ与えられている最適化の評価関数を最適化する前記最適化対象変数の最適解を求める求解演算ステップと
を備え、
前記最適化対象変数は、所定の時間までの時間区間を過渡状態時間が経過するまでの1つ以上の過渡状態区間と、過渡状態時間が経過した後の1つの定常状態区間とに分け、前記過渡状態区間および前記定常状態区間における前記操作変数および前記制御変数の値を個別に最適化対象として設定された変数であることを特徴とする最適化方法。
【請求項8】
請求項7記載の最適化方法において、
前記データ収集ステップで収集されたデータから設定されている最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して前記過渡状態時間以降における単位時間当たりの変化量に制約を設定する定常状態傾き制約設定ステップを備えることを特徴とする最適化方法。
【請求項9】
請求項8記載の最適化方法において、
前記過渡状態傾き制約設定ステップおよび定常状態傾き制約設定ステップでは、前記最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して上下限値によって制約を与え、
前記過渡状態傾き制約設定ステップでは、前記定常状態傾き制約設定ステップと比べてより大きい上限値およびより小さい下限値を制約として与えることを特徴とする最適化方法。
【請求項10】
請求項8記載の最適化方法において、
前記過渡状態傾き制約設定ステップおよび定常状態傾き制約設定ステップでは、前記最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して単位時間あたりの変化量の大きさに応じたペナルティを出力し、
前記過渡状態傾き制約ステップでは、同じ単位時間当たり変化量に対して前記定常状態傾き制約ステップより小さいペナルティを出力し、
前記求解演算ステップでは、前記評価関数に前記ペナルティを加算した関数の最適化を行うことを特徴とした最適化方法。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか1項に記載の最適化方法において、
前記評価関数に応じて前記過渡状態傾き制約設定ステップおよび前記定常状態傾き制約設定ステップにおける設定を調整することを特徴とした最適化方法。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれか1項に記載の最適化方法により出力された目標値を用いる制御方法であって、
操作変数および制御変数が最適化装置が出力した目標値に向かうように制御し、少なくとも積分系の制御変数が目標値に整定するまでの時間を調整する整定時間パラメータを持つ制御ステップを備え、
前記過渡状態時間を前記整定時間パラメータと連動させて決定することを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御対象となる石油精製プロセス,石油化学プロセスなどの工業プロセスを最適化する最適化装置および方法ならびに制御装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製プロセス,石油化学プロセスなどの工業プロセスの制御手法として、モデル予測制御が知られている。モデル予測制御は元々、多入力・多出力システムとなるプロセスにおいて、プロセスの入力にあたる操作変数およびプロセスの出力にあたる制御変数に課せられた制約を守りつつ、これらの値を目標値へと整定させる制御手法として発展してきた。これらのことに加え、現在では、プロセスの定常状態における目標値を、線形計画法(Linear Programming、以下LPと略記)や二次計画法(Quadratic Programming、以下QPと略記)といった最適化手法により決定することが行われている(特許文献1、非特許文献1〜4参照)。
【0003】
このようなモデル予測制御の例について簡単に説明する。モデル予測制御を行うシステムは、図9に示すように、定常状態最適化部501と多変数モデル予測制御の演算を実行する制御部502とを備える。定常状態最適化部501は、最適化評価関数,上下限制約値,操作変数,制御変数などを入力し、LPやQPなどの最適化手法により、制御対象のプロセス503の定常状態での最適目標値を算出する。制御部502は、最適目標値,制御変数,および上下限値などを入力し、プロセス503の操作変数や制御変数が最適目標値に収束するよう、与えられた制約(上下限値)を考慮しつつ制御演算を行う。例えば、制御部502は、操作変数や制御変数が上下限値で定められた制限範囲から逸脱しないように制御する。なお、モデル予測制御の具体的な計算については、非特許文献4などに詳述されているので、ここでは説明を省略する。
【0004】
次に,LPやQPによって目標値を決める方法について説明する。実際のプロセスの最適化においては、現在の定常状態からの差分に対して最適化を行うことがある(以下、差分型最適化と呼ぶ)。例えば特許文献1には、モデル予測制御を対象としたシステムの定常状態の最適化方法について開示されているが、ここでは差分型の最適化演算が行われている。また、非特許文献2には、プロセスの最適化をLPによって決定する方法について記載されているが、ここでも差分型の最適化が使われている。
【0005】
以下、u1,u2,・・・umは操作変数を表し、y1,y2,・・・,ynは、制御変数の値を表すものとする。操作変数の数はm、制御変数の数はnである。また、kは、現在の制御周期を表すインデックスとする。制御変数や操作変数をまとめてベクトルとして扱う時は、以下の式(1)に示すように表記する。更に、制御変数と操作変数のベクトルを1つにして扱う時は、以下の式(2)に示すようにxで表記する。また、差分型の最適化問題は、式(3)に例示するように記述する。
【0006】
【数1】
【0007】
u(k−1)は一制御周期前における操作変数の値、y(∞)はu(k−1)をプロセスに入力し続けた場合に制御変数が収束する値である。ここでは、u(k−1)とy(∞)の組、すなわち、一制御周期前の値を継続した場合のプロセスの定常状態を最適化の原点x0とし、原点からの最適な差分値Δxoptを求める問題として最適化を行っている。
【0008】
Δuはu(k−1)からの差分、Δyはy(∞)からの差分となる。Jは評価関数であり、この値を最小化することが目的である。Hが非ゼロであれば二次計画法、ゼロであれば線形計画法である。式(3)の6行目の式は、現在の定常状態から操作変数をΔuだけ変えたら、制御変数の変化量ΔyがG0Δuになることを意味する。ここで、G0はプロセス(制御対象)の伝達関数行列G(s)がs=0の時の値である。なお、「G0=G(0)・・・(4)」である。以下、G0を直流ゲイン行列と呼ぶ。また、ui,yiに下線をつけた変数は、操作変数や制御変数の下限値を示し、上線をつけた変数は上限値を示している。何れも不等式制約として表すことができる。なお、不等式制約を一般的に表すと「AΔx≦Δb・・・(5)」のように書ける。
【0009】
上記問題を解いてΔxoptが得られれば、得られた値をx0に加算することで、最適目標値xoptが得られる。この値をモデル予測制御の目標値とすることで、プロセスを最適な状態へと制御できる。
【0010】
なお、ここでは上下限値内に制限することによって操作変数や制御変数の制約を規定したが、これ以外の方法もある。例えば、制御変数が上下限値から逸脱した量に応じたペナルティを、前述した評価関数に追加する方法もある。この方法の場合は、制御変数は上下限値から逸脱することを許されるが、逸脱する量が大きくなると評価関数が大きくなるため、逸脱する量は抑制されることになる。
【0011】
また、本書において、制約といった場合は、上下限値内や設定値から外れることを一切許容しないもの、および上下限値内や設定値から外れることは許容するがペナルティによって上下限値や設定値からの逸脱を抑制するようなもの、の双方を包含するものとする。また、上下限値内や設定値から外れることを許容しないタイプの制約をハードな制約、外れることを許容するタイプの制約をソフトな制約と呼ぶ。ソフトな制約の場合、元々の上下限値や設定値から外れることが許容されるため、制約を満たさない解が得られることがある。本書では、上述したような場合も含めて「制約を満たす」と表現するが、実際に満たされるのは元々の上下限値や設定値から広げられた制約であることに注意する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第4614536号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】大嶋正裕、「モデル予測制御―理論の誕生・展開・発展―」、計測と制御、第39巻、第5号、321−325頁、2000年。
【非特許文献2】石川昭夫、大嶋正裕、谷垣昌敬、村上周太、「定常最適化機能を持つモデル予測制御での悪条件の除去法」、化学工学論文集、第24巻、第1号、24−29頁、1998年。
【非特許文献3】S. Joe Qin, Thomas A. Badgwell, "A survey of industrial model predictive control technology", Control Engineering Practice, vol.11, pp.733-764, 2003.
【非特許文献4】Jan M. Maciejowski (足立修一、野政明訳)、「 モデル予測制御 ― 制約のものとでの最適制御 ―」、 東京電機大学出版局 、2005年。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上述した関連する技術においては、制御対象としてのプロセスが積分要素を含む場合の最適化に課題があった。
【0015】
積分要素とは、出力が入力の時間積分に比例するような要素である。伝達関数で表すとK/sである。積分要素を持った動的システム(以下、積分系と呼ぶ)の例として、タンクを用いて説明する。タンク内の流体の体積をy1、タンクへの流入流量がu1、タンクからの流出流量がu2であるとすると、これらの関係は、以下の式(6)で表される。流入流量、流出流量をシステムへの入力、体積を出力と考えれば、このシステムは積分系となっている。
【0016】
【数2】
【0017】
積分要素は、入力を0にしない限り、出力が一定にならない。このため、積分系の出力は一定値にならず、変化し続けることがある。例えば、上述したタンクの例で言えば、流入流量と流出流量が釣り合わない場合、タンク内の流体体積は変化し続けることになる。流入流量が流出流量より多い状態が継続すれば、タンク内の流体は溢れる。一方、流出流量の方が多ければ、タンクはいつかは空になる。もちろん、通常は何れの状態にもならないように制御する必要がある。
【0018】
実際のプロセスにおいても、積分要素を持ったものがあり、最適化の対象となりうる。しかし、このようなプロセスに、上述した技術は、後述する理由により、そのままでは適用できない。
【0019】
1つは、操作変数の変化量Δuが有限であり、与えられた制約内であったとしても、制御変数の変化量Δyが有限になるとは限らないためである。前述では、Δyは直流ゲイン行列G0とΔuの積によって計算できると説明したが、プロセスが積分要素を含む場合、G0が有限にならない。これは、積分要素の伝達関数がK/sであり、s=0で無限大になることから来ている。G0が有限にならない以上、Δyも有限にならない。実際、前述したタンクの例においても、y1が有限にならない、もしくは、溢れたり空になったりする状況が起こりうることは、当業者であれば容易に理解可能であろう。
【0020】
また、差分型の最適化においては、y(∞)が計算できないことも問題となる。y(∞)は、1制御周期前の入力u(k−1)を継続した場合の定常状態における制御変数の収束値である。前述した最適化手法は、y(∞)が存在することが前提となっている。しかし、タンクの例を取ると、u1とu2が等しくなければ、y1(∞)は有限の値にならない。このため、最適化の前提となる条件が成立しない。
【0021】
以上のような理由により、非特許文献2に記載された方法は、積分要素を含むプロセス特有の振る舞いが考慮されていないため、最適化手法もそのままでは適用できない。このため、積分要素を含むプロセスの最適化手法は通常と異なったものとなる。例えば、モデル予測制御の産業応用について記述された非特許文献3の3.3.4項(753頁)では、積分要素を持つプロセスの定常状態最適化手法として、2つの方法が示されている。
【0022】
第1に、積分系を含む制御変数の傾きを0に制限するという等式制約条件(ハードな制約)を追加する方法が示されている。第2に、積分系を含む制御変数の傾きの大きさ(例えば傾きの2乗)を最適化の評価関数にペナルティとして加えることで、制御変数の傾きにソフトな制約を与える方法が示されている。このようにして最適化問題を解くと、積分系を含む制御変数の傾きは0か十分小さな値となり、操作変数の最適解は、上述した制御変数の動きを抑えるような値となる。
【0023】
これらの方法は、積分系プロセスであっても最適化を可能にするという意味では優れている。しかしながら、問題が完全に解決したわけではなく、以下のような問題が残る。
【0024】
まず、積分系を含む制御変数を積極的に最適化することができない。上述の方法は、積分系を持つ制御変数の傾きが0、もしくはできるだけ小さくなるような操作変数、制御変数の目標値を算出することを目的としている。しかしながら、積分系を持つ制御変数の値自体を望ましい(最適な)値に近づけるための方策は示されていない。
【0025】
加えて、積分系を持つ制御変数と関係を持つ操作変数の最適化に影響を与える。例えば、図10に示すような、操作変数が2つ(MV1、MV2)、制御変数が1つ(CV1)の制御対象を考える。MV1からCV1までの間には積分要素があるが、MV2からCV1までの間には無い。最適化演算を行う時点で、CV1は傾きが0であり、この値は下限値と一致していたとする。
【0026】
ここで、最適化の目標はMV2の最小化とする。MV1からCV1までの間には積分系要素が存在し、CV1の現在の傾きが0であるため、CV1の傾きを0にするという制約条件を入れて最適化問題を解くと、MV1の最適目標値は現在値となる。これは、現在値から外れるとCV1が傾きを持つためである。
【0027】
一方、MV2の最適目標値も現在値となる。これは、CV1の値が下限値と一致しているため、これ以上MV2の値を減らすことができないためである。実際には、MV1の値を一時的に増やし、これから元に戻せば、CV1の傾きを0に保つこと、CV1の値を下限に保つこと、およびMV2の値を現在値より更に減らすことは、同時に実現することができる。しかしながら、前述の方法ではCV1の傾きを0、もしくは0に近い値に保つことだけが考えられているため、MV1およびMV2を共に動かすことができない。このように、前述した関連する技術では、できるはずの最適化ができない状況が起こりうる。
【0028】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、積分系を持つ制御対象であっても、制御の目標値の最適化ができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明に係る最適化装置は、制御対象が制御に用いた操作変数および制御対象が出力する制御変数を含む制御対象のデータを収集するデータ収集部と、制御対象の数学モデルを記憶するモデル記憶部と、データ収集部に収集されたデータのなかの最適化の対象となる最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して過渡状態時間後の値を予測する第1予測部と、最適化対象変数のうち積分要素の出力を含まない制御変数に対して所定の時間後の値を予測する第2予測部と、最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して所定の時間後の単位時間当たりの変化量を予測する傾き予測部と、最適化対象変数の所定の時間後の値に対して制約を設定する定常状態変数制約設定部と、最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して過渡状態区間における単位時間当たりの変化量に0以外の制約を設定する過渡状態傾き制約設定部と、最適化対象変数のうち少なくとも積分要素の出力を含む制御変数と関係を持つ操作変数の過渡状態区間における値に対して制約を設定する過渡状態変数制約設定部と、過渡状態傾き制約設定部および過渡状態変数制約設定部で設定された制約を満たしかつ与えられている最適化の評価関数を最適化する最適化対象変数の最適解を求める求解演算部とを備え、最適化対象変数は、所定の時間までの時間区間を過渡状態時間が経過するまでの1つ以上の過渡状態区間と、過渡状態時間が経過した後の1つの定常状態区間とに分け、過渡状態区間および定常状態区間における操作変数および制御変数の値を個別に最適化対象として設定された変数である。
【0030】
上記最適化装置において、データ収集部に収集されたデータから設定されている最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して過渡状態時間以降における単位時間当たりの変化量に制約を設定する定常状態傾き制約設定部を備えるようにしてもよい。
【0031】
上記最適化装置において、過渡状態傾き制約設定部および定常状態傾き制約設定部は、最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して上下限値によって制約を与え、過渡状態傾き制約設定部は、定常状態傾き制約設定部と比べてより大きい上限値およびより小さい下限値を制約として与えるようにしてもよい。
【0032】
上記最適化装置において、過渡状態傾き制約設定部および定常状態傾き制約設定部は、最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して単位時間当たりの変化量の大きさに応じたペナルティを出力し、過渡状態傾き制約設定部は、同じ単位時間当たり変化量に対して定常状態傾き制約設定部より小さいペナルティを出力し、求解演算部は、評価関数にペナルティを加算した関数の最適化を行うようにしてもよい。
【0033】
上記最適化装置において、評価関数に応じて過渡状態傾き制約設定部および定常状態傾き制約設定部の設定を調整するようにしてもよい。
【0034】
また、本発明に係る制御装置は、上述した最適化装置が出力した目標値を用いる制御装置であり、操作変数および制御変数が最適化装置が出力した目標値に向かうように制御し、少なくとも積分系の制御変数が目標値に整定するまでの時間を調整する整定時間パラメータを持つ制御部を備え、過渡状態時間を整定時間パラメータと連動させて決定する。
【0035】
本発明に係る最適化方法は、制御対象が制御に用いた操作変数および制御対象が出力する制御変数を含む制御対象のデータを収集するデータ収集ステップと、制御対象の数学モデルを記憶するモデル記憶ステップと、データ収集ステップで収集されたデータのなかの最適化の対象となる最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して過渡状態時間後の値を予測する第1予測ステップと、最適化対象変数のうち積分要素の出力を含まない制御変数に対して所定の時間後の値を予測する第2予測ステップと、最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して所定の時間後の単位時間当たりの変化量を予測する傾き予測ステップと、最適化対象変数の所定の時間後の値に対して制約を設定する定常状態変数制約設定ステップと、最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して過渡状態区間における単位時間当たりの変化量に0以外の制約を設定する過渡状態傾き制約設定ステップと、最適化対象変数のうち少なくとも積分要素の出力を含む制御変数と関係を持つ操作変数の過渡状態区間における値に対して制約を設定する過渡状態変数制約設定ステップと、過渡状態傾き制約設定ステップおよび過渡状態変数制約設定ステップで設定された制約を満たしかつ与えられている最適化の評価関数を最適化する最適化対象変数の最適解を求める求解演算ステップとを備え、最適化対象変数は、所定の時間までの時間区間を過渡状態時間が経過するまでの1つ以上の過渡状態区間と、過渡状態時間が経過した後の1つの定常状態区間とに分け、過渡状態区間および定常状態区間における操作変数および制御変数の値を個別に最適化対象として設定された変数である。
【0036】
上記最適化方法において、データ収集ステップで収集されたデータから設定されている最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して過渡状態時間以降における単位時間当たりの変化量に制約を設定する定常状態傾き制約設定ステップを備えるようにしてもよい。
【0037】
上記最適化方法において、過渡状態傾き制約設定ステップおよび定常状態傾き制約設定ステップでは、最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して上下限値によって制約を与え、過渡状態傾き制約設定ステップでは、定常状態傾き制約設定ステップと比べてより大きい上限値およびより小さい下限値を制約として与えるようにすればよい。
【0038】
上記最適化方法において、過渡状態傾き制約設定ステップおよび定常状態傾き制約設定ステップでは、最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して単位時間あたりの変化量の大きさに応じたペナルティを出力し、過渡状態傾き制約ステップでは、同じ単位時間当たり変化量に対して定常状態傾き制約ステップより小さいペナルティを出力し、求解演算ステップでは、評価関数にペナルティを加算した関数の最適化を行うようにしてもよい。
【0039】
上記最適化方法において、評価関数に応じて過渡状態傾き制約設定ステップおよび定常状態傾き制約設定ステップにおける設定を調整するようにしてもよい。
【0040】
また、本発明に係る制御方法は、上述した最適化方法により出力された目標値を用いる制御方法であり、操作変数および制御変数が最適化装置が出力した目標値に向かうように制御し、少なくとも積分系の制御変数が目標値に整定するまでの時間を調整する整定時間パラメータを持つ制御ステップを備え、過渡状態時間を整定時間パラメータと連動させて決定する。
【発明の効果】
【0041】
以上説明したことにより、本発明によれば、積分系を持つ制御対象であっても、制御の目標値の最適化ができるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1は、本発明の原理を説明するための説明図である。
図2図2は、本発明の実施の形態1における最適化装置の構成を示す構成図である。
図3図3は、本発明の実施の形態1における最適化装置の第1予測部121および第2予測部122を有する定常状態予測部102の動作例について説明するフローチャートである。
図4図4は、本発明の実施の形態1における最適化装置が備える目標値演算部105の構成を示す構成図である。
図5図5は、本発明の実施の形態1における最適化装置の動作(最適化方法)を説明するフローチャートである。
図6図6は、本発明の実施の形態2における最適化装置が備える目標値演算部105aの構成を示す構成図である。
図7図7は、傾きに対する上下限値の与え方の一例を説明するための説明図である。
図8図8は、本発明の実施の形態3における最適化装置が備える目標値演算部105aの構成を示す構成図である。
図9図9は、モデル予測制御を行うシステムの構成例を示す構成図である。
図10図10は、制御対象の構成を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
[原理]
はじめに、本発明の原理について説明する。
【0044】
「発明が解決しようとする課題」の欄で説明したように、積分系を持つ制御対象の目標値の最適化においては、予め定めた所定の時間後には積分系を持つ制御変数の傾きが0、もしくは比較的小さい値にすることが要求されるのが一般的である。しかしながら、目標値へ向かって制御する途中の状態(過渡状態)においては、この要求は必ずしも必要ではないと考えられる。また、積分系と関係を持つ制御変数の値の変化量を最適化に組み込むことは、過渡状態における操作変数の値を考慮し、過渡状態にある時間を定めれば可能である。
【0045】
本発明では、所定の時間後の目標値だけでなく、過渡状態における操作変数や制御変数の値も最適化問題の未知変数とする。また、最適化のパラメータとして、過渡状態にあることを想定する時間(以下、過渡状態時間と呼ぶ)を追加する。更に、図1に示すように、積分系を持つ制御変数の過渡状態における傾きについては、傾きが0でない場合(非零)の制約として、傾きを持つことを許容する。こうすることで、過渡状態にある時間を利用して、積分系を持つ制御変数の値を積極的に動かすことを前提とした最適化が可能となる。また、過渡状態にある時間を仮定することで、積分系を持つ制御変数の変化量が有限となり、具体的な値を見積もることが可能となる。これによって、積分系を持つ制御変数を最適化問題へと明示的に組み込むことが可能となる。
【0046】
「発明が解決しようとする課題」で述べたもう1つの問題である定常状態における制御変数の収束値y(∞)が計算できない問題も、過渡状態時間を設定することで解決できる。積分系を持つ制御変数は一定値に収束するとは限らないが、有限時間先の値を予測することは可能である。従って、積分系を持つ制御変数については、定常状態における収束値の代わりに、過渡状態時間先の予測値を計算する。また、計算した予測値を最適化問題で利用する。このようにすることで、y(∞)が計算できない問題も解決する。
【0047】
以上のようにすることで、積分系を持つ制御変数や、この制御変数と関係を持つ操作変数の目標値をより望ましい値へ近づけることが可能となり、積極的な最適化ができるようになる。
【0048】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0049】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について、図2を用いて説明する。図2は、本発明の実施の形態1における最適化装置の構成を示す構成図である。この最適化装置は、データ収集部101,定常状態予測部102,傾き予測部103,モデル記憶部104,および目標値演算部105を備える。また、定常状態予測部102は、第1予測部121および第2予測部122を備える。
【0050】
データ収集部101は、制御対象であるプロセス131から制御変数,操作変数,外乱変数などの、プロセス131の将来の応答を予測するために必要なデータを収集する。これらのデータは、定常状態予測部102および傾き予測部103に送られる。モデル記憶部104は、プロセス131の挙動を予測し、また、操作変数の変化量と制御変数の変化量の関係を求めるために必要な数学モデルを記憶する。この数学モデルとしては、伝達関数モデル,状態空間表現モデル,ステップ応答モデルなどがある。当然ながら、これらのモデルに限るものではなく、他の数学モデルも利用可能である。
【0051】
定常状態予測部102は、プロセス131への入力である操作変数の値が現在のまま継続すると仮定して、プロセス131の予め定めた所定の時間後における制御変数の値を予測する。この所定の時間は、積分系以外の制御変数が収束するのに十分な時間を充てることが好ましい。
【0052】
ここで、前述したように、積分系の制御変数は有限値に収束するとは限らないため、本来の意味での定常状態の予測値は得られない。このため、実施の形態1では、定常状態予測部102に、第1予測部121および第2予測部122を備える。積分系の制御変数については、第1予測部121により、所定の過渡状態時間先の予測値を利用する。第1予測部121は、データ収集部101に収集されたデータのなかの最適化の対象となる最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して過渡状態時間後の値を予測する。この時の過渡状態時間であるが、前述した予め定めた所定の時間以前であり、有限でなくてはならない。
【0053】
一方で、第1予測部121で用いない制御変数および操作変数については、第2予測部122において、所定の時間先の予測値を求める。第2予測部122は、最適化対象変数のうち積分要素の出力を含まない制御変数に対して所定の時間後の値を予測する。この所定の時間は、無限であってもよい。第2予測部122の対象は積分系ではないので、無限時間先の予測値は一定値に収束する。なお、以下では、無限時間後でなくても、過渡状態時間以降から所定の時間までを含めて定常状態と呼ぶものとする。また、定常状態予測部102が出力する予測値のうち、第1予測部121が出力する積分系の制御変数の予測値は有限時間後の値であり、正確に言えば定常状態の予測値ではないが、以下では便宜上、この値も含めて定常状態予測値と呼ぶものとする。
【0054】
なお、最適化対象変数は、所定の時間までの時間区間を過渡状態時間が経過するまでの1つ以上の過渡状態区間と、過渡状態時間が経過した後の1つの定常状態区間とに分け、過渡状態区間および定常状態区間における操作変数および制御変数の値を個別に最適化対象として設定した変数である。
【0055】
次に、2つの第1予測部121および第2予測部122を有する定常状態予測部102の動作例について、図3のフローチャートを用いて説明する。
【0056】
まず、ステップS101で、定常状態予測部102が、制御変数番号iを1にリセットする。また、ステップS102で、定常状態予測部102が、操作変数番号jを1にリセットする。次に、ステップS103で、定常状態予測部102が、モデル記憶部104に記憶されたモデルのなかに、操作変数jから制御変数iへのモデルが存在するかどうかを調べる。対応するモデルがあれば(ステップS103のy)、ステップS104で、定常状態予測部102は、当該モデルが積分系かどうかを判断する。
【0057】
モデルが積分系の場合(ステップS104のy)、ステップS105で、定常状態予測部102では、第1予測部121が、モデルの出力応答の時系列を過渡状態時間後まで求め、現在から予測の終端までの間に操作変数iによって制御変数jが変化した量の予測値を求める。
【0058】
一方、モデルが積分系ではない場合(ステップS104のn)、ステップS106で、定常状態予測部102では、第2予測部122が、所定の時間後までにモデルの出力応答の時系列が変化した量(操作変数iによって制御変数jが変化した量)の予測値を求める。また、所定の時間が無限時間の場合は、制御変数の値が収束するまでに変化した量の予測値を求める。
【0059】
上述した予測は、操作変数jと制御変数iのペア毎に、操作変数jが今後も現在値を維持すると仮定した上で行われる。
【0060】
ここで、ステップS103の判断でモデルが無ければ(ステップS103のn)、操作変数jは制御変数iの予測に関係しないので、定常状態予測部102は、予測演算をスキップし、現在対象としている操作変数が最後であるかどうかを判定し(ステップS107)、最後ではない場合(ステップS107のn)、操作変数番号iに1を加えて操作変数番号を進め(ステップS108)、ステップS103に戻る。
【0061】
上述したことにより、操作変数jから制御変数iへのモデルが存在する全ての操作変数に対して上述した演算を実行したら(ステップS107のn)、ステップS109で、定常状態予測部102は、求めた変化量の予測値を合算し、制御変数iの予測変化量とする。この予測変化量を制御変数iの現在予測値、もしくは現在の測定値に足すと、制御変数iの定常状態における予測値となる。以上の演算を制御変数毎に行うことで(ステップS110,ステップS111)、定常状態予測部102は、全ての制御変数の定常状態予測値を求めて出力する。なお、定常状態予測値は、この値の計算に用いた操作変数の値と共に出力され、目標値演算部105へと渡される。
【0062】
なお、定常状態予測の演算は、上述したことに限るものではなく、以下に示すようにしてもよい。例えば、上述では、第2予測部122が、所定の時間先の予測値を求めるようにしているが、この所定の時間は、過渡状態時間と同じであってもよい。この場合、第1予測部121と第2予測部122は同一になる。また、所定の時間を無限遠点に取ってもよい。この場合は、積分系でない制御変数については、関連する技術と同様な予測結果となる。
【0063】
また、図3のフローチャートを用いた説明では、操作変数と制御変数のペア毎に予測演算を行ったが、これに限るものではなく、一括で計算してもよい。例えば、状態空間表現モデルを用いた演算であれば、多変数系全体の応答計算を同時に行うことも可能と考えられる。ただし、積分系が関係する部分(第1予測部121に相当)については、予測計算を所定の有限時間で打ち切る必要があることに注意する必要がある。また、外乱変数が存在し、制御変数の応答に影響する場合には、外乱変数と制御変数の間の予測モデルを用いて同様に予測を行うことが好ましい。何れにおいても、定常状態予測の演算に関しては、数学モデルを用いて制御対象の将来の値を予測する方法は多種多様な技術が適用可能である。
【0064】
次に、傾き予測部103について説明する。傾き予測部103は、最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して所定の時間後の単位時間当たりの変化量(傾き)を予測する。予測するものが値ではなく傾きであるという点を除けば、第2予測部122と同様であり、第2予測部122と同様に予測する。例えば、操作変数から制御変数の傾きまでの数学モデルを用意し、用意した数学モデルと収集した制御対象のデータを用いて傾きの応答を求め、この応答が収束する値を、定常状態における傾き予測値とすればよい。
【0065】
次に、目標値演算部105について、図4を用いてより詳細に説明する。図4は、本発明の実施の形態1における最適化装置が備える目標値演算部105の構成を示す構成図である。目標値演算部105は、過渡状態傾き制約設定部151,定常状態傾き制約設定部152,過渡状態変数制約設定部153,定常状態変数制約設定部154,および求解演算部155を備える。
【0066】
過渡状態傾き制約設定部151は、積分要素の出力を持つ制御変数の過渡状態における傾きに対して制約を設定する。最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して過渡状態区間における単位時間当たりの変化量(傾き)に0以外の制約を設定する。実施の形態1における最適化装置では、過渡状態で傾きを持つことを許容することで、関連する技術より積極的な最適化を実現している。従って、少なくとも傾きを0に拘束するような制約は、与えない。なお、傾きに対して制約を与えないという設定をすることもできる。
【0067】
定常状態傾き制約設定部152は、積分要素の出力を持つ制御変数の過渡状態時間を経過した後、所定の時間後の傾きに対して制約を設定する。なお、定常状態傾き制約設定部152は、本発明にとって必須の構成要素ではない。ただし、過渡状態時間経過後も制御変数に大きな傾きを許容するのは、制御系の安定性や目標値追従特性を損なう恐れが高い。従って、通常は、関連する技術と同様に、定常状態傾き制約設定部152によって所定の時間後において傾きを抑制するような制約を設定することが好ましい。
【0068】
過渡状態変数制約設定部153は、操作変数および制御変数の過渡状態における制約を設定する。一般に、操作変数は、物理的に上下限制約から外れることが困難であり、少なくとも積分要素の出力を含む制御変数と関係する操作変数、すなわち、当該操作変数の値を変えると積分要素の出力が変わる操作変数については制約を与える必要がある。このように制約を与えることで、積分要素の出力を含む制御変数の傾きが、操作変数の観点から実現可能な範囲に制限されるため、適切な解を得ることができる。なお、制御変数に対して制約を与えてもよく、この方が好ましいが、必須ではない。
【0069】
定常状態変数制約設定部154は、最適化対象変数である操作変数および制御変数の所定の時間後(定常状態における)の値に対して制約を設定する。この制約はハードな制約であってもよく、また、ソフトな制約であってもよい。定常状態変数制約設定部154は、関連する技術と同じであり、同様に設定して構わない。
【0070】
上述した過渡状態傾き制約設定部151,定常状態傾き制約設定部152,過渡状態変数制約設定部153,定常状態変数制約設定部154,および求解演算部155による各種制約,過渡状態時間,制御対象のモデル,所与の最適化評価関数は,求解演算部155に渡される。求解演算部155は、上述した値を用い、全ての変数が制約を満たす範囲で評価関数を最適にするような最適目標値が求められる。
【0071】
ここで、求解演算部155が演算に用いる過渡状態時間の与え方について説明する。過渡状態時間の与え方は、所定の時間を越えない範囲で任意に定めることができる。ただし、積分系の傾きが収束する時間(操作変数の値を変えてから積分系の制御変数の傾きが一定になるまでの時間)よりは長くすることが好ましい。
【0072】
また、本実施の形態における最適化装置(最適化方法)によって決定された最適目標値へと制御を行うモデル予測制御部がある場合は、モデル予測制御部のパラメータを参照して決定しても良い。例えば、モデル予測制御部のパラメータとして積分系の制御変数の整定時間が与えられている場合、この設定時間を過渡状態時間として用いることが可能である。また、最適目標値への制御が、モデル予測制御でない場合も、少なくとも積分系の制御変数の整定時間を調整するパラメータがある場合や、整定時間が制御仕様として与えられているのであれば、与えられている整定時間と連動するようにして過渡状態時間を決めることができる。
【0073】
また、本実施の形態における最適化装置(最適化方法)によって決定された最適目標値が制御装置へと送信され、制御装置がその最適目標値へと制御する場合は、制御装置が積分系の制御変数を目標値へと制御する際の整定時間に合わせて、前記過渡状態時間を決めることができる。例えば、制御装置が積分系の制御変数を、整定時間Tstで目標値へと追従させる場合に、過渡状態時間を「(過渡状態時間)=γ×Tst,(γは予め設定する正の定数)」によって決める。
【0074】
γは1前後の値が好ましく、通常は1に設定してよい。過渡状態時間の決定方法はこの方法に限られるものではないが、整定時間と概ね比例関係になるように、すなわち、整定時間を長くすれば過渡状態時間も長くなるようにする。こうすることで、制御装置の整定時間と連動して最適化装置の過渡状態時間が適切かつ自動的に決定されるため、制御装置の整定時間の設定に関係なく、本発明の効果を得ることができる。
【0075】
このようにして過渡状態時間を決める場合、最適化装置に接続する制御装置は、少なくとも積分系の制御変数の整定時間を調節可能なものである必要がある。最も好ましいのは、整定時間を直接指定できることであるが、制御のパラメータを介して間接的に整定時間が決まるのでも構わない。例えば、所定の基準時間が予め決めてあって、基準時間と前記パラメータを乗算、もしくは除算することで整定時間が決まるような構成としてもよい。以上の条件を満たす手法であれば制御手法は問わないが、最適化装置に与えられた制約を考慮して制御できるという点では、モデル予測制御は本発明に向いていると言える。
【0076】
なお、ここでは最適化装置の過渡状態時間を制御装置の整定時間に合わせて決める方法を説明したが、制御装置の整定時間を最適化装置の過渡状態時間に合わせて決めるのでも同様になることは、当業者であれば容易に理解できるであろう。
【0077】
また、過渡状態時間までの区間を複数に分割し、分割した各々の区間における制御変数と操作変数の値を最適化の対象とすることも可能である。ただし、本発明の効果は、積分系の制御変数が傾きを持つことを許す過渡状態区間と、傾きを抑制する定常状態区間に分割することによるものであり、過渡状態区間を更に分割しても効果が大幅に増大するものではない。
【0078】
以上をまとめると、本発明の実施の形態1における最適化装置の動作(最適化方法)は、図5のフローチャートに示すようになる。
【0079】
まず、ステップS201で、データ収集部101が、制御対象が制御に用いた操作変数および制御対象が出力する制御変数を含む制御対象のデータを収集する(データ収集ステップ)。次に、ステップS202で、モデル記憶部104に、制御対象の数学モデルを記憶する(モデル記憶ステップ)。
【0080】
次に、ステップS203で、第1予測部121が、ステップS201でデータ収集部101により収集されたデータのなかの最適化の対象となる最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して過渡状態時間後の値を予測する(第1予測ステップ)。次いで、ステップS204で、第2予測部122が、最適化対象変数のうち積分要素の出力を含まない制御変数に対して所定の時間後の値を予測する(第2予測ステップ)。
【0081】
次に、ステップS205で、傾き予測部103が、最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して所定の時間後の単位時間当たりの変化量(傾き)を予測する(傾き予測ステップ)。次に、ステップS206で、定常状態変数制約設定部154が、最適化対象変数の所定の時間後の値に対して制約を設定する(定常状態変数制約設定ステップ)。次に、ステップS207で、過渡状態傾き制約設定部151が、最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して過渡状態区間における単位時間当たりの変化量に0以外の制約を設定する(過渡状態傾き制約設定ステップ)。
【0082】
次に、ステップS208で、過渡状態変数制約設定部153が、最適化対象変数のうち少なくとも積分要素の出力を含む制御変数と関係を持つ操作変数の過渡状態区間における値に対して制約を設定する(過渡状態変数制約設定ステップ)。この後、ステップS209で、求解演算部155が、ステップS207およびステップS208で設定された制約を満たしかつ与えられている最適化の評価関数を最適化する最適化対象変数の最適解を求める(求解演算ステップ)。
【0083】
なお、最適化装置は、CPU(Central Processing Unit;中央演算処理装置)と主記憶装置と外部記憶装置とネットワーク接続装置となどを備えたコンピュータ機器であり、主記憶装置に展開されたプログラムによりCPUが動作することで、上述した各機能が実現される。また、各機能は、複数のコンピュータ機器に分散させるようにしてもよい。
【0084】
以上に説明したように、実施の形態1によれば、第1予測部121により、データ収集部101に収集されたデータのなかの最適化の対象となる最適化対象変数のうち積分要素の出力を含む制御変数に対して過渡状態時間後の値を予測し、また、目標値演算部105では、過渡状態傾き制約設定部151により、積分系を持つ制御変数の過渡状態における傾きについては、傾きが0でない場合(非零)の制約として、傾きを持つことを許容するようにしたので、積分系を持つ制御対象であっても、制御の最適化ができるようになる。
【0085】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について図6を用いて説明する。図6は、本発明の実施の形態2における最適化装置の一部構成を示す構成図である。図6では、最適化装置が備える目標値演算部105aの構成について示している。他の構成は、図2を用いて説明した実施の形態1と同様である。
【0086】
実施の形態2では、過渡状態傾き制約設定部151,定常状態傾き制約設定部152において、積分系の制御変数の傾きに対する制約が上下限値に制限することによって与えられることに特徴がある。すなわち、傾きの制約がハードな制約となっている。また、過渡状態傾き制約設定部151では、定常状態傾き制約設定部152で設定された上下限値よりも緩和された上下限が設定される。すなわち、上限はより大きく、下限はより小さくなる。なお、過渡状態傾き制約設定部151で、上限を正の無限大に、下限を負の無限大に設定することも含まれる。これは、過渡状態では傾きに制約を与えないことと実質的に等価である。
【0087】
また、実施の形態2では、目標値演算部105aが、新たに、擬似ゲイン行列演算部156および傾きゲイン行列演算部157を備える。
【0088】
以下、実施の形態2における目標値演算部105aについて、詳細に説明する。本発明では前述したように、操作変数が過渡状態と定常状態とで異なる値を取ることを想定する。以下では、過渡状態における値と定常状態における値を区別するため、過渡状態の変数値についてはダッシュ「’」を右上につけるものとする。例えば、u1,・・・,umは定常状態における操作変数の値を示し、u’1,・・・,u’mは過渡状態における値を示す。制御変数および変数をまとめたベクトルについても同様に区別する。
【0089】
擬似ゲイン行列演算部156は、操作変数の変化量と制御変数の変化量とを関係づける行列を求める。擬似ゲイン行列の役割は、関連する技術における直流ゲイン行列と同じである。直流ゲイン行列は行数が制御変数の数「n行」、列数が操作変数の数「m列」であり、i行j列の要素Gijは、操作変数iの値を1変えた時に制御変数jが変化する量に等しい。擬似ゲイン行列も同様であるが、過渡状態の変数値を最適化問題に導入しているため、異なる部分がある。
【0090】
まず、列数が操作変数の数の2倍「2m列」となる。これは、過渡状態と定常状態とで操作変数が異なる値を取ることを許容しているためである。また、操作変数iから制御変数jへの予測モデルが積分系の場合は過渡状態の操作変数の値のみに影響を受けるのに対し、予測モデルが積分系でない場合は定常状態の操作変数値のみに影響を受ける。このことを考慮すると、擬似ゲイン行列の計算は次のようになる。
【0091】
[操作変数iから制御変数jへの予測モデルが積分系の場合]
行列のi行j列の要素は、過渡状態で操作変数iを1だけ変えた時に、制御変数jが過渡状態の間に(定常状態になるまでに)変化する量を設定する。計算方法としては、予測モデルの単位ステップ応答(単位ステップ入力を与えた時の出力応答)を計算し、過渡状態時間後の値を求める。過渡状態時間からむだ時間を引いた値と、後述する傾きゲインとを乗算して求める、もしくはより単純に、過渡状態時間と傾きゲインの積を求めるといった方法がある。なお、i行j+m列の要素は0にする。
【0092】
[操作変数iから制御変数jへの予測モデルが積分系でない場合]
行列のi行j列の要素を0に、i行j+m列の要素は予測モデルの直流ゲインを設定する。
【0093】
以上のようにして得られた擬似ゲイン行列をGとすると、操作変数と制御変数の変化量の関係は、次の式(7)で示すものとなる。これを求解演算部155へと入力する。
【0094】
【数3】
【0095】
傾きゲイン行列演算部157は、操作変数の変化量と制御変数の傾きの変化量とを関係づける行列を求める。行列はn行m列であり、i行j列の要素Sijは、操作変数iの値を1変えた時に制御変数jの傾きが変化する量に等しい。なお、操作変数iから制御変数jへの予測モデルが積分系でない場合は、Sijは0である。これは、操作変数iの値を変えても制御変数jの定常状態における傾きは0に収束することを意味している。傾きゲイン行列をS、予測モデルを伝達関数行列で表したものをG(s)とすると、Sは、以下の式(8)によって求められる。
【0096】
【数4】
【0097】
定常状態変数制約設定部154は、操作変数や制御変数の定常状態におけるを設定する。上下限値を制限することによって与えられたハードな制約は、以下の式(9)で示すことができる。定常状態変数制約設定部154は、基本的には関連する技術と同様であるが、y(∞)の値として用いる定常状態予測部の出力のうち、積分系の制御変数の予測値は第1予測部が出力する所定の過渡状態時間先の予測値になっており、この点が従来技術とは異なる。
【0098】
【数5】
【0099】
過渡状態変数制約設定部153は、最適化対象変数のうち少なくとも積分要素の出力を含む制御変数と関係を持つ操作変数の過渡状態区間における値に対して制約を設定する。例えば、最適化対象変数である操作変数や制御変数の過渡状態における上下限値を設定する。操作変数は過渡状態であったとしても定常状態と同じ上下限値が課せられるのが一般的であり、このようにすることが好ましい。制御変数についても同様であり、過渡状態で制御変数が上下限値を逸脱することがないようにするため、定常状態と同じ上下限値を課すことが好ましい。ただし、以下のような考え方もあるので、必須ではない。
【0100】
・積分系を含む制御変数の過渡状態における振る舞いは、現在値から目標値へと漸増、もしくは漸減することが一般的である。よって、積分系を含む制御変数については、定常状態で上下限値を課していれば、過渡状態でも上下限値から外れる恐れは小さい。
【0101】
・過渡状態における制御変数の傾きに対して上下限値(後述)を設定し、大きな傾きが発生しないようにすれば、過渡状態では制御変数の値には上下限値の制限を設定しなくても十分である。
【0102】
・制御変数によっては、一時的に上下限値を逸脱しても支障が無いこともある。このような制御変数については、上下限値から外れることを一切許容しないハードな制約よりも、外れることにペナルティを与えつつも許容するソフトな制約を適用する方が好ましい場合がある。
【0103】
定常状態傾き制約設定部152は、積分系を含む制御変数の定常状態での単位時間当たりの変化量(傾き)に対して上下限値を設定する。最も一般的なのは、関連する技術でも使われているように、定常状態での傾きを0に制限することである。これは、上下限値共に0にしたことと等価である。この制限を式で表すと、「SΔu=0・・・(10)」のようになる。これは等式制約であり、ハードな制約である。
【0104】
もし、定常状態であってもある程度の傾きを許容し、上下限値に幅を持たせるのであれば、以下の式(11)に示すような不等式制約となる。この制約も、上下限値からの逸脱は許容していないので、ハードな制約となる。
【0105】
【数6】
【0106】
傾きに対する上下限値の与え方の一例を述べる。図7に示すように、定常状態で許容される傾きであるが、制御変数が上限に近い場合であれば、正の傾き(増加方向)は、許容の余地が小さい。一方、負の傾き(減少方向)はある程度までの傾きが許容されると考えられる。制御変数が下限に近い場合であれば、上述したことと逆になる。また、上限、下限共に十分に離れているのであれば、正,負に関わらず、多少の傾きがあっても直ちに制御系へ悪影響を及ぼす可能性は低い。この考え方を反映させたのが以下の式(12)に示す不等式である。
【0107】
【数7】
【0108】
また、yi(SL)は積分系制御変数の単位時間当たりの変化量(傾き)予測値と、傾きゲイン行列Sと、操作変数の変化量Δuから計算できる。α、βは0以上の定数である。この定数を0に設定すれば、傾きを0に制限することと同じになる。0より大きい値を与えれば、傾きに対して、現在値から上下限までの距離に応じた可変の上下限値を設定することになる。加えて、Ttrを最適化時に想定する過渡状態時間とすれば、過渡状態時間にも応じた可変の上下限値となる。
【0109】
また、最適化の評価関数において、この制御変数を特定の目標値にできるだけ近づけるような設定がなされている場合であれば、上下限の代わりにその目標値をあてはめてもよい。また、最適化の評価関数において、この制御変数の最大化が設定されている場合は、下限の代わりに現在値をあてはめれば、制御変数の値を増加させるか傾きが0となるような傾きのみが許容されるという設定になる。
【0110】
α,βは、次に示すように決定すればよい。定常状態での傾きは可能な範囲で小さい方がよく、α,βは、0.1を超えない比較的小さな値とすることが好ましい。また、α,βは、制御変数によって値を変えても良い。例えば、傾きを抑制したい制御変数については0、またはごく小さな値を、傾きを抑制する必要がない制御変数については相対的に大きな値を用いるといったことが考えられる。
【0111】
過渡状態傾き制約設定部151は、積分系を含む制御変数の過渡状態での単位時間当たりの変化量(傾き)に対して上下限値制限を設定する。ここで課す制約は、少なくとも定常状態傾き制約設定部152で課したものよりは緩和したものにする。よって、傾きの上限値は定常状態の上限値よりも大きく、下限値はより小さく設定する必要がある。例えば、定常状態において式(12)のような上下限設定をしたとすれば、α,βは、定常状態における値より大きくする必要がある。このようにすることで、過渡状態で平衡状態よりも大きな傾きを許容することになる。また、傾きに対する上限を正の無限大に、下限を負の無限大に設定して、制約を設定しない状態と等価にしても構わない。
【0112】
上述したことにより演算された各種上下限値,ゲイン行列,所与の最適化評価関数は、最適化求解演算部155に渡され、全ての変数が制約内にあり、かつ評価関数を最小にするような最適目標値が求められる。以下の式(13)は、上述したことの定式化の一例である。
【0113】
【数8】
【0114】
ただし、I1は積分系を持つ制御変数以外の制御変数のインデックス全体の集合である。
【0115】
なお、最適化求解演算の結果、過渡状態の解であるΔu’、Δy’と定常状態の解であるΔu、Δyが得られるが、モデル予測制御を含む多変数制御の最適目標値として最低限必要なのは定常状態の解だけなので、Δu、Δyのみを最適目標値として出力するようにしても構わない。もちろん、過渡状態の解を一緒に出力して、制御演算で利用するようにしてもよい。
【0116】
[実施の形態3]
次に、本発明の実施の形態3について図8を用いて説明する。図8は、本発明の実施の形態3における最適化装置の一部構成を示す構成図である。図8では、最適化装置が備える目標値演算部105aの構成について示している。実施の形態3では、求解演算部155aが、新たに関数修正部158を備えるようにしている。他の構成は、図2を用いて説明した実施の形態1と同様である。
【0117】
実施の形態3は、目標値演算部105aにおける過渡状態傾き制約設定部151、定常状態傾き制約設定部152において、制御変数の傾きにペナルティを科すソフトな制約を設定することに特徴がある。
【0118】
実施の形態3では、積分系を含む制御変数の単位時間当たりの変化量(傾き)を抑えるため、傾きの大きさをペナルティとして評価関数に加えている。このペナルティにより、定常状態や過渡状態における制御変数の傾きが小さいほど「評価関数+ペナルティ」の値が良くなるため、傾きが小さい最適目標値が得られることになる。このペナルティは、関数修正部158で、外から与えられた元の最適化評価関数に付加される。また、ペナルティを追加された修正評価関数が、求解演算部155aにおける求解演算で用いられる。以下の式(14)に、評価関数の修正例を示す。
【0119】
【数9】
【0120】
ここで、J’(x)は修正された評価関数、J(x)は元の最適化評価関数、I2は積分系を持つ制御変数のインデックス全体の集合、piはi番目の制御変数の定常状態における傾きに対するペナルティ係数、yi(SL)は定常状態におけるi番目の制御変数の単位時間当たりの変化量(傾き)、p’iはi番目の制御変数の過渡状態における傾きに対するペナルティ係数、y’i(SL)は過渡状態におけるi番目の制御変数の単位時間当たりの変化量である。
【0121】
過渡状態における傾きは定常状態におけるそれよりも緩和する必要がある。よって、過渡状態の傾きの大きさに対するペナルティ係数p'iは、定常状態の傾きの大きさに対するペナルティ係数piよりも、小さく設定するべきである。また、p’i=0として、過渡状態における傾きに対してペナルティを課さないようにしてもよい。
【0122】
上記の例は傾きが非零であるとペナルティが発生するが、指定した上下限値までの傾きについてはペナルティを科さないようにすることもできる。この例を次の式(15)に示す。
【0123】
【数10】
【0124】
定常状態における傾きが上下限内に留まっていればεiは0でよいので、評価関数にペナルティが追加されることはない。一方で、定常状態における傾きが上下限から外れると、外れた量の2乗に比例したペナルティが科される。ペナルティが小さいほど修正後の評価関数の値が小さくなるので、結果として、上下限から外れる量は抑制できる。
【0125】
上述した例では、外れることができる幅を上下限共に同じ値としたが、異なる値に設定することも可能である。例えば、正の傾きを持つことは厳しく抑制するが、負の傾きを持つことに対しては寛容にしたいのであれば、εiに相当する変数を上下限それぞれに持たせ、上限に対するペナルティ係数は大きく、下限に対しては小さくすればよい。
【0126】
以上のように、実施の形態3では、傾きを抑制するために傾き制約設定部で設定する傾きに対する制約が、等式制約や不等式制約といったハードな制約で与えるのではなく、傾きに対するペナルティを評価関数に追加するソフトな制約で与えることに特徴がある。この特徴を除けば、実施の形態2と同じである。また、2つの方法を組み合わせて実施することも可能である。
【0127】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、本発明は、モデル予測制御に適用可能である。本発明の最適化により定めされた目標値を、モデル予測制御に用いればよい。また、モデル予測制御部の整定時間を決定づける制御仕様またはパラメータに基づいて、過渡状態時間を自動的に決定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0128】
101…データ収集部、102…定常状態予測部、103…傾き予測部、104…モデル記憶部、105…目標値演算部、121…第1予測部、122…第2予測部、151…過渡状態傾き制約設定部、152…定常状態傾き制約設定部、153…過渡状態変数制約設定部、154…定常状態変数制約設定部、155…求解演算部。
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
図8
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図10