(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第4半導体層のうち、前記第2導電型の不純物の濃度に対するキャリア濃度の比が他の部分とは異なる層は、前記第4半導体層の他の部分よりも少数キャリアのライフタイムが短い低ライフタイム領域層として形成されている
ことを特徴とする請求項1記載のダイオード。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための各図において同一機能を有するものは同一の符号を付し、その繰り返しの説明は適宜省略する。また、以下の実施形態の説明では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明は繰り返さずに適宜省略する。
【0015】
なお、以下の実施形態では、第1導電型をn型、第2導電型をp型として、n型Si基板を用いたダイオードを例として説明するが、これに限定されるものではない。第1導電型をp型、第2導電型をn型として、p型Si基板を用いた場合も、n型Si基板を用いた場合と同様に考えることができる。
【0016】
<実施の形態1:ダイオードの構成>
図1は、本発明の実施形態1に係るダイオード1の側断面図である。
図1は、ダイオード1のアクティブ領域とターミネーション領域の模式的な断面図を示している。以下の説明においては、製造工程の途中の段階を含めて、半導体層部分の全体をSi基板100と呼ぶ。
【0017】
ダイオード1のアクティブ領域の構造は、
図1に示すように、n−ドリフト層101、アノードp層102、アノードp−層103、低ライフタイム領域層104、カソードn層112、カソードバッファn層111、アノード電極109、カソード電極113を備える。
n−ドリフト層(第1半導体層)101は、n型Siからなる半導体層であって、イオン注入や拡散等により変性されない、もとのn型Si基板のままのn型半導体領域からなるn型半導体層である。
【0018】
アノードp層(第3半導体層)102は、Si基板100の表面側であるアノード側の最表面のアクティブ領域に設けられ、p型不純物領域からなるp型半導体層である。
【0019】
アノードp−層103は、Si基板100の表面側であるアノード側において、アノードp層102と隣接する位置に設けられ、アノードp層102よりも低濃度のp型不純物領域からなるp型半導体層である。
【0020】
低ライフタイム領域層104は、Si基板100の表面側であるアノード側において、アノードp−層103と隣接する位置またはアノードp−層103の中に形成されている半導体層である。低ライフタイム領域層104内の少数キャリアのライフタイム(寿命)は、n−ドリフト層101における少数キャリアのライフタイムよりも短い。低ライフタイム領域層104は、p型不純物としてアノードp−層103が含有するp型不純物と同種の不純物(元素)を含有している。
【0021】
なお、これらのp型半導体層の構造については、後記する[イオン注入とレーザアニールの条件]の説明と併せて、改めて詳細に説明する。
【0022】
カソードn層(第2半導体層)112は、Si基板100の裏面側であるカソード側に設けられ、n−ドリフト層101よりも高濃度のn型不純物領域からなるn型半導体層である。
【0023】
カソードバッファn層111は、カソードn層112のn−ドリフト層101側に隣接して設けられ、カソードn層112よりも低濃度でn−ドリフト層101よりも高濃度のn型不純物領域からなるn型半導体層である。カソードバッファn層111はなくてもよいが、カソードバッファn層111を設けることにより、ダイオード1に逆方向電圧が印加されたときに、PN接合からアノード側への空乏層の伸びが抑制され、ダイオード1の耐圧が向上する。
【0024】
アノード電極(第1電極)109は、アノードp層102にオーミック接続された電極である。カソード電極(第2電極)113は、カソードn層112にオーミック接続された電極である。
【0025】
ダイオード1のターミネーション領域の構造は、
図1に示すように、アクティブ領域と共通のn−ドリフト層101、カソードn層112、カソードバッファn層111、アノード電極109、カソード電極113の他、HIRC(High Reverse Recovery dI/dt Capability)構造のp型ウェル領域105、FLR(Field Limiting Ring)構造のp型ウェル領域106、フィールドプレート電極110、チャネルストッパのn型ウェル領域107を備える。
【0026】
HIRC構造のp型ウェル領域105は、アクティブ領域側の端部のみでアノード電極109とオーミック接続されたp型不純物領域からなるp型半導体層である。p型ウェル領域105を設けることにより、リカバリ時にアクティブ領域端部へキャリアが集中することによる破壊を防ぐことができる。リカバリ時の破壊耐量に問題がなければ、HIRC構造のp型ウェル領域105を設けなくてもよい。
【0027】
FLR構造のp型ウェル領域106は、ターミネーション領域にリング状に配置されたp型不純物領域からなるp型半導体層である。フィールドプレート電極110は、ターミネーション領域にリング状に配置され、FLR構造のp型ウェル領域106にオーミック接続された電極である。FLR構造のp型ウェル領域106とフィールドプレート電極110を設けることにより、FLR構造のp型ウェル領域106の端部の電界を緩和して耐圧を確保することができる。
図1においては、FLR構造のp型ウェル領域106とフィールドプレート電極110の数が2本の構造例を示したが、チップの耐圧に応じて、必要な本数を設けることができる。
【0028】
n型ウェル領域107は、チップの最外周に設けられたn型不純物領域からなるn型半導体層である。n型ウェル領域107を設けることにより、逆方向に高電圧を印加したときにp型ウェル領域105からの空乏層の伸びを止めることができる。
【0029】
図1においては、ターミネーション構造としてFLR構造を用いた例を示したが、代わりにp型ウェル領域105に隣接して不純物濃度が低い別のp型ウェル領域を配置したJTE(Junction Termination Extension)構造等のターミネーション構造を用いてもよい。
【0030】
<実施の形態1:ダイオードの製造方法>
次に、
図2から
図8を参照(必要に応じて適宜
図1も参照)して、ダイオード1の製造方法の1例について説明する。
【0031】
(基板の準備)
まず、ダイオード1を作製するためのSi基板100として、Siウエハを準備する。Siウエハとしては、耐圧に応じた比抵抗を有するFZ(Floating Zone)ウエハを用いることができる。本実施形態1においては、FZウエハのバルクをn−ドリフト層101とする。FZウエハの比抵抗は、例えば600Vの耐圧をもつダイオードについては25Ωcm程度、1.2kVの耐圧をもつダイオードについては55Ωcm程度とすることができる。
【0032】
(ターミネーション領域p型ウェルのイオン注入工程)
図2は、ターミネーション領域にp型ウェルのイオンを注入する工程を説明する図である。まず、Si基板100の表面全体に熱酸化により酸化膜108を形成する。次に、ターミネーション領域のウェル領域を形成するためのフォトリソグラフィ工程を実施する。このフォトリソグラフィ工程においては、Si基板100の表面にレジスト材料を塗布、露光、現像することにより、HIRC構造のp型ウェル領域105、FLR構造のp型ウェル領域106、およびチャネルストッパのn型ウェル領域107を形成するための領域が開口したレジスト114を形成する。その後、レジスト114をマスクとして、レジスト114の開口部に露出した酸化膜をウェットエッチングで除去する。さらに、レジスト114をマスクとして、HIRC構造のp型ウェル領域105とFLR構造のp型ウェル領域106を形成するためのp型不純物のイオンを注入する。このとき同時に、n型ウェル107を形成する領域にもp型不純物のイオンが注入される。p型不純物のイオン注入の条件は、例えば、イオン種をボロン、エネルギーを75keV、ドースを2×10
13/cm
2とする。イオンを注入した後、レジスト114を除去する。
【0033】
(ターミネーション領域n型ウェルのイオン注入工程)
図3は、ターミネーション領域にn型ウェルのイオンを注入する工程を説明する図である。まず、チャネルストッパのn型ウェル領域107を形成するためのフォトリソグラフィ工程を実施する。このフォトリソグラフィ工程においては、Si基板100の表面にレジスト材料を塗布、露光、現像して、チャネルストッパのn型ウェル107を形成する領域が開口したレジスト115を形成する。その後、レジスト115をマスクとして、チャネルストッパのn型ウェル領域107を形成するためのn型不純物のイオンを注入する。n型不純物のイオン注入の条件は、例えば、イオン種をリン、エネルギーを75keV、ドースを1×10
15/cm
2とする。n型ウェル107を形成する領域には、
図2で示した工程においてp型不純物も注入されるが、p型不純物の濃度はn型不純物の濃度と比べ十分に低いので、最終的にはn型ウェルが形成される。イオンを注入した後、レジスト115を除去する。
【0034】
(ターミネーション領域n型p型ウェルの拡散工程)
図4は、ターミネーション領域のn型ウェルとp型ウェルの不純物を活性化し拡散する工程を説明する図である。拡散の条件は、例えば、1200℃、120分とする。この拡散工程により、接合深さが5〜10μmの深いウェルが形成される。深いウェルとすることにより、ターミネーション領域の耐圧を確保することができる。本工程と合わせて、酸素雰囲気中においてアニールを実施し、酸化膜108を成長させる。
【0035】
(アクティブ領域p型ウェルのイオン注入工程)
図5は、アクティブ領域にp型ウェルのイオンを注入する工程を説明する図である。まず、アクティブ領域にアノードp層102とアノードp−層103と低ライフタイム領域層104を形成するためのフォトリソグラフィ工程を実施する。このフォトリソグラフィ工程においては、Si基板100の表面にレジスト材料を塗布、露光、現像して、アクティブ領域の全面とターミネーション領域のp型ウェル領域106とn型ウェル領域107にコンタクトを形成する領域が開口しているレジスト116を形成する。その後、レジスト116をマスクとして、アノードp−層103を形成するためのp型不純物のイオン注入と、アノードp層102を形成するためのp型不純物のイオン注入を実施する。アノードp−層103を形成するためのp型不純物のイオン注入は、アノードp層102を形成するためのp型不純物のイオン注入よりも、低濃度かつ高い打ち込みエネルギーで深く打ち込まれるように実施する。アノードp−層103を形成するためのp型不純物のイオン注入の条件は、例えば、イオン種をボロン、エネルギーを720keV、ドースを1×10
12/cm
2とする。アノードp層102を形成するためのp型不純物のイオン注入の条件は、例えば、イオン種をボロン、エネルギーを25keV、ドースを1×10
14/cm
2とする。イオン注入を実施した後、レジスト116を除去する。
【0036】
(アクティブ領域p型ウェルの活性化と低ライフタイム層形成工程)
図6は、アクティブ領域のp型ウェルを活性化し、低ライフタイム層を形成する工程を説明する図である。まず、イオン注入したp型不純物を活性化させるためにレーザアニールを実施する。レーザをSi基板100のアノード側の表面に照射すると、酸化膜108の開口部のSi表面近傍のみが加熱され、Si表面近傍のp型不純物のみが活性化する。また、イオン注入によって形成された欠陥についても、Si表面近傍の欠陥のみが回復する。酸化膜108で覆われているSi基板100の表面は、酸化膜の熱伝導率が低いため高温に加熱されない。p型不純物が活性化する深さと欠陥が回復する深さは、レーザ照射の条件によって変えることができる。例えば、レーザ照射のエネルギーを低くすることにより、p型不純物が活性化する深さと欠陥が回復する深さを浅くすることができる。レーザ照射の条件を選択することにより、アノードp層102とアノードp−層103の表面側の一部のp型不純物を十分に活性化してアノードp層102とアノードp−層103を形成するとともに、アノードp−層103を形成するための高エネルギーのイオン注入によって深い位置に形成した欠陥を回復させずに低ライフタイム領域層104を形成することができる。低ライフタイム領域層104は、イオン注入によって生じた欠陥によって少数キャリアのライフタイムが低下した領域である。
【0037】
ターミネーション領域のp型ウェル領域106とn型ウェル領域107の中にも、アノードp層102とアノードp−層103と低ライフタイム領域層104が形成されるが、その周りをp型ウェル領域106とn型ウェル領域107が覆っているため、高電圧を印加して空乏層が伸びてもアノードp層102とアノードp−層103と低ライフタイム領域層104には達せず、動作状の問題とはならない。
【0038】
レーザアニールに用いるレーザとしては、波長536nmのYLF(Yttrium Lithium Fluoride)レーザの第2高調波、同等の波長を持つ波長532nmのYAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザ、波長532nmのYVO4レーザ等のレーザ等を用いることができる。また、さらに波長の短い波長308nmのXeClエキシマレーザ、波長248nmのKrFエキシマレーザを用いることもできる。レーザ照射のエネルギーや波長は、p型不純物が活性化する深さと欠陥が回復する深さに応じて適宜選択することができる。イオン注入とレーザアニールの条件の詳細については後記する。
【0039】
(アノード電極形成工程)
図7は、アノード電極を形成する工程を説明する図である。前洗浄を実施した後、アノード電極109となる導電性材料からなる膜、例えば、AlSi膜をスパッタまたは蒸着によって形成する。次に、ターミネーション領域のフィールドプレート電極110を形成するためのフォトリソグラフィ工程とエッチング工程を実施することにより、フィールドプレート電極110が形成される。このとき、アクティブ領域の全面に形成されたままのAlSi膜がアノード電極109となる。AlSi膜のエッチングは、ウェットエッチングまたはドライエッチングにより実施する。AlSi膜のエッチングを実施した後、レジストを除去する。
【0040】
次に、図示しないが、ターミネーション領域に設けられる電極を加工するためのレジストを除去した後、ターミネーション領域に保護膜を形成する。保護膜の形成法としては、例えば、ポリイミドの前駆体材料と感光材料とを含有する溶液を塗布し、ターミネーション領域を露光して前駆体をポリイミド化することにより、ターミネーション領域上にポリイミド保護膜を形成することができる。
以上の工程により、アノード側の構造が完成する。以下はカソード側の構造を形成する工程である。
【0041】
(裏面研削工程)
まず、Si基板100であるSiウエハの裏面を研削し、ウエハ厚を薄くする。ウエハ厚は、ダイオード1の耐圧に応じて異なる。例えば、600V耐圧品では70μm程度、1200V耐圧品では120μm程度である。研削のダメージ層が残らないように、機械的な研磨の後に、化学的なエッチングを実施することが好ましい。例えば、8インチウエハのようにSi基板100の口径が大きい場合には、ウエハ割れが起きにくいように、TAIKO研削(「TAIKO」は登録商標)と呼ばれる研削方法を用いることが好ましい。この研削方法は、ウエハ周囲にリング状にウエハ厚が厚い部分を残す研削方法である。なお、3.3kV以上の耐圧のダイオードについては、仕上がりのSiウエハ厚が厚いので、Siウエハの裏面の研削を行う必要はない。
【0042】
(カソードバッファn層・カソードn層形成工程)
図8は、カソードバッファn層111とカソードn層112を形成する工程を説明する図である。Si基板100の裏面を研削した後、Si基板100の裏面側からウエハ全面に、カソードバッファn層111およびカソードn層112を形成するためのn型不純物のイオンを順次注入する。カソードバッファn層111を形成するためのn型不純物のイオン注入は、カソードn層112を形成するためのn型不純物のイオン注入よりも、低濃度かつ高い打ち込みエネルギーで深く打ち込まれるように実施する。カソードバッファn層111を形成するためのn型不純物のイオン注入の条件は、例えば、イオン種をリン、エネルギーを720keV、ドースを1×10
12/cm
2とする。カソードn層112を形成するためのn型不純物のイオン注入の条件は、例えば、イオン種をリン、エネルギーを45keV、ドースを1×10
15/cm
2とする。カソードバッファn層111を設けることにより、裏面の欠陥に起因した歩留まりの低下を抑えることができるが、設けなくても構わない。
【0043】
続いて、イオン注入したn型不純物を活性化させるためにレーザアニールを実施する。レーザアニールを用いて活性化することにより、Si基板100のアノード側である表面側に形成した電極および保護膜(不図示)が耐熱温度以上に加熱されずに、裏面側のn型不純物を活性化することができる。レーザアニールに用いるレーザは、アノードp層102とアノードp−層103を活性化するアニールに用いたものと同じレーザを用いればよい。
【0044】
(カソード電極形成工程)
レーザアニールを実施した後、カソード側である裏面にカソード電極113を形成する。カソード電極113は、金属等の適宜な導電性材料を用いて、アノード電極109と同様の方法で形成することができる。その後、必要に応じて、ウエハ全域についてのキャリアのライフタイムを調整するために、裏面側から電子線を照射し、さらに電子線照射によるダメージ回復のためにアニール処理を実施する。
【0045】
(分割工程)
最後にウエハをダイシングなどで分割してダイオード1のチップが完成する。
【0046】
<実施の形態1:イオン注入とレーザアニールの条件>
次に、アクティブ領域にアノードp層102とアノードp−層103と低ライフタイム領域層104を形成するイオン注入とレーザアニールの条件について説明する。イオン注入により生成される欠陥の濃度がピークとなる深さが、レーザアニールによりイオン注入されたp型不純物が活性化される深さよりも浅くなると、イオン注入の深さもしくはレーザアニールの活性化の深さが少しでもばらつくことによって、電気特性が大きくばらついてしまう。電気特性のばらつきを抑制するためには、イオン注入により生成される欠陥の濃度がピークとなる深さは、レーザアニールによりイオン注入されたp型不純物が活性化される深さよりも深くする必要がある。欠陥層の位置を深くすることにより、欠陥分布の深さ方向のばらつきおよびレーザアニールで活性化される深さ方向のばらつきによる、低ライフタイム領域層104に残存する欠陥量のばらつきを低減することができる。
【0047】
図9は、後記する条件で作製したダイオード1について、Si基板100の表面、すなわちアノード側から見た深さ方向のp型不純物の濃度プロファイル(実線)および活性化された不純物の濃度プロファイル(破線)を示す図である。
図9を参照(必要に応じて適宜
図1も参照)して、アノード側のp型半導体層の深さ方向の構造について説明する。
【0048】
p型不純物の濃度プロファイルは、ダイオード1のSi基板100のアノード側の表面からの2次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)を用いてp型不純物元素の濃度を測定することにより求めることができる。また、活性化された不純物の濃度プロファイルは、拡がり抵抗(SR:Speading Resistance)の深さ方向の分布を測定し、測定したSR値をキャリア濃度に換算することにより求めることができる。
【0049】
本発明において、活性化率は、(SR測定で求めたキャリア濃度)/(SIMS測定で求めたp型不純物濃度)と定義することとする。キャリア濃度とは、SR測定で求めた活性化されたp型不純物の濃度のことである。
【0050】
Si基板100のアノード側の表面(深さ0μm)から0.3μm程度の深さまでの領域Aは、SIMS測定により求めた不純物濃度およびSR測定で求めたキャリア濃度が共に、1×10
18cm
−3程度の高濃度であり、かつ一定値である。この領域は、アノードp層10
2を形成するためにp型不純物としてのボロンを高濃度でイオン注入した領域であり、レーザアニールでSi基板100のアノード側の表面付近の結晶が溶融したためにボックス状のプロファイルになっている。この領域Aがアノードp層102に相当する。
【0051】
領域Aのキャリア濃度は、低すぎると導通時にアノード電極109からのホール注入が減りすぎてダイオード1の順方向電圧が上がってしまう。逆に高すぎると、導通時のアノード側のキャリア濃度が上がり、カソード側のキャリア濃度が下がるために、リカバリ時のピーク電流が大きくなり、跳ね上がり・振動が起こりやすくなってしまう。よって、アノードp層102のキャリア濃度は、1×10
16cm
−3以上、1×10
19cm
−3以下であることが望ましい。
【0052】
アノードp層102を示すボックス状のプロファイルの領域Aにおけるn型不純物の活性化率は、レーザの照射エネルギーにもよるが、20〜100%程度になる。なお、アノードn層112は、活性化率が100%未満であっても、キャリア濃度自体が上記濃度範囲に入っていればよい。
【0053】
なお、Si基板100のアノード側の表面からの深さが0.3μm付近のn型不純物濃度およびキャリア濃度が急激に減少する領域の活性化率に関しては、現状では十分な精度が得られないため、詳細な検討は省略する。十分な精度が得られないのは、SR測定における深さ方向の原点について十分な精度が得られないことと、PN接合付近では空乏層の影響を受けてSR測定の精度が落ちることとによるものである。
【0054】
Si基板100のアノード側の表面から0.3〜1.7μmまでの深さの領域(領域Bおよび領域C)は、アノードp−層103を形成するためにp型不純物を注入した領域である。この領域の中で、0.3〜1.0μmまでの深さの領域Bは、SIMS測定で求めたp型不純物濃度とSR測定で求めたキャリア濃度とが一致しており、活性化率はほぼ100%である。レーザ照射によってSi基板100のカソード側の表面を過熱した熱が1.0μmの深さまで十分に伝わり、p型不純物が十分に活性化されたためである。この領域Bが電気的に有効なアノードp−層103に相当する。
【0055】
1.0μmよりも深い部分である領域Cは、SIMS測定で求めたp型不純物濃度と比べて、SR測定で求めたキャリア濃度が低く、p型不純物の活性化率が低下している領域である。レーザ照射による熱がこの領域には十分に伝わらず、イオン注入による欠陥が残存して活性化率が低く、活性化率が1%未満となる領域が含まれている。欠陥が残存することにより、領域Cはキャリアのライフタイムが短い領域となっており、この領域Cが低ライフタイム領域層104に相当する。低ライフタイム領域層104は、例えば活性化率が1%未満の領域と定義することができる。活性化率を1%未満にすることにより、リカバリ時の跳ね上がり電圧・振動を抑制する十分な効果を得ることができる。
【0056】
1.7μm以上の深さの領域Dは、p型不純物のイオン注入がされない領域であり、n−ドリフト層101に相当する。
【0057】
図9に示した例においては、アノードp−層103を形成するためにイオン注入したp型不純物のピーク濃度の深さは1.5μm程度である。また、欠陥量のピーク深さは、p型不純物としてボロンを高エネルギーでイオン注入した場合には、ボロンのピーク濃度の深さとほぼ同等であり、
図9に示した例においては、1.5μm程度となる。欠陥のピーク濃度は、不純物濃度のピーク濃度の位置から知ることができ、また、Si原子が変異するのに必要なエネルギー等を用いた計算やプロセスシミュレーションからも知ることができる。ここで欠陥と呼んでいるのは、イオン注入によって生成される再結合の元となる欠陥のことである。
【0058】
図9に示した例においては、レーザアニールによりイオン注入されたp型不純物が十分に活性化されて濃度がピークとなる深さは、1.0μm程度であり、欠陥のピーク濃度の深さ(1.5μm)の方が深くなっている。
【0059】
イオン注入により生成される欠陥の濃度がピークとなる深さを、レーザアニールにより活性化されるp型不純物のピーク濃度の深さよりも深くするためには、欠陥の分布をより深くするか、レーザアニールによりp型不純物が活性化される深さをより浅くする。
【0060】
欠陥の分布を深くするためには、イオン注入するp型不純物として、より軽い元素を用いるか、イオン注入のエネルギーを高くする。欠陥をイオン注入する元素としてプロトン(水素)やヘリウムを用いると、イオン注入の飛程が大きくなり過ぎるため、イオン注入の深さ方向の幅が大きくなり過ぎてしまい、かつ、大掛かりなサイクロトロンの粒子線照射装置を必要としてしまう。従って、LSI(大規模集積回路)の製造において、p型不純物層を形成するのに用いられるp型不純物元素の中で最も軽いボロンを用いるのが最も望ましい。また、イオン注入のエネルギーを高くするほどp型不純物を深く打ち込むことができる。このとき、イオン注入のエネルギーは、装置が可能な範囲内、および欠陥層を生成する際に必要な制御性を確保できる範囲内で高くすることが好ましい。
【0061】
レーザアニールによりp型不純物が活性化される深さをより浅くするには、レーザ照射でSi基板100に伝えるエネルギーを小さくするか、レーザの波長を短くする。例えば
図9に示した例においては、レーザの照射エネルギーは1.5J/cm
2であったが、この照射エネルギーを小さくすることにより、さらにp型不純物が活性化される深さが浅くなる。また、レーザの照射時間を短くしたり、回数を減らしたりすることによってもp型不純物が活性化される深さを浅くすることができる。
【0062】
レーザの波長に関しては、
図6に示した例では、波長536nmのYLFレーザの第2高調波を用いたが、さらに波長の短い波長308nmのXeClエキシマレーザ、波長248nmのKrFエキシマレーザを用いることにより、p型不純物が活性化される深さをさらに浅くすることができる。
【0063】
<実施の形態1:まとめ>
以上のように、本実施形態1に係るダイオード1は、アノードp層102よりもp型不純物の濃度が小さいアノードp−層103を備え、さらにアノードp−層103の上層の活性化率を下層の活性化率よりも高くすることにより、アノードp−層103の下部に低ライフタイム領域層104を形成した。低ライフタイム領域層104を形成するためにp型不純物を活性化させる深さは、アノードp−層103の厚さ内に収まればよいので、活性化の深さをアノードp層102の厚さと厳密に一致させる必要はない。すなわち、レーザアニールによる活性化の深さについて余裕ができるので、深さが僅かにずれてもダイオード1の電気特性が大きくばらつくことはない。すなわち、大規模なサイクロトロンなどの大型設備を用いることなく、電気特性のばらつきが少なくリカバリ時の跳ね上がり電圧・振動を抑制することができるダイオード1を得ることができる。
【0064】
<実施の形態2>
図10は、本発明の実施形態2に係るダイオード1の側断面図である。
図10は
図1と同様に、本実施形態2に係るダイオード1のアクティブ領域とターミネーション領域の模式的断面図を示す。
図10に示すように、本実施形態2に係るダイオード1においては、HIRC構造のp型ウェル105を、ターミネーション領域に加えてアクティブ領域の全面にも形成する。
【0065】
本実施形態2においては、
図2から
図8を参照して説明した製造方法と同様に、アノードp層102とアノードp−層103と低ライフタイム領域層104を形成する前に、アクティブ領域においてHIRC構造のp型ウェル105を形成する。p型ウェル105を形成する際にSi基板100に注入されるp型不純物のドースは、1×10
11cm
−2以上、1×10
13cm
−2以下とする。ターミネーション構造の耐圧を確保するために、ターミネーション領域のFLR構造は実施形態1と同じとし、本実施形態2に係るダイオード1のFLR構造のp型ウェル106のp型不純物濃度は、アクティブ領域におけるHIRC構造のp型ウェル105のp型不純物濃度よりも高くすることが望ましい。HIRC構造のp型ウェル105とFLR構造のp型ウェル106は、別々に形成してもよいし、アクティブ領域のマスクを局所的に開口してSi基板100へのp型不純物の注入量を減らすことにより、同時に形成してもよい。
【0066】
本実施形態2に係るダイオード1は、p型ウェル105が低ライフタイム領域層104を覆うので、逆方向電圧を印加したときの低ライフタイム領域層104にかかる電界が小さくなり、リーク電流を小さくできる。また、p型ウェル105のp型不純物は低濃度であり、導通時のホールはアノードp層102から注入されるので、リカバリ時の跳ね上がり電圧・振動の抑制の効果は、実施形態1と同様に得ることができる。
【0067】
<実施の形態3>
図11は、本発明の実施形態3に係るダイオード1の側断面図である。
図11は、本実施形態3に係るダイオード1のアクティブ領域の模式的断面図を示す。ターミネーション領域については記載を省略しているが、実施形態1〜2と同様である。
【0068】
図11に示すように、本実施形態3に係るダイオード1は、アノードp層102とアノードp−層103を、アクティブ領域の全面ではなく一部のみに形成する。レーザをアクティブ領域の全面ではなく、アクティブ領域の一部にのみに照射することにより、アクティブ領域の一部のみにアノードp層102とアノードp−層103を形成できる。アノードp層102とアノードp−層103は、Si基板100の表面から見てストライプ状に形成すると好適である。
【0069】
本実施形態3に係るダイオード1は、アクティブ領域の面内でアノードp層102とアノードp−層103が形成されていない領域があり、導通時にこの領域を通って電子がアノード電極へと抜けるので、アノードp層102からのホール注入量が減って、リカバリ時の跳ね上がり電圧・振動が更に抑制される。
【0070】
図11に示したアクティブ領域の面内であってアノードp層102とアノードp−層103が形成されていない領域に、アノードp層102とアノードp−層103を形成した領域よりも弱いエネルギーのレーザを照射し、p型不純物の活性化率が低いp−層を形成してもよい。これにより、このp−層を通って電子がアノード電極へと抜けるので、同様にリカバリ時の跳ね上がり電圧・振動が更に抑制される。さらに、p−層を形成してPN接合を設けることにより、接合の安定性が増し、歩留まりが向上する。
【0071】
なお、本実施形態3に係るダイオード1において、実施形態2に係るダイオード1と同様に、HIRC構造のp型ウェル105を、ターミネーション領域に加えアクティブ領域の全面に形成してもよい。これにより、逆方向電圧を印加したときに低ライフタイム領域層104にかかる電界が小さくなり、リーク電流を小さくできる。
【0072】
<実施の形態4>
図12は、本発明の実施形態4に係るダイオード1の側断面図である。
図12は、本実施形態4に係るダイオード1のアクティブ領域の模式的断面図を示す。ターミネーション領域については記載を省略しているが、実施形態1〜3と同様である。
【0073】
図12に示すように、本実施形態4に係るダイオード1は、実施形態1に係るダイオード1の構成に加えて、カソード側にカソードバッファn層のn型不純物のイオン注入によって導入した欠陥がつくる低ライフタイム領域層117を設けてある。アノード側の構造は、実施形態1に係るダイオード1の構成と同じである。
【0074】
図13は、本実施形態4において、Si基板100の裏面、すなわちカソード側から見た深さ方向のn型不純物の濃度プロファイル(実線:SIMSにより測定)および活性化されたn型不純物の濃度プロファイル(破線:SR法により測定)を示す図である。
図13を参照して、カソード側のn型半導体層の深さ方向の構造について説明する。
【0075】
領域Aは、n型不純物が高濃度(1×10
19cm
−3以上)で活性化率が高い(20〜100%)カソードn層112である。領域Bは、n型不純物が低濃度(1×10
16cm
−3前後)で活性化率が高い(ほぼ100%)カソードバッファn層111である。領域Cは、レーザ照射による熱がこの領域には十分に伝わらず、イオン注入による欠陥が残存して少数キャリアのライフタイムが短い低ライフタイム領域層117である。領域Dは、n型不純物のイオン注入がされないnードリフト層101である。
【0076】
実施形態1においては、電子線を照射してn−ドリフト層101全域のライフタイムを制御しないと、リカバリ時のリカバリ電流が回復する際のテイル電流が大きくなり、リカバリ損失が大きくなってしまう。本実施形態4においては、カソード側に低ライフタイム領域層117を設けることにより、リカバリ時にカソード側のn−ドリフト層101に残存したキャリアを減らして、テイル電流を小さくし、リカバリ損失を小さくすることができる。すなわち、電子線照射によってライフタイムを制御することなく、アノード側の低ライフタイム領域層104とカソード側の低ライフタイム領域層117を設けるだけで、リカバリ時の跳ね上がり電圧・振動を抑制し、リカバリ損失を低減することができる。
【0077】
<実施の形態5>
図14は、本発明の実施形態5に係る電力変換装置10の回路図である。
図14に示す電力変換装置10は、実施形態1〜4いずれかで説明したダイオード1を用いて電力を変換する装置である。
【0078】
図14に示すように、電力変換装置10は、モータ駆動用の3相インバータ回路を備える。半導体スイッチング素子であるIGBT200a〜200fには、それぞれ本発明に係るダイオード201a〜201fが逆並列に接続されている。すなわち、ダイオード201a〜201fはフリーホイールダイオードとして動作する。これらのダイオード201a〜201fとしては、実施形態1〜4いずれかに係るダイオード1が用いられる。IGBT200a〜200cとIGBT200d〜200fとが、それぞれ1個ずつ組み合わされて2個直列に接続され、すなわちIGBTとダイオードとの逆並列回路が2個直列に接続されて、それぞれ1相分のハーフブリッジ回路が構成されている。
【0079】
ハーフブリッジ回路は交流の相数分、本実施形態5では3相分備えられている。2個のIGBT200aとIGBT200dとの直列接続点、すなわち2個の逆並列回路の直列接続点より、交流出力が出ており、U相の交流出力として誘導機や同期機などのモータ206と接続されている。他のハーフブリッジ回路も同様に、2個のIGBTの直列接続点から、それぞれV相およびW相の交流出力が出ており、モータ206と接続されている。
【0080】
上アーム側のIGBT200a〜200cのコレクタは共通接続され、整流回路203の直流高電位側と接続されている。下アーム側のIGBT200d〜200fのエミッタは共通接続され、整流回路203のアース側と接続されている。整流回路203は、交流電源202の交流を直流に変換する。IGBT200a〜200fは、オン・オフスイッチングすることにより、整流回路203から受電した直流を交流に変換してモータ206を駆動する。上アーム駆動回路204および下アーム駆動回路205は、それぞれ上アーム側のIGBT200a〜200cおよび下アーム側のIGBT200d〜200fのゲートに駆動信号を与え、IGBT200a〜200fをオン・オフ動作させる。
【0081】
本実施形態5によれば、本発明に係るダイオード1をフリーホイールダイオードとしてIGBT200a〜200fに逆並列に接続したので、スイッチング時のダイオードの跳ね上がり電圧・振動を抑制することができる。また、電圧変動により生じるノイズを低減することができる。さらに、ダイオード1のリカバリ電流が小さくなるのでスイッチング損失を低減でき、電力変換装置10全体のエネルギー効率を向上させることができる。ダイオード1の跳ね上がり電圧・振動が小さい分、スイッチングを高速にし、電力変換装置10全体のエネルギー効率を向上させることができる。
【0082】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることもできる。また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることもできる。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成を追加・削除・置換することもできる。
【0083】
たとえば、逆導通型の半導体スイッチング素子に内蔵されたダイオードとして本発明に係るダイオード1を適用してもよい。また、
図14に示した電力変換装置10におけるIGBT200a〜200fに代えて、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、接合型バイポーラトランジスタ、接合型FET、静電誘導型トランジスタ、GTOサイリスタ(Gate Turn Off Thyristor)などの半導体スイッチング素子を用いることができる。
【実施例】
【0084】
以下では、実施形態1に係るダイオード1を実施例1とし、実施形態4に係るダイオード1を実施例2として、動作特性を評価した結果を説明する。
【0085】
(作成条件)
実施例1と実施例2のダイオード1は、Si基板100として比抵抗25Ω・cmのn型Siウエハを用いる。Si基板100の表面のアノード側に、アノードp−層103を形成するためのp型不純物として、ボロンを、エネルギー720keV、オフ角0°、ドース1×10
12/cm
2で注入する。アノードp層102を形成するためのp型不純物として、ボロンを、エネルギー25keV、オフ角7°、ドースを1×10
14/cm
2で注入する。その後、注入したp型不純物を活性化させるためのレーザアニールとして、波長536nmのYLFレーザの第2高調波を1.5J/cm
2のエネルギーで照射した。
【0086】
Si基板100を裏面側から120μmの厚さに薄くした後、Si基板100の裏面のカソード側に、カソードバッファn層111を形成するためのn型不純物としてリンを、エネルギー720keV、オフ角0°、ドース1×10
12cm
−2で注入する。また、カソードn層112のn型不純物としてリンを、エネルギー60keV、オフ角7°、ドース1×10
15cm
−2で注入する。その後、注入したn型不純物を活性化させるためのレーザアニールとして、波長536nmのYLFレーザの第2高調波を照射した。実施例1については、レーザのエネルギーを2.0J/cm
2とし、カソード側に低ライフタイム領域層117を有さない構造とした。実施例2については、レーザのエネルギーを1.5J/cm
2とし、カソード側に低ライフタイム領域層117を有する構造とした。
【0087】
比較例1として、実施例1のダイオードにおいて、アノード側にイオン注入したp型不純物を活性化させるためのレーザアニールの照射エネルギーを2.0J/cm
2と高くした。なお、比較例1におけるイオン注入の条件およびその他の条件は、実施例1における条件と同じである。すなわち、比較例1は、アノードp層102とアノードp−層103は有するが、アノード側の低ライフタイム領域層104を有さない。
【0088】
比較例2として、実施例1のダイオードにおいて、アノードp−層103を形成するためのp型不純物のイオンを注入せず、アノードp層102を形成するためのp型不純物のイオン注入のエネルギーを130keVとした。なお、比較例2におけるレーザアニールの条件およびその他の条件は、実施例1における条件と同じである。すなわち、比較例2は、アノードp層102とアノード側の低ライフタイム領域層104は有するが、アノードp−層103を有さない。
【0089】
(アノード側の低ライフタイム領域層104の効果)
図15は、実施例1(実線)および比較例1(破線)について、ダイオードの室温におけるリカバリ特性の電流波形および電圧波形を示す図である。
図15を参照して、アノード側の低ライフタイム領域層104の効果を確認する。アノード側の低ライフタイム領域層104は、実施例1には設けられており、比較例1にはない。
【0090】
図15に示す波形においては、実施例1の方が、比較例1と比べ、リカバリのピーク電流が小さい。これは、アノード側の低ライフタイム領域層104によって、アノードp層からのホール注入量が減って、n−ドリフト層101の中のアノード側のキャリア密度が少なくなるためである。リカバリのピーク電流が減った分、IGBTのターンオン損失が減少する。さらに、リカバリ電流が減って、リカバリ電流が減少するときの電流の時間変化率di/dtが小さくなるため、実施例1の方が、比較例1よりも、di/dtと主回路インダクタンスによって引き起こされる電圧の跳ね上がりが小さくなる。また、実施例1においては、アノードp層からのホール注入量が減ってn−ドリフト層101の中のカソード側のキャリア密度が高くなるため、リカバリ時に空乏層が伸びた後にn−ドリフト層101の中のカソード側に残りキャリア数が多くなって、リカバリ時の振動が起こりにくくなる。
【0091】
(アノードp−層103の効果)
図16は、実施例1(実線)および比較例2(破線)について、アノード側のレーザアニールでp型不純物が活性化する深さが変動したときの、150℃における順方向電圧とターンオン損失を示す図である。
【0092】
図17は、実施例1(実線)および比較例2(破線)について、アノード側のレーザアニールでp型不純物が活性化する深さが変動したときの、室温におけるリカバリ時の跳ね上がり電圧を示す図である。
【0093】
実施例1においては、アノードp層102と低ライフタイム領域層104の間に、高エネルギーのイオン注入で形成したアノードp−層103が設けられている。比較例2においては、アノードp−層103がなく、アノードp層102と低ライフタイム領域層104が直接接している。
【0094】
図16、
図17を見て分かるように、アノード側のレーザアニールでp型不純物が活性化する深さが変動したときの順方向電圧、ターンオン損失、跳ね上がり電圧が、実施例1ではほぼ変化しないのに対し、比較例2では変化が大きい。比較例2において変化が大きいのは、p型不純物が活性化する深さが変わると、アノードの低ライフタイム領域層104に残存する欠陥量が大きく変わるためである。実施例1において変化が小さいのは、低ライフタイム領域層104の欠陥密度がピークとなっている深さがp型不純物が活性化する深さよりも深く、p型不純物が活性化する深さが変わっても低ライフタイム領域層104に残存する欠陥量が大きく変わらないためである。すなわち、アノードのp型不純物が活性化する深さよりも、p型不純物のイオン注入により形成する欠陥の密度がピークとなる深さを深くすることにより、順方向電圧、ターンオン損失、跳ね上がり電圧の電気特性のばらつきを抑制することができる。
【0095】
(アノード側とカソード側の両方に低ライフタイム領域層を設ける効果)
図18は、実施例1(実線)および実施例2(破線)について、室温におけるリカバリ特性の電流波形および電圧波形を示す図である。
図18を参照して、
図12のようにアノード側とカソード側の両方に低ライフタイム領域層を設ける効果を確認する。実施例1においてはアノード側のみに低ライフタイム領域層104が設けられ、実施例2においてはアノード側とカソード側の両方に低ライフタイム領域層が設けられている。
【0096】
図18に示す波形より、リカバリ時の跳ね上がり電圧およびリカバリのピーク電流は、実施例1と実施例2とで変わらない。これは、アノードの構造が同じでアノードからのホール注入量が変わらないためである。リカバリの後半のテイル電流は、実施例1と比べて実施例2では減少している。これは、カソード側に設けた低ライフタイム領域層117がリカバリの後半にカソード側に残存するキャリアを減らすためである。このテイル電流の減少により、実施例2においては、実施例1と比べ、リカバリ損失が減少する。実施例1でテイル電流を減らして、リカバリ損失を減少させるためには、電子線を照射してn−ドリフト層101全域のライフタイムを制御する必要がある。これに対し、実施例2においては、電子線を照射せずに、アノード側とカソード側の両方に同様のレーザアニールを行うことにより、リカバリ時の跳ね上がり電圧を抑えたままで、リカバリ損失を下げることができる。