特許第5969967号(P5969967)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969967
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】クライオスタットの圧力制御装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 39/04 20060101AFI20160804BHJP
【FI】
   H01L39/04ZAA
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-194187(P2013-194187)
(22)【出願日】2013年9月19日
(65)【公開番号】特開2015-60973(P2015-60973A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2015年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】502147465
【氏名又は名称】ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永浜 恭秀
【審査官】 大橋 達也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−267273(JP,A)
【文献】 特開2001−143922(JP,A)
【文献】 特開平05−275231(JP,A)
【文献】 特開平02−278803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 39/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導マグネットを液体の冷媒に浸漬した状態で収容する冷媒槽内で蒸発した冷媒を冷凍機で再凝縮させるクライオスタットに設けられ、前記冷媒槽内の気相の冷媒の圧力を制御する圧力制御装置において、
気相の冷媒の圧力を測定する圧力センサと、
印加される電流値に応じた熱量を発生させることで、液体の冷媒を加熱するヒータと、
前記圧力センサの測定値に応じた電流値の電流を前記ヒータに印加することで、前記ヒータが発生する熱量を制御する熱量制御装置と、
を有し、
前記熱量制御装置は、
気相の冷媒の圧力値が基準圧力値Psで前記ヒータに印加する電流値が基準電流値の点を通り、所定の傾きを有する直線を含む圧力と電流との関係式と、前記圧力センサの測定値とを用いて、前記ヒータに印加する電流値を求める電流値算出部と、
圧力補正係数n、初期の基準圧力値Ps0、および、前記圧力センサの測定値Ppから求まる補正量(Ps0−Pp)/nを前記基準圧力値Psに加算することで、前記基準圧力値Psを補正し、補正された前記基準圧力値Psを新たな前記基準圧力値Psとすることを、所定間隔毎に行う補正部と、
を有することを特徴とするクライオスタットの圧力制御装置。
【請求項2】
前記熱量制御装置は、前記基準圧力値Psを記憶する記憶部をさらに有していることを特徴とする請求項1に記載のクライオスタットの圧力制御装置。
【請求項3】
前記補正部は、前記補正量に上限値を設けていることを特徴とする請求項1又は2に記載のクライオスタットの圧力制御装置。
【請求項4】
前記補正部は、前記圧力補正係数nを段階的に変化させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のクライオスタットの圧力制御装置。
【請求項5】
前記補正部は、所定の条件が成立した場合に、前記基準圧力値Psの累積補正を中止することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のクライオスタットの圧力制御装置。
【請求項6】
前記補正部は、所定の条件が成立した場合に、前記基準圧力値Psの累積補正を開始することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のクライオスタットの圧力制御装置。
【請求項7】
前記熱量制御装置は、前記ヒータに印加する電流値の上限値を設定する電流上限値設定部をさらに有し、
前記電流上限値設定部は、直近に前記ヒータに印加した所定数の電流値を用いて移動平均を算出し、この移動平均に所定値を加えた値を、前記ヒータに印加する電流値の上限値として設定することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のクライオスタットの圧力制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導マグネット等を冷却するクライオスタットに設けられ、クライオスタットが備える冷媒槽内の気相の冷媒の圧力を制御する圧力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導マグネット等を冷却するクライオスタットにおいては、冷媒を収容する冷媒槽に外部から侵入した熱により蒸発した冷媒を、冷凍機で再凝縮させている。しかし、設計上、外部から侵入する熱量よりも冷凍機の冷凍能力の方が勝るために、気相の冷媒が過剰に凝縮され、その結果、冷媒槽内の気相の冷媒の圧力は負圧になる。冷媒槽内の気相の冷媒の圧力が負圧になると、シール性の弱いところから空気が侵入して氷結などを起こす。
【0003】
そこで、特許文献1には、冷媒槽内の気相の冷媒の圧力が負圧になった場合に、ヒータで冷凍機を加熱することで、液相の冷媒の蒸発を促し、冷媒槽内の負圧状態を解除する超電導マグネットが開示されている。また、特許文献2には、冷媒槽内の気相の冷媒の圧力が負圧にならないようにヒータの熱量を制御する圧力制御装置を備え、圧力制御装置による冷媒槽内の圧力制御が働かない状態である場合に、冷凍機の動作を停止させることで、冷凍機のみが働く状況下で冷媒槽内が負圧になるのを事前に防止する超電導電磁石が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−283329号公報
【特許文献2】特開2009−267273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ヒータによる圧力制御においては、気相の冷媒の圧力値が基準圧力値でヒータに印加する電流値が基準電流値である点を通り、所定の傾きを有する直線を含む、圧力と電流との関係式に、気相の冷媒の圧力を測定する圧力センサの測定値を代入することで、ヒータに印加する電流値を求めている。ここで、基準圧力値および基準電流値は、圧力と電流との関係式を設定するために便宜上設けられたものである。ヒータは、印加される電流値に応じた熱量を発生させる。ヒータが発生する熱量で、冷凍機の冷凍能力と外部から冷媒槽に侵入する熱量とがバランスすることにより、冷媒槽内の気相の冷媒の圧力は安定する。
【0006】
ヒータに印加する電流値は、冷凍機の冷凍能力と外部から冷媒槽に侵入する熱量とがヒータが発生する熱量でバランスするときの値で安定する。よって、冷媒槽内の気相の冷媒の圧力は、バランス時の電流値と、圧力と電流との関係式とで求まる値で安定する。
【0007】
しかしながら、冷凍機の冷凍能力は経時的に変化し、さらに、東日本と西日本の周波数の違いによっても変化する。また、外部から冷媒槽に侵入する熱量も環境の変化により変化する。冷凍機の冷凍能力や外部から冷媒槽に侵入する熱量が変化すると、冷凍機の冷凍能力と外部から冷媒槽に侵入する熱量とをバランスさせるための熱量が変化するので、バランス時の電流値は変化する。これにより、冷媒槽内の気相の冷媒の圧力が安定する値は変化する。圧力安定時の圧力値が変化すると、超電導マグネットによる磁場の均一度が変化し、高分解能NMR等の測定結果に影響を与える。
【0008】
本発明の目的は、磁場の均一度が変化することに起因する、高分解能NMR等の測定結果への影響を抑えることが可能なクライオスタットの圧力制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明におけるクライオスタットの圧力制御装置は、超電導マグネットを液体の冷媒に浸漬した状態で収容する冷媒槽内で蒸発した冷媒を冷凍機で再凝縮させるクライオスタットに設けられ、前記冷媒槽内の気相の冷媒の圧力を制御する圧力制御装置において、気相の冷媒の圧力を測定する圧力センサと、印加される電流値に応じた熱量を発生させることで、液体の冷媒を加熱するヒータと、前記圧力センサの測定値に応じた電流値の電流を前記ヒータに印加することで、前記ヒータが発生する熱量を制御する熱量制御装置と、を有し、前記熱量制御装置は、気相の冷媒の圧力値が基準圧力値Psで前記ヒータに印加する電流値が基準電流値の点を通り、所定の傾きを有する直線を含む圧力と電流との関係式と、前記圧力センサの測定値とを用いて、前記ヒータに印加する電流値を求める電流値算出部と、圧力補正係数n、初期の基準圧力値Ps0、および、前記圧力センサの測定値Ppから求まる補正量(Ps0−Pp)/nを前記基準圧力値Psに加算することで、前記基準圧力値Psを補正し、補正された前記基準圧力値Psを新たな前記基準圧力値Psとすることを、所定間隔毎に行う補正部と、を有することを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、冷媒槽内の気相の冷媒の圧力の目標値を初期の基準圧力値Ps0として圧力制御を開始し、所定間隔毎に、補正量(Ps0−Pp)/nを基準圧力値Psに加算することで、基準圧力値Psを補正し、補正された基準圧力値Psを新たな基準圧力値Psとする。具体的には、まず、(1)気相の冷媒の圧力値が初期の基準圧力値Ps0でヒータに印加する電流値が基準電流値の点を通り、所定の傾きを有する直線を含む圧力と電流との関係式を用いて、ヒータに印加する電流値を求め、この電流値の電流をヒータに印加することで、ヒータが発生する熱量を制御する。同時に、初期の基準圧力値Ps0を補正して新たな基準圧力値Psとする。次に、(2)気相の冷媒の圧力値が新たな基準圧力値Psでヒータに印加する電流値が基準電流値の点を通り、所定の傾きを有する直線を含む圧力と電流との関係式を用いて、ヒータに印加する電流値を求め、この電流値の電流をヒータに印加することで、ヒータが発生する熱量を制御する。同時に、現在の基準圧力値Psを補正して新たな基準圧力値Psとする。上記(2)を繰り返すことで、基準圧力値Psは初期の基準圧力値Ps0から累積補正されていく。これにより、基準圧力値Psが変化していくので、圧力と電流との関係式は変化していく。
【0011】
ここで、ヒータに印加する電流値は、冷凍機の冷凍能力と外部から冷媒槽に侵入する熱量とがヒータが発生する熱量でバランスするときの値で安定する。そのため、冷媒槽内の気相の冷媒の圧力が安定したときの圧力値は、バランス時の電流値と、圧力と電流との関係式とで求まる。しかし、基準圧力値Psの累積補正により、圧力と電流との関係式が変化していくため、圧力安定時の圧力値は変化していく。そして、圧力安定時の圧力値が初期の基準圧力値Ps0まで変化すると、圧力安定時の圧力値である圧力センサの測定値が初期の基準圧力値Ps0になるので、補正量がゼロになる。これにより、基準圧力値Psは、補正量がゼロになったときの値に落ち着く。よって、圧力と電流との関係式は、気相の冷媒の圧力値がこのときの基準圧力値Psでヒータに印加する電流値が基準電流値である点を通る直線を含むものに落ち着く。これにより、圧力安定時の圧力値は、目標値である初期の基準圧力値Ps0に落ち着く。
【0012】
そして、バランス時の電流値がどのような値になろうとも、同様にして、圧力安定時の圧力値は、補正量がゼロになる値である初期の基準圧力値Ps0に落ち着く。よって、冷媒槽内の気相の冷媒の圧力は、バランス時の電流値が変化したとしても、目標値である初期の基準圧力値Ps0で安定することになる。このように、気相の冷媒の圧力の目標値を設定し、冷媒槽内の気相の冷媒の圧力が目標値で安定するようにすることで、磁場の均一度が一定になる。これにより、磁場の均一度が変化することに起因する、高分解能NMR等の測定結果への影響を抑えることができる。
【0013】
また、本発明におけるクライオスタットの圧力制御装置において、前記熱量制御装置は、前記基準圧力値Psを記憶する記憶部をさらに有していてよい。上記の構成によれば、基準圧力値Psを記憶部に記憶することで、基準圧力値Psが電流値算出部から消えるような不測の事態が生じたとしても、記憶部が記憶する基準圧力値Psを用いて、基準圧力値Psの累積補正を途中から再開することができる。よって、不測の事態による時間ロスを短縮することができる。
【0014】
また、本発明におけるクライオスタットの圧力制御装置において、前記補正部は、前記補正量に上限値を設けていてよい。上記の構成によれば、補正部は、補正量に上限値を設けることで、補正量が大きくなりすぎないようにする。これにより、圧力センサの測定値と、圧力と電流との関係式とで求まる電流値が大きくなりすぎたり、小さくなりすぎたりすることがなくなり、圧力のオーバーシュートが抑えられ、圧力値と目標値との誤差が小さくなるので、圧力変動が小さい安定した圧力制御を行うことができる。
【0015】
また、本発明におけるクライオスタットの圧力制御装置において、前記補正部は、前記圧力補正係数nを段階的に変化させてよい。上記の構成によれば、補正部は、圧力補正係数nを段階的に変化させることで、補正による効果を大きくしたり小さくしたりする。圧力補正係数nが大きいほど補正による効果が小さくなり、圧力変動は小さくなるが、圧力偏差(平均値との差)は大きくなる。逆に、圧力補正係数nが小さいほど補正による効果が大きくなり、圧力変動は大きくなるが、圧力偏差は小さくなる。そこで、圧力補正係数nを大から小に段階的に変化させることで、圧力変動を抑えながら圧力をある程度まで安定させた後に、圧力を目標値で精度よく安定させることができる。また、圧力補正係数nを小から大に段階的に変化させることで、素早く圧力をある程度まで安定させた後に、圧力変動を抑えた安定した圧力制御を行うことができる。
【0016】
また、本発明におけるクライオスタットの圧力制御装置において、前記補正部は、所定の条件が成立した場合に、前記基準圧力値Psの累積補正を中止してよい。上記の構成によれば、補正部は、所定の条件が成立した場合に、基準圧力値Psの累積補正を中止する。圧力がある程度、あるいは十分に安定するのに要する時間が経過した場合に、基準圧力値Psの累積補正を中止し、補正に依らない圧力制御を行うことで、補正に起因する細かな圧力変動が生じないようにすることができる。また、オペレータからの指示があった場合に、基準圧力値Psの累積補正を中止するようにすることで、オペレータが所望するタイミングで累積補正を中止することができる。
【0017】
また、本発明におけるクライオスタットの圧力制御装置において、前記補正部は、所定の条件が成立した場合に、前記基準圧力値Psの累積補正を開始してよい。上記の構成によれば、補正部は、所定の条件が成立した場合に、基準圧力値Psの累積補正を開始する。オペレータからの指示があった場合、あるいは、所定時間が経過した場合に、基準圧力値Psの累積補正を開始するようにすることで、所望のタイミングで累積補正を開始することができる。また、累積補正を中止した後にオペレータからの指示があった場合に、基準圧力値Psの累積補正を再開することで、中止後に圧力安定時の圧力値が目標値からずれた場合であっても、冷媒槽内の気相の冷媒の圧力を目標値で安定させることができる。
【0018】
また、本発明におけるクライオスタットの圧力制御装置において、前記熱量制御装置は、前記ヒータに印加する電流値の上限値を設定する電流上限値設定部をさらに有し、前記電流上限値設定部は、直近に前記ヒータに印加した所定数の電流値を用いて移動平均を算出し、この移動平均に所定値を加えた値を、前記ヒータに印加する電流値の上限値として設定してよい。上記の構成によれば、電流上限値設定部は、直近にヒータに印加した所定数の電流値を用いて移動平均を算出し、この移動平均に所定値を加えた値を、ヒータに印加する電流値の上限値として設定する。ヒータに印加する電流値に上限値を設けることで、圧力センサの測定値と、圧力と電流との関係式とで求まる電流値が大きくなりすぎることがなくなり、圧力のオーバーシュートが抑えられ、圧力値と目標値との誤差が小さくなるので、圧力変動が小さい安定した圧力制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のクライオスタットの圧力制御装置によると、基準圧力値Psを累積補正することで、バランス時の電流値が変化しても、冷媒槽内の気相の冷媒の圧力は、目標値である初期の基準圧力値Ps0で安定する。このように、圧力の目標値を設定し、冷媒槽内の気相の冷媒の圧力が目標値で安定するようにすることで、磁場の均一度が一定になる。これにより、磁場の均一度が変化することに起因する、高分解能NMR等の測定結果への影響を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】クライオスタットの内部構造を示す側面図である。
図2】圧力制御装置の回路図である。
図3】圧力と電流との関係式の一例である。
図4】ヘリウムガスの圧力の時間変化をシミュレートした図である。
図5】ヒータ電流の時間変化をシミュレートした図である。
図6】圧力と電流との関係式の一例である。
図7】ヘリウムガスの圧力の時間変化をシミュレートした図である。
図8】ヒータ電流の時間変化をシミュレートした図である。
図9】圧力制御装置の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
(クライオスタットの構成)
本発明の実施形態によるクライオスタットの圧力制御装置(圧力制御装置)100は、クライオスタット50に設けられている。クライオスタット50は、図1に示すように、液体の冷媒である液体ヘリウムを収容するヘリウム槽(冷媒槽)2と、ヘリウム槽2の上方に設けられた冷凍機5と、を有している。なお、本実施形態のクライオスタット50は、NMR装置に用いられるものであるが、これに限定されず、例えば、MRI装置に用いられるものであってもよい。また、冷媒はヘリウムに限定されない。
【0023】
ヘリウム槽2にはガス放出口(図示せず)が設けられている。このガス放出口は、冷凍機5の能力を喪失した際にヘリウムガスが蒸発する経路であり、後述する筒部材13の上端部に設けられている。このガス放出口の先端には、外部からヘリウム槽2内への空気の混入を防止するための逆止弁が取り付けられている。この逆止弁は、後述する超電導マグネット1がクエンチした際に発生する大量のヘリウムガスを十分安全に処理できる性能を備えている。そのため、ヘリウム槽2内のヘリウムガスが冷凍機5によって冷却されて液化してもヘリウム槽2内の総ヘリウム量は変化しない。また、ヘリウム槽2内への空気の混入を防止するために、ヘリウム槽2内の圧力は、大気圧よりも僅かに高い正圧に制御されている。ヘリウム槽2の材質としては、アルミニウム、ステンレスなどが挙げられる。
【0024】
ヘリウム槽2内には、超電導マグネット1が液体ヘリウムに浸漬された状態で収容されている。超電導マグネット1は、超電導線材を巻枠(図示せず)に螺旋状に巻回してなるものである。超電導線材は、金属系超電導線材であってもよいし、酸化物系超電導線材であってもよい。また、ヘリウム槽2の中心部には、鉛直方向に延びる円筒空間S(ボア)が設けられている。この円筒空間Sに試料が入れられ、様々な分析・実験が行われる。ヘリウム槽2内において、超電導マグネット1が浸漬される液体ヘリウムの液面よりも上方は、ヘリウムガスで満たされた気相空間10となっている。
【0025】
ヘリウム槽2は、輻射シールド3で囲まれている。この輻射シールド3は、冷熱をより逃がさないようにするための、ヘリウムガスの有する冷熱で冷却されるシールド容器である。また、輻射シールド3は、冷凍機5の後述する第1冷却ステージ6により強制冷却されている。輻射シールド3の材質としては、アルミニウム、銅などが挙げられる。
【0026】
また、ヘリウム槽2および輻射シールド3は、真空容器4内に収容されている。この真空容器4は、その内部を高真空に保持され、超電導マグネット1やヘリウム槽2への熱侵入を抑制する容器である。真空容器4の上部には、内部に筒部材13を有するネック部材12が取り付けられている。筒部材13は、電流リード(図示せず)の挿入通路として用いられたり、ヘリウム槽2内への液体ヘリウムの補充通路として用いられたりする。また、真空容器4は、複数のスタンド9によって床上に支持されている。真空容器4の材質としては、アルミニウム、ステンレスなどが挙げられる。
【0027】
冷凍機5は、ヘリウム槽2内で蒸発した液体ヘリウムを再液化(再凝縮)させるためのものであり、本実施形態ではパルスチューブ冷凍機が用いられている。冷凍機5の鉛直方向における中途部には第1冷却ステージ6(1ndステージ)が設けられ、冷凍機5の下端部には第2冷却ステージ7(2ndステージ)が設けられている。第1冷却ステージ6および第2冷却ステージ7は、いずれもフランジ状の形態を有しており、冷凍機5により冷却されて、それぞれ、例えば約40Kおよび約4Kになる。第1冷却ステージ6および第2冷却ステージ7の材質は、主に銅や銅合金である。なお、冷凍機5は、パルスチューブ冷凍機に限定されず、GM冷凍機やスターリング冷凍機などであってもよい。
【0028】
冷凍機5における第2冷却ステージ7を含む下部は、筒状部材15に収容されている。この筒状部材15の外側にはさらに筒状部材16が配置されている。この筒状部材15の内部空間が再凝縮室8であり、この再凝縮室8とヘリウム槽2とは、筒状部材15よりも小径の筒状の連通部材14で連通されている。
【0029】
(圧力制御装置の構成)
圧力制御装置100は、クライオスタット50に設けられ、ヘリウム槽2内のヘリウムガスの圧力を制御するものである。圧力制御装置100は、筒状部材16に接続する枝管17に取り付けられた圧力センサ21と、超電導マグネット1に取り付けられたヒータ22と、を有している。
【0030】
圧力センサ21は、再凝縮室8内のヘリウムガスの圧力を測定する。本実施形態において、圧力センサ21は歪ゲージである。なお、圧力センサ21は、気相空間10のヘリウムガスの圧力を測定するように、筒部材13の上端部のガス放出口に設けられていてもよいし、ヘリウム槽2内に設けられていてもよい。また、圧力センサ21は歪ゲージに限定されない。また、圧力センサ21は、圧力を連続的に測定する構成に限定されず、圧力をある周期で間欠的に測定する構成であってもよい。例えば、圧力センサ21は、後述するマイコン26が1分毎に基準圧力値を補正するのに合わせて、1分間隔で圧力を測定する構成であってもよい。
【0031】
ヒータ22は、印加される電流値に応じた熱量を発生させることで、液体ヘリウムを加熱する。加熱された液体ヘリウムは蒸発してヘリウムガスとなる。これにより、ヘリウム槽2内のヘリウムガスの圧力が上昇する。なお、ヒータ22は、間接的に液体ヘリウムを加熱するように、冷凍機5などに取り付けられていてもよい。
【0032】
ここで、クライオスタット50においては、外部からヘリウム槽2に侵入した熱により蒸発した液体ヘリウムを、冷凍機5で再凝縮させている。ここで、冷凍機5の冷凍能力が外部から侵入する熱量に劣ると、液体ヘリウムの蒸発を止めることができない。そこで、設計上、外部から侵入する熱量よりも冷凍機5の冷凍能力の方が勝るようにされている。しかし、外部から侵入する熱量よりも冷凍機5の冷凍能力の方が勝るために、ヘリウムガスが過剰に凝縮され、その結果、ヘリウム槽2内のヘリウムガスの圧力は負圧になる。ヘリウム槽2内のヘリウムガスの圧力が負圧になると、シール性の弱いところから空気が侵入して氷結などを起こす。
【0033】
そこで、ヒータ22で液体ヘリウムを加熱することで、液体ヘリウムの蒸発を促し、ヘリウム槽2内のヘリウムガスの圧力が大気圧よりも僅かに高い正圧になるように制御している。即ち、ヒータ22が発生する熱量で、冷凍機5の冷凍能力と外部からヘリウム槽2に侵入する熱量とをバランスさせている。
【0034】
回路図である図2に示すように、圧力制御装置100は、熱量制御装置23を有している。この熱量制御装置23は、回路基板上に設けられてクライオスタット50の外部に設けられており、圧力センサ21の測定値に応じた電流値の電流をヒータ22に印加することで、ヒータ22が発生する熱量を制御するものである。
【0035】
熱量制御装置23は、変換器24と、A/D変換器25と、マイコン26と、設定器27と、D/A変換器28と、増幅器29と、を有している。変換器24は、歪ゲージである圧力センサ21が測定した電気抵抗の変化を電圧値に変換する。A/D変換器25は、アナログの電圧値をデジタル値に変換する。マイコン(電流値算出部)26は、圧力センサ21の測定値を、圧力と電流との関係式に代入することで、ヒータ22に印加する電流値を求める。設定器27は、マイコン26で用いる、圧力と電流との関係式を設定するための値を設定する。D/A変換器28は、デジタルの電流値をアナログ値に変換する。増幅器29は、電流値を増幅する。増幅された電流値のヒータ電流は、ヒータ22に印加される。
【0036】
ここで、圧力と電流との関係式の一例を図3に示す。この関係式は、ヘリウムガスの圧力値が基準圧力値(4kPa)でヒータ22に印加する電流値が基準電流値(30mA)である点Aを通り、傾きが12[mA/kPa]の直線Cを含んでいる。ここで、基準圧力値および基準電流値は、圧力と電流との関係式を設定するために便宜上設けられたものである。ヒータ22の発熱効果は、電流値がプラスでもマイナスでも同じである。そこで、ヘリウム槽2内のヘリウムガスの圧力が基準圧力値のときに電流値が基準電流値となるように、基準電流値分だけ電流値をかさ上げし、圧力が6.5kPa以上で電流値が0となるようにして、常にプラス(0を含む)の電流値で圧力制御を行うようにしている。また、圧力が−1kPa以下では電流値が90mAで一定となるように、ヒータ電流に上限値を設けることで、ヒータ22の破損や配線の焼損を防止している。
【0037】
設定器27(図2参照)は、点Aの圧力値である基準圧力値(4kPa)、点Aの電流値である基準電流値(30mA)、および、直線Cの傾き(12[mA/kPa])を設定する。これにより、直線Cが設定される。熱量制御装置23は、マイコン26が求めた電流値の電流をヒータ22に印加することで、ヒータ22が発生する熱量を制御する。これにより、ヘリウム槽2内のヘリウムガスの圧力が制御される。このような圧力制御により、時間の経過とともにヘリウムガスの圧力は安定する。
【0038】
ヘリウムガスの圧力の時間変化をシミュレートした図を図4に示す。初期値2kPaから30時間ほどを経て、ヘリウム槽2内のヘリウムガスの圧力が安定している。また、ヒータ電流の時間変化をシミュレートした図を図5に示す。30時間ほどを経て、ヒータ電流は20mAに漸近して安定している。このとき、ヒータ22に20mAを印加したときの発熱量で、冷凍機5の冷凍能力と外部からヘリウム槽2に侵入する熱量とがバランスしている。なお、図4図5は、冷凍機5の冷凍能力と外部からヘリウム槽2に侵入する熱量とをバランスさせるためにヒータ22に印加する電流値が20mAで変化しない(一定である)ようにモデル化したものである。
【0039】
なお、理論的には、冷凍機5の冷凍能力と外部からヘリウム槽2に侵入する熱量との差から、バランス時にヒータ22が発生する熱量を求めることはできるが、実際のクライオスタット50において、ヒータ22が発生する熱量を直接検出することはできない。
【0040】
図5からわかるように、ヒータ電流が安定する電流値(20mA)は、図3に示した基準電流値(30mA)ではない。図3において、電流値が20mAの直線Dと直線Cとが交差する点Bにおける圧力値は、4.83kPaである。この値は、基準圧力値(4kPa)ではない。このように、基準圧力値は、元々、基準電流値とともに、圧力と電流との関係式を設定するために便宜上設けられたものであって、ヘリウム槽2内のヘリウムガスの圧力が安定する値ではない。
【0041】
ここで、冷凍機5の冷凍能力は経時的に変化し、さらに、東日本と西日本の周波数の違いによっても変化する。また、外部からヘリウム槽2に侵入する熱量も環境の変化により変化する。冷凍機5の冷凍能力や外部からヘリウム槽2に侵入する熱量が変化すると、冷凍機5の冷凍能力と外部からヘリウム槽2に侵入する熱量とをバランスさせるための熱量が変化するので、バランス時の電流値は変化する。これにより、ヘリウム槽2内のヘリウムガスの圧力が安定する値は変化する。圧力安定時の圧力値が変化すると、超電導マグネット1による磁場の均一度が変化し、高分解能NMR等の測定結果に影響を与える。
【0042】
そこで、図2に示すマイコン(補正部)26は、所定間隔毎に、基準圧力値を補正する。即ち、マイコン26は、補正量(Ps0−Pp)/nを基準圧力値Psに加算することで、基準圧力値Psを補正し、補正された基準圧力値Psを新たな基準圧力値Psとすることを、所定間隔毎に行う。ここで、nは圧力補正係数、Ps0は初期の基準圧力値、Ppは圧力センサ21の測定値である。本実施形態において、マイコン26は、1分毎に基準圧力値Psを補正する。よって、補正量は1分毎に算出される。
【0043】
なお、本実施形態では1分毎に基準圧力値Psを補正しているが、この間隔は1分に限定されない。ただし、補正を行わない従来の制御において、図4に示すように、圧力は概ね1日かけて安定するので、1分は、補正の周期として十分な細やかさであると言える。
【0044】
圧力と電流との関係式の一例を図6に示す。補正を伴う圧力制御においては、目標値を初期の基準圧力値Ps0(4kPa)として圧力制御を開始する。そして、1分毎に、補正量(Ps0−Pp)/nを基準圧力値Psに加算することで、基準圧力値Psを補正し、補正された基準圧力値Psを新たな基準圧力値Psとする。
【0045】
具体的には、まず、(1)ヘリウムガスの圧力値が初期の基準圧力値Ps0(4kPa)でヒータ22に印加する電流値が基準電流値(30mA)の点Aを通り、所定の傾き(12[mA/kPa])を有する直線Cを含む圧力と電流との関係式を用いて、ヒータ22に印加する電流値を求め、この電流値のヒータ電流をヒータ22に印加することで、ヒータ22が発生する熱量を制御する。同時に、初期の基準圧力値Ps0を補正して新たな基準圧力値Psとする。
【0046】
次に、(2)ヘリウムガスの圧力値が新たな基準圧力値Psでヒータ22に印加する電流値が基準電流値(30mA)の点を通り、所定の傾き(12[mA/kPa])を有する直線を含む圧力と電流との関係式を用いて、ヒータ22に印加する電流値を求め、この電流値のヒータ電流をヒータ22に印加することで、ヒータ22が発生する熱量を制御する。同時に、現在の基準圧力値Psを補正して新たな基準圧力値Psとする。
【0047】
上記(2)を繰り返すことで、基準圧力値Psは初期の基準圧力値Ps0から累積補正されていく。これにより、基準圧力値Psが変化していくので、ヘリウムガスの圧力値が基準圧力値Psでヒータ22に印加する電流値が基準電流値の点は、電流値が基準電流値(30mA)である直線Eに沿って点Aから移動していく。よって、ヘリウムガスの圧力値が基準圧力値Psでヒータ22に印加する電流値が基準電流値の点を通り、所定の傾き(12[mA/kPa])を有する直線は、直線Eに沿って直線Cから移動していく。
【0048】
ここで、ヒータ22に印加する電流値は、冷凍機5の冷凍能力と外部からヘリウム槽2に侵入する熱量とがヒータ22が発生する熱量でバランスするときの値である20mAで安定する。そのため、ヘリウム槽2内のヘリウムガスの圧力が安定したときの圧力値は、バランス時の電流値(20mA)と、圧力と電流との関係式とで求まる。直線Cにおいては、点Bにおける圧力値で、ヘリウム槽2内のヘリウムガスの圧力は安定する。しかし、基準圧力値Psの累積補正により、圧力と電流との関係式が変化していくため、圧力安定時の圧力値は、電流値が20mAである直線Dに沿って点Bから移動していく。
【0049】
そして、圧力安定時の圧力値が初期の基準圧力値Ps0まで変化すると、即ち、点Bが点Gまで変化すると、圧力安定時の圧力値である圧力センサ21の測定値が初期の基準圧力値Ps0になるので、補正量がゼロになる。これにより、基準圧力値Psは、補正量がゼロになったときの値、即ち、点Fにおける圧力値に落ち着く。よって、ヘリウムガスの圧力値が基準圧力値Psでヒータ22に印加する電流値が基準電流値の点を通り、所定の傾き(12[mA/kPa])を有する直線は、点Fを通る直線Hに落ち着く。これにより、圧力安定時の圧力値は、目標値である初期の基準圧力値Ps0に落ち着く。その後は、直線Hを含む圧力と電流との関係式を用いて、ヒータ22が発生する熱量を制御する。
【0050】
ここで、冷凍機5の冷凍能力と外部からヘリウム槽2に侵入する熱量とをバランスさせるための熱量が変化すると、バランス時の電流値が変化する。しかし、バランス時の電流値が変化しても、同様にして、圧力安定時の圧力値は目標値である初期の基準圧力値Ps0に落ち着く。
【0051】
例えば、バランス時の電流値が10mAに変化した場合、直線Cが直線Iまで移動したときに、補正量がゼロになる。これにより、ヘリウムガスの圧力値が基準圧力値Psでヒータ22に印加する電流値が基準電流値の点を通る直線は、直線Iに落ち着き、圧力安定時の圧力値は、目標値である初期の基準圧力値Ps0に落ち着く。
【0052】
このように、バランス時の電流値がどのような値になろうとも、圧力安定時の圧力値は、補正量がゼロになる値である初期の基準圧力値Ps0に落ち着く。よって、ヘリウム槽2内のヘリウムガスの圧力は、バランス時の電流値が変化したとしても、目標値である初期の基準圧力値Ps0で安定することになる。このように、ヘリウムガスの圧力の目標値を設定し、ヘリウム槽2内のヘリウムガスの圧力が目標値で安定するようにすることで、磁場の均一度が一定になる。これにより、磁場の均一度が変化することに起因する、高分解能NMR等の測定結果への影響を抑えることができる。
【0053】
基準圧力値Psを累積補正しながら圧力制御したときの、ヘリウムガスの圧力の時間変化をシミュレートした図を図7に示す。図7(a)は、圧力補正係数nが60のもの、図7(b)は、圧力補正係数nが120のもの、図7(c)は、圧力補正係数nが600のものである。また、基準圧力値Psを累積補正しながら圧力制御したときの、ヒータ電流の時間変化をシミュレートした図を図8に示す。図8(a)は、圧力補正係数nが60のもの、図8(b)は、圧力補正係数nが120のもの、図8(c)は、圧力補正係数nが600のものである。なお、図7図8は、冷凍機5の冷凍能力と外部からヘリウム槽2に侵入する熱量とをバランスさせるためにヒータ22に印加する電流値が20mAで変化しない(一定である)ようにモデル化したものである。
【0054】
図7において、圧力補正係数nが60のものは、圧力のオーバーシュートが最も大きく、変動周期は一番小さい。そして、圧力補正係数nの値が大きくなるほど、圧力のオーバーシュートは減少し、変動周期が大きくなる。ここで、冷凍機5の冷凍能力は、冷凍機5の大きさなどで変化する。また、外部からヘリウム槽2に侵入する熱量は、クライオスタット50の大きさなどで変化する。そこで、圧力補正係数nは、クライオスタット50の大きさや冷凍機5の大きさなどに応じて変化させる必要がある。しかし、一般的なクライオスタット50や冷凍機5では、図7に示すように、ヘリウムガスの圧力が安定するまでに30時間ほどかかっており、圧力補正係数nを時定数と考えると、30時間は600分(n=600)の3倍程度である。よって、一般的なクライオスタット50や冷凍機5では、圧力補正係数nは600位がよいことがわかる。
【0055】
また、図2に示すように、マイコン26は、メモリ(記憶部)26aを有している。このメモリ26aは、基準圧力値Psを記憶する。メモリ26aとしては、電気的に書き換えができて、非通電の状態でも記憶が消失しない不揮発性メモリが好ましい。なお、メモリ26aはバッテリなどからの電力で記憶を維持する構成であってもよい。
【0056】
図7に示すように、ヘリウムガスの圧力が安定して高分解能NMR等の測定に適した状態になるまでに、概ね1日程度かかる。その間に、間違ってマイコン26の電源を切ったり、停電したりすると、累積補正された基準圧力値Psが消えてしまい、初めから累積補正をやり直すことになり、最大で1日程度の時間ロスになる。
【0057】
そこで、累積補正された基準圧力値Psを、10分間隔や1時間間隔でメモリ26aに記憶する。これにより、累積補正された基準圧力値Psがマイコン26から消えるような不測の事態が生じたとしても、メモリ26aが記憶する基準圧力値Psを用いて、基準圧力値Psの累積補正を途中から再開することができる。よって、不測の事態による時間ロスを短縮することができる。なお、メモリ26aは、累積補正された基準圧力値Psを記憶する構成に限定されず、初期の基準圧力値Ps0からの累積した補正量を記憶する構成であってもよい。
【0058】
また、マイコン26(図2参照)は、補正量に上限値を設けている。1回あたりの補正量は(Ps0−Pp)/nであるが、圧力制御の初期段階では、基準圧力値Psと圧力センサ21の測定値Ppとの差が大きいために、補正量が大きくなる。また、圧力補正係数nを小さく設定しすぎた場合にも、補正量が大きくなる。補正量が大きいと、圧力センサ21の測定値と、圧力と電流との関係式とで求まる電流値が異常に大きくなったり、ゼロになったりする。そこで、補正量に上限値を設けることで、補正量が大きくなりすぎないようにする。これにより、圧力センサ21の測定値と、圧力と電流との関係式とで求まる電流値が大きくなりすぎたり、小さくなりすぎたりすることがなくなり、圧力のオーバーシュートが抑えられ、圧力値と目標値との誤差が小さくなるので、圧力変動が小さい安定した圧力制御を行うことができる。なお、マイコン26は、補正量に上限値を設ける代わりに、ヒータ22に印加する電流値に上限値を設けてもよい。この場合には、ヒータ22に印加する電流値がゼロになる場合があるが、ヒータ22に印加する電流値が異常に大きくなることがないので、同様の効果を得ることができる。
【0059】
また、マイコン26は、圧力補正係数nを段階的に変化させる。図7に示すように、圧力補正係数nが大きいほど補正による効果が小さくなり、圧力変動は小さくなるが、圧力偏差(平均値との差)は大きくなる。逆に、圧力補正係数nが小さいほど補正による効果が大きくなり、圧力変動は大きくなるが、圧力偏差は小さくなる。また、圧力補正係数nを大きくして補正効果を小さくすると、冷凍機5やクライオスタット50の状態変化や環境気圧の変動などに起因して、ヘリウム槽2内のヘリウムガスの圧力が大きく変動することがあるが、補正量が小さいために、これら外乱に対する抵抗力・対応力が減少し、圧力安定時の圧力値は目標値からずれる。
【0060】
そこで、圧力変動を抑えながら圧力をある程度まで安定させたいが、その後は圧力を目標値で精度よく安定させたい場合には、圧力制御の初期段階で圧力補正係数nを大きくして、圧力変動を小さくしておいて、圧力がある程度安定した後に、圧力補正係数nを小さくして、圧力偏差を小さくする。このように、圧力補正係数nを大から小に段階的に変化させることで、圧力変動を抑えながら圧力をある程度まで安定させた後に、圧力を目標値で精度よく安定させることができる。
【0061】
また、素早く圧力をある程度まで安定させたいが、その後は圧力変動を抑えたい場合には、圧力制御の初期段階で圧力補正係数nを小さくして、圧力偏差を小さくしておいて、圧力がある程度安定した後に、圧力補正係数nを大きくして、圧力変動を小さくする。このように、圧力補正係数nを小から大に段階的に変化させることで、素早く圧力をある程度まで安定させた後に、圧力変動を抑えた安定した圧力制御を行うことができる。
【0062】
また、マイコン26は、所定の条件が成立した場合に、基準圧力値Psの累積補正を中止する。図7に示すように、概ね1日程度経過すると、ヘリウム槽2内のヘリウムガスの圧力は安定する。そこで、マイコン26は、圧力がある程度、あるいは十分に安定するのに要する時間である所定時間(例えば2日)が経過した場合に、基準圧力値Psの累積補正を中止し、その後は、補正に依らない従来の圧力制御を行う。ここで、累積補正を中止した後は、冷凍機5の冷凍能力や外部からヘリウム槽2に侵入する熱量が変動したり、環境気圧が変動したりすることで、圧力安定時の圧力値が目標値からずれる場合がある。従来の圧力制御では、圧力安定時の圧力値が目標値になるように制御しないので、圧力安定時の圧力値が目標値からずれても目標値に直すことはできないが、補正に起因する細かな圧力変動が生じないようにすることができる。
【0063】
なお、オペレータが操作可能な中止ボタンを設けて、オペレータがこの中止ボタンを操作した場合に、マイコン26が累積補正を中止する構成であってもよい。この場合、オペレータが所望するタイミングで累積補正を中止することができる。
【0064】
また、マイコン26は、所定の条件が成立した場合に、基準圧力値Psの累積補正を開始する。累積補正を中止した後に、冷凍機5の冷凍能力や外部からヘリウム槽2に侵入する熱量が変動したり、環境気圧が変動したりすることで、圧力安定時の圧力値が目標値からずれる場合がある。そこで、オペレータが操作可能な開始ボタンを設けて、オペレータの判断によりこの開始ボタンが操作された場合に、マイコン26は累積補正を再開する。これにより、ヘリウムガスの圧力を目標値で安定させることができる。
【0065】
なお、マイコン26は、圧力制御の開始とともに補正を開始せず、開始ボタンが操作された場合、あるいは、所定時間が経過した場合に、補正を開始してもよい。この場合、所望のタイミングで累積補正を開始することができる。
【0066】
また、マイコン(電流上限値設定部)26は、ヒータ22に印加する電流値の上限値を設定する。この上限値は、直近にヒータ22に印加した所定数の電流値を用いて算出した移動平均に所定値を加えた値である。本実施形態においては、直近にヒータ22に印加した30個の電流値を用いて算出した移動平均に5mAを加えた値を上限値としている。なお、所定数は30に限定されず、所定値は5mAに限定されない。
【0067】
例えば、圧力制御の開始時に算出したヒータ電流の電流値が10mAであるとすると、ヒータ電流の上限値は15mAとなる。図5図8の例では、ヒータ電流を下げる方向に圧力を制御しているが、それとは逆に、ヒータ電流を上げる方向に圧力を制御していく場合、圧力制御の初期段階において電流値は大きくなる方向にオーバーシュートする。その過程において、電流値を15mAで頭打ちにする。また、圧力制御の開始から30分後には、直近にヒータ22に印加した30個の電流値を用いて移動平均が算出される。移動平均が13mAであった場合には、ヒータ電流の上限値は18mAとなる。その後、1分間隔で移動平均が更新されていき、ヒータ電流の上限値はじわじわと上昇していくこととなる。このように、ヒータ電流に上限値を設けることで、圧力センサ21の測定値と、圧力と電流との関係式とで求まる電流値が大きくなりすぎることがなくなり、圧力のオーバーシュートが抑えられ、圧力値と目標値との誤差が小さくなるので、安定した圧力制御を行うことができる。
【0068】
(変形例)
なお、回路図である図9に示すように、圧力制御装置100が有する熱量制御装置23は、アナログ回路で構成されていてもよい。即ち、熱量制御装置23は、上述した変換器24および設定器27のほかに、電流値算出回路31と、補正回路32と、メモリ33と、電流上限値設定回路34と、を有している。電流値算出回路(電流値算出部)31は、圧力センサ21の測定値を入力とし、ヒータ22に印加する電流値を出力とする、圧力と電流との関係を決める回路である。補正回路(補正部)32は、基準圧力値Psを補正する。メモリ(記憶部)33は、基準圧力値Psを記憶するコンデンサなどの回路である。電流上限値設定回路(電流上限値設定部)34は、ヒータ22に印加する電流値の上限値を設定する。電流値算出回路31で算出された電流値のヒータ電流は、ヒータ22に印加される。
【0069】
圧力センサ21は、ヘリウムガスの圧力を連続的に測定している。補正回路32は、圧力センサ21の測定値を用いて、基準圧力値Psを連続的に補正する。ここで、圧力補正係数nは、回路構成におけるゲイン(倍率)となる。また、基準圧力値Psの累積補正は積分回路により行われる。圧力補正係数nなどの条件を頻繁に調整しないのであれば、熱量制御装置23をアナログ回路で構成することにより、圧力制御装置100を安価に大量に製造することができる。
【0070】
(効果)
以上に述べたように、本実施形態に係る圧力制御装置100によると、ヘリウム槽2内のヘリウムガスの圧力の目標値を初期の基準圧力値Ps0として圧力制御を開始し、1分毎に、補正量(Ps0−Pp)/nを基準圧力値Psに加算することで、基準圧力値Psを補正し、補正された基準圧力値Psを新たな基準圧力値Psとする。基準圧力値Psの累積補正により、圧力と電流との関係式が変化していくため、圧力安定時の圧力値は変化していく。そして、圧力安定時の圧力値が初期の基準圧力値Ps0まで変化すると、圧力安定時の圧力値である圧力センサ21の測定値が初期の基準圧力値Ps0になるので、補正量がゼロになる。これにより、基準圧力値Psは、補正量がゼロになったときの値に落ち着く。よって、圧力と電流との関係式は、圧力値がこのときの基準圧力値Psで電流値が基準電流値である点を通る直線を含むものに落ち着く。これにより、圧力安定時の圧力値は、目標値である初期の基準圧力値Ps0に落ち着く。そして、バランス時の電流値がどのような値になろうとも、同様にして、圧力安定時の圧力値は、補正量がゼロになる値である初期の基準圧力値Ps0に落ち着く。よって、ヘリウム槽2内のヘリウムガスの圧力は、バランス時の電流値が変化したとしても、目標値である初期の基準圧力値Ps0で安定することになる。このように、ヘリウムガスの圧力の目標値を設定し、ヘリウム槽2内のヘリウムガスの圧力が目標値で安定するようにすることで、磁場の均一度が一定になる。これにより、磁場の均一度が変化することに起因する、高分解能NMR等の測定結果への影響を抑えることができる。
【0071】
また、基準圧力値Psをメモリ(記憶部)26aに記憶することで、基準圧力値Psがマイコン(電流値算出部)26から消えるような不測の事態が生じたとしても、メモリ26aが記憶する基準圧力値Psを用いて、基準圧力値Psの累積補正を途中から再開することができる。よって、不測の事態による時間ロスを短縮することができる。
【0072】
また、マイコン(補正部)26は、補正量に上限値を設けることで、補正量が大きくなりすぎないようにする。これにより、圧力センサ21の測定値と、圧力と電流との関係式とで求まる電流値が大きくなりすぎたり、小さくなりすぎたりすることがなくなり、圧力のオーバーシュートが抑えられ、圧力値と目標値との誤差が小さくなるので、圧力変動が小さい安定した圧力制御を行うことができる。なお、補正量に上限値を設ける代わりに、ヒータ22に印加する電流値に上限値を設けることによっても、同様の効果を得ることができる。
【0073】
また、マイコン(補正部)26は、圧力補正係数nを段階的に変化させることで、補正による効果を大きくしたり小さくしたりする。圧力補正係数nが大きいほど補正による効果が小さくなり、圧力変動は小さくなるが、圧力偏差(平均値との差)は大きくなる。逆に、圧力補正係数nが小さいほど補正による効果が大きくなり、圧力変動は大きくなるが、圧力偏差は小さくなる。そこで、圧力補正係数nを大から小に段階的に変化させることで、圧力変動を抑えながら圧力をある程度まで安定させた後に、圧力を目標値で精度よく安定させることができる。また、圧力補正係数nを小から大に段階的に変化させることで、素早く圧力をある程度まで安定させた後に、圧力変動を抑えた安定した圧力制御を行うことができる。
【0074】
また、マイコン(補正部)26は、所定の条件が成立した場合に、基準圧力値Psの累積補正を中止する。圧力がある程度、あるいは十分に安定するのに要する時間が経過した場合に、基準圧力値Psの累積補正を中止し、補正に依らない圧力制御を行うことで、補正に起因する細かな圧力変動が生じないようにすることができる。また、オペレータからの指示があった場合に、基準圧力値Psの累積補正を中止するようにすることで、オペレータが所望するタイミングで累積補正を中止することができる。
【0075】
また、マイコン(補正部)26は、所定の条件が成立した場合に、基準圧力値Psの累積補正を開始する。オペレータからの指示があった場合、あるいは、所定時間が経過した場合に、基準圧力値Psの累積補正を開始するようにすることで、所望のタイミングで累積補正を開始することができる。また、累積補正を中止した後にオペレータからの指示があった場合に、基準圧力値Psの累積補正を再開することで、中止後に圧力安定時の圧力値が目標値からずれた場合であっても、ヘリウム槽2内のヘリウムガスの圧力を目標値で安定させることができる。
【0076】
また、マイコン(電流上限値設定部)26は、直近にヒータ22に印加した所定数の電流値を用いて移動平均を算出し、この移動平均に所定値を加えた値を、ヒータ22に印加する電流値の上限値として設定する。ヒータ22に印加する電流値に上限値を設けることで、圧力センサ21の測定値と、圧力と電流との関係式とで求まる電流値が大きくなりすぎることがなくなり、圧力のオーバーシュートが抑えられ、圧力値と目標値との誤差が小さくなるので、圧力変動が小さい安定した圧力制御を行うことができる。
【0077】
(本実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、具体的構成などは、適宜設計変更可能である。また、発明の実施の形態に記載された、作用及び効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0078】
1 超電導マグネット
2 ヘリウム槽(冷媒槽)
3 輻射シールド
4 真空容器
5 冷凍機
6 第1冷却ステージ
7 第2冷却ステージ
8 再凝縮室
10 気相空間
12 ネック部材
13 筒部材
14 連通部材
15 筒状部材
16 筒状部材
17 枝管
21 圧力センサ
22 ヒータ
23 熱量制御装置
24 変換器
25 A/D変換器
26 マイコン(電流値算出部、補正部、電流上限値設定部)
26a メモリ(記憶部)
27 設定器
28 D/A変換器
29 増幅器
31 電流値算出回路(電流値算出部)
32 補正回路(補正部)
33 メモリ(記憶部)
34 電流上限値設定回路(電流上限値設定部)
50 クライオスタット
100 圧力制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9