【実施例】
【0083】
実施例1−様々な種類のヒト癌におけるCA−XII発現レベル
CA−XIIは、様々な種類のヒト癌において高発現している。CA−XIIの過剰発現は、バーネット(Bernett)ら(2008)に記載されるデータ(http://ist.genesapiens.orgより入手)に相応するように乳癌において最も顕著である。
【0084】
実施例2−A549細胞の免疫蛍光染色
A549細胞を、PBS中の4%(v/v)パラホルムアルデヒドで10分間固定し、PBS及び0.5%(v/v)トリトン−X−100(Triton−X−100)で洗浄し、そして、EXO 6A10抗体と共に、室温で60分間インキュベートした。PBS及びPBS/0.5%(v/v)トリトン‐X‐100(Triton−X−100)で洗浄した後、細胞を蛍光色素標識二次抗体(マウス抗ラットIgG/Cy3)とインキュベートし、次いで、結合した抗体をライカ(Leica)レーザー・スキャニング顕微鏡によって視覚化した。核をDAPIで対比染色した。その結果、CA−XIIの染色は、明らかに、A549細胞の細胞膜と関連している(
図3、矢印)。
【0085】
実施例3−調査したヒト癌細胞株はCA−XIIを発現する。
調査した永久ヒト癌細胞株の大部分は、フローサイトメトリーによって明らかにされるように、細胞表面上にCA−XIIを発現する(
図4Aを参照されたい。)。永久ヒト癌細胞株をEXO 6A10(PBS中の2%(v/v)FCS(すなわちウシ胎児血清)中、1:5に希釈されたハイブリドーマ上清)と、氷上で15分間インキュベートし、PBS/2%(v/v)FCS中で3回洗浄し、次いで、特異的二次抗体(ヤギ抗ラットIgG/Cy5)と氷上でさらに15分間染色した。次いで、ベクトン・ディッキンソンFACSカリバー・デバイス(Becton Dicknson FACS Calibur device)及びフロージョー(FlowJo)ソフトウェア[ツリースター(Treestar)社]において、フローサイトメトリーにより、6A10の結合を測定した。特異性が無関係である(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)同一アイソタイプの抗体を対照として用いた(灰色=アイソトープ対照;黒線=EXO 6A10)。末梢血単核細胞(Peripheral blood mononuclear cells; PBMC)及び2つの黒色腫細胞株(不図示)に対する結合は検出できなかった。
図4Bには、このイムノブロットで示されるように、CA−XIIが卵巣癌患者の悪性腹水から単離されたエキソソーム上にも存在することが示されている。分画遠心分離(500×g;10,000×g;70,000×g)によって悪性腹水からエキソソームを単離し、PBS中に再懸濁した。標準的なブラッドフォード・アッセイにより、タンパク質濃度を測定した。2μgのタンパク質をニトロセルロース膜上にピペッティングした。膜を様々な一次抗体とインキュベートした。洗浄後、膜を特異的二次抗体(抗ラットIgG/ペルオキシダーゼ)とインキュベートした。ガングリオシドGM1が、コレラ毒素Bサブユニット/ペルオキシダーゼで検出された。ECLシステムで膜を現像した。
【0086】
実施例4−EXO 6A10及びアゼタゾールアミドによるCA−XII阻害
EXO 6A10は、スルホンアミド、アゼタゾールアミド(IC50=2.38×10
-7M)と比較すると、はるかにより効率的に、CA−XIIを阻害する(IC50=6.14×10
-9M)(
図5、上部を参照されたい。)。対照的に、EXO 6A10は、CA−IIを有意には阻害しない(
図5、下部を参照されたい。)。
【0087】
実施例5−CA-XIIに対するEXO 6A10結合
CA−XIIの触媒ドメインの三次元構造。関連するアミノ酸残基を示す(ウィッティングトン(Whittington)ら,2001より採録)
【0088】
実施例6−三次元腫瘍スフェロイドにおける代謝活性のEXO 6A10阻害
96ウェル細胞培養プレート上、PBS中の1%(v/v)アガロースからなるクッション上に、A549肺癌細胞をプレーティングした。これらの条件下では、標準的細胞培養において単層として増殖する大部分の細胞株は、アガロースに接着しない。その代わり、細胞は、自発的に、腫瘍スフェロイドと呼ばれる三次元構造を形成する。
【0089】
図7、上部:幾つかのスフェロイドをEXO 6A10(最終濃度10μg/mL)の存在下で培養し、一方、他のものはアセタゾールアミド(AAZ、最終濃度100μM)と共に培養した。対照スフェロイドは、如何なるさらなる処理もせずに培養した(未処理)。スフェロイドの代謝活性を、2日後に、報告される通りMTTアッセイを利用し、かつ595nmにおける吸光度の読み取りによって測定した[コリー(Cory)ら、1991]。各群に関して、10個のスフェロイドが含まれ、平均値、標準偏差を計算した。全てのデータは、平均±標準誤差として表されている。t検定を用いて、未処理スフェロイド及び処理スフェロイド間で比較を行い、プリズム(Prism)4[グラフパッド(GraphPad)ソフトウェア、ラホーヤ(La Jolla)]を用いて計算した。
【0090】
図7、下部:EXO 6A10と共に、又は未処理のまま、A549スフェロイドを2日間培養した。次いで、(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミドを添加し、そして写真撮影した。EXO 6A10処理スフェロイドは、未処理スフェロイドよりも、はるかにより小さく、そしてはるかにより密であることが明らかである。
【0091】
実施例7−ヒトCA−XIIをコードする発現プラスミドによるネズミL929細胞のトランスフェクション
ネズミL929細胞を、ヒトCA−XIIをコードする発現プラスミドでトランスフェクションした。次いで、フローサイトメトリーによって、EXO 6A10の結合を明らかにした(
図10、黒線、L929+CA−XII)。対照として、非トランスフェクションL929細胞に対するEXO 6A10の結合を試験した(
図10、灰色の領域、L929)。EXO 6A10は、トランスフェクション細胞には結合するが、非トランスフェクション細胞には結合しない。その結果、膜局在過剰発現ヒトCA−XIIの結合が示された。
【0092】
実施例8−酸素正常状態又は低酸素状態下での膠芽細胞腫株U373及びU251の培養
CA−XIIは、ヒト癌において低酸素症と関連している。膠芽細胞腫株U373及びU251を、正常酸素状態(およそ21%O
2)又は低酸素状態(1%O
2)の何れかで培養した。CA−XIIは、酸素正常状態下では検出可能な程度には発現していなかった(左のヒストグラム)が、細胞が低酸素状態に維持されている場合には、当該酵素は明らかに誘導されていた(
図13)。これらの結果は、CA−XIIが、低酸素状態癌細胞に関して、重要な酵素であることを暗示する。
【0093】
参考文献:
アルテリオ(Alterio), V., ヒルボ(Hilvo), M., ディフィオレ(Di Fiore), A., スプラン(Supuran), C. T., パン(Pan), P., パーキラ(Parkkila), S., スキャローニ(Scaloni), A., パストレック(Pastorek), J., パストレコバ(Pastorekova), S., ペドーン(Pedone), C., スコザファバ(Scozzafava), A., モンティ(Monti), S. M., 及びデ・シモン(De Simone), G. (2009). 腫瘍関連ヒト炭酸脱水酵素IXの触媒ドメインの結晶構造(Crystal structure of the catalytic domain of the tumor-associated human carbonic anhydrase IX.)、米国科学アカデミー紀要(Proc Natl Acad Sci U S A) 106, 16233-16238.
【0094】
バーネット(Barnett), D. H., シェン(Sheng), S., チャーン(Charn), T. H., ワヒード(Waheed), A., スライ(Sly), W. S., リン(Lin), C. Y., リウ(Liu), E. T., 及びカッツェネレンボーゲン(Katzenellenbogen), B. S. (2008). 乳癌における遠位エンハンサーを通じた炭酸脱水酵素XIIのエストロゲン受容体制御(Estrogen receptor regulation of carbonic anhydrase XII through a distal enhancer in breast cancer.)、キャンサー・リサーチ(Cancer Res)68, 3505-3515.
【0095】
シシュ(Chiche), J., イルク(Ilc), K., ラフェリエール(Laferriere), J., トロッティエー(Trottier), E., ダヤン(Dayan), F., マズール(Mazure), N. M., ブラヒミ−ホーン(Brahimi-Horn), M. C., 及びポイセガー(Pouyssegur), J. (2009). 低酸素誘導性炭酸脱水酵素IX及びXIIは、細胞内pHの制御を通じて、アシドーシスと対抗することによって、腫瘍細胞増殖を促進する(Hypoxia-inducible carbonic anhydrase IX and XII promote tumor cell growth by counteracting acidosis through the regulation of the intracellular pH.)、キャンサー・リサーチ(Cancer Res)69, 358-368.
【0096】
チョチア(Chothia), C., レスク(Lesk), A. M., トラモンターノ(Tramontano), A., レビット(Levitt), M., スミス−ギル(Smith-Gill), S. J., エア(Air), G., シェリフ(Sheriff), S., パドラン(Padlan), E. A., デイビーズ(Davies), D., テューリップ(Tulip), W. R. ら (1989). 免疫グロブリン超可変領域のコンホメーション(Conformations of immunoglobulin hypervariable regions.)、ネイチャー(Nature)342, 877-883.
【0097】
コリー(Cory), A. H., オーウェン(Owen), T. C., バールトロップ(Barltrop), J. A., 及びコリー(Cory), J. G. (1991). 培養における細胞増殖アッセイのための水溶性テトラゾリウム/ホルマザンアッセイの使用(Use of an aqueous soluble tetrazolium/formazan assay for cell growth assays in culture.)、キャンサー・コミュニケーション(Cancer Commun)3, 207-212.
【0098】
イノセンティ(Innocenti), A., ブロ(Vullo), D., パストレック(Pastorek), J., スコザファバ(Scozzafava), A., パストレコバ(Pastorekova), S., ニシモリ(Nishimori), I., 及びスプラン(Supuran), C. T. (2007). 炭酸脱水酵素阻害剤。アニオンを用いた膜貫通アイソザイムXII(癌関連)及びXIVの阻害(Carbonic anhydrase inhibitors. Inhibition of transmembrane isozymes XII (cancer-associated) and XIV with anions).、バイオオーガニック・アンド・メディスナル・ケミストリー・レター(Bioorg Med Chem Lett)17, 1532-1537.
【0099】
キベラ(Kivela), A., パーキラ(Parkkila), S., サーニオ(Saarnio), J., カーツネン(Karttunen), T. J., キベラ(Kivela), J., パーキラ(Parkkila), A. K., ワヒード(Waheed), A., スライ(Sly), W. S., グラブ(Grubb), J. H., シャー(Shah), G., ツレシ(Tureci), O., 及びラジャニエミ(Rajaniemi), H. (2000). 正常ヒト腸及び結腸直腸腫瘍における新規膜貫通炭酸脱水酵素アイソザイムXIIの発現(Expression of a novel transmembrane carbonic anhydrase isozyme XII in normal human gut and colorectal tumors.)、アメリカン・ジャーナル・オブ・パソロジー(Am J Pathol)156, 577-584.
【0100】
サーリー(Thiry), A., スプラン(Supuran), C. T., マセリール(Masereel), B., 及びドーニュ(Dogne), J. M. (2008). 潜在的抗癌薬剤としての炭酸脱水酵素阻害剤の最近の開発(Recent developments of carbonic anhydrase inhibitors as potential anticancer drugs.)、ジャーナル・オブ・メディスナル・ケミストリー(J Med Chem) 51, 3051-3056.
【0101】
ウルマソブ(Ulmasov), B., ワヒード(Waheed), A., シャー(Shah), G. N., グラブ(Grubb), J. H., スライ(Sly), W. S., チュ(Tu), C., 及びシルバーマン(Silverman), D. N. (2000). 特定の癌において過剰発現される膜炭酸脱水酵素、組換えCA−XIIの精製及び速度論解析(Purification and kinetic analysis of recombinant CA XII, a membrane carbonic anhydrase overexpressed in certain cancers.)、米国科学アカデミー紀要(Proc Natl Acad Sci U S A)97, 14212-14217.
【0102】
ブロ(Vullo), D., イノセンティ(Innocenti), A., ニシモリ(Nishimori), I., パストレック(Pastorek), J., スコザファバ(Scozzafava), A., パストレコバ(Pastorekova), S., 及びスプラン(Supuran), C. T. (2005). 炭酸脱水酵素阻害剤。スルホンアミドでの膜貫通アイソザイムXIIの阻害−抗腫瘍及び抗緑内障薬剤の設計のための新規ターゲット?(Carbonic anhydrase inhibitors. Inhibition of the transmembrane isozyme XII with sulfonamides-a new target for the design of antitumor and antiglaucoma drugs?)、バイオオーガニック・メディスナル・ケミストリー・レター(Bioorg Med Chem Lett)15, 963-969.
【0103】
ウィッティングトン(Whittington), D. A., ワヒード(Waheed), A., ウルマソブ(Ulmasov), B., シャー(Shah), G. N., グラブ(Grubb), J. H., スライ(Sly), W. S., 及びクリスチャンソン(Christianson), D. W. (2001). 特定の癌腫瘍細胞において過剰発現されるバイトピック膜タンパク質である、ヒト炭酸脱水酵素XIIの二量体細胞外ドメインの結晶構造(Crystal structure of the dimeric extracellular domain of human carbonic anhydrase XII, a bitopic membrane protein overexpressed in certain cancer tumor cells.)米国科学アカデミー紀要(Proc Natl Acad Sci U S A)98, 9545-9550.