(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
クロロプレンと2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンとを少なくとも含む原料単量体を重合して得たクロロプレン共重合体が水中に分散しているポリクロロプレンラテックスであって、
前記原料単量体における2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン含有量が1〜30質量%であり、
固形分100質量部に対して、カリウムイオンを0.90〜1.10質量部含有すると共に、ナトリウムイオンを0.08〜0.17質量部含有するポリクロロプレンラテックス。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0012】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係るポリクロロプレンラテックスについて説明する。本実施形態のポリクロロプレンラテックスは、2−クロロ−1,3−ブタジエン(以下、クロロプレンという。)と2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンとの共重合体、又はクロロプレンと2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンとその他の単量体との共重合体(以下、これらをまとめてクロロプレン共重合体という。)が、水中に分散しているものである。
【0013】
また、本実施形態のポリクロロプレンラテックスでは、原料単量体における2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン含有量が1〜30質量%である。更に、本実施形態のポリクロロプレンラテックスは、固形分100質量部に対して、カリウムイオンを0.7〜1.5質量部含有すると共に、ナトリウムイオンが0.2質量部以下に規制されている。
【0014】
[クロロプレン共重合体]
本実施形態のポリクロロプレンラテックスでは、得られる浸漬成形品の柔軟性などの特性を調製するために、クロロプレンと2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンとを共重合している。ただし、原料単量体における2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン含有量が1質量%未満の場合、共重合体の耐結晶性を向上する効果が得られない。また、原料単量体中の2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン量が30質量%を超えると、クロロプレン共重合体の結晶化が進みすぎて、柔軟性が低下する。
【0015】
なお、耐結晶性向上の観点から、原料単量体中の2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン量は、5〜20質量部とすることが好ましい。耐結晶性を有するクロロプレン共重合体を使用すると、柔軟性に優れた浸漬成形品が得られ、例えば手袋などにおいては、装着時のフィット感が向上する。また、浸漬成形品は、製造後時間が経過するに従い硬くなっていくが、耐結晶性のあるクロロプレン共重合体を使用すると、このような経時変化が起こりにくくなる。
【0016】
また、本実施形態のポリクロロプレンラテックスに含有されるクロロプレン共重合体は、クロロプレン及び2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン以外の単量体が共重合されていてもよい。ここで、クロロプレン及び2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンと共重合可能なその他の単量体としては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸のエステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル及びメタクリル酸2−エチルヘキシルなどのメタクリル酸エステル類、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート及び2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ(メタ)アクリレート類、1−クロロブタジエン、ブタジエン、イソプレン、エチレン、スチレン又はアクリロニトリルなどを用いることもできる。
【0017】
なお、これらは単独でも使用することができるが、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。また、クロロプレン及び2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン以外の単量体を共重合する場合、浸漬成形品の柔軟性向上、並びにクロロプレン共重合体が有する耐候性、耐熱性及び耐薬品性などの特性を維持する観点から、クロロプレン以外の単量体を合計で1〜30質量%とすることが好ましく、5〜20質量%とすることがより好ましい。
【0018】
本実施形態のポリクロロプレンラテックスに含有されるクロロプレン共重合体は、浸漬成形品の強度向上及び浸漬成形する際の収縮抑制の観点から、ゲル含有量が30〜95質量%であることが好ましい。例えば、クロロプレン共重合体のゲル含有量が30質量%未満の場合、ラテックス粒子中の重合体の架橋密度が低いため、浸漬成形した成形品を加硫しても、架橋密度が十分に高くならないことがある。そうすると、加硫後の浸漬成形品のモジュラス(伸長応力)が低くなり、十分な強度が得られないこととなる。
【0019】
また、クロロプレン共重合体のゲル含有量が95質量%を超えると、ラテックス粒子中の重合体の架橋密度が高くなり過ぎる。この場合、浸漬成形した成形品を加硫したときに、元来のラテックス粒子中の重合体の架橋密度とラテックス粒子間の架橋密度との差が大きくなり、架橋密度が低いラテックス粒子間に変形時の応力が集中し、破断伸びや破断強度などの力学特性が低下することがある。なお、クロロプレン共重合体のゲル含有量は、40〜85質量%であることがより好ましく、これにより、力学的特性に優れた浸漬成形品を製造することができる。
【0020】
なお、クロロプレン共重合体のゲル含有量は、以下の方法で求めることができる。先ず、ポリクロロプレンラテックスを凍結乾燥し、その質量A(g)を測定する。次に、得られた乾燥物を、23℃の温度条件下で20時間かけて、トルエンに溶解し、0.6質量%の濃度に調整する。それを、遠心分離機により固液分離した後、200メッシュの金網を用いてその不溶分を分離する。分離した不溶分を、風乾した後、110℃の雰囲気下で1時間乾燥して、その質量B(g)を測定する。そして、下記数式1によりゲル含有量を算出する。
【0022】
また、本実施形態のポリクロロプレンラテックスに含有されるクロロプレン共重合体のゲル含有量は、原料単量体を重合する際に用いる連鎖移動剤の添加量や単量体の転化率を変更することにより、調節することができる。
【0023】
[カリウムイオン:固形分100質量部に対して0.7〜1.5質量部]
ポリクロロプレンラテックスの固形分100質量部に対して、カリウムイオン量が0.7質量部未満の場合、ラテックスの低温安定性が低下する。その結果、凍結安定剤の添加が必要となり、ポリクロロプレンラテックス又はそのゴム組成物の浸漬成形時におけるゴム凝集性が低下する。一方、ポリクロロプレンラテックスの固形分100質量部に対して、カリウムイオン量が1.5質量部を超えると、電解質の量が多くなりすぎて、ラテックスの安定性が低下する。
【0024】
よって、本実施形態のポリクロロプレンラテックスでは、カリウムイオン量を、固形分100質量部あたり0.7〜1.5質量部とする。なお、カリウムイオン含有量の好ましい範囲は、固形分100質量部あたり1.0〜1.3質量部であり、これにより、凍結安定剤を添加しなくても、低温安定性に優れたポリクロロプレンラテックスが得られる。
【0025】
ここで、ポリクロロプレンラテックス中のカリウムイオン量は、例えばポリクロロプレンラテックスを硝酸で酸分解し、誘導結合プラズマ発光分光装置(ICP−AES)により測定することができる。また、ポリクロロプレンラテックス中のカリウムイオン量を調整する際は、重合を促進させるために使用する還元剤や緩衝塩の種類を選択すればよい。例えば、ポリクロロプレンラテックスにカリウムイオンを添加するには、還元剤及び緩衝塩として、ピロ亜硫酸カリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウムなどのカリウム塩を使用すればよい。
【0026】
[ナトリウムイオン:固形分100質量部に対して0.2質量部以下]
ポリクロロプレンラテックスの固形分100質量部に対して、ナトリウムイオン量が0.2質量部を超えると、ラテックスの低温安定性が低下する。その結果、凍結安定剤の添加が必要となり、ポリクロロプレンラテックス又はそのゴム組成物の浸漬成形時におけるゴム凝集性が低下する。よって、本実施形態のポリクロロプレンラテックスでは、ナトリウムイオン量を、その固形分100質量部あたり0.2質量部以下に規制する。なお、ポリクロロプレンラテックス中のナトリウムイオン量は、少ないほど好ましく、ナトリウムイオンを含有しないことが最も好ましい。
【0027】
ここで、ポリクロロプレンラテックス中のナトリウムイオン量は、カリウムイオン量と同様に、ポリクロロプレンラテックスを硝酸で酸分解し、誘導結合プラズマ発光分光装置(ICP−AES)により測定することができる。また、ポリクロロプレンラテックス中のナトリウムイオン量を調整するには、重合を促進させるために使用する還元剤や緩衝塩の種類を選択すればよい。
【0028】
[製造方法]
次に、本実施形態のポリクロロプレンラテックスの製造方法について説明する。本実施形態のポリクロロプレンラテックスを製造する際は、先ず、全原料単量体の10〜50質量%の量を仕込んで重合を開始し、単量体の転化率が1〜40%となるまで重合する(第1重合工程)。その後、重合終了転化率に達するまでの間に、重合温度よりも低い温度に冷却した残りの原料単量体を、重合系内に連続的に添加して重合する(第2重合工程)。
【0029】
単量体の重合方法としては、乳化重合、溶液重合、懸濁重合及び塊状重合などを適用することができるが、本実施形態のポリクロロプレンラテックスの製造には、特に乳化重合法が好適である。また、原料単量体を乳化重合する際の乳化剤や分散剤としては、通常のロジン酸のアルカリ金属塩を用いることができるが、ナトリウムイオン量とカリウムイオン量を前述した範囲にするためには、不均化ロジン酸のカリウム塩を使用することが好ましい。
【0030】
また、乳化剤や分散剤は、前述したロジン酸のアルカリ金属塩と、カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル型、リン酸エステル型のものを併用してもよい。これら併用可能な乳化剤、分散剤としては、カルボン酸型のものとしては、例えば、脂肪族モノカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、
N−アシルサルコシン塩、
N−アシルグルタミン酸塩などが挙げられる。
【0031】
スルホン酸型のものとしては、例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル(分岐型)ベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩、
N−メチル−
N−アシルタウリン塩などが挙げられる。硫酸エステル型のものとしては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、アルコールエトキシサルフェート、油脂硫酸エステル塩などが挙げられる。リン酸エステル型のものとしては、例えばアルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩などが挙げられる。
【0032】
更に、その他使用可能な乳化剤や分散剤としては、アルキルアリルスルホン酸、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどがある。
【0033】
本実施形態のポリクロロプレンラテックスの製造方法では、前述した乳化剤や分散剤のうち、アニオン系のものを使用することが好ましく、特に、ポリクロロラテックス中のナトリウムイオン量を低減させる観点から、カリウム
塩を用いることが望ましい。ただし、前述したロジン酸のアルカリ金属塩以外の乳化剤や分散剤は、その使用量が少なく、ポリクロロプレンラテックス中のナトリウムイオン含有量にはそれほど影響しないため、汎用性のあるナトリウム塩を用いてもよい。
【0034】
連鎖移動剤は、特に限定されるものではなく、通常のクロロプレンの乳化重合に使用されるものが使用できる。具体的には、n−ドデシルメルカプタンやtert−ドデシルメルカプタンなどの長鎖アルキルメルカプタン類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィドやジエチルキサントゲンジスルフィドなどのジアルキルキサントゲンジスルフィド類、ヨードホルムなどの公知の連鎖移動剤を使用することができる。
【0035】
重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素又は過酸化ベンゾイルなどの有機過酸化物類を用いることができる。
【0036】
重合温度も、特に限定されるものではないが、クロロプレン共重合体の柔軟性の経時的安定性を保持する観点から、25〜55℃の温度範囲で重合を行うことが好ましく、より好ましくは30〜50℃の範囲である。
【0037】
また、原料単量体の重合転化率は、80〜95%であることが好ましく、より好ましくは85〜95%である。この重合転化率が80%未満である場合は、重合体ラテックスの固形分が低下し、生産性が低下する場合がある。また、重合転化率が95%より大きい場合は、重合時間が長くなって生産性が低下したり、浸漬成形品とした際の機械的強度が低下したり、脆くなる場合がある。
【0038】
原料単量体の重合転化率が100%に達する前に重合を停止する際に添加する重合停止剤は、例えば、チオジフェニルアミン、4−ターシャリーブチルカテコール、2,2−メチレンビス−4−メチル−6−ターシャリーブチルフェノール、ジエチルヒドロキシルアミンなどを用いることができる。
【0039】
本実施形態のポリクロロプレンラテックスの製造方法では、原料単量体の初期添加量を全体量の10〜50質量%として重合を開始し、単量体の転化率が1〜40%の間まで重合が進行した点から重合終了転化率に達するまでの間に、重合温度よりも低い温度に冷却した残りの原料単量体を、重合系内へ連続的に添加する。これにより、重合系内の除熱を効果的に行い、短時間で安定的に重合反応を行うことができる。
【0040】
本実施形態のポリクロロプレンラテックスは、重合後に、コロイド安定性やその他の特性を維持又は向上させるために、pH調整剤、凍結安定剤、乳化安定剤、粘度調整剤、酸化防止剤及び防腐剤などを、本願発明の効果を阻害しない範囲で任意に配合することができる。
【0041】
以上詳述したように、本実施形態のポリクロロプレンラテックスは、その固形分100質量部に対して、カリウムイオンを0.7〜1.5質量部の範囲にすると共に、ナトリウムイオンを0.2質量部以下に規制しているため、浸漬成形品を成形する際のゴム凝集性を良好な状態に維持しつつ、低温安定性を向上させることができる。また、本実施形態のポリクロロプレンラテックスは、ポリクロロプレンが本来有する基本特性を維持しつつ、かつ、成形品は優れた柔軟性を長期間に亘って維持することができる。更に、本実施形態のポリクロロプレンラテックスは、手袋などのゴム製浸漬成形品に使用することができ、特に医療用使い捨て手袋用に好適である。
【0042】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係るゴム組成物について説明する。前述した第1の実施形態のポリクロロプレンラテックスは、そのままでも浸漬成形品の材料をして用いることができるが、各種添加剤を添加して、ゴム組成物とすることもできる。具体的には、本実施形態のゴム組成物は、第1の実施形態のポリクロロプレンラテックス:固形分換算で100質量部に対して、金属酸化物が1〜10質量部、硫黄が0.1〜3質量部、老化防止剤が0.1〜5質量部、界面活性剤が0.1〜10質量部配合されている。
【0043】
[金属酸化物:固形分100質量部に対して1〜10質量部]
金属酸化物は、特に限定されるものではなく、例えば酸化亜鉛、酸化鉛及び四酸化三鉛などを配合することができる。これらは単独で使用してもよいが、必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0044】
これら金属酸化物の配合量は、ポリクロロプレンラテックスの固形分100質量部に対して1〜10質量部である。金属酸化物配合量が、固形分100質量部に対して1質量部未満の場合、架橋が不十分となり、成形品の引張り強度及びモジュラスの基本特性が十分に得られない。また、金属酸化物配合量が、固形分100質量部に対して10質量部を超えると、成形品のモジュラスが高くなり過ぎて、手袋にした際にごわごわとした触感となる傾向がある。
【0045】
[硫黄:固形分100質量部に対して0.1〜3質量部]
硫黄は、加硫を促進させるために配合する。ただし、硫黄配合量が、固形分100質量部に対して0.1質量部未満の場合、加硫促進効果が十分に得られない。また、硫黄配合量が、固形分100質量部に対して3質量部を超えると、加硫が速くなり過ぎて、スコーチしやすくなるため、加硫の管理が困難になったり、加硫後の耐熱性が低下したり、ブリードして外観を損なったりする。そこで、硫黄の配合量は、ポリクロロプレンラテックスの固形分100質量部に対して0.1〜3質量部とする。
【0046】
[老化防止剤:固形分100質量部に対して0.1〜5質量部]
極限の耐熱性が要求される場合、耐熱性付与目的の老化防止剤(耐熱老化防止剤)と耐オゾン性付与目的の老化防止剤(オゾン老化防止剤)を用いることが必要であり、更にこれらを併用することが好ましい。耐熱老化防止剤としては、耐熱性だけでなく、耐汚染性(変色などの移行)も少ないことから、オクチル化ジフェニルアミン、p−(p−トルエン−スルホニルアミド)ジフェニルアミンや4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンなどのジフェニルアミン系が好適である。
【0047】
また、オゾン老化防止剤としては、N,N’−ジフェニル−p−フェニレ
ンジアミン(DPPD)やN−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(IPPD)が好適である。ただし、医療用手袋などのように、外観、特に色調や衛生性を重視される場合には、
ヒンダードフェノール系老化防止剤が好適である
。
【0048】
これら老化防止剤の添加量は、ポリクロロプレンラテックスの固形分100質量部に対して0.1〜5質量部である。老化防止剤の配合量が、固形分100質量部に対して0.1質量部未満の場合、老化防止効果が十分に得られない。また、老化防止剤の配合量が、固形分100質量部に対して5質量部を超えると、加硫を阻害したり、色調が劣化する。
【0049】
[界面活性剤:固形分100質量部に対して0.1〜10質量部]
界面活性剤としては、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物のナトリウム塩やロジン酸石鹸、脂肪酸石鹸などを使用することができる。これら界面活性剤の配合量は、ポリクロロプレンラテックスの固形分100質量部に対して0.1〜10質量部とする。界面活性剤の配合量が、固形分100質量部に対して0.1質量部未満の場合、コロイド安定化が不十分となる。また、界面活性剤の配合量が、固形分100質量部に対して10質量部を超えると、発泡が起きたり、製品外観にピンホールなどの欠陥が発生したりする。
【0050】
なお、前述した各成分のうち、水に不溶であったり、ポリクロロプレンラテックスのコロイド状態を不安定化させるものは、予め水系分散体を調製してからポリクロロプレンラテックスに添加してもよい。
【0051】
更に、本実施形態のゴム組成物には、必要に応じて、前述した各成分に加えて、加硫促進剤、pH調整剤、充填剤、可塑剤、顔料、着色剤、湿潤剤及び消泡剤などの各種添加剤を配合することができる。
【0052】
以上詳述したように、本実施形態のゴム組成物は、前述した第1の実施形態のポリクロロプレンラテックスを使用しているため、低温安定性が優れると共に、浸漬成形品を成形する際のゴム凝集性も優れている。また、本実施形態のゴム組成物は、浸漬成形することで任意の形状に加工することができ、特に医療用使い捨て手袋用に好適である。
【0053】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態の浸漬成形品について説明する。本実施形態の浸漬成形品は、前述した第1の実施形態のクロロプレンラテックス又は第2の実施形態のゴム組成物を浸漬成形したものであり、例えば医療用使い捨て手袋である。
【0054】
本実施形態の浸漬成形品の製造方法は、特に限定されるものではなく、通常の方法で浸漬成形し、加硫すればよい。具体的には、凝集剤をコーティングした成形型を、ポリクロロプレンラテックス又はゴム組成物に浸漬し、凝固させる。そして、浸出により水溶性不純物の除去し、乾燥させた後、加硫して得られたゴム皮膜を離型する。これにより、フィルム状の浸漬成形品が得られる。
【0055】
本実施形態の浸漬成形品の厚さは、ポリクロロプレンラテックス又はゴム組成物に、成形型を浸漬する時間、又は、ポリクロロプレンラテックス又はゴム組成物の固形分濃度によって調整することができる。即ち、浸漬成形品の厚さを薄くしたい場合は、浸漬時間を短縮したり、ポリクロロプレンラテックス又はゴム組成物の固形分濃度を低く調整すればよい。
【0056】
以上詳述したように、本実施形態の浸漬成形品は、前述した第1の実施形態のポリクロロプレンラテックス又は第2の実施形態のゴム組成物を使用しているため、優れた柔軟性が得られ、更に、経時変化による柔軟性の低下も抑制することができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。本実施例においては、以下に示す方法で、実施例及び比較例のポリクロロプレンラテックスを製造し、その性能を評価した。
【0058】
(実施例1)
<ポリクロロプレンラテックス>
内容積10リットルの反応器を用いて、窒素気流下で水:100質量部、不均化ロジン酸カリウム(荒川化学工業社製 ロンヂスK−25):2.5質量部、水酸化カリウム:0.8質量部、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物のナトリウム塩(花王社製 デモールN):0.8質量部、亜硫酸カリウム:0.5質量部を仕込み、溶解後、攪拌しながらクロロプレン90質量部、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン10質量部とn−ドデシルメルカプタン0.14質量部を加えた。
【0059】
そして、過硫酸カリウムを開始剤として使用し、窒素雰囲気下、40℃で重合を行い、重合率が90%に達したところでフェノチアジンの乳濁液を加えて重合を停止した。その後、減圧下で未反応単量体を除去して、ポリクロロプレンラテックスを得た。更に、減圧下で水分を蒸発させ濃縮を行い、ポリクロロプレンラテックスの固形分が60質量%となるように調整した。
【0060】
[アルカリ金属塩量]
ポリクロロプレンラテックス1.0gを、硫硝酸で酸分解し、塩酸酸性にした後、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES:VISTA−PRO)にてアルカリ金属塩を定量した。
【0061】
[2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン含有量]
ポリクロロプレンラテックスを凍結乾燥し、日本分析工業社製の熱分解装置(JPS−330)とアジレント・テクノロジー社製ガスクロマトグラフ(HP5890−II)にて、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンの定量をした。
【0062】
[ゲル含有量]
ポリクロロプレンラテックスを凍結乾燥し、その質量A(g)を測定した。次に、得られた乾燥物を、23℃の温度条件下で20時間かけて、トルエンに溶解し、0.6質量%の濃度に調整した。それを、遠心分離機により固液分離した後、200メッシュの金網を用いてその不溶分を分離した。分離した不溶分を、風乾した後、110℃の雰囲気下で1時間乾燥して、その質量B(g)を測定した。そして、上記数式1からトルエン不溶分量を算出した。
【0063】
[ポリクロロプレンラテックスの低温安定性]
ポリクロロプレンラテックスを5℃の雰囲気下で1週間放置すると共に、また、0℃の雰囲気下で1日放置した後、それぞれのポリクロロプレンラテックスの状態を目視にて確認した。ポリクロロプレンラテックスの状態が変わらなかったものを○、粘度が上昇したものを△、凝固又は凝固物が発生したものを×として示した。
【0064】
[ポリクロロプレンラテックスの凝集性]
飽和水酸化カルシウム水溶液50mlをポリクロロプレンラテックス50g中に滴下した後、20℃で16時間静置した。析出したゴムを110℃で3時間乾燥し、ポリクロロプレンラテックスのゴム凝集率を求めた。
【0065】
[フィルム風合い]
0℃、15
0時間で保管した時の乾燥フィルム硬度の変化量により、フィルムの風合いを評価した。初期硬度からの変化量が50未満を◎、50以上80未満を○、80以上を×とした。
【0066】
<ゴム組成物>
前述した方法により得た固形分60質量%のポリクロロプレンラテックスに、下記表1示す化合物を添加して、ゴム組成物を作製した。その際、老化防止剤には大内新興化学社製のノクラック200を使用した。また、加硫促進剤Aには大内新興化学社製のノクセラーTP(ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム)を、加硫促進剤Bには大内新興化学社製のノクセラーTET(テトラエチルチウラムジスルフィド)を使用した。更に、界面活性剤AにはR.T.Verderbilt Company製のDarvan SMOを使用し、界面活性剤BにはR.T.Verderbilt Company製、Darvan WAQを使用した。
【0067】
【表1】
【0068】
<未加硫フィルム>
ゴム組成物を、下記表2に示す一次凝集剤及び二次凝集剤を用いて浸漬フィルムを作製した。なお、一次凝集剤は、成膜した浸漬成形液の凝固を促進させるものである。その際、浸漬フィルムは、次に示す方法で作製した。外
径40mm、長さ320mmの試験管を、口部が上になるようにして深さ150mmまで一次凝集剤に10秒間浸漬し、3分間風乾した後、ゴム組成物に1分間浸漬させて、試験管の表面に浸漬フィルムを作製した。得られた浸漬フィルムを流水で1分間リーチング(浸出)して水溶性成分を除去した。二次凝集剤に1分間浸漬した後、流水で浸漬フィルム表面の二次凝集剤を除去した。次いで70℃、2時間乾燥して未加硫フィルムを作製した。
【0069】
【表2】
【0070】
[未加硫フィルム成膜性]
未加硫フィルムを試験管から剥離し、目視観察にて成膜状態を確認した。フィルムが十分に形成されているものを○、破れなどが認められるものを×とした。
【0071】
[加硫フィルム物性]
未加硫フィルムを141℃、30分で加硫して加硫フィルムとし、JIS−K6251に記載の方法でダンベル状3号形に打ち抜いて試験片とし、上島製作所製の引張り試験機(Quick Reader mx)を用いて300%伸長時のモジュラス、破断伸び及
び破断強度の測定を行った。
【0072】
(実施例2〜11、比較例1〜6)
下記表3〜5に示す処方で、実施例1と同様の方法により、ポリクロロプレンラテックス、ゴム組成物及びフィルムサンプルを作製し、実施例1と同様に評価を行った。以上の評価結果を表3〜5にまとめて示す。なお、実施例2のポリクロロプレンラテックスは、その製造時に、クロロプレン21質量部、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン9質量部、及びn−ドデシルメルカプタン0.042質量部を加えて重合を開始し、重合率が10%となった時点で、更にクロロプレン63質量部、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン7質量部、及びn−ドデシルメルカプタン0.098質量部を加えて重合して得られたものである。
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
【表5】
【0076】
上記表5に示すように、比較例1は、クロロプレンを単独で重合したポリクロロプレンラテックスを使用しているため、得られた乾燥フィルムの硬度上昇量が大きく、フィルムの風合いが不十分であった。一方、比較例2は、原料単量体中の2,3−ジクロロブタジエン量が30質量%を超えていたポリクロロプレンラテックスを使用しているため、得られた乾燥フィルムの硬度上昇量が大きく、フィルムの風合いが不十分であった。
【0077】
比較例3は、ポリクロロプレンラテックス中のカリウムイオン量が、固形分100質量部に対して0.7質量部未満であるため、ラテックスの低温安定性が不十分であった。具体的には、比較例3のポリクロロプレンラテックスは、5℃の雰囲気下で粘度が上昇し、更に、0℃の雰囲気下で凝固してしまった。一方、比較例4は、ポリクロロプレンラテックス中のカリウムイオン量が、固形分100質量部に対して1.5質量部を超えているため、ラテックスの低温安定性が不十分であった。
【0078】
また、比較例5は、ポリクロロプレンラテックス中のナトリウムイオン量が、固形分100質量部に対して0.2質量部を超えているため、ラテックスの低温安定性が不十分であった。一方、比較例6は、ポリクロロプレンラテックス中のナトリウムイオン量は、固形分100質量部に対して0.2質量部を超えているが、凍結安定剤であるポリオキシエチレンセチルエーテルを添加したため、ラテックスに低温安定性は付与することができた。しかしながら、比較例6のポリクロロプレンラテックスは、凝集性が低下し、ゴム組成物から評価用のフィルムを成膜することができなかった。
【0079】
これに対して、表3及び表4に示すように、本発明の範囲内で作製した実施例1〜11のポリクロロプレンラテックス及びゴム組成物は、いずれの項目においても優れた特性を示した。この結果より、本発明によれば、低温下での安定性及び浸漬成形品を成形する際のゴム凝集性が共に優れたポリクロロプレンラテックスを実現できることが確認された。