【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年3月5日に、大谷昭仁が、電気情報通信学会2013年総合大会講演論文集(DVD−ROM)にて、「超100GHz帯測定器の研究開発の現状と展望」の題目で、高感度ミリ波スペアナの研究開発について公開した。 平成25年3月21日に、大谷昭仁が、岐阜大学で開催された電気情報通信学会2013年総合大会にて、 「超100GHz帯測定器の研究開発の現状と展望」の講演名で、高感度ミリ波スペアナの研究開発について公開した。
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、総務省、電波資源拡大のための研究開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ミリ波帯の所定周波数範囲の電磁波をTE10モードで一端から他端に伝搬させる導波管(22〜27、221A、221B)によって形成される導波路(21、222、223)と、該導波路の内部を塞ぐ状態で互いに間隔を開けて対向配置され、前記所定周波数範囲の電磁波の一部を透過させ、一部を反射させる特性をもつ平面型の一対の電波ハーフミラー(30A、30B、240A、240B)と、該一対の電波ハーフミラーの間の電気長を可変することで、該一対の電波ハーフミラーの間に形成される共振器の共振周波数を前記所定周波数範囲で変化させる共振周波数可変手段(40、52、250)とを有し、前記導波路の一端から入力される信号から前記共振周波数を通過中心周波数とする帯域の信号成分を抽出して他端側から出力するミリ波帯フィルタ(20〜20″、220)と、
前記ミリ波帯フィルタの出力信号に対して、ローカル信号のミキシングによる周波数変換処理を複数段行なって前記所定周波数範囲より低い所定の中間周波数帯に変換して、前記所定周波数範囲に含まれる各周波数成分のレベルを検出するスペクトラム検出部(90)と、
前記ミリ波帯フィルタの前記一対の電波ハーフミラーの間の電気長と共振周波数とを関係付けるデータを予め記憶し、前記所定周波数範囲のうちの所望の観測周波数範囲と周波数分解能が指定されたとき、前記データに基づいて、前記ミリ波帯フィルタの通過中心周波数を該ミリ波帯フィルタの通過帯域幅以下のステップで前記観測周波数範囲をカバーするように変化させるとともに、前記スペクトラム検出部を制御して、前記観測周波数範囲の信号のスペクトラム波形を前記周波数分解能で検出させる制御部(120)とを備え、
さらに、前記スペクトラム検出部の初段の周波数変換処理に用いるローカル信号を生成するローカル信号発生器(103)が、
電気の変調用信号を発生する変調用信号発生器(104)と、
コヒーレント光を出射する光源(105)と、
前記コヒーレント光を受けて分岐し電気光学効果を示す二つの光導波路を伝搬させて合波干渉させて出射する構造を有し、前記二つの光導波路に前記変調用信号による電界が与えられることで、前記入射されたコヒーレント光の周波数(Fc)から高い方へ前記変調用信号の周波数(Fm)の整数(N)倍だけ離間した第1の周波数(Fc+NFm)と、前記入射されたコヒーレント光の周波数より低い方へ前記変調用信号の周波数の前記整数倍だけ離間した第2の周波数(Fc−NFm)とにスペクトラムをもつ干渉光を出射する光変調器(106)と、
前記光変調器からの出射される干渉光から前記入射されたコヒーレント光の周波数成分を除去する光フィルタ(107)と、
前記光フィルタの出射光を受光して、前記第1の周波数と第2の周波数の差の周波数(2NFm)の電気信号を前記ローカル信号として出力する受光器(108)とによって構成されていることを特徴とするミリ波帯スペクトラム解析装置。
前記変調用信号発生器が出力する変調用信号の周波数が固定であって、前記スペクトラム検出部の2段目以降の周波数変換処理に用いるローカル信号を前記観測周波数範囲に応じて掃引制御することを特徴とする請求項1記載のミリ波帯スペクトラム解析装置。
前記変調用信号発生器が出力する変調用信号の周波数が可変でき、前記スペクトラム検出部の初段の周波数変換処理に用いるローカル信号を前記観測周波数範囲に応じて掃引制御することを特徴とする請求項1記載のミリ波帯スペクトラム解析装置。
ミリ波帯の所定周波数範囲の電磁波をTE10モードで一端から他端に伝搬させる導波管(22〜27、221、221A、221B)によって形成される導波路(21、222、223)と、該導波路の内部を塞ぐ状態で互いに間隔を開けて対向配置され、前記所定周波数範囲の電磁波の一部を透過させ、一部を反射させる特性をもつ平面型の一対の電波ハーフミラー(30A、30B、240A、240B)と、該一対の電波ハーフミラーの間の電気長を可変することで、該一対の電波ハーフミラーの間に形成される共振器の共振周波数を前記所定周波数範囲で変化させる共振周波数可変手段(40、52、250)とを有するミリ波帯フィルタ(20〜20″、220)により、前記導波路の一端から入力される信号から前記共振周波数を通過中心周波数とする帯域の信号成分を抽出する段階と、
前記ミリ波帯フィルタの出力信号に対して、ローカル信号のミキシングによる周波数変換処理を複数段行なって前記所定周波数範囲より低い所定の中間周波数帯に変換して、前記所定周波数範囲に含まれる各周波数成分のレベルを検出する段階と、
前記ミリ波帯フィルタの前記一対の電波ハーフミラーの間の電気長と共振周波数とを関係付けるデータを予め記憶し、前記所定周波数範囲のうちの所望の観測周波数範囲と周波数分解能が指定されたとき、前記データに基づいて、前記ミリ波帯フィルタの通過中心周波数を該ミリ波帯フィルタの通過帯域幅以下のステップで前記観測周波数範囲をカバーするように変化させるとともに、前記スペクトラム検出部を制御して、前記観測周波数範囲の信号のスペクトラム波形を前記周波数分解能で検出させる段階とを含み、
さらに、前記周波数変換処理の初段に用いるローカル信号は、
電気光学効果を用いた光変調器にコヒーレント光と電気の変調用信号を与え、前記コヒーレント光の周波数(Fc)から高い方へ前記変調用信号の周波数(Fm)の整数(N)倍だけ離間した第1の周波数(Fc+NFm)と、前記コヒーレント光の周波数より低い方へ前記変調用信号の周波数の前記整数倍だけ離間した第2の周波数(Fc−NFm)とにスペクトラムをもつ干渉光を出射させる段階と、
前記光変調器からの出射される干渉光から前記入射されたコヒーレント光の周波数成分を除去する段階と、
前記コヒーレント光の周波数成分が除去された光を受光器に入射し、前記第1の周波数と第2の周波数の差の周波数(2NFm)の電気信号を前記ローカル信号として出力する段階とにより生成することを特徴としているミリ波帯スペクトラム解析方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ハーモニックミキサを使用したハーモニックミキシング方式は、
図30に示すように、発振器1で例えば40GHz帯の信号Laを発生させて高調波発生器2に入力し、その整数倍、即ち80GHz帯、120GHz帯、160GHz帯、…の高調波Lh2、Lh3、……を発生させてミキサ3に入力し、その所望次数の高調波数LhNで入力信号Sinを、中間周波数帯の信号Sifに変換する方式である(Lh1は40GHzの基本波)。
【0010】
しかしながら、上記のようなハーモニックミキシング方式をフロントエンドに用いたスペクトラムアナライザでは、ミキサ3に対して所望次数のローカル信号以外の多くの高調波成分と、入力信号に含まれる信号成分(ノイズ成分も含まれる)との周波数変換成分がミキサ3の出力側に重畳されて、ノイズフロアのレベルが上昇し、低レベル信号のスペクトラムを認識できなくなってしまう。
【0011】
また、どのような周波数帯に信号成分があるかわからない入力信号のスペクトラムを観測しようとしても、多くの次数の高調波とのヘテロダイン成分(イメージ成分や2次、3次の相互変調成分)が生じてしまい、正しい観測は困難であった。
【0012】
これらの点で、ミリ波帯のうち特に100GHzを越える帯域のスペクトラム解析は、精度の点で十分とは言えなかった。
【0013】
本発明は、この問題を解決し、100GHzを越えるミリ波帯のスペクトラム解析を高精度に行なえるミリ波帯スペクトラム解析装置および解析方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1記載のミリ波帯スペクトラム解析装置は、
ミリ波帯の所定周波数範囲の電磁波をTE10モードで一端から他端に伝搬させる導波管(22〜27、221A、221B)によって形成される導波路(21、222、223)と、該導波路の内部を塞ぐ状態で互いに間隔を開けて対向配置され、前記所定周波数範囲の電磁波の一部を透過させ、一部を反射させる特性をもつ平面型の一対の電波ハーフミラー(30A、30B、240A、240B)と、該一対の電波ハーフミラーの間の電気長を可変することで、該一対の電波ハーフミラーの間に形成される共振器の共振周波数を前記所定周波数範囲で変化させる共振周波数可変手段(40、52、250)とを有し、前記導波路の一端から入力される信号から前記共振周波数を通過中心周波数とする帯域の信号成分を抽出して他端側から出力するミリ波帯フィルタ(20〜20″、220)と、
前記ミリ波帯フィルタの出力信号に対して、ローカル信号のミキシングによる周波数変換処理を複数段行なって前記所定周波数範囲より低い所定の中間周波数帯に変換して、前記所定周波数範囲に含まれる各周波数成分のレベルを検出するスペクトラム検出部(90)と、
前記ミリ波帯フィルタの前記一対の電波ハーフミラーの間の電気長と共振周波数とを関係付けるデータを予め記憶し、前記所定周波数範囲のうちの所望の観測周波数範囲と周波数分解能が指定されたとき、前記データに基づいて、前記ミリ波帯フィルタの通過中心周波数を該ミリ波帯フィルタの通過帯域幅以下のステップで前記観測周波数範囲をカバーするように変化させるとともに、前記スペクトラム検出部を制御して、前記観測周波数範囲の信号のスペクトラム波形を前記周波数分解能で検出させる制御部(120)とを備え、
さらに、前記スペクトラム検出部の初段の周波数変換処理に用いるローカル信号を生成するローカル信号発生器(103)が、
電気の変調用信号を発生する変調用信号発生器(104)と、
コヒーレント光を出射する光源(105)と、
前記コヒーレント光を受けて分岐し電気光学効果を示す二つの光導波路を伝搬させて合波干渉させて出射する構造を有し、前記二つの光導波路に前記変調用信号による電界が与えられることで、前記入射されたコヒーレント光の周波数(Fc)から高い方へ前記変調用信号の周波数(Fm)の整数(N)倍だけ離間した第1の周波数(Fc+NFm)と、前記入射されたコヒーレント光の周波数より低い方へ前記変調用信号の周波数の前記整数倍だけ離間した第2の周波数(Fc−NFm)とにスペクトラムをもつ干渉光を出射する光変調器(106)と、
前記光変調器からの出射される干渉光から前記入射されたコヒーレント光の周波数成分を除去する光フィルタ(107)と、
前記光フィルタの出射光を受光して、前記第1の周波数と第2の周波数の差の周波数(2NFm)の電気信号を前記ローカル信号として出力する受光器(108)とによって構成されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項2のミリ波帯スペクトラム解析装置は、請求項1記載のミリ波帯スペクトラム解析装置において、
前記変調用信号発生器が出力する変調用信号の周波数が固定であって、前記スペクトラム検出部の2段目以降の周波数変換処理に用いるローカル信号を前記観測周波数範囲に応じて掃引制御することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項3のミリ波帯スペクトラム解析装置は、請求項2記載のミリ波帯スペクトラム解析装置において、
前記変調用信号発生器が出力する変調用信号の周波数が可変でき、前記スペクトラム検出部の初段の周波数変換処理に用いるローカル信号を前記観測周波数範囲に応じて掃引制御することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項4のミリ波帯スペクトラム解析方法は、
ミリ波帯の所定周波数範囲の電磁波をTE10モードで一端から他端に伝搬させる導波管(22〜27、221、221A、221B)によって形成される導波路(21、222、223)と、該導波路の内部を塞ぐ状態で互いに間隔を開けて対向配置され、前記所定周波数範囲の電磁波の一部を透過させ、一部を反射させる特性をもつ平面型の一対の電波ハーフミラー(30A、30B、240A、240B)と、該一対の電波ハーフミラーの間の電気長を可変することで、該一対の電波ハーフミラーの間に形成される共振器の共振周波数を前記所定周波数範囲で変化させる共振周波数可変手段(40、52、250)とを有するミリ波帯フィルタ(20〜20″、220)により、前記導波路の一端から入力される信号から前記共振周波数を通過中心周波数とする帯域の信号成分を抽出する段階と、
前記ミリ波帯フィルタの出力信号に対して、ローカル信号のミキシングによる周波数変換処理を複数段行なって前記所定周波数範囲より低い所定の中間周波数帯に変換して、前記所定周波数範囲に含まれる各周波数成分のレベルを検出する段階と、
前記ミリ波帯フィルタの前記一対の電波ハーフミラーの間の電気長と共振周波数とを関係付けるデータを予め記憶し、前記所定周波数範囲のうちの所望の観測周波数範囲と周波数分解能が指定されたとき、前記データに基づいて、前記ミリ波帯フィルタの通過中心周波数を該ミリ波帯フィルタの通過帯域幅以下のステップで前記観測周波数範囲をカバーするように変化させるとともに、前記スペクトラム検出部を制御して、前記観測周波数範囲の信号のスペクトラム波形を前記周波数分解能で検出させる段階とを含み、
さらに、前記周波数変換処理の初段に用いるローカル信号は、
電気光学効果を用いた光変調器にコヒーレント光と電気の変調用信号を与え、前記コヒーレント光の周波数(Fc)から高い方へ前記変調用信号の周波数(Fm)の整数(N)倍だけ離間した第1の周波数(Fc+NFm)と、前記コヒーレント光の周波数より低い方へ前記変調用信号の周波数の前記整数倍だけ離間した第2の周波数(Fc−NFm)とにスペクトラムをもつ干渉光を出射させる段階と、
前記光変調器からの出射される干渉光から前記入射されたコヒーレント光の周波数成分を除去する段階と、
前記コヒーレント光の周波数成分が除去された光を受光器に入射し、前記第1の周波数と第2の周波数の差の周波数(2NFm)の電気信号を前記ローカル信号として出力する段階とにより生成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
このように、本発明では、ミリ波帯の所定周波数範囲に含まれる信号成分のうち、導波路内に1対の電波ハーフミラーを対向配置して共振作用を示すミリ波帯フィルタで選択された信号成分のみがスペクトラム検出部に入力され、複数段の周波数変換処理により所定の中間周波数帯に変換されてそのレベル検出がなされる。
【0019】
上記構造のミリ帯フィルタは、100GHzを越える周波数領域で高い選択特性を有し、電波ハーフミラーの間の電気長の可変によりその通過中心周波数を可変できる。
【0020】
このため、最初のミキシング処理では、ミリ波帯フィルタにより狭帯域に選択された信号成分と単一周波数のローカル信号とのミキシングによる周波数変換処理がなされることになり、周波数変換処理された信号は、入力信号からのもので他のミキシングモードからのもの(イメージ応答や不要な高調波信号の応答)でない信号を得ることができる。
【0021】
したがって、スペクトラムの分布が未知の信号であってもイメージや相互変調等によるスプリアス発生が少ないため、100GHzを越えるミリ波帯で正確なスペクトラム解析が行なえる。
【0022】
また、初段のミキサに大きなレベルの信号と小さなレベルの信号が混在して入力することを防ぐことができるため、ミキサに起因する入力信号の高調波歪みを防止でき、ダイナミックレンジの向上も期待できる。
【0023】
また、スペクトラム検出部の初段の周波数変換処理では、電気光学効果を用いた光変調器にコヒーレント光と電気の変調用信号を与え、そのコヒーレント光の周波数(Fc)から高い方へ変調用信号の周波数(Fm)の整数倍だけ離間した第1の周波数(Fc+NFm)と、コヒーレント光の周波数より低い方へ変調用信号の周波数の整数倍だけ離間した第2の周波数(Fc−NFm)とにスペクトラムをもつ干渉光を出射させ、その干渉光からコヒーレント光の周波数成分を除去して受光器に入射することで、第1の周波数と第2の周波数の差の周波数(2NFm)の電気信号をローカル信号として生成してミキシングに用いているので、電気回路の逓倍方式で生成したローカル信号に比べて不要な次数の逓倍成分が小さく、ローカル信号としての信号純度が高くなる。
【0024】
このため、ローカル信号発生器において不要な次数を抑圧するためのフィルタを省略あるいは簡素化でき、装置を構成する際に小型化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用したミリ波帯スペクトラム解析装置10の構成を示している。
【0027】
このミリ波帯スペクトラム解析装置10は、ミリ波帯フィルタ20、スペクトラム検出部90、制御部120、操作部130、表示器140を有している。
【0028】
ミリ波帯フィルタ20は、ミリ波帯のうちの所定周波数範囲110〜140GHzの電磁波をTE10モードで伝搬させる口径(例えば標準口径2.032mm×1.016mm)の導波管型の導波路21内に、その導波路21を塞ぐようにして対向する電波ハーフミラー30A、30Bを配置して、その間隔d(管内波長λgの1/2に相当)で共振周波数(光速/2dに等しい)が決まる共振器を形成したものであり、入力端子10aから入力されたミリ波帯の信号Sinを、導波路の一端側に受け入れて他端側に伝播させ、間隔dをもって対向する一対の電波ハーフミラー30A、30Bが形成する共振器の共振周波数に等しい通過中心周波数Fcを中心として所定の通過帯域Fwの信号成分を抽出して、他端側から出力する。なお、例えば間隔dを1.5mm、光速を3×10
8mとすれば、共振周波数は、概算で、
3×10
8/(3×10
−3)=10
11Hz=100GHz
となる。
【0029】
このミリ波帯フィルタ20は、電波ハーフミラー間隔dを例えば、1.4mm〜0.9mmの範囲で可変する間隔可変機構(スライド機構)を有しており、その可変機構の駆動源(例えばステッピングモータ)を制御信号で駆動することで、通過中心周波数Fcを所定周波数範囲(例えば110〜140GHz)内で可変できる。このミリ波帯フィルタ20の具体的な構造等に関しては後述する。
【0030】
ミリ波帯フィルタ20の出力信号Saは、スペクトラム検出部90に入力される。
スペクトラム検出部90は、ミリ波帯フィルタの出力信号Saに対して、ローカル信号のミキシングによる周波数変換処理を複数段(この実施例では2段としているが3段以上でもよい)行なって所定周波数範囲(例えば110〜140GHz)より低い所定の中間周波数帯に変換して、所定周波数範囲に含まれる各周波数成分のレベルを検出する。
【0031】
スペクトラム検出部90の初段の周波数変換処理を行なう周波数変換部100は、ミリ波帯フィルタ20の出力信号Saを、周波数固定(例えば105GHz)の第1のローカル信号L1のミキシングにより所定周波数範囲(110〜140GHz)より低い周波数範囲(例えば5〜35GHz)に変換するものであり、アイソレータ101、ミキサ102、ローカル信号発生器103、ローパスフィルタ109により構成される。
【0032】
アイソレータ101は、信号Saをミキサ102に入力するとともに、ミキサ102側からミリ波帯フィルタ20への反射成分を抑圧して、ミリ波帯フィルタ20の共振動作に悪影響が出ないようにしている。
【0033】
ローカル信号発生器103は、周波数固定(105GHz)の第1のローカル信号L1を出力する。この100GHzを越える信号品質の高い第1のローカル信号L1を生成するために、ローカル信号発生器103は、マッハツエンッダ型の光変調器(LN変調器)内で発生する高調波を自己干渉させて、必要な次数の2波を残して受光器に入射することで、余分な低調波を抑圧している。
【0034】
このローカル信号発生器103の変調用信号発生器104は、ミリ波帯より低いまたはミリ波帯下限の周波数(例えば26.25GHz)で低ノイズの変調用信号Smを生成出力し、光源105は、レーザーダイオードで構成され、コヒーレント光Pを光変調器106に入射する。
【0035】
光変調器106は、マッハツェンダー型光強度変調器であり、電気光学効果を示す二つの光導波路106a、106bの光路長と、両者に印加する変調用信号の位相を適切に設定することで、入力したコヒーレント光Pに対して所望次数の側波帯を多く含む光を出射する。
【0036】
例えば、理想的に対称な光変調器であれば、二つの光導波路106a、106bに等振幅で逆相の変調用信号を与えることによって、一方の光導波路106aで位相変調を受けた光Paのスペクトラムが
図2の(a)のように表されるとき、他方の光導波路106bで逆相の位相変調を受けた光Pbのスペクトラムを
図2の(b)のようにできる。
【0037】
ここで
図2の(a)の光Paのスペクトラムには、周波数Fcの0次成分より高い周波数領域で周波数Fmの間隔でプラス側にベクトルをもつ+1次成分、+2次成分、+3次成分、……が現れ、周波数Fcより低い周波数領域では周波数Fmの間隔でベクトル方向がマイナス側とプラス側に交互に変化する−1次成分、−2次成分、−3次成分、……が、各+次数の成分と同じ大きさで現れている。また、
図2の(b)の光Pbのスペクトラムには、周波数Fcの0次成分より低い周波数領域で周波数Fmの間隔でプラス側にベクトルをもつ−1次成分、−2次成分、−3次成分、……が現れ、周波数Fcより高い周波数領域では周波数Fmの間隔でベクトル方向がマイナス側とプラス側に交互に変化する+1次成分、+2次成分、+3次成分、……が、各−次数の成分と同じ大きさで現れる。
【0038】
これは、位相変調された信号のスペクトラムがn次の第1種ベッセル関数を係数にもち、位相0のときには正の次数で符号がすべて正、負の次数で符号が交互に入れ代わり、位相πのときには、正の次数で符号が交互に入れ代わり、負の次数で符号がすべて正となることで説明される。
【0039】
図2の(a)、(b)において、各光導波路106a、106bを通過した光の強度が等しく、位相変調の深さ(変調指数)が等しくなるように調整されていれば、各次数の側波帯の振幅は(a)と(b)とで等しいため、これらの光が光変調器106の中で合波されると、互いに逆相奇数次の側波帯は相殺されて出射されず、
図2の(c)のように偶数次の側波帯だけが出射されることになる。
【0040】
なお、ここでは、偶数次の側波帯成分だけが出射される例を示したが、光導波路106a、106bを通過した光の位相差がπになるような直流電界を少なくとも一方の光導波路に印加すれは、奇数次成分だけを出射させることもできる。
【0041】
このようにして得られた0次成分と±2次成分だけを含む干渉光P′は、バンドリジェクション型の光フィルタ107に入射されて、
図2の(d)のように周波数Fcの0次成分が除去されて±2次成分だけを含む光P″となって受光器108に入射される。
【0042】
受光器108は、一般的に100GHzを越える応答帯域を有しているので、±2次成分の差の周波数(上記数値例では2NFm=105GHz)の電気信号(ビート成分)を出力する。また、±2次以外の成分はほとんど含まれていないので、他の次数の成分に由来する差周波数成分はほとんど現れない。なお、各次数成分の和周波数成分は2Fc付近となり、受光器108は応答しない。
【0043】
このように、電気的な逓倍回路によらずに、上記のような光変調器を用いて4逓倍しているので、最終的に生成された第1のローカル信号L1も低雑音でスプリアスの少ないものとなる。
【0044】
このローカル信号発生方式の周波数変換部100を用いたスペクトラム検出部90にて、被測定物(市販増幅器)の3次相互変調歪(IM3)の測定を行なった際のスペクトラム測定結果を
図3の(a)に示す。また、
図3の(b)には、従来方式であるハーモニックミキサを用いた周波数変換部によるスペクトラム測定結果を示す。
【0045】
図3の(a)の出力スペクトラムのノイズフロアは、
図3の(b)の出力スペクトラムのノイズフロア(−70dBm)に比べて約20dBも低い−90dBmとなっており、
図3の(b)でノイズに埋もれて観測できない歪成分IM3が
図3の(a)で観測され、実施例の方式はハーモニックミキサ方式に対して20dB以上ダイナミックレンジが拡大されていることがわかる。また
図3の(b)にはハーモニックミキサ方式固有のスプリアスSpが多く現れているが、
図3の(a)にはこのようなスプリアスは現れていない。
【0046】
また、
図4に、実施例のコヒーレント干渉型で生成したローカル信号による周波数変換処理と、従来の電気的な4逓倍器(アクティブ型とパッシブ型)で生成したローカル信号による周波数変換処理における低調波歪の測定結果を示している。なお、アクティブ型はトランジスタ等の能動素子を非線形動作させて高調波を発生させる方式であり、パッシブ型はダイオード等の受動素子の非線形領域を用いて高調波を発生させる方式である。
【0047】
図4から明らかなように、本実施例の周波数変換処理を用いた特性Aは、100〜110GHzの範囲で、低調波歪みが−60dB以下となっており、従来方式のアクティブ型の特性B、パッシブ型の特性Cに比べて格段に低調波歪みが低いことがわかる。
【0048】
なお、この初段の周波数変換処理を行なう周波数変換部100では、ミリ波帯フィルタ21の出力信号Saと、第1のローカル信号L1(105GHz)をミキシングしてその和と差の周波数成分を出力するが、そのうち、第1の中間周波数帯である差の周波数成分(5〜35GHz)がローパスフィルタ109で抽出される。ミキサ102の特性が和成分の帯域(215GH以上)に応答しない場合、ローパスフィルタ109を省略しても、差の周波数成分(5〜35GHz)を出力させることができる。
【0049】
この初段の周波数変換処理で得られた信号Sbは、次段の周波数変換処理のためにミキサ111に入力されて、周波数掃引される第2のローカル信号L2により第2の中間周波数帯に変換され、各周波数成分のレベルが検出される。
【0050】
なお、ミキサ111以降の構成は、第1の中間周波数帯(例えば5〜35GHz)の信号のスペクトラム検出が高精度にできるものであれば周波数変換段数を含めて任意であり、この帯域のスペクトラム解析が可能な既存のスペクトラムアナライザを用いることもできる。
【0051】
ここでは最も簡単な例として、初段の周波数変換処理を行なう周波数変換部100以降が、ミキサ111、ローカル信号発生器112、中間周波フィルタ113、レベル検出器114、D/A変換器115、A/D変換器116により構成されているものとする。
【0052】
ミキサ111は、第1の中間周波数帯の信号Sbを、ローカル信号発生器112から出力される第2のローカル信号L2によりミキシングし、その和と差の周波数成分を出力する。ここで、仮に最終(第2)の中間周波数帯を4GHzとし、第2のローカル信号L2の周波数掃引範囲を9〜39GHzとすれば、ミキサ111の出力のうち差の周波数成分を中心周波数4GHzの中間周波フィルタ113で抽出すればよい。なお、実際にはこの4GHzの信号を周波数固定のローカル信号でさらに低い中間周波数帯(数MHz〜数10MHz)に変換して、狭帯域なフィルタを用いて周波数分解能を高くする必要があるが、上記したようにここでは最も単純化した構成で考える。
【0053】
レベル検出器114は中間周波数帯に変換された信号を検波することで、信号レベルを電圧に変換して、A/D変換器116に出力する。
【0054】
一方、ローカル信号発生器112は、YIGを共振子として用いたYTOを発振源とし、D/A変換器115から入力される掃引制御信号の電圧に比例した電流でYTOを駆動して、第2のローカル信号L2の周波数を掃引させる。
【0055】
制御部120は、使用者が操作部130によって設定した観測周波数範囲や周波数分解能に応じて、ミリ波帯フィルタ20の通過中心周波数の可変制御、スペクトラム検出部90のローカル信号(上記構成例では第2のローカル信号)の掃引制御、中間周波数帯の帯域幅(周波数分解能)制御等を行い、観測周波数範囲におけるスペクトラム波形のデータを取得し、その波形データを表示器140に表示させる。
【0056】
ここで、前記したように、ミリ波帯フィルタ20は、導波路内の一対の電波ハーフミラー間隔dを機械的に可変させることで通過中心周波数が変化するが、これを正確な再現性をもって制御するためには、デジタル的なデータで正確に駆動されるステッピングモータを駆動源として用い、そのステッピングモータで変化する電波ハーフミラー間隔とミリ波帯フィルタ21の通過中心周波数と関係を予め求めておく必要がある。
【0057】
例えば、電波ハーフミラー間隔dが機構的制限で決まる最長または最短の状態を基準状態とし、
図5のように、その基準状態から駆動源であるステッピングモータへ与えるパルスの数と通過中心周波数との関係を予め求めておき、これを内部のメモリに記憶しておく。なお、電波ハーフミラー間隔dは共振波長に比例するので、その間隔dがパルス数に比例する機構を用いていれば、フィルタの通過中心周波数はパルス数に反比例する、つまり非直線的に変化することになる。
【0058】
また、上記したようにミラー間隔を機械的に変化させる構造のフィルタでは、制御信号の最小ステップで可変できる間隔が機械的な制限で決まり、スペクトラム検出部90のような周波数分解能(例えば数100Hz)に応じた微小なステップで可変させることは困難であり、30GHz幅の範囲を例えば3000ステップ(平均で1ステップ当り10MHz)程度で可変するのが現実的となる。ただし、フィルタの通過帯域幅はステップ可変幅10MHzより広い(例えば±100MHzのように)ことが条件となる。
【0059】
したがって、例えば110GHz〜140GHzの全範囲を10MHzステップで大まかにスペクトラム解析する場合には、
図6のように、スペクトラム検出部90の第2のローカル信号の周波数FL2を9.0〜39.0GHzまで10MHzステップで周波数掃引させるとともに、そのローカル周波数の掃引に連動させてミリ波帯フィルタ20の通過中心周波数Fcを110.0〜140.0GHzまで10MHzステップで可変させればよい。このようにスペクトラム検出部90のローカル信号の掃引ステップ(この値は周波数分解能に相当する)とほぼ等しいステップでミリ波帯フィルタ20の通過中心周波数を追従させるモードを第1の制御モードとする。
【0060】
また、逆に例えば110GHz〜140GHzの全範囲を1MHzステップで細かくスペクトラム解析する場合には、
図7のように、ミリ波帯フィルタ20の通過中心周波数Fcを例えば下限に近い110.1GHzに固定した状態(通過帯域は110.0〜110.2GHzとなる)で、スペクトラム検出部90の第2のローカル信号の周波数FL2を9.0GHzから9.2GHzまで1MHzステップで200MHz分掃引させて、ミリ波帯フィルタ20を通過した200MHz幅の信号のスペクトラムを取得した後に、ミリ波帯フィルタ20の通過中心周波数Fcを200MHzだけ高く可変させるという処理を150回繰り返すことで、110GHz〜140GHzの全範囲のスペクトラムを取得させる。このように、ミリ波帯フィルタ20の通過中心周波数Fcを固定した状態で、その通過帯域幅(あるいはそれ以下でもよい)のスペクトラム成分をスペクトラム検出部90のローカル信号の掃引により検出してから、ミリ波帯フィルタ20の通過中心周波数Fcをその通過帯域幅に近いステップで可変させるという処理を繰り返して、所望の観測周波数範囲のスペクトラムデータを取得するモードを第2の制御モードとする。
【0061】
このように、制御部120は、観測周波数範囲や要求される周波数分解能に応じて、ミリ波帯フィルタ20の通過中心周波数とスペクトラム検出部90のローカル信号の周波数掃引を、2つのモードで制御することになる。
【0062】
また、制御部120は、上記周波数関係の制御の他に、ミリ波帯フィルタ20、スペクトラム検出部90の周波数特性が全帯域にわたって一定でないことによるレベル偏差を補正するためのレベル補正処理を行なう。
【0063】
スペクトラム検出部90の周波数特性は、前記二つの制御モードによらないので、予めレベルの既知な基準信号を全観測帯域に入力したときに検出されるスペクトラムが正しくなるような補正データを用意しておき、周波数毎にその補正データでレベル補正を行なえばよい。
【0064】
また、ミリ波帯フィルタ20については、前記二つの制御モードに応じて補正に用いるデータを変更する必要がある。即ち、第1の制御モードでは、フィルタの通過中心周波数における損失の偏差だけが問題となるから、前記したレベルが既知の基準信号を用いて、
図6の(b)のように、通過中心周波数毎の損失値Loss1、Loss2……を例えば10MHzステップで求めて記憶しておき、第1の制御モードで掃引される場合に、その損失データを基に補正処理をする。
【0065】
また、第2の制御モードでは、フィルタの通過中心周波数の損失だけでなく、その両側の通過帯域幅分(前記例では±100MHz)の損失特性(即ち、フィルタの通過特性形状)も問題となるので、
図7の(b)のように、通過帯域全体の損失値Loss(1,1)、Loss(1,2)、……を想定される周波数分解能で求めておき、第2の制御モードで掃引される場合には、フィルタの通過中心周波数毎の通過帯域全体の損失データを基に補正処理をする。
【0066】
このような制御を行なうことで、ミリ波帯、特に100GHzを越える領域のミリ波帯の信号に対するスペクトラム解析を行なうことができる。
【0067】
次に、この構成のスペクトラム解析装置10を用いた測定結果について説明する。
図8は、上記数値例でミリ波帯フィルタ20が無い状態のスペクトラム解析装置10に対して、14.25GHzの原信号の周波数を逓倍する逓倍器(高調波発生器)の出力信号(約−20dBm)を入力したときに観測されたスペクトラム波形である。
【0068】
本来であれば、110〜140GHの周波数範囲に存在する14.25GHzの8倍の114GHzのスペクトラム成分Aと、9倍の128.25GHzのスペクトラム成分Bだけが観測されるはずであるが、7逓倍成分(99.75GHz)と第1のローカル信号周波数105GHzの2倍との差の周波数成分C1(110.25GHz)、基本波(14.25GHz)と第1のローカル信号との和の周波数成分C2(119.25GHz)、6逓倍成分(85.5GHz)と第1のローカル信号の2倍との差の周波数成分C3、8逓倍成分の2倍と第1のローカル信号との差の周波数成分C4(123GHz)、8逓倍成分の3倍と第1のローカル信号の2倍との差の周波数成分C5(132GHz)が現れている。
【0069】
この状態から、ミリ波帯フィルタ20を挿入して、前記第2の制御モード(通過中心周波数を300MHzステップで可変)した観測した結果が
図9である。この
図9では、周波数変換部100によって生じていたスプリアス成分(C1〜C5)のレベルがノイズレベルになり、入力信号の周波数成分のうち、110〜140GHz帯に入る8逓倍成分と9逓倍成分のみが観測されており、100GHzを越えるミリ波帯でのスペクトラム解析を正しく行なえることがわかる。
【0070】
なお、
図9の特性は、後述するミリ波帯フィルタ220においてハイパスフィルタを付加して、
図26のように103GHz以下の帯域に対する減衰量を大きくしたものを用いており、このハイパス特性の付加により、基本波から7逓倍波までの周波数成分に起因して発生するスプリアスの抑圧効果を高めている。
【0071】
次に、ミリ波帯フィルタ20の基本構造について説明する。
このミリ波帯フィルタ20は、
図10に示しているように、ミリ波帯の所定周波数範囲(例えば110〜140GHz)の電磁波をTE10モードで伝搬させる内径(例えば内径a×b=2.032mm×1.016mm)の矩形導波管22により形成された所定長の導波路21と、その導波路21の内部を塞ぐ状態で互いに間隔dを開けて対向配置され、TE10モードで伝搬する前記所定周波数範囲の電磁波の一部を透過させ、一部を反射させる特性をもつ平面型の一対の電波ハーフミラー30A、30Bとを有している。なお、
図10の(a)は側面図、
図10の(b)はA−A線断面を示している。
【0072】
図10では、導波路21を形成するための最も単純な構造として、一本の連続した矩形導波管22を採用しているが、後述するように、周波数可変を容易に実現する構造として2本または3本の導波管を連結させた構造で導波路21を形成してもよい。
【0073】
電波ハーフミラー30A、30Bは、
図10の(b)に示しているように、導波路21に内接する矩形の外形をもつ金属板31に、電磁波透過用のスリット32が設けられた構造を有しており、そのスリット32の形状や面積に対応した透過率で電磁波を透過させる。
【0074】
このような基本構造をもつミリ波帯フィルタ20では、互いに対向する一対の電波ハーフミラー30A、30Bの間の電気長(物理長dと内部の誘電率で決まる電気長)を半波長として共振する平面型のファブリペロー共振器が成され、その共振周波数を中心とする周波数成分だけが選択的に通過できる状態となる。
【0075】
しかも、導波路21は、ミリ波帯において極めて低損失の閉鎖型の伝送路としての導波管構造で形成され、進行方向に直交する平面にのみ電界が存在するTE波を用いるから、波面変換などの処理は不要で、共振器で抽出された信号成分のみをTE10モードで極めて低損失に出力させることができる。
【0076】
ここで、
図11の(a)のように電波ハーフミラー30A、30Bの間隔dを間隔可変手段40によって可変できるようにしたり、
図11の(b)のようにミラー間に挿入した誘電体51の誘電率を誘電率可変手段52からの電気信号で可変する、あるいは両者を併用することで、ミラー間の電気長(つまり共振周波数)を自由に可変でき、これによってミリ波帯において極めて損失が少ない可変周波数型のフィルタが実現できる。
【0077】
この基本構造における間隔可変手段40としては種々の構成が考えられるが、上記例のように導波路が一本の連続した導波管で形成されている場合、一方の電波ハーフミラー31を管内の所定位置に固定し、他方の電波ハーフミラー32を管内で摺動させる機構が考えられる。また誘電率可変用の誘電体51としては例えば液晶を用いることができる。
【0078】
次に、周波数可変型のミリ波帯フィルタのより具体的な構造について説明する。
図12は、導波路21を、異径の第1導波管23と第2導波管24によって形成したミリ波帯フィルタ20′を示している。
【0079】
このミリ波帯フィルタ20′の導波路21を形成する第1導波管23は、前記同様に、ミリ波帯の所定周波数範囲(例えば110〜140GHz)の電磁波をTE10モードで伝搬させる内径(例えば内径a×b=2.032mm×1.016mm)の矩形導波管であり、その一端側の開口を塞ぐように一方の電波ハーフミラー30Aが固定されている。
【0080】
また、第2導波管24は、第1導波管23の一端側に外接した状態で第1導波管23と連結され、その内部に他方の電波ハーフミラー30Bが固定されている。
【0081】
このように異径の導波管23、24を連結した構造で、それぞれに電波ハーフミラー30A、30Bを固定した構造であれば、間隔可変手段40により、第1導波管23と第2導波管24とが連結された状態で伸縮するように摺動させることで、一対の電波ハーフミラー30A、30Bの間隔dを可変することができ、共振周波数を自由に設定できる。
【0082】
なお、この構造において、第2導波管24の内径は、第1導波管23の内径に、その肉厚分と摺動の余裕分とを加えたものであるので、TE10モードで伝搬できる周波数範囲が第1導波管23のそれより低い領域にシフトすることになるが、内径(約2mm×1mm)に対して導波管の厚みと摺動余裕分を含めて0.1mm程度にすることで、そのシフト量を小さくすることができる。
【0083】
図13は、導波路21を、同型の第1導波管25および第2導波管26と、それより口径が僅かに大きい第3導波管27によって形成したミリ波帯フィルタ20″を示している。
【0084】
このミリ波帯フィルタ20″の導波路21を形成する第1導波管25および第2導波管26は、前記同様に、ミリ波帯の所定周波数範囲(例えば110〜140GHz)の電磁波をTE10モードで伝搬させる内径(例えば内径a×b=2.032mm×1.016mm)の矩形導波管(WR−08)であり、その一端側の開口を塞ぐように一方の電波ハーフミラー30Aが固定されている。
【0085】
また、第1導波管25と同型の第2導波管26は、その一端側を第1導波管25の一端側に対向させた状態で同軸に配置されており、その一端側開口を塞ぐように他方の電波ハーフミラー30Bが固定されている。
【0086】
第3導波管27は、第1導波管25、第2導波管26に外接する内径を有しており、第1導波管25と第2導波管26の一端側に外接した状態で、両導波管25、26を保持、連結している。ここで、前記導波管24と同様に、第3導波管27の内径は、第1導波管25、第2導波管26の内径にその肉厚分と摺動余裕分とを加えたものであるが、それらを口径に対して微小にすることで、TE10モード(単一モード)で伝搬可能な周波数範囲の低下量を僅少にすることができる。
【0087】
そして、前記同様に、間隔可変手段40により、一方の電波ハーフミラー30Aが固定されている第1導波管25と、他方の電波ハーフミラー30Bが固定されている第2導波管26の少なくとも一方を、第3導波管27に内接保持された状態で摺動させることで、一対の電波ハーフミラー30A、30Bの間隔dを可変することができ、共振周波数を自由に設定できる。
【0088】
また、このミリ波帯フィルタ20″では、導波路21の両端が同口径の導波管25、26で形成されていて、110〜140GHzをTE10モードで伝搬させる標準口径のものを使用することができ、電磁波の入出力回路に対する接続に汎用の導波管がそのまま使用でき、フィルタを含めた回路構築が極めて容易となる。なお、
図12の構造の第2導波管24の他端側に第1導波管23と同径の導波管を装着すれば、このミリ波帯フィルタ20″と同様に他の回路との接続に汎用の導波管が使用できる。
【0089】
次に、上記
図13の構造のミリ波帯フィルタ20″のシミュレーション結果を以下に示す。なおシミュレーションでは簡単のため材質を完全導体とし、導体損が存在しないモデルとしている。
【0090】
また、第1導波管25、第2導波管26は、肉厚0.1mmの標準口径の導波管(内径2.032mm×1.016mm)であり、その先端に固定される電波ハーフミラー30A、30Bは、
図14のように、外形全体が導波管に内接する矩形で、厚さ100μm、幅30μmの短辺方向に延びた金属帯板31aを、幅97μmの縦スリット32aを挟んで長辺方向(横方向)に且つ上下2段に並べ、その間に10μmの横スリット32bを設けたものを用いている。この電波ハーフミラー30A、30Bの透過率S21の周波数特性を
図15に示す。
【0091】
図16は、この電波ハーフミラー30A、30Bの距離dを変化させたときのフィルタ全体の透過率S21の周波数特性を示している。距離d=1.284mm、1.500mm、1.632mmに対応して、共振周波数がそれぞれ135.5GHz、121.5GHz、114.9GHzと変化しているが、各共振特性のピーク値はほぼ0dBで広い周波数範囲にわたって極めて低損失(つまり狭帯域)な特性が得られている。この特性をみると、第3導波管27の口径が標準口径より僅かに大きいことによるフィルタ特性の劣化は極めて少ないと言える。
【0092】
なお、上記シミュレーションで用いたハーフミラーの構造は、本発明を限定するものではなく、スリットの位置、形状などは任意である。
【0093】
また、前記したミリ波帯フィルタ20′、20″では、間隔可変手段40によって導波管をスライド移動させることで電波ハーフミラー30A、30Bの間隔を変化させて共振周波数を変えるようにしていたが、この間隔可変手段40による間隔変化に加えて、ミラー間に配置した誘電体51の誘電率を外部からの電気信号によって変化させる誘電率可変手段52を併用すれば、より細かな共振周波数の可変制御が可能となる。
【0094】
図12の導波管2本構造で第1導波管23を第2導波管24に対して摺動させるためには、その摺動に必要な隙間を設ける必要があるが、この隙間が大きいと電波ハーフミラー間の電磁波が外部に漏れてしまい、フィルタ特性を著しく低下させる。
【0095】
例えば、口径2ミリ×1ミリ程度の導波管の場合、容認されるギャップGは20μm以下となるが、この程度に抑えても電磁波の漏出を完全に防ぐことはできない。
【0096】
この電磁波の漏出が無視できない特性が要求される場合には、
図17に示す構造を採用すればよい。
【0097】
即ち、第2導波管24を、第1導波管23の一端側を摺動に必要な隙間Gのある状態で受け入れる口径を有する第1導波路24aと、第1導波管23の導波路23aと同口径の第2導波路24bとが同心に連続する状態で一体的に形成し、さらに、第1導波管23の外周に隙間Gをもって対向する第1導波路24aの内周壁に、電磁波漏出阻止用の所定深さの溝60を周回形成する。
【0098】
ここで、上記のような溝60が電磁波漏出阻止作用を示すためには、その深さを阻止周波数での管内波長λgの1/4(例えば120GHzであれば0.7mm程度)に設定すればよい。幅は、阻止周波数に関係しないが、例えば0.2mmが望ましい。また、阻止周波数を広帯域にする場合には、深さが異なる複数の溝を所定間隔で形成すればよい。
【0099】
この電磁波漏出作用を確認するためのシミュレーションを行った結果を
図18、
図19に示す。
図18は、a:隙間Gが無い状態(理想状態)、b:隙間G=20μmで、深さ0.7mm、幅0.2mmの溝60を設けた状態、c:隙間G=20μmで溝60を設けない状態のフィルタの中心周波数、挿入損失、3dB帯域幅、Q値の測定結果を示し、
図19は、入力信号の周波数を可変したときの透過特性を示している。
【0100】
これらのシミュレーション結果から、理想状態に対して、隙間G=20μm、溝無しの場合、挿入損失は16.85dB悪化し、帯域幅(選択度)は3.4倍以上悪化し、Q値は29パーセントまで低下していることがわかる。これに対し、理想状態に対して、隙間G=20μmで溝がある場合、挿入損失は1.3dB、帯域幅(選択度)は1.2倍、Q値は81パーセントまでしか低下しておらず、
図19の特性図でみても、理想状態に近い特性が得られており、摺動に必要な隙間Gがあっても溝60による電磁波漏出作用で特性劣化を抑制できることがわかる。
【0101】
なお、上記のように狭い隙間を設けた場合で、第1導波管23を第2導波管24に対して比較的早い速度で相対移動させたとき、一対の電波ハーフミラー30A、30Bの間の空間の体積が増減するが、その中に存在する空気が狭い隙間Gを抜けきらず(空気抵抗が大きい)に必要以上に強い力を加えないと所望速度で移動させることができない。
【0102】
そして、そのような無理な力を加えると内部の圧力が変化し、その圧力によって薄い電波ハーフミラー30A、30Bに歪みが生じ、フィルタの共振周波数が所望値からずれたり、損失が大きくなる等の問題が生じる可能性がある。
【0103】
その圧力変化によるフィルタ特性への影響が無視できない場合には、
図20の(a)の平面図および(b)の断面図に示すように、電波ハーフミラー30A、30Bの間の範囲で、その周りを囲む導波路(この場合、第2導波管24の第1導波路24a)の短辺縁から、その外周まで連続するエアダクト70を設け、電波ハーフミラー30A、30Bの間の空間と外部との間で空気が通りやすくすればよい。
【0104】
ここで、上記のように導波路24aの側縁から外周まで連続するダクトを設けたことによるフィルタ特性へ影響が心配されるが、矩形導波路の長辺側に比べて短辺側の形状変化の影響は少ない(幅をカットオフ波長近傍まで大きくしても特性変化が少ない)ことが知られている。また、図示しないがこのエアダクト70による電磁波漏出が無視できない場合には、前記した電磁波漏出阻止用の所定深さの溝60をエアダクト70の内壁に設けることで抑圧できる。
【0105】
電磁波漏出阻止用の溝は、前記した導波管3本構成のミリ波帯フィルタにも設けることができる。この場合、
図21に示すように、導波路25a、26aが同口径で、第3導波管27の導波路27aに内接するように進入している第1導波管25と第2導波管26のうち、第3導波管27に対して摺動する方の導波管(この例では第1導波管25)の外周に隙間Gをもって対向する第3導波管27の内周壁に電磁波漏出阻止用の所定深さの溝60′を周回するように形成して、一対の電波ハーフミラー30A、30Bの間の電磁波が摺動に必要な隙間Gを介して外部に漏出されることを抑制し、フィルタ特性を高く維持する。ここで、第2導波管26は第3導波管27に固定されていて、第1導波管25に対して一体的に移動するものとする。
【0106】
また、このような導波管3本構成のミリ波帯フィルタにおいても、
図22に示すように、一対の電波ハーフミラー30A、30Bの間の範囲でその周りを囲む第3導波管27の導波路27aの短辺縁から外周まで連続するエアダクト70′を設けることで、摺動に必要な隙間Gを狭くした場合でも、エアダクト70′によって周波数可変時の空気抵抗を減らすことができ、その空気抵抗による電波ハーフミラーの歪み発生を防ぐことができ、摺動に必要以上の力を加えなくても済む。
【0107】
間隔可変手段40の駆動部は、例えば
図23のように、駆動源のステッピングモータ41と、その駆動により回転するネジ体42と、ネジ体42に螺合するネジ穴を有し、可動側の電波ハーフミラーを保持した導波管に一体的に連結されていて、ステッピングモータ41の駆動で所定角度回転するネジ体42により導波管の長さ方向に所定ステップで移動して電波ハーフミラー間隔を変化させる連結部材43とで構成することができる。なお、コイルバネ44は、連結部材43を導波管の長さ方向に引っ張り、ネジ体42とネジ穴の僅かな隙間によるバックラッシュを防止している。
【0108】
上記実施形態では、電波ハーフミラーを保持する導波管を移動させているが、導波路内に電波ハーフミラーを保持する保持体を移動させることができるものであれば、その構造は任意であり、必ずしも導波路を構成する導波管自体をスライドさせる必要はない。
【0109】
また、一般的に共振型のフィルタで阻止帯域減衰量が不足する場合、従来ではフィルタを多段に接続することで対応しているが、このミリ波帯フィルタのように導波管の導波路内に一対の電波ハーフミラーを対向配置した構造のフィルタで、阻止帯域減衰量を大きくするために、これを多段接続すると、フィルタ同士が干渉してしまい、希望特性を得ることが困難となる。
【0110】
次に、この点を改善して所望の通過帯域(110〜140GHz)の両側の阻止帯域減衰量を大きくしたフィルタの構造例について説明する。
図24は、阻止帯域減衰量を大きくしたミリ波帯フィルタ220の基本構造を示している。
【0111】
図24の(a)の側面図に示すように、このミリ波帯フィルタ220は、導波管221と、一対の電波ハーフミラー240A、240Bおよび共振周波数可変機構250(前記実施形態の間隔可変手段40に相当)とを有している。
【0112】
導波管221は、中空の角筒状で、ミリ波帯の所定周波数範囲(例えば110〜140GHz)の電磁波をTE10モードのみで伝搬させる口径(例えば標準口径a×b=2.032mm×1.016mm)をもつ断面長方形の導波路222が、後述するハイパスフィルタ230の部分を除いて一端側から他端側に連続して形成されている。
【0113】
この導波管221には、前記所定周波数範囲の電磁波の一部を透過させ、一部を反射させる特性をもつ一対の電波ハーフミラー240A、240Bが、導波路222内を塞ぐようにして間隔d(例えば1.4mm前後)を開けて対向配置されている。したがって、導波路222は、一端(図で左端)から電波ハーフミラー240Aまでの第1導波路222a、電波ハーフミラー240A、240B間の第2導波路222b、電波ハーフミラー240Bから他端(図で右端)までの第3導波路222cに区画されることになる。
【0114】
一対の電波ハーフミラー240A、240Bは、例えば
図25に示しているように、固定される導波路の口径に対応した大きさの矩形の誘電体基板241と、その表面を覆う金属膜242と、その金属膜242に設けられた電磁波透過用のスリット243とを有し、金属膜242の外周が導波路内壁に接触する状態で固定されていて、スリット243の形状や面積に対応した透過率で電磁波を透過させる。
【0115】
このような基本構造をもつミリ波帯フィルタ220では、一対の電波ハーフミラー240A、240Bにより平面型のファブリペロー共振器が形成され、その共振周波数を中心とする周波数成分だけが選択的に通過できる状態となる。
【0116】
しかも、導波路222は、ミリ波帯において極めて低損失の閉鎖型の伝送路としての導波管構造で形成され、TE10モードのみが伝送する口径とするため、波面変換などの処理は不要で、共振器で抽出された信号成分のみを極めて低損失に出力させることができる。
【0117】
共振周波数可変機構250は、その一対の電波ハーフミラー240A、240Bとその間の第2導波路222bによって形成される共振器の共振周波数を可変させるための機構であり、その可変方式としては、一対の電波ハーフミラー240A、240Bの物理的な間隔dや電気的(例えば誘電体の誘電率可変による)な間隔を可変するものであり、その具体的な構造については後述する。
【0118】
このように、TE10モードを伝送する導波路の内部に平面型の一対の電波ハーフミラー240A、240Bで形成された共振器を設けた構造であるから、平面波を入射するための特別な工夫が必要なくなり、また電波ハーフミラーも平面波を透過させる必要がなく任意の形状をとることができる。
【0119】
また、フィルタ全体としてほぼ密閉型となり、外部空間への放射による損失が少なく、ミリ波帯において、極めて高い選択特性を実現できる。
【0120】
ただし、導波管221の構造が、口径が全長に渡って均一の場合、共振周波数の可変によって得られるフィルタ通過帯域の外側の阻止帯域の減衰量が不足して、フィルタ通過帯域外の高レベルの不要信号を十分に除去することができない。また、前記したように、電波ハーフミラーを複数対設けて多段接続するとフィルタ同士が干渉してしまい、希望特性を得ることが困難となる。
【0121】
これを解消するために、実施形態のミリ波帯フィルタ220では、導波管221の一端側から一方の電波ハーフミラー240Aの間の第1導波路222a内で、フィルタ通過帯域より低域側の阻止帯域でフィルタ通過帯域の下限に近い周波数にカットオフ周波数をもつように第1導波路222aより小さい口径(例えば口径a′×b′=1.415mm×0.708mm)で所定長(例えば15mm)続く導波路223により形成されたハイパスフィルタ230が設けられている。ここで、口径1.415mm×0.708mmの導波路のTE10モードのカットオフ波長は1.415mm×2=2.83mmであり、周波数換算すると約106GHzとなる。
【0122】
なお、口径が異なる二つの導波路222a、223の間は、所定長(例えば5mm)の範囲で口径が連続的に変化するテーパ部231、232を介して接続され、無用な反射の発生を防止している。
【0123】
また、このハイパスフィルタ230の内壁には、深さdpの複数のチョーク溝236が周回形成されていて、この複数のチョーク溝236により、バンドパスフィルタ230の導波路223を通過する電磁波のうち、フィルタ通過帯域より高域側の阻止帯域の成分を減衰させるバンドリジェクションフィルタ235が形成されている。
【0124】
このチョーク溝236は、その深さdpによって決まる波長λg(=4d)の成分を減衰させる作用があり、その深さを変えて複数形成することで、阻止帯域を広帯域化できる。
【0125】
図24では図示が容易となるため5つ記載しているが、実施例では、幅0.2mmで、深さdpが、それぞれ0.36、038、0.40、0.42、0.44、0.46、0.48mmの7つのチョーク溝236を、伝搬方向に0.35mm間隔(溝中心間隔)で設けている。
【0126】
ここで、深さdp=0.48mmの場合の阻止波長は1.92mmで、周波数約156GHz、深さdp=0.36mmの場合の阻止波長は1.44mmで、周波数約208GHzとなるので、上記数値例で、156〜208GHzの帯域成分を減衰させることが可能である。
【0127】
このように、フィルタ通過帯域より低域側の阻止帯域の上限周波数に近いカットオフ周波数をもつハイパスフィルタ230と、そのハイパスフィルタ230の内壁にフィルタ通過帯域より高域側の阻止帯域の成分を減衰させるための複数のチョーク溝236からなるバンドリジェクションフィルタ235を設けたので、複数対の電波ハーフミラーによる多段接続構造を採用することなく、低域側と高域側の阻止帯域の減衰量を大きく増加させることができる。
【0128】
図26は、前記各数値例を用いて、導波管221にハイパスフィルタ230のみを設けた場合の周波数特性(S21)をシミュレーションした結果を示すものであり、上に凸のピークとなっている共振周波数(約124GHz)を中心に例えば±16GHzを周波数可変幅(フィルタ通過帯域)としたとき、それより低域側(約108GHz以下)の阻止帯域の減衰量が−110dB以下になっており、この阻止帯域に存在する高レベルの不要信号を十分に減衰できることがわかる(
図8、
図9の特性参照)。
【0129】
また、
図27は、前記数値例を用いて、導波管221にハイパスフィルタ230とバンドリジェクションフィルタ235を設けた場合の周波数特性(S21)をシミュレーションした結果を示すものであり、ハイパスフィルタ230によってフィルタ通過帯域の低域側(約108GHz以下)の阻止帯域の減衰量が−110dB以下になっているとともに、高域側(約162GHz〜190GHz)の阻止帯域の減衰量も−100dB以下に増えており、これらの阻止帯域に存在する高レベルの不要信号を十分に減衰できることがわかる。
【0130】
なお、上記例は、導波管221の一端と電波ハーフミラー240Aの間の導波路にハイパスフィルタ230とバンドリジェクションフィルタ235を設けていたが、導波管221の他端と電波ハーフミラー240Bの間に設けてもよく、また、一対の電波ハーフミラー240A、240Bの両側に設けてもよい。
【0131】
また、低域側の阻止帯域の減衰量を重点的に増加させたい場合には、バンドリジェクションフィルタ235を省略することも可能である。
【0132】
次に、共振周波数可変のための機構例について説明する。
図28は、電波ハーフミラー240A、240Bの間隔dを機械的に可変することで、共振周波数を可変する構造例を示すものであり、前記導波管221を、導波路が連続し且つ一方が他方に内挿された状態で摺動自在に連結された二つの導波管221A、221Bで構成し、一方の導波管221Aの先端側に一方の電波ハーフミラー240Aを固定して、それを一端側に受け入れる異径構造の他方の導波管221Bの中間部に他方の電波ハーフミラー240Bを固定した構造となっている。
【0133】
この構造の場合、一方の導波管221Aを他方の導波管221Bに対してスライドさせることで、一対の電波ハーフミラー240A、240Bの間隔dが変化して共振周波数が変化することになる(駆動装置は前記した構造例が使用できる)。
【0134】
ただし、電磁波の伝搬方向に一方の導波管が移動するから、フィルタの前後に接続される回路の一方がフィルタに従動してしまう。これを解消するためには外部回路との間に導波管の移動を吸収する緩衝部(例えば
図28の符号260で示した固定導波管)が必要となり、そのために、可動側の導波管(この例では導波管221A)の長さが増すが、その長さが増した部分を利用して、ハイパスフィルタ230およびバンドリジェクションフィルタ235を設けるようにすれば無駄がない。この固定導波管260は、前記した各実施形態に適用できる。
【0135】
以上、スペクトラム解析装置20に用いるミリ波帯フィルタの構造例について説明したが、これは一例で、種々の変形が可能である。例えば、電磁波漏出防止用の溝60やエアダクト70をミリ波帯フィルタ220に採用してもよく、ミリ波帯フィルタ20〜20″にミリ波帯フィルタ220のハイパスフィルタやバンドリジェクションフィルタを設けてもよい。
【0136】
また、上記実施形態では、スペクトラム検出部90の初段の周波数変換処理に用いるローカル信号の周波数を固定として、次段以降の周波数変換処理に用いるローカル信号の周波数を掃引していたが、初段の周波数変換処理に用いたコヒーレント干渉型の逓倍器は、広帯域特性を有しているので変調用信号Smの周波数が可変されても特に回路定数などを変更することなく、所望次数の高品質な逓倍波を生成できる。
【0137】
したがって、
図29に示すように、変調用信号発生器104を周波数掃引制御が可能な構成とし、制御部120からD/A変換器115を介して、変調用信号Smの周波数を、指定された観測周波数範囲に応じて掃引制御するとともに、それに合わせてミリ波帯フィルタ20の通過中心周波数を可変制御することが可能である。
【0138】
この場合、例えば変調用信号Smの周波数を28.5〜36GHzの範囲で掃引し、これをコヒーレント干渉型の逓倍器により4逓倍すると、第1のローカル信号L1は、114〜144GHzの範囲で掃引されるから、入力周波数110〜140GHzの範囲の各周波数成分を4GHzの中間周波数帯に変換することができ、以降の周波数変換処理では、周波数固定のローカル信号によるミキシングでより低い中間周波数帯に変換すればよい。なお、この場合には、ローパスフィルタ109の代わりに通過中心周波数4GHzのバンドパスフィルタ109′を用いる。
【0139】
ここで、周波数固定あるいは掃引制御可能な変調用信号発生器104としては、ミリ波帯より低いかあるいは下限の周波数帯を出力できるものでよい。周波数固定の場合として、水晶発振器、ルビジウム原始発振器、セシウム原始発振器、水銀イオン発振器の出力やその逓倍信号、あるいはその逓倍信号に位相同期したDRO(誘導体共振器発振器)、YTO、極めてQ値が高い空洞共振器や誘電体共振器を用いた周波数弁別器によってDRO等の位相雑音を低減した発振器等が使用できる。
【0140】
また、周波数掃引の場合として、誘電体共振器を発振素子として用いて周波数可変させる形式や、従前のYTOを用いることができる。
【0141】
いずれの方式を用いた場合でも、ミリ波帯フィルタ20の周波数選択性および周波数可変性と、初段周波数変換処理に用いるローカル信号の逓倍を光変調器を用いて行なうことにより、100GHzを越えるミリ波帯領域で、従来のハーモニックミキサを用いたものに比べて、極めて正確なスペクトラム解析が行なえる。