特許第5970423号(P5970423)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5970423
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】足底用パッド
(51)【国際特許分類】
   A43B 7/14 20060101AFI20160804BHJP
   A43B 13/14 20060101ALI20160804BHJP
   A43B 17/02 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   A43B7/14
   A43B13/14
   A43B17/02
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-118404(P2013-118404)
(22)【出願日】2013年6月5日
(65)【公開番号】特開2014-233563(P2014-233563A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2015年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】595128835
【氏名又は名称】川野 哲英
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(72)【発明者】
【氏名】川野 哲英
【審査官】 石井 茂
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−93412(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3025158(JP,U)
【文献】 特開2004−229992(JP,A)
【文献】 特開2014−8298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 1/00−23/30
A43C 1/00−19/00
A43D 1/00−999/00
B29D 35/00−35/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
踵骨に対応する領域に、踵骨の底部に沿うように凹曲面状に形成されて踵骨を収容して保持する踵骨収容凹部と、
踵骨隆起内側突起の前方かつ踵骨載距突起から足の幅方向の内側に対応する領域に、隆起して形成された中央突起部と、
立方骨の後方部分から踵骨の前方部分に対応する領域より足の外側縁側に、隆起して形成された外側突起部と、
舟状骨から距骨に対応する領域より足の内側縁側に、隆起して形成された内側突起部とを有し、
該踵骨収容凹部、該中央突起部、該外側突起部並びに該内側突起部は一体となって形成されていることを特徴とする足底用パッド。
【請求項2】
請求項1に記載の足底用パッドにおいて、
該中央突起部は前記踵骨の前方部分を足の裏面から上方に向かって支持し、
該外側突起部は、その支持力が足の外側縁から内側縁に向かう足の幅方向の成分を含むように、前記踵骨の前方部分及び前記立方骨の後方部分を支持し、
該内側突起部は、その支持力が足の内側縁から外側縁に向かう足の幅方向の成分を含むように、舟状骨の後方部分、距骨、及び踵骨載距突起の前方部分を支持することを特徴とする足底用パッド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の足底用パッドにおいて、
立方骨から第4中足骨の後方部分及び立方骨から第5中足骨の後方部分に対応する領域に隆起して形成されて、立方骨、第4中足骨と立方骨との結合部、並びに第5中足骨と立方骨との結合部を足の裏面から上方に向かって支持する第4の突起部をさらに有することを特徴とする足底用パッド。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の足底用パッドにおいて、
該中央突起部は、足底腱膜の踵骨隆起内側突起への付着部近傍で、足底腱膜を足の裏面から上方に向かって支持することを特徴とする足底用パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、履物の中の内底面に配置して使用する足底用パッドに関し、特に、主に足の後足部及び中足部を支える足底用パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歩行時に足へ加わる衝撃の緩和や捻挫の防止等のために、突起部が形成されたり柔軟な素材で形成されたりした中敷き等を履物の中に挿入して使用することが行われている。なお本出願人はこれまでに例えば特許文献1に示すような踵部底板や特許文献2に示すような足底パッドを提案してきた。
【0003】
まず、人間の足部の構造及び歩行のメカニズムについて簡単に説明する。図1は、人間の右足を底面(足の裏面)側から観察した場合の骨の構造を示すモデル図である。
図1に示すように人間の足部は、踵骨と、踵骨の上方にある距骨からなる後足部、距骨の前方にある舟状骨、踵骨の前方にある立方骨、及び舟状骨の前方にある第1〜3楔状骨からなる中足部、中足部の前方にある第1〜5中足骨及び第1〜5中足骨の前方にある趾骨からなる前足部から構成される。
【0004】
そして人間の歩行は、足が接地している立脚期と足が地面から離れている遊脚期に分かれている。このうち立脚期は図2に示すように、足部が踵から地面に着地する踵接地期、足部の底面全体が接地する足底接地期、接地した足部に体重が最もかかる立脚中期、踵が地面から離れる踵離れ期、そしてつま先が地面から離れるつま先離れ期とに分けられる。
【0005】
また歩行時の荷重は、足部のうち地面と接している面にかかる。図1に骨部と重ねて描かれている足型は、歩行時に地面と接して荷重を支持する面である足圧痕を示した図である。この足圧痕が示す通り、歩行時には後足部及び前足部はそのほとんどが接地して荷重を支えることになるが、中足部はその半分程度の領域しか接地せず、ゆえに後足部及び前足部に比べてほとんど荷重を支持することがない。
【0006】
一方上記構成からなる人間の足部には自然な弯曲(アーチ)があり、このアーチには舟状骨を中心とする内側縦アーチ(いわゆる土踏まず)、立方骨を中心とする外側縦アーチ、足部を幅方向に横断する横アーチがあり、荷重に対する安定性を高めて足部の剛性を調整するための機構として機能する。即ち歩行時には、足部への荷重に対してこれらのアーチ構造がつぶれる方向に変形して足部底面の接地面積を大きくすると同時に荷重を吸収して足部への衝撃を緩和している。なお、これらのアーチのうち内側縦アーチが最も大きく、通常は歩行時においてもほとんど接地することはない。それゆえ図1の足圧痕が示すように舟状骨周辺はほとんど接地しない。
【0007】
アーチの衝撃を緩和する機能が元々弱かったり、強い負荷によって低下したりすると、アーチが衝撃を緩和する機能を十分に発揮できず足部に過度の負担がかかり、その結果偏平足等の変形疾患を生じたり、自然な歩行が妨げられてしまう。そのため従来はアーチの上記機能が低下することを防止するために、あるいはアーチの上記機能を補助するために、例えば特許文献3や4に示すような、内側縦アーチ、外側縦アーチ、及び横アーチを持ち上げるような凸部を形成した履物用中敷き等を用いることが主流であった。特に、アーチの機能が最も要求される、足部に最も荷重がかかる立脚中期に着目することが主流であった。
【0008】
一方本出願人は、足部が地面に接地する踵接地期から立脚中期にかけて以下のような問題が発生することを見出した。
即ち、踵接地期から足底接地期にかけては足部にかかる荷重は後足部から中足部へと向かって移動していく。この過程において、後足部の大部分を占める踵骨、及び中足部の大部分を占める立方骨並びに舟状骨は、地面から受ける抗力によって前後左右にぶれてしまう。
【0009】
例えば踵骨については、踵接地期では主に踵の後方部分が地面と接地しているため、踵骨には地面から前方方向(踵からつま先に向かう向き)の抗力が加わり、踵骨が前方に滑るように動いてしまう。また足底接地期から立脚中期にかけては、踵骨の後方部分よりも前方部分に多くの荷重がかかり、踵骨には地面から後方方向(つま先から踵に向かう向き)の抗力が加わり、踵骨が後方に滑るように動いてしまう。しかも、踵骨の底部は丸みを帯びているため、上記の滑る動きに加えて、踵骨底部の丸みに沿って転がるような動きも発生して、さらに不安定になってしまう。
【0010】
踵骨、立方骨及び舟状骨が不安定であると、足部にかかる荷重の移動が左右方向にぶれながら前方方向に移動することになり、自然な歩行が妨げられる。特に踵骨には多くの腱や筋等が付着しており、踵骨が不安定に動くと踵骨に付着している腱等に過大な負荷がかかり、炎症等を引き起こす原因となる。また立方骨及び舟状骨が不安定であると、歩行時の荷重移動が左右方向にぶれることにより側方安定性が損なわれて捻挫や転倒のおそれが増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】登録実用新案第3021673号公報
【特許文献2】登録実用新案第3056154号公報
【特許文献3】特開2007−175332号公報
【特許文献4】特開2005−13682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、上記の問題を解決し、歩行の際に踵骨、立方骨及び舟状骨が前後左右に動かないように安定的に保持可能であり、足部への衝撃を緩和して、捻挫等を予防できる足底用パッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を有している。
(1)踵骨に対応する領域に、踵骨の底部に沿うように凹曲面状に形成されて踵骨を収容して保持する踵骨収容凹部と、踵骨隆起内側突起の前方かつ踵骨載距突起から足の幅方向の内側に対応する領域に、隆起して形成された中央突起部と、立方骨の後方部分から踵骨の前方部分に対応する領域より足の外側縁側に、隆起して形成された外側突起部と、舟状骨から距骨に対応する領域より足の内側縁側に、隆起して形成された内側突起部とを有し、該踵骨収容凹部、該中央突起部、該外側突起部並びに該内側突起部は一体となって形成されていることを特徴とする足底用パッドである。
【0014】
なお本発明における「対応する領域」について、例えば「踵骨に対応する領域」とは本発明の足底用パッドの使用時、即ち足底用パッドを履物内に配置して足部を履きいれた場合に、踵骨の大部分が接する領域のことである。
【0015】
(2) 上記(1)に記載の足底用パッドにおいて、該中央突起部は前記踵骨の前方部分を足の裏面から上方に向かって支持し、該外側突起部は、その支持力が足の外側縁から内側縁に向かう足の幅方向の成分を含むように、前記踵骨の前方部分及び前記立方骨の後方部分を支持し、該内側突起部は、その支持力が足の内側縁から外側縁に向かう足の幅方向の成分を含むように、舟状骨の後方部分、距骨、及び踵骨載距突起の前方部分を支持することを特徴とする。
【0016】
(3) 上記(1)又は(2)に記載の足底用パッドにおいて、立方骨から第4中足骨の後方部分及び立方骨から第5中足骨の後方部分に対応する領域に隆起して形成されて、立方骨、第4中足骨と立方骨との結合部、並びに第5中足骨と立方骨との結合部を足の裏面から上方に向かって支持する第4の突起部をさらに有することを特徴とする。
【0017】
(4) 上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の足底用パッドにおいて、該中央突起部は、足底腱膜の踵骨隆起内側突起への付着部近傍で、足底腱膜を足の裏面から上方に向かって支持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、踵骨に対応する領域に、踵骨の底部に沿うように凹曲面状に形成されて踵骨を収容して保持する踵骨収容凹部と、踵骨隆起内側突起の前方かつ踵骨載距突起から足の幅方向の内側に対応する領域に、隆起して形成された中央突起部と、立方骨の後方部分から踵骨の前方部分に対応する領域より足の外側縁側に、隆起して形成された外側突起部と、舟状骨から距骨に対応する領域より足の内側縁側に、隆起して形成された内側突起部とを有し、該踵骨収容凹部、該中央突起部、該外側突起部並びに該内側突起部は一体となって形成されているため、踵骨収容凹部及び、中央突起部、外側突起部並びに内側突起部の3つの突起部の協働によって踵骨、立方骨及び舟状骨が前後左右に移動することを防止するとともに、歩行時における中足部の接地面積を増加させて、特に踵接地期から立脚中期にかけての安定性を高めることができる。
【0019】
また、中央突起部は踵骨の前方部分を足の裏面から上方に向かって支持し、外側突起部は、その支持力が足の外側縁から内側縁に向かう足の幅方向の成分を含むように、前記踵骨の前方部分及び前記立方骨の後方部分を支持し、内側突起部は、その支持力が足の内側縁から外側縁に向かう足の幅方向の成分を含むように、舟状骨の後方部分、距骨、及び踵骨載距突起の前方部分を支持するため、以下のような効果を奏する。即ち、中央突起部が、踵骨収容凹部に収容された状態の踵骨を足の裏面から上方に向かって支持するため、踵骨が特に前後方向に動くことを防止できる。そして外側突起部及び内側突起部の支持力は、それぞれ足の外側縁から内側縁に向かう足の幅方向の成分及び足の内側縁から外側縁に向かう足の幅方向の成分を含むため、踵骨、立方骨及び舟状骨は足の幅方向で内側に向かう支持力を付与されることになる。このため、足が外側あるいは内側に倒れ込むことを防止して、歩行時の側方安定性が増加する。結果として、踵骨収容凹部及び3つの突起部が協働して、踵骨、立方骨及び舟状骨が前後左右に移動しないように支持して踵接地期から立脚中期にかけての後足部から中足部への自然で円滑な荷重移動を実現できる。
【0020】
また、立方骨から第4中足骨の後方部分及び立方骨から第5中足骨の後方部分に対応する領域に隆起して形成されて、立方骨、第4中足骨と立方骨との結合部、並びに第5中足骨と立方骨との結合部を足の裏面から上方に向かって支持する第4の突起部をさらに有するため、歩行時に第4指及び第5指が落ち込むことを防止することができる。このため、歩行時に足が外側に倒れ込むことをより抑制して自然な歩行を補助することができ、捻挫や転倒等も防止できる。
【0021】
また、中央突起部は、足底腱膜の踵骨隆起内側突起への付着部近傍で、足底腱膜を足の裏面から上方に向かって支持するため、足底腱膜の、踵骨隆起内側突起への付着部付近に加わる張力を分散させて足底腱膜の緊張を緩和することができ、その結果足底腱膜の炎症等を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】人間の足部の骨構造を示すモデル図であり、右足を足の裏側から見た図である。
図2】人間の歩行の周期を説明する図である。
図3】本発明の足底用パッドの一実施例を、足部の骨構造と共に示す図である。
図4】本発明の足底用パッドの一実施例の凹凸構造を示す図である。
図5図3の足底用パッドの凹凸部分による立脚中期での支持力の方向を示す図である。
図6図3の足底用パッドの応用例を示す図である。
図7】本発明の足底用パッドで、第4の突起部を備えた実施例を示す図である。
図8図3の足底用パッドと、足底腱膜との対応関係を示す図である。
図9】平地を歩行した際の下腿前傾角度の変化を示すグラフである。
図10】上り坂を歩行した際の下腿前傾角度の変化を示すグラフである。
図11】下り坂を歩行した際の下腿前傾角度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る足底用パッドについて好適例を用いて詳細に説明する。
本発明に係る足底用パッドは、図3に示すように、踵骨に対応する領域に、踵骨の底部に沿うように凹曲面状に形成されて踵骨を収容して保持する踵骨収容凹部と、踵骨隆起内側突起の前方かつ踵骨載距突起から足の幅方向の内側に対応する領域に、隆起して形成された中央突起部と、立方骨の後方部分から踵骨の前方部分に対応する領域より足の外側縁側に、隆起して形成された外側突起部と、舟状骨から距骨に対応する領域より足の内側縁側に、隆起して形成された内側突起部とを有し、該踵骨収容凹部、該中央突起部、該外側突起部並びに該内側突起部は一体となって形成されていることを特徴とする。
なお、図3は右足を足の裏側から観察した場合の図であるが、左足についても左右反転すれば同様であるので、以下では右足についてのみ説明する。図3で示した網掛け部分は、踵骨収容凹部、中央突起部、外側突起部、及び内側突起部の各部分における最も突出している部分を示したものである。そして各部分に示された細い実線は、高さ変化を示す等高線の一部を示したものである。
【0024】
上記構成を有する本発明の足底用パッドは、踵骨収容凹部、中央突起部、外側突起部、及び内側突起部が一体となって形成されている。そしてこれらによって形成される凹凸構造によって、靴等の履物内に挿入して使用したときに踵骨等が保持・支持されて、歩行時の自然で円滑な荷重移動が補助される点に最大の特徴がある。なお、足底用パッドに描かれている曲線は、同じ厚さを有する部分を結んだ曲線であり、その凹凸構造は図4に示すようになっている。
【0025】
図4は、本発明の足底用パッドの平面図(図4の左上部の図面。細い実線は等高線を示している。)、及び足底用パッドの凹凸分布を示す、幅方向及び足前後の長さ方向における断面図である。図4の左上には本発明の足底用パッドの平面図が描画されており、幅方向、長さ方向、厚さ方向のそれぞれに対してX軸、Y軸、Z軸を設定している。そして、図4の右上部には、足底用パッドから右方向に延びる各矢印に対応する位置における幅方向の凹凸分布を示す断面図が描かれている。そして図4の左下部には、足底用パッドから下方向に延びる各矢印に対応する位置における長さ方向の凹凸分布を示す断面図が描かれている。なお、右上の断面図におけるX軸及び左下の断面図におけるY軸は左上の平面図におけるX軸及びY軸と対応しており、各断面図の端部を結ぶと左上平面図の輪郭と一致するようになっている。符号で示す部分や点線で囲む領域は、それぞれ、踵骨収容凹部a、中央突起部b、外側突起部c、内側突起部dを示している。以下では、本発明の足底用パッドに形成された凹凸部について詳述する。
【0026】
本発明の足底用パッドは、踵骨に対応する領域に踵骨収容凹部が形成されている。踵骨収容凹部は、踵骨の底部の丸みに沿うように凹曲面状に形成されており、従って踵骨は踵骨収容凹部に保持されるような状態で収容されることになる。しかも踵骨の周りに存在する脂肪体は柔軟性を有しているため、踵骨が踵骨収容凹部に収容された状態で足部に荷重がかかると、踵骨と踵骨収容凹部との間の密着性を高める働きをする。この踵骨収容凹部により、踵骨の後方部分に荷重がかかる踵接地期から足底接地期にかけては、履物の中で踵骨が前方に移動するのを防止できる。そして踵骨の前方部分に荷重がかかる足底接地期からつま先離れ期にかけては、履物の中で踵骨が後方に移動するのを防止できる。
【0027】
踵骨収容凹部は図4に示すように側縁部から中心にかけて厚さがなだらかに減少していく構造であり、中心が最も厚さの薄い部分になっている。そして中心は、踵骨隆起内側突起近傍に対応する領域になるようにする。踵骨隆起内側突起は踵骨の後方部分内側の大きな骨塊であり、立脚中期にはこの部分で重心を支えることになるからである。
【0028】
このように踵骨収容凹部によって踵骨が滑るように移動することを防止できるものの、踵骨収容凹部は踵骨の底部に沿うように凹曲面状に形成されているため、この曲面に沿って転がるようにして移動する恐れがある。
【0029】
そこで本発明においては、踵骨収容凹部に加えて、踵骨収容凹部の前方、具体的には踵骨隆起内側突起の前方かつ踵骨載距突起から足の幅方向の内側に対応する領域に、踵骨の前方部分を支持するための中央突起部を形成する。この中央突起部が、踵骨収容凹部の曲面に沿って転がるように移動しようとする踵骨に対して支持力を与えることによってストッパーの役割を果たし、踵接地期から立脚中期にかけての踵骨の前後方向の移動をほとんど完全に抑制することができる。
【0030】
特に、中央突起部が踵骨を支持する支持力が作用する方向(図5の黒矢印参照)が、踵骨収容凹部の中心と母趾球に対応する位置(第1中足骨頭)とを結ぶ直線と略平行であることが好ましい。これにより、歩行時の重心が踵骨収容凹部の中心から母趾球に向けて自然かつ円滑に移動させることができるようになる。
【0031】
本発明に係る足底用パッドは、上記の踵骨収容凹部及び中央突起部に加えて、図3に示すようにさらに立方骨の後方部分から踵骨の前方部分に対応する領域より足の外側縁側に、隆起して形成された外側突起部と、舟状骨から距骨に対応する領域より足の内側縁側に、隆起して形成された内側突起部と、が形成されていることも特徴である。外側突起部及び内側突起部は、歩行時の側方安定性を増加させ、荷重の更なる自然で円滑な移動に寄与する。
【0032】
本実施例における外側突起部は、図4に示すように足底用パッドの外側縁上の一部分を最も厚さの大きい頂点としてなだらかに隆起して形成されている。そして図3に示すように、その傾斜面は立方骨の後方部分から踵骨の前方部分に対応する領域にかかるようになっている。また内側突起部は、図4に示すように足底用パッドの内側縁上の一部分を最も厚さの大きい頂点としてなだらかに隆起して形成されている。そして図3に示すように、その傾斜面は舟状骨から距骨に対応する領域にかかるようになっている。
【0033】
即ち、外側突起部及び内側突起部の隆起部分によって足底用パッドの中足部に対応する領域の厚さは厚くなり、これにより足底用パッドの使用時に中足部の接地面積が増加して、安定性が増加する。しかもこの隆起部分の傾斜面により、外側突起部が踵骨の前方部分及び立方骨の後方部分を支持する支持力は足の外側縁から内側縁に向かう方向(図5の白矢印参照)となり、また、内側突起部が舟状骨の後方部分、距骨、及び踵骨載距突起の前方部分を支持する支持力は足の内側縁から外側縁に向かう方向(図5の白矢印参照)となる。この2つの支持力により、歩行時に足の内反及び外反を防止して、捻挫や転倒を予防できる。従って、歩行時の側方安定性が高まることになる。
【0034】
また、図5に示すように、外側突起部及び内側突起部の与える支持力の方向が、それぞれ立方骨から母趾球に向かう方向及び舟状骨から母趾球に向かう方向である場合には、中足部にかかる荷重を、母趾球方向に移動させるように補助するため、荷重が左右にぶれずに円滑に移動させることが可能になる。従って踵骨収容凹部及び中央突起部の、歩行時の荷重を踵骨収容凹部中心から母趾球へと移動させる機能と相まって、歩行時の荷重の移動をより自然で円滑なものにすることができる。
【0035】
上記した踵骨収容凹部、中央突起部、外側突起部及び内側突起部を形成する際には、これらの協働によって踵骨等を安定的に保持可能であり、荷重を円滑に移動させることができるような配置・凹凸構造で形成し、その具体的な配置・凹凸構造は本実施例のものに限られない。しかし、例えば突起部の厚さが薄すぎると踵骨等に対する支持力を十分に発揮できず、また厚すぎると逆に使用者に違和感を生じさせてしまうという点に注意が必要である。また、本発明の足底用パッドは、履物の中に挿入して使用するソールだけでなく、予め履物の内底面に上記した凹凸部分を形成するものも包含している。
【0036】
なお、従来は内側縦アーチの機能を補助するために内側縦アーチの頂点である舟状骨の真下から支えることが多く行われてきたが、本発明においては特に踵接地期から立脚中期にかけての踵骨、立方骨及び舟状骨の安定及び荷重の自然かつ円滑な移動を重視している。従って内側縦アーチの機能を補助するために、内側突起部の頂点は、踵接地期に足部が地面と接する位置である、舟状骨から距骨に対応する領域中の、脛骨の長軸上に対応する場所に設定することが好ましい。
【0037】
本発明の足底用パッドは、上記で説明した踵骨収容凹部と3つの突起部とが一体となって形成されている。本実施例においては図3に示すように、外側突起部の前方部分、中央突起部の前方部分、内側突起部の前方部分近傍を滑らかに結ぶ曲線状の切込みを有している。当然、履物の内底面全体に渡って配置されるソールとして構成する場合には、当該切り込みは形成されない。
【0038】
このような切込みを有していることにより足底用パッドは、前足部に対応する部分を殆ど有さないことになる。これにより、前足部に対応する部分を有する場合と比べ、外側突起部及び内側突起部を介した中足部と地面との接地面積が増加して、踵接地期から立脚中期にかけての安定性が増加する。なお、本発明の足底用パッドは、中足部から前足部に対応する部分に何らかの凹凸を形成することを、必ずしも排除するものではない。
【0039】
さらに切込み部分についても、後足部から前足部に向かう方向に向けて厚さが減少していくような傾斜を形成することによって、足底パッド全体として前方に向かうなだらかな下り坂を形成することになり、後足部から前足部への荷重の移動をより自然かつ円滑にすることができる。
【0040】
本実施例の足底用パッドは、図3に示すように中央突起部の前方は短くなっているが、図6に示すように、中央突起部の前方の長さ(矢印A参照)を長くして、より緩やかな傾斜面とすることもできる。このような構成により、中足部の接地面積をより大きくして、中足部がより安定して荷重を支えることが可能になる。
【0041】
図7は、本発明の他の実施例に係る足底用パッドを説明する図である。図6に示す足底用パッドは、既に説明した本発明の足底用パッドが備える踵骨収容凹部及び3つの突起部(中央突起部、外側突起部及び内側突起部)に加えて、立方骨から第4中足骨の後方部分及び立方骨から第5中足骨の後方部分にかかるように隆起して形成された第4の突起部を備えている。
【0042】
足の第4指及び第5指は、舟状骨を介して距骨と結合している第1〜3指と異なって、立方骨を介して踵骨と結合している。距骨は踵骨の踵骨載距突起上に存在するため踵骨より高い位置にあり、従って第4指及び第5指は第1〜3指より低い位置で支えられていることになる。このため第4指及び第5指は第1〜3指と比べて歩行時に落ち込みやすく、特に外側縦アーチの機能が低下しているときや急に振り返った時などは転倒してしまう恐れがある。
【0043】
そこで本実施例においては上記のように第4の突起部を設け、立方骨、第4中足骨と立方骨との結合部、及び第5中足骨と立方骨との結合部を足の裏面から上方に向かって、即ち下方から支持することで、足の外側の安定性を強化し、転倒や捻挫を防止することが可能になる。
【0044】
第4の突起部の位置・形状は、他の3つの突起部と同様に、骨を支持する機能を確保しながら、使用者に違和感を生じさせないような範囲で設定する。例えば本実施例においては幅方向には第4中足骨又は第5中足骨の太さと同程度、長さ方向には立方骨の長さ方向と同程度で、立方骨を長さ方向にほとんど覆うような位置に形成している。
【0045】
図8は、本発明の足底用パッドと、足底腱膜との位置関係を示す図である。
足の裏には、足底腱膜と呼ばれる腱組織が踵から指の付け根に至って、具体的には踵骨隆起内側突起から第1〜5中足骨の骨頭まで存在し、縦アーチ、特に内側縦アーチを支える役割を果たしている。
【0046】
足底腱膜は筋より大きい抵抗力を有しており、平時は常に張力がかかって緊張した状態である。この足底腱膜の緊張によって、内側縦アーチの足部への衝撃を緩和する機能がもたらされている。足底腱膜は疲労することがなく、抵抗力の大きさは不変であるが内側縦アーチに長時間、或いは長期間強い負荷がかかったり、踵骨の不安定な挙動が続いたりすると特に踵骨隆起内側突起への付着部近傍で炎症を起こしてしまう。
【0047】
この足底腱膜の炎症を予防するためには、従来は例えば足裏のストレッチ等が有効であると考えられてきた。しかし本発明者らは、中央突起部の形成位置を、図8に示すように足底腱膜の踵骨隆起内側突起への付着部近傍として、足底腱膜を足の裏から上方に向かって、即ち下方から支持することで、足底腱膜の炎症を予防できることを見出した。
【0048】
即ち、踵骨隆起内側突起への付着部近傍で中央突起部により足底腱膜を支持することで、当該支持点において足底腱膜に加わる張力を分散させることができ、踵骨隆起内側突起への付着部近傍の足底腱膜に集中することを防止して足底腱膜の緊張を緩和させて炎症の発生を予防することができるようになる。
【0049】
以上説明した本発明の足底用パッドは、柔軟で弾力性を有する材料を用いて形成した平板を、顧客の足部の大きさに合わせて切り出し、またその形状や疾患に合わせて平板を削り、凹凸を形成して作成する。このような材料としては例えばシリコンゴム等の合成ゴム、ウレタン樹脂、EVA(エチレン酢酸ビニルコポリマー)、ポリエチレン、もしくは塩化ビニール等の合成樹脂からなるクッション材を用いることができる。またこれらのクッション材以外にも、不織布、フェルト、織布、もしくは編布等の繊維素材を用いることもできる。さらに上記の材料を組み合わせて用い、例えば異なる材料を複数積層して形成することも可能である。
【0050】
以下では、本発明の足底用パッドの効果について実験結果を示しながら説明する。
本発明の足底用パッドの特性を評価するために、裸足の状態、本出願人が特許文献1で示した踵部底板(商品名:ロータリーヒールウェッジ)を装着した状態及び本発明の足底用パッド(図3及び4で説明したもの)を装着した状態で平地、上り坂及び下り坂を歩行し、その際の下腿前傾角度の変化を、フットビュー(ニッタ株式会社製)を用いて測定した。
【0051】
ここで下腿前傾角度とは、足の脛部と足部とのなす角度のことであり、その値が正である時は背屈(足の脛と足の甲が近づく方向に曲がった状態)であり、その値が負であれば底屈(足の脛と足の甲が離れる方向に曲がった状態)である。即ち下腿前傾角度の絶対値が大きい程足首が大きく曲がった状態である。
【0052】
図9乃至11はそれぞれ平地(図9)、上り坂(図10)、下り坂(図11)を歩行した際の、踵接地期からつま先離れ期までの1周期分における下腿前傾角度の変化を示すグラフである。図9の平地歩行では、本発明の足底用パッドを装着した状態が、踵接地期における底屈運動が最も小さく、また立脚中期にかけて下腿前傾角度の変化が緩やかであり、さらにつま先離れ期にかけて下腿前傾角度の増大がみられた。本発明の足底用パッドを使用した場合には、踵接地期から立脚中期にかけて下腿前傾角度の変化が他のものより少ない。このことは、踵接地期から立脚中期にかけては後足部及び中足部での荷重支持が安定していることを意味している。
【0053】
図10は上り坂を歩行した場合の測定結果を示している。上り坂を歩行する場合、本発明の足底用パッドに関する下腿前傾角度の変化が、裸足及びロータリーヒールウェッジ装着時より緩やかであり、これは安定した歩行であることを意味している。図11は下り坂を歩行した場合の測定結果を示している。下り坂の場合、下腿前傾角度においては裸足及びロータリーヒールウェッジ装着時と似たような変化を示すが、やはりその変化の度合いは最も緩やかであり、安定した歩行が実現されている。
【0054】
以上、いくつかの実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上述した内容に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、歩行の際に踵骨、立方骨及び舟状骨が前後左右に動かないように安定的に保持可能であり、足部への衝撃を緩和して、捻挫等を予防できる足底用パッドを提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11