(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5970503
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】予圧力モニタリングシステム及び予圧力モニタリング方法
(51)【国際特許分類】
F16H 25/22 20060101AFI20160804BHJP
G01M 13/02 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
F16H25/22 Z
G01M13/02
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-138603(P2014-138603)
(22)【出願日】2014年7月4日
(65)【公開番号】特開2015-230097(P2015-230097A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2014年11月6日
(31)【優先権主張番号】103119410
(32)【優先日】2014年6月4日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】596016557
【氏名又は名称】上銀科技股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】鄭 志▲鈞▼
(72)【発明者】
【氏名】蔡 秉▲鈞▼
(72)【発明者】
【氏名】程 文男
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼ 弘竣
(72)【発明者】
【氏名】羅 凱鴻
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲起▼榮
(72)【発明者】
【氏名】蔡 騰▲徳▼
(72)【発明者】
【氏名】王 福清
(72)【発明者】
【氏名】許 夫▲瀚▼
【審査官】
稲垣 彰彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−241843(JP,A)
【文献】
特開2009−257806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
29/00−31/06
33/30−33/66
41/00−41/04
F16H 25/20−25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールねじの予圧力をモニタリングするシステムであって、
所定の予圧力を有する一つのボールねじと、
前記ボールねじの作動信号を検出および測定する一つの検測装置と、
前記検測装置に接続されており前記作動信号を受信する一つの取得装置と、
前記取得装置に接続されており、前記作動信号を球体通過信号に変換する処理を行い、前記球体通過信号が所定閾値を超えた場合、前記ボールねじの予圧力が消失すると判断する一つの処理装置と、を備え、
前記作動信号は、前記ボールねじの回転速度、振動、および音に対応する信号を含むことを特徴とする予圧力モニタリングシステム。
【請求項2】
前記ボールねじは、複数の球体及び少なくとも一つのリターンチューブを有し、
前記球体は、前記リターンチューブを通過し、
前記処理装置は、前記作動信号を分析し、球体通過周波数の次数を追跡し、前記球体通過周波数の次数に基づいて、対応する前記球体通過信号を見つけ出し、見つけた前記球体通過信号と前記所定閾値とを比較し、
前記球体通過周波数の次数は、前記ボールねじの前記球体の公転速度に関わることを特徴とする請求項1に記載の予圧力モニタリングシステム。
【請求項3】
前記処理装置は、一つの次数追跡を構築し、前記次数追跡のノイズ信号を濾過することで、前記球体通過周波数の次数を獲得し、
前記ノイズ信号は、前記ボールねじの前記球体以外の部品が発生する振動または音に対応する信号を指すことを特徴とする請求項2に記載の予圧力モニタリングシステム。
【請求項4】
複数の球体及び少なくとも一つのリターンチューブを有し前記球体が前記リターンチューブを通過するボールねじの作動中において、前記ボールねじの回転速度、振動、および音に対応する信号を含む作動信号を検測装置により検出および測定するステップと、
取得装置により前記作動信号を受信するステップと、
処理装置により前記作動信号を受信するステップと、
前記処理装置により、一つの次数追跡プログラムを実行し、前記作動信号を分析し、前記ボールねじの前記球体の公転速度に関わる球体通過周波数の次数を追跡するステップと、
前記処理装置により、球体通過分析プログラムを実行し、球体通過周波数次数によって対応する球体通過信号を見つけ出すステップと、
前記処理装置により、前記球体通過信号が所定閾値を越える時前記ボールねじの予圧力が消失すると判断し、前記球体通過信号が前記所定閾値以下である時に前記ボールねじの予圧力が消失していないと判断するステップと、を含むことを特徴とする予圧力モニタリング方法。
【請求項5】
前記処理装置は、前記球体通過周波数の次数を獲得するために、前記球体通過分析プログラムを実行し、一つの次数追跡を構築し、次数追跡のノイズ信号を濾過し、
前記ノイズ信号は、前記ボールねじの前記球体以外の部品が発生する振動または音に対応する信号であることを特徴とする請求項4に記載の予圧力モニタリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじの使用寿命の判断に関し、特にボールねじの予圧力モニタリングシステム及びモニタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機械産業の発展に伴い、作業機械の位置決め精度に対する要求は、益々高まっている。ボールねじは、手近の伝動部品として、高精度、長寿命及び順方向、逆方向高速伝動等の長所を有する。
【0003】
通常、ボールねじが出荷する前に、メーカーは、軸方向のバックラッシュを除去しボールねじの位置決め精度及び剛性を向上させるために、顧客の要求に応じて、ボールねじに予圧力を加える。
【0004】
しがしながら、ボールねじが長時間作動する場合には、ボルトと球体とナットとの間に摩損が発生するため、ボールねじの軸方向に対するバックラッシュが生じ、ボールねじの予圧力が次第に下がる。よって、ボールねじの位置決め精度及び剛性が低下する。
【0005】
上述の説明によると、 ボールねじの予圧力がボールねじの内部に存在するため、器械による直接的な予圧力を測定する方法がない。現在、予圧力の測定は、概ねトーションメーター、張力計、あるいは変位計によって行われている。特許文献1には、一つの伝動部品の検測装置が紹介されている。この検測装置は、単位時間内に球体のホールICを通過する周波数(球体通過周波数)を利用し、また判読装置によって球体通過周波数とデフォルト球体通過周波数を比較することにより、ボールねじの予圧力の有無を判断する。
【0006】
その他、特許文献2には、ボールねじの予圧力に対する一つの失効診断方法及び装置が紹介されている。この装置は、HHT(Hilbert−Huang Transform)を利用し、マルチスケールエントロピー複雑モデル(Multiscale Entropy Complexity model)を生成することによってボールねじの予圧力を診断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】台湾特許第I400438号明細書
【特許文献2】台湾特許第I407026号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ボールねじの使用寿命を判断するのに用いられるボールねじの予圧力モニタリングシステム及び予圧力モニタリング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するために、本発明が提供したボールねじの予圧力モニタリングシステムは、ボールねじの予圧力をモニタリングするシステムであって、一つのボールねじ、一つの検測装置、および一つの処理装置を備える。ボールねじは所定の予圧力を有する。検測装置はボールねじの作動信号を検出および測定する。取得装置は検測装置に接続されており作動信号を受信する。処理装置は、取得装置に接続されており、作動信号を球体通過信号に変換する処理を行い、球体通過信号が閾値を超えた場合、ボールねじの予圧力が消失すると判断する。作動信号は、ボールねじの回転速度、振動、
および音に対応する信号を含む。
【0010】
本発明が提供したボールねじの予圧力モニタリング方法は、
複数の球体及び少なくとも一つのリターンチューブを有し球体がリターンチューブを通過するボールねじの作動中において、ボールねじの回転速度、振動、
および音に対応する信号を含む作動信号を検測装置により検出および測定するステップと、
取得装置により作動信号を受信するステップと、
処理装置により作動信号を受信するステップと、
処理装置により、一つの次数追跡プログラムを実行し、作動信号を分析し、ボールねじの球体の公転速度に関わる球体通過周波数の次数を追跡するステップと、
処理装置により、球体通過分析プログラムを実行し、球体通過周波数次数によって対応する球体通過信号を見つけ出すステップと、
処理装置により、球体通過信号が閾値を越える時ボールねじの予圧力が消失すると判断し、球体通過信号が閾値以下である時にボールねじの予圧力が消失していないと判断するステップと、を含む。
【0011】
本発明のボールねじの予圧力モニタリングシステム及びモニタリング方法は、ボールねじの球体振動、あるいは音等の条件を検出および測定することによって、ボールねじの予圧力が消失するか否かを判断し、予圧力の有無に関する判断の正確性を向上させることができる。
よって、本発明のボールねじの予圧力モニタリングシステム及びモニタリング方法は、従来の技術よりボールねじの予圧力を正確に判断することが可能である。
【0012】
本発明が提供したボールねじの予圧力モニタリングシステム及びモニタリング方法の組成、作動方式及び特徴は、後続の実施形態に詳細に説明されている。しかしながら、当業者は、詳細な説明及び本発明に挙げられている実施形態が本発明を説明するためであり、本発明の特許請求の範囲を制限することではないことを理解するはずである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態によるボールねじの予圧力モニタリングシステムを示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態によるボールねじの予圧力モニタリング方法のステップを示す図である。
【
図3】
図1のモニタリングシステム及び
図2のモニタリング方法によって獲得した監視測定結果を示す図である。
【
図4】
図2の次数追跡プログラムに関する詳細な流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて、本発明の一実施形態によるボールねじの予圧力モニタリングシステム及びモニタリング方法の組成、測量結果及び効果達成について以下に説明する。しかしながら、各図に示されているボールねじの予圧力モニタリングシステム及びモニタリング方法、測量結果は、本発明の技術特徴を説明するためのものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
【0015】
(一実施形態)
図1に示すように、本発明の一実施形態によるボールねじの予圧力モニタリングシステム10は、一つのボールねじ11、一つの検測装置12、一つの取得装置13及び一つの処理装置14を備える。ボールねじ11が幅広く応用されているため、構造および作動は、本発明が属する技術分野の当業者がよく知られている。ボールねじ11は、外循環式や内循環式であれ、エンドカバー循環式であれ、全て一つのボルト、一つのナット、複数の球体及び少なくとも一つのリターンチューブを備える。ボールねじ11が作動する時、球体は、ボルトとナットとの間で移動し、リターンチューブを通過する。これはよく知られている技術であるため、詳しい説明を割愛する。
【0016】
検測装置12は、ボールねじ11の作動信号を検出および測定する。作動信号は、ボールねじ11の回転速度、ボールねじ11が回転する時に生じた振動あるいは音に対応する信号を指す。
【0017】
取得装置13は、検測装置12に接続し、かつ作動信号を受信する。
【0018】
処理装置14は、取得装置13に接続し、かつ閾値を記憶する。処理装置は、作動信号を処理し球体通過信号に変換する。球体通過信号が閾値を超える場合、ボールねじの予圧力が消失したと判断する。
【0019】
上述の部分は、本発明のボールねじの予圧力モニタリングシステム10の組成、各装置の機能及び予圧力モニタリングシステム10がボールねじ11の予圧力を有効に監視測定可能であることを説明している。次に、本発明のボールねじの予圧力モニタリング方法を詳細に説明する。
【0020】
図2に示すように、本発明のボールねじの予圧力モニタリング方法は、以下のステップを含む。
【0021】
ステップS20では、検測装置が作動中のボールねじの作動信号を検出および測定する。
【0022】
ステップS21では、取得装置が作動信号を受信する。
【0023】
ステップS22では、処理装置が作動信号を受信する。
【0024】
ステップS23では、処理装置が一つの次数追跡プログラムを実行する。つまり、作動信号を分析し、球体通過周波数の次数を追跡する。球体通過周波数の次数は、ボールねじの球体の公転速度に関わる。
【0025】
ステップS24では、一つの球体通過分析プログラムを実行することである。つまり、球体通過周波数次数によって、対応する球体通過信号を検出する。
【0026】
ステップS25では、処理装置が閾値を提供する。
【0027】
ステップS26では、処理装置が閾値によってボールねじの予圧力が消失するか否かを判断する。
【0028】
ステップS27では、球体通過信号が閾値を越える時にボールねじの予圧力が消失したと判断することである。
【0029】
ステップS28では、球体通過信号が閾値を越えていない時にボールねじの予圧力が消失していないと判断する。
【0030】
よって、本実施形態のボールねじの予圧力モニタリング方法は、ボールねじが回転する過程で、検測装置によって、作動信号を直接検出および測定する。また、取得装置は、処理装置が処理、分析及び判断を行うよう(ステップS22〜S28)、作動信号を受信した後、作動信号を処理装置に伝送する。
【0031】
ボールねじが所定時間内に、あるいは所定距離を作動する過程で、検測装置は、ステップS20を持続的に実行する。同様に、取得装置は、ステップS21を持続的に実行する。処理装置は、ステップS22〜S28を持続的に実行する。従って、本発明のボールねじの予圧力モニタリングシステム及びモニタリング方法によって、
図3の結果が得られる。
図3の横軸は、ボールねじの作動距離を表している。単位は、キロメートル(km)である。縦軸は、ボールねじの振動量を表している。図に示すように、ボールねじが630キロメートル以上作動した場合、球体通過振動量が速く増加することが分かる。ボールねじのボルトと球体とナットとの間の摩損は、ボールねじの内部に軸方向バックラッシュが生じることによって、顕著なボールねじの予圧力減少をもたらす。ただ、球体通過信号が閾値(図の点線)を超えていないので、ボールねじが使用できないまでにはならない。この実施形態では、閾値が、0.1m/s
2に設定されている。実際に、閾値の設定は、ボールねじによって異なるため、0.1m/s
2に限らない。
【0032】
ボールねじの作動距離が680キロメートルを超えると、球体通過信号は閾値を超える。つまり、処理装置は、ボールねじの予圧力が消失したと判断する。しかしながら、ボールねじの予圧力が消失したと判断したとしても、ボールねじの予圧力が既になくなったと表明するものではない。ボールねじの残存予圧力が使用に足りず、取替の必要があることを意味する。
【0033】
図4に示すように、次数追跡プログラム(ステップS23)は、以下のステップを含む。
【0034】
処理装置は、球体通過周波数の次数(S233)を獲得するために、一つの次数追跡(ステップS231)を構築し、また次数追跡のノイズ信号(S232)を濾過する。次数追跡は、処理装置内に一つの構造方程式及び一つの資料方程式を構築する。ノイズ信号濾過は、構造方程式及び資料方程式によって、次数追跡のノイズを分離する。最後、ノイズ信号濾過によって球体通過信号が更にボールねじその物の振動、あるいは音に対応する信号に近づくので、処理装置は、一つの数学最適化方法を構築する(例えば、最小二乗法)。つまり、処理装置は、信号処理によって球体振動、あるいは音に対応押する信号以外のノイズ信号を濾過することにより、予圧力の監視制御の精度が向上する。
【0035】
上述の説明通り、球体通過周波数の次数は、球体の公転速度に関わる。球体通過信号は、球体の衝突による振動、及び音に対応する。ノイズ信号は、ボールねじの球体その物以外の部品により生じた振動、あるいは音に対応する。つまり、球体通過信号は、球体に関わる。ノイズ信号は、球体以外の部品(例えば、ボルト及びナット等)により生じた振動、あるいは音に対応する。
【0036】
特に、前述の実施形態の中で、作動信号は、ボールねじの回転速度及び実際の作動状態(振動)を考慮するが、実際にボールねじが回転する時に生じた音を含んでもよい。そうすると、ボールねじの予圧力に対する判断の正確性が高まる。
【0037】
上述のように、本発明のボールねじの予圧力モニタリングシステム及びモニタリング方法は、他の振動、あるいは音源により引き起こされる干渉を排除し、作動中のボールねじの実際の球体通過振動、あるいは音を直接観察することにより、従来の技術に比べ、予圧力をより正確に判断することができる。
【0038】
最後に、再度強調すべきは、本発明の前述における実施形態で説明した構成部材は、例を挙げるためであり、本発明の特許請求の範囲を制限することではない。他の等効能の部材の代用、あるいは変化は、本発明の特許請求の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0039】
10 モニタリングシステム、
11 ボールねじ、
12 検測装置、
13 取得装置、
14 処理装置、
S20〜S28 ステップ
S241〜S243 ステップ。