(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
チタン合金は、鋼に比べ、難削材であり、切削抵抗が高いため、チタン合金製コンロッドの製造時に用いる切削工具は、高い剛性を有していることが望ましい。
【0005】
本発明は、切削工具の高い剛性を確保できるチタン合金製コンロッドの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、高い剛性を有するチタン合金製コンロッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある実施形態に係るチタン合金製コンロッドの製造方法は、ボルトを用いて大端部のロッド部とキャップ部を固定するチタン合金製コンロッドの製造方法であって、前記チタン合金製コンロッドの製造方法は、前記ボルトを挿通させるためのボルト孔を形成する工程を含み、前記ボルト孔を形成する工程は、前記キャップ部から前記ロッド部に向かう方向に沿って、前記キャップ部および前記ロッド部に第1の穴を形成する工程と、前記ロッド部から前記キャップ部に向かう方向に沿って、前記ロッド部に第2の穴を形成する工程とを含み、前記第1および第2の穴の形成後は、前記第1の穴と前記第2の穴とは貫通しており、前記第2の穴を形成するときに用いる切削工具の長手方向は、前記チタン合金製コンロッドのロッド本体部の長手方向に対して傾いている。
【0007】
ある実施形態において、前記切削工具の長手方向と前記ロッド本体部の長手方向とのなす角度は、2度以上20度以下であってもよい。
【0008】
ある実施形態において、前記切削工具の長手方向と前記ロッド本体部の長手方向とのなす角度は、3度以上10度以下であってもよい。
【0009】
ある実施形態において、前記チタン合金は、Ti−5Al−1Fe合金であってもよい。
【0010】
本発明のある実施形態に係るチタン合金製コンロッドは、前記製造方法を用いて製造される。
【0011】
本発明のある実施形態に係るチタン合金製コンロッドは、ボルトを用いて大端部のロッド部とキャップ部を固定するチタン合金製コンロッドであって、前記大端部には、前記ボルトを挿通させるためのボルト孔が形成されており、前記ロッド部側の少なくとも一部における前記ボルト孔の深さ方向は、前記チタン合金製コンロッドのロッド本体部の長手方向に対して傾いている。
【0012】
ある実施形態において、前記ロッド部側の少なくとも一部における前記ボルト孔の深さ方向と、前記ロッド本体部の長手方向とのなす角度は、2度以上20度以下であってもよい。
【0013】
ある実施形態において、前記ロッド部側の少なくとも一部における前記ボルト孔の深さ方向と、前記ロッド本体部の長手方向とのなす角度は、3度以上10度以下であってもよい。
【0014】
ある実施形態において、前記チタン合金は、Ti−5Al−1Fe合金であってもよい。
【0015】
本発明のある実施形態に係る内燃機関は、前記チタン合金製コンロッドを備える。
【0016】
本発明のある実施形態に係る自動車両は、前記内燃機関を備える。
【0017】
本発明のある実施形態に係るチタン合金製コンロッドの製造方法によれば、ロッド部からキャップ部に向かう方向に沿って第2の穴を形成するとき、切削工具の長手方向をロッド本体部の長手方向に対して傾ける。これにより、切削工具の直径を大きくすることができ、切削工具の剛性を高くすることができる。切削工具の高い剛性を確保できることにより、加工時間を短縮するとともに、加工精度を高くすることができる。また、切削工具の寿命を長くすることができる。また、本発明のある実施形態に係るチタン合金製コンロッドの製造方法によれば、コンロッドの大端部の厚さを厚くすることができ、大端部の剛性を高くすることができる。例えば、切削工具の長手方向とロッド本体部の長手方向とのなす角度は、2度以上20度以下であってもよい。また、より好ましくは、切削工具の長手方向とロッド本体部の長手方向とのなす角度は、3度以上10度以下であってもよい。
【0018】
例えば、チタン合金は、Ti−5Al−1Fe合金であってもよい。Ti−5Al−1Fe合金は、加工性と強度とのバランスに優れている。
【0019】
本発明のある実施形態に係るチタン合金製コンロッドは、上述の製造方法を用いて製造される。上述の製造方法を用いることにより、コンロッドの大端部の厚さを厚くすることができ、大きな剛性を有するチタン合金製コンロッドが得られる。
【0020】
本発明のある実施形態に係るチタン合金製コンロッドによれば、ロッド部側の少なくとも一部におけるボルト孔の深さ方向は、ロッド本体部の長手方向に対して傾いている。これにより、大端部の厚さを厚くすることができ、大端部の剛性を高くすることができる。例えば、ロッド部側の少なくとも一部におけるボルト孔の深さ方向と、ロッド本体部の長手方向とのなす角度は、2度以上20度以下であってもよい。また、より好ましくは、ロッド部側の少なくとも一部におけるボルト孔の深さ方向と、ロッド本体部の長手方向とのなす角度は、3度以上10度以下であってもよい。
【0021】
本発明のある実施形態に係るチタン合金製コンロッドは、軽量で且つ強度が高いので、自動車両用や機械用の各種の内燃機関(エンジン)に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のある実施形態に係るチタン合金製コンロッドの製造方法によれば、大端部のロッド部からキャップ部に向かう方向に沿ってボルト孔を形成するとき、切削工具の長手方向をロッド本体部の長手方向に対して傾ける。これにより、切削工具の直径を大きくすることができ、切削工具の剛性を高くすることができる。切削工具の高い剛性を確保できることにより、加工時間を短縮するとともに、加工精度を高くすることができる。また、切削工具の寿命を長くすることができる。また、本発明のある実施形態に係るチタン合金製コンロッドの製造方法によれば、コンロッドの大端部の厚さを厚くすることができ、大端部の剛性を高くすることができる。
【0023】
本発明のある実施形態に係るチタン合金製コンロッドによれば、ロッド部側の少なくとも一部におけるボルト孔の深さ方向は、ロッド本体部の長手方向に対して傾いている。これにより、大端部の厚さを厚くすることができ、大端部の剛性を高くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。以下の実施形態は例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。実施形態の説明においては、同様の構成要素には同様の参照符号を付し、重複する場合にはその説明を省略する場合がある。
【0026】
図1は、本発明の実施形態に係るチタン合金製コンロッド1を示す。
図1(a)は、チタン合金製コンロッド1全体を示す平面図であり、
図1(b)は、チタン合金製コンロッド1の大端部30近傍を示す一部切欠き平面図である。
【0027】
チタン合金製コンロッド1は、チタン合金から形成されている。チタン合金としては、例えば、Ti−5Al−1Fe合金を用いることができる。Ti−5Al−1Fe合金は、約5質量%のAlおよび約1質量%のFeを含むチタン合金であり、加工性と強度とのバランスに優れている。勿論、チタン合金製コンロッド1の材料は、Ti−5Al−1Fe合金に限定されるものではなく、公知の種々の組成のチタン合金(例えば、Ti−6Al−4V合金)を用いることができる。
【0028】
図1(a)に示すように、チタン合金製コンロッド1は、棒状のロッド本体部10を有し、ロッド本体部10の一端には小端部20が設けられ、ロッド本体部10の他端には大端部30が設けられている。
【0029】
小端部20には、ピストンピンを通すための貫通孔(「ピストンピン孔」と呼ばれる。)25が形成されている。大端部30には、クランクピンを通すための貫通孔(「クランクピン孔」と呼ばれる。)35が形成されている。
【0030】
以下の説明においては、ロッド本体部10の延びる方向(図中のy方向)を「ロッド本体部の長手方向」と呼び、ピストンピン孔25およびクランクピン孔35の中心軸の方向(図中のz方向)を「軸方向」と呼ぶ。また、長手方向および軸方向に直交する方向(図中のx方向)を「幅方向」と呼ぶ。
【0031】
ロッド本体部10の端部には大端部30の一部であるロッド部33が形成されており、大端部30は、ロッド部33とそのロッド部33に結合されるキャップ部34とを含む。つまり、チタン合金製コンロッド1は、分割型のコンロッドである。分割型のコンロッド1は、例えば、破断工法によって形成される。破断工法は、大端部30を一体に形成した後に、脆性破断によってロッド部33とキャップ部34とに分割する手法である。また、分割型のコンロッド1は、他の工法により形成されてもよく、例えば、大端部30を一体に形成した後に機械加工によって切断してもよい。
【0032】
チタン合金製コンロッド1は、キャップ部34をロッド部33に固定するボルト40をさらに備える。大端部30にはボルト40を挿通させるためのボルト孔32が形成されており、ボルト40がボルト孔32にねじ込まれ、ロッド部33とキャップ部34とが固定される。すなわち、ロッド本体部10とキャップ部34とが固定されるとともに、大端部30の円形状が形作られる。
【0033】
本実施形態のボルト孔32は、キャップ部34からロッド部33に向かう方向に沿って切削加工された第1の穴61と、ロッド部33からキャップ部34に向かう方向に沿って切削加工された第2の穴62とを互いに貫通させることにより形成されている。このような第2の穴62を形成することにより、ボルト孔32内の雌ねじにかかる応力を分散させ、雌ねじの特定部分に応力が集中することを抑制することができる。
【0034】
続いて、チタン合金製コンロッド1の製造方法を説明する。
図2は、本実施形態に係るチタン合金製コンロッド1の製造方法を示すフローチャートである。
【0035】
この例では、まず、チタン合金を用いて鍛造により、ロッド本体部10、小端部20および大端部30を有したコンロッド1の素体を形成する(ステップS1)。なお、このコンロッド1の素体に対して、ショットピーニングを行ってもよい。ショットピーニングにより、チタン合金の表面に生成したαケースを除去することができる。αケースは、加工性や延性、疲労特性などに影響を及ぼす酸素濃化層であり、除去することが好ましい。また、ショットピーニングにより、コンロッド1に残留応力を付与してコンロッド1の強度を向上させることができる。
【0036】
次に、コンロッド1の素体に対して、熱処理を行う(ステップS2)。例えば、焼鈍処理、溶体化処理および時効処理を行う。
【0037】
次に、コンロッド1の素体に機械加工(荒加工)を行う(ステップS3)。機械加工(荒加工)では、コンロッド1の厚さ面(xy面)を加工し、続いて、切削により小端部20および大端部30にピストンピン孔25およびクランクピン孔35を形成する。次に、ボルト孔32を形成する。ボルト孔32の形成方法の詳細は後述する。次に、大端部30のクランクピン孔35にワイヤカット放電加工等の方法により破断起点溝を形成する。なお、これら機械加工の順序は上記に限定されず、任意の順序で行うことができる。
【0038】
次に、大端部30のボルト孔32内に雌ねじ加工を行う(ステップS4)。
【0039】
次に、コンロッド1の大端部30をロッド部33とキャップ部34とに破断分割する(ステップS5)。例えば、y方向に移動可能なスライダをクランクピン孔35内に挿入し、スライダ間にくさびを打ち込むことにより、コンロッド1の大端部30が破断起点溝を起点としてロッド部33とキャップ部34とに破断分割される。
【0040】
なお、大端部30を破断分割する工程の前に、予め大端部30を所定の温度以下(例えば−40℃以下)に冷却しておいてもよい。大端部30の冷却は、例えば、コンロッド1を液体窒素に浸すことによって行うことができる。破断分割工程の前にこのような冷却工程を行うことにより、チタン合金製のコンロッド1の破断分割を容易に行うことができる。
【0041】
続いて、ロッド部33の破断面とキャップ部34の破断面とを位置合わせして接触させた状態でボルト孔32にボルト40を挿し込むことにより、ロッド部33とキャップ部34とを組み付ける(ステップS6)。
【0042】
次に、組み付けられたコンロッド1のピストンピン孔25およびクランクピン孔35の内周面を仕上加工する(ステップS7)。続いて、コンロッド1に表面処理(ステップS8)を行う。表面処理は、例えば、コンロッド1の表面に窒化クロムをPVD法によってコーティングすることによって行われる。なお、表面処理は、仕上加工(ステップS7)の前に行ってもよい。
【0043】
このようにして、チタン合金製コンロッド1が製造される。
【0044】
このチタン合金製コンロッド1をクランクシャフトのクランクピンに組み付けるときには、コンロッド1の大端部30からボルト40を外すことにより、ロッド部33およびキャップ部34を分解する(ステップS9)。次にロッド部33とキャップ部34それぞれに軸受けメタルを組付ける(ステップS10)。そして、クランクシャフトのクランクピンをロッド部33およびキャップ部34で挟んだ状態で、ロッド部33とキャップ部34をボルト40で固定することにより、チタン合金製コンロッド1がクランクシャフトのクランクピンに組み付けられる(ステップS11)。
【0045】
次に、ボルト孔32の形成方法をより詳細に説明する。
【0046】
図1(b)を参照して説明したように、ボルト孔32は、第1の穴61と第2の穴62とを互いに貫通させることにより形成される。
図3は、キャップ部34からロッド部33に向かう方向に沿って、キャップ部34およびロッド部33に第1の穴61を形成する工程を示す図である。この例では、切削工具51を用いて第1の穴61を形成する。切削工具51として、例えば、ドリル、エンドミル等を用いることができる。切削工具51の長手方向LD1を、ロッド本体部10の長手方向(y方向)に平行にした状態で、キャップ部34およびロッド部33を切削し、第1の穴61を形成する。
【0047】
次に、第2の穴62を形成する。
図4は、ロッド部33からキャップ部34に向かう方向に沿って、ロッド部33に第2の穴62を形成する工程を示す図である。この例では、切削工具52を用いて第2の穴62を形成する。切削工具52として、例えば、ドリル、エンドミル等を用いることができる。
【0048】
図4に示す例では、切削工具52の長手方向LD2を、ロッド本体部10の長手方向(y方向)に平行にした状態で、ロッド部33を切削し、第2の穴62を形成する。第1の穴61と第2の穴62が貫通することによりボルト孔32(
図1(b))が形成される。
【0049】
ここで、チタン合金製コンロッド1の小端部20のサイズについて説明する。一般にコンロッドの材料としては鋼が広く用いられているが、そのような鋼製コンロッドの小端部と同等程度の剛性および強度を、チタン合金製コンロッド1の小端部20でも確保しようとした場合、チタン合金製コンロッド1の小端部20の肉厚は厚くなり、小端部20の外周縁部のサイズは大きくなる。小端部20のサイズが大きくなることにより、第2の穴62を形成するときに、切削工具52と小端部20とは干渉する。このような干渉を避けるために、直径dが小さい切削工具52を用いることで、第2の穴62を形成することができる。
【0050】
しかし、切削工具52の直径dが小さい場合、切削工具52の剛性は低くなってしまうことになる。チタン合金は、鋼に比べ、難削材であり、切削抵抗が高い。このため、切削工具52の剛性が低いと、加工に時間が掛かったり、加工精度の確保が難しくなったりする。また、切削工具52の寿命が短くなるという課題がある。
【0051】
図3に示したように、キャップ部34からロッド部33に向かう方向に沿って第1の穴61を形成するときは、切削工具51と干渉する部材はないため、切削工具51の直径は大きくすることができ、切削工具51は高い剛性を確保することができる。また、鋼製コンロッドにおいては、鋼は加工が比較的容易であるとともに、鋼製コンロッドの小端部のサイズは小さく、直径が大きい剛性の高い切削工具を用いることができたので、上記のような課題は鋼製コンロッドでは考慮する必要が無かった。
【0052】
本願発明者らは、チタン合金製コンロッド1の切削方法について鋭意研究を行った。研究の結果、本願発明者らは、切削工具52の高い剛性を確保できるチタン合金製コンロッド1の切削方法を見出した。
図5を用いて、切削工具52の高い剛性を確保できるチタン合金製コンロッド1の切削方法を説明する。
【0053】
図5は、直径dが大きく剛性の高い切削工具52を用いて、ロッド部33からキャップ部34に向かう方向に沿って、ロッド部33に第2の穴62を形成する工程を示す図である。
図5に示す切削方法では、ロッド部33からキャップ部34に向かう方向に沿って第2の穴62を形成するとき、切削工具52の長手方向LD2をロッド本体部10の長手方向(y方向)に対して傾ける。これにより、切削工具52と小端部20とが干渉することを避け、切削工具52の直径dを大きくすることができ、切削工具52の剛性を高くすることができる。切削工具52の高い剛性を確保できることにより、加工時間を短縮するとともに、加工精度を高くすることができる。また、切削工具52の寿命を長くすることができる。
【0054】
図6は、
図5に示す切削方法で形成された第2の穴62を示す図である。
図4に示したように切削工具52の長手方向LD2をロッド本体部10の長手方向(y方向)に平行にした状態で第2の穴62を形成した場合と比較して、斜線で示す領域71の分だけ、ロッド部33の厚さを厚くすることができる。このため、
図5に示す切削方法では、大端部30の剛性を高くすることができる。
【0055】
また、
図7に示すように、第2の穴62の底部の中心を、ボルト40の中心軸から距離cずらすことにより、ボルト40の先端部とコンロッド1とのクリアランスが確保しやすくなるとともに、雌ねじ加工時に用いるタップの先端部とコンロッド1とのクリアランスが確保しやすくなる。例えば、直径が9mmのボルト40を用いるとき、第2の穴62の底部の中心を、ボルト40の中心軸から5mmずらすことにより、上記のようなクリアランスを確保しやすくすることができる。このとき、例えば、切削工具52の長手方向LD2とロッド本体部10の長手方向(y方向)とのなす角度θを5度±1度に設定して第2の穴62を形成する。
【0056】
次に、
図8を参照して、切削工具52の長手方向LD2とロッド本体部10の長手方向(y方向)とのなす角度θについて説明する。
【0057】
角度θが大きすぎる場合、形成された第2の穴62の壁部75とボルト40の先端部とが干渉してしまうことになる。第2の穴62の壁部75と雌ねじ加工時に用いるタップの先端部とも同様に干渉してしまうことになる。また、領域73が削れてしまうことにより、ねじの噛み合い長さが短くなってしまうことになる。一方、角度θが小さすぎる場合は、切削工具52と小端部20とが干渉してしまうことになる。これらのことを考慮して本願発明者らは研究を続け、角度θは2度以上20度以下であることが好ましいことを見出した。また、角度θは3度以上10度以下である場合がより好ましいことを見出した。これらの角度範囲で、切削工具52を傾けて第2の穴62を形成することにより、上記のような課題の発生を抑えることができる。
【0058】
また、このようにして製造されたチタン合金製コンロッド1のロッド部33側の少なくとも一部におけるボルト孔32の深さ方向(第2の穴62の深さ方向)が、ロッド本体部10の長手方向に対して傾いていることにより、大端部30の厚さを厚くすることができ、大きな剛性を有するチタン合金製コンロッド1を実現することができる。第2の穴62の深さ方向は、切削工具52の長手方向LD2と平行であり、第2の穴62の深さ方向とロッド本体部10の長手方向とのなす角度θは、上記と同様に、2度以上20度以下であることが好ましい。また、角度θは3度以上10度以下である場合がより好ましい。
【0059】
なお、上記の説明では、第1の穴61を形成してから第2の穴62を形成していたが、これらの穴を形成する順序は逆であってもよく、この場合も上記と同様の効果が得られる。
【0060】
上記のような本実施形態の製造方法で製造されたチタン合金製コンロッド1は、自動車両用や機械用の各種の内燃機関(エンジン)に広く用いることができる。
図9は、本実施形態の製造方法により製造されたチタン合金製コンロッド1を備えたエンジン100を示す図である。
【0061】
エンジン100は、クランクケース110、シリンダブロック120およびシリンダヘッド130を有している。
【0062】
クランクケース110内にはクランクシャフト111が収容されている。クランクシャフト111は、クランクピン112およびクランクアーム113を有している。
【0063】
クランクケース110の上に、シリンダブロック120が設けられている。ピストン122は、シリンダボア内を往復し得るように設けられている。
【0064】
シリンダブロック120の上に、シリンダヘッド130が設けられている。シリンダヘッド130は、シリンダブロック120、ピストン122とともに燃焼室131を形成する。シリンダヘッド130は、吸気ポート132および排気ポート133を有している。吸気ポート132内には燃焼室131内に混合気を供給するための吸気弁134が設けられており、排気ポート内には燃焼室131内の排気を行うための排気弁135が設けられている。
【0065】
ピストン122とクランクシャフト111とは、チタン合金製コンロッド1によって連結されている。具体的には、小端部20のピストンピン孔25にピストン122のピストンピン123が挿入されているとともに、大端部30のクランクピン孔35にクランクシャフト111のクランクピン112が挿入されており、そのことによってピストン122とクランクシャフト111とが連結されている。大端部30の内周面とクランクピン112との間には、軸受けメタル114が設けられている。小端部20の内周面とピストンピン123との間には、ブッシュが設けられていてもよい。
【0066】
ピストンピン123は、その表面にダイヤモンドライクカーボン膜を有することが好ましい。ピストンピン123が表面にダイヤモンドライクカーボン膜を有していることによって、低フリクション化が可能となり、エンジン100の性能向上および燃費向上を図ることができる。
【0067】
図10は、
図9に示したエンジン100を備えた自動二輪車300を示す図である。
図10に示す自動二輪車300では、本体フレーム301の前端にヘッドパイプ302が設けられている。ヘッドパイプ302には、フロントフォーク303が車両の左右方向に揺動し得るように取り付けられている。フロントフォーク303の下端には、前輪304が回転可能なように支持されている。
【0068】
本体フレーム301の後端上部から後方に延びるようにシートレール306が取り付けられている。本体フレーム301上に燃料タンク307が設けられており、シートレール306上にメインシート308aおよびタンデムシート308bが設けられている。
【0069】
また、本体フレーム301の後端に、後方へ延びるリアアーム309が取り付けられている。リアアーム309の後端に後輪310が回転可能なように支持されている。
【0070】
本体フレーム301の中央部には、
図9に示したエンジン100が保持されている。エンジン100は、本実施形態に係るチタン合金製コンロッド1を有している。エンジン100の前方には、ラジエータ311が設けられている。エンジン100の排気ポートには排気管312が接続されており、排気管312の後端にマフラー313が取り付けられている。
【0071】
エンジン100には変速機315が連結されている。変速機315の出力軸316に駆動スプロケット317が取り付けられている。駆動スプロケット317は、チェーン318を介して後輪310の後輪スプロケット319に連結されている。変速機315およびチェーン318は、エンジン100により発生した動力を駆動輪に伝える伝達機構として機能する。
【0072】
なお、本実施形態に係る自動車両として、自動二輪車を例示したが、三輪以上の車輪を有する車両であってもよい。例えば、自動車両は四輪自動車であってもよい。また、自動車両は、無限軌道を備えた車両であってもよい。本発明は、車両に限定されず、船舶や航空機に適用されてもよい。また、人が乗る輸送機械に限定されず、無人で動作する輸送機械であってもよい。本発明は、コンロッドを備える内燃機関が搭載される機械に適用可能である。
【0073】
上述の実施形態の説明は、本発明の例示であり、本発明を限定するものではない。また、上述の実施形態で説明した各構成要素を適宜組み合わせた実施形態も可能である。本発明は、特許請求の範囲またはその均等の範囲において、改変、置き換え、付加および省略などが可能である。