特許第5970534号(P5970534)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5970534
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】酸窒化物蛍光体
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/79 20060101AFI20160804BHJP
【FI】
   C09K11/79CQD
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-502440(P2014-502440)
(86)(22)【出願日】2012年1月6日
(65)【公表番号】特表2014-513171(P2014-513171A)
(43)【公表日】2014年5月29日
(86)【国際出願番号】KR2012000163
(87)【国際公開番号】WO2012134043
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2014年12月26日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0027932
(32)【優先日】2011年3月29日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513088928
【氏名又は名称】インダストリー−アカデミー コーペレイション コーア オブ スンチョン ナショナル ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】Industry−Academy Coperation Corps of Sunchon National University
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ソン,キ ソン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ウン ベ
(72)【発明者】
【氏名】シン,ナム ス
【審査官】 仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第02377908(EP,A1)
【文献】 特表2012−513520(JP,A)
【文献】 特開2009−040944(JP,A)
【文献】 特表2009−500822(JP,A)
【文献】 特開2003−096446(JP,A)
【文献】 特開2006−299259(JP,A)
【文献】 特開2007−137946(JP,A)
【文献】 特開2008−285659(JP,A)
【文献】 矢口敦郎等,La2O3−CaO−Si3N4系からの簡易プロセスによる(La、Ca)Si3(O、N)5:Ce3+蛍光体の合成,第49回セラミック基礎科学討論会,日本,第49回セラミックス基礎討論会実行委員会,2011年 1月11日,225
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/79
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:(Ca1−xM1(La1−yM2Si(0.5≦b/a≦7、1.5≦c/(a+b)≦3.5、1≦d/c≦1.8、0.6≦e/(a+b)≦2
、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5)で表され、単斜晶系(monoclinic)の結晶構造を有する母体と、前記母体に、賦活剤として、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Dy、Ho、Er、Tm、Ybから選択された1種以上を固溶させた蛍光体であって、
前記M1は、Ba、Mg、Srのうちから選択された1種以上の元素であり、
前記M2は、Y、Sc、Gd、Tbのうちから選択された1種以上の元素であり、
前記母体は、粉末X線回折パターンにおけるもっとも強度のある回折ピークの相対強度を100%とした時、前記X線回折パターンのブラッグ角(2Θ)が、10.68゜〜11.41゜、18.52゜〜19.46゜、31.58゜〜31.21゜、36.81゜〜37.49゜の範囲で相対強度5%以上の回折ピークを示す相を主相として含み、
前記主相の結晶構造は、単斜晶系(monoclinic)であることを特徴とする、酸窒化物蛍光体。
【請求項2】
前記母体は、粉末X線回折パターンのピークによる結晶格子が、a=18.5427Å、b=4.8404Å、c=10.7007Å、α=γ=90゜、β=108.257゜である基準値を有し、
前記a、b、c、およびβの値の変化が、前記基準値より±5%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の酸窒化物蛍光体。
【請求項3】
前記bは、0.8a〜2aであり、前記cは、1.8(a+b)〜3.2(a+b)であることを特徴とする、請求項1に記載の酸窒化物蛍光体。
【請求項4】
前記賦活剤は、Euを含むことを特徴とする、請求項1に記載の酸窒化物蛍光体。
【請求項5】
前記xは0〜0.1であり、前記yは0〜0.1であることを特徴とする、請求項1に記載の酸窒化物蛍光体。
【請求項6】
前記賦活剤は、モル比で0.005〜0.1の範囲で含まれることを特徴とする、請求項1に記載の酸窒化物蛍光体。
【請求項7】
360〜500nmの波長の励起源の照射によって、500〜600nmの波長の発光を行うことを特徴とする、請求項1乃至の何れか1項に記載の酸窒化物蛍光体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新しい結晶構造を有する蛍光体に関するものであって、より詳細には、耐久性に優れた酸窒化物からなり、青色発光ダイオードや紫外線発光ダイオードを励起源にするとき、緑色から黄色に至るまでの範囲の多様な色の発光が可能であり、特に、サイアロン(SIALON)蛍光体の代替或いは補完用として好適に用いることができる、新たな酸窒化物系蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、照明、LCDバックライト、自動車照明用などとして脚光を浴びている白色LED発光装置は、通常、青色または近紫外線を放出するLED発光素子と、この発光素子から発せられる光を励起源にし、波長を可視光線に変換する蛍光体とを含んでなる。
【0003】
このような白色LEDを具現する方法として、従来、発光素子に波長が450〜550nmであるInGaN系材料を用いた青色発光ダイオードを使用し、蛍光体には、(Y,Gd)(Al,Ga)12の組成式で表される黄色発光のYAG系蛍光体を使用したものが代表的であるが、この白色LEDは、発光素子から発せられた青色光を蛍光体層に入射させ、蛍光体層内で数回の吸収と散乱を繰り返しながら、この過程において蛍光体に吸収された青色光は、黄色に波長変換が行われた黄色光と入射した青色光の一部とが混合され、ヒトの目には白色として見えるようにするものである。
【0004】
しかし、このような構造の白色LEDは、光に赤色成分が少なく、色温度が高く、赤色および緑色成分が不足して、演色性が劣る照明光しか得られないという問題点がある。
【0005】
また、酸化物系蛍光体の場合、一般的に、励起源の波長が400nmを超えると、発光強度が低下する傾向を見せるため、青色光を用いて高輝度の白色光を作成するのに不適であることもある。
【0006】
これにより、酸化物系蛍光体に比べて同等以上の安定性を有しながらも、400nmを超える励起源での発光効率にも優れている酸窒化物蛍光体が、最近、白色LEDの分野において関心を集めている。さらに、酸窒化物蛍光体は、本来エンジニアリングセラミックスとして開発された素材であることから、湿気や発熱による効率減少および色変換が少ないという強点もある。
【0007】
しかし、α型またはβ型サイアロン(Si−Al−O−N)から外れた組成領域における酸窒化物蛍光体の存在は、ほとんど研究されていないか、或いは知られてはいない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、酸窒化物からなっており、構造の安定性に優れ、特に、黄色における発光輝度に優れ、既存のサイアロン蛍光体の組成領域から外れて、発光輝度の改善に容易である、新しい結晶構造を有し、特に、LED分野において好適に用いることができる蛍光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、サイアロン蛍光体のように酸窒化物からなっており、構造的に安定的で耐久性に優れ、その上、輝度特性にも優れており、白色LEDのような照明用蛍光体に適用可能な、新たな蛍光体組成物を研究した結果、Ca、LaおよびSiからなる特定の組成の酸窒化物が、対称性の低い単斜晶系(monoclinic)の無機結晶構造を形成し、この無機結晶構造を母体とした蛍光体が、高輝度で緑色から黄色に及ぶ発光を行うことができることを見出し、本発明に至ることになった。
【0010】
上述した目的を解決するために、本発明は、一般式:(Ca1−xM1(La1−yM2Si(0.5≦b/a≦7、1.5≦c/(a+b)≦3.5、1≦d/c≦1.8、0.6≦e/(a+b)≦2、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5)で表され、単斜晶系(monoclinic)の結晶構造を有する母体と、前記母体に、賦活剤として、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Tb、Ho、Er、Tm、Ybから選択された1種以上を固溶させた蛍光体であって、前記M1は、Ba、Mg、Sr、Mn、Znのうちから選択された1種以上の元素であり、前記M2は、Y、Lu、Sc、Gd、Tb、Ce、Nd、Sm、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Al、Ga、Ge、Sn、Inのうちから選択された1種以上の元素であることを特徴とする酸窒化物系蛍光体を提供する。
【0011】
本発明にかかる蛍光体の一般式における前記a、b、cの関系は、図4の三元系組成表示図に限定することができる。
【0012】
また、本発明にかかる酸窒化物蛍光体において、前記母体は、CoKα線による粉末X線回折パターンにおけるもっとも強度のある回折ピークの相対強度を100%とした時、前記X線回折パターンのブラッグ角(2Θ)が、10.68゜〜11.41゜、18.52゜〜19.46゜、31.58゜〜31.21゜、36.81゜〜37.49゜の範囲で相対強度5%以上の回折ピークを示す相(phase)を主相として含み、前記主相の結晶構造は単斜晶系(monoclinic)であってもよい。
【0013】
また、本発明にかかる酸窒化物蛍光体において、前記母体は、粉末X線回折パターンのピークによる結晶格子が、a=18.5427Å、b=4.8404Å、c=10.7007Å、α=γ=90゜、β=108.257゜である基準値を有し、前記a、b、c、およびβの値の変化が、前記基準値より±5%以下であってもよい。
【0014】
また、本発明にかかる酸窒化物蛍光体は、下記[式1]で表される組成からなっていてもよい。
【0015】
[式1]
(Ca1−xM1a−z(La1−yM2Si:M3
ここで、0.5≦b/a≦7、1.5≦c/(a+b)≦3.5、1≦d/c≦1.8、0.6≦e/(a+b)≦2、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.001a≦z≦0.4aであり、前記M1は、Ba、Mg、Sr、Mn、Znのうちから選択された1種以上の元素、前記M2は、Y、Lu、Sc、Gd、Tb、Ce、Nd、Sm、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Al、Ga、Ge、Sn、Inのうちから選択された1種以上の元素、前記M3は、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Tb、Ho、Er、TmおよびYbからなる群より選択された1種以上の元素である。
【0016】
また、前記[式1]において、前記aは1〜30であり、前記bは0.8a〜2aであり、前記cは1.8(a+b)〜3.2(a+b)であってもよい。
【0017】
また、前記[式1]において、前記M3は、Euを含んでいてもよい。
【0018】
また、前記[式1]において、前記xは0〜0.1であり、前記yは0〜0.1であってもよい。
【0019】
また、前記[式1]において、前記zは0.001〜0.1であり、より好ましくは、0.03〜0.07であってもよい。
【0020】
さらに、本発明にかかる蛍光体は、360〜500nmの波長の励起源の照射によって、500〜600nmの波長の発光を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明のように、Ca、La、Si、O、Nをベースとし、且つ単斜晶系の結晶構造を有する蛍光体組成物は今まで報告されたことがなく、この組成物は、Eu、Ce、Mnなどのドープの際に、青色、緑黄色、黄色蛍光体として用いることができ、特に、Euのドープの際の光効率に優れており、LED用蛍光体に好適に用いることができる。
【0022】
本発明の蛍光体は、酸窒化物からなり、構造的安定性に優れているため、酸化雰囲気や水分が含まれた環境下であっても安定性に優れ、結晶構造が対称性の低い単斜晶系からなっているため、励起電子が熱を放出して基底状態に戻ってくる、いわゆる無輻射失活が抑制されて、発光効率が高くなる構造を有し、優れた輝度特性を得るために容易である。
【0023】
また、本発明の蛍光体は、構成元素のモル比の調節を通じて、Ca、Laの位置に同じ酸化数を有した物質を置き換えた時、緑色から黄色への発光波長の変化が可能であり、発光効率もまた変化させることができ、Euのドープ濃度によっても発光波長の変化および光効率の変化が可能であって、チューニング用の蛍光体としても有用に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1aは、本発明の実施例4によって製造された蛍光体のアクセレレーター光源を用いた精密XRD分析結果であり、図1bは、本発明の実施例4によって製造された蛍光体の一般XRD分析装置を用いた分析結果である。
図2図2は、本発明の実施例4による母体の組成のうち、CaまたはLaをMg、Sr、Ba、Y、Sc、Gd、Tbで10%程度置き換えた、実施例8〜14のXRD分析結果を実施例4と対比したものである。
図3図3は、本発明の実施例4によって製造された蛍光体のTEM分析結果を示すものである。
図4図4は、本発明にかかる単斜晶系結晶構造を有する蛍光体が具現できる組成の範囲を示したものである。
図5図5は、同一の母体組成でEu2+のドープ量に差異のある、本発明の実施例1〜7による蛍光体の発光特性の相異を示したものである。
図6図6は、図5の強度をノーマルライズした結果を示したものである。
図7図7は、本発明の実施例8〜14によって製造された蛍光体の発光特性を示したものである。
図8図8は、本発明の実施例15および16によって製造された蛍光体の発光特性を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下において、本発明を実施するための具体的な内容について詳細に説明する。
【0026】
蛍光体
本発明にかかる蛍光体は、(Ca1−xM1(La1−yM2Si(0.5≦b/a≦7、1.5≦c/(a+b)≦3.5、1≦d/c≦1.8、0.6≦e/(a+b)≦2、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5)で表され、結晶格子定数が、a=18.5427Å、b=4.8404Å、c=10.7007Å、α=γ=90゜、β=108.257゜である基準値を有する単斜晶系(monoclinic)結晶構造を有する母体と、前記母体に、賦活剤として、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Tb、Ho、Er、Tm、およびYbのうちから選択された1種以上の元素を固溶させた蛍光体であって、前記M1は、Ba、Mg、Sr、Mn、Znのうちから選択された1種以上の元素であり、前記M2は、Y、Lu、Sc、Gd、Tb、Ce、Nd、Sm、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Al、Ga、Ge、Sn、Inのうちから選択された1種以上の元素であることを特徴とする。
【0027】
本発明にかかる蛍光体の一般式において、前記a、b、cの関系は、図4の三元系組成表示図でさらに正確に限定することができる。
【0028】
すなわち、本発明にかかる蛍光体は、Ca、La、Si、NおよびOを主に含む酸窒化物系蛍光体であって、前記Caの一部がBa、Mg、Sr、Mn、Znに置き換えられ、前記Laの一部がY、Lu、Sc、Gd、Tb、Ceに置き換えられても、a、b、cの3つの結晶軸の長さがいずれも異なっており、a軸はb軸とc軸とに垂直であるが、b軸とc軸とは互いに垂直関系に配置されていない単斜晶系の結晶構造を有し、発光中心金属元素としてEuなどを固溶させる場合、紫外線または可視光線の励起源で照射した時、緑色、黄緑色または黄色発光をする組成物である。
【0029】
また、前記a、b、cおよびβの値は、基準値であるa=18.5427Å、b=4.8404Å、c=10.7007Å、α=γ=90゜、β=108.257゜より±5%以下で変化することができる。
【0030】
また、本発明にかかる蛍光体において、前記aは、比例定数として取り込まれる数であり、いずれかの値であってよいが、追って、正確な構造分析により一般化学式で表される場合に、1〜30の範囲が好ましいが、既存の結晶構造の化学式を考慮するとき、前記aは、1〜10の範囲がより好適である。
【0031】
また、本発明にかかる蛍光体において、前記bは、0.5a〜7aの範囲が好ましいが、これは、bが0.5a未満であるか、或いは7aを超える場合、単斜晶系ではなく、別の結晶構造に変化されてしまい、本発明による蛍光体の特性が得られなくなるからである。結晶構造の安定性を考慮するとき、前記bは、0.8a〜2aの範囲がより好ましい。
【0032】
また、本発明にかかる蛍光体において、前記cは、1.5(a+b)≦c≦3.5(a+b)の範囲が好ましいが、これは、cが1.5(a+b)未満であるか、或いは3.5(a+b)を超える場合、単斜晶系ではなく、別の結晶構造に変化されてしまい、本発明による蛍光体の特性が得られなくなるからである。結晶構造の安定性を考慮するとき、前記cは、1.8(a+b)〜3.2(a+b)の範囲がより好ましい。
【0033】
また、本発明にかかる蛍光体において、本発明の特性上、窒素の調整は、大略的にはcの値により調整することができるが、正確な制御は不可能であり、結晶構造の安定性を考慮するとき、前記dは、1c≦d≦1.8cの範囲が好ましい。
【0034】
さらに、本発明にかかる蛍光体において、前記窒素と同様に、酸素の調整も大略的にはaとbの値により調整することができるが、正確な制御は不可能であり、結晶構造の安定性を考慮するとき、0.6(a+b)≦e≦2(a+b)の範囲が好ましい。
【0035】
また、本発明にかかる蛍光体において、Ba、Mg、Sr、MnまたはZnは、Caの50%までにのみ置き換えることができるが、50%を超えた場合には、本発明にかかる結晶構造を有する相(phase)が得られなくなるからであり、10%以内の方がもっとも好ましい。
【0036】
また、本発明にかかる蛍光体において、Y、Lu、Sc、Gd、TbまたはCeは、Laの50%までにのみ置き換えることができるが、50%を超えた場合には、本発明による結晶構造を有する相(phase)が得られなくなるからであり、10%以内の方がもっとも好ましい。
【0037】
さらに、本発明にかかる蛍光体において、前記賦活剤の固溶量は、0.001aよりも小さい場合、発光元素の不足のために輝度が不十分であり、0.4aを超えた場合は、いわゆる濃度消光の効果により、むしろ輝度が減少するため、0.001a〜0.4aの範囲で高輝度を得ることができて好ましく、モル比で、0.03〜0.07の範囲で固溶されることがより好ましい。また、賦活剤としては、ユーロピウム(Eu)がもっとも好ましく、ユーロピウムにMn、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYbのうちから選択された1種以上の元素をコードープ(co−doping)することができる。
【0038】
また、本発明による組成の蛍光体は、単相(single phase)からなるのが理想的ではあるが、製造過程において、少量の不可避的な非晶質相や、単斜晶系ではないその他の結晶相が混入されることがあり得、このような非晶質相やその他の結晶相を含む混合物であっても、特性に影響のない限り、一部含まれていてもよい。
【0039】
また、本発明にかかる蛍光体の平均粒度は、1〜20μmの範囲が好ましいが、平均粒度が1μmよりも小さな場合は、散乱による光吸収率が低下し、LEDを密封する樹脂への均一な分散が容易ではなくなることも考えられ、平均粒度が20μmを超える場合は、発光強度および色合いのムラが生じることがあるからである。
【0040】
蛍光体の製造方法
本発明にかかる蛍光体の製造方法を、詳細に説明する。
【0041】
蛍光体製造原料としては、主要成分であるSi、Ca、La、Euの場合、ケイ素窒化物(Si)、カルシウム酸化物(CaO)と、ランタン酸化物(LaO)、およびユーロピウム酸化物(Eu)粉末を用いており、Caを置き換えるBa、Mg、Sr、MnおよびZnの場合は、これらの酸化物粉末をそれぞれ用いており、Laを置き換えるY、Lu、Sc、Gd、TbおよびCeも、これらの酸化物粉末を用いた。
【0042】
これらの前記原料物質は、所定の組成となるように、CaO、La、a−Siを秤量して混合するが、この時、サンプル当たりの混合物の量は1.5gとなるようにした。そして、賦活剤の原料物質は、CaとLaに対して0.04molとなるように添加した。
【0043】
以上のような原料物質の混合作業は、大気の雰囲気下、手作業により10分間で混合した。
【0044】
このようにして得られた混合物サンプルを、大気圧以上、20気圧以下の窒素ガスを主成分とし、Hガスが0〜25%からなる窒素ガス雰囲気下で行うことになるが、このように窒素ガス雰囲気で焼成を行うようになると、高温焼成中に合成される窒化物の分解を防止または抑制することができ、生成される窒化物の組成のバラツキを低減することができるため、性能に優れた蛍光体組成物を製造することが可能となる。一方、窒素ガスを主成分とするとは、全ガス対比窒素ガスが75%以上で含まれていることを意味する。また、焼成温度は、1300〜1800℃が好ましく、高品質の蛍光体を得るためには、1500℃以上がより好ましい。さらに、焼成時間は、30分〜100時間の範囲内にすることができるが、品質や生産性などを考慮するとき、2時間〜8時間が好ましい。
【0045】
本発明の実施例では、常圧、超高純度窒素(99.999%)ガスの雰囲気下で、1500℃の焼成温度で2時間、焼成を行った後、破砕して蛍光体を製造した。
【実施例】
【0046】
以下において、本発明の好ましい実施例を参照し、本発明についてより詳細に説明する。下記実施例1〜7は、賦活剤であるEu2+のモル比による発光特性の差異を確認するためのものであり、実施例8〜10は、CaをMg、Sr、Baに一部置き換えた時の発光特性の差異を確認するためのものであり、実施例11〜14は、LaをY、Lu、Sc、Gd、Tbに一部置き換えた時の発光特性の差異を確認するためのものであり、実施例15および16は、賦活剤としてEuではなく、CeとMnを用いた時の発光特性の差異を確認するためのものである。
【0047】
[実施例1]
実施例1の蛍光体組成物の原料粉末は、CaO 0.2070g、La0.6013g、a−Si 0.6911g、Eu0.0007gをそれぞれ秤量した後、大気雰囲気下で、乳鉢を用いて手作業により混合する方式で、1.5gの原料粉末混合物を得た。
【0048】
このように混合された原料粉末混合物1.5gをるつぼに仕込み、焼成炉の内部に窒素ガスを注入して、圧力0.5MPaの窒素雰囲気を作った後、1500℃で6時間加熱する焼成処理を行った後、粉砕することにより、蛍光体組成物を得た。この蛍光体組成物は、460nmの励起源を用いた時、緑色発光になるものと確認された。
【0049】
[実施例2]
実施例2の蛍光体組成物の原料粉末は、CaO 0.2053g、La0.5964g、a−Si 0.6917g、Eu0.0065gをそれぞれ秤量した後、大気雰囲気下、乳鉢を用いて手作業により混合する方式で、1.5gの原料粉末混合物を収得し、その後の過程は実施例1と同様にして、蛍光体組成物を得た。この蛍光体組成物は、460nmの励起源を用いた時、緑色発光になるものと確認された。
【0050】
[実施例3]
実施例3の蛍光体組成物の原料粉末は、CaO 0.2022g、La0.5874g、a−Si 0.6930g、Eu0.0174gをそれぞれ秤量した後、大気雰囲気下、乳鉢を用いて手作業により混合する方式で、1.5gの原料粉末混合物を収得し、その後の過程は実施例1と同様にして、蛍光体組成物を得た。この蛍光体組成物は、460nmの励起源を用いた時、緑黄色発光になるものと確認された。
【0051】
[実施例4]
実施例4の蛍光体組成物の原料粉末は、CaO 0.1997g、 La0.5802g、a−Si 0.6939g、Eu0.0261gをそれぞれ秤量した後、大気雰囲気下、乳鉢を用いて手作業により混合する方式で、1.5gの原料粉末混合物を収得し、その後の過程は実施例1と同様にして、蛍光体組成物を得た。この蛍光体組成物は、460nmの励起源を用いた時、黄色発光になるものと確認された。
【0052】
[実施例5]
実施例5の蛍光体組成物の原料粉末は、CaO 0.1979g、La0.5748g、a−Si 0.6947g、Eu0.0327gをそれぞれ秤量した後、大気雰囲気下、乳鉢を用いて手作業により混合する方式で、1.5gの原料粉末混合物を収得し、その後の過程は実施例1と同様にして、蛍光体組成物を得た。この蛍光体組成物は、460nmの励起源を用いた時、黄色発光になるものと確認された。
【0053】
[実施例6]
実施例6の蛍光体組成物の原料粉末は、CaO 0.1960g、La0.5693g、a−Si 0.6954g、Eu0.0393gをそれぞれ秤量した後、大気雰囲気下、乳鉢を用いて手作業により混合する方式で、1.5gの原料粉末混合物を収得し、その後の過程は実施例1と同様にして、蛍光体組成物を得た。この蛍光体組成物は、460nmの励起源を用いた時、黄色発光になるものと確認された。
【0054】
[実施例7]
実施例7の蛍光体組成物の原料粉末は、CaO 0.1922g、La0.5584g、a−Si 0.6969g、Eu0.0524gをそれぞれ秤量した後、大気雰囲気下、乳鉢を用いて手作業により混合する方式で、1.5gの原料粉末混合物を収得し、その後の過程は実施例1と同様にして、蛍光体組成物を得た。この蛍光体組成物は、460nmの励起源を用いた時、黄色発光になるものと確認された。
【0055】
[実施例8]
実施例8の蛍光体組成物の原料粉末は、CaO 0.1796g、La0.5825g、a−Si 0.6967g、MgO 0.0150g、Eu 0.0262gをそれぞれ秤量した後、大気雰囲気下、乳鉢を用いて手作業により混合する方式で、1.5gの原料粉末混合物を収得し、その後の過程は実施例1と同様にして、蛍光体組成物を得た。この蛍光体組成物は、460nmの励起源を用いた時、黄色発光になるものと確認された。
【0056】
[実施例9]
実施例9の蛍光体組成物の原料粉末は、CaO 0.1768g、La0.5735g、a−Si 0.6859g、SrO 0.0380g、Eu 0.0258gをそれぞれ秤量した後、大気雰囲気下、乳鉢を用いて手作業により混合する方式で、1.5gの原料粉末混合物を収得し、その後の過程は実施例1と同様にして、蛍光体組成物を得た。この蛍光体組成物は、460nmの励起源を用いた時、黄色発光になるものと確認された。
【0057】
[実施例10]
実施例10の蛍光体組成物の原料粉末は、CaO 0.1747g、La0.5666g、a−Si 0.6776g、BaO 0.0556g、Eu 0.0255gをそれぞれ秤量した後、大気雰囲気下、乳鉢を用いて手作業により混合する方式で、1.5gの原料粉末混合物を収得し、その後の過程は実施例1と同様にして、蛍光体組成物を得た。この蛍光体組成物は、460nmの励起源を用いた時、黄色発光になるものと確認された。
【0058】
[実施例11]
実施例11の蛍光体組成物の原料粉末は、CaO 0.1764g、La0.5722g、a−Si 0.6843g、Y0.0413g、Eu 0.0258gをそれぞれ秤量した後、大気雰囲気下、乳鉢を用いて手作業により混合する方式で、1.5gの原料粉末混合物を収得し、その後の過程は実施例1と同様にして、蛍光体組成物を得た。この蛍光体組成物は、460nmの励起源を用いた時、黄色発光になるものと確認された。
【0059】
[実施例12]
実施例12の蛍光体組成物の原料粉末は、CaO 0.1754g、La0.5687g、a−Si 0.6802g、Sc0.0501g、Eu 0.0256gをそれぞれ秤量した後、大気雰囲気下、乳鉢を用いて手作業により混合する方式で、1.5gの原料粉末混合物を収得し、その後の過程は実施例1と同様にして、蛍光体組成物を得た。この蛍光体組成物は、460nmの励起源を用いた時、緑黄色発光になるものと確認された。
【0060】
[実施例13]
実施例13の蛍光体組成物の原料粉末は、CaO 0.1736g、La0.5628g、a−Si 0.6731g、Gd0.0652g、Eu 0.0253gをそれぞれ秤量した後、大気雰囲気下、乳鉢を用いて手作業により混合する方式で、1.5gの原料粉末混合物を収得し、その後の過程は実施例1と同様にして、蛍光体組成物を得た。この蛍光体組成物は、460nmの励起源を用いた時、黄色発光になるものと確認された。
【0061】
[実施例14]
実施例14の蛍光体組成物の原料粉末は、CaO 0.1733g、La0.5620g、a−Si 0.6722g、Tb0.0672g、Eu 0.0253gをそれぞれ秤量した後、大気雰囲気下、乳鉢を用いて手作業により混合する方式で、1.5gの原料粉末混合物を収得し、その後の過程は実施例1と同様にして、蛍光体組成物を得た。この蛍光体組成物は、460nmの励起源を用いた時、黄色発光になるものと確認された。
【0062】
[実施例15]
実施例15の蛍光体組成物の原料粉末は、CaO 0.1897g、La0.5906g、a−Si 0.6781g、CeO0.0416gをそれぞれ秤量した後、大気雰囲気下、乳鉢を用いて手作業により混合する方式で、1.5gの原料粉末混合物を収得し、その後の過程は実施例1と同様にして、蛍光体組成物を得た。この蛍光体組成物は、460nmの励起源を用いた時、黄色発光になるものと確認された。
【0063】
[実施例16]
実施例16の蛍光体組成物の原料粉末は、CaO 0.1982g、La0.5757g、a−Si 0.7082g、MnO 0.0179gをそれぞれ秤量した後、大気雰囲気下、乳鉢を用いて手作業により混合する方式で、1.5gの原料粉末混合物を収得し、その後の過程は実施例1と同様にして、蛍光体組成物を得た。この蛍光体組成物は、460nmの励起源を用いた時、青色発光になるものと確認された。
【0064】
以上のような実施例1〜16の原料物質の混合割合および発光特性の結果を、下記表1にまとめて示した。
【0065】
【表1】
【0066】
また、本発明の実施例4、8〜14による蛍光体組成物を、XRDおよびTEMを介して結晶構造の分析を行い、XRD分析後、実施例4によって製造された蛍光体については、SR−XRD(synchrotron radiation X−ray diffraction)を用いて、精緻なX−線回折分析を行った。
【0067】
図1aは、本発明の実施例4によって製造された蛍光体のSR−XRD(synchrotron radiation X−ray diffraction)分析結果であり、図1bは、一般XRD分析装置を用いた分析結果である。また、図2は、本発明の実施例4による母体の組成のうち、CaまたはLaをMg、Sr、Ba、Y、Sc、Gd、Tbに10%程度置き換えた実施例8〜14のXRD分析結果を、実施例4と対比したものである。
【0068】
図1aおよび図1bから確認されるように、本発明の実施例4によって製造された蛍光体は、粉末X線回折パターンにおけるもっとも強度のある回折ピークの相対強度を100%とした時、前記X線回折パターンのブラッグ角(2Θ)が、10.68゜〜11.41゜、18.52゜〜19.46゜、31.58゜〜31.21゜、36.81゜〜37.49゜の範囲(図1aおよび図1bにおいて、縦に線が引かれている領域)で相対強度5%以上の回折ピークを示す特徴がある。
【0069】
また、図2から確認されるように、CaまたはLaを、Mg、Sr、Ba、Y、Sc、Gd、Tbに置き換えた本発明の実施例8〜14の蛍光体もまた、結晶構造においては実施例4と実質的に同一であって、結晶構造においてはほとんど変化がないことが分かる。さらに、前記置換成分の含有量が多くなり、50%を超えるようになると、本発明にかかる単斜晶系の結晶構造を有する組成物を得ることができないのも確認された。一方、結晶構造の安定性を考慮するとき、それらの前記元素は、10%以下で添加されることが好ましい。
【0070】
また、シンクロトロン粉末XRD(Synchrotron powder XRD)の分析結果にてプロファイルマッチングを行った結果、本発明の実施例4による蛍光体の結晶構造は、a=18.5427Å、b=4.8404Å、c=10.7007Å、α=γ=90゜、β=108.257゜であり、蛍光体母体が単斜晶系の結晶構造を有することが確認された。また、図5のTEM SAEDを用いて結晶構造を分析した結果もまた上述した分析結果を裏付けているが、このような結晶構造を有する蛍光体は、現在まで知られたことのない、新規のものである。
【0071】
下記表2は、本発明の実施例1〜16による蛍光体のXRD分析結果にてプロファイルマッチングを行った結果を示すものである。このうち、実施例4は、シンクロトロン粉末XRD(Synchrotron powder XRD)の分析結果によるものであり、その他は、実験室で作成したXRD分析結果によるものである。
【0072】
【表2】
【0073】
前記表2から確認されるように、本発明の実施例1〜3、5〜16による蛍光体は、a=18.5427Å、b=4.8404Å、c=10.7007Å、α=γ=90゜、β=108.257゜を基準値(実施例4)として見るとき、a、b、c、βの値の変化が、前記基準値より±5%以下であることが分かる。
【0074】
また、図4の内部三角形は、本発明者らの実験を通じて、Ca、La、Siの含有量中、実質的に本発明にかかる単斜晶系の結晶構造を有する単相が得られる組成範囲を示したものであって、この組成範囲から外れた場合、本発明の実施例による蛍光体のような結晶構造を有する単相を得ることは困難であった。
【0075】
図5および図6は、同一の母体組成でEu2+のドープ量に差異のある、本発明の実施例1〜7による蛍光体の発光特性の相異を示した図であって、図5は、輝度の相対強度を示し、図6は、強度をノーマルライズした結果を示した図である。
【0076】
図5から確認されるように、Eu2+のドープ量がモル比で、0.001であるときは輝度が非常に低くて、0.04、0.05、0.06であるときは優れており、0.04であるとき、もっとも優れていると分析された。したがって、Eu2+のドープ量は、0.03〜0.07がもっとも好ましいと言える。また、図6から確認されるように、Eu2+のドープ量によって発光ピークがどんどん長波長の方に移動しながら、 Eu2+のドープ量の変化に応じて緑黄色から濃黄色までに多様な発光色を得ることができる。
【0077】
図7は、本発明の実施例8〜14の発光特性を示したものであって、強度をノーマルライズした結果を示した図である。図7から確認されるように、賦活剤として同様にEu2+を用いた場合、ピーク波長は550〜560nmで黄色を呈しており、置き換えられる物質の差異によるピーク波長の差はほとんどなかった。
【0078】
図8は、本発明の実施例15および16の発光特性を示したものであって、強度をノーマルライズした結果を示した図である。図8から確認されるように、CeまたはMnを賦活剤として用いた場合、400nmの励起源で照射したとき、約500nmの近所でピーク波長を示し、青色発光をするものと確認された。
【0079】
以上のような結果は、本発明にかかる蛍光体組成物は、賦活剤の種類または含有量の調節を通じて、青色から黄色に至るまでの広い範囲で発光が可能であり、特に、黄色蛍光体として適切に用いることができることを示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8