特許第5970542号(P5970542)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5970542成型触媒の製造方法および該成型触媒を用いるジエンまたは不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5970542
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】成型触媒の製造方法および該成型触媒を用いるジエンまたは不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/00 20060101AFI20160804BHJP
   B01J 23/88 20060101ALI20160804BHJP
   B01J 35/08 20060101ALI20160804BHJP
   C07C 11/167 20060101ALI20160804BHJP
   C07C 5/48 20060101ALI20160804BHJP
   C07C 27/12 20060101ALI20160804BHJP
   C07C 47/22 20060101ALI20160804BHJP
   C07C 45/35 20060101ALI20160804BHJP
   C07C 57/05 20060101ALI20160804BHJP
   C07C 51/21 20060101ALI20160804BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20160804BHJP
【FI】
   B01J37/00 E
   B01J23/88 Z
   B01J35/08 Z
   C07C11/167
   C07C5/48
   C07C27/12
   C07C47/22
   C07C45/35
   C07C57/05
   C07C51/21
   !C07B61/00 300
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-512523(P2014-512523)
(86)(22)【出願日】2013年4月19日
(86)【国際出願番号】JP2013061624
(87)【国際公開番号】WO2013161703
(87)【国際公開日】20131031
【審査請求日】2015年4月8日
(31)【優先権主張番号】特願2012-98259(P2012-98259)
(32)【優先日】2012年4月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平岡 良太
(72)【発明者】
【氏名】日野 由美
(72)【発明者】
【氏名】奥村 公人
(72)【発明者】
【氏名】杉山 元彦
(72)【発明者】
【氏名】元村 大樹
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−518659(JP,A)
【文献】 特開2012−045516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
WPI
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデンを必須成分とする複合金属酸化物を含有する触媒粉末を、相対遠心加速度1〜35Gにて転動造粒法により不活性担体に担持する、固定床酸化反応または固定床酸化脱水素反応用成型触媒の製造方法。
【請求項2】
前記複合金属酸化物が下記式(1)で表される組成を有する請求項1に記載の成型触媒の製造方法。
MoBiNiCoFe 式(1)
(式(1)中、Mo、Bi、Ni、Co、Fe及びOはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄及び酸素を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウム、テルル、ホウ素、ゲルマニウム、ジルコニウムおよびチタンからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を表し、Yはカリウム、ルビジウム、カルシウム、バリウム、タリウムおよびセシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を表し、a、b、c、d、f、g、h及びxは、それぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Yおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1〜7、c+d=0.5〜20、f=0.5〜8、g=0〜2、h=0.005〜2であり、x=各元素の酸化状態によって決まる値である。)
【請求項3】
得られる成型触媒の下記の強度測定よる磨損度が3重量%以下である請求項1または2に記載の成型触媒の製造方法。
(強度測定)
成形触媒50.0gを、内部に一枚の邪魔板を備えた、半径14cmの円筒型回転機に仕込み23rpmで10分間回転させ、その後剥離した粉末を1.7mm間隔のふるいで除去し、残存量(g)を測定し、以下の式から磨損度を求める。
摩損度(%)=(50.0−残存量)/50.0×100
【請求項4】
製造される成型触媒が、酸化脱水素反応によりn−ブテンよりブタジエンを製造する反応に用いる触媒である請求項1〜3のいずれか1項に記載の成型触媒の製造方法
【請求項5】
製造される成型触媒が、酸化反応により不飽和炭化水素より不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造する反応に用いる触媒である請求項1〜3のいずれか1項に記載の成型触媒の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジエン類または不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造に用いる成型触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種化学品の原料として使用されるアクリル酸、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸は、不飽和アルデヒドを中間生成物として、2段階反応で製造することができる。アクリル酸やメタクリル酸は、いずれも堅調な需要の伸びが継続していることから、製造に使用する触媒の改良が精力的に進められている。
一方、合成ゴムなどの原料として使用される重要な化学品原料であるブタジエンは、近年、世界的な自動車需要の高まりと環境意識向上により、省エネルギータイプの自動車タイヤの原料としての需要が急増している。しかし、C4留分の生産量が低下しているため、ブタジエン生産量の不足が続いており、今後さらにブタジエン供給量の不足が加速するものと予想されている。このため、新たなブタジエン製造方法の工業化が強く望まれている。
【0003】
モリブデンを必須成分とする複合金属酸化物触媒による、固定床反応装置での不飽和炭化水素の選択酸化反応により、不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造する方法はよく知られている。また、モリブデンを必須成分とする複合金属酸化物触媒を用いて、固定床反応装置でn−ブテンからブタジエンを製造する方法もよく知られている。
固定床反応装置で使用される触媒の形状は、その用途に応じ選択されるものであるが、リング形状、シリンダー形状、タブレット形状、ハニカム形状、三つ葉型、四葉型、さらには球状の触媒形状がよく使用されている。中でも球状の触媒は触媒を反応管に充填する作業、使用後の触媒を反応管から抜き出す作業の容易性から広く使用されている。
また、不活性担体に触媒活性成分を担持成型する方法は、発熱を伴う反応では逐次反応による目的生成物の選択性の低下をおさえ、触媒層の蓄熱を低減する目的等により、工業的に広く使用されている。特に有機化合物の酸化反応や酸化脱水素反応により目的生成物を選択的に製造する場合には、有効な方法として用いられている。
【0004】
球状の担持成型触媒の製造方法としては特許文献1にプロピレンからアクロレインおよび/またはアクリル酸を製造する触媒の製造方法、特許文献2にはイソブチレンおよび/またはターシャリーブチルアルコールからメタクロレインおよび/またはメタクリル酸を製造する触媒の製造方法が開示されている。
特許文献1及び2において、球状の成型触媒を製造する方法として転動造粒法による製造方法が開示されている。具体的には、所望の触媒粒径とするために必要な球状担体を転動造粒装置に入れ、成型機を回転させながらバインダーとなる液体と触媒活性成分および/またはその前駆体を担体にふりかけてゆくことで球状成型触媒が製造されている。
【0005】
上述のように、n−ブテンから、ブタジエンを製造する方法は公知である。例えば特許文献3や特許文献4には、モリブデン、ビスマス、鉄およびコバルトを主成分とする複合金属酸化物触媒の存在下で酸化脱水素する方法が記載されている。しかし、触媒活性、ブタジエン選択性、反応運転の安定性、触媒寿命および触媒製造などの点から、従来の触媒では工業化には不十分であり、その改良が強く望まれていた。
また、特許文献5には、細孔形成剤を混在させて製造する被覆成型触媒についての記載があり、工業スケールでの製造についても記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特許第3775872号
【特許文献2】日本国特許第5130562号
【特許文献3】日本国特公昭49−003498号公報
【特許文献4】日本国特開昭58−188823号公報
【特許文献5】日本国特表2011−518659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献5には、細孔形成剤を混在させて被覆成型触媒を製造したことによる、ブテンの変換率及びブタジエンの選択率に対する効果が明確に示されてはいない。また、特許文献5で引用されている被覆成型触媒の製造方法では、相対遠心加速度が本特許の方法に比べて極めて低い条件となっており、実用上機械強度の点で問題となる。
本発明は、十分な機械的強度と触媒性能をかねそなえた成型触媒を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、成型触媒の製造工程における転動造粒機の直径(回転半径)、回転速度を調節することによって特定の相対遠心加速度を与えて製造した触媒が高い触媒性能と強い機械的強度を兼ねそなえた触媒となることが分かり、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、
(1)モリブデンを必須成分とする複合金属酸化物を含有する触媒粉末を、相対遠心加速度1〜35Gにて転動造粒法により不活性担体に担持する、固定床酸化反応または固定床酸化脱水素反応用成型触媒の製造方法
(2)前記複合金属酸化物が下記式(1)で表される組成を有する上記(1)に記載の成型触媒の製造方法
MoBiNiCoFe 式(1)
(式(1)中、Mo、Bi、Ni、Co、Fe及びOはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄及び酸素を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウム、テルル、ホウ素、ゲルマニウム、ジルコニウムおよびチタンからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を表し、Yはカリウム、ルビジウム、カルシウム、バリウム、タリウムおよびセシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を表し、a、b、c、d、f、g、h及びxは、それぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Yおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1〜7、c+d=0.5〜20、f=0.5〜8、g=0〜2、h=0.005〜2であり、x=各元素の酸化状態によって決まる値である。)
(3)得られる成型触媒の磨損度が3重量%以下である(1)または(2)に記載の成型触媒の製造方法
(4)製造される成型触媒が、酸化脱水素反応によりn−ブテンよりブタジエンを製造する反応に用いる触媒である上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の成型触媒の製造方法
(5)n−ブテンを、分子状酸素存在下、上記(4)に記載の製造方法により得られた成型触媒を用いて、気相接触酸化脱水素反応によりブタジエンに酸化脱水素する、ブタジエンの製造方法
(6)製造される成型触媒が、酸化反応により不飽和炭化水素より不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造する反応に用いる触媒である上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の成型触媒の製造方法
(7)不飽和炭化水素を、分子状酸素存在下、上記(6)に記載の製造方法により得られた成型触媒を用いて、気相接触酸化反応により、対応する不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸に酸化する、不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、十分な機械的強度と触媒性能をかねそなえた成型触媒の製造が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の方法による実施の形態を詳細に説明する。
なお、以下において本発明の製造方法により得られる成型触媒の好ましい用途である、プロピレンからアクロレインおよび/またはアクリル酸、イソブチレンおよび/またはターシャリーブチルアルコールからメタクロレインおよび/またはメタクリル酸、あるいはn−ブテンからブタジエンを製造するためのモリブデン−ビスマスを主要活性成分とする触媒を例に記載する。
【0011】
本発明において得られる成型触媒における触媒粉末に含まれる複合金属酸化物は、モリブデンを必須元素として含有する限り、他の構成元素及びその構成比に特に制限はないが、好ましくは下記一般式(1)
MoBiNiCoFe 式(1)
(式中、Mo、Bi、Ni、Co、Fe及びOはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄及び酸素を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウム、テルル、ホウ素、ゲルマニウム、ジルコニウムおよびチタンからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を表し、Yはカリウム、ルビジウム、カルシウム、バリウム、タリウムおよびセシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を表し、a、b、c、d、f、g、hおよびxは、それぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Yおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1〜7、好ましくはb=0.5〜4、c+d=0.5〜20、好ましくはc+d=1〜12、f=0.5〜8、好ましくはf=0.5〜5、g=0〜2、好ましくはg=0〜1、h=0.005〜2、好ましくはh=0.01〜0.5であり、x=各元素の酸化状態によって決まる値である。)で表記することが出来る。
【0012】
ここで、触媒活性成分を含有する粉末は共沈法、噴霧乾燥法など公知の方法で調製される。その際使用する原料としてはモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X及びY等各種金属元素の硝酸塩、アンモニウム塩、水酸化物、酸化物、酢酸塩などを用いることができ、特に制限されない。水に供給する金属塩の種類および/または量を変えることで異なる種類の触媒活性成分を含有する液体またはスラリーを調製し、噴霧乾燥法などにより触媒活性成分を含有する粉末を得ることもできる。
こうして得られた粉末を200〜600℃、好ましくは300〜500℃で、好ましくは空気または窒素気流中にて焼成し触媒活性成分(以下、予備焼成粉末という)を得ることができる。
【0013】
こうして得られた予備焼成粉末は、このままでも触媒として使用できるが、本発明においては生産効率、作業性を考慮し成型する。成型物の形状は触媒成分を被覆することができれば特に限定されないが、製造上や実際の使用上からは球状であることが好ましい。成型に際しては、単独の予備焼成粉末を使用し、成型するのが一般的であるが、別々に調製した成分組成が異なる顆粒の予備焼成粉末を任意の割合であらかじめ混合し成型してもよいし、不活性担体上に異種の予備焼成粉末の担持する操作を繰り返して、複層に予備焼成粉末が成型されるような手法を採用してもよい。尚、成型する際には結晶性セルロースなどの成型助剤および/またはセラミックウイスカーなどの強度向上剤を混合することが好ましい。成型助剤および/または強度向上剤の使用量は予備焼成粉末に対しそれぞれ30重量%以下であることが好ましい。また、成型助剤および/または強度向上剤は上記予備焼成粉末と成型前にあらかじめ混合してもよいし、成型機に予備焼成粉末を添加するのと同時または前後に添加してもよい。即ち、最終的に反応に使用する成型触媒が、所望の触媒物性および/または触媒組成の範囲内にあれば、上記の成型物形状や成型手法を採用することができる。
【0014】
本発明の製造方法によれば、予備焼成粉末(必要により成型助剤、強度向上剤を含む)をセラミック等の不活性担体に被覆成型される方法により成型した触媒を製造することができる。即ち担持方法としては転動造粒法により、予備焼成粉末が担体表面に均一に被覆するように成型する。このとき担体を投入した成型機を高速で回転させることによって、容器内に仕込まれた担体を、担体自体の自転運動と公転運動の繰り返しにより激しく撹拌する。この場合、予備焼成粉末並びに必要により、成型助剤及び強度向上剤を添加することにより、触媒粉体が担体上に被覆成型される方法が好ましい。
【0015】
なお、担持に際して、液状のバインダーを使用することが好ましい。
使用できるバインダーの具体例としては、水やエタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコール、高分子系バインダーのポリビニールアルコール、無機系バインダーのシリカゾル水溶液等が挙げられるが、エタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコールが好ましく、エチレングリコール等のジオールやグリセリン等のトリオール等がより好ましく、特にグリセリンの濃度が5重量%以上の水溶液が好ましい。グリセリン水溶液を適量使用することにより成型性が良好となり、機械的強度の高い、高活性かつ高性能な触媒が得られる。これらバインダーの使用量は、予備焼成粉末100重量部に対して通常2〜60重量部であるが、グリセリン水溶液の場合は10〜50重量部が好ましい。担持に際してバインダーは転動造粒機に予備焼成粉末と同時に添加しても、予備焼成粉末と交互に添加してもよい。
【0016】
不活性担体の大きさは、通常2〜20mm程度のものを使用し、これに予備焼成粉末を担持させる。その担持率は触媒使用条件、たとえば空間速度、原料炭化水素濃度を考慮して決定される。
通常は、10〜80重量%となるように担持させるのが好ましい。成型後の触媒の担持率は以下の式(2)で定義される
担持率(%)=(予備焼成粉末の重量/(予備焼成粉末の重量+担体の重量))×100 式(2)
【0017】
転動造粒するときに加える上記の相対遠心加速度は、通常1G〜35G、好ましくは1.2G〜30G、より好ましくは1.5G〜20Gである。ここで相対遠心加速度とは、転動造粒機に担体を入れて、当該装置で回転させたときに単位重量あたりにかかる遠心力の大きさを、重力加速度との比であらわした数値であり、下記式(3)で表される。これは当該装置の回転の中心からの距離の絶対値および回転速度の2乗に比例して増大する。
RCF=1118×r×N×10−8 式(3)
式(3)において、RCFは相対遠心加速度(G)、rは回転中心からの距離(cm)、Nは回転速度(rpm)を表す。
成型には、一般的な大きさの装置を使用することができる。
回転半径の小さな成型機を使用する場合は、回転数を上げることで相対遠心加速度を調節することが出来る。回転半径は特に制限されないが、実際には市販されている機器を使用することが簡便であり、通常は0.1〜2m程度とすることが好ましい。回転速度は、使用する成型機の大きさにより、上記式(3)に従って、上記の相対遠心加速度範囲になるように決定される。成型機への不活性担体の投入量は、成型機の大きさ、所望の生産速度等から適宜設定されるものであるが、0.1〜100kgの範囲で実施することが好ましい。
なお、特許文献5にも、モリブデンを含有する被覆成型触媒を転動造粒法により製造することが示唆されている。しかし、その転動造粒時の回転速度は本発明の方法に比べて極端に遅い。そのため、相対遠心加速度も本発明の方法に比べて極めて低いものである。
【0018】
転動造粒工程を経た成型触媒は、そのままでも反応器に充填可能であるが、加熱時に触媒に残存しているバインダー等の燃焼により高温度になることを避けるためや、操作上の安全衛生、実用強度を確保するなどの観点から、転動造粒工程を経た成型触媒を反応に使用する前に再度焼成する方が好ましい。再度焼成する際の焼成温度は450〜650℃、焼成時間は3〜30時間、好ましくは4〜15時間であり、使用する反応条件に応じて適宜設定される。焼成の雰囲気は空気雰囲気、窒素雰囲気などいずれでもかまわないが、工業的には空気雰囲気が好ましい。
【0019】
こうして得られた本発明の触媒は、高い機械的強度を有する。具体的には、磨損度が3重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5重量%以下であり、さらに好ましくは0.5重量%以下である。
【0020】
こうして得られた本発明の触媒は、プロピレンを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化しアクロレインおよびアクリル酸を製造する工程、または、イソブチレン、あるいは本発明の触媒などの固体酸触媒上で容易にイソブチレンと水に変化することが知られているターシャリーブチルアルコールを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化しメタクロレインおよびメタクリル酸を製造する工程、またはn−ブテンを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化脱水素反応によりブタジエンを製造する工程に使用できる。本発明の製造方法において原料ガスの流通方法は、通常の単流法でもあるいはリサイクル法でもよく、一般に用いられている条件下で実施することができ特に限定されない。たとえば出発原料物質としてのプロピレンが常温で1〜10容量%、好ましくは4〜9容量%、分子状酸素が3〜20容量%、好ましくは4〜18容量%、水蒸気が0〜60容量%、好ましくは4〜50容量%、二酸化炭素、窒素等の不活性ガスが20〜80容量%、好ましくは30〜60容量%からなる混合ガスを反応管中に充填した本発明の触媒上に250〜450℃で、常圧〜10気圧の圧力下で、空間速度300〜5000h−1で導入し反応を行うことができる。
n−ブテンの酸化脱水素反応の場合、例えば出発原料物質としてのn−ブテンが常温で1〜16容量%、好ましくは3〜12容量%、分子状酸素が1〜20容量%、好ましくは5〜16容量%、水蒸気が0〜60容量%、好ましくは4〜50容量%、二酸化炭素、窒素等の不活性ガスが64〜98容量%、好ましくは72〜92容量%からなる混合ガスを反応管中に充填した本発明の触媒上に250〜450℃で、常圧〜10気圧の圧力下で、空間速度300〜5000h−1で導入し反応を行うことができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
なお、本発明における転化率および収率はそれぞれ次の通り定義される。
【0022】
原料化合物転化率(モル%)=(反応した原料化合物のモル数/供給した原料化合物のモル数)×100
収率(モル%)=(生成した目的化合物のモル数/供給した原料化合物のモル数)×100
【0023】
上記計算式において、原料化合物をプロピレンとする酸化反応の場合、目的化合物は(アクロレイン+アクリル酸)である。原料化合物をイソブチレンおよび/またはターシャリーブチルアルコールとする酸化反応の場合の目的化合物は(メタクロレイン+メタクリル酸)である。また、原料化合物をn−ブテンとする酸化脱水素反応の場合、目的化合物はブタジエンである。
【0024】
実施例1
(触媒の製造)
蒸留水3000重量部を加熱攪拌しながらモリブデン酸アンモニウム四水和物423.8重量部と硝酸カリウム3.0重量部を溶解して水溶液(A1)を得た。別に、硝酸コバルト六水和物302.7重量部、硝酸ニッケル六水和物162.9重量部、硝酸第二鉄九水和物145.4重量部を蒸留水1000重量部に溶解して水溶液(B1)を、また濃硝酸42重量部を加えて酸性にした蒸留水200重量部に硝酸ビスマス五水和物164.9重量部を溶解して水溶液(C1)をそれぞれ調製した。上記水溶液(A1)に(B1)、(C1)を順次、激しく攪拌しながら混合し、生成した懸濁液をスプレードライヤーを用いて乾燥し440℃で6時間焼成して予備焼成粉末(D1)を得た。このときの触媒活性成分の酸素を除いた組成比は原子比でMo=12、Bi=1.7、Ni=2.8、Fe=1.8、Co=5.2、K=0.15であった。
その後、予備焼成粉末100重量部に結晶セルロース5重量部を混合した粉末を不活性担体(アルミナ、シリカを主成分とする直径4.5mmの球状物質)に、上記式(2)で定義される担持率が、50重量%を占める割合になるように、成型に使用する担体重量および予備焼成粉末重量を調整した。20重量%グリセリン水溶液をバインダーとして使用し、直径5.2mmの球状に担持成型して成型触媒(E1)を得た。
担持成型には直径23cmの円柱状の成型機を使用し、底板の回転数を150rpmとした。このときの相対遠心加速度は2.9Gであった。
成型触媒(E1)を、焼成温度510℃で4時間、空気雰囲気下で焼成することで成型触媒(F1)を得た。
【0025】
(酸化反応試験)
熱媒体としてアルミナ粉末を空気により流動させるためのジャケット及び触媒層温度を測定するための熱電対を管軸に設置した、内径28.4mmのステンレス製反応器に成型触媒(F1)を68ml充填し、反応浴温度を320℃にした。ここに原料モル比がプロピレン:酸素:窒素:水=1:1.7:6.4:3.0となるようにプロピレン、空気、水の供給量を設定したガスを空間速度862h−1で酸化反応器内へ導入し、反応器出口圧力を0kPaGとして反応開始後20時間後に触媒性能を評価した。結果を表1に示した。
【0026】
(強度測定)
成型触媒(F1) 50.0gを、内部に一枚の邪魔板を備えた、半径14cmの円筒型回転機に仕込み23rpmで10分間回転させた。その後剥離した粉末を1.7mm間隔のふるいで除去し、残存量(g)を測定し、以下の式から磨損度を求めた。結果を表1に示した。
磨損度(%)=(50.0−残存量)/50.0 × 100
【0027】
実施例2
成型の際の底板の回転数を210rpmとして、相対遠心加速度を5.7Gとしたこと以外は実施例1と同様の方法で成型触媒(F2)を製造した。成型触媒F2の酸化反応試験結果と強度測定結果を表1に示した。
【0028】
実施例3
成型の際の底板の回転数を260rpmとして、相対遠心加速度を8.7Gとしたこと以外は実施例1と同様の方法で成型触媒(F3)を製造した。成型触媒(F3)の酸化反応試験結果と強度測定結果を表1に示した。
【0029】
実施例4
成型の際の底板の回転数を430rpmとして、相対遠心加速度を24Gとしたこと以外は実施例1と同様の方法で成型触媒(F4)を製造した。成型触媒(F4)の酸化反応試験結果と強度測定結果を表1に示した。
【0030】
比較例1
成型の際の底板の回転数を75rpmとして、相対遠心加速度を0.72Gとしたこと以外は実施例1と同様の方法で成型触媒(V1)を製造した。成型触媒(V1)の酸化反応試験結果と強度測定結果を表1に示した。
【0031】
実施例5
(触媒の製造)
蒸留水12000重量部を加熱攪拌しながらモリブデン酸アンモニウム四水和物3000重量部と硝酸セシウム55.2重量部を溶解して水溶液(A2)を得た。別に、硝酸コバルト六水和物2782重量部、硝酸第二鉄九水和物1144重量部、硝酸ニッケル六水和物412重量部を蒸留水2300重量部に溶解して水溶液(B2)を、また濃硝酸397重量部を加えて酸性にした蒸留水1215重量部に硝酸ビスマス五水和物1167重量部を溶解して水溶液(C2)をそれぞれ調製した。上記水溶液(A2)に(B2)、(C2)を順次、水溶液(A2)を激しく攪拌しながら混合し、生成した懸濁液を、スプレードライヤーを用いて乾燥し、得られた粉末を460℃で5時間焼成して予備焼成粉末(D2)を得た。このときの触媒活性成分の酸素を除いた組成比は原子比でMo=12、Bi=1.7、Fe=2.0、Co=6.75、Ni=1.0、Cs=0.20であった。
その後、予備焼成粉末100重量部に結晶セルロース5重量部を混合した粉末を不活性担体(アルミナ、シリカを主成分とする直径4.5mmの球状物質)に、上記式(2)で定義される担持率が、50重量%を占める割合になるように、成型に使用する担体重量および予備焼成粉末重量を調整した。20重量%グリセリン水溶液をバインダーとして使用し、直径5.2mmの球状に担持成型して成型触媒(E5)を得た。
担持成型には直径23cmの円柱状の成型機を使用し、底板の回転数を260rpmとした。このときの相対遠心加速度は8.7Gであった。
成型触媒(E5)を、焼成温度500℃で4時間、空気雰囲気下で焼成することで成型触媒(F5)を得た。
【0032】
(酸化反応試験)
熱媒体としてアルミナ粉末を空気により流動させるためのジャケット及び触媒層温度を測定するための熱電対を管軸に設置した、内径22mmのステンレス製反応器に成型触媒(F5)を34ml充填し、反応浴温度を350℃にした。ここに原料モル比がイソブチレン:酸素:窒素:水=1:2.2:12.5:1.0となるようにイソブチレン、空気、水、窒素の供給量を設定したガスを空間速度1200h−1で酸化反応器内へ導入し、反応器出口圧力を0.5kPaGとして反応開始後20時間後に触媒性能を評価した。結果を表1に示した。
【0033】
(強度測定)
実施例1と同一の方法で磨損度を求めた。結果を表1に示した。
【0034】
実施例6
成型の際の底板の回転数を430rpmとして、相対遠心加速度を23.8Gとしたこと以外は実施例5と同様の方法で成型触媒(F6)を製造した。成型触媒(F6)の酸化反応試験結果と強度測定結果を表1に示した。
【0035】
実施例7
(触媒の製造)
実施例5と同様の方法で、成型の際の底板の回転数を260rpmとし、相対遠心加速度を8.7Gとして成型触媒(F7)を製造した。以下に記載する方法で行った成型触媒(F7)の酸化脱水素反応試験結果と強度測定結果を表1に示した。
【0036】
(酸化脱水素反応試験)
熱媒体としてアルミナ粉末を空気により流動させるためのジャケット及び触媒層温度を測定するための熱電対を管軸に設置した、内径28.4mmのステンレス製反応器に成型触媒(F7)を53ml充填し、反応浴温度を340℃にした。ここに原料モル比が1−ブテン:酸素:窒素:水=1:2.1:10.4:2.5となるように1−ブテン、空気、水、窒素の供給量を設定したガスを空間速度1440h−1で酸化反応器内へ導入し、反応器出口圧力を0kPaGとして反応開始後15時間後に触媒性能を評価した。
【0037】
実施例8
成型の際の底板の回転数を430rpmとして、相対遠心加速度を23.8Gとしたこと以外は実施例7と同様の方法で成型触媒(F8)を製造した。成型触媒(F8)を用いて実施例7と同様にして行った酸化脱水素反応試験結果と強度測定結果を表1に示した。
【0038】
比較例2
成型の際の底板の回転数を550rpmとして、相対遠心加速度を38.9Gとしたこと以外は実施例7と同様の方法で成型触媒(V2)を製造した。成型触媒(V2)を用いて実施例7と同様にして行った酸化脱水素反応試験結果と強度測定結果を表1に示した。
【0039】
比較例3
成型の際の底板の回転数を60rpmとして、相対遠心加速度を0.46Gとしたこと以外は実施例7と同様の方法で成型触媒(V3)を製造した。成型触媒(V3)を用いて実施例7と同様にして行った酸化脱水素反応試験結果と強度測定結果を表1に示した。
【0040】
【表1】
【0041】
表1の結果から明らかなように、同一触媒成分(Mo=12、Bi=1.7、Ni=2.8、Fe=1.8、Co=5.2、K=0.15)で相対遠心加速度のみを変えて製造した成型触媒(F1)〜(F4)(実施例1〜4)では、磨損度が最大でも約1%と小さな値になっており、実用強度が十分であることがわかる。また、成型触媒(F1)〜(F4)を用いて行った反応試験では、原料転化率、収率ともに良好な結果となっている。これに対して、相対遠心加速度を1G以下の条件で成型した成型触媒(V1)(比較例1)では、磨損度が3%を超えてしまい実用上触媒強度が不足していることがわかる。
【0042】
また、上記実施例とは別の触媒成分で、作成した同一触媒成分(Mo=12、Bi=1.7、Fe=2.0、Co=6.75、Ni=1.0、Cs=0.20)で相対遠心加速度のみを変えて製造した成型触媒(F5)〜(F8)(実施例5〜8)では、磨損度が1%以下であり十分な実用強度に達していることが分かる。これに対して、相対遠心加速度を1G以下の条件で成型した成型触媒(V3)(比較例3)では、磨損度が3%を超えてしまい実用上触媒強度が不足していることがわかる。
また、成型触媒(F5)あるいは成型触媒(F6)を用いて、イソブチレンの酸化反応を行った結果、良好な原料転化率、および有効収率が得られた。
同様に、成型触媒(F7)あるいは成型触媒(F8)用いて、1−ブテンの酸化脱水素反応を行った結果、良好な原料転化率、および有効収率が得られたが、本発明の範囲以上の相対遠心加速度の条件で成型した成型触媒(V2)では、同条件で実施した1−ブテンの酸化脱水素反応において、原料転化率が明らかに低下していることがわかる。
以上の結果から、本発明の方法によれば、触媒強度に優れ、良好な反応成績を示す触媒が製造できることは明らかである。
【0043】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。
なお、本出願は、2012年4月23日付で出願された日本国特許出願(特願2012−098259)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、十分な機械的強度と触媒性能をかねそなえた成型触媒の製造が可能となった。
本発明の方法により製造された成型触媒は、プロピレンからアクロレインおよび/またはアクリル酸、イソブチレンおよび/またはターシャリーブチルアルコールからメタクロレインおよび/またはメタクリル酸、あるいはn−ブテンからブタジエンを製造するための触媒として有用である。