(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記スチレン類(a−1)、前記(メタ)アクリル酸エステル(a−2)、および前記重合性不飽和モノマー(a−3)が、スチレン類(a−1)、(メタ)アクリル酸エステル(a−2)、および重合性不飽和モノマー(a−3)の合計量に対して、それぞれ下記の割合で含まれる、請求項1に記載の酸化硬化型アルキッド変性シリコーンアクリル共重合体。
(a−1)スチレン類:13〜40質量%
(a−2)(メタ)アクリル酸エステル:53〜86質量%
(a−3)重合性不飽和モノマー:1〜7質量%
前記スチレン類(a−1)、前記(メタ)アクリル酸エステル(a−2)、および前記重合性不飽和モノマー(a−3)が、酸化硬化型アルキッド変性シリコーンアクリル共重合体中に、合計で45〜87質量%の割合で含まれる、請求項1または2に記載の酸化硬化型アルキッド変性シリコーンアクリル共重合体。
酸化重合性基を有するアルキッド樹脂(c)に、下記の(a−1)、(a−2)および(a−3)に示すモノマーをグラフト重合させて酸化硬化型アクリル共重合体(a)を得る工程と、
得られた酸化硬化型アクリル共重合体(a)と、水酸基およびアルコキシ基の少なくとも一方を有するシリコーン(b)とを反応させる工程とを含み、
アルキッド樹脂(c)、スチレン類(a−1)、(メタ)アクリル酸エステル(a−2)、重合性不飽和モノマー(a−3)、およびシリコーン(b)の合計量に対して、アルキッド樹脂(c)が8〜40質量%、スチレン類(a−1)が10〜30質量%、およびシリコーン(b)が5〜15質量%の割合で用いられることを特徴とする、酸化硬化型アルキッド変性シリコーンアクリル共重合体の製造方法。
(a−1)スチレン類
(a−2)(メタ)アクリル酸エステル
(a−3)水酸基、カルボキシル基、グリシジル基、およびイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する重合性不飽和モノマー。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る酸化硬化型アルキッド変性シリコーンアクリル共重合体(以下、単に「本発明の共重合体」と記載する場合がある)は、酸化硬化型アクリル共重合体(a)と、水酸基およびアルコキシ基の少なくとも一方を有するシリコーン(b)(以下、単に「シリコーン(b)」と記載する場合がある)とを反応させて得られる。
【0018】
(酸化硬化型アクリル共重合体(a))
本発明で用いられる酸化硬化型アクリル共重合体(a)は、酸化重合性基を有するアルキッド樹脂(c)に、下記の(a−1)、(a−2)および(a−3)に示すモノマーをグラフト重合させて得られる。
(a−1)スチレン類
(a−2)(メタ)アクリル酸エステル
(a−3)水酸基、カルボキシル基、グリシジル基、およびイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する重合性不飽和モノマー(以下、単に「重合性不飽和モノマー」と記載する場合がある)。
【0019】
<酸化重合性基を有するアルキッド樹脂(c)>
アルキッド樹脂は、ポリエステル樹脂の一種であり、多価アルコールと多塩基酸とを縮合させることによって得られる。本発明においては、アルキッド樹脂の中でも、酸化重合性基を有するアルキッド樹脂(c)(以下、単に「アルキッド樹脂(c)」と記載する場合がある)が用いられる。
【0020】
アルキッド樹脂(c)が有する酸化重合性基は、例えば、不飽和脂肪酸に由来する不飽和炭素結合(炭素二重結合または炭素三重結合)である。すなわち、アルキッド樹脂(c)は、アルキッド樹脂に不飽和脂肪酸を導入することによって得られる。不飽和脂肪酸は、分子内に少なくとも1つの不飽和炭素結合を有する脂肪酸であれば、特に限定されない。本発明に用いられる不飽和脂肪酸は、固形ヨウ素価がある程度高い(すなわち、不飽和炭素結合を多く有する)ものが好ましく、このような不飽和脂肪酸としては、例えば、乾性油脂肪酸および半乾性油脂肪酸が挙げられる。乾性油脂肪酸および半乾性油脂肪酸は、厳密に区別できるものではないが、通常、乾性油脂肪酸は固形ヨウ素価が130以上の不飽和脂肪酸であり、半乾性油脂肪酸は固形ヨウ素価が100以上かつ130未満の不飽和脂肪酸である。なお、不乾性油脂肪酸は、通常、固形ヨウ素価が100未満の脂肪酸である。
【0021】
乾性油脂肪酸および半乾性油脂肪酸としては、例えば、魚油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、大豆油脂肪酸、ゴマ油脂肪酸、ケシ油脂肪酸、エノ油脂肪酸、麻実油脂肪酸、ブドウ核油脂肪酸、トウモロコシ油脂肪酸、トール油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸、綿実油脂肪酸、クルミ油脂肪酸、ゴム種油脂肪酸、ハイジエン酸脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などが挙げられる。これらの乾性油脂肪酸および半乾性油脂肪酸は、必要に応じて不乾性油脂肪酸(例えば、ヤシ油脂肪酸、水添ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸など)、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などと併用してもよい。
【0022】
さらに、本発明では、不飽和脂肪酸と共にあるいは不飽和脂肪酸の代わりに、油脂(グリセリド)を用いてもよい。油脂としては、不飽和炭素結合を有する油脂であって、例えば、魚油、脱水ヒマシ油、サフラワー油、亜麻仁油、大豆油、ゴマ油、ケシ油、エノ油、麻実油、ブドウ核油、トウモロコシ油、トール油、ヒマワリ油、綿実油、クルミ油、ゴム種油などの乾性油または半乾性油が挙げられる。
【0023】
アルキッド樹脂(c)の油長は、好ましくは30〜70%である。本明細書において「油長」は、アルキッド樹脂(c)原料中における脂肪酸または油脂の割合(質量%)を意味する。油長は下記の式で求められる。
油長(%)=(脂肪酸または油脂の質量/アルキッド樹脂(c)原料の総質量)×100
油長がこのような範囲の場合、得られる共重合体を塗膜形成成分として用いた場合に、酸化硬化性に富み架橋密度が高く、塗膜の初期光沢が高く、耐候性および初期乾燥性に優れた塗膜が得られる。さらに、アルキッド樹脂(c)の分子内に、適度に脂肪酸や油脂に由来する炭化水素基が導入され、塗料組成物を調製する際に、溶剤への溶解性がより向上する。油長は、より好ましくは40〜60%である。
【0024】
アルキッド樹脂(c)は、多価アルコールと多塩基酸と不飽和脂肪酸(または油脂)とを縮合反応(またはエステル交換反応)させることによって得られる。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、マンニトール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロプレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、D−ソルビトールなどが挙げられる。多塩基酸としては、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、無水コハク酸、マレイン酸、無水マレイン酸、アジピン酸、セバシン酸、テトラヒドロ無水フタル酸などが挙げられる。必要に応じて、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ヘキサヒドロ安息香酸、ケイ皮酸などの一塩基酸を併用することもできる。
【0025】
これらの原料を混合して、通常、170〜280℃で3〜15時間、常圧または加圧下で反応させればよい。反応の際には、溶剤(例えば、キシレン、トルエン、メチルイソブチルケトンなどが使用可能である。その他、使用可能な溶剤については後述する。)を用いてもよい。このようにして、分子内に不飽和脂肪酸残基が導入されたアルキッド樹脂(c)が得られる。さらに、必要に応じて公知の触媒を用いてもよい。
【0026】
本発明で用いられる酸化硬化型アクリル共重合体(a)は、このようなアルキッド樹脂(c)に、上記(a−1)、(a−2)および(a−3)のモノマーをグラフト重合させて得られる。
【0027】
<スチレン類(a−1)>
スチレン類(a−1)は、塗膜の初期光沢を向上させるために用いられる。本発明に用いられるスチレン類(a−1)は特に限定されず、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレンなどが挙げられる。これらの中でも、経済的な観点や入手の容易さからスチレンが好ましい。これらのスチレン類(a−1)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。スチレン類(a−1)は、上記(a−1)、(a−2)および(a−3)の合計量に対して、好ましくは13〜40質量%の割合で用いられる。一般的に、スチレン類(a−1)を多く使用すると、耐衝撃性(強度)や耐候性を低下させる傾向にある。本発明では、スチレン類(a−1)の使用量を比較的多く設定しているにもかかわらず、他のモノマー((a−2)および(a−3))とのバランスや、アルキッド樹脂(c)および後述するシリコーン(b)とのバランスによって、塗膜の耐衝撃性(強度)および耐候性をほとんど低下させることなく、塗膜の初期光沢および初期乾燥性をより高めることができる。スチレン類(a−1)は、より好ましくは20〜33質量%の割合で用いられる。
【0028】
<(メタ)アクリル酸エステル(a−2)>
(メタ)アクリル酸エステル(a−2)は、塗膜に柔軟性および耐候性を付与するために用いられる。なお、本明細書において「(メタ)アクリル」は、「アクリル」または「メタクリル」を意味する。本発明で用いられる(メタ)アクリル酸エステル(a−2)は特に限定されず、例えば、炭素数が1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソステアリル、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキル(例えば、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル)などが挙げられる。
【0029】
さらに、(メタ)アクリル酸エステル(a−2)として、分子内にフッ素原子を含む(メタ)アクリル酸エステルを用いてもよい。このような(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば分子内に3〜17個のフッ素原子を有する(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。分子内にフッ素原子を含む(メタ)アクリル酸エステルは、例えば下記の製品名で大阪有機化学工業(株)より市販されている。
ビスコート3F(フッ素原子3個含有アクリル酸エステルモノマー)
ビスコート4F(フッ素原子4個含有アクリル酸エステルモノマー)
ビスコート8F(フッ素原子8個含有アクリル酸エステルモノマー)
ビスコート12F(フッ素原子12個含有アクリル酸エステルモノマー)
ビスコート17F(フッ素原子17個含有アクリル酸エステルモノマー)
これらの中でも、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、およびメタクリル酸t−ブチルが好ましい。これらの(メタ)アクリル酸エステル(a−2)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
なお、一般的に(メタ)アクリル酸エステルに分類される化合物は、その種類によっては、後述する重合性不飽和モノマー(a−3)に分類される化合物と重複する場合がある。例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチルは、(メタ)アクリル酸エステルおよび重合性不飽和モノマーに分類される。このような極性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステルは、本明細書では「重合性不飽和モノマー(a−3)」に分類する。極性官能基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、グリシジル基、イソシアネート基などが挙げられる。
【0031】
(メタ)アクリル酸エステル(a−2)は、上記(a−1)、(a−2)および(a−3)の合計量に対して、好ましくは53〜86質量%の割合で用いられる。(メタ)アクリル酸エステル(a−2)をこのような割合で用いることによって、塗膜の初期光沢および耐衝撃性(強度)をほとんど低下させることなく、塗膜の柔軟性および耐候性をより高めることができる。(メタ)アクリル酸エステル(a−2)は、より好ましくは64〜79質量%の割合で用いられる。
【0032】
<重合性不飽和モノマー(a−3)>
重合性不飽和モノマー(a−3)は、後述するシリコーン(b)を共重合体に導入する(すなわち、酸化硬化型アクリル共重合体(a)とシリコーン(b)とを結合させる)ために用いられる。重合性不飽和モノマー(a−3)は、分子内に水酸基、カルボキシル基、グリシジル基、およびイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する重合性不飽和モノマーであれば、特に限定されない。これらの中でも、分子内に水酸基またはカルボキシル基を有する重合性不飽和モノマーが好ましい。これらの重合性不飽和モノマー(a−3)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
水酸基を有する重合性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルなどの水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルが好ましい。
【0034】
カルボキシル基を有する重合性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのα、β−不飽和カルボン酸またはその塩;上述の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルと酸無水物とのハーフエステル化物などが挙げられる。これらの中でも、α、β−不飽和カルボン酸が好ましく、(メタ)アクリル酸がより好ましく、メタクリル酸がさらに好ましい。
【0035】
グリシジル基を有する重合性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸グリシジルが好ましい。
【0036】
イソシアネート基を有する重合性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸イソシアナトメチル、(メタ)アクリル酸2−イソシアナトエチル、(メタ)アクリル酸3−イソシアナトプロピル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−イソシアナトエチル、(メタ)アクリル酸2−イソシアナトプロピル、(メタ)アクリル酸4−イソシアナトブチルなどのイソシアネート基含有(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸2−イソシアナトエチルが好ましい。
【0037】
重合性不飽和モノマー(a−3)は、上記(a−1)、(a−2)および(a−3)の合計量に対して、好ましくは1〜7質量%の割合で用いられる。重合性不飽和モノマー(a−3)をこのような割合で用いることによって、シリコーン(b)との反応が適度に進行し、塗膜の初期光沢をほとんど低下させることなく、塗膜の耐候性および耐衝撃性(強度)をより高めることができる。さらに、塗料組成物の粘度も高くなりすぎない。重合性不飽和モノマー(a−3)は、より好ましくは1〜3質量%の割合で用いられる。
【0038】
アルキッド樹脂(c)に、これらの(a−1)、(a−2)および(a−3)をグラフト重合させる方法は、特に限定されない。例えば、光照射や、以下に示す重合開始剤などを用いて、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下で重合させればよい。通常、反応温度は50〜150℃、反応時間は3〜20時間である。より詳細には、例えば、アルキッド樹脂を入れた反応容器にモノマーと重合開始剤との混合物を滴下する方法、アルキッド樹脂とモノマーの一部とを入れた反応容器に、残りのモノマーと重合開始剤とを滴下する方法、アルキッド樹脂とモノマーとを入れた反応容器に重合開始剤を滴下する方法、モノマーを入れた反応容器にアルキッド樹脂と重合開始剤とを滴下する方法などが挙げられる。
【0039】
重合開始剤は特に限定されず、モノマーの種類、反応条件などに応じて適宜選択される。具体的にはラジカル重合開始剤、光重合開始剤などが挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾ系化合物、パーオキサイド系化合物、スルフィド類、スルフィン類、スルフィン酸類、ジアゾ化合物、レゾックス系化合物などが挙げられる。これらの中でもアゾ系化合物またはパーオキサイド系化合物が好ましい。
【0041】
アゾ系化合物としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンニトリル、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリン酸などが挙げられる。
【0042】
パーオキサイド系化合物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、カプリエルパーオキサイド、2,4−ジクロルベンゾイルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシビパレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ−t−ヘキシルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、イソプロピルパーオキシジカーボネート、イソブチルパーオキシジカーボネート、s−ブチルパーオキシジカーボネート、n−ブチルパーオキシジカーボネート、2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサエノート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−エチルヘキサノエート、1,1,2−トリメチルプロピルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−アミルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート、t−ブチルパーオキシアリルカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、1,1,2−トリメチルプロピルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシイソノナエート、1,1,2−トリメチルプロピルパーオキシ−イソノナエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−へキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−アミルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエートなどの有機過酸化物などが挙げられる。
【0043】
光重合開始剤としては、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1−シクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、4−メチルベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0044】
アルキッド樹脂(c)と、(a−1)、(a−2)および(a−3)の混合物とは、アルキッド樹脂(c)およびスチレン類(a−1)が、後述する本発明の共重合体に含まれる割合となるように混合すればよい。
【0045】
さらに、本発明の効果を阻害しない範囲で、アルキッド樹脂(c)に(a−1)〜(a−3)以外のモノマーを重合させてもよい。(a−1)〜(a−3)以外のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルピロリドン、ビニルオキサゾリン、アクリロイルモルホリンなどが挙げられる。上記(a−1)〜(a−3)以外のモノマーの含有量は、酸化硬化型アルキッド変性シリコーンアクリル共重合体中に、合計で5質量%以下、好ましくは2質量%以下の割合で含まれる。
【0046】
このような方法によって、アルキッド樹脂(c)に、(a−1)、(a−2)および(a−3)の混合物をグラフト重合させることができる。アルキッド樹脂に、(a−1)、(a−2)および(a−3)の混合物をグラフト重合させることによって、塗膜の耐衝撃性(強度)、耐候性、初期光沢および初期乾燥性を向上させることができる。
【0047】
(水酸基およびアルコキシ基の少なくとも一方を有するシリコーン(b))
本発明で用いられるシリコーン(b)は、例えば、シロキサン結合(−Si−O−Si−)を主鎖とし、側鎖にアルキル基、アリール基、水酸基、アルコキシ基などの置換基が存在する分岐構造を有するポリシロキサンであり、水酸基およびアルコキシ基の少なくとも一方を有するシリコーンであれば、特に限定されない。
【0048】
水酸基またはアルコキシ基の少なくとも1つは、シリコーン分子内の少なくとも1つのケイ素原子に、直接結合していることが好ましい。
【0049】
シリコーン(b)は、例えば、式R
1m(R
2O)
nSiO
(4-m-n)/2で示される。
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ同一または異なって、水素原子、炭素数が1〜8のアルキル基、または炭素数が6〜12のアリール基を表し、mは0≦m≦3.5を満足し、nは0.0005≦n<4を満足する)。シリコーン(c)は、重合度や官能基の置換度が異なる分子の混合物であるため、上記の式におけるmやnの値は必ずしも整数とはならない。
【0050】
炭素数が1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。これらの中でも、塗膜に耐候性を付与する点で、炭素数が1〜3のアルキル基が好ましい。さらに溶剤への溶解性の点で、プロピル基(n−プロピル基またはイソプロピル基)がより好ましい。なお、炭素数が3以上の場合は、環状アルキル基であってもよい。
【0051】
炭素数が6〜12のアリール基としては、例えば、フェニル基、ベンジル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などが挙げられる。これらの中でも、炭素数が6〜8のアリール基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0052】
シリコーン(b)としては、水酸基またはアルコキシ基に加えて、フェニル基をさらに有するシリコーンが好ましく、フェニル基は、ケイ素原子に直接結合していることがより好ましい。フェニル基を有するシリコーンを用いると、溶剤(特に後述する弱溶剤)への溶解性がより高くなる。その結果、塗料の粘度を適度に下げることができるため、作業性をより向上させることができる。また塗膜の屈折率が向上するため、初期光沢が向上する。さらに、アルキル基を有するシリコーンが好ましく、アルキル基は、ケイ素原子に直接結合していることがより好ましい。ケイ素原子に直接結合するフェニル基とケイ素原子に直接結合するプロピル基(n−プロピル基またはイソプロピル基)とを有するシリコーンが特に好ましい。このように、ケイ素原子にフェニル基とプロピル基とがそれぞれ結合しているシリコーンを、「フェニルプロピル系シリコーン」と称する場合があり、フェニルプロピル基がケイ素原子に結合しているわけではない。同様に、「フェニルメチル系シリコーン」も存在するが、フェニルメチル基がケイ素原子に結合しているわけではない。ケイ素原子にフェニル基とメチル基とがそれぞれ結合しているシリコーンを意味する。
【0053】
シリコーン(b)の分子量は特に限定されない。本発明においては、好ましくは200〜5,500の数平均分子量を有するシリコーン、より好ましくは1,400〜3,000の数平均分子量を有するシリコーンが用いられる。
このようなシリコーンの代表的な市販品としては、3037 INTERMEDIATE、3074 INTERMEDIATE、Z−6018、217 FLAKE、220 FLAKE、233 FLAKE、249 FLAKE、QP8−5314、SR2402、AY 42−163(いずれも東レ・ダウコーニング(株)製);TSR160、TSR165、TSR3168(いずれもモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製);KR−211、KR−216、KR−213、KR−9218(いずれも信越化学工業(株)製);SILRES SY 231、SILRES SY 300、SILRES SY 409、SILRES IC368(いずれも旭化成ワッカーシリコーン(株)製)などが挙げられる。
【0054】
(酸化硬化型アルキッド変性シリコーンアクリル共重合体)
本発明の共重合体は、アルキッド樹脂(c)、スチレン類(a−1)およびシリコーン(b)を、特定の割合で重合させている点に特徴がある。すなわち、アルキッド樹脂(c)、スチレン類(a−1)、(メタ)アクリル酸エステル(a−2)、重合性不飽和モノマー(a−3)、およびシリコーン(b)の合計量に対して、アルキッド樹脂(c)が8〜40質量%、スチレン類(a−1)が10〜30質量%、およびシリコーン(b)が5〜15質量%の割合で含まれる点に特徴がある。
【0055】
アルキッド樹脂(c)の含有量が8質量%未満の場合、酸化重合性部位が少なくなるため得られる塗膜の耐溶剤性が低くなり、塗膜の耐候性、初期乾燥性および塗膜の肉持ち感も乏しくなる。一方、アルキッド樹脂(c)の含有量が40質量%を超える場合、共重合体の製造中にゲル化する傾向にあり、たとえゲル化しなくても、このような共重合体を用いた塗膜は、耐水性、耐アルカリ性、耐候性などが低下する。アルキッド樹脂(c)は、好ましくは15〜25質量%の割合で含まれる。
【0056】
スチレン類(a−1)の含有量が10質量%未満の場合、塗膜の初期光沢および初期乾燥性が低下する。一方、スチレン類(a−1)の含有量が30質量%を超える場合、塗膜の耐衝撃性(強度)が乏しくなり、さらに耐候性が大きく低下する。スチレン類(a−1)は、好ましくは15〜25質量%の割合で含まれる。
【0057】
シリコーン(b)の含有量が5質量%未満の場合、塗膜の耐候性が大きく低下する。一方、シリコーン(b)の含有量が15質量%を超える場合、共重合体の製造中にゲル化する傾向にある。たとえゲル化しなくても、このような共重合体を用いた塗膜は、塗膜の耐衝撃性(強度)および塗膜の肉持ち感が乏しくなる。シリコーン(b)は、好ましくは7〜12質量%の割合で含まれる。
【0058】
本発明の共重合体において、スチレン類(a−1)、(メタ)アクリル酸エステル(a−2)および重合性不飽和モノマー(a−3)は、合計で好ましくは45〜87質量%、より好ましくは63〜78質量%の割合で含まれる。
【0059】
本発明の共重合体は、好ましくは5〜50の固形ヨウ素価を有する。固形ヨウ素価がこのような範囲の場合、得られる塗膜は、耐候性に加えて耐水性および耐アルカリ性も良好となり、強度や肉持ち感も良好となる。さらに、共重合体の製造中にゲル化することも少なく、弱溶剤への溶解性も低下しにくくなる。本発明の共重合体は、より好ましくは18〜46、さらに好ましくは20〜40の固形ヨウ素価を有する。固形ヨウ素価は、JIS K0070(化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価および不けん化物の試験方法)に準拠して測定することができる。
【0060】
さらに、本発明の共重合体の重量平均分子量は特に限定されない。本発明の共重合体は、好ましくは10,000〜150,000の重量平均分子量を有する。重量平均分子量がこのような範囲の場合、得られる塗膜は、耐候性に加えて耐水性および耐アルカリ性も良好となり、より初期光沢も得られるようになる。さらに、塗料の粘度が高くなりすぎず、塗装する際の作業性もより良好になる。本発明の共重合体は、より好ましくは30,000〜100,000、さらに好ましくは40,000〜80,000の重量平均分子量を有する。重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される。
【0061】
(酸化硬化型アルキッド変性シリコーンアクリル共重合体の製造方法)
本発明の共重合体は、例えば、上述の酸化硬化型アクリル共重合体(a)とシリコーン(b)とを反応させて得られる。すなわち、酸化硬化型アクリル共重合体(a)に存在する官能基(水酸基、カルボキシル基、グリシジル基、およびイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1種)と、シリコーン(b)に存在する水酸基またはアルコキシ基とが、脱水または脱アルコール縮合によって結合し、本発明の酸化硬化型アルキッド変性シリコーンアクリル共重合体が得られる。
【0062】
酸化硬化型アクリル共重合体(a)とシリコーン(b)との脱水または脱アルコール縮合反応は、例えば、酸化硬化型アクリル共重合体(a)とシリコーン(b)とを混合して130〜180℃に加熱し、生成する水またはアルコールを除去しながら2〜8時間行われる。さらに、必要に応じて、公知の触媒、還流溶剤の存在下で反応を行ってもよい。酸化硬化型アクリル共重合体(a)とシリコーン(b)との脱水または脱アルコール縮合反応させることによって、塗膜の耐候性を向上させることができる。一方、酸化硬化型アクリル共重合体(a)とシリコーン(b)とを反応させずに単に混合する(コールドブレンド)だけでは、塗膜の耐候性が不十分となる。
【0063】
アルキッド樹脂(c)、酸化硬化型アクリル共重合体(a)、または本発明の共重合体を製造するそれぞれの工程において、必要に応じて、有機溶剤を使用することができる。使用可能な有機溶剤としては、例えばミネラルスピリット(別名:ミネラルターペン、ホワイトスピリット)、イソパラフィン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
なお、環境や塗装作業者の健康などを考えれば、弱溶剤を使用することが好ましい。弱溶剤とは、高沸点芳香族炭化水素系溶剤を含んでいてもよい脂肪族炭化水素系溶剤であり、ターペンやミネラルスピリットなどに代表されるような高引火点、高沸点、低有害性であるものをいう。混合溶剤としては、例えば、ミネラルスピリット、ホワイトスピリット、ミネラルターペン、イソパラフィン、ソルベント灯油、芳香族ナフサ、VM&Pナフサ、ソルベントナフサなどが挙げられる。その他、単成分溶剤としては、例えば、n−ブタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソノナン、n−デカン、n−ドデカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロブタンなどの脂肪族炭化水素類などが挙げられる。
【0065】
このようにして得られた本発明の共重合体は、アルキッド樹脂(c)、スチレン類(a−1)およびシリコーン(b)をそれぞれ所定の割合で含有するので、これを塗膜形成成分として用いた場合に、塗膜の初期光沢が高く、耐候性、初期乾燥性および耐衝撃性(強度)を満足する塗膜が得られる。したがって、本発明の共重合体は、各種塗料組成物(例えば、建築用(屋内塗装および屋外塗装)、自動車用、焼き付け用など)やインキ組成物における塗膜形成成分、バインダーなどとして好適に使用される。上記の塗料組成物は、用途に応じて、本発明の共重合体を、溶剤、顔料、ドライヤー、さらに必要に応じて他の添加剤(レベリング剤、タレ防止剤など)と混合して調製される。
【0066】
溶剤は、アルキッド樹脂(c)、酸化硬化型アクリル共重合体(a)、または本発明の共重合体を製造するそれぞれの工程において、必要に応じて使用されるものと同様のものが使用できる。顔料としては、二酸化チタン、カーボンブラック、酸化カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、クレー、タルク、ケイ砂などの無機顔料や、フタロシアニンブルーなどの有機顔料が挙げられる。ドライヤーとしては、ナフテン酸またはオクチル酸のコバルト塩、マンガン塩、鉛塩、ジルコニウム塩、カルシウム塩などが挙げられる。
【0067】
塗料組成物中に、本発明の共重合体は、10〜90質量%、好ましくは40〜70質量%程度含有されるのがよい。得られた塗料組成物は、常温硬化性の塗料組成物、焼き付け型塗料組成物などとして使用可能である。
【実施例】
【0068】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
(合成例:アルキッド樹脂の合成)
反応容器に下記の原料を仕込み、240℃まで昇温し、水分離器で反応系内の水分を除去しながら酸価が5以下となるまで反応させた。酸価が5以下となった時点で、減圧蒸留によってキシレンを除去した。冷却後、得られた反応物をミネラルスピリット350質量部で希釈し、油長50%、酸価2.5、粘度(ガードナー気泡粘度計/25℃)Z、色数(ガードナー)6、不揮発分60質量%のアルキッド樹脂を得た。
無水フタル酸 :140質量部
脱水ひまし油脂肪酸 :260質量部
グリセリン :50質量部
ペンタエリスリトール:70質量部
還流溶剤(キシレン):15.6質量部
【0070】
(実施例1)
<酸化硬化型アルキッド変性シリコーンアクリル樹脂(共重合体)の合成>
上記合成例で得られたアルキッド樹脂(不揮発分60質量%)17.53質量部およびミネラルスピリット31.78質量部を反応容器に仕込み、窒素ガスを通気しながら撹拌して120℃まで昇温した。次いで、120℃を保持しながら、下記に示す混合物を2時間かけて反応容器に滴下した。なお、括弧内の割合は、モノマーの合計量を100質量%とした場合の各モノマーの割合を示す。
(混合物)
メタクリル酸i−ブチル:21.24質量部(50.0質量%)
メタクリル酸t−ブチル:2.12質量部(5.0質量%)
アクリル酸n−ブチル:7.95質量部(18.7質量%)
スチレン:10.70質量部(25.2質量%)
メタクリル酸2−ヒドロキシエチル:0.43質量部(1.0質量%)
メタクリル酸:0.04質量部(0.1質量%)
t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート:0.46質量部
【0071】
滴下終了後、120℃で4時間熟成した後、反応容器に水分離器を取り付けた。3.96質量部のシリコーン樹脂Z−6018(不揮発分100質量%の固形樹脂、数平均分子量が2,000でありケイ素原子に直接結合するフェニル基とプロピル基を有する、東レ・ダウコーニング(株)製)を反応容器に加えて160℃まで昇温し、水分離器で反応系内の水を除去しながら4時間反応させた。反応後、80℃まで冷却して3.79質量部のミネラルスピリットを反応容器に加え、褐色透明で粘稠な酸化硬化型アルキッド変性シリコーンアクリル共重合体(樹脂)(不揮発分55質量%)を得た。
【0072】
得られた樹脂の重量平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した。樹脂をテトラヒドロフランに溶解して(濃度1.0g/L)、示差屈折率検出器(RID)を備えるGPCによって測定し、樹脂の分子量分布を得た。その後、得られたクロマトグラム(チャート)から、標準ポリスチレンを検量線として、樹脂の重量平均分子量(Mw)を算出した。得られた樹脂の重量平均分子量は44,000であった。測定装置および測定条件は下記の通りである。
データ処理装置:HLC−8220GPC(東ソー(株)製)
示差屈折率検出器:HLC−8220GPCに内蔵されたRI検出器
カラム:TSKgel SuperHZM−H(東ソー(株)製)2本
移動相:テトラヒドロフラン
カラム流量:0.35mL/分
試料濃度:1.0g/L
注入量:10μL
測定温度:40℃
分子量マーカー:標準ポリスチレン(POLYMER LABORATORIES社製標準物質)(POLYSTYRENE−MEDIUM MOLECULAR WEIGHT CALIBRATION KITを使用)
【0073】
得られた樹脂の固形ヨウ素価を、JIS K0070(化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価および不けん化物の試験方法)に準拠して測定した。
【0074】
<塗料組成物の調製>
得られた樹脂(不揮発分55質量%)を57.0質量部、溶剤としてミネラルスピリットを23.5質量部、顔料として酸化チタンJR−603(テイカ(株)製)を14.0質量部、オクチル酸コバルトとオクチル酸ジルコニウムとからなるドライヤーを3.5質量部、ダレ防止剤を添加剤として2.0質量部加え、3本ロールミルにより混練し、塗料組成物(常温硬化性塗料組成物)を調製した。
【0075】
(実施例2〜18および比較例1〜8)
表1に記載の成分を表1に記載の割合で用いた以外は、実施例1と同様の手順で酸化硬化型アルキッド変性シリコーンアクリル共重合体を得た。得られた各樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして塗料組成物を調製した。なお、表1に記載の略号は下記の化合物を示す。さらに、シリコーンの「フェニルプロピル系」および「フェニルメチル系」の意味は上述のとおりである。
i−BMA:メタクリル酸i−ブチル
t−BMA:メタクリル酸t−ブチル
n−BA:アクリル酸n−ブチル
St:スチレン
2−HEMA:メタクリル酸2−ヒドロキシエチル
MA:メタクリル酸
【0076】
(評価)
実施例1〜18および比較例1〜8で得られた塗料組成物を用いて、(1)初期光沢、(2)初期乾燥性、(3)促進耐候性、および(4)耐衝撃性を評価した。結果を表2に示す。これら(1)〜(4)の物性のうち、1つでも不合格(C評価)であれば、塗料組成物としての実用性に欠けると判断した。
【0077】
(1)初期光沢
得られた塗料組成物(常温硬化性塗料組成物)を、厚さ3mmのガラス板(150mm×70mm)上に、フィルムアプリケーターAP250(太佑機材(株)製)を用いて塗装した。塗装されたガラス板を、23℃、50%RHの室内で1週間乾燥して、20°鏡面反射率(20°G)を測定し、その測定値をJIS Z8741に従って鏡面光沢度に変換した。下記の基準で評価し、B評価以上(鏡面反射率が80以上)を合格とした。
A+:鏡面光沢度が90以上の場合
A :鏡面光沢度が85以上90未満の場合
B :鏡面光沢度が80以上85未満の場合
C :鏡面光沢度が80未満の場合
【0078】
(2)初期乾燥性
JIS K 5600−3−6(不粘着乾燥性試験)を一部変更した方法で試験を行った。得られた塗料組成物(常温硬化性塗料組成物)、分銅(500g、底面の直径40mm)、厚さ0.3mmのブリキ板(300mm×70mm)、塗装具(フィルムアプリケーターAP250)、および局方ガーゼ(薬局で普通に販売されているものを、50mm四方に切断して使用)を、23℃雰囲気下で24時間静置した。次いで、得られた塗料組成物(常温硬化性塗料組成物)を、ブリキ板上にフィルムアプリケーターAP250を用いて塗装した。塗装されたブリキ板を、23℃、50%RHの室内に2時間静置して塗膜表面にガーゼを置き、その上に分銅を載せた。1時間後に分銅を取り、ガーゼをめくったときの状態を下記の基準で評価し、B評価以上を合格とした。
A+:ガーゼが抵抗なく剥がれ、塗膜表面に全く跡が残っていない場合
A :塗膜表面に跡が残っているものの、ガーゼが抵抗なく剥がれた場合
B :ガーゼを剥がした際に、抵抗があった場合
C :ガーゼを剥がした際に、下地(ブリキ板)が見えた場合
【0079】
(3)促進耐候性
得られた塗料組成物(常温硬化性塗料組成物)を、厚さ0.8mmのダル鋼板(150mm×70mm)上に、フィルムアプリケーターAP250を用いて塗装した。塗装されたダル鋼板を、23℃、50%RHの室内で1週間乾燥して、サンシャイン・ウェザー・メータ(スガ試験機(株)製)にて1500時間暴露したときの光沢保持率(20°GR)を求めて、下記の基準で評価した。B評価以上(光沢保持率が70%以上)を合格とした。なお、光沢保持率は下記の式で求められる。
光沢保持率(%)=(試験後の鏡面反射率/試験前の鏡面反射率)×100
A+:光沢保持率が90%以上の場合
A :光沢保持率が80%以上90%未満の場合
B :光沢保持率が70%以上80%未満の場合
C :光沢保持率が70%未満の場合
【0080】
(4)耐衝撃性
JIS K 5600−5−3(耐おもり落下性試験)に準拠して、耐衝撃性の試験を行い、下記の基準で評価した。B評価以上を合格とした。
A:1kg×15cmの衝撃で、塗膜が割れなかった場合
B:1kg×10cmの衝撃では塗膜が割れなかったが、1kg×15cmの衝撃で塗膜が割れた場合
C:1kg×10cmの衝撃で、塗膜が割れた場合
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
表2に示すように、実施例1〜18では、得られた樹脂を塗膜形成成分として用いた場合、得られた塗膜は、高い初期光沢を有し、初期乾燥性、耐候性および耐衝撃性(強度)にも優れていることがわかる。
【0084】
一方、アルキッド樹脂(c)、スチレン類(a−1)またはシリコーン(b)の含有量が本発明の範囲外である比較例1〜8では、初期光沢、初期乾燥性、耐候性、および耐衝撃性のいずれかに劣っている(すなわち、初期光沢がC評価(鏡面光沢度が80未満)、初期乾燥性がC評価、耐候性がC評価(光沢保持率が70%未満)、または耐衝撃性がC評価)ことがわかる。
【0085】
(比較例9)
<シリコーン変性アクリル共重合体の合成>
反応容器にミネラルスピリット100質量部を仕込み、窒素ガスを通気しながら、115℃まで撹拌を行いながら昇温した。次いで、温度を115℃に保ちながら、下記に示す混合物を4時間かけて滴下した。
(混合物)
メタクリル酸n−ブチル:15質量部
メタクリル酸i−ブチル:20質量部
スチレン:25質量部
アクリル酸2−エチルヘキシル:20質量部
メタクリル酸グリシジル:20質量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル:1質量部
【0086】
滴下終了後、115℃で2時間熟成した後、140℃に昇温してからアマニ油脂肪酸30質量部および反応触媒としてN,N−ジメチルアミノエタノール0.4質量部を加えた。160℃で5時間保持して脂肪酸の付加反応を行った。樹脂酸価をKOH滴定法で追跡し、樹脂酸価が1.0以下になった時点を終点とした。反応終了後、キシレン45質量部を加えて希釈して不揮発分47質量%の褐色透明で粘調な脂肪酸変性共重合体溶液を得た。次に100℃まで冷却し、反応容器に水分離器を取り付けた。反応容器に、Z−6018(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製のシリコーン)15質量部、ミネラルスピリット14質量部、キシレン6質量部および反応触媒としてのテトラ−n−ブチルチタネート0.20質量部を加えた。165℃まで昇温し、還流系中で水分離器にて水を分離しながら5時間反応させて不揮発分47質量%の褐色透明で粘調なシリコーン変性アクリル共重合体を得た。
【0087】
シリコーン変性アクリル共重合体の原料中(固形換算)のスチレンの割合は17.2質量%、シリコーンの割合は10.3質量%である。得られた樹脂の重量平均分子量および固形ヨウ素価を実施例1と同様の手順で測定した。重量平均分子量は40,000、固形ヨウ素価は28であった。得られた樹脂を用い、実施例1と同様にして、但し不揮発分が実施例1の場合と同じになるようにミネラルスピリットの量を調整して、塗料組成物を調製した。得られた塗料組成物を用いて、上述の(1)初期光沢、(2)初期乾燥性、(3)促進耐候性、および(4)耐衝撃性を評価した。結果を表3に示す。
【0088】
(比較例10)
<アルキッド樹脂の合成>
反応容器に下記の原料を仕込み、240℃まで昇温し、水分離器で反応系内の水分を除去しながら酸価が8以下となるまで反応させた。酸価が8以下となった時点で、減圧蒸留によってキシレンを除去した。冷却後、得られた反応物をミネラルスピリット350質量部で希釈し、油長50%、酸価5.5、粘度(ガードナー気泡粘度計/25℃)Z、色数(ガードナー)6、不揮発分58質量%のアルキッド樹脂を得た。
無水フタル酸 :140質量部
脱水ひまし油脂肪酸 :260質量部
グリセリン :50質量部
ペンタエリスリトール:70質量部
還流溶剤(キシレン):15.6質量部
【0089】
比較例9において、アマニ油脂肪酸30質量部の代わりに、上記で得られたアルキッド樹脂30質量部を用いて反応させることを試みた。しかし、反応が進行しなかったため(樹脂酸価が低下せず)、反応を中止して、評価は行わなかった。
【0090】
(比較例11)
アルキッド樹脂に、スチレン類など(a−1)〜(a−3)に示すモノマーをグラフト重合させていない樹脂を用いて塗料組成物の評価を行った。
<アクリル樹脂(共重合体)の合成>
反応容器にミネラルスピリット42.41質量部を仕込み、窒素ガスを通気しながら、118℃まで撹拌しながら昇温した。次いで、温度を118℃に保ちながら、下記に示す混合物を3時間かけて滴下した。なお、括弧内の割合は、モノマーの合計量を100質量%とした場合の各モノマーの割合を示す。
(混合物)
メタクリル酸i−ブチル:28.51質量部(50.0質量%)
メタクリル酸t−ブチル:2.85質量部(5.0質量%)
アクリル酸n−ブチル:10.67質量部(18.7質量%)
スチレン:14.36質量部(25.2質量%)
メタクリル酸2−ヒドロキシエチル:0.57質量部(1.0質量%)
メタクリル酸:0.05質量部(0.1質量%)
t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート:0.58質量部
【0091】
滴下終了後、120℃で4時間熟成した後80℃まで冷却して、不揮発分57質量%の褐色透明で粘調なアクリル共重合体を得た。
【0092】
<アルキッド樹脂、共重合体およびシリコーン樹脂の反応>
水分離器を取り付けた反応容器に、上記実施例1で使用したアルキッド樹脂(不揮発分60質量%)17.60質量部、上記アクリル共重合体(不揮発分57質量%)74.81質量部、実施例1で用いたシリコーン樹脂(Z−6018)3.98質量部、およびミネラルスピリット7.58質量部を仕込んだ。次いで、窒素ガスを通気しながら、120℃で4時間撹拌して、樹脂(不揮発分55質量%)を得た。得られた樹脂を構成するスチレンの割合は固形分換算で18.8質量%、アルキッド樹脂の割合は18.5質量%、およびシリコーンの割合は7.0質量%であった。得られた樹脂の重量平均分子量および固形ヨウ素価を実施例1と同様の手順で測定した。重量平均分子量は47,000、固形ヨウ素価は21であった。
【0093】
得られた樹脂を用い、実施例1と同様にして塗料組成物を調製した。得られた塗料組成物を用いて、上述の(1)初期光沢、(2)初期乾燥性、(3)促進耐候性、および(4)耐衝撃性を評価した。結果を表3に示す。
【0094】
(比較例12)
酸化硬化型アクリル共重合体(a)とシリコーン(b)とを反応させずに、単に混合(コールドブレンド)して得られる混合物を用いて塗料組成物の評価を行った。まず、反応容器に、上記実施例1で使用したアルキッド樹脂(不揮発分60質量%)17.53質量部およびミネラルスピリット31.78質量部を仕込んだ。次いで、窒素ガスを通気しながら撹拌して120℃まで昇温した。温度を120℃に保ちながら、下記に示す混合物を2時間かけて滴下した。なお、括弧内の割合は、モノマーの合計量を100質量%とした場合の各モノマーの割合を示す。
(混合物)
メタクリル酸i−ブチル:21.24質量部(50.0質量%)
メタクリル酸t−ブチル:2.12質量部(5.0質量%)
アクリル酸n−ブチル:7.95質量部(18.7質量%)
スチレン:10.70質量部(25.2質量%)
メタクリル酸2−ヒドロキシエチル:0.43質量部(1.0質量%)
メタクリル酸:0.04質量部(0.1質量%)
t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート:0.46質量部
【0095】
反応終了後、120℃で4時間熟成して酸化硬化型アクリル共重合体(アルキッド樹脂へのモノマーのグラフト重合物)を得た。次いで、反応容器に水分離器を取り付けて、80℃まで冷却した。実施例1で用いたシリコーン樹脂(Z−6018)を仕込み、80℃で2時間撹拌した。この間、反応系内に水は発生しなかった。3.79質量部のミネラルスピリットを反応容器に仕込み、褐色透明で粘調な酸化硬化型アクリル共重合体(アルキッド樹脂へのモノマーのグラフト重合物)とシリコーンとの混合物を得た。得られた混合物中におけるスチレンの割合は固形分換算で18.7質量%、アルキッド樹脂の割合は18.6質量%、およびシリコーンの割合は7.0質量%であった。得られた混合物の重量平均分子量および固形ヨウ素価を実施例1と同様の手順で測定した。重量平均分子量は40,000、固形ヨウ素価は22であった。
【0096】
得られた混合物を用い、実施例1と同様にして塗料組成物を調製した。得られた塗料組成物を用いて、上述の(1)初期光沢、(2)初期乾燥性、(3)促進耐候性、および(4)耐衝撃性を評価した。結果を表3に示す。
【0097】
【表3】
【0098】
表3に示すように、アルキッド樹脂を含まない比較例9は、初期光沢に劣ることがわかる。比較例10は、比較例9の不飽和脂肪酸(アマニ油脂肪酸)の代わりにアルキッド樹脂を用いた例であるが、エポキシ基含有ビニル共重合体とアルキッド樹脂との反応が進行せず、樹脂は得られなかった。比較例11は、アルキッド樹脂に、スチレン類など(a−1)〜(a−3)に示すモノマーをグラフト重合させていない樹脂を用いた例であるが、塗膜形成時の架橋反応が進みにくく、初期光沢、初期乾燥性、耐候性および耐衝撃性のいずれも劣ることがわかる。比較例12は、酸化硬化型アクリル共重合体とシリコーンとを反応させずに、単に混合(コールドブレンド)して得られる混合物を用いた例であるが、耐候性に劣ることがわかる。これは、シリコーンが酸化硬化型アクリル共重合体と反応しておらず、経時的にシリコーンがブリードアウトしてくるためと推察される。