特許第5970745号(P5970745)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5970745
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】内燃機関のEGR制御方法及び内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F02M 26/00 20160101AFI20160804BHJP
【FI】
   F02M26/00
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-110683(P2011-110683)
(22)【出願日】2011年5月17日
(65)【公開番号】特開2012-241569(P2012-241569A)
(43)【公開日】2012年12月10日
【審査請求日】2014年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100068685
【弁理士】
【氏名又は名称】斎下 和彦
(72)【発明者】
【氏名】西山 康宏
【審査官】 中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−519331(JP,A)
【文献】 特開昭63−140857(JP,A)
【文献】 実開平01−174559(JP,U)
【文献】 特開平08−128359(JP,A)
【文献】 特開平09−042066(JP,A)
【文献】 特開平09−195825(JP,A)
【文献】 特開平10−141147(JP,A)
【文献】 特開2002−138907(JP,A)
【文献】 特開2003−286908(JP,A)
【文献】 特開2005−188392(JP,A)
【文献】 特開2009−068502(JP,A)
【文献】 特開2010−071136(JP,A)
【文献】 特開2010−203281(JP,A)
【文献】 特開2010−209832(JP,A)
【文献】 特開2010−229873(JP,A)
【文献】 特開昭62−284950(JP,A)
【文献】 特開昭63−140858(JP,A)
【文献】 特開2000−130248(JP,A)
【文献】 特開2009−270516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 47/08−47/10
F02D 13/00−28/00
F02D 43/00−45/00
F02M 26/00−26/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
EGR通路との合流点より下流側の吸気経路の吸気酸素濃度と、排気経路の排気酸素濃度を使用してEGR率を算出し、この算出されたEGR率が、目標EGR率になるようにEGRガスの流量を調整する内燃機関のEGR制御方法において、
エンジン回転速度に応じてサンプリング間隔を変更し、所定のサンプリング数で気筒間における吸気マニホールドの吸気酸素濃度を平均処理するとともに、
過渡状態におけるEGR率を算出する前に、EGR通路の分岐点より上流側の排気経路の排気酸素濃度に対して、エンジン回転数に関係する一次遅れの無駄時間を適用して補正することを特徴とする内燃機関のEGR制御方法。
【請求項2】
EGR通路との合流点より下流側の吸気経路の吸気酸素濃度と、排気経路の排気酸素濃度を使用してEGR率を算出し、この算出されたEGR率が、目標EGR率になるようにEGRガスの流量を調整する内燃機関のEGR制御方法において、
エンジン回転速度に応じてサンプリング間隔を変更し、所定のサンプリング数で気筒間における吸気マニホールドの吸気酸素濃度を平均処理するとともに、
過渡状態におけるEGR率を算出する前に、EGR通路の分岐点より上流側の排気経路の位置に相当する排気酸素濃度を推定し、この推定した排気酸素濃度に対して、エンジン回転数に関係する一次遅れの無駄時間を適用して補正することを特徴とする内燃機関のEGR制御方法。
【請求項3】
EGR通路との合流点より下流側の吸気経路の吸気酸素濃度と、排気経路の排気酸素濃度を使用してEGR率を算出し、この算出されたEGR率が、目標EGR率になるようにEGRガスの流量を調整する内燃機関のEGR制御方法において、
過渡状態におけるEGR率を算出する前に、EGR通路の分岐点より上流側の排気経路の排気酸素濃度に対して、エンジン回転数に関係する一次遅れの無駄時間を適用して補正することを特徴とする内燃機関のEGR制御方法
【請求項4】
EGR通路との合流点より下流側の吸気経路の吸気酸素濃度と、排気経路の排気酸素濃度を使用してEGR率を算出し、この算出されたEGR率が、目標EGR率になるようにEGRガスの流量を調整する内燃機関のEGR制御方法において、
過渡状態におけるEGR率を算出する前に、EGR通路の分岐点より上流側の排気経路の位置に相当する排気酸素濃度を推定し、この推定した排気酸素濃度に対して、エンジン回転数に関係する一次遅れの無駄時間を適用して補正することを特徴とする内燃機関のEGR制御方法
【請求項5】
EGRシステムと、EGR通路に設けたEGRバルブの弁開度を調整することでEGR率を目標EGR率に制御する制御装置を備え、吸気酸素濃度センサをEGR通路との合流点より下流側の吸気経路に設けると共に、排気酸素濃度センサをEGR通路の分岐点より上流側の排気経路に設け、前記制御装置が、前記吸気酸素濃度センサで検出した吸気酸素濃度と、前記排気酸素濃度センサで検出した排気酸素濃度を使用してEGR率を算出し、この算出されたEGR率が、目標EGR率になるようにEGRバルブを制御する内燃機関において、
前記吸気酸素濃度センサを吸気マニホールドに設け、
前記制御装置が、エンジン回転速度に応じてサンプリング間隔を変更し、所定のサンプリング数で、前記吸気酸素濃度センサで検出した気筒間における吸気マニホールドの吸気酸素濃度を平均処理する制御をするとともに、過渡状態におけるEGR率を算出する前に、前記排気酸素濃度センサで検出した前記排気酸素濃度に対して、エンジン回転数に関係する一次遅れの無駄時間を適用して補正することを特徴とする内燃機関。
【請求項6】
EGRシステムと、EGR通路に設けたEGRバルブの弁開度を調整することでEGR率を目標EGR率に制御する制御装置を備え、吸気酸素濃度センサをEGR通路との合流点より下流側の吸気経路に設けると共に、排気酸素濃度センサをEGR通路の分岐点より下流側の排気経路に設け、前記制御装置が、前記吸気酸素濃度センサで検出した吸気酸素濃度と、前記排気酸素濃度センサで検出した排気酸素濃度を使用してEGR率を算出し、この算出されたEGR率が、目標EGR率になるようにEGRバルブを制御する内燃機関において、
前記吸気酸素濃度センサを吸気マニホールドに設け、
前記制御装置が、エンジン回転速度に応じてサンプリング間隔を変更し、所定のサンプリング数で、前記吸気酸素濃度センサで検出した気筒間における吸気マニホールドの吸気酸素濃度を平均処理する制御をするとともに、過渡状態におけるEGR率を算出する前に、前記排気酸素濃度センサで検出した前記排気酸素濃度で、予め設定した補償器を用いてEGR通路の分岐点より上流側の排気経路の位置に相当する排気酸素濃度を推定し、この推定した排気酸素濃度に対して、エンジン回転数に関係する一次遅れの無駄時間を適用して補正することを特徴とする内燃機関。
【請求項7】
吸気経路と、排気経路と、前記吸気経路と前記排気経路とを連通するEGR通路と、前記EGR通路に設けたEGRバルブと、
EGR通路との合流点より下流側の吸気経路の吸気酸素濃度と、排気経路の排気酸素濃度を使用してEGR率を算出し、この算出されたEGR率が、目標EGR率になるように前記EGRバルブの弁開度を調整する制御装置を備えた内燃機関において、
前記制御装置が、過渡状態におけるEGR率を算出する前に、EGR通路の分岐点より上流側の排気経路の排気酸素濃度に対して、エンジン回転数に関係する一次遅れの無駄時間を適用して補正することを特徴とする内燃機関
【請求項8】
吸気経路と、排気経路と、前記吸気経路と前記排気経路とを連通するEGR通路と、前記EGR通路に設けたEGRバルブと、
EGR通路との合流点より下流側の吸気経路の吸気酸素濃度と、排気経路の排気酸素濃度を使用してEGR率を算出し、この算出されたEGR率が、目標EGR率になるように前記EGRバルブの弁開度を調整する制御装置を備えた内燃機関において、
前記制御装置が、過渡状態におけるEGR率を算出する前に、EGR通路の分岐点より上流側の排気経路の位置に相当する排気酸素濃度を推定し、この推定した排気酸素濃度に対して、エンジン回転数に関係する一次遅れの無駄時間を適用して補正することを特徴とする内燃機関
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過渡状態においてもEGR率を精度よく制御することができる内燃機関のEGR制御方法及び内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気ガス中の有害成分を低減するために、排気ガスの一部を吸気に還流して、シリンダ内に吸入するガスの酸素濃度を低下させることで、燃焼温度を下げてNOxを低減するEGR装置が利用されている。このEGR装置を利用する場合には、排気性能、燃費、燃焼音等を総合的に最適化するためにはEGR率を精度よく制御する必要がある。
【0003】
そのため、予め内燃機関のベンチテストにおいて各種の実験を行い、燃料噴射とEGR等を適合している。このEGRの適合においては、吸気と排気のCO2濃度を排ガス分析計により計測し、その値からEGR率を算出し、適合させる時の目安の一つとしている。
【0004】
従来技術では、一般的に、ディーゼルエンジンにおいては、様々な運転条件において、吸入空気流量を計測して、吸入空気量が適切な目標値になるようEGRバルブを制御している。この制御では、吸入空気量を制御することで間接的にEGR率を制御している。また、吸入空気量はエアクリーナ付近に搭載したホットワイヤ式の流量計を利用し、この流量計で検出した値を内燃機関の制御装置(エンジンコントロールユニット:ECU)に取り込んで、この制御装置の出力で、EGRバルブのDCモータを駆動し、EGRバルブの弁開度を制御している。
【0005】
しかしながら、EGR率と吸入空気量との関係は、雰囲気温度の変化やEGRクーラの冷却性能の変化や、排気圧力の変化(DPFの詰まりなど)により変化してしまうので、正確なEGR率にすることが難しいという問題がある。これらの変化を検出するために、温度、圧力等のパラメータの値を検出し、この検出値を利用してEGR率が適正なものとなるように補正しながら制御を行う場合もあるが、必ずしも十分ではない。更に、EGRの適合に利用する排ガス分析計によるEGR率の計測は、過渡運転時には、排ガス分析計に計測遅れがあるため、精度よく計測することが難しく、十分な精度が期待できないという問題がある。
【0006】
これに対処するために、酸素センサを内燃機関に組み込んで、その検出値を利用して直接EGR率を制御することが考えられており、例えば、吸気中の酸素濃度である吸気酸素濃度、排気酸素濃度と新気酸素濃度(=外気酸素濃度=21%)とを用いて、新気酸素濃度と排気酸素濃度との差に対する、新気酸素濃度と吸気酸素濃度との差の比を演算することにより、EGR率を算出し、排気流量センサを用いることなく、酸素濃度の値によってEGR率が精度良く求められ、EGR率またはEGR流量が目標値となるようにEGR弁の正確なフィードバック制御が可能となるEGR制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−203281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、内燃機関の運転状態においてEGR率を精度よく制御することができる内燃機関のEGR制御方法及び内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本発明の内燃機関のEGR制御方法は、EGR通路との合流点より下流側の吸気経路の吸気酸素濃度と、排気経路の排気酸素濃度を使用してEGR率を算出し、この算出されたEGR率が、目標EGR率になるようにEGRガスの流量を調整する内燃機関のEGR制御方法において、エンジン回転速度に応じてサンプリング間隔を変更し、所定のサンプリング数で気筒間における吸気マニホールドの吸気酸素濃度を平均処理するとともに、過渡状態におけるEGR率を算出する前に、EGR通路の分岐点より上流側の排気経路の排気酸素濃度に対して、エンジン回転数に関係する一次遅れの無駄時間を適用して補正することを特徴とする方法である。
【0010】
この内燃機関のEGR制御方法によれば、吸気酸素濃度を精度よく補正できるので、EGR率を精度よく算出でき、適正なEGRを行うことができる。
【0012】
また、過渡状態においても排気酸素濃度を精度よく補正できるので、EGR率を精度よく算出でき、適正なEGRを行うことができる。
【0013】
あるいは、本発明の内燃機関のEGR制御方法は、EGR通路との合流点より下流側の吸気経路の吸気酸素濃度と、排気経路の排気酸素濃度を使用してEGR率を算出し、この算出されたEGR率が、目標EGR率になるようにEGRガスの流量を調整する内燃機関のEGR制御方法において、エンジン回転速度に応じてサンプリング間隔を変更し、所定のサンプリング数で気筒間における吸気マニホールドの吸気酸素濃度を平均処理するとともに、過渡状態におけるEGR率を算出する前に、EGR通路の分岐点より上流側の排気経路の位置に相当する排気酸素濃度を推定し、この推定した排気酸素濃度に対して、エンジン回転数に関係する一次遅れの無駄時間を適用して補正する方法を採ると、過渡状態においても排気酸素濃度を精度よく補正できるので、EGR率を精度よく算出でき、適正なEGRを行うことができる。
以上より、本発明の内燃機関のEGR制御方法は、EGR通路との合流点より下流側の吸気経路の吸気酸素濃度と、排気経路の排気酸素濃度を使用してEGR率を算出し、この算出されたEGR率が、目標EGR率になるようにEGRガスの流量を調整する内燃機関のEGR制御方法において、過渡状態におけるEGR率を算出する前に、EGR通路の分岐点より上流側の排気経路の排気酸素濃度に対して、エンジン回転数に関係する一次遅れの無駄時間を適用して補正することを特徴とする方法である。
あるいは、本発明の内燃機関のEGR制御方法は、EGR通路との合流点より下流側の吸気経路の吸気酸素濃度と、排気経路の排気酸素濃度を使用してEGR率を算出し、この算出されたEGR率が、目標EGR率になるようにEGRガスの流量を調整する内燃機関のEGR制御方法において、過渡状態におけるEGR率を算出する前に、EGR通路の分岐点より上流側の排気経路の位置に相当する排気酸素濃度を推定し、この推定した排気酸素濃度に対して、エンジン回転数に関係する一次遅れの無駄時間を適用して補正することを特徴とする方法である。
【0014】
そして、上記の目的を達成するための本発明の内燃機関は、EGRシステムと、EGR通路に設けたEGRバルブの弁開度を調整することでEGR率を目標EGR率に制御する制御装置を備え、吸気酸素濃度センサをEGR通路との合流点より下流側の吸気経路に設けると共に、排気酸素濃度センサをEGR通路の分岐点より上流側の排気経路に設け、前記制御装置が、前記吸気酸素濃度センサで検出した吸気酸素濃度と、前記排気酸素濃度センサで検出した排気酸素濃度を使用してEGR率を算出し、この算出されたEGR率が、目標EGR率になるようにEGRバルブを制御する内燃機関において、前記吸気酸素濃度センサを吸気マニホールドに設け、前記制御装置が、エンジン回転速度に応じてサンプリング間隔を変更し、所定のサンプリング数で、前記吸気酸素濃度センサで検出した気筒間における吸気マニホールドの吸気酸素濃度を平均処理する制御をするとともに、過渡状態におけるEGR率を算出する前に、前記排気酸素濃度センサで検出した前記排気酸素濃度に対して、エンジン回転数に関係する一次遅れの無駄時間を適用して補正するように構成される。
【0015】
この構成によれば、吸気酸素濃度を精度よく補正できるので、EGR率を精度よく算出でき、適正なEGRを行うことができる。
【0019】
また、この構成によれば、過渡状態においても排気酸素濃度を精度よく補正できるので、EGR率を精度よく算出でき、適正なEGRを行うことができる。
【0020】
あるいは、本発明の内燃機関は、EGRシステムと、EGR通路に設けたEGRバルブの弁開度を調整することでEGR率を目標EGR率に制御する制御装置を備え、吸気酸素濃度センサをEGR通路との合流点より下流側の吸気経路に設けると共に、排気酸素濃度センサをEGR通路の分岐点より下流側の排気経路に設け、前記制御装置が、前記吸気酸素濃度センサで検出した吸気酸素濃度と、前記排気酸素濃度センサで検出した排気酸素濃度を使用してEGR率を算出し、この算出されたEGR率が、目標EGR率になるようにEGRバルブを制御する内燃機関において、前記吸気酸素濃度センサを吸気マニホールドに設け、前記制御装置が、エンジン回転速度に応じてサンプリング間隔を変更し、所定のサンプリング数で、前記吸気酸素濃度センサで検出した気筒間における吸気マニホールドの吸気酸素濃度を平均処理する制御をするとともに、過渡状態におけるEGR率を算出する前に、前記排気酸素濃度センサで検出した前記排気酸素濃度で、予め設定した補償器を用いてEGR通路の分岐点より上流側の排気経路の位置に相当する排気酸素濃度を推定し、この推定した排気酸素濃度に対して、エンジン回転数に関係する一次遅れの無駄時間を適用して補正するように構成される。
以上より、本発明の内燃機関は、吸気経路と、排気経路と、前記吸気経路と前記排気経路とを連通するEGR通路と、前記EGR通路に設けたEGRバルブと、EGR通路との合流点より下流側の吸気経路の吸気酸素濃度と、排気経路の排気酸素濃度を使用してEGR率を算出し、この算出されたEGR率が、目標EGR率になるように前記EGRバルブの弁開度を調整する制御装置を備えた内燃機関において、前記制御装置が、過渡状態におけるEGR率を算出する前に、EGR通路の分岐点より上流側の排気経路の排気酸素濃度に対して、エンジン回転数に関係する一次遅れの無駄時間を適用して補正するように構成される。
あるいは、本発明の内燃機関は、吸気経路と、排気経路と、前記吸気経路と前記排気経路とを連通するEGR通路と、前記EGR通路に設けたEGRバルブと、EGR通路との合流点より下流側の吸気経路の吸気酸素濃度と、排気経路の排気酸素濃度を使用してEGR率を算出し、この算出されたEGR率が、目標EGR率になるように前記EGRバルブの弁開度を調整する制御装置を備えた内燃機関において、前記制御装置が、過渡状態におけるEGR率を算出する前に、EGR通路の分岐点より上流側の排気経路の位置に相当する排気酸素濃度を推定し、この推定した排気酸素濃度に対して、エンジン回転数に関係する一次遅れの無駄時間を適用して補正するように構成される。
【0021】
この構成においても、過渡状態においても排気酸素濃度を精度よく補正できるので、EGR率を精度よく算出でき、適正なEGRを行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るEGR制御装置によれば、内燃機関の運転においてEGR率を精度よく制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施の形態の内燃機関の構成を示した図である。
図2】各センサにおける検出値の時系列を示した図である。
図3】過渡モデルにおける「一次遅れ+無駄時間」を説明するための図であり、「排気+EGR」系(システム)を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施の形態の内燃機関のEGR制御方法及び内燃機関について、図面を参照しながら説明する。ここでは、内燃機関が車両搭載のディーゼルエンジンである場合について説明しているが、本発明は、車両搭載のディーゼルエンジンのみならず、車両搭載のその他のエンジンや産業用のエンジンや発電用のエンジン等の内燃機関全般において適用できる。
【0025】
図1に示すように、本発明の実施の形態の内燃機関10は、エンジン本体11の吸気マニホールド11aに接続する吸気通路(吸気経路)12と、排気マニホールド11bに接続する排気通路(排気経路)13を備えて形成されている。
【0026】
この吸気通路12には、上流側からエアクリーナ14とターボチャージャ(ターボ式過給器)15のコンプレッサ15aと吸気絞り弁16が設けられ、更には、図示しないが、吸入空気量を測定するエアフローセンサや、コンプレッサ15aで圧縮され温度が上昇した吸入空気を冷却するためのインタークーラ等も設けられる。
【0027】
また、排気通路13には、上流側から排気絞り弁17とターボチャージャ15のタービン15bと排気ガス浄化装置18が設けられ、更には、図示しないがサイレンサー(消音器)が設けられる。
【0028】
次に、EGRシステムについて説明する。EGR通路19が、排気マニホールド11bと排気絞り弁17との間の排気通路13と、吸気絞り弁16と吸気マニホールド11aとの間の吸気通路12とを接続して設けられ、このEGR通路19の上流側からEGRガスを冷却するためのEGRクーラ20と、EGRガスの流量を調整するためのEGRバルブ21が設けられる。
【0029】
そして、この内燃機関10では、吸気酸素濃度センサ22と吸気圧力センサ23を吸気マニホールド11aに設け、上流側排気酸素濃度センサ24と上流側排気圧力センサ25を排気マニホールド11bに設ける。つまり、吸気酸素濃度センサ22をEGR通路19との合流点より下流側の吸気経路11aに設けると共に、上流側排気酸素濃度センサ24と上流側排気圧力センサ25をEGR通路19の分岐点より上流側の排気通路13に設ける。あるいは、排気ガス処理装置18の下流側の排気通路13に、下流側排気酸素濃度センサ26と下流側排気圧力センサ27を設ける。また、クランク角度センサ28とエンジン回転速度センサ(エンジン回転数センサ)29を設ける。
【0030】
更に、これらのセンサ22〜29等の検出値を入力して、EGRバルブ21の弁開度を調整する制御装置30を設ける。この制御装置30は、通常は、エンジンコントロールユニット(ECU)と呼ばれるエンジン全般を制御する制御装置に組み込まれている。
【0031】
この制御装置30は、定常状態及び過渡状態において、吸気酸素濃度センサ22で検出した吸気酸素濃度と、上流側排気酸素濃度センサ24、又は、下流側排気酸素濃度センサ26で検出した排気酸素濃度を使用してEGR率を算出し、この算出されたEGR率が、目標EGR率になるようにEGRバルブ21を制御するように構成される。
【0032】
そして、内燃機関10の運転が定常状態においては、吸気酸素濃度センサ22で検出した吸気酸素濃度Ciを吸気圧力センサ23で検出した吸気圧力Piで補正する前に、吸気圧力Piに対してエンジン回転速度に同期させて気筒間(シリンダ間)の平均処理を行う。また、上流側排気酸素濃度センサ24、又は、下流側排気酸素濃度センサ26で検出した排気側酸素濃度Ceを上流側排気圧力センサ25で検出した排気圧力Peで補正する前に、排気圧力Peに対してエンジン回転速度に同期させて気筒間の平均処理を行う。
【0033】
このエンジン回転速度に同期させての気筒間の平均処理について説明する。酸素濃度センサ22、24(又は26)の検出値Ci,Ceは雰囲気圧力により影響を受ける場合があるので、雰囲気圧力Pi,Peにより補正する必要がある。しかしながら、クランク軸の回転角度に対して、気筒内の吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程等により気筒内圧力が変動するので、吸気マニホールド(吸気経路)11a及び排気マニホールド11bや排気通路13の排気経路における酸素濃度Ci,Ceと圧力Pi,Peの計測においても、図2に示すように、この圧力変化の影響がある。また、圧力センサ23、25(又は27)と酸素濃度センサ22、24(又は26)を設置する場所が異なるので、この位置の違いによる出力の位相差も考慮する必要がある。
【0034】
一般的には一定時間毎にサンプリングするので、この場合には、クランク軸の一定回転数の時間に対して、遅い回転数ではサンプリング数が多くなり、早い回転数ではサンプリング数が少なくなるので、エンジン回転速度が異なるとサンプリング数が変化する。そのため、平均値を計算するときの母数(サンプル数)が変わる。つまり、クランク軸の回転数が低くなれば、母数は大きくなり、回転数が高くなれば母数は小さくなる。そのため、平均化しても、各エンジン回転速度に対して、同じ精度の値が求められるとは限らない。そのため、適当な時間間隔でサンプリングして平均値を求めても、すべてのエンジン回転速度で、同じような精度の酸素濃度や圧力の値が得られないので、精度よい制御を行うことができない。
【0035】
これに対して、本発明では、エンジン回転速度に応じて、サンプリング間隔を変更し、同じサンプリング数で平均処理できるようにする。例えば、クランク角度を基準にして一定角度毎にサンプリングする。より具体的には、各気筒の上死点位置を中心として4気筒エンジンならば±90度の区間でサンプリングする。これにより、エンジン回転速度に因らずに、クランク軸の一定回転角度に対して同一サンプル数となり、クランク軸が一回転した時間の倍数の時間の期間でサンプリングすることで位相差も考慮できるので、異なるエンジン回転速度であっても、平均化に関しては、常に同じ精度で平均値を求めることができる。
【0036】
本発明では、吸気酸素濃度センサ22で検出した吸気酸素濃度Ci、吸気圧力センサ23で検出した吸気圧力Pi、上流側排気酸素濃度センサ24(又は下流側排気酸素濃度センサ26)で検出した排気酸素濃度Ce、上流側排気圧力センサ25(又は下流側排気圧力センサ27)で検出した排気圧力Peの検出を、クランク軸の一定回転角度に対して同一サンプル数になるようにサンプリングし、平均化する。即ち、エンジン回転速度に同期させて気筒間の平均処理を行う。これにより、図2に示すような、各センサ22、23、24(又は26)、25(又は27)の検出値Ci,Pi,Ce,Peにおける脈動による影響、即ち、測定値のばらつきを低減する。
【0037】
これにより、吸気酸素濃度センサ22で検出した吸気酸素濃度Ciを吸気圧力センサ23で検出した吸気圧力Piで補正する前に、吸気酸素濃度Ciと吸気圧力Piに対してエンジン回転速度に同期させて気筒間(シリンダ間)の平均処理を行うことができ、また、上流側排気酸素濃度センサ24(又は下流側排気酸素濃度センサ26)で検出した排気酸素濃度Ceを上流側排気圧力センサ25(又は下流側排気圧力センサ27)で検出した排気圧力Peで補正する前に、排気酸素濃度Ceと排気圧力Peに対してエンジン回転速度に同期させて気筒間の平均処理を行うことができる。
【0038】
そして、酸素濃度センサ22、24(又は26)の出力値Ci,Ceと、圧力センサ23、25(又は27)の出力値Pi,Peに対して、エンジン回転速度に同期させての気筒間の平均処理した後、これらの平均処理後の圧力データPim,Pemを利用して酸素濃度データCim,Cemの圧力補正を行う。なお、この圧力補正式に関してはセンサメーカー仕様によるのでここでは述べない。
【0039】
また、酸素濃度センサ22、24、26は経年変化により汚損し出力が変化してしまうという問題があるが、これは、モータリング時の吸気酸素濃度=大気酸素濃度の関係を用いて、酸素濃度センサ22、24、26の出力を校正して利用することで解決できる。
【0040】
次に、補正後の吸気酸素濃度Cimcと排気酸素濃度CemcからEGR率Ecを算出する。従来技術のEGR率の算出に用いられているように、一般的に、吸気のCO2濃度Biと、排気のCO2濃度Beと大気中CO2濃度Ba(Ba≒0)から、EGR率Ecは、「Ec=(Bi−Ba)/(Be−Ba)≒Bi/Be」となる。同様に、本願発明のように、補正後の吸気酸素濃度Cimc排気酸素濃度Cemcと大気中酸素濃度Ca(Ca≒21%)を用いる場合は、EGR率Ecは、「Ec=(Ca−Cimc)/(Ca−Cemc)」となる。
【0041】
次に、内燃機関10の運転が過渡状態におけるEGR率Ecの算出について説明する。先ず、過渡状態で、EGR通路の分岐点より上流側の排気経路に設けた上流側排気酸素濃度センサ24の検出値Ceを用いた場合を説明する。この過渡状態におけるEGR率Ecの算出には、排気マニホールド11bに設けた上流側排気酸素濃度センサ24で計測した排気酸素濃度Ceの瞬時値が、EGR通路19の配管を伝わって吸気マニホールド11aに到達する時間を考慮する必要がある。
【0042】
この上流側排気酸素濃度センサ24の測定値に対して直接「一次遅れ+無駄時間」を適用する。これについて説明する。図3は、「排気+EGR」系(システム)45を模式的に示したものである。以下の式(1)〜(8)を基に、「排気+EGR」系を「一次遅れ+無駄時間」の簡易的なモデルで表わす。
【0043】
エネルギー保存側から、熱の移動が無い場合、図3で示したシステム45の容積の収支は以下の式(1)で示すことができる(一般的な式)。式(1)は、
【数1】
となる。Vを一定とし、温度Tが一定の場合、h1=h2=cpTとして、
【数2】
「排気+EGR」経路の容積は一定であるので、
【数3】
となり、式(2)と式(3)から、κ=cp/cvであるので、
【数4】
となる。
【0044】
ここで、単位時間当たりのシリンダ吸入ガス量は、エンジン回転数Ne、体積効率η、ガス定数Rとすると、以下の式(5)で表わせる。体積効率ηは、予め実験的に得ているデータである。
【数5】
よって、
【数6】
次式(7)のような、一次の微分方程式に帰着する。
【数7】
よって、この系の時定数Tは、T=1/aであるから、
【数8】
となる。
【0045】
ここで、「排気+EGR」経路の容積Vから時定数Tを算出する。
【0046】
次に、過渡状態で、上流側排気酸素濃度センサ24の代わりに排気ガス処理装置18の下流側の排気通路13に設けた下流側排気酸素濃度センサ26を用いる場合について説明する。この場合は、排気ガスGが排気マニホールド11b、配管13、タービン15b、排気ガス浄化装置18を通って、下流側排気酸素濃度センサ26で検出するまでに、遅れが生じることになる。この下流側排気酸素濃度センサ26の検出値を用いて、吸気マニホールド11aに到達する排気ガスGの排気酸素濃度を推定するためには、この下流側排気酸素濃度センサ26の検出値から、微分補償器によりEGR通路19の分岐点より上流側の排気経路の位置(例えば、排気酸素濃度センサ24の搭載位置、あるいは、排気マニホールド11bの位置)に相当する排気酸素濃度Ceを推定する。
【0047】
微分補償器はラプラス演算子sとすると、その伝達関数G(s)は、G(s)=k・sとなり、ここで、係数kは、EGR通路19の分岐点より上流側の排気経路の位置(例えば、上流側排気酸素濃度センサ24の搭載位置あるいは排気マニホールド11bの内部の位置)から下流側排気酸素濃度センサ26の搭載位置までのガスの経路長及び容積、排気ガスGの流速から決まる値である。この配管長Lex、容積Vexはエンジン固有の定数であり、流速はエンジン回転数Neと相関があるので、係数kはk=f(Ne,Lex,Vex)の形となり、エンジン回転数のテーブルとなる。従って、実際には、k=f(Ne,Lex,Vex)に相当するデータを、予めマップデータで記憶させておき、係数kの算出時に、このマップデータを参照する。
【0048】
微分補償を適用して推定した、EGR通路19の分岐点より上流側の排気経路の位置の排気酸素濃度に対して、上記の過渡状態での上流側排気酸素濃度センサ24の検出値を用いた場合と同様に「一次遅れ+無駄時間」の補償を適用する。
【0049】
一次遅れ系の伝達関数は、時定数Tとして、
【数9】
となり、無駄時間の伝達係数は、無駄時間Lとして、
【数10】
となるので、よって、一次遅れ+無駄時間系として、
【数11】
となる。
【0050】
酸素濃度センサで検出された酸素濃度をCexmとし、補正後の酸素濃度をCexmhとすると、時刻tにおける値は、
【数12】
となる。
【0051】
そして、上記で算出したEGR率Ecの目標EGR率Etに対する偏差erを計算し、この偏差erがゼロになるように、例えば、PIDのフィードバック制御によりEGRバルブ21の弁開度を制御する。なお、実際には、弁開度を調整するために、EGRバルブ21の弁開度を変更するための直流モータ(DCモータ)において回転軸の回転角度の制御を実施することになる。
【0052】
つまり、エンジン回転数Neと燃料噴射量Qfで決まるエンジン運転状態に対して、EGR制御マップ等を参照して得られる目標EGR率Et(Ne,Qf)を算出し、この目標EGR率Etに対して、算出されたEGR率Ecを用いると、偏差erは、「er=Et−Ec」となり、PID制御を行う場合には、EGRバルブ21の操作量Evtは、「Evt=kp×er+ki×∫er・dt+kd×der/dt」で算出される。この操作量Evtに対して、EGRバルブ21の直流モータの位置制御が行われることになる。
【0053】
上記の内燃機関のEGR制御方法及び内燃機関10によれば、内燃機関の運転状態においてEGR率を精度よく制御することができる。特に内燃機関の運転状態が過渡状態になってもEGR率を精度よく制御することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の内燃機関のEGR制御方法及び内燃機関は、内燃機関の運転状態においてEGR率を精度よく制御することができるので、自動車に搭載する内燃機関や建設機械用や発電用の内燃機関等の広範囲の内燃機関において利用できる。
【符号の説明】
【0055】
10 内燃機関(エンジン)
11 エンジン本体
11a 吸気マニホールド
12 吸気通路
11b 排気マニホールド
13 排気通路
19 EGR通路
21 EGRバルブ
22 吸気酸素濃度センサ
23 吸気圧力センサ
24 上流側排気酸素濃度センサ
25 上流側排気圧力センサ
26 下流側排気酸素濃度センサ
27 下流側排気圧力センサ
28 クランク角度センサ
29 エンジン回転速度センサ
30 制御装置
Ci 吸気酸素濃度
Ce 排気酸素濃度
Ec 算出されたEGR率
Et 目標EGR率
Ne エンジン回転速度
Pi 吸気圧力
Pe 排気圧力
Qf 燃料噴射量
図1
図2
図3