(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
−第1の実施形態−
図1(a)は、第1の実施形態における半導体装置1の上面図、
図1(b)は、第1の実施形態における半導体装置1の側面図である。第1の実施形態における半導体装置1は、半導体モジュール10を収容したモジュールケース71が冷却器51に対して複数のボルト73によって固定されることによって構成されている。
【0010】
図1(b)に示すように、冷却器51の側面には、冷却水が流入する流入口55が設けられており、反対側の側面には、冷却器51の内部を通過した冷却水が流出する流出口56(
図3参照)が設けられている。なお、半導体モジュール10を冷却するための冷媒が冷却水に限定されることはない。
【0011】
図2は、
図1(b)の断面A−Aを示す図である。半導体モジュール10は、複数の半導体素子11、12を備える。例えば、半導体素子11は、IGBT等のスイッチング素子であり、半導体素子12はダイオードである。通常使用時において、半導体素子12よりも半導体素子11の方が温度が高くなるものとする。特に、本実施形態では、半導体モジュール10を構成する複数の半導体素子のうち、
図2に示す半導体素子11aの温度が最も高くなるものとする。なお、温度が最も高くなる半導体素子は、半導体モジュール10の寸法や材料の組み合わせ等で決まるものであって、
図2に示す半導体素子11aに限定されることはない。
【0012】
半導体素子11は、冷却水が流れる方向に沿って配列されている。同様に、半導体素子12も冷却水が流れる方向に沿って配列されている。
図2に示す例では、半導体素子11および半導体素子12はそれぞれ直線上に一列に配列されているが、必ずしも直線上に配列されていなくてもよい。
【0013】
複数の半導体素子11、12は、アルミワイヤボンディング等で電気的配線部材および放熱部材である電極パターン21と接合されている。また、電極パターン21も、アルミワイヤボンディングや、アルミや銅等からなるリボンボンディング等でモジュールケース71に接続され、半導体モジュール10の外のブスバー等の配線部品にボルト止め等で接続される。これにより、半導体装置1は、電気自動車やハイブリッド自動車等の電気自動車を駆動するモータを制御するインバータ等の電力変換装置の一部として使用される。
【0014】
図3は、
図1(b)の断面B−Bを示す図である。
図3に示すように、冷却器51の内部には、冷却水が流れる冷却水路61が形成されており、流入口55から流入した冷却水は、冷却水路の形状に沿って流れが広がり、半導体モジュール10の一部である冷却フィン42の間を流れることによって、半導体素子11、12で発生する熱を奪い、流路形状に沿って流出口56から排出される。
【0015】
図4は、
図2の断面C−C、すなわち、半導体素子11が配列された列の断面を示す図である。また、
図5は、
図2の断面D−D、すなわち、半導体素子12が配列された列の断面を示す図である。半導体素子11は、はんだ等からなる接合材料31によって電極パターン21に接合されている。また、半導体素子12は、はんだ等からなる接合材料32によって電極パターン21に接合されている。電極パターン21は、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等からなる絶縁板23と接合されている。
【0016】
積層方向における絶縁板23の両面のうち、電極パターン21と接合されていない面は、電極パターン22と接合されている。電極パターン21、22および絶縁板23は、合わせて絶縁基板と呼ばれる。
【0017】
電極パターン22は、はんだ等からなる接合材33によってヒートシンク41と接合している。ヒートシンク41には、複数の冷却フィン42が形成されている。それぞれの冷却フィン42は、円筒形状である。ヒートシンク41は、銅やアルミ等からなり、別体フィンをろう付けする工法や、切削書こうで削り出す工法等により、冷却フィン42付きヒートシンク41を製作することができる。
【0018】
ヒートシンク41の端部と冷却器51との間には、冷却水の漏れを防ぐために、Oリングやガスケット等のシール材75が挟み込まれている。
【0019】
ここで、
図4および
図5に示すように、ヒートシンク41の下部のうち、シール材75を介して冷却器51と接合されているシール部分は、冷却器51の厚さ分だけ、冷却水路61の流路断面積が狭くなっている。すなわち、冷却水が流れる方向と垂直な方向における冷却水路61の高さは、ヒートシンク41と冷却器51とが接合されているシール部分と、ヒートシンク41と冷却器51とが接合されていない部分とで異なっており、段差が生じている。
【0020】
図6は、
図4の断面E−E、すなわち、ヒートシンク41と冷却器51とのシール部分の断面を示す図である。本実施形態では、ヒートシンク41と冷却器51とが接合されているシール部分のうち、使用時に温度が高い半導体素子の上流および下流における冷却器51の肉厚を、相対的に温度が低い半導体素子の上流および下流における冷却器51の肉厚よりも薄くする。ここで、上流および下流とは、冷却水の流れ方向における上流および下流を意味する。
【0021】
すなわち、
図6に示すように、半導体素子11の上流および下流におけるシール部分52aは、半導体素子12の上流および下流におけるシール部分52bよりも、肉厚が薄い。これにより、半導体素子11の上流および下流における冷却水路61の段差が生じている部分で冷却水の流れがよどみやすいエリア61aを小さくすることができる(
図4参照)。従って、温度が高くなる素子(半導体素子11)、特に最高温度となる素子(半導体素子11a)の上流側および下流側の冷却水路の流路断面積が大きくなって、温度が高くなる素子、特に最高温度となる素子の直下の冷却水の流速を上げることができるので、熱伝達率を大きくして、温度が高くなる素子、特に最高温度となる素子の温度を効果的に下げることができる。
【0022】
ここで、温度が低い半導体素子の上流および下流におけるシール部分(冷却器)の肉厚も薄くすると、シール部分における剛性が低下して、シール部分から冷却水が漏れる可能性がある。しかしながら、本実施形態では、肉が厚いシール部分52bと肉が薄いシール部分52aとを組み合わせているので、使用時に温度が高い半導体素子の上流および下流におけるシール部分52aの肉厚を薄くしても、シール部全体として必要な剛性を確保することができる。
【0023】
以上、第1の実施形態における半導体モジュールの冷却構造によれば、第1の半導体素子12と、使用時に第1の半導体素子12よりも温度が高くなる第2の半導体素子11とが実装された半導体モジュール10と、冷媒が流れる通路を内部に有し、半導体モジュール10を冷却する冷却器51とを備えた半導体モジュールの冷却構造において、一以上の第1の半導体素子12は、冷媒が流れる方向に沿った第1列に配置され、一以上の第2の半導体素子11は、冷媒が流れる方向に沿った第2列に配置されている。半導体モジュール10と冷却器51とを接合している接合箇所は、半導体モジュール10と冷却器51とを接合していない箇所に比べて、冷却器51の厚みの分だけ冷媒が流れる通路の流路断面積が狭くなっており、接合箇所の冷却器51の厚みのうち、第2列の上流および下流の厚みは、第1列の上流および下流の厚みよりも薄い。これにより、温度が高くなる第2の半導体素子11の上流側および下流側の流路断面積が大きくなって、第2の半導体素子11の直下を流れる冷媒の流速を上げることができ、熱伝達率を大きくすることができるので、相対的に温度が高くなる第2の半導体素子11を効果的に冷却することができる。また、接合箇所の冷却器51の厚みのうち、第2列側だけでなく第1列側の厚みも薄くする場合に比べて、シール部全体の剛性を高くすることができる。
【0024】
−第2の実施形態−
図7は、
図5に対応する第2の実施形態における半導体装置の断面図であり、
図8は、
図3に対応する第2の実施形態における半導体装置の断面図である。
【0025】
第2の実施形態における半導体装置が第1の実施形態における半導体装置と異なるのは、ヒートシンクの冷却ファンの形状である。すなわち、第2の実施形態における半導体装置のヒートシンクは、複数の平板状のフィンを有するブレードフィン型の冷却フィン43を有する。冷却水が複数の平板状のフィン間を流れることにより、半導体素子11、12が発生する熱を奪う。
【0026】
以上、第2の実施形態における半導体モジュールの冷却構造においても、第1の実施形態における半導体モジュールの冷却構造と同様の効果を得ることができる。
【0027】
−第3の実施形態−
図9は、
図4に対応する第3の実施形態における半導体装置の断面図である。
【0028】
第3の実施形態における半導体装置では、第1および第2の実施形態における半導体装置と異なり、ヒートシンク41と冷却器51とが接合されているシール部分のうち、上流側(冷却水の流入側)のシール部分52cが均一な肉厚を有している。また、半導体素子の配置位置や、電極パターン21の寸法違いや材質特性違いのため、最高温度となる半導体素子11aの位置は、一列に配置された半導体素子11の中央(
図2参照)ではなく、下流側の位置となっている。
【0029】
本実施形態の半導体装置では、最高温度となる半導体素子11aの下流側におけるヒートシンク41と冷却器51とが接合されているシール部分52bの肉厚が、半導体素子11a以外の半導体素子11および半導体素子12の下流側におけるヒートシンク41と冷却器51とが接合されているシール部分の肉厚よりも薄い。このため、最高温度となる半導体素子11aの下流側において冷却水路61の段差がある部分、すなわち、冷却水の流れが悪くなるエリア61aを小さくするができるので、放熱性を向上させることができる。
【0030】
また、最高温度の半導体素子11aから遠い距離にある上流側のシール部分52cの肉厚は均一であって、かつ、最高温度となる半導体素子11aの下流側におけるシール部分52bの肉厚よりも厚い。これにより、上流側のシール部分の一部の肉厚も薄くする構成と比べると、最高温度の半導体素子11aから遠い距離にある上流側のシール部分の剛性を高くすることができる。
【0031】
上述した説明では、最高温度となる半導体素子11aの下流側におけるヒートシンク41と冷却器51とが接合されているシール部分52bの肉厚を薄くした。しかし、最高温度となる半導体素子11aに限らず、半導体素子11の下流側におけるヒートシンク41と冷却器51とが接合されているシール部分の肉厚を、半導体素子12の下流側におけるヒートシンク41と冷却器51とが接合されているシール部分の肉厚よりも薄くするようにしてもよい。
【0032】
以上、第3の実施形態における半導体モジュールの冷却構造によれば、半導体モジュール10と冷却器51とを接合している接合箇所のうち、使用時に温度が高くなる半導体素子11の下流の厚みは、半導体素子12の下流の厚みよりも薄くした。半導体素子で発生した熱を受熱するため、冷却水の温度は下流になるほど高くなるが、半導体素子11の下流側の接合箇所の厚みを、半導体素子12の下流側の接合箇所の厚みよりも薄くしたので、半導体素子11の放熱性を向上させることができる。
【0033】
−第4の実施形態−
図10は、
図4に対応する第4の実施形態における半導体装置の断面図である。
【0034】
第4の実施形態における半導体装置が第1の実施形態における半導体装置と異なるのは、半導体素子11および半導体素子12の下流側のシール部分52cの肉厚が均一であることと、最高温度となる半導体素子11aの上流側におけるシール部分52dの形状である。最高温度となる半導体素子11aの上流側におけるシール部分52dは、
図10に示すように、流路高さHの厚みを有する形状であって、
図10の紙面と垂直な方向の断面が均一な形状である。
【0035】
ここで、流速U、流路高さH、動粘性係数νを次式(1)〜(3)のように決めると、レイノルズ数Reは、次式(4)のようになる。なお、冷却水の温度は、例えば25℃である。
【0036】
U=2[m/sec] …(1)
H=2×10
−3[m] …(2)
ν=9×10
−7[m
2/sec] …(3)
レイノルズ数Re=UH/ν=4444 …(4)
ここで、レイノルズ数Reとは、流体力学において、流れの性質を調べるために使用される無次元量である。レイノルズ数Reが2000〜3000以上であると、層流ではなく乱流の状態となる事例が報告されている。また、乱流状態では、多くの場合、渦を伴った複雑な流れ状態となるため、流体の拡散性が増大することで熱の移動もしやすくなる。
【0037】
本実施形態では、式(4)に示すように、レイノルズ数Reが4444で乱流が発生することが予想され、その流れ状態で冷却水が冷却フィン42に当たるため、熱伝達率が大きくなり、層流のときに比べて放熱性能が向上する。
【0038】
−第5の実施形態−
図11は、
図4に対応する第5の実施形態における半導体装置の断面図であり、
図12は、
図5に対応する第5の実施形態における半導体装置の断面図である。また、
図13は、
図6に対応する第5の実施形態における半導体装置の断面図である。
【0039】
第5の実施形態における半導体装置が第1の実施形態における半導体装置と異なるのは、半導体素子11の下流側のシール部分52cの肉厚が均一であることと、半導体素子11aの上流側のシール部分が後述する構造となっていることである。
【0040】
最高温度となる半導体素子11aの上流側の冷却器51のシール部分52eは、
図11に示すように、流路高さHとなるような厚みを有する形状であり、
図11の紙面と垂直な方向の断面が均一な形状である。
【0041】
ここで、流速U、流路高さH、動粘性係数νを次式(5)〜(7)のように決めると、レイノルズ数Reは、次式(8)のようになる。なお、冷却水の温度は、例えば25℃である。
【0042】
U=1.5[m/sec] …(5)
H=3×10
−3[m] …(6)
ν=9×10
−7[m
2/sec] …(7)
レイノルズ数Re=UH/ν=5000 …(8)
半導体素子11の上流側におけるシール部分52eの厚みは、半導体素子12の上流側および下流側におけるシール部分52fの厚みよりも薄い。
【0043】
本実施形態においても、レイノルズ数Reが5000であるため、第4の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、上記効果に加えて、最高温度となる半導体素子11aの上流側におけるシール部分52e周辺の冷却水の流れが悪くなるエリア61aを小さくすることができるので、シール部分52e付近で発生した乱流の渦が効率的に冷却フィン42に当たり、放熱性をさらに向上させることができる。
【0044】
以上、第5の実施形態における半導体モジュールの冷却構造によれば、冷却器51は、半導体モジュールとの接合箇所において、半導体モジュールとの接合面と反対側の面に凸部を有する。凸部を設けたことにより、凸部で発生した乱流により放熱性を向上させることができる。また、接合箇所における剛性が高くなるとともに、冷却水の漏水をより確実に防ぐことができる。
【0045】
特に、冷却器51は、使用時に温度が高くなる半導体素子11の上流における接合箇所において、凸部を有するので、乱流発生による圧力損失の上昇を抑制しつつ、効果的に放熱性を向上させることができる。
【0046】
冷媒が流れる通路の高さをH、冷媒の動粘性係数をν、冷媒の流速をUとすると、レイノルズ数Re=U×H/νが一定値(例えば2000)以上となるように、凸部の高さを定めたので、凸部において乱流を発生しやすくして、放熱性を向上させることができる。
【0047】
本発明は、上述した各実施の形態に限定されることはない。例えば、半導体モジュール10は、半導体素子11および半導体素子12の2種類の半導体素子を含むものとして説明したが、3種類以上の半導体素子を含んでいてもよい。この場合、使用時に最も温度が高くなる半導体素子の上流および下流のうちの少なくとも一方の厚みを、他の種類の半導体素子の上流および下流のうちの少なくとも一方の厚みよりも薄くすればよい。
【0048】
第1の実施形態における半導体装置では、半導体モジュール10と冷却器51とを接合している接合箇所の冷却器51の厚みのうち、半導体素子11の上流および下流の厚みを、半導体素子12の上流および下流の厚みよりも薄くした。しかし、半導体素子11の上流の厚みを半導体素子12の上流の厚みより薄くするだけの構成とすることもできるし、半導体素子11の下流の厚みを半導体素子12の下流の厚みより薄くするだけの構成とすることもできる。