特許第5970915号(P5970915)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5970915
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】導電性複合体
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/24 20060101AFI20160804BHJP
   D01F 2/02 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   H01B1/24 Z
   D01F2/02
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-78821(P2012-78821)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-211108(P2013-211108A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】古賀 大尚
(72)【発明者】
【氏名】磯貝 明
(72)【発明者】
【氏名】大森 友美子
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 奈緒
(72)【発明者】
【氏名】木村 光晴
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/118407(WO,A1)
【文献】 特開2010−163568(JP,A)
【文献】 特開2010−092863(JP,A)
【文献】 特開2006−008861(JP,A)
【文献】 特開2009−277736(JP,A)
【文献】 TSUBOKAWA N,PREPARATION AND PROPERTIES OF POLYMER-GRAFTED CARBON NANOTUBES AND NANOFIBERS,POLYMER JOURNAL,日本,SOCIETY OF POLYMER SCIENCE,2005年 1月 1日,V37 N9,P637-655
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/24
H01B 5/00−5/16
D01F 2/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ基で修飾されたセルロースナノファイバーと、カルボキシ基で修飾されたカーボンナノチューブとを含有し、
前記カルボキシ基で修飾されたカーボンナノチューブのカルボキシ基量が0.1〜2.0mmol/gであることを特徴とする導電性複合体。
【請求項2】
さらに架橋剤を含有して形成されていることを特徴とする請求項1に記載の導電性複合体。
【請求項3】
前記カルボキシ基で修飾されたセルロースナノファイバーは、カルボキシ基量が0.1〜3.5mmol/gであることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性複合体。
【請求項4】
前記カルボキシ基で修飾されたカーボンナノチューブの割合が、前記カルボキシ基で修飾されたセルロースナノファイバー100質量部に対し、0.5〜100質量部であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば導電性フィルムなどの導電性複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性フィルムとしては、例えば、フィルム基材(マトリックス成分)としてポリエチレンテレフタレート(PET)が用いられ、導電性物質として酸化インジウム錫(ITO)が用いられたITO−PET導電性フィルムがあり、該導電性フィルムは、フレキシブルデバイスとして広く使用されている。フィルム基材としては、PETの他に、例えばポリエチレンスルホネート(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)などの樹脂が使用され、導電性物質としては、ITOの他に、例えば酸化錫(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫カドミウム(CdSnO)などの無機材料が使用されている。
【0003】
ところが、PETをはじめとした上記の樹脂は、化石燃料由来の材料であり、環境面、原料埋蔵量などの点で懸念がある。また、ITOについても、インジウムの埋蔵量に限界があるため、インジウムの価格高騰や枯渇という不安材料がある。
そのため、フィルム基材、導電性物質ともに、他の材料での代替が急務になっている。
【0004】
このような事情を背景として、例えば特許文献1には、表面にカルボキシ基を有する改質微細セルロースをフィルム基材として用い、導電性物質として、カーボンナノチューブなどの微細カーボンを用いた導電性フィルムが開示されている。この導電性フィルムは、改質微細セルロースと微細カーボンとが分散した分散液をプレート上にキャストし、乾燥する方法などで製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2011/118407号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、改質微細セルロースと微細カーボンとが分散した分散液は、微細カーボンの分散性が充分とは言えなかった。特に、微細カーボンのうち、単層カーボンナノチューブなどの超微細なカーボンは凝集しやすい。単層カーボンナノチューブは他のカーボン材料と比べても、導電性は非常に高いが、著しく凝集しやすく、使用が制限されていた。微細カーボンの分散性が不充分な分散液から得られた導電性フィルムにおいては、微細カーボンの分散状態にムラが生じ、それに起因した透明性のムラ、導電性不良などの問題が生じやすかった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、ムラのない優れた透明性や、安定した導電性を有する導電性フィルムなどの導電性複合体の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の導電性複合体は、カルボキシ基で修飾されたセルロースナノファイバーと、カルボキシ基で修飾されたカーボンナノチューブとを含有することを特徴とする。
本発明の導電性複合材は、さらに架橋剤を含有して形成されていることが好ましい。
前記カルボキシ基で修飾されたセルロースナノファイバーは、カルボキシ基量が0.1〜3.5mmol/gであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ムラのない透明性や、安定した導電性を有する導電性フィルムなどの導電性複合体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の導電性複合体は、カルボキシ基で修飾されたセルロースナノファイバーと、カルボキシ基で修飾されたカーボンナノチューブとを含有する。以下、セルロースナノファイバーのことをCSNF、カーボンナノチューブのことをCNTという場合がある。また、カルボキシ基で修飾されたセルロースナノファイバーを修飾CSNF、カルボキシ基で修飾されたカーボンナノチューブを修飾CNTという場合がある。
本発明の導電性複合体の好適な形態としては、例えば、水を主成分とする水性溶媒に修飾CSNFと修飾CNTとが分散した複合分散液をキャスト用基材上にキャスト、乾燥し、形成されたフィルムを剥離する方法で製造された導電性フィルム;上述の複合分散液を絶縁性基材上にキャストまたは塗布、乾燥する方法で形成された導電層;上述の複合分散液を導電性インクとして用い、絶縁性基材上に印刷する方法で形成された導電性薄膜やパターン化された導電性薄膜などが挙げられる。
【0011】
本発明で使用される修飾CSNFは、導電性複合体のマトリクス成分であって、セルロース類を改質して、その表面にカルボキシ基を導入する改質工程と、該改質工程で得られた改質セルロース類をナノオーダーに微細化する微細化工程とにより製造される。
なお、修飾CSNFの有するカルボキシ基は、酸型(−COOH)であっても、塩型(−COO)であってもよい。また、カルボキシ基の誘導体、すなわち、カルボキシ基から誘導されるアルデヒド基、エステル基、COO−NR(RはH,アルキル基、またはベンジル基、またはフェニル基、またはヒドロキシアルキル基で、2つのRが同一でも異なっていてもよい。)で表されるアミド基などであってもよい。
【0012】
CSNFは、線膨張率が低いために様々な温度条件下でも変形しにくく、安定した加工性を示す、高強度である、などの特性を有するものであるが、特に表面がカルボキシ基で修飾された修飾CSNFは、これらの特性に加えて、水中でカルボキシ基が反発しあうことで、水への分散性が非常に良好である。そのため、修飾CSNFは複合分散液中で良好に分散し、乾燥工程においても反発が維持し、修飾CSNF同士、さらには分散させたCNTの凝集を阻害することができる。特に修飾CNTでは、その反発をより大きくすることもできる。その結果、該複合分散液から形成された導電性複合体は、高い強度や安定した加工性だけでなく、ムラのない優れた透明性、安定した導電性を発現する。
【0013】
原料に用いるセルロース類としては、木材パルプ(サルファイトパルプやクラフトパルプなどの各種パルプ化法によって得られる木材パルプ。)、非木材パルプ、古紙パルプ、コットン、バクテリアセルロース、バロニアセルロース、ホヤセルロース、微細セルロース、微結晶セルロースなどを使用できるが、特に、セルロースI型の結晶構造を有する天然セルロースが好ましい。セルロースI型の結晶構造を有する天然セルロースは、その内部に結晶領域を有しているが、該結晶領域は改質工程において侵食されず、表面のみが酸化される。すなわち、天然セルロースを原料として用いると、結晶構造を保ちつつ、表面のみを酸化させることができ、その分子が個々にばらけることなく、ナノファイバー状になりやすい。
【0014】
改質工程の具体的方法としては、N−オキシル化合物(触媒)の存在下、共酸化剤を用いて、原料のセルロース類を酸化する方法が好ましい。このような方法によれば、セルロース類の構造を可能な限り維持しつつ、その表面の一級水酸基(C6位)を選択的に酸化して、カルボキシ基とすることができる。特に、上述したように、天然セルロースの結晶構造を持つセルロース類を原料として用いると、N−オキシル化合物が結晶構造内に入り込むことなく酸化できるため、結晶構造を維持することができる。
【0015】
N−オキシル化合物としては、制限はないが、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)が好ましく用いられる。
共酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸、またはこれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、酸化反応を促進する酸化剤であれば用いることができる。具体的には、入手の容易さや反応性から、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
また、酸化反応の反応系には、臭化物やヨウ化物を共存させると、酸化反応をより円滑に進行させ、カルボキシ基の導入効率を高めることができる。臭化物としては、コストや安定性から、臭化ナトリウムを用いることが好ましい。
【0016】
TEMPOの使用量は、触媒として機能する量であればよい。共酸化剤、臭化物またはヨウ化物の使用量についても、酸化反応を促進することができる量であればよい。
酸化反応の反応系は、アルカリ性に維持されることが好ましく、pH9〜11に維持されることがより好ましい。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムなどの水溶液やアンモニア水溶液などのアルカリ水溶液を、反応系に適宜することで、反応中のpH低下を抑制し、pHをアルカリ性に維持することが好ましい。アルカリ水溶液としては、コストや入手の容易さから、水酸化ナトリウムを使用することが好ましい。
なお、本明細書においてpHは、20℃における値である。
【0017】
酸化反応を終了させるためには、系内のpHを保ちながら、アルコールを添加して、共酸化剤の反応を完全に終了させる必要がある。ここで用いるアルコールとしては、反応を迅速に終了させ得る点から、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低分子量のアルコールが好ましい。これらのなかでは、反応により生成物する副生成物の安全性などから、メタノールが好ましい。
【0018】
酸化反応の終了は、所望のカルボキシ基が導入されたと判断されたタイミングで行う。例えば、導入されるカルボキシ基量と、pH調整のために添加され、酸化反応にともなって消費されるアルカリ量とは、非常に良好な相関関係がある。よって、使用する原料および酸化条件ごとに、導入されるカルボキシ基量と、消費されるアルカリ量との関係を示す検量線をあらかじめ作製しておく。そして、酸化反応の際に、消費されるアルカリ量をモニタリングする。これにより、所望のカルボキシ基が導入されたことを消費されたアルカリ量から判断でき、その時点で酸化反応を終了させることが可能となる。例えば、原料に針葉樹クラフトパルプを用いた場合には、約2.5mmol/gのアルカリが消費されたところでカルボキシ基量を測定すると1.6mmol/g、さらに、2.8mmol/g程度のアルカリが消費されたところでカルボキシ基量を測定すると、1.8mmol/gであった。このようにして予めデータを採り、検量線を作製しておくことで、消費されるアルカリ量から導入されたカルボキシ基量がわかる。
なお、導入されるカルボキシ基量は、原料として用いるセルロース類の種類や、添加する共酸化剤の量などに依存する。また、セルロース類の表面を膨潤させて反応を進めることにより、膨潤させずに反応を進める場合に比べて、カルボキシ基の導入量を増加させることもできる。例えば、木材パルプを原料として用いた場合、膨潤させない場合には1.6mmol/g程度であるカルボキシ基量を、その表面を膨潤させて反応を進めることにより2.0mmol/g以上とすることが可能となる。
【0019】
酸化反応の終了後、酸化反応により表面にカルボキシ基が導入されたセルロース類を洗浄する。上述のように、アルカリ性で酸化反応を行った場合、導入されたカルボキシ基はアルカリと塩を形成しているが、洗浄は、カルボキシ基がアルカリと塩を形成している状態のまま行ってもよいし、酸を添加して酸型(カルボン酸:−COOH)にしてから、行ってもよい。また、有機溶剤を添加して、表面にカルボキシ基が導入されたセルロース類を不溶化してから、洗浄してもよい。これらのなかでは、ハンドリング性、収率などの点から、酸を添加して酸型(カルボン酸:−COOH)にしてから、洗浄する方法が好ましい。洗浄溶媒としては、水が好ましい。
【0020】
上述のようにして、改質工程を行った後、該改質工程で得られた改質セルロース類をナノオーダーに微細化する微細化工程を行う。
具体的には、改質セルロース類を分散媒である水に浸漬した後、アルカリを添加して、pHを6〜12にすることが好ましい。このようなpH領域において微細化工程を行うと、カルボキシ基の静電気的な反発から、改質セルロース類をナノオーダーまで解繊して、透明性の高い分散液を得ることができる。これに対して、pHが6未満では、上述のような反発が起こりにくく、得られた分散液は不透明となる。ここで使用されるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムなどの水溶液やアンモニア水溶液、さらには、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウムなどの有機アルカリも使用できる。
【0021】
分散媒として、上述のように水を用いた場合、安定な分散状態を得ることができるが、その後の乾燥条件、分散液物性の改良・制御などの種々の目的に応じて、水以外の溶媒を用いてもよい。そのような溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、tert−ブタノール、エーテル類、ケトン類などが挙げられ、これらのうちの1種以上を使用できる。
【0022】
微細化方法としては、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ビーズミル、ボールミル、カッターミル、ジェットミル、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突などが挙げられ、任意の時間処理すればよい。
また、このようにして微細化を行うと、微細化に伴って次第に分散液が高粘度化し、高いエネルギーを要するようになる。よって、分散液中の改質セルロース類の量は、10質量%以下として、微細化を開始することが好ましい。
【0023】
以上のように改質工程と微細化工程とを行うことにより、C6位にカルボキシ基を有する修飾CSNFを得ることができる。
修飾CSNFのカルボキシ基量(修飾CSNF1g中に含まれるカルボキシ基のモル量)は、0.1〜3.5mmol/gが好ましい。この範囲の下限値以上であると、修飾CSNFと修飾CNTとを含有する複合分散液の分散性、粘度が適度となり、取扱性の点で好適である。一方、この範囲の上限値以下であると、最終的に得られた導電性複合体の耐水性が良好となるし、修飾CSNFと修飾CNTとを含有する複合分散液中における修飾CNTの分散性を低下させるおそれもない。
このようなカルボキシ基量のうち、修飾CSNFの安定性と製造しやすさの点からは、1.0〜2.0mmol/gが好ましい。また、最終的に得られる導電性複合体の導電性が良好となり、また、複合分散液の粘度がキャスト、印刷などに適した範囲となる点からは、1.5〜3.5mmol/gが好ましい。また、導電性複合体を湿度センサーとして利用する場合には、湿度に対する応答性に優れる点から、2.0〜3.5mmol/gが好ましい。
なお、修飾CSNFのカルボキシ基量は、例えば0.5N水酸化ナトリウム水溶液を用いた電導度滴定法により測定できる。
【0024】
修飾CSNFの繊維幅は、平均値として、1〜200nmが好ましい。このような繊維幅であると、複合分散液中での分散性がより優れ、その結果、透明性、導電性の安定性に優れた導電性複合体が得られやすい。特に1〜50nmの範囲にあると、得られる導電性複合体の透明性が高く、表面の外観も良い。また、繊維長は、平均値として、100〜3000nmが好ましい。このような繊維幅と繊維長とを有し高アスペクト比の修飾CSNFは、強度に優れ、少ない含有量で高強度の導電性複合体を形成することができる。
【0025】
なお、繊維幅および繊維長の平均値は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて複数の修飾CSNFの繊維幅および繊維長を測定し、その平均を求めることで得られる。この際、測定するサンプル数は、少なくとも10とする。
【0026】
本発明で使用される修飾CNTは、導電性複合体の導電性物質として使用されるものであって、カーボンナノチューブの表面をカルボキシ基で修飾したものである。カルボキシ基による修飾方法としては、例えば、シュウ酸を用いた修飾方法がある。具体的には、例えばZhang X.et al.,J.Phys.Chem.B,108(2004)16435.で示される方法を採用できる。また、修飾CNTの有するカルボキシ基は、酸型(−COOH)であっても、塩型(−COO)であってもよい。また、先に例示したようなカルボキシ基の誘導体であってもよい。
【0027】
カーボンナノチューブには、一般に、一層のグラファイトシートを筒状の形状に丸めた構造を持つ単層カーボンナノチューブと、該単層カーボンナノチューブが同心円状に積層した構造を持つ多層カーボンナノチューブがあるが、本発明では、単層カーボンナノチューブの表面をカルボキシ基で修飾した修飾CNTを用いることが好ましい。単層カーボンナノチューブは、比表面積が大きく、高い導電性が得られやすいが、未修飾の場合には、その大きな比表面積に起因して凝集しやすい。これに対して、表面をカルボキシ基で修飾することにより、単層カーボンナノチューブであってもその分散性を高めることができる。そのため、このような修飾CNTを使用することによって、ムラのない優れた透明性、安定した導電性を示す導電性複合体を形成することができる。
【0028】
修飾CNTのカルボキシ基量(修飾CNT1g中に含まれるカルボキシ基のモル量)は、0.1〜2.0mmol/gが好ましく、0.2〜0.7mmol/gがより好ましい。この範囲の下限値以上であると、修飾CNTの上述の複合分散液中での分散性が良好となり、凝集しにくい。一方、上限値以下であると、導電性に優れるとともに、カーボンナノチューブの構造が維持されやすい。
【0029】
また、修飾CNTの直径は、平均値として、4〜5nmが好ましい。このような直径であると、複合分散液中での分散性がより優れる。また、長さは、平均値として、0.5〜1.5μmが好ましい。
なお、直径および長さの平均値も、繊維幅および繊維長の場合と同様にして求められる。
【0030】
修飾CNTとしては市販品も使用でき、単層カーボンナノチューブの表面がカルボキシ基で修飾された修飾CNTとしては、シグマアルドリッチジャパン社から購入可能な「Single−walled carbon nanotubes,carboxylic acid functionalized(652490−250MG,1G)」などがある。この修飾CNTは、カルボキシ基量:0.22〜0.67mmol/g、直径(平均値):4〜5nm、長さ(平均値):0.5〜1.5μm、炭素基準の純度は>90%である。
【0031】
修飾CSNFと修飾CNTとを含有する複合分散液の調製法には特に制限はないが、修飾CSNFの分散液と修飾CNTの分散液とを別々に調製した後、これらを混合する方法が好ましい。また、修飾CSNFは、一旦乾燥すると、水に再分散しにくくなるため、微細化工程後の修飾CSNFの分散液を乾燥せずに、複合分散液の調製に用いることが好ましい。
また、複合分散液には、溶媒として水以外のものが含まれてもよいが、溶媒の主成分(50質量%以上である成分)は水とすることが好ましい。
複合分散液における修飾CSNFと修飾CNTの濃度としては、導電性複合体を良好に形成できる点、複合分散液の安定性などの点から、これらの合計濃度として、0.01〜5質量%が好ましく、特に0.1〜1質量%の範囲が好ましい。0.01質量%未満では、製膜の効率が低く、5質量%を超えると分散性が低下し、一部凝集が見られる場合がある。
【0032】
修飾CSNFと修飾CNTとの比率としては、修飾CSNF100質量部に対して、修飾CNTが0.5〜100質量部の範囲が好ましく、より好ましくは、0.5〜20質量部の範囲である。このような範囲であると、導電性複合体を良好に形成できるとともに、形成された導電性複合体の導電性、透明性が良好となる。
【0033】
複合分散液には、得られる導電性複合体の導電性、柔軟性を向上させるために、イオン液体が添加されてもよい。イオン液体には、親水性イオン液体、疎水性イオン液体があるが、添加対象の液には分散媒として水が使用されることが望ましいため、その場合には親水性イオン液体を添加することが好ましい。
親水性イオン液体としては、特に制限はないが、例えば、1,3−ジメチルイミダゾリウムジメチルホスファート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスファート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムエチルスルファート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム硫酸水素塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムメタンスルホン酸塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホナート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−メチル−3−n−オクチルイミダゾリウムクロリド、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムヨージド、1−エチル−3−メチルピリジニウムエチルスルファート、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロボレートなどが挙げられる。
【0034】
また、複合分散液には、得られる導電性複合体に耐水性、耐湿性を付与するために、架橋剤として、カルボジイミド基、オキサゾリン基、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基などの反応性官能基を有する化合物の1種以上を添加できる。これらのなかでも、カルボジイミド基、オキサゾリン基、イソシアネート基のうちの1つ以上を有する化合物は、修飾CSNFや修飾CNTに含まれる水酸基やカルボキシル基などとの反応が効率よく、しかも低温度で進行し得るため、より高い耐水性、耐湿性を付与できる。特に、カルボジイミド基、オキサゾリン基は、室温などの低温で緩やかに反応するため、少量で高い添加効率を発揮し、架橋剤を含んで形成される導電性複合体の導電性を低下させること無く、耐水性・耐湿性を付与できる。
これら架橋剤を添加する場合には、修飾CSNF100質量部に対して、架橋剤が0.1〜30質量部の範囲が好ましい。
【0035】
複合分散液には、導電性物質として、修飾CNT以外の物質、例えばITO、PEDOT、金属ナノワイヤーや金属微粒子、酸化金属微粒子、カーボンブラックなどを併用し、これらの導電性物質が導電性複合体に含まれるようにしてもよい。また、マトリックス成分として、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエステル、ポリオール、ポリウレタン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリカルボジイミド、ポリアクリル酸、ポリオキサゾリンなどの樹脂を修飾CSNFの100質量部に対して100質量部以下の範囲で併用して、これらの樹脂が導電性複合体に含まれるようにしてもよい。
また、複合分散液は、ラジカル補足剤、脱泡剤、界面活性剤、アルコールなどの溶媒、着色剤、滑剤、紫外線吸収剤、金属粒子、カーボン材料、保湿剤、乾燥剤、吸着剤などを性能を阻害しない範囲で含み、これらの物質が導電性複合体に含まれるようにしてよい。
また、複合分散液には、塩酸などのゲル化剤を添加して、これをゲル化してから、導電性複合体の形成に供してもよい。
【0036】
複合分散液をキャスト用基材にキャスト、乾燥し、剥離して、導電性フィルムを得る方法においては、導電性フィルムをキャスト用基材から剥離しやすくするために、キャスト用基材を構成する材料にフッ素系、シリコーン系などの離型剤を添加したり、離型剤をキャスト面に塗布したりしてもよい。また、キャスト用基材の表面に、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、オゾン処理、アンカーコート処理などの表面処理を行っておいてもよい。
【0037】
導電性複合体は、各種電子デバイスにも使用することができるが、導電性複合体、特に導電性フィルムは、その環境湿度と電気抵抗値との間に、良好な相関関係が認められることから、湿度センサーとしても好適に使用できる。修飾CSNFと修飾CNTとを含有して形成される導電性フィルムは、透明性が高いことから、湿度センサーとして建物の壁面などに設置した場合の意匠性に優れる。
導電性フィルムの厚みは、適宜設定でき、例えば0.1〜300μmである。
【0038】
本発明の導電性複合体には、上述した導電性フィルム、導電層、導電性薄膜以外に、例えば、修飾CSNFからなるフィルムの少なくとも一方の面に、修飾CNTの分散液を塗布、乾燥して得られる導電性フィルム;絶縁性基材の少なくとも一方の面に、修飾CSNFの分散液と修飾CNTの分散液をそれぞれ塗布、乾燥した導電性積層体;なども挙げられる。
また、本発明の導電性複合体は、絶縁性基材などに接着剤などで貼り合わされてもよい。
【0039】
絶縁性基材の材料としては、ガラスや、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系、PET、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セロファン等のセルロース系、6−ナイロン、6,6−ナイロンなどのポリアミド系、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、エチレンビニルアルコールなどの樹脂が挙げられる。また、これら樹脂の2種以上を含む樹脂組成物や、これら2種以上が互いに共重合した樹脂を使用できる。
また、その形態は、フィルム状基材であっても、立体的形状の基材であってもよい。
【0040】
以上説明したように、修飾CSNFおよび修飾CNTを含む導電性複合体は、該複合体中において、修飾CSNFおよび修飾CNTがいずれも良好に分散している。そのため、これらの高い分散性に基いて、ムラのない優れた透明性、安定した導電性などを発揮する。また、強度、加工性などにも優れる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[製造例]
次のようにして、修飾CSNFの分散液(A)を調製した。
(1)改質工程
針葉樹晒クラフトパルプ30gを蒸留水1800gに懸濁した懸濁液を調製した。一方、蒸留水200gに、TEMPOを0.3g、臭化ナトリウムを3g溶解させた溶液を調製し、この溶液を上述の懸濁液に加え、20℃に調温した。
この懸濁液に、1NのHCl水溶液によりpH10に調整された次亜塩素酸ナトリウム水溶液(濃度2mol/L、密度1.15g/mL)を220g滴下し、酸化反応を開始した。
系内の温度は20℃に維持した。また、反応中にはpHが低下するが、その際には、0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加することで、pHを10に維持した。
セルロース1gに対して、水酸化ナトリウムの消費量が2.5mmolになったところで、所望量のカルボキシ基が導入されたものと判断し(予め作製した検量線に基く。)、充分量のエタノールを添加して反応を停止させた。その後、pH3になるまで塩酸を添加し、ついで、蒸留水で洗浄を繰り返し、改質セルロースを得た。
なお、改質セルロースを固形分質量として0.1g秤量し、1質量%濃度となるように、水分散させるとともに、塩酸を加えてpHを3とした。ついで、この液に対して、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を用いた電導度滴定法により、カルボキシ基量を求めたところ、1gの改質セルロース(表面がカルボキシ基で修飾されたセルロース)あたり1.6mmol、すなわち、1.6mmol/gであった。
(2)微細化工程
上記(1)で得られた改質セルロース4gを396gの蒸留水に分散させ、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH10に調整した。ついで、ミキサーにより、この液を60分間微細化処理し、修飾CSNFの分散液(A)(修飾CSNFの濃度1質量%)を得た。
【0042】
この分散液(A)中の修飾CSNFのカルボキシ基は、塩型(ナトリウム)である。
分散液(A)に含まれる修飾CSNFの繊維幅(平均値)は3.5nm、繊維長(平均値)は800nmであった(原子間力顕微鏡(AFM)観察による。測定サンプル数は20)。
【0043】
[実施例1]
上記分散液(A)を蒸留水で希釈して、カルボキシ基で修飾されたセルロースナノファイバーの分散液(A−1)(濃度0.1質量%)を得た。
この分散液(A−1)10mLに対して、修飾CNTが分散した分散液(B−1)(濃度0.003質量%)を20mL混合し、複合分散液(1)を調製した。
なお、修飾CNTとしては、上述の「Single−walled carbon nanotubes,carboxylic acid functionalized(652490−250MG,1G)」(シグマアルドリッチジャパン社)を用いた。
また、この複合分散液は、30分間の超音波分散後、9000rpmの条件で40分間遠心分離しても、良好な分散性を維持していた。
この複合分散液(1)をテフロン(登録商標)シャーレ上にキャストし、40℃で3日間乾燥した後にシャーレから剥離し、修飾CNTを6質量%含有する厚み6μmの自立フィルム(導電性フィルム)を得た。
得られた自立フィルムについて、下記評価を行った。結果を表1に示す。
【0044】
<評価>
(1)電気抵抗値
JIS R3256に基づき、得られた自立フィルムの電気抵抗値を測定した。5回測定し、その平均値Rを求めた。
また、測定された最大値と最小値のうち、平均値Rとの差の絶対値が大きい方の電気抵抗値とRとの差(絶対値)をRとし、下記式により、電気抵抗値の振れ幅を求めた。
振れ幅(%)=R/R×100
(2)透明性
分光光度計により、得られた自立フィルムの可視光透過率を測定した(波長λ=600nm)。
(3)湿度センサーとしての使用可能性
(a)得られた自立フィルムを50、60、70、80、90、98%RHの各湿度環境下に置き、上記(1)と同様の方法にて電気抵抗値を測定し、湿度センサーとしての使用可能性を評価した。温度はいずれも30℃とした。
(b)得られた自立フィルムの電気抵抗値を上記(1)と同様の方法にて測定しながら、自立フィルムの置かれた環境の湿度を変化させた。具体的には、60%RHと90RH%とを繰り返した。温度はいずれも30℃とした。
【0045】
[比較例1]
修飾CNTのみが分散した分散液(B−1)(濃度0.003質量%)をテフロン(登録商標)シャーレ上にキャストし、40℃で3日間乾燥したが、フィルム化できなかった。
【0046】
[比較例2]
実施例1で調製した修飾CSNFの分散液(A−1)(濃度0.1質量%)をテフロン(登録商標)シャーレ上にキャストし、40℃で3日間乾燥し、修飾CSNFからなる厚み6μmの自立フィルム(2)を得た。そして、実施例1と同様の評価(1)(2)を実施した。
【0047】
[比較例3]
修飾CNTが分散した分散液(B−1)(濃度0.003質量%)の代わりに、未修飾のCNTが分散した分散液(濃度0.003質量%)を用いた以外は、実施例1と同様にして、厚み6μmの自立フィルム(3)を得た。そして、実施例1と同様の評価(1)を実施した。
なお、この複合分散液中のCNTは、30分間の超音波分散後、9000rpmの条件で40分間遠心分離すると、良好な分散性を維持できず凝集した。
【0048】
【表1】
表中「−」は未測定あるいは未評価を意味する。
【0049】
<結果および考察>
(1)電気抵抗値、(2)透明性
修飾CNTを用いた実施例1の自立フィルムは、電気抵抗値の振れ幅が非常に小さかった。このことから、実施例1の自立フィルム中では修飾CNTが均一に分散し、そのために安定した電気抵抗値を示すことがわかった。また、実施例1の自立フィルムは、フィルム全体にわたって透明性が優れ、可視光透過率が高かった。これに対して、未修飾のCNTを用いた比較例3の自立フィルム中では未修飾のCNTの分散にムラがあり、そのために、透明な部分と不透明な部分とがあり、外観が不良であるとともに、電気の流れる部分と流れない部分が生じ、電気抵抗値の振れ幅も大きかった。
(3)湿度センサーとしての使用可能性
実施例1のみ行った。評価(a)にて、湿度環境を50、60、70、80、90、98%RHとすると、電気抵抗値も1.5、1.7、1.8、2.1、3.1、4.2kΩと変化し、湿度を大きくすると抵抗値も大きくなった。また、2日かけてこの測定を2回繰り返し、再現性が確認された。
評価(b)にて、60%RHと90RH%とを繰り返し、電気抵抗値を測定した場合、いずれの場合でも、電気測定値が10分以内に安定し、良好な応答性が認められた。
これらの結果から、実施例1の自立フィルムは、湿度センサーとして利用できることが示された。
【0050】
[実施例2]
上記分散液(A)を蒸留水で希釈して、カルボキシ基で修飾されたセルロースナノファイバーの分散液(A−2)(濃度0.2質量%)を得た。
この分散液(A−2)20mLに対して、カルボキシ基で修飾されたCNTが分散した分散液(B−1)(濃度0.003質量%)を10mL混合して混合液を得た。
この混合液2mLに対して、0.2mM−HCl水溶液を1mL添加し、室温で1時間放置することにより、CNT/セルロースナノファイバーハイドロゲル(水分99質量%)を得た。
このゲルを複合分散液(1)の代わりに用いた以外は、実施例1と同様にして、自立フィルムを得た。
【0051】
[実施例3]
実施例1で調製された複合分散液(1)を厚み100μmのPETフィルム上に塗工し、40℃で3日間乾燥し、膜厚0.5μmの導電層が形成されたPETフィルム積層体を得た。
このPETフィルム積層体について、実施例1と同様にして可視光透過率を測定したところ、70%であり、透明性に優れていた。
また、導電層表面の平均表面粗さ(JIS B0651)は2.66nmであり、平滑性にも優れていた。これは、導電層中において、修飾CSNFおよび修飾CNTが高分散していることを裏付けるものと理解できる。
【0052】
[実施例4〜7]
実施例1と同様にして、各例の自立フィルム(厚み6μm)を得た。ただし、各例では、得られた自立フィルム中における、修飾CSNF100質量部に対する修飾CNTの質量比率が表2に示す値となるようにした。
実施例4〜6で得られた自立フィルムの導電率をJIS H0505により測定した。また、実施例5の自立フィルムの表面抵抗値をJIS C2139により測定した。また、実施例4〜7の自立フィルムの弾性率および引張強度をJIS K6400により測定した。これらの結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
表中「−」は未測定を意味する。
【0054】
<考察>
(導電率)
実施例4〜6の各自立フィルムは、表2に示す導電率を示した。
これに対して、マトリックス成分として、カルボキシル基を導入していないセルロースナノファイバー(バクテリアセルロース)を用いたフィルムの導電率は0.1S/cm(Biomacromolecules 2006,7,1280-1284参照。参考例1とする。)、マトリックス成分として、ポリエチレンを用いたフィルムの導電率は0.8S/cm(CARBON47(2009)1983-1988参照。参考例2とする。)、マトリックス成分として、再生セルロースを用いたフィルムの導電率は0.03S/cm(Journal of AppliedPolymer Science,Vol. 117, 3588-3594(2010)参照。参考例3とする。)である。なお、これら参考例1〜3のフィルムにおけるマトリックス成分と修飾CNTとの比率は、実施例5における修飾CSNFと修飾CNTとの比率と同程度である。
このように実施例5と同程度に修飾CNTを含有する参考例1〜3のフィルムの導電率は、いずれも実施例5の導電率を大幅に下回った。
この結果から、マトリックス成分として修飾CSNFを使用することが、導電率の向上に大きく寄与していることが理解できる。
【0055】
(表面抵抗値)
実施例5の自立フィルムの表面抵抗値は、表2に示すように300Ω/□であった。
これに対して、マトリックス成分として、PEDOT/PSS(ポリスチレンスルホン酸をドープしたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))を用いたフィルム(参考例4とする。)の表面抵抗値は1200Ω/□、マトリックス成分として、ポリエチレンを用いたフィルム(参考例5とする。)の表面抵抗値は8.1MΩ/□、マトリックス成分として、ポリアミドを用いたフィルム(参考例6とする。)の表面抵抗値は0.5MΩ/□(いずれもAdv. Mater. 2010, 22, 1672-1688参照。)である。なお、これら参考例4〜6のフィルムにおけるマトリックス成分と修飾CNTとの比率は、実施例5における修飾CSNFと修飾CNTとの比率と同程度である。
このように実施例5と同程度に修飾CNTを含有する参考例4〜6のフィルムの表面抵抗値は、いずれも実施例5の表面抵抗値を大幅に上回った。
この結果から、マトリックス成分として修飾CSNFを使用することが、表面抵抗値の低下に大きく寄与していることが理解できる。
【0056】
(弾性率および引張強度)
実施例4〜7の自立フィルムは、表2に示す弾性率、引張強度を示した。
これに対して、マトリックス成分として、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)を用いたフィルム(参考例7とする。)の弾性率は3〜6GPa、引張強度は70〜110MPa(ただし、参考例7のフィルムにおけるマトリックス成分100質量部に対する修飾CNTの比率は0.5〜7質量部の範囲。文献Chemical Physics Letters 330 (2000) 219-225参照。)であり、マトリックス成分として、再生セルロースを用いたフィルム(参考例8とする。)の弾性率は1〜5GPa、引張強度は40〜80MPa(ただし、参考例8のフィルムにおけるマトリックス成分100質量部に対する修飾CNTの比率は0または0.2〜7質量部の範囲。Journal of AppliedPolymer Science,Vol. 117, 3588-3594(2010)参照。)である。なお、修飾CNT単体の弾性率は、8.0GPaである(Chem. Mater. 2003, 15, 175-178参照。)。
このように実施例4〜7と参考例7および8との比較から、マトリックス成分として修飾CSNFを使用することが、高い弾性率、高い引張強度に寄与しているものと理解できる。
【0057】
[実施例8]
上記分散液(A)(修飾CSNF:1質量%)に、オキサゾリン(WS−500)を添加した。この際、オキサゾリンの添加量(固形分)は、修飾CSNF100質量部に対し3質量部とした。添加後の分散液に対して、修飾CSNFと修飾CNTの比率が実施例1と同じになるように修飾CNTの分散液を加え、以降、実施例1と同様にして自立フィルムを作製した。
そして、この自立フィルムを120℃で15分間加熱した後、水または0.1NNaOH水溶液それぞれの中に1日間浸漬し、浸漬後の自立フィルムを観察し、耐水性を評価した。
【0058】
[比較例4]
修飾CSNFの代わりに、カルボキシメチルセルロース(DS(エーテル化度)=1.2)を用いた以外は、実施例1と同様にして自立フィルムを作製した。
そして、この自立フィルムを120℃で15分間加熱した後、水または0.1NNaOH水溶液それぞれの中に1日間浸漬し、浸漬後の自立フィルムを観察し、耐水性を評価した。
【0059】
<考察>
(耐水性)
実施例8の自立フィルムは、水、0.1NNaOH水溶液それぞれの中に1日間浸漬しても、外観上変化は認められなかった。これに対して、実施例1の自立フィルムについても、同様に水、0.1NNaOH水溶液への浸漬を実施したところ、水に浸漬後の自立フィルムには変化が認められなかったものの、0.1NNaOH水溶液に浸漬後の自立フィルムには膨潤が認められた。この結果から、実施例8ではオキサゾリン(架橋剤)を添加しているため、自立フィルムの耐水性が向上し、0.1NNaOH水溶液への浸漬後にも何ら変化が認められなかったものと理解できる。
また、比較例4のように、表面がカルボキシ基で修飾されているのではなく、化合物自体が(−COO)を有するカルボキシメチルセルロースを用いた場合には、水に浸漬後の自立フィルムには膨潤が認められ、また、0.1NNaOH水溶液に浸漬後の自立フィルムには溶解が認められ、耐水性が劣っていることがわかった。