特許第5970969号(P5970969)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5970969
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】圧延機の形状制御装置及び形状制御方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/38 20060101AFI20160804BHJP
   B21C 51/00 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   B21B37/38 A
   B21C51/00 L
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-133415(P2012-133415)
(22)【出願日】2012年6月13日
(65)【公開番号】特開2013-255933(P2013-255933A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2014年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082175
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 守
(74)【代理人】
【識別番号】100106150
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 英樹
(72)【発明者】
【氏名】楠井 智博
【審査官】 長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−153908(JP,A)
【文献】 特開昭60−231514(JP,A)
【文献】 特開2005−021909(JP,A)
【文献】 特開昭58−116915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/00−37/78
B21C 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延機の下流側に設けられた形状検出器から出力された圧延材の形状信号が入力される入力部と、
前記形状信号に基づいて、前記圧延機に設けられたワークロールベンダと中間ロールベンダとの制御効果が非干渉となるように、前記ワークロールベンダと前記中間ロールベンダとの操作量を演算する演算部と、
を備え
前記演算部は、前記形状信号から得られた前記圧延材の平坦度偏差の絶対値が大きい領域に対し前記中間ロールベンダの操作量を演算し、偏差の絶対値が小さい領域に対し前記ワークロールベンダの操作量を演算することを特徴とする圧延機の形状制御装置。
【請求項2】
圧延機の下流側に設けられた形状検出器から出力された圧延材の形状信号に基づいて、前記圧延機に設けられたワークロールベンダと中間ロールベンダとの制御効果が非干渉となるように、前記ワークロールベンダと前記中間ロールベンダとの操作量を演算する演算工程、
を備え、
前記演算工程は、前記形状信号から得られた前記圧延材の平坦度偏差の絶対値が大きい領域に対し前記中間ロールベンダの操作量を演算し、偏差の絶対値が小さい領域に対し前記ワークロールベンダの操作量を演算する工程、
を備えたことを特徴とする圧延機の形状制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧延機の形状制御装置及び形状制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の形状制御手段の操作量を調整することにより、圧延材の形状を制御する圧延機の形状制御方法が提案されている。当該方法においては、予め形状制御手段と圧延材の形状変化量との関係を数式で表した形状制御変更特性が設定される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-191105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、当該方法においては、形状制御手段同士の干渉は考慮されていない。このため、制御応答の違いや能力の偏り等により、実際の制御系においては形状制御手段の制御効果が相互に干渉して打ち消し合い、板形状の乱れを助長する。
【0005】
この発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、安定した板形状を得ることができる圧延機の形状制御装置及び形状制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る圧延機の形状制御装置は、圧延機の下流側に設けられた形状検出器から出力された圧延材の形状信号が入力される入力部と、前記形状信号に基づいて、前記圧延機に設けられたワークロールベンダと中間ロールベンダとの制御効果が非干渉となるように、前記ワークロールベンダと前記中間ロールベンダとの操作量を演算する演算部と、を備え、前記演算部は、前記形状信号から得られた前記圧延材の平坦度偏差の絶対値が大きい領域に対し前記中間ロールベンダの操作量を演算し、偏差の絶対値が小さい領域に対し前記ワークロールベンダの操作量を演算するものである。
【0007】
この発明に係る圧延機の形状制御方法は、圧延機の下流側に設けられた形状検出器から出力された圧延材の形状信号に基づいて、前記圧延機に設けられたワークロールベンダと中間ロールベンダとの制御効果が非干渉となるように、前記ワークロールベンダと前記中間ロールベンダとの操作量を演算する工程、を備え、前記演算工程は、前記形状信号から得られた前記圧延材の平坦度偏差の絶対値が大きい領域に対し前記中間ロールベンダの操作量を演算し、偏差の絶対値が小さい領域に対し前記ワークロールベンダの操作量を演算する工程、を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、安定した板形状を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】この発明の実施の形態1における圧延機の形状制御装置で制御される6段圧延機を側方から見た概略図である。
図2】この発明の実施の形態1における圧延機の形状制御装置で制御される6段圧延機を正面から見た概略図である。
図3】この発明の実施の形態1における圧延機の形状制御装置に利用される板形状の近似方法を説明するための図である。
図4】この発明の実施の形態2における圧延機の形状制御装置で制御される6段圧延機を側方から見た概略図である。
図5】この発明の実施の形態3における圧延機の形状制御装置で制御される6段圧延機を側方から見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明を実施するための形態について添付の図面に従って説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0011】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1における圧延機の形状制御装置で制御される6段圧延機を側方から見た概略図である。図2はこの発明の実施の形態1における圧延機の形状制御装置で制御される6段圧延機を正面から見た概略図である。
【0012】
図1の冷間圧延機において、1aは上ワークロールである。1bは下ワークロールである。上ワークロール1a、下ワークロール1bは、上下方向に並んで設けられる。上ワークロール1a、下ワークロール1bを上下から挟み込むように、上中間ロール2a、下中間ロール2bが設けられる。上中間ロール2a、下中間ロール2bを上下から挟み込むように、上バックアップロール3a、下バックアップロール3bが設けられる。
【0013】
下バックアップロール3bの下方には、圧下装置4が設けられる。圧下装置4は、圧延機の作業側と駆動側とに設けられる。圧下装置4は、圧延荷重を印加する機能を備える。上バックアップロール3aの上方には、ロードセル5が設けられる。ロードセル5は、圧延荷重を計測する機能を備える。
【0014】
6はワークロールベンダである。ワークロールベンダ6は、形状制御手段として、上ワークロール1aの軸端と下ワークロール1bの軸端とに設けられる。ワークロールベンダ6は、上ワークロール1a、下ワークロール1bをたわませる機能を備える。
【0015】
7は中間ロールベンダである。中間ロールベンダ7は、形状制御手段として、上中間ロール2aの軸端と上中間ロール2aの軸端とに設けられる。中間ロールベンダ7は、上中間ロール2a、下中間ロール2bをたわませる機能を備える。
【0016】
8は圧下駆動装置である。圧下駆動装置8は、圧下装置4を駆動する機能を備える。9はワークロールベンダ駆動装置である。ワークロールベンダ駆動装置9は、ワークロールベンダ6を駆動する機能を備える。10は中間ロールベンダ駆動装置である。中間ロールベンダ駆動装置10は、中間ロールベンダ7を駆動する機能を備える。
【0017】
11は形状検出器である。形状検出器11は、圧延機の出側に設けられる。形状検出器11は、複数の検出ロールを備える。複数の検出ロールは、圧延材12の板幅方向に等間隔に配置される。例えば、検出ロールは、32個配置される。各検出ロールには、圧電素子等公知の検出手段が組込まれる。
【0018】
検出手段は、圧延材12から外周に加わる張力を計測する機能を備える。当該張力は、圧延材12の長手方向の伸びに対応する。形状検出器11は、当該張力の分布をフックの法則で変換し、多項式(2次、4次、6次、8次等)で近似した板形状(平坦度)に対応させた形状信号を出力する機能を備える。
【0019】
13は形状制御演算装置である。形状制御演算装置13は、入力部13a、操作量演算部13bを備える。入力部13aは、形状検出器11から出力された圧延材12の形状信号が入力される機能を備える。操作量演算部13bは、形状信号に基づいて、圧下装置4、ワークロールベンダ6、中間ロールベンダ7の操作量を演算する機能を備える。
【0020】
例えば、操作量演算部13bは、圧下装置4、ワークロールベンダ6、中間ロールベンダ7の影響係数モデルを用いた評価関数から各操作量を演算する。具体的には、近似した形状の非対称成分(奇関数)に対しては、圧下装置4のレベリングの操作量が演算される。近似した形状の対称成分(偶関数)に対しては、ワークロールベンダ6、中間ロールベンダ7の操作量が演算される。
【0021】
圧下装置4の操作量に対応した操作信号は、圧下駆動装置8に入力される。当該信号に基づいて、圧下駆動装置8は、圧下装置4の操作量を制御する。その結果、圧延材12の圧下位置(ロールギャップ)が制御される。
【0022】
ワークロールベンダ6の操作量に対応した操作信号は、ワークロールベンダ駆動装置9に入力される。当該信号に基づいて、ワークロールベンダ駆動装置9は、ワークロールベンダ6の操作量を制御する。その結果、上ワークロール1a、下ワークロール1bには、ベンディング力F1が作用する。ベンディング力F1により、圧延材12の板幅方向での荷重分布が変化する。
【0023】
中間ロールベンダ7の操作量に対応した操作信号は、中間ロールベンダ駆動装置10に入力される。当該信号に基づいて、中間ロールベンダ駆動装置10は、中間ロールベンダ7の操作量を制御する。その結果、上中間ロール2a、下中間ロール2bには、ベンディング力F2が作用する。ベンディング力F2により、圧延材12の板幅方向での荷重分布が変化する。
【0024】
これらの制御により、圧延材12の板幅全体の形状が制御される。この際、操作量演算部13bは、ワークロールベンダ6の制御効果と中間ロールベンダ7の制御効果とが非干渉となるように制御する。
【0025】
次に、図3を用いて、板形状の近似方法を説明する。
図3はこの発明の実施の形態1における圧延機の形状制御装置に利用される板形状の近似方法を説明するための図である。
【0026】
図3において、Bは圧延材12の幅である。Xは圧延材12の中央からの距離(mm)である。xは規格化された幅方向の位置(x=−1.0〜1.0)である。
【0027】
この場合、規格化された幅方向の位置xは、次の(1)式で表される。
【0028】
【数1】
【0029】
この場合、平坦度βREFは、規格化された幅方向の位置xを用いて、次の(2)式で表される。
【0030】
【数2】
【0031】
ここで、gは偶関数の倍率である。gASYMは奇関数の倍率である。a、a、a、a、aは平坦度を算出する際の偶関数の係数である。a、a、a、aは平坦度を算出する際の奇関数の係数である。
【0032】
次に、ワークロールベンダ6の操作量、中間ロールベンダ7の操作量の演算方法を説明する。
【0033】
形状制御演算装置13は、圧延材12の板幅方向の各領域に対し、目標形状と形状信号から得られた実測された圧延材12の形状との偏差の絶対値を比較する。偏差の絶対値が大きい領域に対し、形状制御演算装置13は、中間ロールベンダ7の操作量を演算する。偏差の絶対値が小さい領域に対し、形状制御演算装置13は、ワークロールベンダ6の操作量を演算する。
【0034】
以上で説明した実施の形態1によれば、ワークロールベンダと中間ロールベンダでそれぞれ異なる制御対象に対する制御を行うため、ワークロールベンダ6の制御効果と中間ロールベンダ7の制御効果とが非干渉となる。すなわち、お互いの制御効果が協調される。具体的には、圧延材12の平坦度偏差の絶対値の大小により、ワークロールベンダ6の機能と中間ロールベンダ7の機能とが分担される。このため、安定した圧延操業と板形状とを得ることができる。
【0035】
なお、偏差の絶対値が大きい領域に対しワークロールベンダ6の操作量を演算し、偏差の小さい領域に対し中間ロールベンダ7の操作量を演算してもよい。この場合、偏差の絶対値が大きい領域に対し、圧延材12に直接接触する上ワークロール1aと下ワークロール1bとが対応する。このため、より安定した板形状を得ることができる。当該効果は、実測によっても確認されている。
【0036】
実施の形態2.
図4はこの発明の実施の形態2における圧延機の形状制御装置で制御される6段圧延機を側方から見た概略図である。なお、実施の形態1と同一又は相当部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0037】
実施の形態1においては、圧延材12の平坦度偏差の絶対値の大小により、ワークロールベンダ6の機能と中間ロールベンダ7の機能とが分担されていた。一方、実施の形態2においては、圧延材12の目標形状の対称成分を2つ以上の異なる偶数次の高次関数で近似し、近似した関数の次数毎にワークロールベンダ6の機能と中間ロールベンダ7の機能とが分担される。
【0038】
次に、ワークロールベンダ6の操作量、中間ロールベンダ7の操作量の演算方法を説明する。
【0039】
図4の14aは板形状の2次成分である。図4の14bは板形状の4次成分である。2次成分14aに対し、形状制御演算装置13は、中間ロールベンダ7の操作量を演算する。4次成分14bに対し、形状制御演算装置13は、ワークロールベンダ6の操作量を演算する。6次成分、8次成分等においては、ワークロールベンダ6の操作量又は中間ロールベンダ7の操作量が演算される。
【0040】
以上で説明した実施の形態2によれば、圧延材12の目標形状の対称成分を2つ以上の異なる偶数次の高次関数で近似し、近似した関数の次数毎にワークロールベンダ6の機能と中間ロールベンダ7の機能とが分担される。このため、実施の形態1と同様に、安定した板形状を得ることができる。
【0041】
なお、2次成分14aに対しワークロールベンダ6の操作量を演算し、4次成分14bに対し中間ロールベンダ7の操作量を演算してもよい。
【0042】
また、2次成分14aに対し中間ロールベンダ7の操作量を演算し、2次成分以外の偶数次成分に対しワークロールベンダ6の操作量を演算してもよい。この場合、高次成分に対し、圧延材12に直接接触する上ワークロール1aと下ワークロール1bとが対応する。このため、より安定した板形状を得ることができる。当該効果は、実測によっても確認されている。
【0043】
実施の形態3.
図5はこの発明の実施の形態3における圧延機の形状制御装置で制御される6段圧延機を側方から見た概略図である。なお、実施の形態1と同一又は相当部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0044】
実施の形態1においては、圧延材12の平坦度偏差の絶対値の大小により、ワークロールベンダ6の機能と中間ロールベンダ7の機能とが分担されていた。一方、実施の形態3においては、圧延材12の板幅中央と板幅端部の間に存在する任意の位置である境界を指定し、境界より板幅中央側の中央領域と境界より板幅端側の端部領域とでワークロールベンダ6の機能と中間ロールベンダ7の機能とが分担される。
【0045】
次に、ワークロールベンダ6の操作量、中間ロールベンダ7の操作量の演算方法を説明する。
【0046】
図3の15は境界である。境界15は、圧延材12の板幅中央と板幅端部の間に存在する任意の位置に設定される。16aは中央領域である。中央領域16aは、境界15より板幅中央側に設定される。16bは端部領域である。端部領域16bは、境界15より板幅端側に設定される。端部領域16bに対し、形状制御演算装置13は、ワークロールベンダ6の操作量を演算する。中央領域16aに対し、形状制御演算装置13は、中間ロールベンダ7の操作量を演算する。
【0047】
以上で説明した実施の形態3によれば、中央領域16aと端部領域16bとでワークロールベンダ6の機能と中間ロールベンダ7の機能とが分担される。このため、実施の形態1と同様に、安定した板形状を得ることができる。
【0048】
特に、端部領域16bに対しワークロールベンダ6の操作量を演算し、中央領域16aに対し中間ロールベンダ7の操作量を演算することが好ましい。この場合、端部領域16bに対し圧延材12に直接接触する上ワークロール1aと下ワークロール1bとが対応する。このため、より安定した板形状を得ることができる。当該効果は、実測によっても確認されている。
【符号の説明】
【0049】
1a 上ワークロール、 1b 下ワークロール、 2a 上中間ロール、
2b 下中間ロール、 3a 上バックアップロール、
3b 下バックアップロール、 4 圧下装置、 5 ロードセル、
6 ワークロールベンダ、 7 中間ロールベンダ、 8 圧下駆動装置、
9 ワークロールベンダ駆動装置、10 中間ロールベンダ駆動装置、
11 形状検出器、 12 圧延材、 13 形状制御演算装置、13a 入力部、
13b 操作量演算部、 14a 2次成分、 14b 4次成分、 15 境界、
16a 中央領域、 16b 端部領域
図1
図2
図3
図4
図5