(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記回動規制機構は、前記ロアーブラケットが前記チルトピボットシャフトを回動中心として一方側へ回動した際前記凸部が前記一対の突出部の一方へ接触し、他方側へ回動した際前記凸部が前記一対の突出部の他方へ接触することを特徴とする請求項1または2に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コラムタイプの電動パワーステアリング装置は、電動モータ、減速機構、電動モータを制御する電子制御ユニットECU(Electric Control Unit:以下、ECUという。)等をステアリングコラム上に備えているため重量が大きい。そのため、コラムタイプの電動パワーステアリング装置の車体への組付けは大きな重量を支えながらの作業となり、このときロアーブラケットが回動してしまうと、組付け性が悪くなる。また、重量が大きいので、電動パワーステアリング装置を車体に支持するためのブラケットは、ステアリングコラムに対する高い支持剛性が要求される。
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、電動パワーアステアリング装置を車体へ組付ける前の状態ではロアーブラケットの余分な回動を防止して車体への組付けを容易にし、車体へ組付けた後はステアリングコラムに対する支持剛性の高い電動パワーステアリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は以下の手段によって解決される。すなわち、本発明は、後端部にステアリングホイールが取付けられるステアリングシャフトと、内部に前記ステアリングシャフトを回動自在に支持するステアリングコラムと、チルトピボットシャフトを回動中心として前記ステアリングコラムを回動し、所望のチルト調整位置に前記ステアリングコラムを位置決め可能なチルト調整機構と、補助操舵トルクを発生する電動モータが取付けられ、前記電動モータの回転軸に連結されたウォームと該ウォームと噛み合うウォームホイールとからなる減速機構を内部に格納し、前記ステアリングコラムの前端部に連結されたハウジングと、車体側に固定され、前記ハウジングを間にして車幅方向に対向し、前記チルトピボットシャフトを支持する一対の側板を有するロアーブラケットとを備え、前記ハウジングには前記チルトピボットシャフト
が回動可能に配置される孔が設けられ、前記ハウジングが前記
孔を介して前記チルトピボットシャフトに回動自在に
支持されることで前記ステアリングコラムが前記チルトピボットシャフトを回動中心として回動自在とされる電動パワーステアリング装置において、前記ハウジングの前記
孔は、前記電動モータの回転軸よりも後方側の前記ハウジングの部分に設けられ、
前記一対の側板は、車幅方向に延在する連結部で後方端同士が連結され、一方の
前記側板には、
前記チルトピボットシャフトよりも前方側に位置し、該側板の前方側端部から前方に突出した凸部が形成され、前記ハウジングには、前記凸部を間にして上下方向に対向し、それぞれ前記凸部よりも車幅方向外側に突出した一対の突出部が形成され、前記凸部と前記一対の突出部とは、前記電動パワーステアリング装置の車体組付け前の状態
における前記ロアーブラケットの前記チルトピボットシャフトを回動中心とする前記ステアリングコラムに対する回動を所定範囲に規制する回動規制機構を構成し
、前記一方の側板には、前方側縁部に補強リブが形成され、他方の前記側板には、前方側縁部および下方側縁部に補強リブが形成されていることを特徴とする電動パワーステアリング装置である。
また、本発明は、後端部にステアリングホイールが取付けられるステアリングシャフトと、内部に前記ステアリングシャフトを回動自在に支持するステアリングコラムと、チルトピボットシャフトを回動中心として前記ステアリングコラムを回動し、所望のチルト調整位置に前記ステアリングコラムを位置決め可能なチルト調整機構と、補助操舵トルクを発生する電動モータが取付けられ、前記電動モータの回転軸に連結されたウォームと該ウォームと噛み合うウォームホイールとからなる減速機構を内部に格納し、前記ステアリングコラムの前端部に連結されたハウジングと、車体側に固定され、前記ハウジングを間にして車幅方向に対向し、前記チルトピボットシャフトを支持する一対の側板を有するロアーブラケットとを備え、前記ハウジングには前記チルトピボットシャフトが回動可能に配置される孔が設けられ、前記ハウジングが前記孔を介して前記チルトピボットシャフトに回動自在に支持されることで前記ステアリングコラムが前記チルトピボットシャフトを回動中心として回動自在とされる電動パワーステアリング装置において、前記ハウジングの前記孔は、前記電動モータの回転軸よりも後方側の前記ハウジングの部分に設けられ、前記一対の側板は、車幅方向に延在する連結部で後方端同士が連結され、それぞれの前記側板には、前記チルトピボットシャフトよりも前方側に位置し、該側板の前方側端部から前方に突出した凸部が形成され、前記ハウジングには、前記凸部を間にして上下方向に対向し、それぞれ前記凸部よりも車幅方向外側に突出した一対の突出部が形成され、前記凸部と前記一対の突出部とは、前記電動パワーステアリング装置の車体組付け前の状態における前記ロアーブラケットの前記チルトピボットシャフトを回動中心とする前記ステアリングコラムに対する回動を所定範囲に規制する回動規制機構を構成し、前記それぞれの側板には、前方側縁部に補強リブが形成されていることを特徴とする電動パワーステアリング装置である。
【0009】
また、本発明の好ましい態様は、前記回動規制機構は、前記ロアーブラケットが前記チルトピボットシャフトを回動中心として一方側へ回動した際前記凸部が前記一対の突出部の一方へ接触し、他方側へ回動した際前記凸部が前記一対の突出部の他方へ接触することが好ましい電動パワーステアリング装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電動パワーアステアリング装置を車体へ組付ける前の状態ではロアーブラケットの余分な回動を防止して車体への組付けを容易にし、車体へ組付けた後はステアリングコラムに対する支持剛性の高い電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。まず、本明細書中における電動パワーステアリング装置に係る方向について定義する。本明細書中においては、電動パワーステアリング装置に係る方向は、特に明記しない限り車体に取付けられた状態における当該車体の前後、左右、上下方向と同様とする。左右方向については車幅方向ともいう。また、以下に示す、各図における方向の定義は、各図面の図中の符号を通常の向きに読める状態で紙面を見た状態についていう。
【0016】
図1においては、紙面左斜め下方が前方側で紙面右斜め上方が後方側であり、紙面左斜め上方が右側で紙面右斜め下方が左側である。
図2においては、紙面左斜め上方向が前方側で紙面右斜め下方向が後方側であり、紙面右斜め上方向が右側で紙面左斜め下方向が左側である。
図3、
図8においては、紙面右斜め上方が前方側で紙面左斜め下方が後方側であり、紙面右斜め下方が右側で紙面左斜め上方が左側である。
図4においては、紙面右方向が前方側で紙面左方向が後方側であり、紙面手前方向が右側であり紙面奥方向が左側である。
図5においては、紙面左方向が前方側で紙面右方向が後方側であり、紙面上方向が右側で紙面下方向が左側である。
図6、
図10においては、紙面左方向が前方側で紙面右方向が後方側であり、紙面奥方向が右側であり紙面手前方向が左側である。
図7においては、紙面奥方向が前方側で紙面手前方向が後方側であり、紙面右方向が右側であり紙面左方向が左側である。
図9においては、紙面左斜め下方が前方側で紙面右斜め上方が後方側であり、紙面左斜め上方が右側で紙面右斜め下方が左側である。
【0017】
図1は本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置を車体に取付けた状態を示す斜視図である。
図1に示すように、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置1は、コラムアシスト型のパワーステアリング装置である。電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール3の操作力を軽減するために、ステアリングコラム10に取付けた電動パワーアシスト装置22の操舵補助力を出力軸5に付与し、中間シャフト6を介して、ラックピニオン式のステアリングギヤアッセンブリ7のラックを往復移動させ、タイロッド8を介して舵輪を転舵する方式のパワーステアリング装置である。
【0018】
図2は本実施形態に係る電動パワーステアリング装置の後方側左斜め上方からの斜視図である。
図3は本実施形態に係る電動パワーステアリング装置の後方側右斜め上方からの斜視図である。
図4は本実施形態に係る電動パワーステアリング装置の右側面図である。
図5は本実施形態に係る電動パワーステアリング装置の平面図である。
図6は本実施形態に係る電動パワーステアリング装置の左側面図である。
図7は、
図6のA−A線の断面図である。
【0019】
図2から
図7に示すように、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置1は、上部ステアリングシャフト2、上部ステアリングシャフト2を支持するステアリングコラム10、ステアリングコラム10に取付けられたディスタンスブラケット16、ディスタンスブラケット16の上側に配置された車体取付けブラケット18、ロアーブラケット20、パワーアシスト装置22等から構成されている。ステアリングコラム10はアウターコラムであるアッパーコラム12と、インナーコラムであるロアーコラム14とから構成されている。アッパーコラム12およびロアーコラム14は、スチール製のパイプ、又は軽合金のダイキャスト成形品で、それぞれ円筒状に形成されている。
【0020】
図4から
図6に示すように、ロアーコラム14の後方側部分の外周面には、アッパーコラム12の内周面が軸方向に摺動可能に外嵌している。ロアーコラム14の内周側には、図示しない軸受を介して図示しない下部ステアリングシャフトが回動可能に支持されている。上部ステアリングシャフト2は、図示しない軸受を介してアッパーコラム12の内周側に回動可能に支持されている。上部ステアリングシャフト2と下部ステアリングシャフトとは、軸方向に相対移動可能に嵌合されている。アッパーコラム12の後方側端部には図示しないコンビネーションスイッチを取付けるためのスイッチブラケット24が取付けられている。上部ステアリングシャフト2の後方側の端部には、
図1に示すように、ステアリングホイール3が固定される。
【0021】
ディスタンスブラケット16は、車幅方向に対向する左右一対の側板26、26と、これら一対の側板26、26の上端部を連結する連結部28とから構成されている。各側板26、26の下端部は、アッパーコラム12の中心軸線を間にしてアッパーコラム12の上側外周面の左右側部分にそれぞれ固定されている。これにより、ディスタンスブラケット16はアッパーコラム12に固定されている。
【0022】
車体取付けブラケット18は車幅方向に対向する左右一対の側板30、30と、これら一対の側板30、30の上端部を連結する平板部32と、平板部32の上面に取付けられ、平板部32よりも左右方向の幅が広い上板36とで構成されている。一対の側板30、30と平板部32との断面は、下側が開口した略U字状となっている。一対の側板30、30は、それぞれディスタンスブラケット16の一対の側板26、26の外側面に接触して配置されている。平板部32と上板36とは、ディスタンスブラケット16よりも上方に配置されている。
図5に示すように、上板36の左右側の端部にはそれぞれ車体取付け部38、38が形成されている。車体取付けブラケット18は、各車体取付け部38、38に取付けられた離脱用カプセル40、40を介して、図示しないボルトによって車体に固定される。離脱用カプセル40、40のボルト孔42、42は前後方向に長い孔となっている。ボルト孔42、42を長孔とすることで、車体取付け部38、38のミスアライメントを吸収できるようになっている。二次衝突時には車体取付けブラケット18がカプセル40、40をコラプスしつつ車体から離脱して前方に移動し、二次衝突の衝撃エネルギーを吸収する。
【0023】
図3を参照して、ディスタンスブラケット16の左右の側板26、26は、車体取付けブラケット18の左右の側板30、30に対して摺動可能となっている。車体取付けブラケット18の左右の側板30、30には、上下方向に延在するチルト調整用長孔44、44が形成されている。丸棒状の1本の締付けボルト46が左右のチルト調整用長孔44、44を車幅方向に貫いて挿入されている。締付けボルト46は、車体取付けブラケット18の左右の側板30、30の内側に配置されているディスタンスブラケット16の左右の側板26、26も貫いている。このような構成なので、ディスタンスブラケット16の左右側の側板26、26は、車体取付けブラケット18の左右の側板30、30に、長孔44、44に案内されてチルト摺動可能に挟持されている。
【0024】
締付けボルト46の一方側の端部には、操作レバー48が装着されている(
図2参照)。操作レバー48を一方側に回動操作すると、図示しないカムロック機構が作動し、車体取付けブラケット18の左右の側板30、30が互いに近づく方向に締め付けられる。その結果、ディスタンスブラケット16の左右の側板26、26が車体取付けブラケット18の左右の側板30、30に強く締め付けられる。この締付けにより、アッパーコラム12を所望のチルト調整位置に位置決めすることができる。操作レバー48を他方側に回動操作するとカムロック機構が緩み、車体取付けブラケット18の左右の側板30、30の締め付けが解除される。その結果、車体取付けブラケット18によるディスタンスブラケット16の締め付けが解除され、アッパーコラム12のチルト調整が可能となる。
【0025】
なお、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置1はチルト調整可能なものとしたが、チルト調整に加えて、ステアリングホイールのテレスコピック位置調整も可能な電動パワーステアリング装置であっても良い。
【0026】
ロアーコラム14の前方側端部にはアルミ製のハウジング50が連結されている。ハウジング50には出力軸5(
図1参照)に補助トルクを付与する為の操舵補助部であるパワーアシスト装置22が組付けられている。パワーアシスト装置22は、電動モータ52と、電動モータ52の回転軸54(
図6参照)に連結されたウォーム56(
図6参照)と該ウォーム56に噛み合うウォームホイール58(
図4参照)とからなる減速機構と、電動モータ52を制御する電子制御ユニットECU(Electric Control Unit:以下、ECUという。)60と、図示しないトルクセンサとを備えている。電動モータ52およびECU60は、ハウジング50の上部に車幅方向に並んで配置されている。ウォームホイール58はハウジング50の格納部62に格納され、ウォーム56はハウジング50の格納部64に格納されている。ステアリングホイール3から上部ステアリングシャフト2に加えられるトルクの方向および大きさは、図示しないトルクセンサで検出される。このトルクセンサの検出値に応じて、電動モータ52を駆動し、ウォーム56とウォームホイール58とから成る減速機構を介して、所定の方向に所定の大きさで補助トルクを発生させ、出力軸5にステアリング補助トルクを付与する。
【0027】
ここで、コラムタイプの電動パワーステアリング装置1は、電動モータ52、減速機構、ECU60等をステアリングコラム上に備えているため重量が大きい。そのため、電動パワーステアリング装置1を車体に支持するための車体取付けブラケット18およびロアーブラケット20は、ステアリングコラム10に対する高い支持剛性が要求される。ロアーブラケット20については、具体的には、ロアーブラケット20自体の剛性、およびステアリングコラム10に対するロアーブラケット20の位置、すなわちチルトピボットの位置の改良が求められている。以下にロアーブラケット20の構成および位置について説明する。
【0028】
図8は、ロアーブラケット20を後方側から見た斜視図である。また、
図9は、ロアーブラケット20を前方側から見た斜視図である。
【0029】
ロアーブラケット20は、
図8および
図9に示すように、車幅方向に対向する左右一対の側板66、66と、一対の側板66、66を車幅方向に連結する補強ブリッジ68とから構成されている。一対の側板66、66は、
図2から
図7の各図に示すように、各側板66がハウジング50の車幅方向外側に配置されている。すなわちハウジング50を間にして車幅方向の左右側に配置されている。電動モータ52およびECU60は一対の側板66、66の間に配置されている。各側板66、66には、車幅方向の貫通孔72、72が設けられている。貫通孔72、72は同軸である。貫通孔72、72にはチルト調整の回動中心軸であるチルトピボットシャフト70が挿通される。つまり、チルトピボットシャフト70は一対の側板66、66によって支持されている。各側板66、66の上端部には、ロアーブラケット20を車体に取付け固定するための車体取付け部74、74が形成されている。各車体取付け部74、74は各側板66、66の上端から車幅方向外側に延在して形成され、固定用の図示しないボルトが下方から挿通されるボルト穴76、76が形成されている。ボルト孔76、76は前後方向に長い孔となっている。ボルト孔76、76を長孔とすることで、車体取付け部74、74のミスアライメントを吸収できるようになっている。
【0030】
補強ブリッジ68は、各側板66、66の後方側端部の上側部分同士を連結しており、組付け状態において、ハウジング50に配置された電動モータ52およびECU60の後方側に配置されている。また、補強ブリッジ68は、組付け状態において、
図2、
図3、
図6に示すように、チルトピボットシャフト70よりも後方側に位置している。補強ブリッジ68は一対の側板66、66を連結することでロアーブラケット20自体の剛性を高めている。このようにロアーブラケット20自体の剛性を高めることで、ロアーブラケット20のステアリングコラム10に対する支持剛性を高めることができる。ロアーブラケット20自体の剛性を高めると、二次衝突時にロアーブラケット20が変形しにくくなり、衝撃エネルギーの吸収がスムーズに行われるようになる。
【0031】
ハウジング50には、
図7に示すように、車幅方向に延在する貫通孔78が形成されている。貫通孔78は、電動モータ52の回転軸54よりも後方側のハウジング50の部分の上部に設けられている。貫通孔78の内部には金属製のスリーブ80が配置されている。貫通孔78にはスリーブ80を介してチルトピボットシャフト70が挿通されている。チルトピボットシャフト70は一本の軸部材であり、貫通孔78を車幅方向に貫通している。チルトピボットシャフト70は一方側端部がナット82によって締め付けられることでロアーブラケット20の一対の側板66、66に固定されている。貫通孔78の両側の開口周辺部は平面状に形成され、ロアーブラケット20の回転座面となっている。このように、貫通孔78は、
図6、
図7に示すように、電動モータ52の回転軸54と車体取付けブラケット18との間の位置に設けられている。
【0032】
貫通孔78の両側の開口部には樹脂製のスペーサ86、86が圧入されている。スペーサ86はポリアセタール(POM)などの高強度、低摺動特性の材料で構成されている。スペーサ86は筒部88と、筒部88の一方側端部に形成されたフランジ部90とから構成されている。貫通孔78の両開口部には筒部88、88が圧入され、スリーブ80の両端はスペーサ86、86の筒部88、88によって支持され、スリーブ80のガタつきが防止されている。フランジ部90、90は貫通孔78の開口周辺部分とロアーブラケット20の側板66、66との間に介在し、ロアーブラケット20との摺動面の摩擦を低減している。
【0033】
ハウジング50は、チルトピボットシャフト70を回動中心として、ロアーブラケット20に回動可能に支持されている。これにより、ハウジング50と連結されているロアーコラム14は、ハウジング50を介してロアーブラケット20によって車体に支持され、チルトピボットシャフト70を回動中心として回動自在となっている。
【0034】
チルトピボットシャフト70は、上記のように、電動モータ52の回転軸54よりも後方側のハウジング50の上側部分に設けられた貫通孔78に配置されている。つまり、チルトピボットシャフト70は、ハウジング50の格納部62に収容されたウォームホイール58の軸方向の中心断面よりも後方側に位置している。ウォームホイール58の軸方向の中心断面とは、詳細には、ウォームホイール58を軸方向の中心部で軸方向と直角に交差する方向に切断した場合の切断面のことである。チルトピボットシャフト70の位置をさらに言い換えると、チルトピボットシャフト70は電動モータ52の回転軸54とアッパー側の車体取付けブラケット18との間に配置されている。チルトピボットシャフト70をこの位置に設けることにより、電動モータ52、減速機構、ECU60等の重量の大きい部材の多くの部分がチルトピボットシャフト70よりも前方側に位置することとなる。そうすると、電動パワーステアリング装置1の重量のうち、チルトピボットシャフト70よりも後方側の重量が相対的に小さくなる。
【0035】
従来のようにチルトピボットシャフト70が電動モータ52よりも前方側にあると、電動パワーステアリング装置1の重量のほぼ全部がチルトピボットシャフト70よりも後方側にあることとなり、アッパー側の車体取付けブラケット18は大きな重量を支持する必要があった。チルトピボットシャフト70を本実施形態のように設けることでチルトピボットシャフト70よりも前方側の重量を大きくすると、チルトピボットシャフト70よりも後方側の重量は小さくなり、アッパー側の車体取付けブラケット18が支持する重量は小さくて済む。そうすると、車体取付けブラケット18を従来と同等のものを用いたとしても、車体取付けブラケット18のステアリングコラム10に対する支持剛性を相対的に高めることができる。ステアリングコラム10に対する支持剛性が高まると、アイドリング時の振動および走行時の振動がステアリングコラム10に伝わってステアリングコラム10がこれらの振動と共振してしまうことを防止できる。その結果、ステアリングホイール3にもこのような振動が伝わらず、操舵感の良い電動パワーステアリング装置1とすることができる。
【0036】
また、このように車体取付けブラケット18の支持剛性が高くなると、二次衝突時にステアリングコラム10が変形しにくくなる。その結果、ステアリングコラム10がスムーズにコラプス移動し、これにより二次衝突時の衝撃エネルギーがスムーズに吸収されることとなる。さらに、本実施形態は、上述したようにロアーブラケット20自体の剛性も高くなっているので、衝撃エネルギーの吸収はよりスムーズに行われるようになる。なお、ここでコラプス移動とは、二次衝突時にステアリングコラムが車体前方に向かってエネルギー吸収部材をコラプスしながら衝撃エネルギーを吸収しつつ移動することをいう。
【0037】
本実施形態に係る電動パワーステアリング装置1には、電動パワーステアリング装置1の車体取付け前の状態におけるロアーブラケット20の回動規制機構が設けられている。すなわち、ロアーブラケット20がチルトピボットシャフト70を中心としてステアリングコラム10に対して所定範囲以上回動しないように規制している。
【0038】
図8および
図9に示すように、ロアーブラケット20の一方側(本実施形態においては車幅方向左側)の側板66(
図8では左側、
図9では右側)には、前方側の縁部の下方側部分から前方に突出する凸部92が形成されている。凸部92はチルトピボットシャフト70に関して補強ブリッジ68とは反対側に形成されている。つまり、凸部92はチルトピボットシャフト70よりも前方側に位置している。車幅方向左側の側板66の前方側縁部には、上端部から凸部92の近傍に亘って補強リブ93が形成されている。また、車幅方向右側の側板66(
図8では右側、
図9では左側)にも、前方側縁部に上端部から下方側縁部に亘って補強リブ93が形成されている。なお、車幅方向左側の側板66にも、前方側縁部に上端部から下方側縁部に亘って補強リブ93を形成しても良い。
【0039】
ハウジング50の左側の側面には、
図2、
図6に示すように、車幅方向外側に突出する2つの突出部94、94が形成されている。2つの突出部94、94はアルミ製のハウジング50と一体的に形成されている。ここで、一体的に形成されているとは、ハウジング50の成形時にハウジング50の一部としてハウジング50の他の部分と同時に成形されることで一体的に形成されていても良いし、ハウジング50の成形後に、当該ハウジング50とは別に成形した突出部94、94を溶接、ボルト締め、あるいは他の方法でハウジング50に固定することで一体的に形成されていても良い。
【0040】
2つの突出部94、94は、ロアーブラケット20がハウジング50に組付けられた状態において、一方がロアーブラケット20の凸部92の上方に位置し、他方が凸部92の下方に位置している。すなわち2つの突出部94、94は、凸部92を間にして上下方向に対向して配置されている。2つの突出部94、94は、ロアーブラケット20の凸部92よりも車幅方向で外側まで突出している。2つの突出部94、94は、凸部92が所定の範囲で回動できるように配置されている。つまり、凸部92は、ロアーブラケット20の回動位置によって、一方側の突出部94と接触している状態、他方側の突出部94と接触している状態、何れの突出部94とも接触していない状態の何れかの状態となっている。ロアーブラケット20の凸部92と、ハウジング50の2つの突出部94、94とで、ロアーブラケット20の回動規制機構が構成されている。以下に回動規制機構の作用について説明する。
【0041】
電動パワーステアリング装置1が車体に取付けられる前の状態において、ロアーブラケット20がチルトピボットシャフト70を中心にしてステアリングコラム10に対して一方側へ回動すると、ロアーブラケット20の凸部92がハウジング50の一方の突出部94に接触して、ロアーブラケット20のそれ以上の一方側への回動は規制される。また、ロアーブラケット20が他方側へ回動すると、凸部92がハウジング50の他方の突出部94に接触して、ロアーブラケット20のそれ以上の他方側への回動は規制される。このように、ロアーブラケット20のステアリングコラム10に対する回動は、所定の範囲に規制される。その結果、電動パワーステアリング装置1を車体に組付ける際、ロアーブラケット20が大きく回動することがなく、ロアーブラケット20を車体に取付け易くなる。車体取付け前の状態におけるロアーブラケット20の回動許容範囲は、一方側および他方側への回動方向とも、車体取付け後のチルト調整可能範囲に対応する回動範囲よりも少し大きな範囲に設定されている。このように設定されているので、車体取付け後のチルト調整時に、ロアーブラケット20の凸部92がハウジング50の突出部94、94に接触することはない。
【0042】
図10は、ロアーブラケット20のハウジング50への組付け方法を示す模式的な部分側面図である。ロアーブラケット20のハウジング50への組付けは、
図10中の矢印で示すように、ハウジング50のロアーブラケット取付け位置の後方側斜め上方から該ロアーブラケット取付け位置へ挿入することで行う。このとき、補強ブリッジ68が電動モータ52やECU60、あるいは車体取付けブラケット18等に接触することはなく、補強ブリッジ68が組付けの妨げになることはない。また、ロアーブラケット20の凸部92もハウジング50の2つの突出部94、94の間に挿入するだけである。このように、ロアーブラケット20のハウジング50への組付けは容易に行うことができる。
【0043】
本実施形態は、チルトピボットシャフト70を電動モータ52の回転軸54よりも後方側に設けているので、ロアーブラケット20のハウジング50への組付け方法は、
図10に示す方法が最も容易な組付け方法である。また、回動規制機構を本実施形態のような構成とすれば、
図10に示すような、ロアーブラケット20のハウジング50への組付け容易性を損なうことはない。その結果、車体取付けブラケット18のステアリングコラム10に対する支持剛性を確保しつつ、さらにロアーブラケット20のハウジング50への組付け性を損なわずにロアーブラケット20の回動規制が可能となっている。すなわち、車体への組付けが容易である。また、ロアーブラケット20のハウジング50への組付けが容易なので、電動パワーステアリング装置1の組立に係るコストの上昇を抑制することができる。
【0044】
このように、本実施形態によれば、電動パワーステアリング装置1を車体に組付ける前の状態ではロアーブラケット20の余分な回動を規制し、車体への組付けを容易にすることができる。また、車体に組付けた後はステアリングコラム10に対する支持剛性が高く、その結果操舵感が良く、二次衝突時にはスムーズに衝撃エネルギーを吸収することができる。さらに、ロアーブラケット20のハウジング50への組付けが容易なので、電動パワーステアリング装置1の組立コストを抑制することができるという効果も発揮する。
【0045】
なお、上記実施形態では、回動防止機構としてロアーブラケット20の一方の側板66に凸部92を設け、これに対応してハウジング50の一方側に突出部94、94を設けているが、ロアーブラケット20の両方の側板66、66にそれぞれ凸部92、92を設け、ハウジング50の両側にそれぞれ対応する突出部94、94を設けても良い。また、本実施形態ではハウジング50に貫通孔78を設けてこれに一本のチルトピボットシャフト70を挿通しているが、貫通孔78に代えて、ハウジング50の左右の側面に同軸の雌ねじを設け、各雌ねじにロアーブラケット20の各側板66、66を介してボルトを挿入し、これらのボルトをチルトピボットシャフトとしても良い。