(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記止水材を充填する工程では、前記止水材の注入量と、前記打設鋼材を引き抜く際にできる前記空隙部の容積が同じになるように、前記打設鋼材の引き抜き速度と、前記止水材の注入量とが設定されていることを特徴とする請求項4又は5記載の止水壁造成方法。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態の打設鋼材の平面を示した模式図である。
【
図2】本実施形態の打設鋼材の側面を示した模式図である。
【
図3】本実施形態の打設鋼材の下端部を拡大して示した模式図であり、(a)が地中に打設鋼材を打設した状態を示した模式図であり、(b)、(c)が地中に打設した打設鋼材を引き抜きぬきながら、止水材を注入している状態を示した模式図である。
【
図4】本実施形態の打設鋼材を用いた止水壁造成方法を説明するための模式図であり、(a)が地中に複数の打設鋼材を打設した状態を示した模式図であり、(b)が打設した複数の打設鋼材のうち左から第1番目の打設鋼材を引き抜きながら止水材を注入している状態を示した模式図であり、(c)が打設した複数の打設鋼材のうち左から2番目の打設鋼材を引き抜きながら止水材を注入すると共に、引き抜いた打設鋼材を再度、地中に打設している状態を示した模式図である。
【
図5】本実施形態の打設鋼材を用いた止水壁造成方法を説明するための模式図であり、(a)が
図4(a)のA−A断面を示した模式図であり、(b)が
図4(b)のB−B断面を示した模式図であり、(c)が
図4(c)のC−C断面を示した模式図である。
【0017】
以下、本発明の実施形態の止水壁造成用の打設鋼材及び当該打設鋼材を用いた止水壁の造成方法について図面を用いて説明する。
【0018】
先ず、本実施形態の打設鋼材の構成を説明する。
図1、2に示すように、本実施形態の打設鋼材1は、ハット型鋼矢板10と、ハット型鋼矢板10の幅方向の一端側(
図1では図面に向かって左端部)にハット型鋼矢板10の厚み方向に突出し且つハット型鋼矢板10の長さ方向全長に亘って延設固定される板状の流出防止部11と、ハット型鋼矢板10の下端側においてハット型鋼矢板10の幅方向略全長に亘って前記厚み方向に突出し且つハット型鋼矢板10の断面形状に沿って屈曲して形成された先端補強部13と、ハット型鋼矢板10の長さ方向に延設固定された注入管(止水材注入管)12とを備えている。
【0019】
ここで、ハット型鋼矢板10は、ウェブ部10aと、ウェブ部10aの両端から斜め外方に延びる一対のフランジ部10bと、各フランジ部10bの端部からウェブ部10aと略平行に延びる一対のアーム部10cと、アーム部10cの先端に形成された継手部10d1、10d2とを備えている。継手部10d1及び継手部10d2は、互いに係合するフックにより形成されている。
【0020】
そして、
図1に示すように、隣接した配置されるハット型鋼矢板10同士は、一方のハット型鋼矢板10の継手部10d1と、他方のハット型鋼矢板10の継手部10d2とを係合させることにより、相互に連結されるようになっている。尚、このハット型鋼矢板10には、例えば、市販の規格品を用いることができる。
【0021】
また、流出防止部11は、例えば、先端補強部13の下端部の厚さ寸法d1(
図2参照)よりも大きい幅寸法(例えば、60mm程度(d1=50mmのとき)の幅寸法)の鋼板等により形成され、ハット型鋼矢板10の一端部に形成されたアーム部10cの先端部近傍に直角に立設し、且つアーム部10cの上端から下端まで延設されている。
【0022】
また、先端補強部(厚み拡幅部)13は、止水壁の厚さを確保すると共に先端部の剛性を補強するために設けられている。具体的には、先端補強部13は、上面部13a、正面部13b、底面部13c及び側面部13dを備えた断面視四角形状に形成され(
図2参照)、ハット型鋼矢板10の下端側(流出防止部11が形成されている面の下端側)において、ハット型鋼矢板10の厚み方向に突出し形成されている。また、先端補強部13は、その一端部がアーム部10cから立設している流出防止部11に当接していると共に、その流出防止部11の位置から他方の継手部10d2の位置まで、ハット型鋼矢板10の断面形状に沿った屈曲した形状に形成されている(ハット型鋼矢板10の幅方向(
図1に示すX方向)に延設されている)。また、先端補強部13は、その他端部が、継手部10d2の先端部から突出し、且つ継手部10d2に連結された隣接配置されている打設用綱材1の流出防止部11に当接するようになっている。また、先端補強部13は、その上面部13aがテーパ面になっている。
【0023】
また、
図2に示すように、先端補強部13は、その底面部13cが、ハット型鋼矢板10の下端部10eよりも「所定寸法t1」上方に配置されている。この構成により、打設鋼材1の下端側に、ハット型鋼矢板10の下端部10eと、先端補強部13の底面部13cとによる段差部が形成される。この段差部の構成により(先端補強部13より下方にあるハット型鋼矢板10により)、地中に打設した打設鋼材の引き抜き開始時の孔壁の崩壊を防止することができる(
図3(a)、(b)参照)。また、先端補強部13の側面部13bの長さ寸法t2を長くすることで、引き抜いているハット型鋼矢板10と地中との間に形成される隙間に止水材が流出し、止水材が上方に漏れることが防止される(
図3(c)参照)。
【0024】
また、先端補強部13の略中央部(ウェブ部10aに設置された先端補強部13の中央部)には、その上面部13aから底面部13bを貫通する貫通孔が設けられ、この貫通孔に、注入管12の下端側が挿入されるようになっている(注入管12は、その下端側が先端補強部13を貫通している)。尚、先端補強部13は、例えば、複数枚の鋼材(上面部用鋼材、正面部用鋼材、側面部用鋼材、底面部用鋼材)を組み立て、ハット型鋼矢板10に溶接することにより形成される。
【0025】
また、注入管12は、両端が貫通している鉛直の単管により形成されており、ハット型鋼矢板10の一方面の中央部に上端から下端に向けて鉛直に延びている。本実施形態では、注入管12は、先端補強部13の下端部(底面部13c)の位置までしか延設されていないが、ハット型鋼矢板10の下端部10eまで延設されていてもよい。
【0026】
次に、本実施形態の打設鋼材1を用いた止水壁(鉛直止水壁)の造成方法について
図3〜
図5を用いて説明する。尚、
図3は、本実施形態の打設鋼材の下端部を拡大して示した模式図である。また、
図4は、本実施形態の打設鋼材を用いた止水壁造成方法を説明するための模式図である。また、
図5は、本実施形態の打設鋼材を用いた止水壁造成方法を説明するための模式図である。
【0027】
先ず、
図4(a)に示すように、止水壁を造成する地中3に、複数(図中では4枚)の打設鋼材1a、1b、1c、1dを打設する。尚、本実施形態では、打設鋼材1a、1b、1c、1dが、ハット型鋼矢板10により構成されているため、油圧式杭圧入引抜機(サイレントパイラー)を用いて、打設鋼材1a、1b、1c、1dを打設する。また、打設鋼材1a、1b、1c、1dを打設する際には、注入管12の下端部(先端部)にパッカーを設置し、打設中に注入管12に土砂が侵入することを防止する。尚、本実施形態では、サイレントパイラーを用いて打設鋼材1a、1b、1c、1dを打設する例を示しているが、特にこれに限定されるものではない。バイブロ工法により、打設鋼材1a、1b、1c、1dを打設するようにしてもよい。
【0028】
具体的には、先ず、打設鋼材1aの一方面(流出防止部11、注入管12、先端補強部13が形成されている面)を、造成予定の止水壁の形成領域に相対向するように向け、且つ先端補強部13が下側になるように配置して、サイレントパイラーにより、地中3に打設鋼材1aを打設する(鉛直方向に打設する)。この際、打設鋼材1aは、先端補強部13の底面部13cが、不透水層Dまで到達するように打設される。これにより、地中に打設された打設鋼材1aの先端補強部13の上方には空隙が形成される。尚、打設鋼材1aは、先端補強部13の底面部13cが、造成予定の止水壁下端部の位置(止水壁下端部予定位置)に配置されるように打設されている(
図3(a)参照)。また、打設鋼材1aは、その上方側が地面3aから突出させた状態で打設されている。
【0029】
次に、打設鋼材1aに打設鋼材1bを隣接させ、打設鋼材1aの継手10d2に、打設鋼材1bの継手10d1を係合し連結させながら、サイレントパイラーにより、地中に打設鋼材1bを打設する。尚、打設鋼材1bは、打設鋼材1aと同様、先端補強部13の底面部13cが、止水壁下端部予定位置に配置されるように打設する。この打設により、打設鋼材1bの先端補強部13の上方に空隙が形成される。
次に、打設鋼材1c、1dを、打設鋼材1bと同様の手順で、地中3に打設する。これにより、複数枚(図中では4枚)の打設鋼材1a、1b、1c、1dが、横方向に連結された状態で地中3に打設され、
図5(a)に示すように、地中3に配置される。そして、地中3に打設された打設鋼材1a、1b、1c、1dは、各々の先端補強部13の上方に空隙が形成されるようになる。
尚、以下では、説明の便宜上、打設鋼材1aを「1番目の打設鋼材1a」、打設鋼材1bを「2番目の打設鋼材1b」、打設鋼材1cを「3番目の打設鋼材1c」、打設鋼材1dを「4番目の打設鋼材1d」と呼ぶ。
【0030】
次に、
図4(b)に示すように、地中3に打設した4枚の打設鋼材1a、1b、1c、1dのうち一端部に配置された1番目の打設鋼材1aをバイブロ工法で徐々に引き抜きながら、注入管12を介して止水材20を注入し、打設鋼材1aを引き抜くことにより生じた空隙部Sに止水材20を圧入充填する(
図3(b)参照)。尚、本実施形態では、バイブロ工法で打設鋼材1a、1b、1c、1dを引き抜くようにしているが、サイレントパイラーを用いて打設鋼材1a、1b、1c、1dを引き抜くようにしてもかまわない。
【0031】
具体的には、注入管12の先端部のパッカーを外すと共に、打設鋼材1aの注入管12の上端部を、止水材充填機50に接続された接続配管15と接続する。
そして、バイブロ工法により打設鋼材1aを徐々に引き抜きながら、打設鋼材1aを引き抜くことにより生じる空隙部Sに、止水材充填機50により注入管12を介して、止水材20を注入し充填していく(
図3(c)参照)。
尚、注入する止水材20には、湿潤密度が大きく、固形分が多い、砂質材料を主体にしたグラウトを用いることが望ましく、本実施形態では、ベントナイトが含まれるグラウトが用いられる。これにより、止水材20が、充填後周辺地盤の土圧により厚さが薄くなったり地上部に逆流したりすることが防止される。また、注入される止水材20は、ベントナイトのチキソトロピーにより粘度が増し流動性が低下し固体状になる。
【0032】
また、本実施形態では、止水材20の注入量と、打設鋼材1aを引き抜く際にできる空隙部Sの容積が同じになるように、打設鋼材1aの引き抜き速度と、止水材充填機50による止水材20の注入量とが設定されている。尚、この場合、打設鋼材1aを一度に引き抜くのではなく、間欠的に打設鋼材1aを引き抜きながら止水材20を注入するようにしてもよい(打設鋼材1aを、「所定長さ」単位で引き抜きながら止水材20を注入する工程を繰り返し行うようにしてもよい)。このように、間欠的に打設鋼材1aを引き抜くことにより、止水材20の注入量と、打設鋼材1aを引き抜く際にできる空隙部Sの容積との調整を容易に行うことができる。これにより、打設鋼材1aの引き抜き断面に、確実に止水材20が充填されるようになっている。
【0033】
また、本実施形態では、
図1に示すように、打設鋼材1aの一端部のアーム部10cに流出防止部11が設けられているため、注入した止水材20が打設鋼材1aの一端側から流出することが防止される。また、打設鋼材1aの他端部側は、隣接して連結された打設鋼材1bの流出防止部11が配置されている。そのため、注入した止水材20が打設鋼材1aの他端側に隣接する打設鋼材1b側に流出することが防止されると共に、打設鋼材1bの先端補強部13の上方に形成された空隙に、注入した止水材20が流出することが防止される。
【0034】
また、本実施形態では、打設鋼材1aの下端部(先端部)に先端補強部13が設けられており、この先端補強部13により、周辺地盤との接触面積が大きくなり、その結果、先端補強部13の底面部13cより上方への止水材の流出が防止される。
【0035】
また、打設鋼材1aは、ハット型鋼矢板10の下端側の領域と、先端補強部13の底面部13cとにより段差部が形成されている。この段差部の構成により(先端補強部13より下方のハット型鋼矢板10下端部により)、地中に打設した打設鋼材の引き抜き開始時の孔壁の崩壊を防止することができる。したがって、本実施形態では、地中に打設した打設鋼材1aの引き抜き開始時から、空隙部Sに確実に充填でき、所望の厚さが確保できる。
【0036】
そして、打設鋼材1aをバイブロ工法により徐々に引き抜きながら、注入管12を介して止水材20を注入する工程を行うことにより、
図5(b)に示すように、打設鋼材1aが引き抜かれた領域に止水材20が充填され、充填された止水材20により止水壁が形成される。
【0037】
次に、
図4(c)に示すように、引き抜いた第1番目の打設鋼材1aを第4番目の打設鋼材1dに隣接させ、打設鋼材1aの継手10d1に、打設鋼材1dの継手10d2を係合し連結させながら、サイレントパイラーにより打設鋼材1aを打設する。また、第2番目の打設鋼材1bを、バイブロ工法により徐々に引き抜きながら、注入管12を介して止水材20を注入し、打設鋼材1bを引き抜くことにより生じた空隙部Sに止水材20を圧入充填し、この充填した止水材20を「第1番目の打設鋼材1aを引き抜いた空隙部Sに充填した止水材20」と連続して形成する。この工程により、
図5(c)に示すように、1番目の打設鋼材1aが引き抜かれた領域と、2番目の打設鋼材1bが引き抜かれた領域とに止水材20が連続して充填される。
【0038】
そして、上記のような工程を反復繰り返すことにより、連続した止水壁(止水用の地中壁)が構成される。
【0039】
以上説明したように、本実施形態によれば、地中3から打設鋼材3を引き抜いている際に形成される空隙部Sに確実に所望量の止水材20を注入できる打設鋼材1が得られる。その結果、本実施形態によれば、止水材20の注入管理を正確に行うことが出来るようになり、造成する止水壁の品質を確保することができる。
【0040】
また、本実施形態の打設鋼材1は、汎用性のあるハット型鋼矢板10を用いているため、サイレントパイラーによる施工も可能になり、振動や騒音が軽減された止水壁の造成方法が実現される。また、本実施形態では、汎用性のあるハット型鋼矢板10を用いているため、継手加工を行う必要がなく、材料の製作費を軽減することができ、施工コストを軽減させることができる。
【0041】
また、本実施形態では、注入管12が鉛直な単管であるため、止水材20に、粒径の大きい砂状材料を含むグラウト材を用いることができる(砂状材料を含むグラウト材の目詰まりが防止されている)。その結果、本実施形態によれば、止水材20が、充填後周辺地盤の土圧により厚さが薄くなったり地上部に逆流したりすることを防止できる。
【0042】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々の変更が可能である。
【0043】
例えば、
図4に示す例では、4枚の打設鋼材1を用いて、止水壁を造成しているが、あくまでもこれは一例である。本実施形態では、少なくとも、2枚の打設鋼材1を用いることにより、地中3に止水壁を造成することができる。
【0044】
また、上述した実施形態では、打設鋼材1aを構成するハット型鋼矢板10の内側面に、各構成部(流出防止部11、注入管12、先端補強部13)が形成されているが、ハット型鋼矢板10の外側面に前記各構成部を形成するようにしてもよい。
また、上述した実施形態において、ハット型以外の形状の鋼矢板を用いるようにしてもよい。
【0045】
また、上述した実施形態では、先端補強部13は、その上面部13aがテーパ面になっているが、特にこれに限定されるものではない。例えば、先端補強部13の底面部13cをテーパ面に形成してもよい。
【0046】
また、上述した実施形態では、流出防止部11が、ハット型鋼矢板10の長さ方向全長に亘って延設されているが、特にこれに限定されるものではない。流出防止部11は、少なくとも、ハット型鋼矢板10の上端から先端補強部13の上面部13aまで、ハット型鋼矢板10の長さ方向に延設されていればよい。尚、本実施形態では、上面部13aがテーパ状になっているため、流出防止部11の下端部も前記テーパ状に沿った斜辺となっている。この構成においても、流出防止部11により、注入した止水材20の流出が防止される。尚、流出防止部11の下端部より下方には、先端補強部13が突出形成されているため、流出防止部11の下端部より下方は、この先端補強部13により、注入した止水材20の流出が防止される。