(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンなどに装着されるガスケットとして、未発泡のゴム層を積層したメタルガスケットが知られている。かかるメタルガスケットは、ビードを備えることで、優れたシール性を発現し、一般に相手材の面粗度が12.5Ra以下のときに優れたシール性を発揮するのに対し、それ以上では十分なシール性を確保できないことがあり、更にメタルガスケットは、ビード(浮き彫り加工)部にボルト加重を集中させることでシールさせるため、ビードラインを跨って鋳巣が存在すると十分なシール性が得られないことがある。
【0003】
これらの未発泡のゴム層を積層したメタルガスケットに対して発泡させたゴム層を積層したメタルガスケットも知られている(特許文献1)。
【0004】
この発泡ゴム層を積層したメタルガスケットは、面粗度の粗い相手材や鋳巣をシールすることができるが、一般に発泡前のゴム層が約70μm以上の厚さがないと、発泡することが困難となり、特に発泡倍率を2倍以上にすることにより困難となる。
【0005】
また、発泡ゴム層を積層したメタルガスケットは、発泡前のゴム層が厚いため、高温・高圧下で発泡ゴム層が潰れてしまい、ボルトの軸力が低下してしまう。
【0006】
更に、発泡ゴム層を得るには、一般にマイクロカプセル法、化学発泡剤を用いた加熱分解法がある。マイクロカプセル法で得られた発泡ゴム層は発泡倍率が小さいため、鋳巣シールへの効果は小さく、また発泡ゴム層の多くが独泡(発泡セルが独立した気泡)であることから、低温(マイナス温度下)で独泡の収縮があり、ボルトの軸力低下を誘発し、シール面圧が低い時は、発泡ゴム層が完全に潰れないために、使用中に発泡ゴム層の機能や性能が衰えてボルト軸力の応力緩和が発生するという問題がある。
【0007】
これらの課題に対して、特許文献2では、鋼板の両面または片面に発泡ゴム層が形成され、車両のエンジンに装着されるガスケットを形成するためのガスケット用素材において、前記発泡ゴム層の発泡前におけるゴム層厚さが15〜50μmで、かつ発泡倍率が2〜4倍であるガスケット用素材を用いることにより、高温・高圧下で、ゴムの塑性流動(へたり)がなく、且つ低温でのゴム層の収縮がなく、鋳巣や面粗度の粗いフランジを良好にシールし得るガスケットを得ている。
【0008】
一方、金属板の少なくとも一方の面側に、接着剤層を介して、発泡ゴム層を形成させたガスケット材料は、独立気泡構造または連続気泡構造によって形成された発泡ゴム層の存在により、大きな圧縮復元性を有しているので、シール性能を出すためのエンボス加工などを必要とはせず、それを単に所定の形状に打ち抜くだけで、シール性良好なガスケットを得ることができる利点がある。
【0009】
しかしながら、発泡ゴム層を形成させたガスケット材料は、発泡ゴム層部分の引張強さや応力緩和性等の物性面で劣り、そのため高圧シール時には発泡層の吹き抜けが見られる。
【0010】
また、従来の発泡ゴム層は、発泡セル径が大きく、また独立気泡と連続気泡とが混在していることがあり、そのような場合には、連続気泡部分を通しての流体の浸透が起こり、また応力緩和性も大きいため、低面圧でのシール性能が低下するという欠点が見られる。
【0011】
この課題に対し、特許文献3では、低沸点炭化水素膨張剤により、加熱膨張させたマイクロカプセル状発泡粒子を含有する発泡ゴム層を形成させてなるガスケット材料を用いて解決している。
【0012】
近年の自動車をはじめとする産業界において、高度な電子化が進み、シール材には耐熱性と耐油性に加えて、電子回路に対する腐食性の低さを求められることが一般的になっている。
【0013】
しかしながら、上記特許文献2や特許文献3では、硫黄が配合された一般的な加硫ゴムであるため、電子部品などの腐食を嫌う製品のシール部品としては適さない。
【0014】
これに対して、特許文献4では、キノイド系架橋系を用いて腐食性を良化(改善)させようと試みている。
【0015】
しかしながら、特許文献4では、圧縮永久ひずみが大きく、且つ空気加熱老化による脆化が発生し、自動車用途などの高温化が想定されるガスケット材料として用いることは困難である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0027】
<発泡ゴム層>
[カルボキシル基変性ニトリルゴム]
本発明の発泡ゴム層組成物に使用されるゴム組成物ポリマーは、ニトリル系ゴムポリマーの中でも、カルボキシル基変性ニトリル系ゴム(本発明では、カルボキシル基変性ニトリル系ゴムポリマーともいう)であり、カルボキシル基変性アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴムが好ましく用いられる。
【0028】
カルボキシル基変性ニトリル系ゴムとしては、種々のモノマー比のものを使用することができるし、ブタジエン成分の一部が水素化されていてもよい。
【0029】
カルボキシル基変性アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴムとしては、結合アクリロニトリル含量が18〜48%の範囲が好ましく、より好ましくは31〜42%の範囲である。結合アクリロニトリル含量がこの範囲より小さいと、接着剤との接着性が乏しくなり、この範囲より大きいと、耐寒性が損なわれる。ムーニー粘度ML
1+4(100℃)は30〜85の範囲のものであり、より好ましくは35〜70の範囲のものである。ムーニー粘度が30より小さいと、加圧時の塑性流動(へたり)が大きくなる。
【0030】
本発明において、カルボキシル基変性ニトリル系ゴムは、単独で用いてもよいし、アクリロニトリル−ブタジエンゴムや液状アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴムやスチレン−ブタジエンゴムなどの相溶性のある高分子ポリマーと混合して用いる。
【0031】
本発明に用いられるカルボキシル基変性ニトリル系ゴムは、市販品として入手でき、例えば、「KRYNAC X7.50」、「KRYNAC X7.40」、「KRYNAC X1.46」、「KRYNAC X1.60」、「KRYNAC X9.50」、「KRYNAC221」(以上、バイエルポリサー社製)、「Nipol NX775」、「Nipol 1072」、「Nipol DN631」、「Nipol DN601」(以上、日本ゼオン社製)、及び、「N632S」(JSR社製)などの市販品を用いることができる。
【0032】
本発明においては、カルボキシル基変性ニトリル系ゴムに対して、加硫剤や発泡剤が配合され、好ましくは、加硫促進剤、カーボンブラック、無機充填剤、活性亜鉛華などの酸化亜鉛、老化防止剤、可塑剤等が添加されて、本発明に用いる発泡ゴム組成物が調製される。
【0033】
[加硫剤、加硫促進剤]
本発明において、加硫剤としては、エポキシ化合物が用いられる。エポキシ化合物としては、反応性エポキシ基を2個以上持つ熱硬化性の液状もしくは固体の合成樹脂が用いられ、一般的なビスフェノールA型やビスフェノールF型などのエポキシ樹脂の他、フェノキシ樹脂やビフェニル樹脂、アルキルグリシジルエーテルなどを単独あるいは複数を組み合わせて用いることができる。
【0034】
また、本発明においては、加硫促進剤が好ましく配合され、好ましい加硫促進剤としては、ジシアンアミド、2−エチル−4−メチルイミダゾール、ヘキサメチレンテトラミンなどを単独あるいは組み合わせて併用することで架橋速度を向上させることができる。中でも2−エチル−4−メチルイミダゾールが加硫促進能力の観点から好ましい。
【0035】
[発泡剤]
発泡剤としては、有機または無機の各種発泡剤または低沸点炭化水素膨張剤を封入した熱膨張性マイクロカプセル等を用いることができるが、独立した発泡構造を得やすい点でマイクロカプセルが好ましい。
【0036】
本発明のガスケット材料の発泡ゴム層中の発泡構造の直径が25μm以上となることを可能とする好ましいマイクロカプセル型発泡剤の例としては、例えばPAN樹脂等の熱可塑性樹脂に有機溶剤のイソペンタン等を含包したものが用いられ、これらは市販品として入手できる。
【0037】
シェル材が熱硬化性樹脂の場合は、更に独立発泡構造の加圧下での耐久性が向上するので好ましい。
【0038】
本発明において、発泡構造の直径という場合は、発泡が球形である場合は、そのまま直径でよいが、球形でない場合は、球形換算した直径を意味している。
【0039】
本発明のガスケット材料として適した発泡ゴム層とするためには、独立した発泡構造の発泡倍率は2.0〜3.0倍であり、好ましくは2.3〜2.8倍である。発泡倍率が2.0倍未満であると、連続ラインでの製造速度が落ち、生産性が悪く、また低面圧下、鋳巣相手へのシール性に劣る。一方、発泡倍率が3.0倍を超えると、ゴムの占有体積が減少し、加圧による塑性流動(へたり)が生じやすくなり、ボルトの軸力低下を誘発させてしまう。
【0040】
上記好ましい発泡倍率を満たすための発泡剤の配合量は、カルボキシル基変性ニトリル系ゴムポリマー100重量部当り5〜10重量部が好ましく、より好ましくは6〜9重量部の割合で用いられる。
【0041】
市販品として入手することができる発泡剤としては、松本油脂製薬社製「マイクロスフェアーF100D」などが挙げられる。
【0042】
[カーボンブラック]
カーボンブラックとしては、補強性の高いファーネスブラックあるいはサーマルブラックが用いられる。サーマルブラックを用いた場合、補強性向上以外に、ゴム糊塗工性が良好になるので特に好ましい。ファーネスブラックあるいはサーマルブラックを単独で用いてもよいし、併用することもできる。
【0043】
カーボンブラックの配合量は、本発明のカルボキシル基変性ニトリル系ゴムポリマー100重量部当り5〜120重量部が好ましく、より好ましくは10〜100重量部の割合で用いられる。配合量がこれより少ないと混練加工性が悪くなるため生産性が落ちるおそれがあり好ましくなく、これより多いとゴム硬度が高くなり、ゴム弾性も得られなくなるおそれがあるので好ましくない。
【0044】
本発明の発泡ゴム層組成物中には、以上の各成分に加え、他の必要な配合剤が適切に配合される。
【0045】
[無機充填剤]
無機充填剤は、カーボンブラックと併用して、あるいはカーボンブラックに代えて配合することができる。
【0046】
無機充填剤としては、シリカ、塩基性炭酸マグネシウム、活性化炭酸カルシウム、特殊炭酸カルシウム、超微粉珪酸マグネシウム、ハードクレー、硫酸バリウム、タルク、グラファイト、マイカ、カオリン、珪酸カルシウム、ウォラストナイト等が挙げられ、これらは単独又は複数を組み合わせて用いられる。
【0047】
これらの無機充填剤の添加は、高温浸漬時の接着剤層の剥がれ防止に有効であり、耐水性向上といった効果を示す。
【0048】
特にシリカとして、平均粒径が約20μm以下の天然シリカが好ましく、より好ましくはシランカップリング剤などで表面処理された天然シリカなどを用いたときに、より高い効果が得られる。
【0049】
無機充填剤の配合量は、カルボキシル基変性ニトリル系ゴムポリマー100重量部当り5〜120重量部が好ましく、より好ましくは10〜100重量部の割合で用いられる。配合量がこれより少ないと接着性が得られないおそれがあり好ましくない。一方、これより多いとゴム硬度が高くなり、ゴム弾性も得られなくなるおそれがあるので好ましくない。
【0050】
この他に、可塑剤、ステアリン酸、パラフィンワックス等の加工助剤、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等の受酸剤などのゴム工業で一般的に用いられている各種配合剤が適宜添加されて用いられる。
【0051】
[老化防止剤]
老化防止剤としては、イミダゾールやチオウレア等の硫黄元素を含まない一般的な市販品を用いることができる。
【0052】
ただし、本発明のガスケット材料を電子部品の周辺に配置されるガスケット材料として用いる際には、硫黄原子を含まない老化防止剤、例えば、p−フェニレンジアミン系老化防止剤等が好ましい。p−フェニレンジアミン系老化防止剤等としては、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(IPPD)やN−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(6PPD)、N−(1−メチルヘプチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(8PPD)等が挙げられる。市販品としては、住友化学社製「アンチゲン3C」、「アンチゲン6C」等が挙げられる。
【0053】
[混練]
以上の発泡ゴム組成物原料の混練は、インタミックス、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機あるいはオープンロールなどを用いて行われる。そして、ゴムコンパウンドは、混練後、沸点250℃以下の溶剤、例えばトルエン等の芳香族炭化水素類、メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトン等のケトン類またはこれらの混合溶剤などに溶解または分散させて、固形分濃度が25〜50%のコーティング溶液として調製される。
【0054】
<ガスケット材料>
本発明のガスケット材料は、金属板の片面又は両面に、必要によりプライマー層、接着剤層を介して、上述の発泡ゴム層を積層させたものである。
【0055】
金属板は特に限定されず、ステンレス鋼板(フェライト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス)、SPCC鋼板(冷間圧延鋼板)、アルミニウム鋼板等の金属板を使用することができる。
【0056】
また、表面をショットブラストやスコッチブラスト、ヘアーライン、ダル仕上げなどで粗面化させた金属板も用いることができる。
【0057】
これらの金属板上には、好ましくはプライマー層が形成される。プライマー層は、ゴム金属積層体のゴム接着にかかる耐熱性および耐水性の大幅な向上が望めるものであるので、特にゴム金属積層体をガスケット材料として使用する場合にはプライマー層を形成させることが望ましい。
【0058】
プライマー層としては、リン酸亜鉛被膜、リン酸鉄被膜、クロメート被膜、バナジウム、ジルコニウム、チタニウム、モリブデン、タングステン、マンガン、亜鉛、セリウム等の金属の化合物、特にこれら金属の酸化物等の無機系被膜、シラン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン等の有機系被膜などを用いることができる。
【0059】
金属板はアルカリ脱脂処理などで脱脂した後、クロメート系防錆処理、もしくはノンクロメート系防錆処理によって防錆被膜を形成した金属板が好ましく用いられ、また、SPCC鋼板ではリン酸亜鉛、リン酸鉄被膜、あるいはそれと同様な被膜が形成されてもよい。
【0060】
金属板の厚さは、厚さ約0.1〜1mm程度の金属板が好ましく用いられ、約0.2〜0.8mm程度がより好ましく用いられる。
【0061】
接着剤は、接着性樹脂、架橋剤、架橋促進剤及び未加硫の接着剤用ゴム組成物を一般的な手法で有機溶媒に溶解させて得られ、該接着剤溶液を金属板上にコーティングすることによって接着剤層を形成する。
【0062】
接着性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂から選ばれる一種または二種以上の樹脂を組み合わせて用いることが好ましい。
【0063】
フェノール樹脂としては、クレゾールノボラック型、クレゾールレゾール型、アルキル変性型などの任意の熱硬化性フェノール樹脂が挙げられる。
【0064】
エポキシ樹脂としては、一般にクレゾールノボラック変性エポキシ樹脂が挙げられ、その硬化剤としてはビスフェノールノボラック型フェノール樹脂が、硬化触媒としてはイミダゾール化合物がそれぞれ好適に用いられる。
【0065】
キシレン樹脂は、フェノール変性型などの任意の変性キシレン樹脂が挙げられる。
【0066】
接着剤の架橋剤としては、ヘキサメチレンテトラミン等が好ましく用いられ、架橋促進剤としては、2−エチル−4−メチルイミダゾール等が好ましく用いられる。
【0067】
接着剤用ゴム組成物は、NBRやHNBRのゴム組成物が用いられ、ニトリル含量18〜48%のNBR、HNBR又はカルボキシル基変性NBR、カーボンブラック、無機充填剤、酸化亜鉛、硫黄もしくは有機過酸化物からなる架橋剤、架橋促進剤もしくは架橋助剤を含有できる。
【0068】
ただし、本発明では、硫黄原子を含まない架橋剤および架橋促進剤もしくは架橋助剤を用いる。ガスケット材料を電子部品の周辺に配置されるガスケット材料として好適に用いるためである。
【0069】
また、SUS鋼板の場合、有機シラン化合物が用いられ、有機シラン化合物としてはアミノ基含有アルコキシシランやビニル基含有アルコキシシランを用いることができる。前記のアミノ基含有アルコキシシランとしては、例えばγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が用いられる。また、前記のビニル基含有アルコキシシランとしては、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等が用いられる。これらは単独もしくは、二種類以上で用いられる。
【0070】
有機溶剤は、上記接着性樹脂と架橋剤、架橋促進剤、未加硫の接着剤用ゴム組成物を同時に溶解させるものであれば制限はない。例えば、トルエン等の芳香族炭化水素とメチルエチルケトンやメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、イソプロピルアルコール等のアルコール系有機溶剤や、これら二種以上の混合溶媒などが挙げられる。
【0071】
このようにして、接着剤溶液は、有機溶媒によって固形分濃度が0.5〜20%となるように調製され、金属板上、好ましくはプライマー層を形成させた金属板上に塗布される。その後、室温下で風乾させ、さらに約100〜250℃で約5〜30分間程度の乾燥(架橋反応を行ってもよい)を行うことにより接着剤層が形成される。
【0072】
接着剤層は、一層の構成でもよいが、多層構成とすることもできる。例えば、プライマー層上には有機金属化合物を含むフェノール系の接着剤層を形成し、さらにその上には上記ニトリルゴム組成物を含むフェノール系接着剤層を設けて接着剤を多段に塗布した上で、ゴム層を形成させたものが挙げられる。このような構成とすることにより、接着剤層の塗布工程は増加するものの、プライマー層および発泡ゴム層の接着性をより強固なものとすることが可能となる。
【0073】
発泡ゴム組成物のコーティング溶液を、金属板上に形成された接着剤層上に塗布し、オーブン加硫するとゴム層を得ることができる。
【0074】
コーティング方式としては、ロールコート、ダイコート、ナイフコートなどのほか、スクリーン印刷やディスペンサーやインクジェットによる部分塗布も可能である。コーティング液は、各コーティング方式にそれぞれ適した粘度に調製される。例えば、ロールコートでは粘度が2,000〜5,000mPa・sが好ましい。また、スクリーン印刷では5,000〜30,000mPa・sが好ましく、沸点が高く揮発しにくい有機溶剤で調整することが望ましい。いずれの場合にも気温や液温に応じて固形分濃度が適宜調整される。
【0075】
コーティング溶液を乾燥後の厚みが40〜90μm、好ましくは50〜75μmになるようにコーティングし、150〜250℃で10秒〜10分の無加圧下で加硫接着を行うことも好ましい。
【0076】
なお、必要により架橋後のゴム表面の粘着を防止するために、パラフィンワックスやグラファイト、ポリエチレン、PTFE、セルロース繊維などの固体離型剤を、バインダーを介してさらに積層してもよい。
【0077】
このようにして得られたゴム金属積層体(ガスケット素材)は、例えばパンチ等により所望の形状に加工され、ガスケットとして好適に用いられる。
【実施例】
【0078】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0079】
(実施例1)
カルボキシル基変性NBRポリマー(日本ZEON社製「Nipol NX775」、カルボキシル基含有量0.083EPHR※)(※EPHR=Equivalents per hundred) 100重量部
MTカーボンブラック(キャンカーブ社製「サーマックスN990」) 20重量部
ステアリン酸(ミヨシ油脂社製) 2重量部
老化防止剤(住友化学社製「アンチゲン3C」) 3重量部
熱膨張性マイクロカプセル系発泡剤(松本油脂製薬社製「マイクロスフェアーF100D」) 7.5重量部
可塑剤(アジピン酸ジイソデシル(DIDA))(新日本理化社製「サンソサイザーDIDA」) 8重量部
架橋剤(ジャパンエポキシレジン社製「JER828」) 10重量部
【0080】
以上の各配合成分を、オープンロールを用いて混練し、ゴムコンパウンドを調製した。
ゴムコンパウンドは、トルエン:メチルエチルケトン=9:1混合溶剤に溶解させて、固形分濃度が25重量%のコーティング溶液とした。
次いで、防錆被膜を形成した金属板(SPCC)に、接着剤層を形成した後、ゴムコンパウンドを乾燥後の厚みが150μmになるようにコーティングした後、210℃で3分間加熱空気によりオーブン架橋させ、ガスケット材料を得て、以下の評価を行った。
【0081】
<評価>
(1)得られたゴムコンパウンドについて以下の加硫速度の評価を実施した。
[加硫速度](ISO 6502(1999)に対応するJIS K6300−2(2001)準拠)
ロータレスレオメータを用いて加硫速度について評価した。200℃で3分未満にt90以上の加硫度が得られるものを○、3分以上10分未満でt90以上の加硫度が得られるものを△、それ以上もしくは加硫しないものを×とした。
【0082】
(2)得られたガスケット材料について以下の評価を実施した。
[発泡倍率]
既述のガスケット素材作製方法に基づき素材を作製し、200℃で3分加硫する前の、発泡前と後の厚み変化から発泡倍率を算出した。すなわち、発泡前が65μmで発泡後は150μm厚であった場合には、本評価による発泡倍率は2.5倍である。
[金属腐食性]
密閉したガラス容器の中に、指標となる銀板、銅板(それぞれ15mm×15mm、厚さ1mm)とガスケットサンプルを密閉して、室温にて3か月放置し、指標の金属が変色するかどうかを確認した。
変色したものを×、変色しなかったものを○とした。
また、X線によって硫黄元素が存在するかどうかについても確認し、変色しなくても硫黄元素が検出されたものについては△と評価した。
[初期シール性]
低面圧下(100kPa)での空気リーク量を測定した。
リーク量が多かったものを×、リーク量が少なかったものを○とした。
[軸力測定]
ボルトの軸力測定として応力緩和試験(JIS K6263に準拠)を実施し、そこからガスケット素材の全厚変化を求めた。
全厚変化が60%以下のものを○、60〜80%のものを△、80%以上のものを×とした。
[蒸留水浸漬後の接着性]
耐圧容器中で蒸留水100℃、70時間浸漬したあとのガスケットの接着性を描画試験JIS K6894に準拠し、5点満点の評価で評価した。点数が高いほど良好な結果を示す。
【0083】
(3)上記のゴムコンパウンドに対して加圧プレスを用いて180℃で10分加硫し、2mmシートを成形したものについて以下の評価を実施した。
[耐熱性](耐空気加熱老化試験)
100℃に設定したギアオーブン中で70時間暴露したあとの硬度変化(DuroメータAでの瞬間値)を評価した。
硬度変化が4ポイント以下を○、5〜6ポイントを△、7ポイント以上を×とした。
【0084】
(実施例2)
架橋促進剤として2−エチル−4−メチルイミダゾールを1.5重量部添加した以外は、実施例1の方法と同様にして、ゴムコンパウンドを調製し、また同様にガスケット素材を得て、同様に評価を行った。
【0085】
(実施例3)
カーボンブラックの配合量を10重量部に変更した以外は、実施例2の方法と同様にして、ゴムコンパウンドを調製し、また同様にガスケット素材を得て、同様に評価を行った。
【0086】
(実施例4)
カーボンブラックの配合量を100重量部に変更した以外は、実施例2の方法と同様にして、ゴムコンパウンドを調製し、また同様にガスケット素材を得て、同様に評価を行った。
【0087】
(実施例5)
カルボキシル基変性NBRポリマーを4重量部に変更し、そしてさらにNBRポリマー(JSR社製「N237」)を96重量部添加した以外は、実施例2の方法と同様にして、ゴムコンパウンドを調製し、また同様にガスケット素材を得て、同様に評価を行った。
【0088】
(実施例6)
カルボキシル基変性NBRポリマーを日本ZEON社製「Nipol 1072」(カルボキシル基含有量0.075ephr)に変更した以外は、実施例2の方法と同様にして、ゴムコンパウンドを調製し、また同様にガスケット素材を得て、同様に評価を行った。
【0089】
(実施例7)
無機充填剤(ホフマンミネラル社製「VM56」)を10重量部配合した以外は、実施例3の方法と同様にして、ゴムコンパウンドを調製し、また同様にガスケット素材を得て、同様に評価を行った。
【0090】
(実施例8)
ウォラストナイト(NYCO社製「NYAD400」)を10重量部配合した以外は、実施例3の方法と同様にして、ゴムコンパウンドを調製し、また同様にガスケット素材を得て、同様に評価を行った。
【0091】
(実施例9)
架橋剤をジャパンエポキシレジン社製「YED216D」に変更した以外は、実施例2の方法と同様にして、ゴムコンパウンドを調製し、また同様にガスケット素材を得て、同様に評価を行った。
【0092】
(比較例1)
カルボキシル基変性NBRポリマーをNBRポリマー(JSR社製「N237」)に代えた以外は、実施例1の方法と同様にして、ゴムコンパウンドを調製し、また同様にガスケット素材を得て、同様に評価を行った。
【0093】
(比較例2)
架橋剤をキノイド化合物(大内新興化学社製「バルノックGM」)5重量部に代えた以外は、実施例1の方法と同様にして、ゴムコンパウンドを調製し、また同様にガスケット素材を得て、同様に評価を行った。
【0094】
(比較例3)
熱膨張性マイクロカプセル系発泡剤(松本油脂製薬社製「マツモトマイクロスフェアーF−100D」)の配合量を3重量部に変更した以外は、実施例2の方法と同様にして、ゴムコンパウンドを調製し、また同様にガスケット素材を得て、同様に評価を行った。
【0095】
(比較例4)
熱膨張性マイクロカプセル系発泡剤(松本油脂製薬社製「マツモトマイクロスフェアーF−100D」)の配合量を12重量部に変更した以外は、実施例2の方法と同様にして、ゴムコンパウンドを調製し、また同様にガスケット素材を得て、同様に評価を行った。
【0096】
(比較例5)
老化防止剤(アンチゲン3C)を老化防止剤(2−メルカプトベンズイミダゾール:大内新興化学社製「ノクラックMB」)に変更した以外は、実施例2の方法と同様にして、ゴムコンパウンドを調製し、また同様にガスケット素材を得て、同様に評価を行った。
【0097】
(参考例1)
架橋剤の代わりに硫黄1.2重量部、加硫促進剤(1)(テトラメチルチウラムモノスルフィド;住友化学社製「ソクシノールTS」)2重量部、及び加硫促進剤(2)(ジベンゾチアジルジスルフィド;住友化学社製「ソクシノールDM」)0.5重量部を配合した以外は、実施例1の方法と同様にして、ゴムコンパウンドを調製し、また同様にガスケット素材を得て、同様に評価を行った。
【0098】
(参考例2)
架橋剤の代わりにキノイド化合物(大内新興化学社製「バルノックGM」)5重量部と架橋促進剤(大内新興化学社製「バルノックPM」)5重量部を配合した以外は、比較例1の方法と同様にして、ゴムコンパウンドを調製し、また同様にガスケット素材を得て、同様に評価を行った。
【0099】
各実施例及び比較例における測定結果を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
表1の実施例1と比較例1を比較すると、実施例1ないし9に示される本発明のカルボキシル基変性NBRポリマーを用いた発泡ゴム層は、他のNBRポリマーを用いた発泡ゴム層よりも、密封性、耐熱性に優れ、加圧での塑性流動(へたり)が生じにくくボルトの軸力低下を抑制できるガスケット材料であることがわかる。
【0102】
また、参考例2に示されるように、本発明のカルボキシル基変性NBRポリマー以外のNBRポリマーを用いた発泡ゴム層に、架橋剤としてキノイド化合物であるバルノックGMと、架橋促進剤としてバルノックPMを用いたとしても、耐熱性の良好な性能は得られなかった。
【0103】
実施例1及び実施例2を比較すると、本発明の発泡ゴム剤に架橋促進剤を添加することが、加硫速度を早くし、また、軸力低下の抑制に対してより好ましいことがわかる。
【0104】
比較例2に示されるように、架橋剤としてキノイド化合物であるバルノックGMを用いた場合は、本願発明に係るエポキシ化合物により架橋された発泡ゴム層を使用したものと比較して、加硫速度が遅く、初期シール性、接着性、耐熱性等の良好な性能が得られなかったことがわかる。
【0105】
比較例3及び4に示されるように、発泡剤をそれぞれ3重量部、12重量部用いた場合、本発明に係る発泡ゴム層としての良好な発泡倍率のものが得られず、したがって、本願発明の性能を有するための、好ましい発泡倍率を満たすための発泡剤の配合量は、本発明のカルボキシル基変性NBRポリマー100重量部に対し5〜10重量部程度が適当であることがわかる。
【0106】
比較例5に示されるように、硫黄元素を有する老化防止剤(ノクラックMB)に代えた場合は、金属腐食性の観点から電子部品の周辺に配置される本発明のガスケット材料には適さないことがわかる。
【0107】
また、参考例1に示されるように、架橋剤に代えて、硫黄及び他の架橋促進剤を用いた場合は、金属腐食性を有することから、これもやはり、電子部品の周辺に配置される本発明のガスケット材料には適さないことがわかる。