(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記正電極に使用される電極材料において、前記混合工程は、前記親水化処理された炭素系導電材と、前記未処理正電極活物質と、前記フッ素樹脂と、金属酸化物または該金属酸化物生成化合物との混合物を混合する混合工程であり、前記焼成工程は、前記フッ素樹脂が溶融する温度以上、前記未処理正電極活物質が熱分解しない温度以下で、前記混合された混合物を焼成する焼成工程であることを特徴とする請求項1記載の電極材料の製造方法。
前記金属酸化物または該金属酸化物生成化合物に含まれる金属は、アルミニウム、モリブデン、チタン、またはジルコニウムであることを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか1項記載の電極材料の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
各種導電材と正電極に使用される電極活物質である鉄リン酸リチウムとを焼成法にて複合結合化させる技術は発明者等により開示されている(特許文献2)。しかし、層状型金属リチウム酸化物やスピネル型金属リチウム酸化物は、500℃程度の温度で上記リチウム酸化物が分解して酸素を放出すること、また焼成結合時に導電材の炭素原子の開裂を生じる700℃近傍まで焼成温度を上げるとその炭素と前述の酸素とが結合して二酸化炭素となってしまうために、上記リチウム酸化物を含む正電極材料と炭素系導電材との焼成による複合化は極めて困難であった。しかしながら、あらかじめ親水化処理を施した炭素系導電材を使用して、フッ素樹脂存在下に特定の条件で焼成することにより複合結合化させることができた。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0015】
本発明に使用できる炭素系導電材は、導電性カーボン粉体および導電性カーボン繊維から選ばれた少なくとも1つの導電材であることが好ましい。導電性カーボン粉体として、具体的にはアセチレンブラック、ケッチェンブラック、および黒鉛結晶を含む粉体から選ばれた少なくとも1つであることが好ましい。
カーボン繊維としては、導電性を有するカーボン繊維である。例えば、カーボン繊維、グラファイト繊維、気相成長炭素繊維、カーボンナノファイバーおよびカーボンナノチューブのうちの少なくとも1種類を含有することが好ましい。カーボン繊維の繊維径としては5nm〜200nmであることが好ましく、10nm〜100nmであることがより好ましい。また、繊維長が100nm〜50μmであることが好ましく、1μm〜30μmであることがより好ましい。
【0016】
また、導電性カーボン粉体および導電性カーボン繊維を併用してもよく、併合する場合の配合割合としては、質量比で[導電性カーボン粉体/導電性カーボン繊維=(2〜8)/(1〜3)]であることが好ましい。
また、電極材料全体に対して、炭素系導電材は1〜12質量%、好ましくは4〜8質量%配合することができる。
【0017】
炭素系導電材は、電極活物質と複合化する前に親水化処理を行なう。炭素系導電材は本来疎水性であり水へ分散しない。機械的に水と混合しても数分で炭素系導電材の層と水層に分離してしまう。親水化処理により、炭素系導電材の層と水層に分離することなく、炭素系導電材が水に分散するようになる。すなわち、親水化処理とは、本来疎水性である炭素系導電材の水への分散性を改善する処理をいう。親水化処理により、炭素系導電材の表面に−COOH基、>CO基、−OH基などの親水基の形成がなされるためと考えられる。
【0018】
親水化処理の図を
図1に示す。
図1(a)は導電性カーボン粉体の例であり、
図1(b)は導電性カーボン繊維の例である。
親水化処理は、炭素系導電材である導電性カーボン粉体1または導電性カーボン繊維3を、フッ素ガスを含むガス、好ましくは、フッ素ガスおよび酸素ガスを含むガスと接触させることにより、表面に−COOH基、>CO基、−OH基などの親水基が形成された導電性カーボン粉体2または導電性カーボン繊維4となる。
フッ素ガスを含むガスによる親水化処理は、フッ素原子が炭素系導電材の表面に実質的に残存しない範囲で行なうことが好ましく、フッ素ガスと酸素ガスとの混合比率、処理条件等を調整することで、親水基の形成がなされる。たとえば、親水化処理温度は50℃以下の常温で、処理圧力は常圧で行なうことが好ましい。また、酸素ガスと共存させる場合、フッ素ガスの体積比率の上限は(フッ素ガスの体積/(フッ素ガスの体積)+(酸素ガスの体積))が0.01であることが好ましい。フッ素原子が炭素系導電材の表面に多量に存在すると親水性ではなく撥水性となる。
【0019】
本発明に使用できる正電極活物質としては、コバルト、ニッケル、マンガン層状型またはマンガンや一部がニッケルに置換されたスピネル構造のリチウム含有金属酸化物やその固溶体、またオリビン構造のリチウム含有金属リン酸化合物、同リチウム含有コバルトあるいはマンガンのリン酸化物やリチウム含有金属珪酸化物およびそれらのフッ化物、さらには硫黄等のリチウム含有化合物等が挙げられる。
【0020】
層状型リチウム含有金属酸化物としては、α層状型リチウム含有金属酸化物が好ましく、たとえばLi(Ni
α/Mn
β/Co
γ)O
2(α+β+γ=1)が挙げられる。
スピネル構造のリチウム含有金属酸化物としては、スピネル型LiNi
δMn
εO
4(δ+ε=2)が挙げられる。
オリビン構造のリチウム含有金属リン酸化合物としては、オリビン型Li(Fe
ζ/Co
η/Mn
θ)PO
4(ζ+η+θ=1)、Li
2(Fe
ζ/Co
η/Mn
θ)PO
4F(ζ+η+θ=1)が挙げられる。
リチウム含有金属珪酸化物としては、Li(Fe
ζ/Co
η/Mn
θ)SiO
4(ζ+η+θ=1)が挙げられる。
フッ化物としてはLi
2FePO
4・F等がある。リチウム含有化合物としては、LiTi
2(PO
4)
3、LiFeO
2などが挙げられる。
【0021】
本発明に使用できる正電極活物質は、上記化合物の中で、α層状型Li(Ni
α/Mn
β/Co
γ)O
2(α+β+γ=1)およびスピネル型LiNi
δMn
εO
4(δ+ε=2)から選ばれる少なくとも1つのリチウム化合物である第一のリチウム化合物と、オリビン型Li(Fe
ζ/Co
η/Mn
θ)PO
4(ζ+η+θ=1)、Li
2(Fe
ζ/Co
η/Mn
θ)PO
4F(ζ+η+θ=1)、および、Li(Fe
ζ/Co
η/Mn
θ)SiO
4(ζ+η+θ=1)から選ばれる少なくとも1つのリチウム化合物である第二のリチウム化合物との混合物であることが好ましい。フッ素樹脂および金属酸化物存在下において、フッ素樹脂が溶融し熱分解開始する温度以上、正電極活物質が熱分解しない温度以下で焼成することにより表面処理または炭素系導電材との複合化が容易にできるためである。
【0022】
正電極活物質の表面処理工程を
図2に示す。
正電極活物質5は、フッ素樹脂および金属酸化物存在下において、フッ素樹脂が溶融し熱分解開始する温度以上、電極活物質5が熱分解しない温度以下、たとえば350〜380℃の温度で焼成することにより、上記フッ素樹脂および金属酸化物が電極活物質5表面で反応して、金属のフッ化物およびフッ化炭素((CF
x)
n)からなる表面層6が形成されて、フッ化炭素の存在により表面導電性の電極活物質7が得られる。また、未処理電極活物質5の表面結晶格子サイトに表面層6が存在することで、未処理電極活物質5に含まれるMn系材料の抵抗低減を図ることができる。表面層6は、たとえばフッ化アルミニウム層、フッ化リチウム酸素層、およびフッ化炭素層として電極活物質5の表面を被覆する状態で析出する。
【0023】
フッ素樹脂と併用される金属酸化物または該金属酸化物生成化合物としては、周期律表第3族から第6族元素およびその酸化物や水酸化物が挙げられる。好ましい金属としては、アルミニウム、モリブデン、チタン、ジルコニウムである。これらの中でより好ましい金属としてはアルミニウムであり、好ましい金属酸化物としてはAl
2O
3で表される酸化アルミニウムである。
【0024】
本発明で使用できるフッ素樹脂は、正電極活物質が熱分解しない温度以下で、熱分解を開始するフッ素樹脂である。上記正電極活物質が熱分解する温度は350〜380℃であるので、これらの温度以下で溶融し熱分解を開始するフッ素樹脂である。ここで、融点は示差熱分析曲線(昇温速度5℃/分)において最大吸熱ピークを示す温度であり、熱分解開始温度は、熱天秤における質量減少曲線(空気中、昇温速度5℃/分)において質量減少率5%を示す温度である。
【0025】
350〜380℃で熱分解開始するフッ素樹脂の具体例としては、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF:融点172〜177℃、熱分解開始温度350℃)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂(ETFE:融点270℃、熱分解開始温度350〜360℃)、ポリフッ化ビニル樹脂(PVF:融点約200℃、熱分解開始温度約350℃)等が挙げられる。また、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂(FEP:融点255〜265℃、熱分解開始温度約400℃)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(PFA:融点300〜310℃、熱分解開始温度約410℃)等は、上記350〜380℃で熱分解開始するフッ素樹脂と併用できる。
これらの中で溶融範囲が広く、溶融分解して酸化アルミニウムと反応しやすいポリフッ化ビニリデン樹脂が好ましい。
【0026】
正電極材料の複合化について
図3および
図4に示す。
図3に示す複合化は、親水化処理された炭素系導電材2および4と、未処理電極活物質5の表面に表面層6が形成されている電極活物質7との混合物をフッ素樹脂存在下において、フッ素樹脂が溶融し熱分解開始する温度以上、電極活物質5が熱分解しない温度以下で焼成して複合化する例である。ここでフッ素樹脂は上記フッ素樹脂類を使用できる。未処理電極活物質5が分解を開始する温度以下で焼成することにより、ポリフッ化ビニリデン樹脂の分子構造中に含まれているフッ素原子の一部は酸化アルミニウム分子中のアルミニウム原子と反応してフッ化アルミニウムになるとともに、フッ素原子の他の一部はフッ化炭素層6aとなり表面層6に導電性を付与し、炭素系導電材2および4と複合化される。
【0027】
図4に示す複合化は、未処理電極活物質5の表面処理と複合化とを同時に行なう場合の例であり、親水化処理された炭素系導電材2および4と、未処理電極活物質5との混合物をフッ素樹脂および金属酸化物または該金属酸化物生成化合物存在下において、フッ素樹脂が溶融し熱分解開始する温度以上、電極活物質5が熱分解しない温度以下で焼成して複合化する例である。ここでフッ素樹脂は上記フッ素樹脂類を使用できる。
【0028】
正電極材料の複合化は、親水化処理された炭素系導電材、電極活物質等の原材料をフッ素樹脂の水溶媒または有機溶媒のエマルジョン中にて混合して、この混合物を乾燥後焼成するか、あるいは各種原材料の混合および複合化を紛体状で混合して焼成するドライプロセスのいずれかを採用できる。ドライプロセスは未処理電極活物質5の表面処理と複合化とを同時に行なうことができる。
【0029】
本発明に使用できる負電極活物質は、黒鉛、表面に非晶質炭素材層またはグラフェン構造炭素材層が存在してなる黒鉛、SiO
xまたはSnO
xが添加された黒鉛、Li
4Ti
5O
12等のチタン酸リチウム化合物である。ここで、グラフェン構造炭素材層とはsp
2結合炭素原子の平面6員環構造一層をいい、非晶質炭素材層とはこの6員環構造が3次元的に構成されたものをいう。
【0030】
上記原料の負電極活物質と親水化処理された炭素系導電材との混合物を、フッ素樹脂存在下において焼成することにより、複合化された負電極活物質が得られる。フッ素樹脂および親水化処理された炭素系導電材は、正電極活物質の複合化に使用した材料を使用できる。焼成温度としては、600℃以上、好ましくは1000℃以上、より好ましくは1100〜1300℃の範囲である。特に高結晶黒鉛面に存在する炭素原子は、非晶質炭素原子と異なり、結合が開裂して化学的に結合するためには1000℃以上の焼成温度が必要となる。
【0031】
負電極材料の複合化は、正電極と同様に、親水化処理された炭素系導電材、電極活物質等の原材料をフッ素樹脂の水溶媒または有機溶媒のエマルジョン中にて混合して、この混合物を乾燥後焼成するか、あるいは各種原材料の混合および複合化を紛体状で混合して焼成するドライプロセスのいずれかを採用できる。
【0032】
上記本発明の電極材料の製造方法について説明する。
電極材料の製造方法は、(1)炭素系導電材を、フッ素ガスを含むガスに接触させて親水化処理する工程と、(2)未処理電極活物質と、親水化処理された炭素系導電材と、フッ素樹脂とを混合する混合工程と、(3)混合された混合物を焼成する焼成工程とを備える。
【0033】
(1)炭素系導電材を、フッ素ガスを含むガスに接触させて親水化処理する工程
反応容器に炭素系導電材を投入して、該容器内の雰囲気をフッ素ガスを含むガスに置換して室温で数分間放置することにより、炭素系導電材の親水化ができる。親水化されていることは、接触角の測定により判断できるが、簡易的には純水と混合後放置して、炭素系導電材の層と水層に分離することなく、炭素系導電材が水に分散することにより確認できる。
【0034】
(2)電極活物質と、親水化処理された炭素系導電材と、フッ素樹脂とを混合する混合工程
電極活物質は、未処理の電極活物質と、この未処理電極活物質を前述の方法で表面処理した後の電極活物質との両者を含む。この両者は次工程の焼成工程が異なる。
混合方法は、電極活物質、炭素系導電材等を水または有機溶媒に分散させて混合後、乾燥させる湿式混合方法、ロータリーキルン、ボールミル、ニーダーなどの混合装置を用いる乾式混合方法のいずれも採用できる。
【0035】
(3)混合された混合物を焼成する焼成工程
焼成工程は混合物を複合化する工程である。焼成することで混合されているフッ素樹脂が導電性のフッ化炭素になり電極活物質の表面に生成するとともに親水化処理された炭素系導電材と密に接触することにより複合化される。
正電極に使用される電極材料の場合、表面に金属のフッ化物およびフッ化炭素が形成された電極活物質ではフッ素樹脂存在下に焼成する。一方、未処理電極活物質の場合は、フッ素樹脂および金属酸化物の混合物存在下に焼成する。焼成温度はフッ素樹脂が溶融し熱分解開始する温度以上、電極活物質が熱分解しない温度以下である。
負電極に使用される電極材料の場合、上述したように、600℃以上、好ましくは1000℃以上、より好ましくは1100〜1300℃の範囲である。
【0036】
焼成工程は、必要に応じて焼成後の電極材料を粉砕する粉砕工程を伴う。粉砕は、電極材料の最密充填ができる粒子径、および電極活物質としての電池特性を考慮して行なう。たとえば上記鉄リン酸リチウム正電極粉体は、粉体粒子の直径が50nmよりも小さくなるとオリビン型結晶中にアモルファス相が生成し、リチウム電池の極度な容量低下を生じることが認められている。このため、鉄リン酸リチウム正電極粉体の場合、粉砕は50nm以上とすることが好ましい。より好ましくは70nm以上、100nm未満である。層状型リチウム化合物の場合、粉体粒子の直径は3〜15μmであることが好ましい。
また、負電極材の場合、正電極材料同様に微細化するとリチウム電池の容量以下を引き起こすことが認められている。また、市販や量産検討されている負電極材料粒子の最小直径は約4μmであることから、約4μm以上に粉砕することが好ましい。より好ましくは7μm以上、20μm未満である。
【0037】
上記電極材料と、結着剤と、必要に応じて上記導電材とを分散溶媒を用いて混合してペーストを作製し集電箔表面に塗布・乾燥することで活物質合剤層が形成されて、電極が得られる。このようにして得られた正電極と負電極との間にセパレータを介して、捲回または積層してなる電極群に有機電解液を浸透または浸漬させてリチウムイオンの吸蔵・放出を繰返し行なうリチウム電池となる。
【0038】
集電箔としては、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、ステンレス、チタンなどの金属箔などが挙げられる。集電箔はパンチングや突起状の穴あけ加工等を施してもよい。また、金属箔の表面に導電性カーボン被覆層を有することが好ましい。
【0039】
穴あけ加工等を施した集電箔における突起状の孔の箔断面形状は、多角錐、円柱状、円錐状等また、これら形状の組み合わせなどいずれの形状でも使用可能である。加工速度や加工治具の加工ショットライフ、さらには突出孔先端部の加工後の箔の切り粉や剥離粉の発生を抑えることから、円錐状がより好ましい。また、この突出孔は、集電箔を突き破って形成される貫通孔であることが集電効果を向上させるので好ましい。集電箔を突き破って形成される貫通孔は、集電箔にパンチング加工で形成される貫通孔またはエンボス加工で形成される凹凸に比較して、リチウム二次電池としたときの大電流充放電に優れ、サイクル時の内部短絡等の耐久性に優れる。
【0040】
結着剤としては、電池内の雰囲気下、物理的、化学的に安定な材料であって、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂を用いることができる。またアクリル系樹脂材料、さらにはスチレン・ブタジエン系材料等を用いることができる。
【0041】
セパレータとしては、正電極および負電極を電気的に絶縁して電解液を保持するものである。上記セパレータは合成樹脂製フィルムや繊維または無機繊維製などを挙げることができ、その具体例としては、ポリエチレンやポリプロピレンフィルムやこれらの樹脂製の織布や不織布、またガラス繊維やセルロース繊維製のものなどを挙げることができる。
【0042】
電極群が浸漬される電解液としては、リチウム塩を含む非水電解液またはイオン伝導ポリマーなどを用いることが好ましい。
リチウム塩を含む非水電解液における非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)等が挙げられる。
また、上記非水溶媒に溶解できるリチウム塩としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、ホウ四フッ化リチウム(LiBF
4)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiSO
3CF
4)、リチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiSFI)等が挙げられる。
【0043】
本発明の
製造方法により得られる電極材料を用いたリチウム電池は、車載用のリチウム電池、リチウムイオンキャパシタやその他非水系の発電素子すべてに応用できる。
車載用のリチウム電池は、形状として円筒形、角形、ラミネートタイプと様々な形状に適用できる。また車そのものの仕様や、スターター用、ISS用、HEV用、PHEV用、EV用等車載用として異なる用途に適用できる。
【実施例】
【0044】
実施例1
リチウム電池用の正電極活物質として、Li(Ni
1/3/Mn
1/3/Co
1/3)O
2化合物を準備した。この化合物は平均粒子径が5〜8μmの粒子であった。つぎに導電材としてアセチレンブラックと直径15nm、長さ2μmのカーボンナノチューブとを準備し、ステンレス製反応容器にアセチレンブラックを60質量部、カーボンナノチューブを40質量部の割合で所定量投入して反応容器内を真空状態にし、常温下で酸素ガスを99.95体積%およびフッ素ガスを0.05体積%予め混合したガスを真空下の反応容器内に導入して数分間放置し、反応容器内を真空に排気した。なお排気ガスはアルミナ反応管に通してフッ化水素ガスの大気への放出を防止した。次いで反応容器内にアルゴンガスを導入した後、反応容器を開けて粉体を取り出す。導電材粉体が親水化されたことを確認するために水に分散させて分離沈降しないことを確認した。なお、この親水化処理は各導電材を別々に行なうことができる。
次ぎに正電極活物質と親水化炭素導電材とを複合結合化させた。正電極活物質粉体を95質量部と、上記親水性導電材を5質量部と、Al
2O
3粉体を1質量部と、ポリフッ化ビニリデン粉体を3質量部とをロータリーキルン法で個体混合し、混合された紛体を370℃にて焼成し複合化させ、粉砕を行なって平均粒子径10μm程度の導電材付AlF
3およびフッ化炭素被覆の正電極材料を得た。
【0045】
上記方法で得られた正電極材料と、結着剤として6質量部のポリフッ化ビニリデンを添加した。これに分散溶媒として、N−メチルピロリドンを添加し、混練して、正極合剤(正極スラリー)を作製した。このスラリーを15μmのアルミニウム箔に塗工してアルミニウム箔を含む厚さ160μmの正電極を作製した。
【0046】
一方、上記正極に対向させる負極としては非晶質炭素材が被覆された天然黒鉛および非晶質炭素材被覆された人造黒鉛と親水化カーボンナノチューブとをそれぞれ99質量部と1質量部の割合で混合し、ポリフッ化ビニリデン粉体を用いて700℃の温度にて焼成複合化させた。当該複合負電極材料98質量部と、カルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液にバインダーとしてスチレン・ブタジエン系材料(SBR)溶液固形分質量比で2質量部を混合してスラリーを作製した。このスラリーを10μmの銅箔上に塗布して銅箔を含む厚さ100μmの負電極を作製した。
【0047】
上記正電極および負電極を所定寸法に裁断し、正電極5枚と負電極6枚を用いて正・負電極間には不織布セパレータを介在させて積層し、電極群を作製した。
端子を溶接してからラミネートフィルムで電極群を包みラミネート形電池を作製した。電解液にはエチレンカーボネート(EC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、およびジメチルカーボネート(DMC)溶媒を混合した溶液中に6フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を1モル/lとビニレンカーボネート1質量%溶解したものを用いた。正・負電極のセパレータには、セルロース繊維製の厚さ20μmの不織布を用いた。電解液を注液後、ラミネートフィルムを溶着して密閉し、初充電をして3.7V−700mAhリチウム電池を作製した。
【0048】
実施例2
未処理正電極活物質粉体を95質量部と、Al
2O
3粉体を1質量部と、ポリフッ化ビニリデン粉体を3質量部とをロータリーキルン法で個体混合し、混合された紛体を370℃にて焼成して、粉砕を行なって平均粒子径10μm程度の導電材付AlF
3およびフッ化炭素被覆の正電極材料を得た。
この正電極材料と、親水化炭素導電材とを複合結合化させた。正電極活物質粉体を95質量部と、上記親水性導電材を5質量部と、ポリフッ化ビニリデン粉体を3質量部とをロータリーキルン法で個体混合し、混合された紛体を370℃にて焼成し複合化させ、粉砕を行なって平均粒子径10μm程度の導電材付AlF
3およびフッ化炭素被覆の正電極材料を得た。この正電極材料を用いて、実施例1と同一の方法で正電極を得て、実施例1で用いた負電極を組み合わせて、実施例1と同一方法にて3.7V−700mAhリチウム電池を作製した。
【0049】
実施例3
実施例2において、正電極活物質粉体を95質量部と、上記親水性導電材を5質量部とを、ポリフッ化ビニリデン粉体の水エマルジョン溶液(ポリフッ化ビニリデン含有量3質量%)に分散させた。混合紛体を回収して100℃で乾燥した後、混合された紛体を370℃にて焼成し複合化させ、粉砕を行なって平均粒子径10μm程度の導電材付AlF
3およびフッ化炭素被覆の正電極材料を得た。
【0050】
比較例1
実施例1で用いた正電極および負電極、および親水化処理した導電材料を複合化処理することなく用いた以外は、実施例1と同一方法にて3.7V−700mAhリチウム電池を作製した。
【0051】
得られた実施例1および比較例1の電池を用いて、充電状態SOCを50%となるように調整後、異なる放電電流を流した際の開路電圧からの電圧降下をプロットした放電I−V特性と、逆に異なる充電電流を流した際の開路電圧からの電圧上昇をプロットした充電I−V特性から最小二乗法にて算出した各電池の放電と充電の直流抵抗(DCR)を比較した。測定した結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
続いて同電池を用いて、放電条件が5ItA定電流放電3.0V終止電圧カット、充電条件が4.2V定電圧(5ItA定電流制限)、0.05ItA検出時充電終了の繰り返しで1000サイクル後、3000サイクル後、5000サイクル後の初期容量に対する容量維持率を算出して表2にまとめた。
【0054】
【表2】
【0055】
表1の結果から、実施例1、2および3の電池は比較例1に比して放電時も充電時も、直流抵抗が低いことが分かる。これは、導電材との複合結合化が困難であったLi(Ni/Mn/Co)O
2正電極材料でも炭素原子同士やAlF
3、さらには(CF
x)
n等の導電性フッ素化合物の生成結合により導電材と複合化が形成されたことによると考えられる。ただし、同様の効果は発現するものの製造方法により多少の優劣があり、特に水溶液分散のバインダーでは少し焼成昇温中の酸化の影響と考えられるが、直流抵抗は実施例1や2よりも大きくなった。一方、このことにより電池の高エネルギー密度がサイクル時に維持され、表2のサイクル寿命時も実施例1、2および3のものは、5000サイクルを経た時点でも高エネルギー密度を維持している。ただし実施例3は直流抵抗時の試験結果同様に、少し低下がみられた。以上より、本発明の
製造方法により得られる電極材料を用いた電池では充放電時の直流抵抗が低いために大電流充放電でも大きな容量を発現でき(高エネルギー密度化)、かつ充放電サイクル時の正・負電極活物質の膨張収縮、特に負電極での導電材との結合が維持されているために低抵抗が維持されたためといえる。一方、比較例1の電池では同種同量の導電材が混合されているが、充放電時の膨張収縮により、導電材と正・負電極活物質間の接触状態が変化したために接点が外れて抵抗が増大して容量維持ができなかったものと考える。
【0056】
また、本発明の複合化では、Li(Ni/Mn/Co)O
2等の層状化合物正電極活物質やスピネル型電極活物質のみならず、オリビン型正電極活物質やLi(Ni/Mn/Co)O
2とこれらの混合系、さらにいずれの負電極材料にも展開でき同様の効果が得られた。一方、リチウム電池の電極材料に止まらず、本発明の複合結合法はリチウムイオンキャパシタの正電極材料や負電極活性炭と各種導電材料との複合化にも適用できる。