(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本願発明の実施形態の説明]
まず最初に本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本発明の実施形態に係る増幅装置は、
入力信号を増幅して出力信号を出力する増幅装置であって、
前記入力信号を増幅する第1増幅器と、
前記第1増幅器の後段に設けられ、前記第1増幅器が出力する信号を増幅して前記出力信号を出力する第2増幅器と、
前記第1増幅器と前記第2増幅器との間に設けられ、前記第1増幅器が出力する信号の位相を調整し前記第2増幅器に与える移相器と、を備え、
前記移相器は、所定の周波数帯域内の前記入力信号を増幅したときの前記出力信号の利得変化の増減幅が抑圧されるように前記第1増幅器が出力する信号の位相を調整する制御部を備えている。
【0013】
上記構成の増幅装置によれば、第1増幅器と第2増幅器との間に移相器を設けたので、第1増幅器と第2増幅器との間の実際の整合条件に合わせて、第1増幅器が出力する信号の位相を調整することができる。
これにより、入力信号の周波数帯域がより広帯域に設定された場合であっても、実際の整合条件に応じて第1増幅器と第2増幅器との間のインピーダンス整合をとることができ、所定の周波数帯域内の入力信号を増幅したときの出力信号の利得変化の増減幅の最大値であるΔゲインを抑圧することができる。
【0014】
(2)上記増幅装置において、前記第1増幅器及び前記第2増幅器の状態を示す状態情報を取得する取得部をさらに備えている場合、前記制御部は、前記状態情報に基づいて前記第1増幅器が出力する信号の位相を調整するように構成されていることが好ましい。
この場合、前記第1増幅器及び前記第2増幅器の状態に応じて第1増幅器が出力する信号の位相をより適切に調整することができる。
(3)なお、前記状態情報は、前記増幅器の温度を示す情報、又は前記増幅器の使用経過期間を示す情報であることが好ましい。
【0015】
(4)また、本発明の実施形態に係る無線通信装置は、上記(1)に記載の増幅装置を備えている。
【0016】
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、好ましい実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、一実施形態に係る増幅装置を有する無線通信装置の構成を示すブロック図である。この無線通信装置1は、移動体通信システムにおける基地局装置などに用いられ、通信信号の送受信を行う。なお、
図1では、通信信号を送信するための送信部のみを示している。
【0017】
無線通信装置1は、通信信号の信号処理を行うための信号処理部2と、信号処理部2から与えられる通信信号を増幅する増幅装置3とを備えている。
増幅装置3は、信号処理部2から与えられる通信信号を入力信号P
inとして受け付け、受け付けた入力信号P
inを増幅し出力信号P
outをアンテナ4に対して出力する。
本実施形態の増幅装置3は、例えば、2.5〜2.7GHzの間の周波数帯域の信号の増幅が可能に構成されており、広帯域の通信信号に対応している。
【0018】
増幅装置3は、ドライバアンプ(ドライバ増幅器)5と、ドライバアンプ5の後段に設けられたパワーアンプ(電力増幅器)6とを備えている。
第1増幅器としてのドライバアンプ5は、増幅素子としてLD−MOSFET(Lateral Diffusion Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を含むパッケージによって構成されており、信号処理部2から与えられる入力信号P
inを増幅する。
【0019】
第2増幅器としてのパワーアンプ6は、増幅素子としてLD−MOSFETを含むパッケージを用いて非対称型のドハティ増幅器として構成されており、ドライバアンプ5が出力する信号P
1を所定の送信電力まで増幅し、増幅した信号を出力信号P
outとして出力する。
ドライバアンプ5は、パワーアンプ6が所定の送信電力にまで増幅できる程度に入力信号P
inを増幅する。
【0020】
また、ドライバアンプ5と、パワーアンプ6との間には、可変移相器7と、アイソレータ8とが接続されている。
可変移相器7は、ドライバアンプ5が出力する信号P
1の位相を調整し、パワーアンプ6に与える。可変移相器7は、制御部9によって信号P
1の移相が制御される。
これら可変移相器7及び制御部9については、後に詳述する。
【0021】
アイソレータ8は、可変移相器7とパワーアンプ6との間に接続されたサーキュレータ8aと、一端がサーキュレータ8aに他端が接地された抵抗器8bとによって構成されている。アイソレータ8は、可変移相器7からの信号については、パワーアンプ6への供給を許容し、パワーアンプ6からの反射波については、抵抗器8bに導いて終端させる。
これによって、パワーアンプ6からの反射波の影響を抑制することができる。
【0022】
図2は、可変移相器7の構成を示す回路図である。
図2に示すように、本実施形態の可変移相器7は、90度ハイブリッドカプラ10と、一対のバラクタダイオード11、12と、制御部9とを備えている。
【0023】
90度ハイブリッドカプラ10は、第1端子10a、第2端子10b、第3端子10c、及び第4端子10dを有している。90度ハイブリッドカプラ10は、第1端子10aに与えられた信号を互いに位相が90度異なる2つの信号に分離し、第3端子10c及び第4端子10dに分配する。また90度ハイブリッドカプラ10は、第3端子10c及び第4端子10dそれぞれに与えられる信号を1つの信号に合成して第2端子10bから出力する。
【0024】
バラクタダイオード11、12は、それぞれ、90度ハイブリッドカプラ10の第3端子10c及び第4端子10dに接続されている。
バラクタダイオード11は、カソード側が第3端子10cに接続されており、アノード側が接地されている。また、同様にバラクタダイオード12は、カソード側が第4端子10dに接続されており、アノード側が接地されている。
【0025】
90度ハイブリッドカプラ10の第1端子10aには、ドライバアンプ5の出力端子が接続されている。よって、第1端子10aにはドライバアンプ5が出力する信号P
1が与えられる。
第1端子10aに与えられた信号P
1は、互いに位相が90度異なる2つの信号に分離されて第3端子10c及び第4端子10dから出力され、バラクタダイオード11、12に与えられる。
【0026】
バラクタダイオード11、12に与えられた2つの信号は、当該バラクタダイオード11、12で反射し、再度、第3端子10c及び第4端子10dに与えられる。
第3端子10c及び第4端子10dに与えられた2つの信号は、90度ハイブリッドカプラ10によって再び合成され第2端子10bから出力される。
【0027】
ここで、バラクタダイオード11と90度ハイブリッドカプラ10とを接続している電路13には、制御部9に接続されている分岐路14が設けられている。
また、バラクタダイオード12と90度ハイブリッドカプラ10とを接続している電路15には、制御部9に接続されている分岐路16が設けられている。
【0028】
制御部9は、分岐路14、16を通じてバラクタダイオード11、12のカソード側に電圧を印加する機能を有している。
制御部9は、バラクタダイオード11、12に印加する電圧を制御することで、当該バラクタダイオード11、12の容量を調整する機能を有している。
制御部9は、バラクタダイオード11、12の容量を調整することで、バラクタダイオード11、12に与えられる2つの信号に対する反射特性を変化させる。
【0029】
これによって、制御部9は、バラクタダイオード11、12に印加する電圧を制御することで、90度ハイブリッドカプラ10の第2端子10bから出力される信号の位相を任意に調整することができる。
このように、可変移相器7は、ドライバアンプ5が出力する信号P
1の位相を調整し、パワーアンプ6に与える機能を有している。
【0030】
ここで、ドライバアンプ5とパワーアンプ6との間の整合条件は、接続されている各要素のばらつき等によって想定される条件とは異なっている場合がある。
これに対して、本実施形態の増幅装置3は、ドライバアンプ5とパワーアンプ6との間に可変移相器7を設けたので、ドライバアンプ5とパワーアンプ6との間の実際の整合条件に合わせて、ドライバアンプ5が出力する信号P
1の位相を調整することができる。
【0031】
これにより、入力信号P
inの周波数帯域が、増幅装置3として対応している2.5〜2.7GHzの間の周波数帯域(所定の周波数帯域)といったように広帯域に設定された中で、実際の整合条件に応じてドライバアンプ5とパワーアンプ6との間のインピーダンス整合をとることができ、入力信号P
inを増幅したときの出力信号P
outの利得変化の増減幅の最大値であるΔゲインを抑圧することができる。
【0032】
本実施形態に係る可変移相器7の制御部9は、増幅装置3として対応している2.5〜2.7GHzの間の周波数帯域内の信号を入力信号P
inとして増幅したときのΔゲインができるだけ抑圧されるように信号P
1の位相を調整する。
つまり、制御部9は、バラクタダイオード11、12に印加すべき電圧値を、Δゲインができるだけ抑圧される信号P
1の位相に調整することができる値に設定している。
【0033】
次に、本発明者が行った、上記構成の増幅装置3に関する評価試験について説明する。
本発明者は、上記増幅装置3におけるドライバアンプ5とパワーアンプ6との間の構成をコンピュータシミュレーションによってモデル化し、一定電力の入力信号P
inを与えたときの入力信号P
inの周波数と、出力信号P
outの利得との関係を求め、入力信号P
inが所定の周波数帯域とされたときのΔゲインを求めた。
【0034】
モデル化した構成としては、
図1に示したドライバアンプ5とパワーアンプ6との間に可変移相器7とアイソレータ8とを設けた構成(実施例)と、ドライバアンプ5とパワーアンプ6との間にアイソレータ8を設け可変移相器7を設けていない構成(比較例)とを設定した。
なお、上記実施例では、例えば、ドライバアンプ5及びパワーアンプ6の温度が一定であるものとし、入力信号P
inの位相を210度回転させるように設定した。
【0035】
本評価試験では、入力信号P
inの周波数帯域を2.5〜2.6GHzの範囲に設定し、この周波数帯域内におけるΔゲインを求め、評価を行った。
【0036】
図3は、評価試験の結果の一例を示すグラフである。
図中、横軸は入力信号P
inの周波数、縦軸は出力信号P
outの利得を示している。
また、図中、実線は実施例品、破線は比較例品を示している。
【0037】
図中、入力信号P
inの周波数が2.5GHzである位置m1、入力信号P
inの周波数が2.55GHzである位置m2、及び、入力信号P
inの周波数が2.6GHzである位置m3それぞれにおける実施例の出力信号P
outの利得は、下記のように求められた。
実施例の出力信号P
outの利得
位置m1:30.599 dB
位置m2:30.758 dB
位置m3:30.841 dB
【0038】
同じく位置m1、位置m2、及び位置m3それぞれにおける比較例の出力信号P
outの利得は、下記のように求められた。
比較例の出力信号P
outの利得
位置m1:30.242 dB
位置m2:30.735 dB
位置m3:30.966 dB
【0039】
図3及び上記値から、入力信号P
inの周波数帯域が2.5〜2.6GHzの範囲である場合、実施例及び比較例それぞれにおいて位置m1が最小の利得であり、位置m3が最大の利得となっている。
よって、この場合、比較例のΔゲインは、約0.7dBと比較的大きいが、実施例のΔゲインは、0.3dB以下と比較例の場合よりも、より低い値に抑圧されていることが判る。
【0040】
上記結果から、本実施形態による増幅装置3によれば、ドライバアンプ5とパワーアンプ6との間に可変移相器7を設けたので、ドライバアンプ5とパワーアンプ6との間の実際の整合条件に応じてインピーダンス整合をとることができ、入力信号の周波数帯域がより広帯域に設定されたとしてもΔゲインを抑圧できることを確認することができた。
【0041】
図4は、他の実施形態に係る増幅装置を有する無線通信装置の構成を示すブロック図である。
本実施形態による増幅装置3は、ドライバアンプ5及びパワーアンプ6の温度を検出するための温度センサ21、22を備えている点、及び可変移相器7の制御部9が温度センサ21、22から与えられる情報に基づいてドライバアンプ5が出力する信号P
1の位相を調整する点において、上記実施形態と相違している。
【0042】
温度センサ21は、ドライバアンプ5の温度を検出し、その検出結果を示す検出信号を制御部9に与える。
温度センサ22は、パワーアンプ6の温度を検出し、その検出結果を示す検出信号を制御部9に与える。
これら温度センサ21、22は、各アンプ5、6の状態である温度を示す情報(状態情報)を取得する取得部を構成しており、取得した情報を検出信号として制御部9に与える。
【0043】
本実施形態の制御部9は、温度センサ21、22からの検出信号が示すドライバアンプ5及びパワーアンプ6の温度に応じて、Δゲインが抑圧されるように信号P
1の位相を調整する。
制御部9は、ドライバアンプ5及びパワーアンプ6の温度と、バラクタダイオード11、12に印加する電圧値とを対応付けたテーブルを記憶している。
【0044】
このテーブルに登録されているバラクタダイオード11、12に印加する電圧値は、予め実験等によって把握した、ドライバアンプ5及びパワーアンプ6の温度の変化に対する増幅装置3のゲイン特性に基づいて設定されており、各温度においてΔゲインをできるだけ抑圧することができる値に設定されている。
【0045】
制御部9は、温度センサ21、22から検出信号が与えられると、上記テーブルを参照し、テーブルに登録されている内容に従ってバラクタダイオード11、12に印加すべき電圧値を設定する。
これによって、制御部9は、ドライバアンプ5及びパワーアンプ6の温度に応じて、Δゲインが抑圧されるように信号P
1の位相を調整することができる。
【0046】
ドライバアンプ5及びパワーアンプ6は、その温度に応じてゲイン特性が変化する。本実施形態によれば、ドライバアンプ5及びパワーアンプ6の温度を検出し、その温度に応じて信号P
1の位相を調整するので、温度に応じてゲイン特性が変化したとしても適切な調整を行うことができる。
【0047】
なお、本実施形態では、ドライバアンプ5及びパワーアンプ6の状態を示す情報として温度を示す情報を取得し、これに基づいてΔゲインが抑圧されるように信号P
1の位相を調整する場合を示したが、ドライバアンプ5及びパワーアンプ6が実際に使用を開始されてから経過した期間である使用経過期間を制御部9がカウントすることができる場合、制御部9は、ドライバアンプ5及びパワーアンプ6の状態を示す情報として使用経過期間に基づいてΔゲインが抑圧されるように信号P
1の位相を調整してもよい。
【0048】
ドライバアンプ5及びパワーアンプ6は、その使用経過期間に応じてゲイン特性が経時変化する場合がある。この点、上記構成によれば、ドライバアンプ5及びパワーアンプ6に経時変化が生じたとしても、Δゲインが抑圧されるように信号P
1の位相をより適切に調整することができる。
【0049】
なお本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記各実施形態では、90度ハイブリッドカプラとバラクタダイオードとを備えた可変移相器を用いた場合を例示したが、他の構成の可変移相器を用いることもできる。
【0050】
また、上記実施形態では、ドライバアンプ5とパワーアンプ6との間に、可変移相器7に加えてアイソレータ8を設けた場合を例示したが、このアイソレータ8を省略した構成とすることもできる。この場合、構成がより簡略化される。
アイソレータ8を設けた場合、ドライバアンプ5とパワーアンプ6との間の反射波を抑制することができるので、より好適にドライバアンプ5とパワーアンプ6との間のインピーダンス整合をとることができ、Δゲインを効果的に抑圧することができるとともに、ドライバアンプ5の出力整合回路を簡略化(小型化)することができる。
【0051】
一方、上記実施形態では、ドライバアンプ5とパワーアンプ6との間に可変移相器7を設けたので、ドライバアンプ5とパワーアンプ6との間の実際の整合条件に合わせて、ドライバアンプ5が出力する信号P
1の位相を調整することができる。
このため、ドライバアンプ5とパワーアンプ6との間に多少の反射波が生じたとしても、その反射波に起因するインピーダンスの整合条件の変化に応じて信号P
1の位相を調整できる。
【0052】
よって、ドライバアンプ5とパワーアンプ6との間の反射波を抑制するためのアイソレータ8を省略したとしても、Δゲインが抑圧された好適な増幅特性を得ることができる。
上記理由から、増幅装置3において、ドライバアンプ5とパワーアンプ6との間に設けたアイソレータ8を省略した構成とすることができる。
【0053】
さらに、アイソレータ8を設けた場合においても、可変移相器7が信号P
1の位相を調整することによって良好な増幅特性を得ることができるので、良好なアイソレーション特性を有する高コストなアイソレータを用いる必要がない。よって、よりコスト的に有利なアイソレータを用いることができ、低コスト化が可能となる。
【0054】
また、本実施形態では、ドライバアンプ5とパワーアンプ6の増幅素子としてLD−MOSFETを用いた場合を例示したが、他の増幅素子、例えば、GaN−HEMT(GaN−High Electron Mobility Transistor)を増幅素子として用いた増幅器を用いてもよい。
また、本実施形態では、パワーアンプ6に非対称型のドハティ増幅器を用いた場合を例示したが、対称型のドハティ増幅器を用いて構成することもできる。
【0055】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。