(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
熱硬化性樹脂が、テトラグリシジルアミン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、グリシジルアニリン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂およびそれらの組合せからなる群より選択される少なくとも1種のエポキシ樹脂である、請求項1に記載のプリプレグ。
粒径分布をレーザー回折散乱法により測定して全体積を100%として累積曲線を求めた際の累積曲線90%の成分(C)の粒径が、5〜20μmである、請求項1に記載のプリプレグ。
真空度3kPa、120℃でプリプレグから流出するマトリックス樹脂の量が4.0〜7.0%であり、ゲルタイムが100分以上である、請求項1に記載のプリプレグ。
プリプレグを真空度3kPaにて25℃の温度から60〜160℃の温度まで昇温速度1.5℃/分で昇温させて60〜160℃の温度で保持した際のプリプレグの厚さの変化が、120分後において9%以上である、請求項1に記載のプリプレグ。
請求項1に記載のプリプレグを積層すること、およびプリプレグを成形することを含む繊維強化複合材料の製造方法であって、成形が、20〜50℃の温度、11kPa以下の真空度で脱気すること、および真空度を11kPa以下に維持したまま硬化温度まで昇温することによって硬化させることを含む、方法。
硬化法が、真空度3kPaでマトリックス樹脂がゲル化するまでにプリプレグから流出するマトリックス樹脂の量が4.0〜7.0%であること、および100分以上のゲルタイムを達成する、請求項14に記載の方法。
成形の際、プリプレグを60〜160℃の温度で保持し、その後プリプレグの厚さの変化が9%以上に到達し、かつ熱硬化性樹脂の硬化度が20%以上に到達した後、最終硬化温度までステップキュア法を行う、請求項14に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一実施形態は、第1の層および第2の層からなる構造を有するプリプレグであって、強化繊維を含む成分(A)、熱硬化性樹脂を含む成分(B)、および熱可塑性樹脂の粒子または繊維を含む成分(C)を含み、成分(C)が第1の層内において実質的に局所的に分布しており、部分含浸プリプレグである、プリプレグに関する。
【0013】
本明細書中において、プリプレグとは強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させた成形用中間基材を指し、また本発明においては、(B)熱硬化性樹脂と(C)熱可塑性樹脂の粒子または繊維とを含有する熱硬化性樹脂組成物をマトリックス樹脂として用いる。このプリプレグに関しては、熱硬化性樹脂は未硬化状態にあり、プリプレグを積層して硬化させることにより繊維強化複合材料を得ることができる。当然のことながら、繊維強化複合材料は単層のプリプレグを硬化させることにより得ることができる。複数のプリプレグ層を積層して硬化させることにより作製した繊維強化複合材料では、プリプレグの表面部が繊維強化複合材料の層間形成層となり、プリプレグの内部が繊維強化複合材料の強化繊維層となる。
【0014】
本発明に用いる(A)強化繊維は、ガラス繊維、ケブラー繊維、炭素繊維、グラファイト繊維またはボロン繊維等であってもよい。この内、比強度および比弾性率の観点からは、炭素繊維が好ましい。強化繊維の形状や配向としては、一方向に引き揃えた長繊維、二方向織物、多軸織物、不織布材料、マット、編物、組紐等が挙げられる。用途や使用領域によってこれらを自由に選択できる。
【0015】
本発明で用いる(B)熱硬化性樹脂は特に制限されず、樹脂が熱により架橋反応を起こし少なくとも部分的な三次元架橋構造を形成するものであればよい。これらの熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂およびポリイミド樹脂等が挙げられる。これらの樹脂の変形および2種以上のブレンドの樹脂を用いることもできる。また、これらの熱硬化性樹脂は熱により自己硬化する樹脂であってもよいし、硬化剤や硬化促進剤等とブレンドしてもよい。
【0016】
これらの熱硬化性樹脂の内、耐熱性、力学的特性および炭素繊維への接着性のバランスに優れていることから、エポキシ樹脂が好ましく用いられる。特に、アミン、フェノールおよび炭素−炭素二重結合を持つ化合物を前駆体とするエポキシ樹脂が好ましく用いられる。具体的には、アミンを前駆体とする、アミノフェノール型エポキシ樹脂、グリシジルアニリン型エポキシ樹脂およびテトラグリシジルアミン型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、テトラグリシジルジアミノジフェニル
メタン、トリグリシジル−p−アミノフェノールおよびトリグリシジルアミノ
クレゾール等の変形が挙げられる。高純度テトラグリシジルアミン型エポキシ樹脂である平均エポキシド当量(EEW)が100〜115の範囲のテトラグリシジルアミン型エポキシ樹脂、および高純度アミノフェノール型エポキシ樹脂である平均EEWが90〜104の範囲のアミノフェノール型エポキシ樹脂が、得られる繊維強化複合材料にボイドを発生させる恐れのある揮発性成分を抑制するために好ましく用いられる。テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンは耐熱性に優れており、航空機の構造部材の複合材料用樹脂として好ましく用いられる。
【0017】
また、前駆体としてフェノールを用いるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂も、熱硬化性樹脂として好ましく用いられる。これらのエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびレゾルシノール型エポキシ樹脂が挙げられる。高純度ビスフェノールA型エポキシ樹脂である平均EEWが170〜180の範囲のビスフェノールA型エポキシ樹脂、および高純度ビスフェノールF型エポキシ樹脂である平均EEWが150〜65の範囲のビスフェノールF型エポキシ樹脂が、得られる繊維強化複合材料にボイドを発生させる恐れのある揮発性成分を抑制するために好ましく用いられる。
【0018】
液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂は、粘度が低いため他のエポキシ樹脂と組み合わせて用いることが好ましい。
【0019】
また、室温(約25℃)で固体のビスフェノールA型エポキシ樹脂は、室温(約25℃)で液体のビスフェノールA型エポキシ樹脂と比較すると硬化樹脂中の架橋密度が低い構造となるため、硬化樹脂の耐熱性はより低くなるが靭性はより高くなり、そのためグリシジルアミン型エポキシ樹脂、液体のビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂を組み合わせて用いることが好ましい。
【0020】
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂は、吸収性が低く耐熱性が高い硬化樹脂となる。また、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂およびフェニル
フルオレン型エポキシ樹脂も吸収性の低い硬化樹脂となるため、好ましく用いることができる。
【0021】
ウレタン変性エポキシ樹脂およびイソシアネート変性エポキシ樹脂は、破壊靭性と伸度の高い硬化樹脂となるため、好ましく用いることができる。
【0022】
これらのエポキシ樹脂は、単独で用いてもよいし適宜ブレンドして用いてもよい。2官能、3官能またはそれ以上のエポキシ樹脂を樹脂に添加すると、系がプリプレグとしての作業性や加工性および繊維強化複合体としての湿潤条件下における耐熱性の両方を提供できるため好ましい。特に、グリシジルアミン型とグリシジルエーテル型エポキシの組合せは、加工性、耐熱性および耐水性を達成することができる。また、少なくとも1種の室温で液体のエポキシ樹脂と少なくとも1種の室温で固体のエポキシ樹脂とをブレンドすることは、プリプレグに好適なタック性とドレープ性の両方を付与するのに有効である。
【0023】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂および
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂は、耐熱性が高く吸収性が低いため、耐熱耐水性の高い硬化樹脂となる。これらのフェノールノボラック型エポキシ樹脂および
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を用いることによって、耐熱耐水性を高めつつプリプレグのタック性およびドレープ性を調節することができる。
【0024】
エポキシ樹脂の硬化剤は、エポキシ基と反応し得る活性基を有するいずれの化合物であってもよい。アミノ基、酸無水物基またはアジド基を有する化合物が硬化剤として好適である。硬化剤のより具体的な例としては、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体、アミノ安息香酸エステル類、各種酸無水物、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ポリフェノール化合物、イミダゾール誘導体、脂肪族アミン、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミン、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、他のカルボン酸無水物、カルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アミド、ポリメルカプタン、三フッ化ホウ素エチルアミン錯体および他のルイス酸錯体等が挙げられる。これらの硬化剤は、単独または組み合わせて用いることができる。
【0025】
硬化剤として芳香族ジアミンを用いることにより、耐熱性の良好な硬化樹脂を得ることができる。特に、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体は、耐熱性の良好な硬化樹脂が得られるため最も好適である。芳香族ジアミンの硬化剤の添加量は、化学量論的に当量であることが好ましいが、場合によっては、約0.7〜0.9の当量比を用いることにより高弾性率の硬化樹脂を得ることができる。
【0026】
また、イミダゾール、またはジシアンジアミドと尿素化合物(例えば、3−フェノール−1,1−ジメチル尿素、3−(3−クロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素、2,4−トルエンビスジメチル尿素、2,6−トルエンビスジメチル尿素)との組合せを硬化剤として用いることにより、比較的低温で硬化しながらも高い耐熱性および耐水性を達成することができる。酸無水物で硬化させるとアミン化合物硬化に比べて比較的吸収性の低い硬化樹脂が得られる。さらに、これらの硬化剤の内の1つを形成する可能性を有する物質、例えばマイクロカプセル化物質を用いることにより、プリプレグの保存安定性を高めることができ、特に、タック性およびドレープ性が室温放置しても変化しにくくなる。
【0027】
また、これらのエポキシ樹脂と硬化剤、またはそれらを部分的に予備反応させた生成物を組成物に添加することもできる。場合によっては、この方法は粘度調節や保存安定性向上に有効である。
【0028】
熱可塑性樹脂を前記(B)熱硬化性樹脂にブレンドし溶解させることが好ましい。このような熱可塑性樹脂は、通常は炭素−炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、スルホン結合およびカルボニル結合より選択される結合を有する熱可塑性樹脂であることが好ましいが、部分的に架橋構造を有していても構わない。
【0029】
また、熱可塑性樹脂は結晶性を有していてもいなくてもよい。特に、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フェニルトリメチルインダン構造を有するポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリルおよびポリベンズイミダゾールからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を熱硬化性樹脂にブレンドし溶解させることが好ましい。
【0030】
これらの熱可塑性樹脂は、市販のポリマーでもよいし、市販のポリマーより分子量の低いいわゆるオリゴマーであってもよい。オリゴマーとしては、熱硬化性樹脂と反応し得る官能基を末端または分子鎖中に有するオリゴマーが好ましい。
【0031】
熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とのブレンドを用いる場合、これらの一方のみを用いた場合よりも結果は良好なものとなる。熱硬化性樹脂の脆さを熱可塑性樹脂の靭性でカバーすることができ、また熱可塑性樹脂の成形の困難さを熱硬化性樹脂でカバーすることができるため、バランスのとれた主剤とすることができる。熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との比(重量部)は、バランスの点で100:2〜100:50の範囲が好ましく、100:5〜100:35の範囲がより好ましい。
【0032】
本発明においては、(C)熱可塑性樹脂の粒子または繊維が必須成分であるため、優れた耐衝撃性を実現できる。本発明で用いる(C)熱可塑性樹脂の粒子または繊維の素材は、熱硬化性樹脂にブレンドし溶解させる熱可塑性樹脂として先に例示した各種熱可塑性樹脂と同様であってもよい。中でも、優れた靭性のため耐衝撃性を大きく向上させることから、ポリアミドが最も好ましい。ポリアミドの中でも、ナイロン12、ナイロン11およびナイロン6/12共重合体は、(B)熱硬化性樹脂との接着強度が特に良好である。したがって、落錘衝撃時の繊維強化複合材料の層間剥離強度が高くなり、また耐衝撃性の向上効果が高くなるため、好ましい。
【0033】
(C)として熱可塑性樹脂の粒子を用いる場合、熱可塑性樹脂粒子の形状は、球状、非球状、多孔質、針状、ウイスカー状、フレーク状のいずれでもよいが、以下の理由により高い耐衝撃性を示す繊維強化複合材料が得られるため球状の形状が好ましい。熱硬化性樹脂のフロー特性が低下しないため強化繊維への含浸性が優れたものとなること。繊維強化複合材料への落錘衝撃時(または局所的な衝撃)の局所的な衝撃によって生じる層間剥離がさらに低減されるため、衝撃後の繊維強化複合材料に応力がかかった場合において、応力の集中による破壊の起点となる局所的な衝撃によって生じる層間剥離を起こした脆弱領域がより小さくなること。
【0034】
(C)として熱可塑性樹脂繊維を用いる場合、熱可塑性樹脂繊維の形状は、短繊維でも長繊維でもよい。短繊維の場合、特開平02−69566号公報に示されるように繊維を粒子と同じように用いる方法、またはマットに加工する方法が可能である。長繊維の場合、特開平04−292634号公報に示されるように長繊維をプリプレグの表面に平行に配列させる方法、または国際公開番号94016003に示されるように繊維をランダムに配列させる方法を用いることができる。また、繊維を加工して、特開平02−32843号公報に示されるような織物、または国際公開番号94016003に示されるような不織布材料もしくは編物等のシート型の基材として用いることもできる。また、短繊維チップ、チョップドストランド、ミルドファイバーおよび短繊維を糸に紡いだ後、平行またはランダムに配列させて織物や編物とする方法も用いることができる。
【0035】
本発明のプリプレグにおいて、(C)熱可塑性樹脂の粒子または繊維は、プリプレグの表面部に局所的に設けられている。すなわち、その断面を観察した際に粒子または繊維(C)が局在することが明確に確認できる、前記(C)が豊富な層(以下、層間形成層と言うこともある)は、プリプレグの表面部分に形成されなければならない。これにより、プリプレグを積層してマトリックス樹脂を硬化させて繊維強化複合材料を形成した場合に、強化繊維層の前記(C)が強化繊維層の間に局在した層間が形成される。これにより、強化繊維層間の靭性が高められたことになり、得られる繊維強化複合材料によって高度の耐衝撃性が発現されることになる。
【0036】
一方、前記(C)が豊富な層間形成層は、(B)熱硬化性樹脂の重量分率が極めて低くなるため、樹脂フローが前記(B)のみに比べるとかなり少なくなり、そのため特に脱オートクレーブ成形を使用した際のコンソリデーション過程において大きな問題となる。
【0037】
本発明のプリプレグにおける、(B)熱硬化性樹脂と(C)熱可塑性樹脂の粒子または繊維とを含有する熱硬化性樹脂組成物の重量分率は33〜42%であり、35〜40%が好ましい。熱硬化性樹脂組成物の重量分率が低過ぎると、プリプレグ中におけるマトリックス樹脂のフローが極めて不十分となり、プリプレグを硬化させる際に未含浸強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させることができず、そのためプリプレグのコンソリデーション過程が途中で終わってしまい、得られる繊維強化複合材料中に多数のボイドが発生することになる。熱硬化性樹脂組成物の割合が高過ぎると、比強度および比弾性率に優れるという、繊維強化複合材料の利点が得られない。
【0038】
本発明のプリプレグは部分含浸プリプレグであり、(A)強化繊維の一部が未含浸であり、残りの強化繊維は(B)熱硬化性樹脂と(C)熱可塑性樹脂の粒子または繊維とを含有する熱硬化性樹脂組成物に含浸されている。プリプレグ中における熱硬化性樹脂組成物の含浸率は、10〜90%が好ましく、20〜70%がより好ましく、20〜50%がさらに好ましい。含浸率が低過ぎると、強化繊維と熱硬化性樹脂組成物の間で剥離が生じ、プリプレグの粘着性が強くなり過ぎるため、プリプレグの硬化の際に作業性に劣ってしまい未含浸強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させるのにより多くの時間が必要となり、そのためプリプレグのコンソリデーションにより多くの時間が必要となり得られる繊維強化複合材料中に多数のボイドが発生する可能性がある。含浸率が高過ぎると、未含浸層中の空気の流路が不十分となり得られる繊維強化複合材料中に多数のボイドが発生する恐れがあり、また層間形成層中のマトリックス樹脂のフローが極めて少なくなるため、積層の際に閉じ込められた空気がプリプレグの硬化の際にプリプレグから抜け出ることができなくなり、プリプレグのコンソリデーション過程が途中で終わってしまい、得られる繊維強化複合材料中に多数のボイドが発生する恐れがある。ここで、プリプレグ中における熱硬化性樹脂組成物の含浸率は、樹脂フローが発生しない低温でプリプレグを徐々に硬化させ、硬化後の断面を顕微鏡で観察し、全強化繊維の総断面積に対する、熱硬化性樹脂組成物を含浸させた強化繊維の断面積の割合を求めることにより算出できる。
【0039】
図1は、本発明の典型的なプリプレグの断面図の一例を示している。
図1を用いて本発明をより具体的に説明する。
【0040】
図1に示す本発明のプリプレグは、強化繊維1と熱硬化性樹脂2とを含有する2つの強化繊維層3の間に、熱硬化性樹脂2と熱可塑性樹脂粒子4とを含有する層間形成層5を有する。強化繊維層間の靭性は、層間形成層5を形成することにより高められる。また、本発明のプリプレグは、強化繊維1に熱硬化性樹脂2を含浸させていない未含浸層6を有する。未含浸層6は、脱オートクレーブ成形の際に空気の流路となり、エポキシ樹脂からの揮発性成分および積層過程中に閉じ込められた空気をパネルの外側に放出する。未含浸層6は、連続した強化繊維層であってもよいし、熱硬化性樹脂を所々含浸させた不連続の強化繊維層であってもよい。また、従来の完全に含浸させたプリプレグでは、層間形成層5に含まれる熱硬化性樹脂1の重量分率が低いため、層間形成層5におけるマトリックス樹脂のフローが極めて少なくなる。一方、本発明のプリプレグでは、含浸率を高いレベルに制御することにより層間形成層5中の熱硬化性樹脂の重量分率が最適化され、積層の際に閉じ込められた空気とプリプレグからの揮発性成分とがマトリックス樹脂のフローによりプリプレグ外に放出されると同時に、プリプレグ中における未含浸層6への樹脂フローが確保され、その結果、マトリックス樹脂が未含浸層6に迅速に含浸できる。
【0041】
次に、本発明のプリプレグのコンソリデーション過程を
図2により説明する。本発明のプリプレグは未含浸層6を有する。このプリプレグでは、硬化の際に熱硬化性樹脂2が未含浸層6に含浸する。同時に、プリプレグの上部と下部が堅固に一体化しながらプリプレグの密度が増していく。本発明においては、この一連の過程をコンソリデーション過程と定義する。得られる繊維強化複合材料において低ボイドを達成するためには、プリプレグを硬化させる間にこのコンソリデーション過程を完了させなければならない。また、コンソリデーション過程の一工程として、コンソリデーション過程の間に、積層の際に閉じ込められた空気とプリプレグからの揮発性成分とをプリプレグ外に放出しなければならない。本発明のプリプレグでは、樹脂の含浸を高いレベルに制御することにより層間形成層5中の熱硬化性樹脂の重量分率が最適化され、例えば脱オートクレーブ成形を用いるといった低圧条件においても、プリプレグの硬化の際のマトリックス樹脂のフロー、特に層間形成層5中のマトリックス樹脂のフローが最大となる。
【0042】
また、積層の際に閉じ込められた空気とプリプレグからの揮発性成分とがマトリックス樹脂のフローによりプリプレグ外に放出されると同時に、プリプレグ内部の未含浸層6にマトリックス樹脂を迅速に含浸させることができ、プリプレグのコンソリデーション過程を完了させることができる。また、得られる繊維強化複合材料は、低ボイドと高い耐衝撃性とを同時に有することができる。本発明では、脱オートクレーブ成形に向けて層間形成層5中の熱可塑性粒子4の粒径を最適化することにより、本発明のプリプレグを硬化させる際に層間形成層5の厚さが最適化される。したがって、この時に用いる熱硬化性樹脂の重量分率を最適化でき、十分な量の熱硬化性樹脂2が強化繊維層3に流入することができる。さらに熱硬化性樹脂2は、プリプレグ中の未含浸層6に迅速に含浸できる。その結果、コンソリデーション過程が完了し、得られる繊維強化複合材料において低ボイドを実現できる。また、層間形成層5中の熱可塑性樹脂粒子4のCV値を最適化してもよく、それにより、脱オートクレーブ成形に向けて層間形成層中で使用する熱硬化性樹脂の重量分率を最適化できる。その結果、プリプレグの硬化の際のマトリックス樹脂のフロー、特に層間形成層5中のマトリックス樹脂のフローが最大となる。また、積層の際に閉じ込められた空気とプリプレグからの揮発性成分とがマトリックス樹脂のフローによりプリプレグ外に放出され、それと同時に、プリプレグ内部の未含浸層への樹脂の流入が確保され、マトリックス樹脂を迅速に含浸させることができ、プリプレグのコンソリデーション過程を完了させることができる。特に、プリプレグの含浸を制御しながらCV値の最適化および/または熱可塑性樹脂粒子4の粒径の最適化を組み合わせると、プリプレグ中におけるマトリックス樹脂のフローを最大化できるため、特に好ましい。
【0043】
図1の層間形成層5は、プリプレグの少なくとも一方の側面から、プリプレグの深さ100%に対して20%の深さまでの範囲に存在することが好ましく、より好ましくは10%の深さまでである。また、繊維強化複合材料を製造する際の簡便性を高める観点から、前記層間形成層は、プリプレグの正面と裏面の両方に存在することが好ましい。
【0044】
好ましくは、(C)熱可塑性樹脂の粒子または繊維の全重量の90〜100%が層間形成層中に局所的に存在し、より好ましくは、95〜100重量%が層間形成層中に局所的に存在する。
【0045】
プリプレグに対する層間形成層の厚さおよび層間形成層に含まれる前記成分(C)の存在比率は、以下の方法で評価できる。
【0046】
プリプレグおよび層間形成層の厚さを求めるため、積層した複数のプリプレグを2枚の平滑なポリ四フッ化エチレン樹脂板の表面の間にしっかりと固定し、プリプレグをゲル化させ、そして硬化させるために7日間かけて硬化温度まで徐々に昇温させることにより、板状の硬化プリプレグ材料を作製した。
【0047】
硬化プリプレグの研磨断面の顕微鏡写真を撮影した。この顕微鏡写真を用いて層間形成層の厚さを測定した。
【0048】
具体的には、顕微鏡写真から任意に選択した少なくとも10箇所について強化繊維層3の間の層間形成層5を測定し、平均値を層間形成層の厚さとした。
【0049】
(C)の存在比率は、プリプレグの全領域中の(C)の体積パーセントで割った、層間形成層に含まれる(C)の体積%であり、ここで層間形成層は、プリプレグの表面からプリプレグの総厚さの20%に等しい深さまでの厚さに含まれる領域と定義される。その存在比率を求めるため、単層のプリプレグを2枚の平滑なポリ四フッ化エチレン板の表面の間にしっかりと固定し、プリプレグをゲル化させ、そして硬化させるために7日間かけて硬化温度まで徐々に昇温させることにより、板状の硬化プリプレグ材料を作製した。表面からの深さが硬化プリプレグの厚さの20%となる位置に、各表面に平行な線を2本引く。次に、層間形成層中に存在する(C)の総面積とプリプレグの総厚さに渡って存在する(C)の総面積とを求める。(C)の面積は、どちらの場合も、ImageJ等の特定のソフトウェアにより断面顕微鏡写真から(C)の粒子または繊維部分を切り出し、プリプレグの断面を含んでいる顕微鏡写真の領域中の総画素数から画素の割合を算出することにより求める。樹脂中に分散した粒子の顕微鏡写真の撮影後に判定が困難な場合は、粒子を染色する方法を用いてもよい。
【0050】
また、本発明においては、(C)熱可塑性樹脂の粒子または繊維の重量は、プリプレグに対して20重量%以下の範囲が好ましい。前記成分(C)の重量がプリプレグの20重量%を超えると、(B)熱硬化性樹脂とのブレンドが困難となり、プリプレグの粘着性やドレープ性が低下する恐れがある。すなわち、熱硬化性樹脂の特性を維持したまま耐衝撃性を得るためには、前記成分(C)の重量はプリプレグの20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましい。プリプレグの取り扱い性をより一層優れたものにするには、前記成分(C)の重量は10重量%以下がより好ましい。高い耐衝撃性を実現するためには、前記成分(C)の重量は1重量%以上が好ましく、2重量%以上がより好ましい。
【0051】
本発明の(B)熱硬化性樹脂の50℃における粘度は、プリプレグの取り扱い性を確保し、かつ例えば脱オートクレーブ成形中といった低圧条件下においてプリプレグ中におけるマトリックス樹脂のフローを最大化するためには、100〜2000Pa・sが好ましく、200〜1200Pa・sがより好ましく、300〜800Pa・sが特に好ましい。50℃における粘度が低過ぎると、プリプレグの作製に必要な樹脂フィルムを製造することができず、プリプレグの取扱い性が劣ってしまい、プリプレグを積層する際に粘度が高くなり過ぎるため作業性に問題が生じ得る。また、脱気の際、積層の際に閉じ込められた空気が放出されず、得られる繊維強化複合材料に多数のボイドが形成される恐れがある。50℃における粘度が高過ぎると、プリプレグ中におけるマトリックス樹脂のフローが少なくなり、プリプレグのコンソリデーション過程が途中で終了してしまい、得られる繊維強化複合材料中に多数のボイドが発生する恐れがある。また、プリプレグの粘着性が低くなって、型内でプリプレグを積層できないという作業性の問題が生じてしまい、またプリプレグの作製に必要な樹脂フィルムを製造する際に、粘度が高くなり過ぎるためにフィルムを形成するのに過剰温度が必要になってしまい、得られるプリプレグの保存安定性が失われる恐れがある。
【0052】
本発明の(B)熱硬化性樹脂の最低粘度は、0.1〜15Pa・sが好ましく、0.3〜10Pa・sがより好ましく、0.5〜6Pa・sが特に好ましい。最低粘度が低過ぎると、マトリックス樹脂のフローが多くなり過ぎるため、プリプレグの硬化の際に樹脂がプリプレグから流出してしまう。また、得られる繊維強化複合材料において目的の樹脂比率が達成されず、プリプレグ中におけるマトリックス樹脂の流れが不十分となり、プリプレグのコンソリデーション過程が途中で終了してしまい、得られる繊維強化複合材料中に多数のボイドが発生してしまう可能性がある。最低粘度が高過ぎると、プリプレグ中におけるマトリックス樹脂のフローが少なくなり、プリプレグのコンソリデーション過程が途中で終了してしまい、得られる繊維強化複合材料中に多数のボイドが発生してしまう可能性がある。ここで、50℃および最低粘度は、以下の方法により求める。すなわち、動的粘弾性測定装置(ARES、ティー・エイ・インスツルメント社製)により、パラレルプレートを用い、歪み100%、周波数0.5Hz、プレート間隔1mmにて、2℃/分の速度で50℃から70℃まで単純昇温しながら測定を行う。
【0053】
粒径分布をレーザー回折散乱法により測定し全体積を100%として累積曲線を求めた場合、本発明の(C)熱可塑性樹脂の粒子の累積曲線90%における粒径は、5〜20μmが好ましく、5〜15μmがより好ましく、7〜15μmが特に好ましい。本発明のプリプレグでは、(C)熱可塑性樹脂の粒子の粒径を最適化すると、本発明のプリプレグを硬化させる際の層間形成層5の厚さを最適化でき、それにより層間形成層に用いる熱硬化性樹脂の重量分率を最適化できる。その結果、十分な量の熱硬化性樹脂が強化繊維層に流入できる。また、熱硬化性樹脂がプリプレグ中の未含浸層に迅速に含浸できる。その結果、コンソリデーション過程が完了し、得られる繊維強化複合材料において低ボイドを実現できる。例えば、前記粒径10μmの粒子を用いると、前記20μm粒径を用いた場合に比べて本発明のプリプレグを硬化させた際に層間がより薄くなり、それにより、より多くの量の熱硬化性樹脂がプリプレグ内部の未含浸層に迅速に流入できる。その結果、プリプレグのコンソリデーション過程が完了し、得られる繊維強化複合材料が低ボイドと高い耐衝撃性とを実現できる。粒径が小さ過ぎると、粒子が強化繊維の間に浸透してしまってプリプレグ積層体の層間領域に局在せず、したがって粒子の強化効果が十分に達成できず、耐衝撃性が低くなる恐れがある。粒径が大き過ぎると、層間形成層の厚さが必要以上に厚くなってしまうため、プリプレグ中の未含浸部に供給される熱硬化性樹脂が不十分となり、プリプレグ中におけるマトリックス樹脂のフローが極端に少なくなる。そのため、プリプレグのコンソリデーション過程が途中で終了してしまい、得られる繊維強化複合材料中に多数のボイドが発生する恐れがある。
【0054】
また、本発明の(C)熱可塑性樹脂の粒子は、レーザー回折散乱法により粒径分布を測定した際のCV値が45%以下であることが好ましい。より好ましい値は40%以下であり、35%以下の値が特に好ましい。本発明のプリプレグでは、(C)熱可塑性樹脂の粒子のCV値を最適化すると、本発明のプリプレグを硬化させる際の層間形成層に用いる熱硬化性樹脂の重量分率を最適化できる。その結果、プリプレグの硬化の際のマトリックス樹脂のフロー、特に層間形成層中のマトリックス樹脂のフローが最大となる。
【0055】
また、積層の際に閉じ込められた空気とプリプレグからの揮発性成分とがマトリックス樹脂のフローによりプリプレグ外に放出され、それと同時に、プリプレグ内部の未含浸層への樹脂の流入が確保され、マトリックス樹脂がプリプレグの繊維層に迅速に含浸でき、プリプレグのコンソリデーション過程を完了させることができる。例えば、CV値30%の粒子を用いると、CV値45%の粒子を用いた場合と比較して、本発明のプリプレグを硬化させた時に層間形成層を占める熱硬化性樹脂の重量分率が高くなる。また層間形成層中のマトリックス樹脂のフローが多くなる。加えて、積層の際に閉じ込められた空気とプリプレグからの揮発性成分とがマトリックス樹脂のフローによりプリプレグ外に放出され、それと同時に、プリプレグ内部の未含浸層への樹脂の流入が確保され、マトリックス樹脂が迅速に含浸できる。その結果、プリプレグのコンソリデーション過程を完了させることができ、得られる繊維強化複合材料はより少ないボイドとより高い耐衝撃性を実現できる。CV値が大き過ぎると、層間形成層を占める熱硬化性樹脂の重量分率が低くなり、マトリックス樹脂のフロー、特に層間形成層中のマトリックス樹脂のフローが大幅に低下し、プリプレグからの揮発性成分だけでなく積層の際に閉じ込められた空気もプリプレグ外に放出されず、マトリックス樹脂がプリプレグ中の未含浸層中に含浸できない。また、プリプレグのコンソリデーション過程が完了する前にプリプレグが硬化してしまい、得られる繊維強化複合材料中に多数のボイドが発生する恐れがある。
【0056】
(C)熱可塑性樹脂の粒子の粒径とCV値とを同時に最適化すると、例えば脱オートクレーブ成形を用いるといった低圧条件下においてもプリプレグ中におけるマトリックス樹脂のフローを最適化でき、またプリプレグ中の未含浸層への樹脂の流入を最適化できるため、マトリックス樹脂が迅速に含浸できる。
【0057】
本発明のプリプレグでは、層間形成層中の熱硬化性樹脂の重量分率は、含浸率を高いレベルに制御することにより最適化されるが、前記成分(C)の粒径および/またはCV値の最適化と組み合わせることにより、例えば脱オートクレーブ成形を用いるといった低圧条件下においてもプリプレグ中におけるマトリックス樹脂のフローを最適化できる。また、積層の際に閉じ込められた空気とプリプレグからの揮発性成分とがマトリックス樹脂のフローによりプリプレグ外に放出されると同時に、プリプレグ中の未含浸層への樹脂フローが確保され、そのためマトリックス樹脂がプリプレグの繊維層に迅速に含浸できる。
【0058】
本明細書中において、粒径とは、粒径分布をレーザー回折散乱法により測定した際の、全体積を100%とした際の累積曲線上の各体積%における粒径を指す。本発明で用いる粒径分布は、株式会社セイシン企業製LMS−24を用いてレーザー回折散乱法により測定する。粒径は、得られた粒径分布の累積曲線上の50体積%(メジアン径)および90体積%の位置で求める。また、本発明で用いるCV値(粒径変動係数)は、以下の式により算出される。
【0059】
粒径CV値(%)=(粒径の標準偏差/メジアン径)×100
【0060】
本発明のプリプレグでは、120℃で真空度3kPaを加えた時のマトリックス樹脂のプリプレグからのフローは、4〜7%が好ましく、5〜6.5%が特に好ましい。プリプレグ中におけるマトリックス樹脂のフローを最適化することは、プリプレグのコンソリデーション過程を完了させるのに有効であるため、マトリックス樹脂のプリプレグからのフローが小さ過ぎると、プリプレグ中におけるマトリックス樹脂のフローが少なくなり、硬化の際のプリプレグのコンソリデーション過程が完了しない恐れがある。マトリックス樹脂のプリプレグからの流出が多過ぎると、プリプレグ中におけるマトリックス樹脂のフローが少なくなり、プリプレグの未含浸強化繊維への含浸が可能とならず、硬化の際のプリプレグのコンソリデーション過程が完了しない恐れがある。
【0061】
また、本発明のプリプレグは、ゲルタイムが100分以上であることが好ましい。より好ましい値は110分以上であり、130分以上の値が特に好ましい。プリプレグの硬化の際にコンソリデーション過程が途中で終了してしまうと、得られる繊維強化複合材料中に多数のボイドが発生することになるため、マトリックス樹脂のフローを最適化するためには、十分な時間でマトリックス樹脂を流動させなければならない。ゲルタイムが短過ぎると、硬化の際のプリプレグのコンソリデーション過程が途中で終了してしまい、得られる繊維強化複合材料中に多数のボイドが発生する恐れがある。プリプレグ特性を評価するためのゲルタイムおよびマトリックス樹脂のフローは、JIS K−7071「炭素繊維及びエポキシ樹脂からなるプリプレグの試験方法」に示す方法に一致していたが、脱オートクレーブ成形に適合させるため、多孔性離型フィルム(穴開きFEP)とガラスブリーダークロスは省いた。また、プレスを使用する代わりに定盤と加圧板の間に積層体を置き、バギングフィルムで包んだ後、真空度3kPaで脱気を行った。次に、25℃から120℃まで1.5℃/分の速度で昇温し、120℃に保持した状態で評価を行った。
【0062】
本発明のプリプレグを、真空度3kPaにて25℃の温度から60〜160℃の温度まで昇温速度1.5℃/分で昇温し、60〜160℃の温度で保持する場合、プリプレグの厚さの変化は、昇温開始から120分後において9%以上であることが好ましい。プリプレグの厚さの変化が昇温開始から20分後に9%未満で止まってしまうと、プリプレグのコンソリデーション過程が途中で終了して得られる繊維強化複合材料に多数のボイドが生じる場合がある。本発明のプリプレグは、リバースローラーコーターやナイフコーター等を用いて離型紙の上に本発明の熱硬化性樹脂組成物を塗布して樹脂フィルムを形成し、次いで、この熱硬化性樹脂組成物フィルムを重ね合わせ、加熱、加圧して強化繊維の両面に含浸させることによって製造できる。また、片面のみがマトリックス樹脂で完全に被覆されたプリプレグは、熱硬化性樹脂組成物フィルムを強化繊維の片面のみに積層した後に加熱、加圧して含浸させることにより製造できる。このプリプレグは、片面はマトリックス樹脂が含浸していない強化繊維を含有するため、この面が空気の流路となり、そのため得られる繊維強化複合材料のボイドを抑制する効果がある。ここで、部分含浸プリプレグは、強化繊維の一部に熱硬化性樹脂組成物が含浸しないように、例えば温度、圧力および時間を減少させるなどして含浸の際の条件を調節することにより製造できる。あるいは、特開平14−249605号公報に示すように、部分含浸プリプレグは、離型紙に塗布された熱硬化性樹脂組成物が、縞模様等の、離型紙を完全には被覆していない形状であるフィルムを用いて製造することもできる。
【0063】
本発明のプリプレグでは、単位面積当たりの強化繊維の重量は、100〜300g/m
2が好ましい。強化繊維の量が少ないと、目的の厚さを得るのに必要な積層数を増やす必要があり作業が複雑になることがあるが、強化繊維の量が多過ぎると、プリプレグのドレープ性が劣ってしまう恐れがある。
【0064】
本発明の繊維強化複合材料は、前記プリプレグを積層して熱硬化させることにより製造できる。当然のことながら、繊維強化複合材料は、単層プリプレグを硬化させることによって得ることもできる。加熱は、オーブン、オートクレーブまたはプレス等の装置で行う。低コストの観点からは、オーブンを用いることが好ましい。本発明のプリプレグをオーブンで加熱して硬化させる場合は、以下の成形法を用いる。単層のプリプレグまたは複数プライを積層して形成させた積層物を用い、この単層のプリプレグまたは積層物を、内部の真空度が11kPa以下の袋に包んで20〜50℃の温度で脱気し、真空度を11kPa以下に維持したまま硬化温度まで昇温する。真空度が11kPaより高いと、プリプレグ中におけるマトリックス樹脂のフローが不十分となり、プリプレグの硬化の際に未含浸強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させることができないため、得られる繊維強化複合材料中に多数のボイドが発生する恐れがある。ここで、脱気は、真空度が好ましくは0.1kPa〜11kPa、より好ましくは0.1kPa〜7kPaである条件で行うことが好ましい。ここで、硬化温度は、120〜200℃が好ましく、130〜180℃がより好ましい。硬化温度が低過ぎると、硬化時間が長くなって高コストにつながる恐れがあるが、硬化温度が高過ぎると、硬化温度から室温へ冷却する間の熱収縮が無視できないものとなり、得られる繊維強化複合材料の力学的特性が劣ってしまう可能性がある。
【0065】
室温から硬化温度まで昇温する場合、硬化温度まで一定の速度で昇温してもよいし、中間停止温度で一定時間保持しその後硬化温度まで昇温してもよい。このように、中間温度を一定時間保持しその後硬化温度まで昇温する硬化法をステップキュアと呼ぶが、ステップキュアの際に一定時間保持する温度は、60〜160℃が好ましく、80〜150℃がより好ましく、90〜140℃が特に好ましい。このように中間温度を一定時間保持すると、マトリックス樹脂の十分なフローによってプリプレグのコンソリデーションが確実なものとなり、かつ必要時間が確保される。その結果、コンソリデーション過程の阻害要因である、プリプレグからの揮発性成分およびプリプレグの積層の際に閉じ込められた空気を効率的に除去できるため、本発明において特に有用である。ここで、一定時間保持する温度が低過ぎると、プリプレグ中におけるマトリックス樹脂のフローがあまりに少なくなり過ぎ、未含浸強化繊維に十分に樹脂を含浸させることができず、その結果コンソリデーション過程が途中で終了する恐れがある。一定時間保持する温度が高過ぎると、マトリックス樹脂からの揮発性成分が大幅に増加し、コンソリデーション過程を阻害する恐れがある。
【0066】
ステップキュアにおいては、熱硬化性樹脂組成物が硬化度20%以上に達した後に最終硬化温度まで昇温する方法、またはプリプレグの厚さの変化が9%以上に達した後に最終硬化温度まで昇温する方法が好ましく用いられる。これらの方法は、単独または組み合わせて用いることができる。これら2つの方法を組み合わせて用いることは、プリプレグに由来する揮発性成分が抑制され、マトリックス樹脂がプリプレグ中の未含浸強化繊維に十分に含浸し、プリプレグ層が堅固に一体化することを意味する。すなわち、プリプレグのコンソリデーション過程が完了して、得られる繊維強化複合材料で低ボイド状態が実現できるため、この組合せが好ましく用いられる。また、これら2つの方法を組み合わせて用いる場合、プリプレグの厚さの変化が9%以上に達し、次いで熱硬化性樹脂組成物が硬化度20%以上に達した後に最終硬化温度まで昇温する方法を用いることが特に好ましい。プリプレグの厚さの変化が9%以上に達する前に熱硬化性樹脂組成物が硬化度20%以上に達すると、プリプレグの厚さの変化が9%未満で止まってしまい、プリプレグのコンソリデーション過程が途中で終了する恐れがある。
【0067】
硬化度が20%以上に達した後に最終硬化温度まで昇温すると、昇温中に、熱硬化性樹脂組成物に由来する水蒸気や揮発性成分が新たに生じにくく、たとえ生じたとしても、周囲の熱硬化性樹脂組成物が十分に硬化するため、水蒸気や揮発性成分が大きなボイドになるのを防ぐことができ、好ましい。硬化度が低過ぎると、最終硬化温度まで昇温する工程中に、熱硬化性樹脂組成物に由来する水蒸気や揮発性成分が発生する恐れがある。ここで、熱硬化性樹脂組成物の硬化度は、示差走査熱量計(DSC、
ティー・エイ・インスツルメント社製)を用いて、樹脂を調製した直後の熱硬化性樹脂組成物の硬化発熱量(H
0)および硬化樹脂組成物の残発熱量(H
1)を測定し、次の式により算出する。
DSC硬化度(%)=[(H
0−H
1)×100/H
0]
【0068】
プリプレグの厚さの変化が9%以上に達した後に最終硬化温度まで昇温すると、得られる繊維強化複合材料で低ボイド状態が実現できるレベルまでプリプレグのコンソリデーション過程が完了するため、好ましい。プリプレグの厚さの変化とは、プリプレグの積層直後のパネルの平均厚さ(T
0)と硬化中のプリプレグパネルの平均厚さ(T
1)との変化率を指し、プリプレグパネルの中心を含む9箇所のパネルの厚さを測定して平均厚さを求めることにより求める。プリプレグ厚さの変化は、以下の式により求める。
プリプレグ厚さの変化(%)=[(T
0−T
1)×100/T
0]
【0069】
このプリプレグ厚さ変化率が小さ過ぎると、コンソリデーション過程が完了せずに、得られる繊維強化複合材料に多数のボイドが生じる恐れがある。
【0070】
本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、硬化度が20%以上に達した後、かつ/またはプリプレグの厚さの変化が9%以上に達した後に真空度11kPa以下の脱気を開放する方法であることが好ましい。脱気状態を開放するのは、硬化温度まで昇温する工程中、または中間温度や硬化温度で一定時間保持している間に、プリプレグに由来する揮発性成分の蒸発を防ぐためである。ここで、脱気状態を開放した後の真空度は、脱気前より高くてもよいが、30kPaから常圧までが好ましく、70kPaから常圧までがより好ましい。常圧が特に好ましい。脱気状態を開放する時期は、前記条件の少なくとも1つが満たされた後であればいつでもよい。例えばその時期は、室温から硬化温度まで一定の昇温速度で昇温している間、中間温度で一定時間保持している間、最初に中間温度で一定時間温度を保持した後に硬化温度まで昇温している間、または温度を一定時間最終硬化温度で保持している間であってもよい。
【0071】
本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、マトリックス樹脂のプリプレグからのフロー率が4〜7%であり、かつこの時のゲルタイムが100分以上であるという条件を満たすように硬化を行う方法であることが好ましい。マトリックス樹脂のプリプレグからのフロー率は、4〜7%が好ましく、5〜6.5%が特に好ましい。プリプレグ中におけるマトリックス樹脂のフローを最適化することは、プリプレグのコンソリデーション過程を完了させるために有効であるため、マトリックス樹脂のプリプレグからのフローが低過ぎると、プリプレグ中におけるマトリックス樹脂のフローが少なくなり、硬化の際のプリプレグのコンソリデーション過程が完了できない恐れがある。マトリックス樹脂のプリプレグからのフロー率が高過ぎると、プリプレグ中におけるマトリックス樹脂のフローが少なくなり、プリプレグ中の未含浸強化繊維への含浸が可能とならず、硬化の際のプリプレグのコンソリデーション過程が完了できない恐れがある。また、ゲルタイムは、100分以上が好ましく、110分以上がより好ましく、130分以上が特に好ましい。プリプレグ硬化の途中でコンソリデーション過程が完了すると、得られる繊維強化複合材料中に多数のボイドが発生することになるため、マトリックス樹脂のフローを最大化するために、マトリックス樹脂が流れることができる時に十分な時間を取らなければならない。ゲルタイムが短過ぎると、硬化の際のプリプレグのコンソリデーション過程が途中で終了してしまい、得られる繊維強化複合材料中に多数のボイドが発生する恐れがある。本発明の繊維強化複合材料を製造するための硬化条件を決定するため、ゲルタイムおよびマトリックス樹脂流れをJIS K−7071「炭素繊維及びエポキシ樹脂からなるプリプレグの試験方法」に示す方法に従って測定したが、脱オートクレーブ成形に適合させるため、多孔性離型フィルム(穴開きFEP)とガラスブリーダクロスは省いた。
【0072】
また、熱プレスを使用する代わりに定盤と加圧板の間に積層体を置き、バッキングフィルムで包んだ後、真空度3kPaで脱気を行った。次に、望ましい硬化条件下にてマトリックス樹脂のゲルタイムまで樹脂フローを測定し、マトリックス樹脂のフローおよびゲルタイムを測定した。例えば、25℃から120℃まで一定の上昇速度で昇温して120℃で60分間保持し、その後一定の上昇速度で180℃まで昇温して180℃で120分間保持する場合、この硬化条件にてマトリックス樹脂のゲルタイムまで樹脂フローを測定し、このマトリックス樹脂のフローとゲルタイムを用いた。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。以下の材料を用いて各実施例のプリプレグを得た。
【0074】
炭素繊維
・トレカ(登録商標)T800S−24K−10E(東レ株式会社製炭素繊維:繊維フィラメント数24,000、引張強度5.9GPa、引張弾性率290GPa、引張伸度2.0%)
【0075】
エポキシ樹脂
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂、アラルダイト(登録商標)LY1556(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂、EPON(登録商標)825(モメンティブ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)
・テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、アラルダイト(登録商標)MY9655(平均EEW:126g/eq、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)
・テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、アラルダイト(登録商標)MY721(平均EEW:112g/eq、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)
・ジグリシジル−p−フェノキシル−アニリン,TOREP(登録商標)PG−01(平均EEW:165g/eq、東レ・ファインケミカル株式会社製)
熱可塑性樹脂
・末端水酸基ポリエーテルスルホン、スミカエクセル(登録商標)PES5003P(住友化学株式会社製)
【0076】
硬化剤
・ジシアンジアミド、ダイハード(Dyhard)(登録商標)100S(アルツケムトロストベルグ社製)
・4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、Aradur(登録商標)9664−1(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)
・3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、Aradur(登録商標)9719−1(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)
【0077】
促進剤
・2,4−トルエンビスジメチル尿素、オミキュア(登録商標)U−24(CVCサーモセット・スペシャルティーズ社製)
【0078】
熱可塑性樹脂粒子
・透明ポリアミド(製品名:グリルアミド(登録商標)−TR55、EMSER Werke社)90重量部、エポキシ樹脂(製品名:エピコート(登録商標)828、シェル石油化学社製)7.5重量部および硬化剤(製品名:トーマイド(登録商標)#296、フジ化成工業株式会社製)2.5重量部を、クロロホルム300重量部およびメタノール100重量部を含有する溶媒混合物に加えて均一な溶液とした。次に、得られた均一な溶液を塗装用スプレーガンで霧化し、よく混合し、この溶液を沈殿させるためにn−ヘキサン3000重量部の液体表面に向けて噴霧した。沈殿した固体を濾過により分離し、n−ヘキサンで十分に洗浄し、次いで100℃で24時間真空乾燥させて球状エポキシ変性ナイロン粒子を得た。エポキシ変性ナイロン粒子をCCEテクノロジーズ社製のCCE分級機で分球した。得られた微粒子を以下に示す。
・以下に示すCV値および90%粒径を有する微粒子A:
90%粒径:28μm、CV値:60%
・以下に示すCV値および90%粒径を有する微粒子B:
90%粒径:30μm、CV値:40%
・以下に示すCV値および90%粒径を有する微粒子C:
90%粒径:14μm、CV値:58%
・以下に示すCV値および90%粒径を有する微粒子D:
90%粒径:15μm、CV値:43%
・以下に示すCV値および90%粒径を有する微粒子E:
90%粒径:14μm、CV値:28%
・以下に示すCV値および90%粒径を有する微粒子F:
90%粒径:7μm、CV値:34%
・ナイロン微粒子SP−10(90%粒径:17μm、CV値:48%、東レ株式会社製)
・ナイロン微粒子SP−500(90%粒径:9μm、CV値:55%、東レ株式会社製)
【0079】
熱可塑性樹脂繊維
・以下の製造方法で得たTR−55短繊維
開口部が1つのダイから噴霧した透明ポリアミド(グリルアミド(登録商標)−TR55、EMSER Werke社)の繊維をカットして、断面が円形のTR−55短繊維(繊維長1mm)を得た。
【0080】
以下の測定方法を用いて各実施例の熱硬化性樹脂組成物およびプリプレグを測定した。
【0081】
(1)熱硬化性樹脂の粘度測定
熱硬化性樹脂は、動的粘弾性測定装置(ARES、ティー・エイ・インスツルメント社製)により、パラレルプレートを用い、歪み100%、周波数0.5Hz、プレート間隔1mmにて、2℃/分の速度で50℃から170℃まで単純昇温しながら測定した。
【0082】
(2)熱硬化性樹脂組成物のフローおよびゲルタイム
ゲルタイムおよびマトリックス樹脂のフローは、JIS K−7071「炭素繊維及びエポキシ樹脂からなるプリプレグの試験方法」に示す方法に従って測定したが、脱オートクレーブ成形に適合させるため、多孔性離型フィルム(穴開きFEP)とガラスブリーダクロスは省いた。また、プレスを使用する代わりに定盤と加圧板の間に積層体を置き、バッキングフィルムで包んだ後、真空度3kPaで脱気を行った。次に、25℃から120℃まで1.5℃/分の速度で昇温した後、温度を120℃に保ったまま評価を行った。
【0083】
(3)プリプレグの熱硬化性樹脂組成物の含浸率の測定
プリプレグを2枚の平滑なポリ四フッ化エチレン樹脂板の表面の間に挟み、10日間40℃で徐々に硬化させて板状の硬化プリプレグを作製した。硬化後、接着面と直交する方向に切断し、プリプレグの上下面が視野内に収まるように50倍以上に拡大して光学顕微鏡で断面の写真を撮影した。断面積に対する樹脂含浸部の表面積比を算出し、プリプレグ中における熱硬化性樹脂組成物の含浸率とした。
【0084】
(4)繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度(CAI)測定
一方向プリプレグを、[+45°/0°/−45°/90°]3s構成で、擬似等方的に24プライ積層し、25℃、真空度3kPaで脱気した後、1.5℃/分の速度で120℃の温度まで昇温し、真空度を3kPaに維持したまま180分間保持し、その後1.5℃/分の速度で180℃の温度まで昇温して120分間保持してプリプレグを硬化させ、積層体を作製した。この積層体から、縦150mm×横100mmのサンプルを切り出し、SACMA SRM 2R−94に従ってサンプルの中心部に6.7J/mmの落錘衝撃を与え、衝撃後圧縮強度を求めた。一方、平織物を用いる場合は、プリプレグを[(±45)/(0、90)]
6s構成で擬似等方的に24プライ積層した。
【0085】
(5)繊維強化複合材料のボイド率測定
[0°]構造の16プライの一方向プリプレグを、25℃、真空度3kPaで脱気した後、真空度を3kPaに維持したまま1.5℃/分の速度で120℃の温度まで昇温して180分間保持し、その後1.5℃/分の速度で180℃の温度まで昇温して120分間保持し、プリプレグを硬化させて縦300mm×横150mmの積層体を作製した。この積層体から縦10mm×横10mmサンプル片を3個切り出し、その断面を研磨後、各サンプルにつき3枚、計9枚の写真を、積層体の上下面が視野内に収まるように50倍以上に拡大して光学顕微鏡で撮影した。断面積に対するボイドの表面積比を算出し、9箇所の平均ボイド率をボイド率とした。
【0086】
(6)プリプレグ中における熱硬化性樹脂組成物の含浸率の測定
プリプレグを2枚の平滑なポリ四フッ化エチレン樹脂板の表面の間に挟み、接着させ、10日間40℃で徐々に硬化させて板状の硬化プリプレグを作製した。硬化後、接着面と直交する方向に切断し、プリプレグの上下面が視野内に収まるように50倍以上に拡大して光学顕微鏡で断面の顕微鏡写真を撮影した。断面積に対する樹脂含浸部の表面積比を算出し、プリプレグ中におけるエポキシ樹脂組成物の含浸率とした。
【0087】
(7)硬化条件決定のためのマトリックス樹脂フローおよびゲルタイム
ゲルタイムおよびマトリックス樹脂フローは、JIS K−7071「炭素繊維及びエポキシ樹脂からなるプリプレグの試験方法」に示す方法に従って測定したが、脱オートクレーブ成形に適合させるため、多孔性離型フィルム(穴開きFEP)とガラスブリーダクロスは省いた。また、プレスを使用する代わりに定盤と加圧板の間に積層体を置き、バッキングフィルムで包んだ後、真空度3kPaで脱気を行った。次に、望ましい硬化条件下にてマトリックス樹脂のゲルタイムまで樹脂フローを測定し、マトリックス樹脂のフローおよびゲルタイムとした。例えば、25℃から120℃まで一定の上昇速度で昇温して120℃で60分間保持し、その後一定の上昇速度で180℃まで昇温して180℃で120分間保持する場合、この硬化条件にてマトリックス樹脂のゲルタイムまで樹脂フローを測定し、このマトリックス樹脂フローとゲルタイムを用いた。
【0088】
実施例1
13重量部のPES5003Pを、混練機中の60重量部のアラルダイト(登録商標)Y9655および40重量部のエポン(登録商標)825に加えて溶解させ、熱可塑性樹脂粒子である微粒子(A)を20重量部混練し、次いで硬化剤としてアラドゥール(登録商標)9664−1を45重量部混練して熱硬化性樹脂組成物を作製した。
【0089】
作製した熱硬化性樹脂組成物をナイフコーターで離型紙に塗布して、52g/m
2の樹脂フィルムを2枚作製した。次に、作製したこの2枚の樹脂フィルムを、一方向に配列されたシート状の炭素繊維(T800S−12K−10E)の両面に積層し、ローラー温度100℃、ローラー圧力0.07MPaで樹脂を含浸させて、炭素繊維の単位面積重量が190g/m
2でマトリックス樹脂の重量分率が35.4%の一方向プリプレグを作製した。
【0090】
前記(4)および(5)に記載の硬化法で作製した繊維強化複合材料について、120℃におけるプリプレグ中の熱硬化性樹脂組成物の樹脂フローおよびゲルタイム、プリプレグ中の熱硬化性樹脂組成物の割合、衝撃後圧縮強度ならびにボイド率を測定した。得られた結果を表1に示す。前記硬化法に従ってマトリックス樹脂がゲル化するまで樹脂流量を測定した結果、マトリックス樹脂のフローは5.8%、ゲルタイムは233分であった。また、120℃で180分間保存した直後に硬化度とプリプレグの厚さの変化を測定した結果、硬化度は28%、プリプレグの厚さの変化は10.7%であった。
【0091】
実施例2〜10、19
熱可塑性樹脂の粒子または繊維の種類と量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法でプリプレグを作製した。
【0092】
前記(4)および(5)に記載の硬化法で作製した繊維強化複合材料について、120℃におけるプリプレグ中の熱硬化性樹脂組成物の樹脂フローおよびゲルタイム、プリプレグ中の熱硬化性樹脂組成物の割合、衝撃後圧縮強度ならびにボイド率を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0093】
実施例11
10重量部のPES5003Pを、混練機中の70重量部のアラルダイト(登録商標)MY9655および30重量部のアラルダイト(登録商標)LY1556に加えて溶解させ、熱可塑性樹脂粒子である微粒子Aを20重量部混練し、次いで硬化剤としてダイハード(登録商標)100Sを3重量部、アラドゥール(登録商標)9664−1を10重量部混練し、さらに促進剤としてオミキュア(登録商標)U−24を5重量部混練して熱硬化性樹脂組成物を作製した。
【0094】
作製した熱硬化性樹脂組成物をナイフコーターで離型紙に塗布して、52g/m
2の樹脂フィルムを2枚作製した。次に、作製したこの2枚の樹脂フィルムを、一方向に配列されたシート状の炭素繊維(T800S−12K−10E)の両面に積層し、ローラー温度100℃、ローラー圧力0.07MPaで樹脂を含浸させて、炭素繊維の単位面積重量が190g/m
2でマトリックス樹脂の重量分率が35.4%の一方向プリプレグを作製した。
【0095】
プリプレグ中の熱硬化性樹脂組成物の樹脂フロー、120℃でのゲルタイム、含浸率、さらには繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度、ボイド率を、作製した一方向プリプレグを用いて測定した。得られた結果を表1に示す。前記硬化法に従ってマトリックス樹脂がゲル化するまで樹脂流量を測定した結果、マトリックス樹脂のフローは5.8%、ゲルタイムは233分であった。また、120℃で180分間保存した直後に硬化度を測定した結果、硬化度は28%であった。
【0096】
実施例12
熱可塑性樹脂の粒子の種類を表1に示すように変更した以外は実施例11と同様の方法でプリプレグを作製した。
【0097】
プリプレグ中の熱硬化性樹脂組成物の樹脂フロー、120℃でのゲルタイム、含浸率、さらには繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度、ボイド率を、作製した一方向プリプレグを用いて測定した。得られた結果を表1に示す。
【0098】
実施例13〜16、18、比較例1〜2
実施例13および18のローラー温度を80℃とし、実施例14のローラー温度を120℃、ローラー圧力を0.1MPaとし、実施例15のローラー温度を60℃とし、実施例16のローラー温度を120℃、ローラー圧力を0.14MPaとし、比較例1のローラー温度を90℃とし、比較例2のローラー温度を140℃、ローラー圧力を0.14MPaとした以外は、実施例1と同様の方法でプリプレグを作製した。
【0099】
実施例17、28、29、比較例3および4
実施例17の樹脂フィルムの単位面積重量を46.8g/m
2、ローラー圧力を0.1MPaとし、実施例28では樹脂フィルムの単位面積重量を44.7g/m2、ローラー圧力を0.1MPaとし、実施例29では樹脂フィルムの単位面積重量を58.22g/m2、ローラー温度を100℃、ローラー圧力を0.1MPaとし、比較例3では樹脂フィルムの単位面積重量を40.7g/m
2、ローラー温度を120℃とし、比較例4の樹脂フィルムの単位面積重量を77.7g/m
2、ローラー温度を90℃、ローラー圧力を0.1MPaとした以外は、実施例1と同様の方法でプリプレグを作製した。
【0100】
実施例20
実施例1で作製した熱硬化性樹脂組成物をナイフコーターで離型紙に塗布して、127g/m
2の樹脂フィルムを1枚作製した。次に、作製したこの樹脂フィルムのシートを、T800H−6K−40B製の平織物の片面に積層し、ローラー温度120℃、ローラー圧力0.1MPaで樹脂を含浸させて、炭素繊維の単位面積重量が190g/m
2でマトリックス樹脂の重量分率が40%の一方向プリプレグを作製した。平織物を有するプリプレグ中のエポキシ樹脂組成物含有率は52%であった。繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度測定とボイド率を測定した結果、それぞれ290MPa、0.5%であった。
【0101】
実施例21
実施例1と同じ方法で一方向プリプレグを作製した。作製した一方向プリプレグを用いて繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度とボイド率を測定する際、実施例1〜20および比較例1〜4とは異なる以下の硬化法で繊維強化複合材料を作製した。測定方法については、前記(4)および(5)の測定方法で評価を行った。
【0102】
前記(4)および(5)に従って一方向プリプレグに多層組成物を積層し、25℃、真空度3kPaで脱気した後、1.5℃/分の速度で180℃の温度まで昇温し、真空度を3kPaに維持したまま120分間保持してプリプレグを硬化させて積層体を作製した。
【0103】
この硬化法のマトリックス樹脂のフローとゲルタイムを測定した結果、それぞれ7.5%、93分であった。繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度測定とボイド率を測定した結果、それぞれ253MPa、2.0%であった。
【0104】
実施例22
実施例1と同じ方法で一方向プリプレグを作製した。作製した一方向プリプレグを用いて繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度とボイド率を測定する際、実施例1〜20および比較例1〜4とは異なる以下の硬化法で繊維強化複合材料を作製した。評価においては、前記(4)および(5)の測定方法を用いた。
【0105】
前記(4)および(5)に従って一方向プリプレグに多層組成物を積層し、25℃、真空度3kPaで脱気した後、1.5℃/分の速度で120℃の温度まで昇温し、真空度を3kPaに維持したまま120分間保持し、その後1.5℃/分の速度で180℃の温度まで昇温して120分間保持してプリプレグを硬化させ、積層体を作製した。この硬化法のマトリックス樹脂のフローとゲルタイムを測定した結果、それぞれ6.1%、233分であった。また、120℃で120分間保存した直後に硬化度とプリプレグの厚さの変化を測定した結果、硬化度は17.3%、プリプレグの厚さの変化は10.2%であった。繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度測定とボイド率を測定した結果、それぞれ268MPa、1.7%であった。
【0106】
実施例23
実施例1と同じ方法で一方向プリプレグを作製した。作製した一方向プリプレグを用いて繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度とボイド率を測定する際、実施例1〜20および比較例1〜4とは異なる以下の硬化法で繊維強化複合材料を作製した。測定方法については、前記(4)および(5)の測定方法で評価を行った。
【0107】
前記(4)および(5)に従って一方向プリプレグに多層組成物を積層し、25℃、真空度3kPaで脱気した後、1.5℃/分の速度で90℃の温度まで昇温し、真空度を3kPaに維持したまま60分間保持し、その後1.5℃/分の速度で180℃の温度まで昇温して120分間保持してプリプレグを硬化させ、積層体を作製した。この硬化法のマトリックス樹脂のフローとゲルタイムを測定した結果、それぞれ7.7%、153分であった。また、90℃で60分間保存した直後に硬化度とプリプレグの厚さの変化を測定した結果、硬化度は0.6%、プリプレグの厚さの変化は2.3%であった。繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度測定とボイド率を測定した結果、それぞれ257MPa、1.0%であった。
【0108】
実施例24
実施例1と同じ方法で一方向プリプレグを作製した。作製した一方向プリプレグを用いて繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度とボイド率を測定する際、実施例1〜20および比較例1〜4とは異なる以下の硬化法で繊維強化複合材料を作製した。測定方法については、前記(4)および(5)の測定方法で評価を行った。
【0109】
前記(4)および(5)に従って一方向プリプレグに多層組成物を積層し、25℃、真空度3kPaで脱気した後、1.5℃/分の速度で120℃の温度まで昇温し、真空度を3kPaに維持したまま240分間保持し、その後1.5℃/分の速度で180℃の温度まで昇温して120分間保持してプリプレグを硬化させ、積層体を作製した。この硬化法のマトリックス樹脂のフローとゲルタイムを測定した結果、それぞれ5.5%、257分であった。また、120℃で240分間保存した直後に硬化度とプリプレグの厚さの変化を測定した結果、硬化度は36%、プリプレグの厚さの変化は1.6%であった。繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度測定とボイド率を測定した結果、それぞれ304MPa、0.1%であった。
【0110】
実施例25
実施例1と同じ方法で一方向プリプレグを作製した。作製した一方向プリプレグを用いて繊維強化複合材料の衝撃後の圧縮強度とボイド率を測定する際、実施例1〜20および比較例1〜4とは異なる以下の硬化法で繊維強化複合材料を作製した。測定方法については、前記(4)および(5)の測定方法で評価を行った。
【0111】
前記(4)および(5)に従って一方向プリプレグに多層組成物を積層し、25℃、真空度3kPaで脱気した後、1.5℃/分の速度で150℃の温度まで昇温し、真空度を3kPaに維持したまま30分間保持し、その後1.5℃/分の速度で180℃の温度まで昇温して120分間保持してプリプレグを硬化させ、積層体を作製した。この硬化法のマトリックス樹脂のフローとゲルタイムを測定した結果、それぞれ6.9%、110分であった。また、150℃で30分間保存した直後に硬化度とプリプレグの厚さの変化を測定した結果、硬化度は26%、プリプレグの厚さの変化は10.8%であった。繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度測定とボイド率を測定した結果、それぞれ290MPa、0.7%であった。
【0112】
実施例26
180℃到達直後に3kPaから常圧までの真空度で脱気を行った以外は、実施例21と同じ硬化法で繊維強化複合材料を作製した。また、温度が180℃に到達した直後に硬化度とプリプレグの厚さの変化を測定した結果、硬化度は23%、プリプレグの厚さの変化は9.4%であった。繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度測定とボイド率を測定した結果、それぞれ277MPa、1.1%であった。
【0113】
実施例27
120℃で120分間保存した直後に3kPaから常圧までの真空度で脱気を行った以外は、実施例22と同じ硬化法で繊維強化複合材料を作製した。繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度測定とボイド率を測定した結果、それぞれ299MPa、0.5%であった。
【0114】
実施例30
13重量部のPES5003Pを、混練機中の60重量部のアラルダイト(登録商標)MY9655および40重量部のTOREP PG−01に加えて溶解させ、熱可塑性樹脂粒子である微粒子(A)を20重量部混練し、次いで硬化剤としてAradur(登録商標)9664−1を45重量部混練して熱硬化性樹脂組成物を作製した。
【0115】
作製した熱硬化性樹脂組成物をナイフコーターで離型紙に塗布して、52g/m
2の樹脂フィルムを2枚作製した。次に、作製したこの2枚の樹脂フィルムを、一方向に配列されたシート状の炭素繊維(T800S−12K−10E)の両面に積層し、ローラー温度90℃、ローラー圧力0.07MPaで樹脂を含浸させて、炭素繊維の単位面積重量が190g/m
2でマトリックス樹脂の重量分率が35.4%の一方向プリプレグを作製した。
【0116】
前記(4)および(5)に記載の硬化法で作製した繊維強化複合材料について、120℃におけるプリプレグ中の熱硬化性樹脂組成物の樹脂フローおよびゲルタイム、プリプレグ中の熱硬化性樹脂組成物の割合、衝撃後圧縮強度ならびにボイド率を測定した。得られた結果を表1に示す。前記硬化法に従ってマトリックス樹脂がゲル化するまで樹脂流量を測定した結果、マトリックス樹脂のフローは6.8%、ゲルタイムは345分であった。
【0117】
【表1-1】
【0118】
【表1-2】
【0119】
【表1-3】