特許第5971410号(P5971410)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5971410
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】制御装置および電動機の駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/00 20160101AFI20160804BHJP
【FI】
   H02P29/00
【請求項の数】38
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-514826(P2015-514826)
(86)(22)【出願日】2014年4月24日
(86)【国際出願番号】JP2014061605
(87)【国際公開番号】WO2014178331
(87)【国際公開日】20141106
【審査請求日】2015年9月4日
(31)【優先権主張番号】特願2013-95442(P2013-95442)
(32)【優先日】2013年4月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111763
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 隆
(72)【発明者】
【氏名】武井 修
【審査官】 宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−032787(JP,A)
【文献】 特開平08−001566(JP,A)
【文献】 特開2012−137386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 1/00−31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機の稼働状況を示すパラメータであるトルクおよび回転速度の各々に関して予め定められた基準値を示す基準値データを前記電動機の駆動制御を行う駆動装置から通信線を介して取得する取得手段と、
稼働中の前記電動機において計測された前記各パラメータの値である物理量と基準値に対する当該物理量の割合のうちの一方を示す現在値データを前記通信線を介して前記駆動装置から取得し、当該現在値データと前記基準値データとから他方を算出する演算手段と、
を有することを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記パラメータには、温度、電流または電圧も含まれることを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記駆動装置から取得した現在値データと前記演算手段による演算結果の少なくとも一方に基づいて、表示装置への前記各パラメータの表示制御を行う表示制御手段をさらに有することを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記基準値には前記各パラメータについての最大許容値が含まれており、前記表示制御手段は、前記各パラメータの最大許容値を目盛の上限値に対応させたメータ形式で各パラメータの物理量を表示する画面を前記表示装置に表示させることを特徴とする請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記表示制御手段は、前記各パラメータのうちトルクと回転速度の少なくとも一方については、前記通信線を介して前記駆動装置に与えた指令値と対にして前記メータ形式で前記画面に表示させることを特徴とする請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記表示制御手段は、各パラメータの物理量と当該物理量の基準値に対する割合の少なくとも一方の数値を前記画面に表示させることを特徴とする請求項3に記載の制御装置。
【請求項7】
前記表示制御手段は、各パラメータの物理量と当該物理量の基準値に対する割合の少なくとも一方の数値を前記画面に表示させることを特徴とする請求項4に記載の制御装置。
【請求項8】
前記表示制御手段は、各パラメータの物理量と当該物理量の基準値に対する割合の少なくとも一方の数値を前記画面に表示させることを特徴とする請求項5に記載の制御装置。
【請求項9】
トルクを指定するトルクモードと回転速度を指定する回転速度モードの2つの動作モードを切り換えるモード切り換え手段を備え、
前記画面には、トルクと回転速度の各々の指令値を入力させる入力領域が設けられており、前記表示制御手段は、トルクモードにおいては回転速度に関する入力領域に前記通信線を介して前記駆動装置から取得した回転速度の現在値を表示し、回転速度モードにおいてはトルクに関する入力領域に前記通信線を介して前記駆動装置から取得したトルクの現在値を表示する
ことを特徴とする請求項3に記載の制御装置。
【請求項10】
トルクを指定するトルクモードと回転速度を指定する回転速度モードの2つの動作モードを切り換えるモード切り換え手段を備え、
前記画面には、トルクと回転速度の各々の指令値を入力させる入力領域が設けられており、前記表示制御手段は、トルクモードにおいては回転速度に関する入力領域に前記通信線を介して前記駆動装置から取得した回転速度の現在値を表示し、回転速度モードにおいてはトルクに関する入力領域に前記通信線を介して前記駆動装置から取得したトルクの現在値を表示する
ことを特徴とする請求項4に記載の制御装置。
【請求項11】
トルクを指定するトルクモードと回転速度を指定する回転速度モードの2つの動作モードを切り換えるモード切り換え手段を備え、
前記画面には、トルクと回転速度の各々の指令値を入力させる入力領域が設けられており、前記表示制御手段は、トルクモードにおいては回転速度に関する入力領域に前記通信線を介して前記駆動装置から取得した回転速度の現在値を表示し、回転速度モードにおいてはトルクに関する入力領域に前記通信線を介して前記駆動装置から取得したトルクの現在値を表示する
ことを特徴とする請求項5に記載の制御装置。
【請求項12】
トルクを指定するトルクモードと回転速度を指定する回転速度モードの2つの動作モードを切り換えるモード切り換え手段を備え、
前記画面には、トルクと回転速度の各々の指令値を入力させる入力領域が設けられており、前記表示制御手段は、トルクモードにおいては回転速度に関する入力領域に前記通信線を介して前記駆動装置から取得した回転速度の現在値を表示し、回転速度モードにおいてはトルクに関する入力領域に前記通信線を介して前記駆動装置から取得したトルクの現在値を表示する
ことを特徴とする請求項6に記載の制御装置。
【請求項13】
トルクを指定するトルクモードと回転速度を指定する回転速度モードの2つの動作モードを切り換えるモード切り換え手段を備え、
前記画面には、トルクと回転速度の各々の指令値を入力させる入力領域が設けられており、前記表示制御手段は、トルクモードにおいては回転速度に関する入力領域に前記通信線を介して前記駆動装置から取得した回転速度の現在値を表示し、回転速度モードにおいてはトルクに関する入力領域に前記通信線を介して前記駆動装置から取得したトルクの現在値を表示する
ことを特徴とする請求項7に記載の制御装置。
【請求項14】
トルクを指定するトルクモードと回転速度を指定する回転速度モードの2つの動作モードを切り換えるモード切り換え手段を備え、
前記画面には、トルクと回転速度の各々の指令値を入力させる入力領域が設けられており、前記表示制御手段は、トルクモードにおいては回転速度に関する入力領域に前記通信線を介して前記駆動装置から取得した回転速度の現在値を表示し、回転速度モードにおいてはトルクに関する入力領域に前記通信線を介して前記駆動装置から取得したトルクの現在値を表示する
ことを特徴とする請求項8に記載の制御装置。
【請求項15】
トルクまたは回転速度の指令値の入力される入力領域は、物理量を入力させる第1の入力領域と当該指令値を基準値に対する割合として入力させる第2の入力領域とを含み、
前記表示制御手段は、前記第1の入力領域と前記第2の入力領域に一方に対する入力内容に応じて他方の表示内容を更新する
ことを特徴とする請求項9に記載の制御装置。
【請求項16】
トルクまたは回転速度の指令値の入力される入力領域は、物理量を入力させる第1の入力領域と当該指令値を基準値に対する割合として入力させる第2の入力領域とを含み、
前記表示制御手段は、前記第1の入力領域と前記第2の入力領域に一方に対する入力内容に応じて他方の表示内容を更新する
ことを特徴とする請求項10に記載の制御装置。
【請求項17】
トルクまたは回転速度の指令値の入力される入力領域は、物理量を入力させる第1の入力領域と当該指令値を基準値に対する割合として入力させる第2の入力領域とを含み、
前記表示制御手段は、前記第1の入力領域と前記第2の入力領域に一方に対する入力内容に応じて他方の表示内容を更新する
ことを特徴とする請求項11に記載の制御装置。
【請求項18】
トルクまたは回転速度の指令値の入力される入力領域は、物理量を入力させる第1の入力領域と当該指令値を基準値に対する割合として入力させる第2の入力領域とを含み、
前記表示制御手段は、前記第1の入力領域と前記第2の入力領域に一方に対する入力内容に応じて他方の表示内容を更新する
ことを特徴とする請求項12に記載の制御装置。
【請求項19】
トルクまたは回転速度の指令値の入力される入力領域は、物理量を入力させる第1の入力領域と当該指令値を基準値に対する割合として入力させる第2の入力領域とを含み、
前記表示制御手段は、前記第1の入力領域と前記第2の入力領域に一方に対する入力内容に応じて他方の表示内容を更新する
ことを特徴とする請求項13に記載の制御装置。
【請求項20】
トルクまたは回転速度の指令値の入力される入力領域は、物理量を入力させる第1の入力領域と当該指令値を基準値に対する割合として入力させる第2の入力領域とを含み、
前記表示制御手段は、前記第1の入力領域と前記第2の入力領域に一方に対する入力内容に応じて他方の表示内容を更新する
ことを特徴とする請求項14に記載の制御装置。
【請求項21】
トルクまたは回転速度の指令値を予め定められた値ずつ増減させる操作子を備えることを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項22】
トルクまたは回転速度の指令値を予め定められた値ずつ増減させる操作子を備えることを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項23】
前記演算手段は前記駆動装置に与える指令値に当該指令値がトルクまたは回転速度の何れに関する指令値であるのかを示すとともに、当該指令値が物理量であるのか基準値に対する割合の何れであるのかを示す識別子を付与して前記駆動装置に与えることを特徴とする請求項9に記載の制御装置。
【請求項24】
前記演算手段は前記駆動装置に与える指令値に当該指令値がトルクまたは回転速度の何れに関する指令値であるのかを示すとともに、当該指令値が物理量であるのか基準値に対する割合の何れであるのかを示す識別子を付与して前記駆動装置に与えることを特徴とする請求項10に記載の制御装置。
【請求項25】
前記演算手段は前記駆動装置に与える指令値に当該指令値がトルクまたは回転速度の何れに関する指令値であるのかを示すとともに、当該指令値が物理量であるのか基準値に対する割合の何れであるのかを示す識別子を付与して前記駆動装置に与えることを特徴とする請求項11に記載の制御装置。
【請求項26】
前記演算手段は前記駆動装置に与える指令値に当該指令値がトルクまたは回転速度の何れに関する指令値であるのかを示すとともに、当該指令値が物理量であるのか基準値に対する割合の何れであるのかを示す識別子を付与して前記駆動装置に与えることを特徴とする請求項12に記載の制御装置。
【請求項27】
前記演算手段は前記駆動装置に与える指令値に当該指令値がトルクまたは回転速度の何れに関する指令値であるのかを示すとともに、当該指令値が物理量であるのか基準値に対する割合の何れであるのかを示す識別子を付与して前記駆動装置に与えることを特徴とする請求項13に記載の制御装置。
【請求項28】
前記演算手段は前記駆動装置に与える指令値に当該指令値がトルクまたは回転速度の何れに関する指令値であるのかを示すとともに、当該指令値が物理量であるのか基準値に対する割合の何れであるのかを示す識別子を付与して前記駆動装置に与えることを特徴とする請求項14に記載の制御装置。
【請求項29】
前記演算手段は前記駆動装置に与える指令値に当該指令値がトルクまたは回転速度の何れに関する指令値であるのかを示すとともに、当該指令値が物理量であるのか基準値に対する割合の何れであるのかを示す識別子を付与して前記駆動装置に与えることを特徴とする請求項15に記載の制御装置。
【請求項30】
前記演算手段は前記駆動装置に与える指令値に当該指令値がトルクまたは回転速度の何れに関する指令値であるのかを示すとともに、当該指令値が物理量であるのか基準値に対する割合の何れであるのかを示す識別子を付与して前記駆動装置に与えることを特徴とする請求項16に記載の制御装置。
【請求項31】
前記演算手段は前記駆動装置に与える指令値に当該指令値がトルクまたは回転速度の何れに関する指令値であるのかを示すとともに、当該指令値が物理量であるのか基準値に対する割合の何れであるのかを示す識別子を付与して前記駆動装置に与えることを特徴とする請求項17に記載の制御装置。
【請求項32】
前記演算手段は前記駆動装置に与える指令値に当該指令値がトルクまたは回転速度の何れに関する指令値であるのかを示すとともに、当該指令値が物理量であるのか基準値に対する割合の何れであるのかを示す識別子を付与して前記駆動装置に与えることを特徴とする請求項18に記載の制御装置。
【請求項33】
前記演算手段は前記駆動装置に与える指令値に当該指令値がトルクまたは回転速度の何れに関する指令値であるのかを示すとともに、当該指令値が物理量であるのか基準値に対する割合の何れであるのかを示す識別子を付与して前記駆動装置に与えることを特徴とする請求項19に記載の制御装置。
【請求項34】
前記演算手段は前記駆動装置に与える指令値に当該指令値がトルクまたは回転速度の何れに関する指令値であるのかを示すとともに、当該指令値が物理量であるのか基準値に対する割合の何れであるのかを示す識別子を付与して前記駆動装置に与えることを特徴とする請求項20に記載の制御装置。
【請求項35】
前記演算手段は前記駆動装置に与える指令値に当該指令値がトルクまたは回転速度の何れに関する指令値であるのかを示すとともに、当該指令値が物理量であるのか基準値に対する割合の何れであるのかを示す識別子を付与して前記駆動装置に与えることを特徴とする請求項21に記載の制御装置。
【請求項36】
前記演算手段は前記駆動装置に与える指令値に当該指令値がトルクまたは回転速度の何れに関する指令値であるのかを示すとともに、当該指令値が物理量であるのか基準値に対する割合の何れであるのかを示す識別子を付与して前記駆動装置に与えることを特徴とする請求項22に記載の制御装置。
【請求項37】
電動機の駆動制御を行う駆動制御部と、
前記駆動制御部の作動制御を行うカスタマイズ部と、を備え、
前記カスタマイズ部は、
前記駆動制御部により駆動制御されている電動機に関して計測されるパラメータであるトルク、回転速度、温度、電流または電圧の各々について予め定められた基準値を示す基準値データを通信線を介して制御装置に与える第1の処理と、
前記通信線を介して前記制御装置から与えられたトルクまたは回転速度に関する指令値に応じて前記駆動制御部の作動制御を行う第2の処理であって、当該指令値として物理量を与えられた場合には、当該指令値を基準値に対する割合を示す値に換算しその換算結果に応じて前記駆動制御部の作動制御を行う第2の処理と、を実行する
ことを特徴とする駆動装置。
【請求項38】
前記カスタマイズ部は、トルクまたは回転速度の何れに関する指令値であるのかを示すとともに当該指令値が物理量であるのかそれとも基準値に対する割合であるのかを示す識別子の付与された指令値を前記通信線を介して前記制御装置から受け取り、前記第2の処理においては、当該識別子を参照して当該指令値が前記割合を示す値であるか否かを判別することを特徴とする請求項37に記載の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動機に供給する電力を制御することで当該電動機の駆動制御を行う駆動装置の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車が急速に普及しつつある。電気自動車には動力源として三相交流電動機などの電動機が搭載されているとともに、電動機の駆動制御を行うインバータなどの駆動装置と、駆動装置と通信しその制御を行う制御装置が搭載されている(例えば、特許文献1参照)。制御装置には駆動装置へ与えるトルク指令等の各種指令値(例えば、x[Nm]など出力トルクの物理量を示す値)を運転者の操作に応じて調整する処理を実行させる一方、駆動装置には電動機に与える交流電力をその指令値に応じて調整する処理を実行させる。これにより、電気自動車の走行制御が実現される。また、制御装置は、上記信号線を介して駆動装置のメモリに格納されている各種データ(例えば、出力トルクや回転速度(単位時間当たりの回転数)などの現在値を表すデータ)を取得し、それらデータに基づいて各種メータ類の表示制御を行う処理も実行する。これにより、車両の状態を運転者に把握させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−038912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、駆動装置と制御装置との間では信号線を介して各種データの送受信が行われる。また、駆動装置の保守点検の際には、パーソナルコンピュータなどの試験装置を上記制御装置として駆動装置に接続し、駆動装置のメモリに格納されているデータの参照或いは当該データを更新したときの電動機の振る舞いの観察などの各種試験が行われる。
【0005】
駆動装置の保守点検の際には、電動機の出力トルクや回転速度が定格値の何%に相当するのか(以下、負荷率)を把握することが重要となることが多い。しかし、駆動装置と制御装置との間で送受信されるデータとして各パラメータの物理量を表すデータが採用されることが多く、負荷率を駆動装置から直接得ることはできなかった。このため、従来は、駆動装置による駆動制御の対象となる複数種の電動機の各々の定格値を制御装置に予め記憶させておき、保守点検を行う毎に適切な定格値を試験担当者に選択させ、その定格値に基づいて負荷率を制御装置に算出させるといった方策が採用されることが多かった。しかし、このような態様では、制御装置における定格値の管理に余分な手間がかかり、また定格値の誤選択を回避しきれない、といった問題があった。
【0006】
本発明は以上に説明した課題に鑑みて為されたものであり、駆動装置により駆動される電動機の定格値の管理に余計な手間を要せず、かつ定格値の誤選択を確実に回避しつつ、負荷率を容易に把握できるようにする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、電動機の駆動制御を行う駆動装置の制御を行う制御装置として、以下の取得手段、および演算手段を有する制御装置を提供する。取得手段は、電動機の稼働状況を示すパラメータである電動機の出力トルク(以下、単に「トルク」と呼ぶ)、回転速度、電動機の温度(或いは駆動装置の温度)、駆動装置から電動機へ供給される電流または電圧の各々に関して予め定められた基準値を駆動装置から通信線を介して取得する。演算手段は、稼働中の電動機において計測された各パラメータの値である物理量または当該物理量の基準値に対する割合(例えば、%量)を示すデータを駆動装置から取得し、他方を算出する。
【0008】
上記制御装置の具体例としては、駆動装置の保守点検を行う際に使用される試験装置や、車載コントローラ(VCU)が挙げられる。より好ましい態様においては、駆動装置から取得した現在値データと演算手段による演算結果の少なくとも一方に基づいて、表示装置への各パラメータの表示制御を行う表示制御手段を設ける態様が考えられる。例えば、試験装置に本発明を適用すれば、各パラメータについて物理量と%量の何れか(或いは両者)を表示装置に表示させることができる。%量の表示を可能とすることで稼働中の電動機の負荷率を迅速かつ直観的に試験担当者に把握させることが可能になる。なお、上記基準値の具体例としては、トルク、回転速度、電流および電圧については上記電動機の定格値或いは上下限などの許容範囲を示す値(例えば、許容範囲の上限を示す最大許容値)を用いることが考えられ、温度については最大許容値を用いることが考えられる。また、本発明の制御装置によれば、駆動装置から定格値等を示す基準値データを取得するため、定格値等の基準値の管理に余計な手間がかかることはなく、また基準値の誤選択が確実に回避される。
【0009】
より好ましい態様としては、上記基準値として最大許容値を採用する場合には、表示制御手段には、各パラメータをメータ形式で表示する画面を表示装置に表示させるとともに、最大許容値に応じて当該メータの目盛を定めさせるようにしても良い。このような態様によれば、試験担当者は、当該表示装置の表示内容から上記電動機の稼働状況にどの程度の余裕があるのかを迅速かつ直観的に把握することが可能になる。さらに、トルクと回転速度の少なくとも一方については、通信線を介して駆動装置に与えた指令値と対にして当該パラメータの現在値を画面表示させるようにしても良い。このような態様によれば、トルクや回転速度について指令値と現在値とがメータ形式で表示され、両者の対比を直観的に行うことが可能になる。また、メータ形式に加えて、各パラメータの現在値を物理量および%量の数値で上記画面に表示させるようにしても勿論良い。
【0010】
より好ましい態様においては、トルクを指定するトルクモードの回転速度を指定する回転速度モードの2つの動作モードを切り換えるモード切り換え手段を上記制御装置に設けておき、上記画面には、トルクと回転速度の各々の指令値を入力させる入力領域を設けておく。そして、表示制御手段は、トルクモードにおいては回転速度に関する入力領域に通信線を介して駆動装置から取得した回転速度の現在値を表示させ、回転速度モードにおいては通信線を介して駆動装置から取得したトルクの現在値をトルクに関する入力領域に表示させる。このような態様によれば、動作モードの切り替えに伴って、現在値とは不連続な値の指令値が駆動装置に与えられることを回避することができる。
【0011】
さらに好ましい態様においては、トルクまたは回転速度の指令値の入力される入力領域として、物理量を入力させる第1の入力領域と当該指令値として%量を入力させる第2の入力領域とを設ける。そして、表示制御手段には、第1の入力領域と第2の入力領域に一方に対する入力内容に応じて他方の表示内容を更新する処理を実行させる。このような態様によればトルクまたは回転速度の指令値を物理量で入力することに加えて、%量で入力することが可能になる。
【0012】
また、別の好ましい態様においては、演算手段には、駆動装置に与える指令値に当該指令値がトルクまたは回転速度の何れに関するものであるのかを示すとともに当該指令値が物理量と%量の何れであるのかを示す識別子を付与して当該駆動装置に与える処理を実行させるようにしても良い。指令値を%量で受け取れる駆動装置であれば、定格値や最大許容値等を外部に対して隠蔽することができ、その駆動装置の制御プログラム等を不正解析するための手がかりを与えないようにすることが可能になる。
【0013】
また、別の好ましい態様においては、トルクまたは回転速度の指令値を予め定められた値(例えば、指令値を%量で与える場合には、+0.1%や−0.1%など)ずつ増減させる操作子を備えることを特徴とする。このような態様によれば、指令値の微調整を行うことが可能になる。
【0014】
また、上記課題を解決するために本発明は、電動機の駆動制御を行う駆動装置として、電動機の駆動制御を行う駆動制御部と、以下の第1および第2の処理を実行するカスタマイズ部とを有する駆動装置を提供する。なお、駆動制御部は当該駆動装置に接続される電動機の機種等に応じて適宜カスタマイズされるコア部である。第1の処理とは、駆動制御部により駆動制御されている電動機に関して計測されるパラメータであるトルク、回転速度、温度、電流または電圧の各々について予め定められた基準値を示す基準値データを通信線を介して制御装置に与える処理である。そして、第2の処理とは、通信線を介して制御装置から与えられたトルクまたは回転速度に関する指令値に応じて駆動制御部の作動制御を行う処理であって、当該指令値として物理量を与えられた場合には、当該指令値を基準値に対する割合を示す値に換算しその換算結果に応じて駆動制御部の作動制御を行う処理である。例えば、トルクまたは回転速度の何れに関する指令値であるのかを示すとともに当該指令値が物理量であるのかそれとも基準値に対する割合であるのかを示す識別子の付与された指令値を通信線を介して制御装置から与えられる場合には、第2の処理においては、当該識別子を参照して当該指令値が上記割合を示す値であるか否かを判別する処理をカスタマイズ部に実行させるようにすれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の制御装置の一実施形態の試験装置10を含む試験システム1の構成例を示す図である。
図2】同試験装置10の構成例を示す図である。
図3】同試験装置10のユーザI/F部120の表示部に表示される画面の一例を示す図である。
図4】同試験装置10から駆動装置20に送信される通信メッセージのフォーマット例を示す図である。
図5】同駆動装置20の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の制御装置の一実施形態の試験装置10を含む試験システム1の構成例を示す図である。この試験システム1は、電動機30とともに電気自動車に搭載される駆動装置20の保守点検を行うためのものである。図1に示すように、試験システム1は、保守点検の対象となる駆動装置20と、駆動装置20により駆動制御される電動機30と、保守点検の実行過程において駆動装置20の制御を行う制御装置の役割を果たす試験装置10とを含んでいる。
【0017】
駆動装置20は、車載電池などの直流電源から供給される直流電力を交流電力PWに変換して電動機30に与えるインバータである。駆動装置20は、制御装置(実運用の際にはVCU、本実施形態では、試験装置10)から与えられる各種指令に応じて電動機30に与える交流電力PWを制御する処理を予めインストールされた制御プログラムにしたがって実行する制御部(図示略)と、この制御プログラムを実行する際のワークエリアとして使用されるメモリとを含んでいる。
【0018】
駆動装置20のメモリには、電動機30の出力トルク、回転速度、駆動装置20から電動機30に供給される電流や電圧、電動機30の温度などの電動機30の稼働状態を示すパラメータの計測値(物理量)と駆動装置20の温度の計測値を表すデータ(以下、現在値データ)が格納される。また、当該メモリには、駆動装置20に接続され得る複数種の電動機の各々を示す電動機識別子に対応付けて、その電動機識別子の示す電動機についての上記各パラメータに関する予め定められた基準値を表す基準値データが格納されている。当該基準値の具体例としては、電動機の出力トルク、回転速度、電動機に供給される電流や電圧については、定格値や上下限などの許容範囲(本実施形態では、許容範囲の上限を示す最大許容値)を示す値が挙げられる。また、電動機の温度および駆動装置20の温度については最大許容値が挙げられる。本実施形態では、上記基準値として何れも最大許容値が採用されている。そして、駆動装置20は、試験装置10から通信線を介して与えられた電動機識別子に対応付けて上記メモリに記憶されている基準値データを上記メモリから読み出して返信するとともに、当該現在値データの表す物理量を各々の基準値に対する割合を示す%量(すなわち、当該物理量を基準値で除算し、さらに100を乗算して得られる値)に換算して試験装置10に返信し、この点に本実施形態の特徴の一つがある。
【0019】
試験装置10は、例えばパーソナルコンピュータであり、ツイストペアケーブルなどの信号線を介して駆動装置20に接続されている。本実施形態では、当該信号線を介して試験装置10から駆動装置20に各種指令Mを与えて電動機30の動作の変化を観察したり、駆動装置20から返信されてくるデータDを確認することで駆動装置20の保守点検が進められる。
【0020】
図2は、試験装置10の構成例を示す図である。図2に示すように試験装置10は、制御部110、ユーザインタフェース(以下、「I/F」と略記する)部120、通信I/F部130、記憶部140、およびこれら構成要素間のデータ授受を仲介するバス150を有している。
【0021】
制御部110は、例えばCPU(Central Processing Unit)である。制御部110は記憶部140(より正確には不揮発性記憶部144)に記憶されている試験プログラム1442を実行することで試験装置10の制御中枢として機能する。
【0022】
ユーザI/F部120は、表示部と操作部とを含んでいる(図2では何れも図示略)。表示部は液晶ディスプレイとその駆動回路により構成されている。表示部には、駆動装置20の保守点検を行うための各種画面が制御部110による制御の下で表示される。操作部はマウスなどのポインティングデバイスやキーボードにより構成されている。操作部は、駆動装置20の保守点検を行うための各種入力操作を試験担当者に行わせるためのものであり、ポインティングデバイス等に対して為された操作の内容に応じたデータを制御部110に与える。これにより、上記試験担当者の操作内容が制御部110に伝達される。
【0023】
通信I/F部130は、例えばNIC(Network Interface Card)であり、ツイストペアケーブルなどの信号線を介して駆動装置20に接続されている。通信I/F部130は、上記信号線を介して駆動装置20から受信したデータを制御部110に与える一方、制御部110から与えられたデータを上記信号線を介して駆動装置20に送信する。
【0024】
記憶部140は、揮発性記憶部142と不揮発性記憶部144を含んでいる。揮発性記憶部142は、例えばRAM(Random Access Memory)により構成されている。揮発性記憶部142は、試験プログラム1442を実行する際のワークエリアとして制御部110によって利用される。不揮発性記憶部144は、例えばハードディスクやフラッシュメモリにより構成されている。不揮発性記憶部144には、試験プログラム1442が予め格納されている。なお、不揮発性記憶部144には、試験プログラム1442の他にOS(Operating System)を実現するOSソフトウェアも記憶されているが、本発明との関連が薄いため、図示を省略した。
【0025】
制御部110は、試験装置10の電源(図示略)の投入を契機としてOSソフトウェアを不揮発性記憶部144から揮発性記憶部142に読み出し、その実行を開始する。この状態において、制御部110は、ユーザI/F部120の操作部を介して試験プログラム1442の実行指示を与えられると、試験プログラム1442を不揮発性記憶部144から揮発性記憶部142に読み出し、その実行を開始する。試験プログラム1442にしたがって作動している制御部110は、図2に示すように、取得手段1442a、演算手段1442bおよび表示制御手段1442cとして機能する。これら各手段の役割は以下の通りである。
【0026】
取得手段1442aは、通信I/F部130および信号線を介して駆動装置20と通信し、駆動装置20から基準値データを取得する。例えば、取得手段1442aは、駆動装置20により駆動される電動機30についての電動機識別子の入力を促す画面をユーザI/F部120の表示部に表示させ、ユーザI/F部120の操作部に対して為された操作により入力された電動機識別子を通信I/F部130および信号線を介して駆動装置20に与える。そして、取得手段1442aは、駆動装置20から返信されてくる基準値データを通信I/F部130を介して受信し、揮発性記憶部142の所定の記憶領域へ書き込む。これにより基準値データの取得が実現される。
【0027】
演算手段1442bは、通信I/F部130および信号線を介して駆動装置20と通信し、現在値データを取得する。そして、演算手段1442bは、上記要領で取得した現在値データに上記基準値データの示す基準値を乗算し、さらに100で除算する処理をパラメータ毎に実行し、各パラメータの物理量を復元する。表示制御手段1442cは、取得手段1442aにより取得した現在値データ(すなわち、各パラメータの%量)と演算手段1442bによる演算結果(すなわち、各パラメータの物理量)の少なくとも一方に基づいて、ユーザI/F部120の表示部への各パラメータの表示制御を行う。図3は、上記各パラメータの表示にために表示制御手段1442cがユーザI/F部120の表示部に表示させる画面の一例を示す図である。当該画面における各パラメータの表示態様にも本実施形態の特徴が顕著に表れている。
【0028】
より詳細に説明すると、表示制御手段1442cは、図3に示すように、電動機30の稼働状況を示す各パラメータ(電動機30の出力トルク、回転速度、駆動装置20から電動機30に供給される電流、電動機30に印加される電圧、電動機30の温度、および駆動装置20の温度)の物理量をアナログメータ形式で表示する。例えば、図3に示す画面においては、電動機30の出力トルクはアナログメータM01によって、同回転速度はアナログメータM02によって、電動機30に供給される電流の電流値はアナログメータM03によって、電動機30に印加される電圧はアナログメータM04によって、電動機30の温度はアナログメータM05によって、駆動装置20の温度はアナログメータM06によって各々表示される。
【0029】
表示制御手段1442cは、アナログメータM01〜M06の各々目盛を各パラメータの最大許容値に応じて設定する。具体的には、表示制御手段1442cは、各メータの目盛の上限値を最大許容値に対応させ、演算手段1442bにより復元された物理量を最大許容値で除算して得られる値に応じて針の描画位置を定める。本実施形態によれば、各物理量を数値で表示する態様に比較して、最大許容値に対してどの程度の大きさであるのかをアナログメータにおける針の位置から迅速かつ直観的に試験担当者に把握させることができる。なお、本実施形態では、電動機30の出力トルク、回転速度、電動機30に流れる電流、電動機30に印加される電圧、電動機30の温度、および駆動装置20の温度の全てをアナログメータ形式で表示したが、これらのうちの任意の1つまたは複数をアナログメータ形式で表示する態様であっても良く、また、これらパラメータの全てについてアナログメータ形式の表示を行わない態様であっても勿論良い。
【0030】
表示制御手段1442cは、上記各パラメータのうちトルクと回転速度の少なくとも一方については、通信線を介して駆動装置20に与えた指令値と対にして上記アナログメータ形式で上記画面に表示させる。例えば、図3に示す例では、トルクの指令値がアナログメータM07により表示され、回転速度の指令値がアナログメータM08により表示される。このような態様によれば、指令値と現在値の差異を各アナログメータの針の位置の相違に基づいて迅速かつ直観的に試験担当者に把握させることが可能になる。なお、本実施形態では、トルクと回転速度の両者について現在値と指令値とを対にしてメータ形式で表示したが、何れか一方についてのみ現在値と指令値とを対にしてメータ形式で表示しても良い。
【0031】
また、表示制御手段1442cは、上記アナログメータ形式による表示に加えて、各パラメータの物理量と%量の少なくとも一方を数値で表示させる。例えば、表示領域D01にはトルクの物理量が、表示領域D02には同トルクの%量が、表示領域D03には回転速度の物理量が表示領域D04には同回転速度の%量が、表示領域D05には上記電流の物理量が、表示領域D06には上記電圧の物理量が、表示領域D07には電動機30の温度の物理量が、表示領域D08には駆動装置20の温度の物理量が各々表示される。このため、本実施形態では、表示領域D01〜D08の各々の表示内容から各パラメータの正確な現在値を試験担当者に把握させることも可能である。なお、図3において表示領域D01〜D08の各々に表示されている数値は各領域に表示可能な値の最大値(負の値の表示が可能であれば最小値)を表している。
【0032】
以上説明したように図3に示す画面では各パラメータの表示態様に各種の工夫が凝らされているが、さらに、試験操作の利便性を向上させるための工夫も凝らされおり、この点にも本実施形態の特徴が表れている。本実施形態の試験装置10は、トルクを指定して駆動装置20に電動機30の駆動制御を行わせる動作モードであるトルクモードと、回転速度を指定して同電動機の駆動制御を行わせる回転速度モードの2つの動作モードを有しており、図3の仮想操作子B01およびB02は上記動作モードの切り換えを試験担当者に指示させるための仮想操作子である。試験担当者は、試験装置10がトルクモードで動作している場合には、ユーザI/F部120の操作部に含まれるマウス等を用いて仮想操作子B01をクリックすることで回転速度モードへの切り換えを指示することができ、試験装置10が回転速度モードで動作している場合には、仮想操作子B02をクリック等することでトルクモードへの切り換えを指示することができる。つまり、ユーザI/F部120の操作部と上記仮想操作子B01およびB02を表示する表示部は、動作モードを切り換えるための切り換え手段の役割を果たす。
【0033】
図3に示す画面においては、仮想操作子B01と並べて入力領域I01およびI02が設けられているとともに、仮想操作子B02と並べて入力領域I03およびI04が設けられている。入力領域I01は回転速度モードにおいて回転速度の指令値を物理量として試験担当者に入力させるための入力領域であり、入力領域I02は同指令値を%量として試験担当者に入力させるための入力領域である。入力領域I03はトルクモードにおいてトルクの指令値を物理量として試験担当者に入力させるための入力領域であり、入力領域I04は同指令値を%量として試験担当者に入力させるための入力領域である。図3では、回転速度モードにおいて動作している場合について例示されており、仮想操作子B02、入力領域I03およびI04が点線で描画されているのは、回転速度モードにおいて動作中であることを表している。
【0034】
回転速度モードにおいては、入力領域I01とI02の何れに対しても回転速度に関する指令値を入力するこが可能であり、入力領域I01とI02の一方へ指令値が入力されると、表示制御手段1442cは、当該一方に対する入力内容に応じて他方の表示内容を更新する。例えば、入力領域I01に対して指令値が入力された場合には、表示制御部1442cは当該指令値を%量に換算して入力領域I02に表示する。逆に入力領域I02に対して指令値が入力された場合には、表示制御部1442cは当該指令値を物理量に換算して入力領域I01に表示する。同様に、トルクモードにおいては、入力領域I03とI04の何れに対してもトルクに関する指令値を入力することが可能であり、入力領域I03とI04の一方へ指令値が入力されると、表示制御手段1442c、当該一方に対する入力内容に応じて他方の表示内容を更新する。
【0035】
回転速度モードにおいては、表示制御部1442cは、入力領域I03およびI04への入力を禁止するとともに、トルクの現在値の物理量および%量を入力領域I03およびI04の各々に表示する。同様に、トルクモードにおいては、表示制御部1442cは、入力領域I01およびI02への入力を禁止するとともに、回転速度の現在値の物理量および%量を入力領域I01およびI02の各々に表示する。ここで、各動作モードにおいて入力を禁止された入力領域に現在値を表示するようにしたのは、動作モードの切り替えに起因してそれまで入力を禁止されていた入力領域の表示内容がそのまま指令値として与えられたとしても、現在値と大きく乖離した指令値が与えられないようにするためである。なお、本実施形態では、回転速度およびトルクの指令値を物理量と%量の何れによっても入力できるようにしたが、物理量と%量の何れか一方のみで入力させるようにしても良い。例えば、物理量のみで入力させる場合には入力領域I02と入力領域I04を省略すれば良く、%量のみで入力させる場合には入力領域I01と入力領域I03を省略すれば良い。
【0036】
図3における仮想操作子B03〜B06は、各動作モードにおいて、トルクまたは回転速度の指令値を予め定められた値ずつ増減させることを試験担当者に指示させるための仮想操作子である。具体的には、仮想操作子B03は、指令値を+1.0%とすることを試験担当者に指示させるための仮想操作子であり、仮想操作子B04は、指令値を+0.1%とすることを試験担当者に指示させるための仮想操作子であり、仮想操作子B05は、指令値を−0.1%とすることを試験担当者に指示させるための仮想操作子であり、仮想操作子B06は、指令値を−1.0%とすることを試験担当者に指示させるための仮想操作子である。例えば、仮想操作子B03を連続してクリックすることによって、指令値をある値から1.0%ずつ増加させていた場合の電動機30の動作状態の変化を把握することができるといった具合である。なお、本実施形態では、トルクまたは回転速度の指令値を予め定められた値ずつ増減させることを試験担当者に指示させるための操作子を仮想操作子により実現したが、ユーザI/F部120の操作部に設けられている各操作子に仮想操作子B03〜B06の各々の役割を担わせても勿論良い。また、トルクまたは回転速度の指令値を予め定められた値ずつ増減させることを試験担当者に指示させるための操作子を設けることは必ずしも必須ではなく、省略しても勿論良い。
【0037】
図3に示す画面に対する操作によって入力された指令値を駆動装置20に与える際には、駆動装置20の仕様に応じて物理量または%量のうち予め定められた方を与えるようにしても良く、トルクまたは回転速度の何れに関する指令値であるのかを示すとともに当該指令値が物理量と%量の何れであるのかを示す識別子を付与して駆動装置20に与えるようにしても良い。例えば、駆動装置20と試験装置10との間で送受信される通信メッセージの通信フォーマットとして、図4(a)に示すMCM準拠の通信フォーマットが採用されている場合には、トルク指令値として%量の指令値を駆動装置20に与える場合には運転モード指令に”00”を、トルク指令値として物理量の指令値を駆動装置20に与える場合には運転モード指令に”01”を、回転速度指令値として物理量の指令値を駆動装置20に与える場合には運転モード指令に”10”を、回転速度指令値として%量の指令値を駆動装置20に与える場合には運転モード指令に”11”を各々セットする処理を演算手段1442bに実行させるようにすれば良い。この例では、2ビットの情報である運転モード指令が上記識別子の役割を果たす。
【0038】
ここで、注目すべき点は、運転モード指令が”01”の場合、および運転モード指令が”10”の場合の各々における指令値の意味内容は、既存のMCMの通信フォーマットにおけるものと何ら矛盾しないという点である。既存のMCMの通信フォーマットにおいては、運転モード指令について”00”および”11”は未定義の無効値であり、前者は停止を意味するものとして扱われる。このため、駆動装置20が既存のMCMの通信フォーマットにしか対応しておらず、かつ指令値として物理量しか受け付けないものであったとしても、誤動作等が発生することはない。このように、本実施形態によれば、既存の通信フォーマットとの互換性を確保しつつ、%量による指令値の受け渡しを行うことが可能になる。なお、駆動装置20と試験装置10との間で送受信される通信メッセージの通信フォーマットとして、図4(b)に示すubi基板の通信フォーマットが採用されている場合についても同様に運転モード指令に上記識別子の役割を担わせることが考えられる。
【0039】
図4(a)或いは図4(b)に示す通信フォーマットにしたがって試験装置10と通信する駆動装置20の構成例としては、図5に示す構成例が挙げられる。図5に示すように駆動装置20は、コア部210とカスタマイズ部220とを有している。なお、コア部210とカスタマイズ部220は、何れも駆動装置20の制御部を制御プログラムにしたがって作動させることにより実現されるソフトウェアモジュールである。これら各ソフトウェアモジュールの役割は以下の通りである。
【0040】
コア部210は、電動機30の駆動制御を行う駆動制御部であり、カスタマイズ部220から与えられる指令値(トルク指令或いは回転速度指令)PDに応じて電動機30に与える交流電力PWを制御する。本実施形態では、上記指令値PDとして%量を表す指令値がカスタマイズ部220から与えられる。このコア部210は、駆動制御対象の電動機30の仕様等に応じて適宜カスタマイズされる。
【0041】
カスタマイズ部220は、通信線を介して試験装置10と通信し、図5に示す第1の処理220aおよび第2の処理220bを実行する。第1の処理220aとは、コア部210により駆動制御されている電動機についての基準値データDDを通信線を介して試験装置10に返信する処理である。そして、第2の処理220bとは、図4(a)或いは図4(b)に示す通信フォーマットの指令値Mを通信線を介して試験装置10から受け取り、運転モード指令の値に応じてコア部210の作動制御を行う処理である。より詳細に説明すると、カスタマイズ部220は、運転モード指令の値に応じて上記指令値Mが物理量であるのか、それとも%量であるのかを判別し、物理量の指令値を受け取った場合には当該指令値Mを基準値データDDの示す基準値で除算し、さらに100で乗算して%量に換算し、その換算結果をコア部210に与え、%量としての指令値を受け取った場合には当該指令値をコア部210に与える。なお、試験装置10から常に物理量の指令値が駆動装置20に与えられる場合には、カスタマイズ部220には、当該指令値を%量に換算してコア部210に与える処理を上記第2の処理220bとして実行させれば良く、この場合は運転モード指令として従来のものをそのまま用いるようにすれば良い。また、図5では詳細な図示を省略したが、カスタマイズ部220は、上記第1および第2の処理の他に上記各パラメータの物理量を%量に換算し、その%量を表す現在値データDを通信線を介して試験装置10に送信する処理も実行する。
【0042】
以上説明したように、本実施形態によれば、駆動装置20により駆動される電動機30の定格値の管理に余計な手間を要せず、電動機30の稼働状況を試験担当者に迅速かつ直観的に把握させることが可能になるとともに、稼働制御のための指令値を%量と物理量の何れによっても与えることが可能になり、指令値の与え方の自由度が従来よりも向上し、利便性を向上させることが可能になる。また、本実施形態によれば、試験装置10は駆動装置20から基準値データを取得するため、基準値の誤選択を確実に回避することもできる。
【0043】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、上記実施形態を以下のように変形しても勿論良い。
(1)上記実施形態では、パラメータにトルク、回転速度、温度、電流および電圧が含まれていたが、パラメータにトルクと回転速度のみを含んだ態様をとってもよい。
【0044】
(2)上記実施形態では、各パラメータの物理量を各々の基準値に対する割合に換算し、当該割合を示す現在値データを試験装置10に返信する処理を駆動装置20に実行させる一方、試験装置10の演算手段1442bには、駆動装置20から取得した現在値データと基準値データとに基づいて各パラメータの物理量を復元させた。しかし、駆動装置20には各パラメータの物理量をそのまま返信する処理を実行させ、試験装置10の演算手段1442bには、駆動装置20から取得した現在値データと基準値データとから%量を算出処理を実行させるようにしても良い。このような態様によっても上記実施形態と同様の効果が得られるからである。
【0045】
(3)上記実施形態では、駆動装置20の保守点検を行うための試験装置への本発明の適用例を説明したが、駆動装置20の開発段階での試験を行うための試験装置に本発明を適用しても勿論良く、また、駆動装置20の実運用の際に駆動装置20と通信しその作動制御を行う制御装置に本発明を適用しても良い。例えば、電動機30および駆動装置20が電気自動車に搭載される場合には、その電気自動車の運転者の運転操作に応じて駆動装置20の作動制御を行うとともに、駆動装置20から取得した各種パラメータの現在値に応じてメータ類の表示制御を行う車載コントローラ(VCU)に本発明を適用しても良い。また、本発明の適用対象は、電気自動車用の駆動装置の制御を行う制御装置に限定されるものではなく、例えば昇降機を昇降させる電動機を駆動する駆動装置や、空調機の電動機を駆動する駆動装置の制御を行う制御装置に本発明を適用しても良い。
【0046】
(4)上記実施形態では、本発明の特徴を顕著に示す処理を制御部110に実行させる試験プログラム1442(換言すれば、制御部110を取得手段1442a、演算手段1442bおよび表示制御手段1442cとして機能させるプログラム)が試験装置10の不揮発性記憶部に予め格納されていた。しかし、当該プログラムをCD−ROM(Compact Disk-Read Only Memory)などのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に書き込んで配布しても良く、また、インターネットなどの電気通信回線経由のダウンロードにより配布しても良い。パーソナルコンピュータなどの一般的なコンピュータ装置の制御部をこのようにして配布されるプログラムにしたがって作動させることで、当該コンピュータ装置を上記実施形態の試験装置10として機能させることが可能になるからである。駆動装置20の制御プログラム(すなわち、駆動装置20の制御部をコア部(駆動制御部)210およびカスタマイズ部220として動作させるプログラム)についても同様にCD−ROMなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に書き込んで配布しても良く、また、インターネットなどの電気通信回線経由のダウンロードにより配布しても良い。
【符号の説明】
【0047】
1…試験システム、10…試験装置、110…制御部、120…ユーザI/F部、130…通信I/F部、140…記憶部、142…揮発性記憶部、144…不揮発性記憶部、1442…試験プログラム、1442a…取得手段、1442b…演算手段、1442c…表示制御手段、150…バス、20…駆動装置、210…コア部、220…カスタマイズ部、30…電動機。
図1
図2
図3
図4
図5