(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5971422
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】内燃機関の複リンク式ピストンクランク機構
(51)【国際特許分類】
F02B 75/32 20060101AFI20160804BHJP
F02B 75/04 20060101ALI20160804BHJP
F01M 1/08 20060101ALI20160804BHJP
F01M 1/06 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
F02B75/32 A
F02B75/04
F01M1/08 F
F01M1/08 B
F01M1/06 A
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-532786(P2015-532786)
(86)(22)【出願日】2014年7月30日
(86)【国際出願番号】JP2014070018
(87)【国際公開番号】WO2015025683
(87)【国際公開日】20150226
【審査請求日】2015年10月5日
(31)【優先権主張番号】特願2013-171808(P2013-171808)
(32)【優先日】2013年8月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】田辺 孝司
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠
(72)【発明者】
【氏名】茂木 克也
【審査官】
佐藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−185329(JP,A)
【文献】
特開2010−185328(JP,A)
【文献】
特開2010−203270(JP,A)
【文献】
特開2008−064056(JP,A)
【文献】
実開昭63−174541(JP,U)
【文献】
実開平04−105911(JP,U)
【文献】
実開平04−047113(JP,U)
【文献】
特開平08−200150(JP,A)
【文献】
特開平08−200152(JP,A)
【文献】
特開2001−200711(JP,A)
【文献】
実開昭61−157121(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 75/04、32
F01B 9/02
F02D 15/02
F01M 1/06、08
F16C 3/14
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトのクランクピンに回転可能に取り付けられたロアリンクと、 一端がピストンのピストンピンに回転可能に連結され、他端のピンボス部が第1連結ピンを介して上記ロアリンクに回転可能に連結されたアッパリンクと、
一端が機関本体側に支持され、他端のピンボス部が第2連結ピンを介して上記ロアリンクに回転可能に連結されたコントロールリンクと、を有する内燃機関の複リンク式ピストンクランク機構であって、
クランクピンの内部を径方向に延在し、一端がクランクピンの外周面の開口するクランクピン油路と
上記アッパリンクまたは上記コントロールリンクの少なくとも一方のピンボス部に形成され、一端が該ピンボス部の内周面に開口し、他端が該ピンボス部の外周面に開口するピンボス油路と、
上記ロアリンクに形成され、一端が上記ピンボス部の外周面に対向するピンボス対向面に開口し、他端がクランクピン軸受面に開口するロアリンク油路と、を有し、
所定クランク角のときに上記クランクピン油路と上記ロアリンク油路とが連通し、該ロアリンク油路の一端側開口から潤滑油が噴出する複リンク式ピストンクランク機構において、
上記ロアリンク油路の一端側開口は、上記所定クランク角のときに、クランクシャフト軸方向視で、上記ピンボス油路の他端側開口の端縁うち、当該ピンボス油路が形成されたピンボス部の進行方向側の端縁を指向するよう形成されている内燃機関の複リンク式ピストンクランク機構。
【請求項2】
上記ロアリンクは、上記クランクピンを挟んで固定される一対のロアリンク分割部材からなる半割構造部材であり、
上記ロアリンク油路は、上記ロアリンク分割部材の合わせ面に対して直交するよう形成された貫通穴である請求項1に記載の内燃機関の複リンク式ピストンクランク機構。
【請求項3】
上記ロアリンク油路は、最大燃焼荷重がピストンに作用した際のロアリンクへの入力荷重の入力位置からオフセットするよう設定されている請求項1または2に記載の内燃機関の複リンク式ピストンクランク機構。
【請求項4】
上記ロアリンク油路の一端側開口は、上記ピンボス対向面の長手方向に沿って細長い長穴形状に形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関の複リンク式ピストンクランク機構。
【請求項5】
上記ロアリンク油路の一端側開口は、上記所定クランク角のときに、クランクシャフト軸方向視で、上記アッパリンクのピンボス部に形成されたピンボス油路の他端側開口の端縁のうち、上記アッパリンクのピンボス部の進行方向側の端縁を指向するよう形成されている請求項1〜4のいずれかに記載の内燃機関の複リンク式ピストンクランク機構。
【請求項6】
上記ピンボス油路の他端側開口の端縁のうち上記ピンボス部の進行方向側の端縁は、上記他端側開口のアッパリンク一端側の端縁である請求項5に記載の内燃機関の複リンク式ピストンクランク機構。
【請求項7】
上記ピンボス部は、その基端側ほど相対的に薄肉となるように形成され、当該ピンボス部基端側ほど軸受け部分の面積が小さくなっている請求項1〜6のいずれかに記載の内燃機関の複リンク式ピストンクランク機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の複リンク式ピストンクランク機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンにピストンピンを介して一端が連結されたアッパリンクと、このアッパリンクの他端にアッパピンを介して連結され、かつクランクシャフトのクランクピンに連結されたロアリンクと、一端が機関本体側に揺動可能に支持され、かつ他端が上記ロアリンクにコントロールピンを介して連結されたコントロールリンクと、を備えてなる複リンク式ピストンクランク機構が従来から知られている。
【0003】
このようなロアリンクには、ピストンが受けた大きな燃焼圧力が、ピストンピン、アッパリンク、アッパピンを介してアッパピン軸受部から入力される。それと同時に、この荷重とつりあうように、クランクピン軸受部やコントロールピン軸受部にも荷重が発生する。従って、これらの軸受部の面圧は、一般的な単リンク式のレシプロエンジンに比べて厳しいものとなり、摩耗や焼き付きを防ぐために、十分な潤滑状態を維持することが求められる。
【0004】
例えば、特許文献1には、クランクシャフト内部に形成された油路と、クランクピンの内部に形成されたクランクピン油路と、ロアリンクに形成されたロアリンク油路と、アッパピンが回転可能に嵌合するアッパリンクのピンボス部に形成され、クランクシャフト軸方向視でロアリンク油路の延長線上に位置するピンボス油路と、を有し、所定クランク角のときに、クランクピン油路とロアリンク油路とが連通し、ロアリンク油路から噴出した潤滑油の一部がピンボス油路を介してアッパピン軸受部に供給されるように構成された複リンク式のピストンクランク機構が開示されている。
【0005】
しかしながら、ピンボス油路に対してロアリンク油路が適切な位置に設定されていないと、潤滑油の供給不足によりアッパピン軸受部の耐焼き付き性が低下することになる。例えば、内燃機関の運転領域が高回転領域のときには、慣性力によりロアリンク油路の開口の向きに潤滑油が飛び出しにくく、クランクシャフト軸方向視で、ロアリンク油路の延長線上にピンボス油路が位置するような構成では、必ずしも十分な潤滑油をピンボス油路に供給できない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−185329号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明の複リンク式ピストンクランク機構は、所定クランク角のときにクランクピン油路とロアリンク油路とが連通し、該ロアリンク油路の一端側開口から潤滑油が噴出するものであって、ロアリンク油路の一端側開口は、上記所定クランク角のときに、クランクシャフト軸方向視で、ピンボス油路の他端側開口の端縁うち、当該ピンボス油路が形成されたピンボス部の進行方向側の端縁を指向するよう形成されていることを特徴としている。
【0008】
これによって、ピンボス油路が形成されたピンボス部は、所定クランク角直後のタイミングでロアリンク油路の一端側開口から予め噴射された潤滑油の噴霧領域に移動することなる。
【0009】
本発明によれば、内燃機関が高回転領域であっても、ピンボス部がロアリンク油路の一端側開口から予め噴射された潤滑油の噴霧領域を通過する際に、噴霧領域内の潤滑油をピンボス油路等から取り込んで、ピンボス部の軸受け部分に供給することができる。そのため、ピンボス部の軸受け部分に供給される潤滑油を相対的に増加させることが可能となり、ピンボス部における耐焼き付き性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る内燃機関の複リンク式ピストンクランク機構を模式的に示した説明図。
【
図3】本発明に係る内燃機関の複リンク式ピストンクランク機構のクランクピン軸受面を展開して示した説明図。
【
図4】比較例における内燃機関の複リンク式ピストンクランク機構のクランクピン軸受面を展開して示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明が適用された内燃機関の複リンク式ピストンクランク機構1のクランクシャフト軸方向から見た概略構成を模式的に示した説明図である。
【0013】
この複リンク式ピストンクランク機構1は、後述する3つのリンク(ロアリンク2、アッパリンク3、コントロールリンク4)を主体とするものであり、本実施例ではピストン上死点位置を変更可能な可変圧縮比機構となっている。
【0014】
クランクシャフト5は、複数のジャーナル部6とクランクピン7とを備えており、シリンダブロック8の主軸受に、ジャーナル部6が回転可能に支持されている。クランクピン7は、ジャーナル部6から所定量偏心しており、ここにロアリンク2が回転可能に取り付けられている。
【0015】
ロアリンク2は、クランクピン7への組み付けのために上下の2部材に分割可能に構成されている。すなわち、ロアリンク2は、クランクピン7中心を通る分割面9に沿って上下に分割された一対のロアリンク分割部材10、11から大略構成されている。
【0016】
アッパリンク3は、一端側となる上端がピストンピン12によりピストン13に回転可能に取り付けられ、他端側となる下端のピンボス部14が第1連結ピン15によりロアリンク2の一端側ピンボス部16に回動可能に連結されている。ピストン13は、シリンダブロック8のシリンダ17内を往復動する。
【0017】
ロアリンク2の運動を制限するコントロールリンク4は、一端側となる下端が制御軸18を介して機関本体の一部となるシリンダブロック8の下部に回転可能に連結され、他端側となる上端のピンボス部19が第2連結ピン20によりロアリンク2の他端側ピンボス部21に回転可能に連結されている。制御軸18は、回転可能に機関本体に支持されているとともに、その回転中心から偏心している偏心カム部22を有している。偏心カム部22には、コントロールリンク4の一端側となる下端が回転可能に連結されている。制御軸18は、エンジンコントロールユニット(図示せず)からの制御信号に基づいて作動する圧縮比制御用のアクチュエータ(図示せず)によって回動位置が制御されている。
【0018】
このような複リンク式ピストンクランク機構1においては、制御軸18が、圧縮比制御用のアクチュエータによって回動されると、偏心カム部22の中心位置、特に、機関本体に対する相対位置が変化する。これにより、コントロールリンク4の下端の揺動支持位置が変化する。そして、コントロールリンク4の揺動支持位置が変化すると、ピストン13の行程が変化し、ピストン上死点(TDC)におけるピストン13の位置が高くなったり低くなったりする。これにより、機関圧縮比を変えることが可能となる。
【0019】
また、クランクピン7には、クランクピン油路31が形成されている。クランクピン油路31は、クランクシャフト軸方向視で、クランクピン中心を通り、クランクピン7内部を径方向に直線状に延在するものであり、本実施例では、その両端が、それぞれクランクピン7の外周面に開口している。このクランクピン油路31には、クランクシャフト5の軸方向に沿って延びる軸方向油路32を経由して、図示せぬオイルポンプにより加圧された潤滑油が供給されている。
【0020】
ロアリンク2の一端側ピンボス部16は、ロアリンク分割部材10に設けられ、アッパリンク3の他端側に位置するピンボス部14を挟み込むように二股状に形成され、ピンボス部14の一対の外側面と対向している。第1連結ピン15は、アッパリンク3のピンボス部14を回転可能に貫通し、その両端が二股状となったロアリンク2の一端側ピンボス部16に圧入により固定される。この一端側ピンボス部16の間には、アッパリンク3のピンボス部14の外周面に対向する細長いピンボス対向面33が設けられている。このピンボス対向面33は、曲面となるよう形成されている。
【0021】
ロアリンク2の他端側ピンボス部21は、ロアリンク分割部材11に設けられ、コントロールリンク4の他端側に位置するピンボス部19を挟み込むように二股状に形成されピンボス部19の一対の外側面と対向している。第2連結ピン20は、コントロールリンク4のピンボス部19を回転可能に貫通し、その両端が二股状となったロアリンク2の他端側ピンボス部21に圧入により固定される。この他端側ピンボス部21の間には、コントロールリンク4のピンボス部19の外周面に対向する細長いピンボス対向面34が設けられている。このピンボス対向面34は、曲面となるよう形成されている。
【0022】
そして、本実施例の複リンク式ピストンクランク機構1においては、
図2に示すように、アッパリンク3の他端側に位置するピンボス部14にピンボス油路35が形成され、ロアリンク分割部材10にロアリンク油路36が形成されている。
【0023】
ピンボス油路35は、ピンボス部14の一方の外側面に形成された溝であり、一端側開口35aがアッパリンク3のピンボス部14の内周面に開口し、他端側開口35bがアッパリンク3のピンボス部14の外周面に開口している。なお、ピンボス油路35を、ピンボス部14を貫通する貫通穴とすることも可能である。
【0024】
ロアリンク油路36は、ロアリンク分割部材10を貫通する貫通穴であり、ピンボス対向面33に開口する一端側開口36aと、クランクピン軸受面37に開口する他端側開口36bと、を有している。また、ロアリンク油路36は、所定のクランク角(例えば下死点)のときに、クランクピン油路31と連通し、その一端側開口36aから潤滑油が噴出するよう形成されている。
【0025】
さらに、このロアリンク油路36は、上記所定のクランク角のときに、アッパリンク3のピンボス部14に形成されたピンボス油路35の他端側開口35bの端縁のうち、ピンボス部14の進行方向側の端縁を指向するよう形成されている。換言すれば、ロアリンク油路36は、上記所定のクランク角のときに、アッパリンク3のピンボス部14に形成されたピンボス油路35の他端側開口35bの端縁のうち、アッパリンク3一端側の端縁を指向するよう形成されている。
【0026】
ピンボス油路35が形成されたアッパリンク3の他端側のピンボス部14は、上記所定クランク角における位置からピストン位置が上死点に向かうにつれて、
図2中の矢示する方向に回転しつつ移動し、アッパリンク3とロアリンク2との挟角を大きくしながら、ロアリンク油路36の一端側開口36aから予め噴射された潤滑油の噴霧領域Sに移動することなる。そのため、内燃機関が高回転領域であっても、アッパリンク3のピンボス部14の軸受け部分には、噴霧領域S内にある潤滑油をピンボス油路35から取り込んで供給することができる。
【0027】
つまり、内燃機関の運転領域が高回転領域であっても、ピンボス油路35がロアリンク油路36の延長線上に位置するようなタイミングでロアリンク油路36から潤滑油を噴射する場合に比べ、より効率良く潤滑油をアッパリンク3のピンボス部14の軸受け部分に供給することが可能となる。
【0028】
これによって、アッパリンク3の他端側に位置するピンボス部14の軸受け部分に供給される潤滑油を相対的に増加させることが可能となり、アッパリンク3のピンボス部14における耐焼き付き性を向上させることができる。
【0029】
また、ロアリンク油路36は、その分割面9である一対のロアリンク分割部材10、11の合わせ面に対して直交するように形成された貫通穴となっている。そのため、本実施例では、クランクピン軸受面37に開口するロアリンク油路36の他端側開口36bは、
図3に示すように、クランクピン軸受面周方向に沿って細長い長穴形状となる。ここで、ロアリンク油路36をクランクピン軸受面37の径方向に沿って形成すると、
図4に示すように、クランクピン軸受面37に開口するロアリンク油路36の他端側開口36bは、略真円形状になる。なお、
図3、
図4は、ロアリンク2のクランクピン軸受面37を展開して模式的に示した説明図であり、
図3及び
図4における左右方向が、クランクピン軸受面37における周方向に相当する。
【0030】
クランクピン軸受面37には、
図3、
図4中に矢示するように、荷重入力の際にクランクピン軸受面周方向に沿った引っ張り応力が発生する。そのため、この引っ張り応力により、ロアリンク油路36の他端側開口36bは、クランクピン軸受面周方向に沿って引き延ばされることになる。しかしながら、本実施例では、ロアリンク油路36の他端側開口36bが、クランクピン軸受面周方向に沿って細長い長穴形状となっているので、クランクピン軸受面周方向に沿った引っ張り応力によって引き延ばされる部分P1、P2の曲率が相対的に小さくなる。
【0031】
そのため、ロアリンク油路36の他端側開口36bの形状が略真円形状になっている場合に比べて、ロアリンク油路36の他端側開口36bへの応力集中が緩和され、ロアリンク油路36の他端側開口36bに発生する応力を低下させることができ、総じてロアリンク2の疲労強度を向上させることができる。
【0032】
なお、ロアリンク油路36の一端側開口36aについても、本実施例では、長穴形状となっている。より具体的には、ロアリンク油路36の一端側開口36aは、ピンボス対向面33の長手方向に沿って細長い長穴形状に形成されている。ピンボス対向面33には、荷重入力の際にピンボス対向面長手方向に沿った引っ張り応力が発生するため、この引っ張り応力により、ロアリンク油路36の一端側開口36aは、ピンボス対向面長手方向に沿って引き延ばされることになる。しかしながら、ロアリンク油路36の一端側開口36aは、ピンボス対向面長手方向に沿って細長い長穴形状となっているので、ピンボス対向面長手方向沿った引っ張り応力によって引き延ばされる部分の曲率が、上述した他端側開口36bの場合と同様に、相対的に小さくなる。そのため、ロアリンク油路36の一端側開口36aへの応力集中が相対的に緩和され、ロアリンク油路36の他端側開口36aに発生する応力を低下させることができ、総じてロアリンク2の疲労強度を向上させることができる。
【0033】
また、ロアリンク油路36が分割面9に直交するように設定されるため、分割面9を衝(基準)としてロアリンク油路36の機械加工を容易に行うことができ、ロアリンク油路36をクランクピン軸受面37の径方向に沿って形成する場合に比べて、加工コストを低減することができる。
【0034】
そして、ロアリンク油路36は、
図1に示すように、最大燃焼荷重がピストンに作用した際のロアリンク2への入力荷重F1の入力位置からオフセットするよう設定されているため、ロアリンク2の疲労強度を向上させることできる。
【0035】
さらに、アッパリンク3の他端側に位置するピンボス部14は、
図5に示すように、その基端側ほど相対的に薄肉となるように形成され、このピンボス部14基端側ほど軸受け部分の面積が相対的に小さくなっている。そのため、アッパリンク3のピンボス部14の軸受け部分には、ピンボス部14が噴霧領域Sを通過する際に、ピンボス油路35に加え、アッパリンク3のピンボス部14基端側からも軸受け部分に潤滑油が供給されることになり、アッパリンク3のピンボス部14における耐焼き付き性の更なる向上を図ることができる。
【0036】
なお、上述した実施例では、ロアリンク2とアッパリンク3との連結部分にクランクピン油路31から潤滑油が供給される構成となっているが、クランクピン油路31からロアリンク2とコントロールリンク4との連結部分に対して潤滑油を供給する構成においても、本願発明は適用可能である。すなわち、例えば、コントロールリンク4の他端側に位置するピンボス部19にピンボス油路を形成し、ロアリンク2の他端側ピンボス部21に、一端が他端側ピンボス部21の間のピンボス対向面34に開口し、他端がクランクピン軸受面37に開口するロアリンク油路を形成してもよい。この場合のロアリンク油路は、所定のクランク角のときに、クランクピン油路31と連通し、かつコントロールリンク4のピンボス部19に形成されたピンボス油路の他端側開口の端縁のうち、ピンボス部19の進行方向側の端縁を指向するように形成される。但し、ロアリンク2への入力荷重は、コントロールリンク4との連結部分よりもアッパリンク3との連結部分側の方が相対的に大きくなるため、ロアリンク油路の開口を長穴形状に形成することによるロアリンク油路開口の応力集中低減効果は、アッパリンク側に形成されたロアリンク油路のほうが相対的に大きなものとなる。
【0037】
また、本願発明は、複リンク式ピストンクランク機構1が可変圧縮比機構となっていないものにも適用可能である。