(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記クロメートフリー皮膜が、チタンフッ化水素酸若しくはジルコニウムフッ化水素酸又はこれらの両方のフルオロ化合物、リン酸及びバナジウム化合物を含有することを特徴とする請求項2に記載のめっき鋼板。
【発明を実施するための形態】
【0017】
先ず、本発明者らが本発明に想到するに至った経緯について説明する。本発明において、Zn−Ni合金とは、実質的にZn及びNiからなる二元系合金であり、不純物が含まれてもよいが、意図的に添加された他の元素は含まない。
【0018】
(第1の試験)
本発明者らは、従来のZn−Ni系めっき鋼板における加工に伴うめっき層の損傷の状況を確認するための試験(第1の試験)を行った。第1の試験では、B含有極低炭素Ti鋼板を母材鋼板として準備し、その両面にNi含有率が12質量%のZn−Ni合金のめっき層を形成した。めっき層の形成には、硫酸亜鉛:180g/L、硫酸ニッケル:200g/L及び硫酸ナトリウム:100g/Lを含有する水溶液を準備し、このpHを硫酸で1.2に調整しためっき液を用いた。めっき層の付着量は片面あたり30g/m
2とした。次いで、シランカップリング剤を含む処理液を用いて、めっき層の表面に、片面あたり500mg/m
2の付着量で皮膜を形成した。このようにして、めっき鋼板を作製した。その後、めっき鋼板から試料を切り出し、これを絞り比が2.2、直径が100mmの円筒カップの形状に成形し、円筒カップの縦壁におけるめっき層の状態を観察した。
【0019】
図1に、縦壁におけるめっき層の状態を示す。
図1に示すように、めっき層に多くのクラックが発生し、多くの箇所で母材鋼板が露出していた。多くのクラックが発生したのは、Zn−Ni合金のめっき層がNi
5Zn
21で表される金属間化合物で構成されており、延性に乏しいためである。
【0020】
(第2の試験)
次に、本発明者らは、成形後のZn−Ni系めっき鋼板の耐食性を確認するための試験(第2の試験)を行った。第2の試験では、第1の試験で作製しためっき鋼板の他の部分から新たに試料を切り出し、これを絞り比が2.2、直径が100mmの円筒カップの形状に成形した。また、体積比でガソリン:エタノール:水=69:29:2の混合燃料を準備し、これに混合燃料1Lあたり100mgの酢酸及び100mgのNaClを添加して腐食液を作製した。そして、この腐食液を成形した円筒カップに100mL封入し、腐食液を封入した円筒カップを45℃で静置し、1000時間経過した後に円筒カップの内面の外観を観察した。
【0021】
図2に、円筒カップの内面の外観を示す。
図2に示すように、めっき層に多くのクラックが発生した縦壁において、腐食が著しく孔食が大量に生成していた。孔食の深さは100μm以上であった。
【0022】
これら一連の試験を通じて、Zn−Ni合金のめっき層にクラックが発生しやすく、クラックが発生した箇所で腐食が進行していることが確認された。また、このようなクラックはクロメート皮膜が形成されているだけでは防止することができず、例えば特許文献1に記載された方法によっても十分な耐食性は得られない。
【0023】
本発明者らが、このような現象の原因を究明すべく更に鋭意検討を重ねたところ、クラックから露出した母材鋼板の表面において腐食反応の一部である酸素還元反応(カソード反応)が速く進行し、その結果、対反応であるZn−Ni合金のめっき層の溶解反応(アノード反応)が促進されていることが明らかになった。特に、これらの反応は、燃料にアルコールが含まれる場合に顕著であることも明らかになった。
【0024】
そして、本発明者らは、これらの知見に基づき更に鋭意検討を行った結果、鋼板とめっき層との間に所定のプレめっき層を設けることにより、Zn−Ni系めっき鋼板の腐食を効果的に抑制できることを突き止めた。
【0025】
次に、プレめっき層について説明する。
【0026】
(第3の試験)
本発明者らは、プレめっき層に使用できる材料を特定するための試験(第3の試験)を行った。第3の試験では、先ず、第1の試験と同様に、B含有極低炭素Ti鋼板を母材鋼板として準備し、その両面に、Al、Ag、Co、Cr、Cu、In、Mn、Ni、Zn、Sn、Sb又はPtのプレめっき層を形成した。プレめっき層の付着量は1g/m
2とした。プレめっき層の形成では、Al、Ag、Co、Cr、Cu、In、Mn、Ni、Zn、Sn、Sb又はPtを、硫酸塩、塩化物塩、硝酸塩、蟻酸塩又は酢酸塩として含有する溶液中で鋼板の電気めっきを行った。Alのプレめっき層を形成する際には、有機溶媒(ジメチルスルホン)浴を用い、他の金属のプレめっき層を形成する際には、水を溶媒とする浴を用いた。次いで、プレめっき層上にNi:12質量%及びZn:88質量%を含有するZn−Ni合金のめっき層を形成した。めっき層の付着量は片面あたり30g/m
2とした。このようにして、めっき鋼板を作製した。その後、第2の試験と同様にして、円筒カップ及び腐食液を準備し、これらを用いて耐食性の評価を行った。比較のために、プレめっき層を形成することなくZn−Ni合金のめっき層を形成しためっき鋼板についても耐食性の評価を行った。これらの結果を表1に示す。表1において、○は浸食がなかったことを示し、△は深さが20μm以下の浸食があったことを示し、×は深さが20μm超の浸食があったことを示す。
【0028】
表1に示すように、Al、Cu、In、Zn、Sn又はSbのプレめっき層を形成した場合に、プレめっき層を形成しない場合よりも優れた耐食性が得られた。
【0029】
(第4の試験、第5の試験)
さらに、本発明者らは、プレめっき層に適した上記の金属の特性を明らかにすべく、酸素還元反応に関する試験及び加工後のめっき層の状態に関する試験を行った。
【0030】
酸素還元反応に関する試験(第4の試験)では、先ず、第1の試験と同様に、B含有極低炭素Ti鋼板を母材鋼板として準備し、その両面に、Al、Ag、Co、Cr、Cu、Fe、In、Mn、Ni、Zn、Sn、Sb又はPtのプレめっき層を形成した。プレめっき層の付着量は1g/m
2とした。次いで、Na
2SO
4を50g/L溶解して空気を30分以上バブリングすることで溶存酸素を飽和させた水溶液を用いて、−600mV(Ag/AgCl電極照合)の電位で酸素還元電流を測定した。−600mV(Ag/AgCl電極照合)の電位は、Ni:12質量%及びZn:88質量%を含有するZn−Ni合金の腐食電位に相当する。この結果を表2に示す。表2において、○は酸素還元電流がプレめっき層にFeを用いた場合よりも一桁以上小さいことを示し、×は一桁以上大きいことを示し、△はこれらの間であったことを示す。
【0031】
加工後のめっき層の状態に関する試験(第5の試験)では、先ず、第4の試験と同様に、母材鋼板の両面にプレめっき層を形成した。次いで、プレめっき層が形成された母材鋼板から試料を切り出し、これを絞り比が2.2、直径が100mmの円筒カップの形状に成形した。そして、円筒カップの縦壁に残存しているプレめっき層の面積率を測定した。この結果を表2に示す。表2において、○は残存しているプレめっき層の面積率が95%以上だったことを示し、△は90%以上95%未満だったことを示し、×は90%未満だったことを示す。
【0033】
表2に示すように、第3の実験においてプレめっき層に用いられて耐食性を向上させることが明らかになった金属(表1で○)の酸素還元電流はFeのそれよりも一桁以上小さく、加工後に残存したプレめっき層の面積率は95%以上であった。
【0034】
(第6の試験)
本発明者らは、プレめっき層に必要な付着量に関する試験(第6の試験)を行った。第6の試験では、先ず、第5の試験と同様に、母材鋼板の両面にプレめっき層を形成した。その際に、元素は耐食性の良好であったAl、Cu、In、Zn、Sn又はSbを用い、付着量を0g/m
2〜1.0g/m
2の範囲で変化させた。次いで、プレめっき層が形成された母材鋼板から試料を切り出し、これを絞り比が2.2、直径が100mmの円筒カップの形状に成形した。そして、円筒カップの縦壁に残存しているプレめっき層の面積率を測定した。Alに関して得られた結果を表3に示す。表3において、○は残存しているプレめっき層の面積率が95%以上だったことを示し、△は90%以上95%未満だったことを示し、×は90%未満だったことを示す。また、Cu、In、Zn、Sn、Sbに関しても同様の結果が得られた。
【0036】
表3に示すように、加工後にプレめっき層を95%以上の面積率で残存させるためには、付着量を0.5g/m
2以上とすることが必要であることが明らかになった。
【0037】
これらの試験から、Al、Cu、In、Zn、Sn又はSbのプレめっき層を設けることにより、加工によりZn−Ni合金のめっき層にクラックが生じても、母材鋼板がプレめっき層により被覆された状態が維持され、母材鋼板のクラックからの露出が抑制されること、及び、この露出の抑制により、酸素還元反応(カソード反応)の進行が遅くなり、めっき層の溶解反応(アノード反応)が抑制されることが明らかになった。
【0038】
次に、本発明の実施形態について説明する。
図3は、本発明の実施形態に係るめっき鋼板を示す断面図である。
【0039】
図3に示すように、本実施形態に係るめっき鋼板1には、鋼板(母材鋼板)2、鋼板2の一方の表面上のプレめっき層3、及びプレめっき層3上のめっき層4が含まれる。プレめっき層3は、Al、Cu、In、Zn、Sn若しくはSb又はこれらの任意の組み合わせを含み、その付着量は0.5g/m
2以上である。めっき層4は、Ni:5質量%〜15質量%及びZn:85質量%〜95質量%のZn−Ni合金からなり、その付着量は5g/m
2以上である。
【0040】
鋼板2の鋼種及び組成は特に限定されない。例えば、IF(interstitial free)鋼、Ti及び少量のNbを含有する極低炭素Ti鋼、極低炭素Ti−Nb鋼等の、通常用いられている極低炭素鋼を鋼板2に用いることができる。Si、Mn及びP等の強化元素を含む鋼、粒界強化元素としてBを含む鋼を鋼板2に用いることもできる。ステンレス等のCrを含有する鋼を鋼板2に用いることもできる。Crを含有する鋼は、屋外等で端面に錆が発生しやすい形態でめっき鋼板1が使用される場合に好適である。
【0041】
上記のように、プレめっき層3は、Al、Cu、In、Zn、Sn若しくはSb又はこれらの任意の組み合わせを含む。つまり、プレめっき層3は、Al、Cu、In、Zn、Sn又はSbを単独で含んでもよく、これらのうちの2種以上を含んでもよい。プレめっき層3に、Cr、Mo、Nb、Fe等の金属が含まれていてもよい。しかしながら、Cr、Mo、Nb、Fe等の金属の総量が10質量%を超えていると、プレめっき層3が脆く、加工時に剥がれやすい。例えば、第5の試験と同様の試験を行うと、残存するプレめっき層の面積率が低くなりやすい。このため、Al、Cu、In、Zn、Sn又はSb以外の金属の総量は10質量%以下であることが好ましい。プレめっき層3を形成する方法は特に限定されないが、電解処理法が好ましい。これは、現状では、電解処理法が均一性に最も優れ、耐食性の向上効果を最も効果的に発現するからである。電解処理液に含まれる上記6種の金属の塩は特に限定されず、例えば、硫酸塩、塩化物塩、硝酸塩、蟻酸塩又は酢酸塩が用いられる。
【0042】
プレめっき層3の付着量は0.5g/m
2以上である。プレめっき層3の付着量が0.5g/m
2未満では、めっき鋼板に十分な耐食性が得られない箇所が生じ得る。より優れた耐食性を得るために、プレめっき層3の付着量は0.8g/m
2以上であることが好ましい。プレめっき層3の付着量の上限は特に限定されないが、プレめっき層3の付着量の効果は5.0g/m
2程度で飽和し、100.0g/m
2超ではプレめっき層3が剥がれやすくなる。従って、プレめっき層3の付着量は、剥がれの抑制の観点から100.0g/m
2以下が好ましく、経済的な観点から経済的な観点から5.0g/m
2以下が好ましい。
【0043】
めっき層4を構成するZn−Ni合金のNi含有率は5質量%〜15質量%である。Ni含有率が5質量%未満では、Zn含有率が95質量%超であり、通常のZnめっきと同様に、劣化ガソリンに対する十分な耐食性が得られず、早期に赤錆が発生し、孔食が発生する。従って、Ni含有率は5質量%以上である。劣化ガソリンに対するより優れた耐食性を得るために、Ni含有率は7質量%以上であることが好ましい。一方、Ni含有率が15質量%超では、めっき層4が硬くなりすぎて、加工時に剥離が生じてしまい、十分な耐食性が得られない。従って、Ni含有率は15質量%以下である。加工時の剥離をより抑制するために、Ni含有率は13質量%以下であることが好ましい。
【0044】
めっき層4の付着量は5g/m
2以上である。めっき層4の付着量が5g/m
2未満では、劣化ガソリン並びにガソリン及びアルコールの混合燃料のいずれに対しても十分な耐食性が得られない。より優れた耐食性を得るために、めっき層4の付着量は10g/m
2以上であることが好ましい。めっき層4の付着量の上限は特に限定されないが、めっき層4の付着量の効果は60g/m
2程度で飽和し、100g/m
2超ではめっき層4が剥がれやすくなる。従って、めっき層4の付着量は、剥がれの抑制の観点から100g/m
2以下が好ましく、経済的な観点から経済的な観点から60g/m
2以下が好ましい。
【0045】
このようなめっき鋼板1は、プレめっき層3及びめっき層4が内面となるように成形した燃料タンクにおいて、ガソリン並びにガソリン及びアルコールの混合燃料に対して優れた耐食性を発揮する。
【0046】
図4に示すように、めっき鋼板1に、鋼板2の他方の表面上のプレめっき層5、及びプレめっき層5上のめっき層6が含まれてもよい。プレめっき層5がプレめっき層3と同様の構成を備え、めっき層6がめっき層4と同様の構成を備えていれば、プレめっき層5及びめっき層6が内面となるように成形した燃料タンクにおいても優れた耐食性を発揮する。
図5に示すように、プレめっき層5が形成されることなく、めっき層6が形成されていてもよい。
図6に示すように、プレめっき層5が形成され、めっき層6が形成されていなくてもよい。
図5又は
図6に示す例では、めっき鋼板1は、プレめっき層3及びめっき層4が内面となるように成形した燃料タンクにおいて優れた耐食性を発揮する。
【0047】
図7に示すように、
図3に示すめっき鋼板1にめっき層4上のクロメートフリー皮膜7が含まれてもよい。クロメートフリー皮膜7は防錆効果に寄与する。クロメートフリー皮膜7の付着量が10mg/m
2未満では、十分な防錆効果が得られない。従って、クロメートフリー皮膜7の付着量は好ましくは10mg/m
2以上であり、より優れた防錆効果を得るために、15mg/m
2以上であることがより好ましい。一方、クロメートフリー皮膜7の防錆効果は1000mg/m
2程度で飽和する。従って、クロメートフリー皮膜7の付着量は、経済的な観点から経済的な観点から1000mg/m
2以下であることが好ましく、900mg/m
2以下であることがより好ましい。
【0048】
クロメートフリー皮膜7はクロメートフリー処理(ノンクロメート処理)により形成することができる。クロメートフリー処理に使用する処理液としては、環境上有害な六価クロムを含有しない処理液、例えば、Zr若しくはTi又はこれらの両方の塩を含む処理液、又は、シランカップリング剤を含む処理液等が挙げられる。このような処理液を用いたクロメートフリー処理により、めっき層4上に、Ti、Zr、P、Ce、Si、Al、Li等を主成分として5質量%以上含有し、クロムを含有しないクロメートフリー皮膜(化成処理皮膜)7を形成することができる。つまり、クロメートフリー皮膜7は、例えばTi、Zr、P、Ce、Si、Al若しくはLi又はこれらの任意の組み合わせを含む。
【0049】
クロメートフリー皮膜7の形成には、シランカップリング剤を含む処理液が特に有効である。例えば、分子中にアミノ基を1つ含有する第1のシランカップリング剤、分子中にグリシジル基を1つ含有する第2のシランカップリング剤、チタンフッ化水素酸若しくはジルコニウムフッ化水素酸又はこれらの両方のフルオロ化合物、リン酸及びバナジウム化合物を含む処理液を用いることが好ましい。この処理液を用いることにより、チタンフッ化水素酸若しくはジルコニウムフッ化水素酸又はこれらの両方のフルオロ化合物、リン酸及びバナジウム化合物を含有する複合皮膜をクロメートフリー皮膜7として形成することができる。
【0050】
上記処理液における配合比に関しては、第1のシランカップリング剤の固形分質量をA、第2のシランカップリング剤の固形分質量をB、フルオロ化合物の固形分質量をX、リン酸の固形分質量をY、バナジウム化合物の固形分質量をZとしたとき、次の4つの関係が成り立つことが好ましい。
0.5≦A/B≦1.7
0.02≦X/(A+B)≦0.07
0.03≦Y/(A+B)≦0.12
0.05≦Z/(A+B)≦0.17
【0051】
図8に示すように、
図4に示すめっき鋼板1にめっき層6上のクロメートフリー皮膜8が含まれてもよい。同様に、
図5又は
図6に示すめっき鋼板1にめっき層6又はプレめっき層5上のクロメートフリー皮膜8が含まれていてもよい。クロメートフリー皮膜8はクロメートフリー皮膜7と同様に構成されていることが好ましい。
【実施例】
【0052】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0053】
先ず、通常の転炉での精錬及び真空脱ガス処理により鋼を溶製し、鋼片を得た。次いで、鋼片に通常の条件で熱間圧延、冷間圧延及び連続焼鈍を行い、板厚が0.8mmの極低炭素鋼板を製造した。
【0054】
その後、極低炭素鋼板の両面に、電気めっきにて、Zn、Sb、Sn、In、Cu、Zn−Sb合金、Sn−Cu合金、Sn−Sb−In合金、Co、Mn、Cr又はNiのプレめっき層を形成した。電気めっきの際には、プレめっき層に含ませる金属を、硫酸塩、塩化物塩、硝酸塩、蟻酸塩又は酢酸塩として含有する溶液を用いた。プレめっき層の付着量は0g/m
2〜6g/m
2の範囲で変化させた。プレめっき層の組成及び付着量を表4に示す。
【0055】
続いて、プレめっき層上にZn−Ni合金のめっき層を形成した。めっき層の形成に用いるめっき液は、硫酸亜鉛:180g/L、硫酸ナトリウム:100g/L及び硫酸ナトリウムを含有する水溶液を準備し、このpHを硫酸で1.2に調整して作製した。このとき、硫酸ニッケルの量を0g/L〜300g/Lの範囲で変化させた。Zn−Ni合金のNi含有率は0質量%〜20質量%の範囲で変化させ、付着量は3g/m
2〜50g/m
2の範囲で変化させた。めっき層のNi含有率及び付着量を表4に示す。
【0056】
次いで、めっき層上にクロメートフリー処理によりクロメートフリー皮膜を形成した。クロメートフリー処理に用いた処理液の主成分及びクロメートフリー皮膜の付着量を表4に示す。
【0057】
このようにして種々のめっき鋼板を製造した。
【0058】
その後、めっき鋼板の加工性、劣化ガソリンに対する耐性並びにガソリン及びアルコールの混合燃料に対する耐性を調査した。
【0059】
(加工性)
加工性の調査では、油圧成形試験機により、直径が50mmの円筒ポンチを用いて、絞り比を2.3として成形試験を行った。このときのシワ抑え圧は500kg/cm
2とした。そして、次の基準で加工性を評価した。
〇:成形可能で、めっき層の剥離無し
×:成形可能で、めっき層剥離有り
【0060】
(劣化ガソリンに対する耐性)
劣化ガソリンに対する耐性の調査では、めっき鋼板を直径が100mmの円筒カップの形状に成形し、その内部に、次のようにして作製した腐食液を封入した。腐食液の作製では、JIS K 2287に準拠した方法により劣化ガソリンを準備し、この劣化ガソリンに対して10体積%の水を添加した。腐食液はガソリン相と水相とに二相分離し、下相側である水相中のギ酸濃度が100mg/L、酢酸濃度が200mg/Lとなるように蟻酸試薬、酢酸試薬を用いて調整した。その後、腐食液を封入した円筒カップを45℃で静置し、1000時間経過した後に円筒カップの浸食深さを測定した。そして、次の基準で加工性を評価した。
○:浸食無し
△:深さが20μm以下の浸食あり
×:深さが20μm超の浸食あり
【0061】
(混合燃料に対する耐性)
混合燃料に対する耐性の調査では、めっき鋼板を直径が100mmの円筒カップの形状に成形し、その内部に、次のようにして作製した腐食液を封入した。腐食液の作製では、体積比でガソリン:エタノール:水=69:29:2の混合燃料を準備し、この混合燃料全体に対して酢酸:100mg/L及びNaCl:100mg/Lを添加した。その後、腐食液を封入した円筒カップを45℃で静置し、1000時間経過した後に円筒カップの浸食深さを測定した。そして、次の基準で加工性を評価した。
◎:浸食無し
○:深さが5μm未満の浸食あり
△:深さが5μm以上20μm以下の浸食あり
×:深さが20μm超の浸食あり
【0062】
表4にこれらの評価結果を示す。
【0063】
【表4】
【0064】
表4に示すように、本発明の範囲内にある実施例No.4、No.6及び
No.10では、加工性、劣化ガソリンに対する耐性並びに混合燃料に対する耐性のいずれにおいても良好な結果が得られた。実施例No.4、No.6及び
No.10では、好ましいクロメートフリー皮膜が含まれているため、混合燃料に対する耐性が特に優れていた。
【0065】
一方、比較例No.13〜No.15では、プレめっき層が形成されていないか、プレめっき層の付着量が少ないため、混合燃料に対する十分な耐性が得られなかった。比較例No.16〜No.18、No.23及びNo.24では、プレめっき層に含まれる金属が適切でないため、混合燃料に対する十分な耐性が得られなかった。比較例No.19及びNo.20では、めっき層を構成するZn−Ni合金のNi含有率が低いため、劣化ガソリンに対する十分な耐性及び混合燃料に対する十分な耐性が得られなかった。比較例No.21では、めっき層を構成するZn−Ni合金のNi含有率が高いため、十分な加工性が得られず、めっき層の剥離が生じた。これに伴って、劣化ガソリンに対する十分な耐性及び混合燃料に対する十分な耐性も得られなかった。比較例No.22では、めっき層の付着量が少ないため、劣化ガソリンに対する十分な耐性及び混合燃料に対する十分な耐性が得られなかった。