(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記造粒されたインジウムボールに、前記浸漬工程中から前記乾燥工程後までの時点で超音波処理を施すことにより、八面体または球体と八面体との中間形態のインジウムボールを製造する、請求項7〜10のいずれか1つに記載の方法。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化にともない、本体の裏面に電極を設置することにより高度に多機能化された電子部品が多く用いられるようになってきた。そのような電子部品の代表例は、ボールグリッドアレイパッケージ(以下、「BGAパッケージ」と略記)である。
【0003】
BGAパッケージは、代表的には、基板の表面にダイとも呼ばれる半導体集積回路(IC)チップを取り付け、裏面に一連の電極を格子状に配置した半導体パッケージである。各電極には、リードとして、はんだバンプと呼ばれる、半球状のはんだ塊が接合されている。
【0004】
BGAパッケージをプリント配線基板に搭載するには、BGAパッケージをその各はんだバンプが、プリント配線基板の導電性ランドに対向するようにプリント配線基板上に置き、次いでリフロー炉ではんだバンプが溶融するように加熱してはんだ付けを行う。これにより、各はんだバンプは微小なはんだ接合部を形成し、BGAパッケージがプリント配線基板に機械的かつ電気的に接続される。BGAパッケージには、多数の電極のすべてに対して均一で微小なはんだ接合部を同時に形成できるという利点がある。
【0005】
BGAパッケージには非常に多くの寸法と構造のものとがある。BGAパッケージが基板上の集積回路チップとほぼ同じ程度の平面寸法のものは、CSP(チップスケールパッケージ)と呼ばれる。BGAパッケージが複数のICチップを含むものは、MCM(マルチチップモジュール)と呼ばれる。
【0006】
BGAパッケージのはんだバンプは、典型的にははんだボールを用いて形成される。一般的な方法では、パッケージ基板の電極にフラックスを印刷塗布してから、電極上にはんだボールを位置合わせてして供給し、リフロー炉で加熱してはんだボールを溶融させることによりはんだバンプが形成される。フラックスは、供給されたはんだボールを仮固定する役割も果たす。はんだボールは球体であるため、一定量のはんだを供給でき、所定位置への供給も容易である。
【0007】
はんだボールは、上述したBGAのような外部接続(半導体パッケージとプリント配線基板との接合)だけでなく、内部接合、即ち、ICチップとパッケージ基板との接合にも使用されている。内部接合の代表例はC4 (Controlled Collapse Chip Connection) と呼ばれるものである。当然、内部接合用に用いるはんだボールの方が外部接続用のボールより直径が小さい。
【0008】
従来のはんだボールは主にPbとSnとの合金であった。Pb−63%Snの「共晶はんだ」と呼ばれるPb−Sn合金は、融点が183℃で、電子部品を熱損傷させずにはんだ付けを行うことができる。その上、共晶はんだは濡れ性がよいため、はんだ付け不良が少ないという利点も有する。なお、本明細書において、%は特に指定しない限り質量%である。
【0009】
しかし、近年、環境・健康への鉛の悪影響のため、共晶はんだのようなPb含有はんだ合金の使用が回避されるようになっている。はんだボールについても、Pbを全く含まない鉛フリーはんだからなるはんだボールが使用されるようになってきた。代表的な鉛フリーはんだは、Sn−3.0%Ag−0.5%CuといったSn−Ag−Cu系合金である。この合金では、前記共晶はんだに比べてはんだ付け温度が40℃前後高くなる。
【0010】
Pbは、Snと合金化して融点の低い低温はんだ合金を作るだけでなく、その柔らかいという特性により、形成されたはんだ継手にクッション機能をもたせることができる。そのため、前記共晶はんだから形成されたはんだ継手は、熱膨張・収縮により発生する熱応力や衝撃を吸収でき、信頼性が高くなる。これに対し、Pbを含有しない鉛フリーはんだは一般に硬いものが多いので、形成されたはんだ継手にクッション機能(応力や衝撃を吸収する機能)をもたせることができず、衝撃に対する信頼性が十分ではない。
【0011】
そこで、前記共晶はんだの代替となりうる鉛フリーはんだ材料として、低融点で柔らかいインジウムが注目を浴びている。インジウムは柔らかいので、前記共晶はんだと同様に、衝撃吸収能に優れ、信頼性の高いはんだ継手を形成することができる。また、インジウムは融点が融点が約156℃と低く、はんだ付け中の電子部品の熱損傷を避けることができる。
【0012】
はんだボールの代表的な製造方法は、下記特許文献1に説明されているように、はんだ線を一定長さに細かくカットし、はんだの溶融温度以上に加熱した油中に滴下した後、冷却し、生成した球状はんだを回収する油中造球法、およびるつぼの底部に設けたオリフィスから溶融はんだを滴下させ、ガス雰囲気中で急冷凝固させてはんだボールを作るアトマイズ法である。
【発明の概要】
【0014】
特許文献1に記載された発明はSn−Ag−Cu合金からなるはんだボールとそのアトマイズ法による製造に関する。Sn−Ag−Cu合金は非常に硬いため、造粒後の球状粒子を容器に捕集しても容器内で粒子が凝集することがない。特許文献1には、造粒後の回収方法についての言及は全くない。
【0015】
しかし、インジウムは柔らかい金属である。このため、インジウムボールを例えば上記のいずれかの方法で造粒すると、造粒直後のインジウムボールは良好な流動性を示すものの、容器に捕集すると、容器内でインジウムボールが凝集し、自重により塑性変形する。そして、塑性変形によりボール同士の接触面積が高まり、互いに圧着して、球状のインジウムボールは岩状の塊になってしまう。塊になると、インジウムボールとして使用することはできない。
【0016】
岩状の塊になったインジウムボールは容易に分離できず、篩などで強制的に分離しようとすると、インジウムボールの傷つき、酸化、変形が起こる。こうしたインジウムボールは流動性が著しく低下しているので、基板の電極上への供給に支障を生じる。また、ボール表面の著しい酸化は、はんだ付け性を悪化させ、かつ高価なインジウムのリサイクルを困難にする。
【0017】
本発明は、凝集せずに優れた流動性を有するインジウムボールおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【0018】
本発明者らは、インジウムが柔らかいためインジウムボール同士が圧着して起こるインジウムボールの流動性の阻害が、造粒直後のインジウムボールを有機極性溶媒で浸漬処理することにより防止できることを見出した。そのメカニズムについては、完全には解明されていないが、浸漬処理の後、乾燥して溶媒を蒸発させた後も、インジウムボールの表面に有機極性溶媒分子の存在がGC−MS分析により検出されたことから、インジウムボールの表面に有機極性溶媒が吸着された結果であると判断される。
【0019】
より具体的なメカニズムは次のように推測される。ただし、本発明は、以下の説明に拘束されるものではない。
【0020】
インジウムボールは、その表面に自然酸化により生じた表面酸化膜を有している。表面酸化膜中のインジウムは3価インジウムに酸化されている。表面積酸化膜を有するインジウムボールを有機極性溶媒中に浸漬すると、有機極性溶媒の極性基が表面酸化膜中のインジウムイオンと反応して、溶媒分子がインジウムに配位結合した錯体が形成され、インジウムボールの表面は、形成された錯体で覆われることになる。つまり、インジウムボールの表面に有機極性溶媒が化学的に吸着する。
【0021】
有機極性溶媒はその極性基がインジウムボールの表面に配位結合しているので、該溶媒分子の残りの疎水性部分(メチル基、エチル基などの炭化水素基の部分)はインジウムボールとは反対側の外側を向く。そのため、インジウムボールの周囲は疎水性となる。また、インジウムに配位した有機極性溶媒の疎水性部分には同じ電荷をもつ部分的偏り(δ+)が発生し、インジウムボール同士の反発を生ずる。その結果、インジウムボールは有機極性溶媒中で互いに接近しがたくなり、溶媒中に分散し、凝集が防止される。
【0022】
こうして処理したインジウムボールを有機極性溶媒から分離して回収し、乾燥させて溶媒を揮発させても、インジウムボールの表面に配位結合して錯体を形成している極性溶媒はインジウムボールの表面に残留する。そのため、インジウムボールの乾燥後も上述した効果は持続し、インジウムボールは凝集が起こりにくくなる。さらに、表面に有機極性溶媒との錯体が形成されることにより、インジウムボールの表面の硬度が硬くなり、インジウムボールの自重では容易に塑性変形を起こさなくなる。こうして、インジウムボールは造粒時の流動性を保持することができ、インジウムボールが圧着して岩状の塊になることが防止される。
【0023】
インジウムボールの造粒直後の有機極性溶媒による浸漬処理は、例えば、前記アトマイズ法によるインジウムボールの造粒において、造粒されたインジウムボールを有機極性溶媒中に捕集することにより行うことができる。
【0024】
やはり極性溶媒である水を使用した場合でも、インジウムボールの表面に水のヒドロキシ基が配位結合するため、インジウムボール同士の凝集が防止される。しかし、インジウムボールから水が取り除かれると、水分子の配位の維持が困難で、水分子はインジウムに残存し難い。そのため、インジウムボールを乾燥させると、乾燥途中はまだ凝集が防止されるが、完全に乾燥してしまうと、インジウムボール同士が岩状の塊を形成してしまう。従って、極性溶媒としては有機溶媒を使用する。ただし、アセチルアセトンのようなβ−ジケトンは酸性を呈し、錯体形成能が非常に大きく反応が進行しやすいために発熱を生じ、インジウムを軟化させることから、本発明で有機極性溶媒として使用するには不適であることが判明した。
【0025】
上記の浸漬処理中または処理後にインジウムボールに超音波を印加すると、ボール形状が球体から八面体(ピラミッド2つを底面で接合した形状)に変化することも判明した。超音波の印加条件により、完全な八面体とすることも、或いは球体と八面体との中間の形状である略八面体(稜線が丸みを帯びた八面体)とすることもできる。
【0026】
広義には、本発明は、実質的に酸性を呈しない有機極性溶媒が吸着している乾燥表面を有するインジウムボールである。この吸着は、有機極性溶媒が何らかの力によりインジウムボールの表面に束縛されていることを意味し、束縛力がファンデルワールス力である物理的吸着と化学結合である化学的吸着のいずれでもよい。有機極性溶媒は、不要な溶媒を除去するように乾燥した後もインジウムボールの表面に残留する。
【0027】
本発明はまた、インジウムボールを造粒し、造粒されたインジウムボールを有機極性溶媒が入った容器内に回収し、回収されたインジウムボールを乾燥することを特徴とする、インジウムボールの製造方法である。
【0028】
本発明は、より具体的には、次の通りである。
(1)アルコール、エーテル、ケトン、カルボン酸エステル、セロソルブ、ニトリル、およびアミドよりなる群から選ばれた少なくとも1種の有機極性溶媒と、造粒した、表面酸化膜で覆われたインジウムボールを有機極性溶媒に浸漬することで形成された、表面酸化膜中のインジウムイオンとからなる錯体で覆われていることを特徴とする、平均粒径が1〜1000μmであるインジウムボール(ただし、前記ケトンはβ−ジケトンではない)。
【0029】
(2)前記有機極性溶媒が炭素数8以下の化合物である上記(1)に記載のインジウムボール。
【0031】
(3)球体および八面体から選ばれた立体形状を有する、上記(1)または(2)に記載のインジウムボール。
【0032】
(4)前記インジウムボールを構成するインジウムの純度が99.995%以上であって、α線量が0.0200cph/cm
2以下である、上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載のインジウムボール。
【0033】
(5)α線量が0.0010cph/cm
2以下である上記(4)に記載のインジウムボール。
【0034】
(6)溶融インジウムの液滴を冷却してインジウムボールを造粒する工程、造粒された、表面酸化膜で覆われたインジウムボールを、アルコール、エーテル、β−ジケトンを除くケトン、カルボン酸エステル、セロソルブ、ニトリル、およびアミドよりなる群から選ばれた少なくとも1種の有機極性溶媒が入った容器に浸漬して、表面が酸化したインジウムボール表面を、前記有機極性溶媒と表面酸化膜中のインジウムイオンとからなる錯体で覆う工程、浸漬したインジウムボールを乾燥する工程を含むことを特徴とする、平均粒径が1〜1000μmであるインジウムボールの製造方法。
【0035】
(7)前記浸漬を、造粒されたインジウムボールを捕集する容器内において行う、上記(6)に記載の方法。
【0036】
(8)前記有機極性溶媒が炭素数8以下の化合物である、上記(6)または(7)に記載の方法。
【0038】
(9)前記溶融インジウムの純度が99.995%以上であり、製造されたインジウムボールのα線量が0.0200cph/cm
2以下である、上記(6)〜(8)のいずれか1つに記載の方法。
【0039】
(10)α線量が0.0010cph/cm
2以下である上記(9)に記載の方法。
(11)前記造粒されたインジウムボールに、前記浸漬工程中から前記乾燥工程後までの時点で超音波処理を施すことにより、八面体または球体と八面体との中間形態のインジウムボールを製造する、上記(6)〜(10)のいずれか1つに記載の方法。
【0040】
(12)上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載のインジウムボールをフラックスと混合してなるソルダペースト。
【0041】
(13)上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載のインジウムボールから形成されたはんだ継手。
【0042】
本発明に係るインジウムボールは、はんだボールとして有用であり、前述したBGAのような外部接合用およびパッケージ内部の内部接合用のいずれにも適用できる。このインジウムボールは、凝集が起こりにくく、流動性に優れている上、表面がやや硬くなり、塑性変形が起こりにくい。従って、ボールマウンタを用いて所定の配列になるように搭載するときに、パレットやメタルマスク上でインジウムボールが変形して、パレットやメタルマスクを通過しなくなるマウントミスが解消され、ボールの搭載精度が向上する。
【0043】
本発明のインジウムボールは、表面に有機極性溶媒が吸着していることで、表面はやや硬くなるものの、なおインジウムボールの特性である優れたクッション性を保持している。そのため、このインジウムボールを用いて形成されたはんだ継手は落下や熱衝撃に対する衝撃吸収性に優れ、衝撃による破断が起こりにくいので、電子部品の寿命の向上に寄与する。また、インジウムボールの表面に吸着している有機極性溶媒は、はんだの濡れ性には実質的に影響しないので、本発明のインジウムボールは良好な濡れ性を保持している。
【0044】
インジウムは主にITO電極向けに高純度品(純度:99.995%以上)が製造されている。ボールを構成するインジウムの純度が高くなるほどα線の発生量が少なくなる。例えば、インジウムの純度が99.99%であるとα線量は0.0200cph/cm
2以下となり、99.995%以上であるとα線量は0.0010cph/cm
2以下となる。このような低α線量のインジウムボールは、α線によるソフトエラー発生の可能性があるメモリ部品周辺の材料などにも用いることもできる。低α線はんだボールは、特に内部接合において求められることが増えている。
【0045】
また、本発明に係る微小なインジウムボール(例、平均粒径1〜200μm)を、粉末(パウダー)として用い、これをフラックスと混合することによりペースト状態で、すなわち、ソルダペーストとして使用することができる。
【0046】
前述したように、インジウムボールに超音波処理を施すことにより、インジウムボールの立体形状が、球体から、中間形状の稜線に丸みのある略八面体を経て、八面体に変化する。こうして得られる略八面体または八面体のインジウムボールは、球体に比べて表面積が大きいので、例えば、ソルダペーストの製造に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本発明に係るインジウムボールは、インジウムボールの表面のインジウム(より正確には表面酸化膜中のインジウムイオン)に、エステル、ケトン、アルコール、ニトリル、エーテルおよびセロソルブからなる群から選択される少なくとも1種の有機極性溶媒が吸着していることを特徴とする。この吸着は、乾燥後も有機極性溶媒の存在が確認されたことから、恐らく、配位による化学吸着であると推測される。その結果、ボール表面はインジウムイオンと前記溶媒とからなる錯体で覆われる。
【0049】
・インジウム
インジウムボールを構成するインジウムは、例えば、ITO用に製造されている前述した高純度品であっても、或いは多少の不純物を含む低純度品であってもよい。不純物の例はAgおよびSnである。インジウムは、純度が高いほど柔らかい。しかし、はんだボールとしての用途には不純物を1質量%以下の量で含有する低純度品でも使用可能であり、低純度のインジウムボールでも、前述した凝集による岩状の塊の形成はみられることがある。純度99.99%以上の高純度のインジウムボールは、上述したように、低α線材料、すなわち、α線放出が抑制された材料となり、α線によるソフトエラー発生の可能性があるメモリ部品周辺の材料などにも用いることもできる。α線量は、純度が99.99%以上の場合で0.0200cph/cm
2以下となり、純度が99.995%以上であれば0.0010cph/cm
2以下となる。
【0050】
・有機極性溶媒
本発明で使用する有機極性溶媒は、一般的には、実質的に酸性を呈しない有機極性溶媒である。すなわち、酢酸といったカルボン酸溶媒や、酢酸と同程度のpKa値を有するアセチルアセトンのようなβ−ジケトン(エノール形態では酸性を呈する)を除外した有機極性溶媒である。これらの酸性を呈する有機極性溶媒は、アセチルアセトンについて上述したように、インジウムとの反応が早すぎるため、本発明で使用するには適していない。
【0051】
本発明で使用する有機極性溶媒は、アルコールのようなプロトン性極性溶媒でも、エーテル、ケトンのような非プロトン性極性溶媒でもよい。具体的には、本発明で用いる有機極性溶媒は、アルコール、エーテル、β−ジケトン以外のケトン、エステル、セロソルブ、ニトリル、スルホキシド、およびアミドよりなる群から選ばれた1種または2種以上である。エステルとはカルボン酸エステルを意味する。有機極性溶媒は1種類を使用すれば十分であるが、上記の群から選んだ2種以上の混合溶媒も使用できる。上記以外の他の有機溶媒も、少量であれば浸漬処理に用いる有機溶媒中に含有させることができる。例えば、アセチルアセトンその他のβ−ジケトンのようにインジウムとの反応が早すぎる有機極性溶媒は、溶媒全体の30%以下の量であれば、含有させることができる。また、ヘキサンのような非極性溶媒も、上記極性溶媒との相溶が可能であれば、やはり溶媒全体の30%程度までなら使用可能である。
【0052】
前述した有機極性溶媒は、その極性基がインジウム表面に存在する酸化膜中のインジウムイオンと相互作用してインジウムボールの表面に吸着される。それにより、インジウムボールの表面が疎水性となり、ボール同士の凝集が防止される。この吸着は、有機極性溶媒がインジウムイオンに配位することによりインジウムとの錯体を形成することにより起こると推測される。以下では、この推測に基づいて説明をするが、本発明はこの説明に拘束されるものではない。
【0053】
インジウムイオンと有機極性溶媒との相互作用は強く、有機極性溶媒で浸漬処理したインジウムボールを回収し、乾燥して溶媒を除去した後も、形成された錯体はインジウムボールの表面に維持され、凝集防止効果は持続する。錯体が表面に形成されたインジウムボールは、表面がやや硬くなるため、自重により変形することがない。表面の酸化と錯体形成は、インジウムボールの外観を変色させるほどではない。また、錯体形成はインジウムボールが本来有する柔らかさを大きく損ねることはないので、本発明のインジウムボールは本来のクッション性能(衝撃吸収性能)も十分に備える。
【0054】
前述した有機極性溶媒は、室温で液状であって、溶媒として機能するものであれば特に制限されない。有機極性溶媒は、好ましくは炭素数8以下、より好ましくは炭素数6以下、最も好ましくは炭素数4以下の脂肪族または環状脂肪族化合物である。このような有機極性溶媒は、分子が大きすぎないため、インジウムに配位しやすく、従ってインジウムボール表面で錯体を形成しやすい。本発明で使用するのに好適な有機極性溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、1−ペンタノール、イソペンチルアルコール、1−ヘキサノール、シクロヘキサノール(以上、アルコール);ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチルプロピルエーテル、メチルn−ブチルエーテル、テトラヒドロピラン、ジイソプロピルエーテル(以上、エーテル);アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、2−ヘキサノン、シクロヘキサノン、ジプロピルケトン、ジイソプロピルケトン、2−メチルシクロヘキサノン、4−メチルシクロヘキサノン(以上、ケトン);ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、酢酸ブチル、ギ酸ペンチル、酢酸イソアミル、カプロン酸エチル(以上、エステル)、メチルセロソルブ(エチレングリコールモノメチルエーテル)、エチルセロソルブ(エチレングリコールモノエチルエーテル)、ブチルセロソルブ(エチレングリコールモノn−ブチルエーテル)、セロソルブアセテート(エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート)(以上、セロソルブ);ジメチルスルホキシド(スルホキシド)、アセトニトリル、プロピロニトリル、ブチロニトリル(以上、ニトリル)、ならびにN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(以上、アミド)が挙げられる。
【0055】
使用する有機溶媒はインジウムの融点である156℃より沸点が低いものであることが好ましい。しかし、沸点がより高い有機極性溶媒でも、後述する浸漬処理をした後により低沸点の有機溶媒を用いて洗浄または溶媒置換処理を行うか、減圧乾燥することによりインジウムを融解させずに乾燥することが可能であるので、処理はより煩雑となるものの、使用可能である。従って、例えば、沸点189℃のジメチルスルホキシドといった高沸点の有機極性溶媒も使用することができる。
【0056】
ここで、有機極性溶媒で浸漬処理したインジウムボールが有機極性溶媒中および乾燥後においても凝集しないことを、図面を参照して説明する。
【0057】
図1(a)は表面に有機極性溶媒が配位していないインジウムボールの表面状態を示す模式図であり、
図1(b)はこのインジウムボールが凝集したときの接合面の近傍の状態を示す模式図である。
図2は有機極性溶媒(図示例ではアセトン)中においてインジウムボールに該溶媒が配位して錯体を形成する状況を示す模式図である。
図3(a)は、表面に有機極性溶媒が配位したインジウムボールの表面状態を示す模式図であり、
図3(b)は、隣接するこのインジウムボール間の状態を示す模式図である。
【0058】
従来のインジウムボールは、
図1(a)に示すように、インジウムボールの表面には錯体が形成されていない。インジウムボールの表面には自然酸化により生じた薄い酸化膜、すなわち酸化インジウム(In
2O
3)からなる層が存在する。この酸化膜中のインジウムはIn
3+の状態に酸化されている。このため、インジウムボール同士が接触すると、
図1(b)に示すように、一方のボールの酸化膜中のIn
3+が他方のボールのO
2−と化合してIn−O−Inイオン結合が形成される。インジウムは融点が156℃程度と低く、かつ柔らかいため、インジウムボール同士が接触すると、このようなイオン結合が形成されるのではないかと考えられる。その結果、インジウムボールは互いに密着し、かつ自重により塑性変形して、岩状の塊を生じ易い。
【0059】
一方、
図2に示すように、有機極性溶媒(図ではアセトン)中では、アセトン分子がインジウムボール表面外周を覆う表面酸化膜中に存在するインジウムイオン(In
3+)に配位する。この配位は、アセトン分子中のカルボニル基の電気的に陰性な(δ
−で表示)酸素原子の孤立電子対が電気的に陽性な(δ
+で表示)インジウムイオンに供与されることで起こる。前記配位により、ボール表面はインジウムイオンとアセトンとから形成された錯体で覆われる。配位時にアセトン分子のカルボニル基の酸素原子がインジウムボールの方を向くため、アセトン分子のメチル(CH
3)基はボールとは反対側の外側を向く。そのため、ボールの外周は疎水性のメチル基で覆われ、ボールは全体として疎水性の性質を帯びる。また、アセトン分子はインジウムイオンへの配位により電気的に陽性となる。こうして、インジウムボールは、ボール間の疎水性相互作用および/または静電相互作用により、互いに反発しあうようになる。その結果、インジウムボール同士の凝集が抑制される。つまり、従来のインジウムボールでみられるボールの接触によるイオン結合や金属結合による凝集が起こりにくい。
【0060】
図3に示すように、インジウムボールを有機極性溶媒から分離し、乾燥して溶媒を除去しても、ボール表面に配位した有機極性溶媒は除去されずに残存するので、上述したインジウムボールの凝集抑制作用はそのまま維持される。さらに、ボール表面に存在する錯体のために、ボールの表面硬度はいくらか高くなり、自重による塑性変形が起こりにくくなる。そのため、インジウムボールは乾燥後も良好な流動性を保持し、ボール同士が圧着して岩状の塊になることが防止される。
【0061】
本発明に係るインジウムボールにおけるボール表面に吸着した有機極性溶媒の存在は、GC−MS分析により確認することができる。
【0062】
・インジウムボール
本発明に係るインジウムボールの立体形状は典型的には球体であるが、多面体、特に
図5に示すような八面体、または、球体から八面体への変化の中間段階である、稜線が丸みを帯びた略八面体であってもよい。このような八面体および略八面体のインジウムボールは、球形のインジウムボールに超音波処理を行うことによって容易に製造することができる。この略八面体に加工したインジウムボールでは、インジウムの結晶面が八面体の各面を構成しているものと考えられる。
【0063】
八面体または略八面体に加工されたインジウムボールは、球形のインジウムボールより表面積が大きいので、例えばはんだ粉末としてフラックスと混合することによりソルダペーストペーストの調製に用いると、フラックスと馴染みやすい。なお、ソルダペーストは慣用手段により製造すればよく、使用するフラックスについても特に制限はない。
【0064】
インジウムボールの平均粒径は特に制限されず、用途に応じて選択することができるが、一般には1〜1000μmの範囲内であり、好ましくは1〜890μmの範囲内、より好ましくは1〜450μmの範囲内である。例えば、電子部品におけるはんだボールとして使用する場合、インジウムボールの平均粒径は、外部接合用では120〜980μmの範囲内、内部接合用では30〜120μmの範囲内であることが好ましい。一方、粉末としてソルダペーストの製造に使用する場合には、インジウムボールの平均粒径は1〜200μmの範囲内であることが好ましい。本発明における平均粒径は、体積累積粒度分布曲線の50%径である。八面体または略八面体の場合は最大径を粒径とする。
【0065】
本発明に係るインジウムボールは、溶融インジウムの液滴を冷却してインジウムボールを造粒し、造粒されたインジウムボールを回収して、アルコール、エーテル、β−ジケトン以外のケトン、エステル、セロソルブ、ニトリル、スルホキシド、およびアミドからなる群から選択される少なくとも1種の有機極性溶媒が入った容器に浸漬し、浸漬したインジウムボールを乾燥することを特徴とする方法により製造することができる。
【0066】
・インジウムボールの造粒
インジウムボールは、溶融インジウムの液滴を冷却することにより造粒される。造粒方法としては、油中造球法、アトマイズ法などが挙げられる。本発明では、インジウムボールの造粒方法は制限されず、いずれの方法を採用してもよい。
【0067】
油中造球法では、インジウム線を一定寸法に細かくカットしてから、溶融温度以上に加熱した油中に投入する。カットされたインジウム線は油中で溶融して、溶融インジウムの液滴が生成する。生成した液滴を油中で冷却して固化させるとインジウムボールが造粒される。冷却は、例えば、油の下部を上部より低温にすることによって行うことができる。この場合、投入されたインジウム線は、油中を降下するにつれて、まず溶融して溶融インジウムの液滴になった後、固化してインジウムボールとなる。油の下部を上部より低温にする手段は当業者には公知である。油の底部に沈降したインジウムボールは、油を収容する容器の底部から抜き出して回収することができる。油中造球法で使用する油は非極性であるので、回収されたインジウムボールは、そのままでは凝集を生ずる。
【0068】
アトマイズ法によるインジウムボールの造粒は、特許文献1に開示されているように、溶融インジウムをるつぼに収容し、るつぼの底部に設けたオリフィスからチャンバ内に溶融インジウムを滴下させ、生じた液滴をチャンバ内のガス雰囲気中で冷却することにより実施できる。別法として、オリフィスから落下した溶融インジウムを高圧のガスまたは水でチャンバ内に噴霧して、噴霧した溶融インジウムの液滴を冷却してインジウムボールを造粒する方法(ガスアトマイズ法または水アトマイズ法)も可能である。前者の方法はインジウムボールの粒径のばらつきが小さいという利点が、後者の方法は効率がよいという利点がある。
【0069】
・インジウムボールの捕集と浸漬処理
造粒された、表面酸化膜を有するインジウムボールを、アルコール、エーテル、β−ジケトン以外のケトン、エステル、セロソルブ、ニトリル、スルホキシド、およびアミドからなる群から選択される少なくとも1種の有機極性溶媒中に浸漬する。使用する溶媒は、1種でも2種以上でもよい。上述したように、浸漬に使用する有機極性溶媒には、少量であれば他の有機溶媒を含有させることができる。
【0070】
可能であれば、造粒されたインジウムボールを、浸漬に用いる有機極性溶媒が入った容器中に捕集する。それにより、造粒されたインジウムボールを外気に触れることなく、直ちに有機極性溶媒に浸漬することができる。例えば、アトマイズ法では、アトマイズチャンバー内の底部に配置した捕集容器に有機極性溶媒を入れておくことにより、ガス雰囲気中を落下してくるインジウムボールの捕集と浸漬処理を同時に行うことができる。捕集容器には、捕集されたインジウムボールを完全に浸漬させるのに十分な量の有機極性溶媒を予め入れておく。捕集容器としてはガラス瓶が挙げられるが、有機極性溶媒に対する耐薬品性があれば他の材質の容器も使用できる。
【0071】
しかし、造粒されたインジウムボールの回収から浸漬処理までにいくらかの時間(例、10分程度)が経過しても、その間にインジウムボールの塑性変形や凝着が起こっていなければ、浸漬処理による本発明の効果を得ることができることが判明した。従って、浸漬処理は、必ずしもインジウムボールの回収(捕集)と同時またはその直後に行う必要はない。
【0072】
例えば、油中造球法では、油を収容している容器から生成したボールを抜き出す排出口の下流側に捕集容器を設置し、インジウムボールから油を分離した後、ボールを、任意に非極性溶媒で洗浄した後、有機極性溶媒を入れた容器内に移して浸漬処理を行うことができる。
【0073】
この浸漬により、インジウムボールの表面のインジウムイオンと有機極性溶媒との間の配位による錯体形成反応であると推測される相互作用を進行させ、ボール表面に有機極性溶媒を吸着させる。浸漬時間はこの吸着に十分な時間とすればよく、有機溶媒の種類、インジウムボールおよび溶媒の温度などの条件に応じて適宜調整することができる。通常は、浸漬時間は1分以上24時間以下であり、好ましくは12時間以下である。
【0074】
吸着は室温で十分に進行するので、有機溶媒やインジウムボールの温度は特に制限されない。ただし、特に捕集と浸漬を同時に行う場合には、捕集までにインジウムボールが使用する有機溶媒の沸点より低い温度に冷却されていることが好ましい。必要であれば、捕集容器を外部冷却することにより、容器内の温度を一定に保持することもできる。
【0075】
・インジウムボールの乾燥
有機極性溶媒中に浸漬したインジウムボールを適当な慣用手段により該溶媒から分離した後、インジウムボールの表面に残留する、吸着(錯体形成)していない有機極性溶媒をボール表面から取り除くため、インジウムボールを乾燥する。インジウムボールの表面に形成された錯体は、前述のように、乾燥後においてもインジウムボールの表面に維持される。
【0076】
使用した有機極性溶媒が室温放置で揮発する場合は、大気中に放置するだけで、吸着していない有機極性溶媒を取り除き、インジウムボールを乾燥させることができる。短時間で乾燥させて完全に有機極性溶媒を取り除きたい場合や、室温放置では乾燥できない場合には、有機溶媒の沸点近傍またはそれ以上の温度に加熱してもよい。もちろん、乾燥温度はインジウムの融点(156℃)以下とし、好ましくは該融点より10℃以上は低い温度とする。乾燥中のインジウムボールの不要な酸化を抑制するため、乾燥を窒素気流などの不活性ガス気流中で実施してもよい。
【0077】
使用した有機極性溶媒の沸点が高く、加熱による乾燥が難しい場合には、減圧乾燥するか、或いは別のより低沸点の溶媒で洗浄または溶媒置換することによりインジウムボールの乾燥を行うことができる。この時に使用する置換用の溶媒は非極性溶媒であっても極性溶媒であってもよい。
【0078】
本発明では、インジウムボールの表面積を高めたい場合、任意に下記の加工工程を追加することができる。
【0079】
・インジウムボールの加工
インジウムボールの表面積を高めたい場合、造粒されたインジウムボールに、前記浸漬工程中から前記乾燥工程後までの時点で超音波処理を施してもよい。この超音波処理により、インジウムボールは、
図4に示すような稜線が丸みを帯びた略八面体の立体形状を経て、
図5に示すような稜線が明確な八面体の立体形状に変化する。
図4のSEM写真の倍率は550倍であり、
図5のSEM写真の倍率は40倍である。八面体は球体より表面積が大きい。
【0080】
超音波処理を浸漬工程中に実施すれば、浸漬処理による有機極性溶媒の吸着とボールの加工を同時に進行させることができ、効率がよい。しかし、浸漬処理をすませたインジウムボールに超音波処理を施すことも可能である。この場合には、超音波処理は液体中で行われため、インジウムボール(例、乾燥インジウムボール)を再び液体中に分散させて超音波処理を行い、インジウムボールを回収し、乾燥させる必要がある。使用する液体は、浸漬処理に用いたのと同じまたは異なる有機極性溶媒とすることが好ましい。
【0081】
一般に粒径が1〜1000μm程度と微小な金属ボールは、所望の形状に加工することが困難である。しかし、インジウムボールの場合、単に超音波処理を施すだけで、表面積の高い略八面体形状または八面体形状のインジウムボールを容易に製造することができる。その理由は完全には解明されていないが、インジウムが低融点であるため、超音波処理によりインジウムボールが局所的に溶融して、再結晶のように結晶成長していくことで、インジウムの結晶面が露出するためと考えられる。
【0082】
超音波処理は、本発明で浸漬(錯体形成)に使用する前述した有機極性溶媒中で行うことが好ましい。ボールの磨耗によりインジウムが露出しても、有機極性溶媒と接触することにより直ちに錯体を形成することができるからである。超音波処理時間は、インジウムボールの粒径にもよるが、有機極性溶媒の種類によらず、5分以上の超音波の印加により八面体を形成することができる。ボールの粒径が大きい場合には、再結晶化が進行するのにより長い時間を要するため、超音波の印加時間を長くする。必要な印加時間は当業者であれば容易に決定できる。超音波処理は、例えば、一般的な超音波洗浄機を用いて実施することができる。
【0083】
本発明に係るインジウムボールの製造方法は、所定の有機溶媒を入れた容器にインジウムボールを捕集するだけで実施できる。従って、特別な設備を追加することなく、凝集や化学結合が発生しないインジウムボールを製造することができる。
【0084】
本発明によれば、これまでは困難であった、凝集が抑制されたインジウムボールを容易に製造することが可能となる。インジウムボールは、非常に柔らかく、クッション性に優れている上、低融点であるので、Pb系はんだ合金の代替品として使用できる。それにより、Pb系はんだ合金と同様に、熱衝撃や機械的な衝撃に対する耐衝撃性に優れ、信頼性の高いはんだ継手を形成することができる。また、インジウムは一般に濡れ性にも優れている。ボール表面に有機極性溶媒が吸着していても、インジウムボール本来の優れた濡れ性は保持される。本発明は、衝撃による損傷や熱による損傷のリスクが高い電子部品の接合に適したインジウムボールを、設備投資をせずに容易に製造することができる点で、産業上極めて有益である。
【実施例】
【0085】
平均粒径100μmのインジウムボール(純度99.996〜99.997%)を、慣用のアルゴンガスアトマイズ法で造粒し、チャンバ内のアルゴンガス中を落下する間に冷却した後、チャンバ底部に置いた表1に記載の有機極性溶媒100ccを入れた容量200ccのガラス瓶の容器に約10gのインジウムボールを捕集して、容器内で該溶媒中に浸漬させた。処理はすべて室温で実施した。インジウム中に含まれる主要な不純物はSn、Bi、Fe、Pbであり、量的にはBiがその大半を占めていた。
【0086】
ガラス瓶をアトマイズ装置のチャンバから取り出し、インジウムボールを溶媒中に12時間浸漬させた後、バットに溶媒ごと移し、上澄みの溶媒をデカンテーションによりできるだけ取り除いた後、そのまま1時間自然乾燥させた。乾燥したインジウムボールを空のガラス瓶に保存した。
【0087】
ガラス瓶に30分間保存した後、ガラス瓶を1分間振動させてインジウムボールの流動性を確認した。また、浸漬後に自然乾燥させた後のインジウムボールのSEM写真を撮影した。比較のため、有機極性溶媒の入っていない空のガラス瓶に造粒されたインジウムボールを捕集することにより得られたインジウムボール(浸漬処理なし)についても、流動性の評価とSEM写真の撮影を同様に実施した。
【0088】
インジウムボールの流動性の評価は、1分間振動を与える振動試験中にインジウムボールが流動しているかどうかを目視にて確認することと、SEM写真によりインジウムボールが分散しているかどうかを確認することにより実施した。評価基準は以下のとおりであり、レベル4または3であれば実用に許容できる。試験結果を表1に示す。
【0089】
・レベル4:振動試験において同一球径のSn−3.0%Ag−0.5%Cuはんだ合金ボールと同等の流動性を示す。SEM写真でインジウムボールが1個ずつ分散していることを確認できる。
【0090】
・レベル3:振動試験において同一球径のSn−3.0%Ag−0.5%Cuはんだ合金ボールより流動性が若干劣る。SEM写真ではインジウムボールが1個ずつ分散していることを確認できる。
【0091】
・レベル2:振動試験において同一球径のSn−3.0%Ag−0.5%Cuはんだ合金ボールより流動性が極めて劣る。SEM写真ではインジウムボールが1個ずつ分散していることを確認できる。
【0092】
・レベル1:インジウムボール同士が凝集しているため、振動試験で流動性を評価できない。SEM写真でもインジウムボールの凝集を確認できる。
【0093】
【表1】
【0094】
図6(a)は有機極性溶媒としてアセトンを用いたインジウムボールのSEM写真であり、
図6(b)は有機極性溶媒としてメチルエチルケトンを用いたインジウムボールのSEM写真であり、
図6(c)は有機極性溶媒としてイソプロピルアルコールを用いたインジウムボールのSEM写真であり、
図6(d)は有機極性溶媒に浸漬していないインジウムボールのSEM写真である。SEM写真の倍率はいずれも40倍である。
【0095】
図6(d)に示す浸漬処理をしなかった無処理のインジウムボールは、SEM写真でも凝集していることがはっきりわかり、流動性レベルは1と非常に悪かった。これに対し、
図6(a)〜(c)に示す本発明に従って有機極性溶媒に浸漬したインジウムボールは、いずれも流動性が良好であり(流動性レベルは3または4)、個々に分離していることがわかった。また、浸漬時間を30分にした場合も、同様の結果が得られたことを確認した。
【0096】
このような無処理のインジウムボールと本発明に従ったインジウムボールとの流動性レベルの差異から、本発明に従ったインジウムボールでは有機極性溶媒がボール表面に吸着されていることが推測される。実際にボール表面に有機極性溶媒が存在していることは、GC−MS分析により確認された。従って、インジウムボールの表面に有機極性溶媒が吸着している。この吸着は、ボール表面のインジウムイオンと有機極性溶媒との間の配位結合による錯体形成による化学吸着であると推定される。
【0097】
一方、無機極性溶媒である水、酸性を呈するβ−ジケトンであるアセチルアセトン、非極性溶媒であるp−キシレンおよびヘキサンでは、SEM写真ではインジウムボールが1個ずつ分散していることが確認できるが、流動性レベルが2または1と著しく劣っていた。有機極性溶媒であっても、ハロゲン化炭化水素である2−ブロモプロパンでは、流動性レベルが著しく劣った。
【0098】
本実施例で製造したインジウムボールのα線量を測定した。α線量の測定には、ガスフロー比例計数器のα線測定装置を用いた。測定サンプルは300mm×300mmの平面浅底容器にインジウムボールボールを敷き詰めたものである。この測定サンプルをα線測定装置内に入れ、PR−10ガスフローにてα線量を測定した。なお、測定に使用したPR−10ガス(アルゴン90%−メタン10%)は、PR−10ガスをガスボンベに充填してから3週間以上経過したものである。3週間以上経過したボンベを使用したのは、ガスボンベに進入する大気中のラドンによりα線が発生しないように、JEDEC(Joint Electron Device Engineering Council)で定められたα線測定方法の指針に従ったためである。測定されたα線量は、いずれのインジウムボールについて、0.0010cph/cm
2未満であった。またこのインジウムボールのα線量を1年経過後に同様に測定したところ、α線量の上昇はみられなかった。
【0099】
また、前記の12時間の浸漬中に、超音波処理を1時間間行うことにより、いずれの溶媒でも
図4に示す略八面体形状に加工されることを確認した。超音波処理を6時間行うと、
図5に示す稜線が明確な八面体形状に加工された。超音波処理は、一般的な超音波洗浄機であるアズワン株式会社社製US−CLEANERを用いて実施した。