(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記有機溶剤Aは、アセトフェノン、アニソール、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸2−ヘキシル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ヘキシル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジイソブチルケトン、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピネオールアセテート、ターピネオール、ターピネオールアセテート、トリアセチン、フェネトール、ブチルアセテート、ブチルブチレート、プロピオン酸イソペンチル、ヘキシルアセテート、ヘプチルアセテート、ベンジルアセテート、ベンジルアルコール、メチルn−アミルケトン、メチルイソブチルケトンおよびメチルエチルケトンの少なくとも一つから選択されていること、を特徴とする、請求項2に記載の導電性ペースト。
前記有機溶剤Bは、α−ピネン、ヘキサン、オクタン、ドデカン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンおよびD−リモネンの少なくとも一つから選択されていること、を特徴とする、請求項4に記載の導電性ペースト。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の半導体用電極を形成するために、少なくともセルロースアセテートブチレート樹脂とNi粉末とを含んだ導電性ペーストが用いられた場合、導電性ペーストが印刷されるときに、印刷擦(かす)れなどによって、印刷塗膜が形成されていない箇所が生じるという欠陥が発生することがある。
【0007】
つまり、特許文献1のように、セルロースアセテートブチレート樹脂をバインダの主成分とした導電性ペーストは、導電性ペーストが転写対象の半導体シートに転写されず、印刷欠陥が生じることがある。この印刷欠陥は、導電性ペーストの流動性が低下する(粘度が高くなる)ことが原因である。そして、この導電性ペーストの流動性の低下は、Ni粉末表面へのセルロースアセテートブチレート樹脂吸着量が少ないことに起因すると推定されている。
【0008】
それゆえに、本発明の目的は、ペーストの流動性が適正に維持され、優れた印刷性が得られる導電性ペーストおよびセラミック電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、Ni粉末とバインダ樹脂成分と有機溶剤A
と有機溶剤B
とを含む導電性ペーストであって、(a)Ni粉末の平均一次粒径は30〜400nmであり、(b)バインダ樹脂成分はセルロースアセテートブチレートであり、(c)有機溶剤Aは、バインダ樹脂成分のセルロースアセテートブチレートとのΔδ値が11.5以下である溶剤であり、(d)
有機溶剤Aとは異なる有機溶剤Bは、バインダ樹脂成分のセルロースアセテートブチレートとのΔδ値が11.5〜25.0の範囲である溶剤であり、(e)有機溶剤Bの存在比は、有機溶剤Aと有機溶剤Bとの合計有機溶剤の5.0〜40.0重量%であること、を特徴とする、導電性ペーストである。
【0010】
ここで、平均一次粒子は、金属粉末を構成する最も小さい平均粒径の粒子をいう。また、Δδ値は、2成分の溶解度の目安となるものであり、2つの溶液成分の溶解性パラメータ値(δ値またはSP値とも称する)の差を意味する。2つの溶液成分は、Δδ値が小さいほど溶解度が大となり(溶解し易く)、Δδ値が大きいほど溶解度が小となる(溶解し難い)性質を有している。
【0011】
本発明では、Ni粉末の平均一次粒径が30〜400nmと微粒子(フィラー)であるため、バインダ樹脂成分とNi粉末とで形成する構造粘性が強く発現される。すなわち、バインダ樹脂成分の高分子の絡み合いやNi金属粒子同士の相互作用の構造が壊れて、流動性が生み出されて粘度が下がる。
【0012】
さらに、有機溶剤Aは、バインダ樹脂成分のセルロースアセテートブチレートとのΔδ値が11.5以下である溶剤であるため、セルロースアセテートブチレートに対して良溶媒となり、ビヒクルが作製される。その後、有機溶剤Bが添加される。有機溶剤Bは、バインダ樹脂成分のセルロースアセテートブチレートとのΔδ値が11.5〜25.0の範囲である溶剤であるため、セルロースアセテートブチレートに対して貧溶媒となり、ペーストの流動性が確保される。
【0013】
ここで、良溶媒とは、ある物質に対して溶解度が大きい溶媒をいう。また、貧溶媒とは、ある物質に対して溶解度が小さい溶媒をいう。
【0014】
さらに、有機溶剤Bの存在比が、有機溶剤Aと有機溶剤Bとの合計有機溶剤の5.0重量%未満の場合は、良好な印刷塗膜が得難くなる。また、有機溶剤Bの存在比が、有機溶剤Aと有機溶剤Bとの合計有機溶剤の40.0重量%を超える場合は、導電性ペースト中のNi金属粒子が沈降分離する。
【0015】
また、本発明は、有機溶剤Aが、アルコー
ル、エーテ
ル、エステ
ルおよびケト
ンの少なくとも一つから選択されている有機溶剤であること、を特徴とする、導電性ペーストである。
【0016】
より具体的には、有機溶剤Aは、アセトフェノン、アニソール、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸2−ヘキシル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ヘキシル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジイソブチルケトン、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピネオールアセテート、ターピネオール、ターピネオールアセテート、トリアセチン、フェネトール、ブチルアセテート、ブチルブチレート、プロピオン酸イソ
ペンチル、ヘキシルアセテート、ヘプチルアセテート、ベンジルアセテート、ベンジルアルコール、メチルn−アミルケトン、メチルイソブチルケトンおよびメチルエチルケトンの少なくとも一つから選択されている。
【0017】
また、有機溶剤Bが、炭化水
素から選択されている有機溶剤であること、を特徴とする、導電性ペーストである。
【0018】
より具体的には、有機溶剤Bは、α−ピネン、ヘキサン、オクタン、ドデカン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンおよびD−リモネンの少なくとも一つから選択されている。
【0019】
本発明では、有機溶剤Aや有機溶剤Bが前記有機溶剤群の中から選択されているため、導電性ペーストのペースト化が容易になる。
【0020】
また、本発明は、セラミック固形成分が更に導電性ペーストに含有されており、セラミック固形成分は、ABO
3のぺロブスカイト型構造を有し、AはBa、CaおよびSrの少なくとも一つから選択され、BはTiおよびZrの少なくとも一つから選択されていること、を特徴とする、導電性ペーストである。
【0021】
本発明では、セラミック固形成分が、Ni粉末の焼結抑制材料として機能する。
【0022】
また、本発明は、バインダ樹脂成分のセルロースアセテートブチレートは、重量平均分子量が5000から650000の重合体であること、を特徴とする、導電性ペーストである。
【0023】
本発明では、バインダ樹脂成分のセルロースアセテートブチレートの重量平均分子量が5000未満の場合は、Ni粉末が凝集し、導電性ペーストの塗膜平滑性が悪化する。また、バインダ樹脂成分のセルロースアセテートブチレートの重量平均分子量が650000を超える場合は、導電性ペーストが高粘度化し、印刷欠陥が発生する。
【0024】
また、本発明は、前述の導電性ペーストを用いて導体パターンが形成されていること、を特徴とする、セラミック電子部品である。
【0025】
本発明では、ペーストの流動性が適正に維持され、優れた印刷性が得られる導電性ペーストによって、導体パターンがセラミック上に形成されているため、印刷欠陥が生じ難いセラミック電子部品を提供することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ペーストの流動性が適正に維持され、優れた印刷性が得られる導電性ペーストを得ることができる。
【0027】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う以下の発明を実施するための形態の説明から一層明らかとなろう。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に係る導電性ペーストおよびその導電性ペーストを用いて導体パターンが形成されたセラミック電子部品の一実施の形態を、その製造方法と共に説明する。セラミック電子部品は、例えば、積層セラミックコンデンサ、積層セラミックインダクタ、積層セラミックサーミスタのような受動素子や、素子間を電気的に接続する配線導体が形成されている多層セラミック基板などである。本実施の形態では、セラミック電子部品として、積層セラミックコンデンサを例にして説明する。
【0030】
1.導電性ペースト
導電性ペーストは、Ni粉末とバインダ樹脂成分と有機溶剤Aと有機溶剤Bとセラミック固形成分とを含んでいる。
【0031】
Ni粉末の平均一次粒径は、30〜400nmと微粒子であるため、バインダ樹脂成分とNi粉末とで形成する構造粘性が強く発現される。
【0032】
バインダ樹脂成分はセルロースアセテートブチレートである。セルロースアセテートブチレートは、重量平均分子量が5000から650000の重合体である。セルロースアセテートブチレートの重量平均分子量が5000未満の場合は、Ni粉末が凝集し、導電性ペーストの塗膜平滑性が悪化する。また、セルロースアセテートブチレートの重量平均分子量が650000を超える場合は、導電性ペーストが高粘度化し、印刷欠陥が発生する。
【0033】
有機溶剤Aは、バインダ樹脂成分のセルロースアセテートブチレートとのΔδ値が11.5以下である溶剤である。有機溶剤Aは、アルコー
ル、エーテ
ル、エステ
ルおよびケト
ンの少なくとも一つから選択されている。
【0034】
より具体的には、有機溶剤Aは、アセトフェノン、アニソール、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸2−ヘキシル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ヘキシル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジイソブチルケトン、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピネオールアセテート、ターピネオール、ターピネオールアセテート、トリアセチン、フェネトール、ブチルアセテート、ブチルブチレート、プロピオン酸イソ
ペンチル、ヘキシルアセテート、ヘプチルアセテート、ベンジルアセテート、ベンジルアルコール、メチルn−アミルケトン、メチルイソブチルケトンおよびメチルエチルケトンの少なくとも一つから選択されている。
【0035】
有機溶剤Bは、バインダ樹脂成分のセルロースアセテートブチレートとのΔδ値が11.5〜25.0の範囲である溶剤である。有機溶剤Bは、炭化水
素から選択されている。
【0036】
より具体的には、有機溶剤Bは、α−ピネン、ヘキサン、オクタン、ドデカン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンおよびD−リモネンの少なくとも一つから選択されている。
【0037】
有機溶剤Bの存在比は、有機溶剤Aと有機溶剤Bとの合計有機溶剤の5.0〜40.0重量%である。有機溶剤Bの存在比が、有機溶剤Aと有機溶剤Bとの合計有機溶剤の5.0重量%未満の場合は、ペーストの流動性低下防止効果が弱くなる。また、有機溶剤Bの存在比が、有機溶剤Aと有機溶剤Bとの合計有機溶剤の40.0重量%を超える場合は、導電性ペースト中のNi金属粒子が沈降分離してしまう。
【0038】
本発明では、有機溶剤Aや有機溶剤Bが前記有機溶剤群の中から選択されているため、導電性ペーストのペースト化が容易になる。
【0039】
また、セラミック固形成分は、ABO
3のペロブスカイト型構造を有し、AはBa、CaおよびSrの少なくとも一つから選択され、BはTiおよびZrの少なくとも一つから選択されている。セラミック固形成分は、Niの焼結抑制材料として機能する。
【0040】
2.導電性ペーストの製造方法
次に、導電性ペーストの製造方法を、
図1に示したフローチャートを参照して説明する。
【0041】
図1のステップS1で、Ni粉末と、バインダ樹脂成分のセルロースアセテートブチレートと、有機溶剤Aと、焼結抑制成分としてセラミック粉末と、が所定量秤量される。
次に、ステップS2で、それぞれの前記材料が撹拌されて第1ミルベースが作製される。有機溶剤Aは、バインダ樹脂成分のセルロースアセテートブチレートとのΔδ値が11.5以下である溶剤であるため、セルロースアセテートブチレートに対して良溶媒である。従って、セルロースアセテートブチレートが有機溶剤Aの中に浮遊し、ビヒクルが作製される。必要に応じて、任意量の分散剤が混練されてもよい。
【0042】
次に、ステップS3で、3本ロールミル等の分散方法によって、第1ミルベースが混練されてNi粉末が均一に分散され、第2ミルベースが作製される。
【0043】
その後、ステップS4で、第2ミルベースに、所定量のセルロースアセテートブチレートと、有機溶剤Aおよび有機溶剤Bとが秤量される。
次に、ステップS5で、それぞれの前記材料が第2ミルベースに混入および撹拌され、粘度が調整されながら導電性ペーストが作製される。このとき、任意量の添加剤が添加されてもよい。
【0044】
有機溶剤Bは、バインダ樹脂成分のセルロースアセテートブチレートとのΔδ値が11.5〜25.0の範囲である溶剤であるため、セルロースアセテートブチレートに対して貧溶媒である。従って、有機溶剤Bが混入されると、セルロースアセテートブチレートが有機溶剤Bから逃げて、Ni金属粒子表面へ移動する。つまり、Ni金属粒子は、セルロースアセテートブチレート吸着量が多い状態となる。この吸着したセルロースアセテートブチレート同士は、架橋等の相互作用によって流動性を生み出す。このため、セルロースアセテートブチレートを使用しても、ペーストの流動性の確保が可能になる。
【0045】
なお、Ni粉末の平均一次粒径が30〜400nmの微粒子(フィラー)であるので、Ni金属粒子のバインダ樹脂成分吸着表面積が大きくなり、粘度が下がる効果が顕著に発現する。
【0046】
3.セラミック電子部品
図2は、前述の導電性ペーストを用いて内部電極が形成された積層セラミックコンデンサ1を示す長さ方向の垂直断面図である。なお、本発明は、LCフィルタ、LCモジュール等にも応用できる。
【0047】
積層セラミックコンデンサ1は、セラミック本体10と、セラミック本体10の左右の端部に形成された外部電極20,22とを備えている。
【0048】
セラミック本体10は、複数の内層用セラミック層11と、複数の内層用セラミック層11同士の界面に配設された複数の内部電極12,13と、複数の内層用セラミック層11を挟むように上下に配設された外層用セラミック層15a,15bとで構成された直方体形状の積層体構造を有している。
【0049】
内部電極12と内部電極13とは、厚み方向において、誘電体材料からなる内層用セラミック層11を介して対向している。この内部電極12と内部電極13とが、内層用セラミック層11を介して対向している部分に静電容量が形成されている。内部電極12,13は、前述の導電性ペーストを用いて作製されている。
【0050】
内部電極12の左側端部は、セラミック本体10の左側の端面に引き出されて外部電極20に電気的に接続されている。内部電極13の右側端部は、セラミック本体10の右側の端面に引き出されて外部電極22に電気的に接続されている。
【0051】
以上の構成からなる積層セラミックコンデンサ1は、内部電極12,13が、前述のペーストの流動性が低下し難く、優れた印刷性が得られる導電性ペーストを用いて作製されているため、印刷欠陥が生じ難い積層セラミックコンデンサ1を得ることができる。
【0052】
3.セラミック電子部品の製造方法
次に、前述の積層セラミックコンデンサ1の製造方法を説明する。
【0053】
誘電体粉末に、トルエン・エキネンなどの有機溶媒が加えられて混合される。その後、さらにバインダおよび可塑剤が加えられて混合され、スラリーが作製される。このスラリーは、ドクターブレード法によって、内層もしくは外層用セラミックグリーンシートに成形される。
【0054】
次に、内層用セラミックグリーンシート上に、前述の導電性ペーストがスクリーン印刷、インクジェット印刷、グラビア印刷などの方法によって印刷され、内部電極12,13となる導電性ペースト膜(生の導体パターン)が形成される。
【0055】
次に、導電性ペースト膜が形成された内層用セラミックグリーンシートは、導電性ペースト膜の端部の引き出し方向が互い違いになるように、複数枚積層される。さらに、複数枚の外層用セラミックグリーンシート層が、積層された内層用セラミックグリーンシートを挟むように上下に積層されて圧着される。こうして、積層セラミックコンデンサ1の本体となるべき未焼成の積層体であるセラミック本体10が形成される。
【0056】
次に、この未焼成のセラミック本体10は、所定の製品サイズに切り分けられる。切り分けられた未焼成のセラミック本体10は焼成され、焼結したセラミック本体10とされる。
【0057】
内層用および外層用セラミックグリーンシートと導電性ペースト膜とは同時焼成され、内層用セラミックグリーンシートは内層用セラミック層11となり、外層用セラミックグリーンシートは外層用セラミック層15a,15bとなり、導電性ペースト膜は内部電極12,13となる。
【0058】
次に、焼結したセラミック本体10の両端部に、それぞれ、Cuペーストが塗布されて焼き付けられ、内部電極12,13に電気的に接続された外部電極20,22が形成される。さらに、外部電極20,22の表層に、湿式めっきによってNi−Snめっきが形成される。こうして、積層セラミックコンデンサ1が得られる。
【実施例】
【0059】
実施例および比較例の試料が作製され、導電性ペーストの特性(印刷特性、分散安定特性、塗膜平滑特性)の評価が行われた。
【0060】
1.実施例および比較例の特性評価方法
(印刷特性)
図1に示した製造方法で作製された導電性ペーストが、スクリーン印刷法によって、積層セラミックコンデンサ1の内層用セラミックグリーンシート(厚みが10μm)上に印刷された。その後、乾燥炉で所定の温度および時間で乾燥され、内部電極12,13となる導電性ペースト膜(生の導体パターン)が表面に形成された内層用セラミックグリーンシートが作製された。
【0061】
次に、内層用セラミックグリーンシートの印刷塗膜表面(導電性ペースト膜が形成されている側のシート表面)が光学顕微鏡で観察され、印刷欠陥(擦れて導電性ペースト膜が形成されていない箇所)の有無が評価された。印刷欠陥が「無い」場合は「○」と判定し、印刷欠陥が「有る」場合は「×」と判定した。
【0062】
(分散安定特性)
図1に示した製造方法で作製された導電性ペーストが、保管容器に入れられ、常温にて30日間放置された。その後、比重瓶法により、容器に入れられた導電性ペーストの上層部分の比重と下層部分の比重とが測定された。導電性ペーストの比重差が0.10以上の場合は、沈降分離が「有る」として「×」と判定した。導電性ペーストの比重差が0.10未満の場合は、沈降分離が「無い」として「○」と判定した。
【0063】
(塗膜平滑特性)
図1に示した製造方法で作製された導電性ペーストが、スクリーン印刷法によってガラス基板上に膜厚が10μmになるように印刷された。その後、乾燥炉で所定の温度および時間で乾燥され、導電性ペースト膜が表面に形成されたガラス基板が作製された。
【0064】
次に、ガラス基板上の導電性ペースト膜の表面が電子顕微鏡で撮影され、1mm
2の観察面積の中に存在している、大きさが1.0μm以上の塊状物が計数された。塊状物の個数が300個を超える場合は「×」と判定し、塊状物の個数が300個以下の場合は「○」と判定した。
【0065】
(総合判定)
前記評価項目(印刷特性、分散安定特性、塗膜平滑特性)の判定のうち、少なくとも1つの評価項目の中に「×」があれば、総合判定は「×」とされた。
【0066】
2.第1実施例および第1比較例
(第1実施例および第1比較例の試料の作製)
第1実施例の試料1〜10の導電性ペーストが、表1に示す材料を用いて、
図1に示した製造方法で作製された。同様の製造方法で、本発明の範囲外である第1比較例の試料11〜16の導電性ペーストが、表2に示す材料を用いて作製された。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
第1実施例の試料1〜10は、セルロースアセテートブチレート(表1中においては「CAB」と記載する)と有機溶剤AとのΔδが、1.0、5.1、7.0、10.5、11.5の5種類になるように条件設定された。一方、第1比較例の試料11〜16は、セルロースアセテートブチレートと有機溶剤AとのΔδが、12.0、7.0、10.5の3種類になるように条件設定された。
【0070】
また、第1実施例の試料1〜10は、セルロースアセテートブチレートと有機溶剤BとのΔδが、12.5、11.5、16.2、20.6、25.0の5種類になるように条件設定された。一方、第1比較例の試料11〜16は、セルロースアセテートブチレートと有機溶剤BとのΔδが、12.5、10.5、27.8、30.3の4種類になるように条件設定された。
【0071】
さらに、第1実施例の試料1〜10は、Ni粉末の平均一次粒径が30〜400nmの範囲になるように条件設定された。一方、第1比較例の試料11〜16は、Ni粉末の平均一次粒径が20〜450nmの範囲になるように条件設定された。
【0072】
(第1実施例および第1比較例の特性評価結果)
表1から明らかなように、第1実施例の試料1〜10の場合(すなわち、Δδの値が1.0〜11.5の有機溶剤Aを用い、Δδの値が11.5〜25.0の有機溶剤Bを用い、かつ、Ni粉末の平均一次粒径は30〜400nmである導電性ペーストの場合)は、良好な印刷塗膜が得られた。
【0073】
これに対して、表2から明らかなように、第1比較例の試料11の場合(すなわち、Δδの値が12.0の有機溶剤Aを用いた導電性ペーストの場合)は、導電性ペーストが沈降分離した。
【0074】
また、第1比較例の試料12の場合(すなわち、Δδの値が10.5の有機溶剤Bを用いた導電性ペーストの場合)は、印刷欠陥が発生した。一方、第1比較例の試料13、14の場合(すなわち、Δδの値が27.8、30.3の有機溶剤Bを用いた導電性ペーストの場合)は、ペーストが沈降分離した。
【0075】
さらに、第1比較例の試料15の場合(すなわち、Ni粉末の平均一次粒径が20nmと小さい導電性ペーストの場合)は、導電性ペーストの粘度が高く、印刷時に擦れを伴う印刷欠陥が発生した。一方、第1比較例の試料16の場合(すなわち、Ni粉末の平均一次粒径が450nmと大きい導電性ペーストの場合)は、導電性ペーストが転写されないという印刷欠陥が発生した。
【0076】
3.第2実施例および第2比較例
(第2実施例および第2比較例の試料の作製)
第2実施例の試料17〜20の導電性ペーストが、表3に示す材料を用いて、
図1に示した製造方法で作製された。同様の製造方法で、本発明の範囲外である第2比較例の試料21、22の導電性ペーストが、表4に示す材料を用いて作製された。
【0077】
【表3】
【0078】
【表4】
【0079】
第2実施例の試料17〜20は、有機溶剤Bの存在比率が、有機溶剤Aと有機溶剤Bとの合計有機溶剤の5.0、15.0、25.0、40.0重量%の4種類になるように条件設定された。一方、第2比較例の試料21、22は、有機溶剤Bの存在比率が、有機溶剤Aと有機溶剤Bとの合計有機溶剤の3.0、50.0重量%の2種類になるように条件設定された。
【0080】
(第2実施例および第2比較例の特性評価結果)
表3から明らかなように、第2実施例の試料17〜20の場合(すなわち、有機溶剤Bの存在比率が、有機溶剤Aと有機溶剤Bとの合計有機溶剤の5.0〜40.0重量%である導電性ペーストの場合)は、良好な印刷塗膜が得られた。
【0081】
これに対して、表4から明らかなように、第2比較例の試料21の場合(すなわち、有機溶剤Bの存在比率が、有機溶剤Aと有機溶剤Bとの合計有機溶剤の3.0重量%と低い導電性ペーストの場合)は、印刷欠陥が発生した。一方、第2比較例の試料22の場合(すなわち、有機溶剤Bの存在比率が、有機溶剤Aと有機溶剤Bとの合計有機溶剤の50.0重量%と高い導電性ペーストの場合)は、ペースト中のNi粉末が沈降分離した。
【0082】
4.第3実施例
(第3実施例の試料の作製)
第3実施例の試料23〜48の導電性ペーストが、表5に示す材料を用いて、
図1に示した製造方法で作製された。第3実施例は、有機溶剤Aおよび有機溶剤Bの条件設定として、それぞれ種々の溶剤が選択されて作製された。
【0083】
【表5】
【0084】
(第3実施例の特性評価結果)
表5から明らかなように、第3実施例で用いられた有機溶剤Aと有機溶剤Bとを使用した導電性ペーストは、全て良好な印刷塗膜が得られた。
【0085】
5.第4実施例および第4比較例
(第4実施例および第4比較例の試料の作製)
第4実施例の試料49〜53の導電性ペーストが、表6に示す材料を用いて、
図1に示した製造方法で作製された。同様の製造方法で、第4比較例の試料54、55の導電性ペーストが、表7に示す材料を用いて作製された。
【0086】
【表6】
【0087】
【表7】
【0088】
第4実施例の試料49〜53は、バインダ樹脂であるセルロースアセテートブチレートの重量平均分子量が5000〜650000の範囲になるように条件設定された。一方、第4比較例の試料54、55は、セルロースアセテートブチレートの重量平均分子量が2500、780000の2種類になるように条件設定された。
【0089】
(第4実施例および第4比較例の特性評価結果)
表6から明らかなように、第4実施例の試料49〜53の場合(すなわち、セルロースアセテートブチレート樹脂の重量平均分子量が5000〜65000の範囲である導電性ペーストの場合)は、良好な印刷塗膜が得られた。
【0090】
これに対して、表7から明らかなように、第4比較例の試料54の場合(すなわち、セルロースアセテートブチレートの重量平均分子量が2500と低い導電性ペーストの場合)は、塊状物が300を超え、塗膜平滑性が劣化した。一方、第4比較例の試料55の場合(すなわち、セルロースアセテートブチレートの重量平均分子量が780000と高い導電性ペーストの場合)は、ペーストが高粘度化し、印刷欠陥が発生した。
【0091】
なお、この発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形される。