特許第5971519号(P5971519)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5971519
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】車両用エンジンのフライホイール
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/30 20060101AFI20160804BHJP
   F16F 15/32 20060101ALI20160804BHJP
   F02B 77/00 20060101ALI20160804BHJP
   F02B 61/06 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   F16F15/30 Z
   F16F15/32 G
   F02B77/00 K
   F02B61/06 F
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-170907(P2012-170907)
(22)【出願日】2012年8月1日
(65)【公開番号】特開2014-31802(P2014-31802A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2015年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080056
【弁理士】
【氏名又は名称】西郷 義美
(72)【発明者】
【氏名】小林 龍三郎
【審査官】 保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−163361(JP,A)
【文献】 実開平06−058257(JP,U)
【文献】 特開2003−004101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B61/00−79/00
F16F15/00−15/315
15/32−15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックと外縁部が前記シリンダブロックの下部に締結部材により締結されるオイルパンとを備えるエンジンを設け、前記エンジンの端部にクラッチを介して変速機を連結し、前記エンジンの出力軸には前記オイルパンの外縁部に近接するように配置したフライホイールを取り付け、前記フライホイールは円板部と前記円板部の径方向外周部位で且つ板厚が前記円板部の板厚よりも大きく設定された環状ウエイ卜部とを備え、前記変速機の入力軸には前記フライホイールの前記エンジンと反対側の端部に当接する前記クラッチのクラッチディスクを取り付けた車両用エンジンのフライホイールにおいて、前記環状ウエイト部のクラッチディスク側端部には、前記フライホイールの内側空間と外部空間とを連通するクラッチディスク側切欠部を円周方向等間隔で複数個形成する一方、前記環状ウエイト部のエンジン側端部には、円周方向で且つ隣接する前記クラッチディスク側切欠部間の各中間部位でエンジン側切欠部をそれぞれ形成し、前記エンジン側切欠部は前記締結部材を操作するための工具が挿入可能な所定面域の空間として形成され、前記クラッチディスク側切欠部及び前記エンジン側切欠部を前記フライホイールの径方向外側から視た場合、前記クラッチディスク側切欠部及び前記エンジン側切欠部は円弧形状に形成されたことを特徴とする車両用エンジンのフライホイール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用エンジンのフライホイールに係り、特にエンジンの回転変動を低減するために、エンジンの出力軸に取り付けられた車両用エンジンのフライホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるエンジンにおいて、このエンジンの出力軸には、エンジンの回転変動を低減するために、フライホイールが取り付けられている。エンジンの回転変動を低減するためには、慣性質量が必要であり、フライホイールには、外縁部位にウエイト部を設けている。
このような車両用エンジンのフライホイールとしては、以下の先行技術文献がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−28327号公報
【0004】
特許文献1に係る二重質量フライホイールは、フライホイールの外縁部位に環状ウエイト部を設け、環状ウエイト部のエンジンと反対側の端部としてのクラッチディスク側端部のみに切欠部を複数個設けた構造であり、これにより、フライホイールとクラッチディスクとの間で摩擦が生じて、クラッチディスクの摩耗粉を切欠部から外部へ排出させている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記の特許文献1のフライホイールの構造では、環状ウエイト部のクラッチディスク側端部に切欠部を設けているが、エンジン側端部には切欠部を設けていないために、フライホイールが回転した際に、切欠部と環状ウエイト部との間で生じる引張荷重(遠心力)に急激な差が生じて、切欠部と環状ウエイト部との境界部分で応力集中・局所的な歪や変形が発生して、フライホイールの振動が増加するおそれがあり、このため、フライホイールの耐久性が低下するという不都合があった。
また、一般的には、フライホイールは、エンジンの出力軸に取り付けられ、エンジン本体のシリンダブロック側に近接して配置されている。そのため、シリンダブロックにオイルパンを締結するオイルパン用締結部材(ボルト)の締結部位とフライホイールとが車両上下方向で重なって干渉してしまい、このため、フライホイールを取り外さずに又はフライホイールを移動させずに、工具を締結部位へアクセスできないという問題があった。従って、作業者がエンジンをメンテナンスする際に、作業負担が増加してメンテナンス性・作業性が低下するという不都合があった。
更に、フライホイールにはクラッチディスクの摩耗粉及び異物の排出のため、フェーシング面(フライホイールのクラッチディスク側端部の一部に形成される面)側に、切欠部を形成する場合に、そのフェーシング面の剛性が低下してしまい、この剛性の低い部分を補うために、さらに厚肉部を追加する必要があり、このため、重量が増加するという不都合があった。
【0006】
そこで、この発明の目的は、クラッチディスクの摩擦粉や異物等の外部への排出性及びオイルパンの着脱性を向上させつつ、フライホイールの耐久性を向上させることができる車両用エンジンのフライホイールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、シリンダブロックと外縁部が前記シリンダブロックの下部に締結部材により締結されるオイルパンとを備えるエンジンを設け、前記エンジンの端部にクラッチを介して変速機を連結し、前記エンジンの出力軸には前記オイルパンの外縁部に近接するように配置したフライホイールを取り付け、前記フライホイールは円板部と前記円板部の径方向外周部位で且つ板厚が前記円板部の板厚よりも大きく設定された環状ウエイ卜部とを備え、前記変速機の入力軸には前記フライホイールの前記エンジンと反対側の端部に当接する前記クラッチのクラッチディスクを取り付けた車両用エンジンのフライホイールにおいて、前記環状ウエイト部のクラッチディスク側端部には、前記フライホイールの内側空間と外部空間とを連通するクラッチディスク側切欠部を円周方向等間隔で複数個形成する一方、前記環状ウエイト部のエンジン側端部には、円周方向で且つ隣接する前記クラッチディスク側切欠部間の各中間部位でエンジン側切欠部をそれぞれ形成し、前記エンジン側切欠部は前記締結部材を操作するための工具が挿入可能な所定面域の空間として形成され、前記クラッチディスク側切欠部及び前記エンジン側切欠部を前記フライホイールの径方向外側から視た場合、前記クラッチディスク側切欠部及び前記エンジン側切欠部は円弧形状に形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明は、クラッチディスクの摩擦粉や異物等の外部への排出性及びオイルパンの着脱性を向上させつつ、フライホイールの耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1はパワーユニットの背面図である。(実施例)
図2図2はパワーユニットを搭載した車両の底面図である。(実施例)
図3図3はエンジンの左側面図である。(実施例)
図4図4図2のフライホイールの周辺の拡大図である。(実施例)
図5図5図2のV−V線によるパワーユニットの断面図である。(実施例)
図6図6図5のフライホイール及びクラッチの断面図である。(実施例)
図7図7は変速機側から視たフライホイールの斜視図である。(実施例)
図8図8はエンジン側から視たフライホイールの右側面図である。(実施例)
図9図9(A)は変速機側から視たフライホイールのクラッチディスク側端部の概略構成図である。図9(B)はエンジン側から視たフライホイールのエンジン側端部の概略構成図である。図9(C)は図9(A)の構成と図9(B)の構成とを組み合わせたフライホイールのエンジン側から視た概略構成図である。(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明は、クラッチディスクの摩擦粉や異物等の外部への排出性及びオイルパンの着脱性を向上させつつ、フライホイールの耐久性を向上させる目的を、フライホイールの両側部の外縁部に切欠部を形成して実現するものである。
【実施例】
【0011】
図1図9は、この発明の実施例を示すものである。
図1図3において、1は車両、2はこの車両1のエンジンルーム、3はこのエンジンルーム2内で横置きに搭載されるパワーユニットである。
パワーユニット3は、エンジン4の端部に変速機5を連結して構成される。
エンジン4は、シリンダブロック6とこのシリンダブロック6の上部に載置されるシリンダヘッド7とからなるエンジン本体8と、エンジン本体8のシリンダヘッド7の上部に載置されるシリンダヘッドカバー9と、エンジン本体8のシリンダブロック6の下部に締結されるオイルパン10とを備える。
エンジン4のシリンダブロック6は、出力軸(クランク軸)11を備えている。
変速機5は、入力軸12を備え、シリンダブロック6の左端部に取り付けられている。
オイルパン10は、図2に示すように、外縁部13がシリンダブロック6の下部に、締結部材として、所定箇所に配置された複数のオイルパン用締結部材(ボルト)14A〜14Lによって締結される。図5図6に示すように、例えば、オイルパン用締結部材14Aは、白抜きの矢印Pの方向からの工具により、オイルパン10の外縁部13に形成した挿通孔15から挿通してシリンダブロック6に形成したねじ穴16に締め付けられることで、オイルパン10の外縁部13をシリンダブロック6の下部に締結する。なお、ここでは、詳細な説明は省略するが、他のオイルパン用締結部材14B〜14Lは、オイルパン用締結部材14Aと同様に、オイルパン10の外縁部13をシリンダブロック6の下部に締結する。
【0012】
図1図2図6に示すように、エンジン4の出力軸11には、エンジン4の回転変動を低減させるためのフライホイール17が固定して取り付けられる。この場合、フライホイール17は、オイルパン10の外縁部13に近接するように配置される。
また、このフライホイール17と変速機5の入力軸12との間には、出力軸11から入力軸12へのエンジン4の駆動力を伝達・遮断をするためのクラッチ18が配置されている。このクラッチ18は、図5図6に示すように、変速機5の変速機ケース5A内で、クラッチディスク19と、プレッシャプレート20と、ダイヤフラムスプリング21と、クラッチカバー22と、レリーズベアリング23とを備える。
【0013】
図6に示すように、フライホイール17は、円板部24と、この円板部24の径方向外周部の環状ウエイ卜部(質量)25とが一体的になって構成される。また、フライホイール17は、円板部24の中心部位に中心孔26を備え、この中心孔26周りの内縁部位が複数のホイール用締結部材(ボルト)27によって出力軸11の端部に取り付けられている。ホイール用締結部材27は、フライホイール17の円板部24に形成した挿通孔28に挿通されて出力軸11の端面に形成したねじ穴29に締め付けられることで、フライホイール17を出力軸11に締結する。また、フライホイール17は、出力軸11の端面に形成した出力軸側ピン用穴30と円板部24の内縁部位に形成したホイール側ピン用穴31とに嵌装したノックピン32により、位置決めされている。
また、フライホイール17は、円板部24の中心孔26に配置した軸受33を介して入力軸12の端部に回転自在に支持されている。この入力軸12の最先端部は、出力軸11の端面に形成した軸中心穴34に配置される。
フライホイール17は、円板部24及び環状ウエイ卜部25の両側で、エンジン4側のエンジン側端部35と、エンジン4と反対側のクラッチディスク側端部36とを形成している。
更に、フライホイール17において、環状ウエイ卜部25の板厚T1は、円板部24の板厚T2よりも大きく設定されている。また、環状ウエイ卜部25には、クラッチディスク側端部36側の外周部位でギヤ部37が設けられている。
フライホイール17は、図1図3に示すように、オイルパン10の外縁部13に近接するように配置されている。このため、前記複数のオイルパン用締結部材14A〜14L中のうち、フライホイール17側で車両前後方向に配置された2つのオイルパン用締結部材14A・14Bは、図2図4に示すように、フライホイール1の環状ウエイ卜部25のエンジン側端部29と車両上下方向で重なって干渉する位置に配置されている。
【0014】
図6に示すように、クラッチ18のクラッチディスク19は、フライホイール17のエンジン4と反対側の端部としてのクラッチディスク側端部36に当接するように、入力軸12の先端部位のスプライン部38に軸方向で摺動可能に取り付けられる。クラッチディスク19は、中間部位でパイロットベアリング39を備えている。また、クラッチディスク19の外縁部位には、フライホイール17のクラッチディスク側端部36の一部に形成したホイール側フェーシング面40に接合・離間するホイール側側摩擦部材41と、エンジン4と反対側でプレッシャプレート20のプレート側フェーシング面42に接合・離間するプレート側摩擦部材43とが備えられている。
【0015】
プレッシャプレート20は、ダイヤフラムスプリング21及びクラッチカバー22によって支持される。
クラッチカバー22の外縁部位は、複数のカバー用締結部材(ボルト)44によってフライホイール17の環状ウエイ卜部25の外縁部位に固定される。カバー用締結部材44は、クラッチカバー22に形成した挿通孔45に挿通されて環状ウエイ卜部25に形成したねじ穴46に締め付けられることで、クラッチカバー22をフライホイール17の環状ウエイ卜部25に固定する。
クラッチカバー22の内縁部位は、断面U字形状の支持部47に形成され、その先端部位がプレッシャプレート20のエンジン4と反対側の側部に当接している。
ダイヤフラムスプリング21の外縁部位は、支持部47に係止してフライホイール17の突出部48に当接するとともに、支持部47内に配置したピボットリング49によって支持されている。
ダイヤフラムスプリング21の内縁部位は、レリーズベアリング23の押圧部50に当接している。このレリーズベアリング23は、入力軸12のスプライン部51に軸方向で摺動可能に取り付けられている。そして、このレリーズベアリング23は、フォーク係合溝52に係合するレリーズフォークの操作により、入力軸12の軸方向に摺動し、ダイヤフラムスプリング21を介してプレッシャプレート20を動作させる。
【0016】
図5図8に示すように、環状ウエイト部25のクラッチディスク側端部36には、フライホイール17の内側空間53と外部空間54とを連通するクラッチディスク側切欠部55が、円周方向等間隔で複数個(例えば3個)形成されている。
また、環状ウエイト部25のエンジン側端部35には、円周方向で隣接するクラッチディスク側切欠部55・55間の各中間部で、エンジン側切欠部56がそれぞれ(例えば3個)形成される。
クラッチディスク側切欠部55及びエンジン側切欠部56は、フライホイール17のアンバランスに関係するので、フライホイール17の重心が出力軸11の中心からずれないような箇所にバランス良く配置されている。
また、エンジン側切欠部56は、図4に示すように、フライホイール17側のオイルパン用締結部材14A・14Bを操作するための工具が挿入可能な所定面域の空間として形成されている。この場合、工具は、図4図6及び図8に示すように、白抜きの矢印Pの方向からエンジン側切欠部56に挿入され、そして、締結部位としてのフライホイール17側のオイルパン用締結部材14A・14Bを操作する。
【0017】
図9には、フライホイール17の荷重負荷状態を説明する。
図9(A)は、エンジン側切欠部56が無しで、変速機5側から視たフライホイールのクラッチディスク側端部36の概略構成図である。図9(B)は、クラッチディスク側切欠部55が無しで、エンジン4側から視たフライホイール18のエンジン側端部35の概略図である。図9(C)は、エンジン側切欠部56とクラッチディスク側切欠部55とが有りで、エンジン4側から視たフライホイール18の概略構成図である。
一般的に、フライホイール17が軸心を中心に回転するため、フライホイール17には、中心から径方向外側に向けて遠心力が発生する。
そして、図9(A)及び図9(B)の構成の場合に、フライホール18のエンジン側端部35又はクラッチディスク側端部36のいずか一方にのみに切欠部が設けられているため、環状ウエイト部25においては、切欠部が設けられている箇所と切欠部が設けられていない箇所とで、発生する遠心力が加わる大きさに大きな差異が生じる。
ここで、環状ウエイト部25に発生する遠心力(径方向外側へ引っ張られる荷重)をF1、切欠部で発生する遠心力(径方向外側へ引っ張られる荷重)をF2とした場合に、図9(A)及び図9(B)の構成の場合では、F1とF2との差異が大きいため、環状ウエイト部25と切欠部との境界部分では径方向外側への引張荷重(遠心力)に大きな差が生じて、その境界部分に局所的な応力集中が生じてしまう。
そこで、この実施例では、図9(C)に示すように、図9(A)の構成と図9(B)の構成とを組み合わせることで、フライホイール17の外縁部位で径方向外側に引っ張られる荷重(遠心力)の差異を抑えることができ、フライホイール17の円周方向において発生する引っ張られる荷重(遠心力)を、図9(A)の構成や図9(B)の構成に比べてなだらかにできる。なお、図9(C)において、符号Gは、フライホイール17の回転方向を示す。
これによって、図9(C)に示すように、環状ウエイト部25とクラッチディスク側切欠部55・エンジン側切欠部56との境界部分で発生する径方向外側への引張荷重(遠心力:F3=(F1+F2)/2)の差異を小さく抑えることができ、その境界部分で発生する応力を緩和させることができる。つまり、フライホイール17の回転によって生じる遠心力で径方向外側に引っ張られる荷重の荷重分布が略均一になり(荷重の大小が小さくなり)、局所的な応力集中を低減するできる。
これによって、その境界部分での応力・歪・変形を抑えて、フライホイール17の振動を低減することができ、フライホイール17の耐久性を向上させることができる。
【0018】
この結果、この実施例において、環状ウエイト部25のクラッチディスク側端部36には、フライホイール17の内側空間53と外部空間54とを連通するクラッチディスク側切欠部55を円周方向等間隔で複数個形成した。
このような構造により、フライホイール17とクラッチディスク19との間で摩擦が起こり、フライホイール17とクラッチディスク19との間の隙間にクラッチディスク19の摩耗粉や異物が生じたとしても、クラッチディスク19の摩耗粉や異物をその隙間からクラッチディスク側切欠部55を通過させて外部へと排出できる。
また、この実施例では、環状ウエイト部25のエンジン側端部35には、円周方向で且つ隣接するクラッチディスク側切欠部55・55間の各中間部位でエンジン側切欠部56をそれぞれ形成する。また、エンジン側切欠部56は、フライホイール17側のオイルパン用締結部材14A、14Bを操作するための工具が挿入可能な所定面域の空間として形成される。
このような構造により、オイルパン10を取り外してエンジン4をメンテナンスする際に、変速機5及びフライホイール17を取り外したり、エンジン本体8又はオイルパン10から出力軸11の外側に移動させたりすることなく、エンジン側切欠部56をオイルパン10の締結部位であるオイルパン用締結部材14A・14Bに合わせることで、エンジン側切欠部56がサービスホールとなり、エンジン側切欠部56に工具を挿入させて、その締結部位に直接アクセスすることができる。これにより、作業者は、変速機5及びフライホイール17を取り外したり、エンジン本体8又はオイルパン10から出力軸11の外側に移動させたりすることがなくなり、オイルパン10とエンジン本体8とを分解でき、作業者の作業性を軽減できて、エンジン4のメンテナンス性を高めることができる。
更に、この実施例では、環状ウエイト部25のクラッチディスク側端部36には、フライホイール17の内側空間53と外部空間54とを連通するクラッチディスク側切欠部55を円周方向等間隔で複数個形成する。また、環状ウエイト部25のエンジン側端部35には、円周方向で且つ隣接するクラッチディスク側切欠部55・55間の各中間部位でエンジン側切欠部56をそれぞれ形成する。
このような構造により、フライホイール17には複数のクラッチディスク側切欠部55とこのクラッチディスク側切欠部55に対して複数のエンジン側切欠部56とを設けたことにより、遠心力によって環状ウエイト部25がフライホイール17の径方向外側に局所的に変形しようとするのを抑制でき、そして、円板部24の変形を抑制して剛性を高くし、フライホール18の振動を抑えることができるとともに、フライホイール17の耐久性を向上させることができる。また、円板部24の剛性を向上させるための肉厚部が不要となり、軽量化を図ることができる。
【0019】
さらに、この実施例では、図7図8に示すように、クラッチディスク側切欠部55及びエンジン側切欠部56をフライホイール17の径方向外側から視た場合、クラッチディスク側切欠部55及びエンジン側切欠部56は、円弧形状に形成される。
具体的には、クラッチディスク側切欠部55は、クラッチディスク側端部36において直径D1であって、半径R1の曲面で所定の幅W1且つ長さL1であり、略半円形の円弧形状に形成されている。また、エンジン側切欠部56は、エンジン側端部35において工具が挿入可能な直径D2であって、半径R2の曲面で所定の幅W2且つ長さL2であり、略半円形の円弧形状に形成されている。
このような構造により、クラッチディスク側切欠部55及びエンジン側切欠部56と環状ウエイト部25の他の部分との間の境界部分を滑らかに曲面で形成できる。つまり、円周方向においてクラッチディスク側切欠部55及びエンジン側切欠部56から環状ウエイト部25の他の部分にわたって徐々に板厚を大きくすることができる。これによって、上記の境界部分での引張荷重(遠心力)が急激に変化するのを抑えることができるため、上記の境界部分で応力集中や局所的な歪や変形が発生するのを抑制でき、フライホイール17の耐久性をさらに高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
この発明に係る車両用エンジンのフライホイールを、各種エンジンに適用可能である。
【符号の説明】
【0021】
1 車両
2 エンジンルーム
3 パワーユニット
4 エンジン
5 変速機
6 シリンダブロック
7 シリンダヘッド
8 エンジン本体
10 オイルパン
11 出力軸
12 入力軸
13 オイルパンの外縁部
14A〜14L オイルパン用締結部材(締結部材)
17 フライホイール
18 クラッチ
19 クラッチディスク
24 フライホイールの円板部
25 フライホイールの環状ウエイト部
35 フライホイールのエンジン側端部
36 フライホイールのクラッチディスク側端部
53 フライホイールの内部空間
54 フライホイールの外部空間
55 クラッチディスク側切欠部
56 エンジン側切欠部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9