特許第5971521号(P5971521)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5971521-金属の製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5971521
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】金属の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 7/06 20060101AFI20160804BHJP
   C25C 1/08 20060101ALI20160804BHJP
   C25C 1/12 20060101ALI20160804BHJP
   C25C 1/16 20060101ALI20160804BHJP
   C25C 7/02 20060101ALI20160804BHJP
   C25B 1/30 20060101ALI20160804BHJP
   B09B 3/00 20060101ALN20160804BHJP
【FI】
   C25C7/06 301A
   C25C1/08
   C25C1/12
   C25C1/16 A
   C25C7/02 306
   C25B1/30
   !B09B3/00 304J
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-183778(P2012-183778)
(22)【出願日】2012年8月23日
(65)【公開番号】特開2014-40639(P2014-40639A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2015年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 正己
(74)【代理人】
【識別番号】100094709
【弁理士】
【氏名又は名称】加々美 紀雄
(72)【発明者】
【氏名】真嶋 正利
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真博
(72)【発明者】
【氏名】川端 計博
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−524443(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/015392(WO,A1)
【文献】 特開2001−192874(JP,A)
【文献】 特開昭57−002845(JP,A)
【文献】 特開2005−298870(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/087908(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/130622(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/00
C25B 1/00
C25B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン交換膜により、陰極を備えた陰極室と、板状のダイヤモンド電極を備えた陽極室と、
に仕切られた電解槽の、
前記陰極室に金属イオンを含む溶液を供給し、
前記陽極室に還元された状態の酸化剤を含む溶液を供給し、
前記陰極と前記ダイヤモンド電極とを前記陽イオン交換膜を介して対向させて配置し、
前記陰極と前記ダイヤモンド電極との間に20V以上、40V以下の電圧を印加して、前記陰極室では陰極表面に金属を析出させ、前記陽極室では溶液中の酸化剤を再生させる
ことを特徴とする金属の製造方法。
【請求項2】
前記金属イオンを含む溶液は、
少なくとも前記酸化剤を含む電解液中に金属含有物を添加して金属を電解液中に溶かして得られたものである
ことを特徴とする請求項1に記載の金属の製造方法。
【請求項3】
前記金属イオンを含む溶液は、
電線、プリント基板、半導体、モーター、自動車のシュレッダーダスト、及び金属を含有する電子機器からなる群より選ばれるいずれか一種以上の粉砕物を透水性の袋に詰めたものを、少なくとも前記酸化剤を含む電解液中に添加し、攪拌して得られたものである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の金属の製造方法。
【請求項4】
前記金属イオンを含む溶液が、少なくとも、銅、ニッケル及び亜鉛からなる群より選択されるいずれか1種以上の金属のイオンを含んでいることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属の製造方法。
【請求項5】
前記陰極表面に析出する金属が、銅、ニッケル、又は亜鉛であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の金属の製造方法。
【請求項6】
前記酸化剤が、過硫酸アンモニウム又は過酸化水素であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の金属の製造方法。
【請求項7】
前記酸化剤が過硫酸アンモニウムであることを特徴とする請求項6に記載の金属の製造方法。
【請求項8】
前記ダイヤモンド電極が、シリコン基板上にCVD法により導電性ダイヤモンド膜を形成して得られたものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の金属の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電解精錬により金属を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、銅や銅合金は、鉄やアルミニウムなどと同様に需要の大きい金属である。そのため、廃棄物として回収した銅線や家電製品のプリント基板など、銅を含有する銅スクラップから銅を回収して再利用することは、資源保護の立場から重要なことである。
【0003】
例えば、市場から回収した銅スクラップから銅を回収する場合、電力ケーブル線の場合には、銅線を被覆している樹脂を剥がして樹脂と銅線とを分離して回収することが行われている。通信線についても、太いものの場合には同様に被覆している樹脂を剥がして銅を分離・回収することが可能であるが、細いものの場合には作業上の負荷が大き過ぎ、このような回収方法を行うことができない。
【0004】
このため細い通信線の場合には、銅線が樹脂で被覆されたまま粉砕し、続けて比重差選別を行う。しかし、このようにしても銅の表面にはまだ細かい樹脂が残っているため、更に、焼成により樹脂を燃焼除去する必要がある。
上記のような乾式法による銅の回収は、工程はシンプルであるが、樹脂の燃焼により二酸化炭素が発生するため環境負荷が大きく、また、銅は酸化銅として回収されるため還元処理を行うことが必要となる。更に、原料となる市場から回収した銅スクラップの純度によっては回収される金属銅の純度が低くなってしまう。
【0005】
また、パソコンや家電製品などに使用されているプリント基板から銅を回収する場合には、乾式法の他に湿式法による回収方法が知られている。この湿式法は、硫酸や塩酸等によって銅を浸出させ、電解精錬により銅を回収するというものである。
しかしながら湿式法ではアノード電極では酸素が発生するため、電解時の消費電力が必然的に大きくなるという問題がある。
【0006】
例えば、特許文献1には、1価銅イオンを含む溶液中に金属銅を析出させるためのカソード電極、1価銅イオンを含むアンモニアアルカリ性溶液中にアノード電極、及びカソード電極とアノード電極の間に隔膜を設け、前記電極に電流を流して、カソード電極側からアノード電極側へ溶液を移動させながら電気分解して金属銅を回収する方法が記載されている。特許文献1に記載の方法によれば、カソード電極部に金属銅が析出し、同時にアノード電極部において1価銅イオンを2価銅イオンとすることができ、更に、2価銅イオン溶液を取り出して、銅金属廃棄物と錯化合物の存在する溶解層に導き、銅金属廃棄物を処理して得られた1価銅イオンを含む溶液を、前記電気分解の1価銅イオンを含む溶液として用いることで、従来よりも消費電力を小さくすることができるとされている。
しかしながら、銅を回収する処理対象溶液にはマンガン、ニッケル、亜鉛、鉛などの金属の各イオンが含まれているため、電解操作を行うには金属イオンを除去することが必要である。このとき、目的物の抵抗が高い、あるいは絶縁性の樹脂に覆われているなど何らかの理由により通電が困難な場合は、目的物をアノード溶解させ、カソード側に析出させる電解精錬手法の適用が困難であるという問題がある。
【0007】
また、銅に限らず、市場から容易に回収できるような種々の金属含有物から任意の金属を高純度で得る方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−253484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みて、環境への負荷を大きくすることなく、かつ、廃液を出さずに、純度の高い金属を湿式法により効率よく得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記課題を解決すべく、酸化剤を含む電解液中に目的となる金属を溶解し、かかる溶液中から金属を精錬電解することを検討した。
【0011】
まず、回収対象となる金属として需要の高い銅を選択し、金属含有物から金属銅を精錬することを検討した。銅を含有する金属含有物として市場から回収された廃材(銅:約38質量%、樹脂:約47質量%、水分:約15質量%)を用意し、酸化剤(過硫酸アンモニウム)を含む溶液に前記廃材を添加して攪拌し、銅を完全に溶解させた。溶け残った樹脂等は濾過により除去し、ろ液を回収した。そして、かかる溶液中に陽極として白金をコーティングしたチタンラス板を、陰極として白金板を投入し、両極間に電圧を印加した。電流密度は5A/dm2〜15A/dm2とした。これにより純度99.99%の金属銅を回収することができた。
【0012】
続けて、このような純度の高い金属銅を連続して得ることが可能かを検証するため、陰極表面に析出した金属銅を同じ溶液中に再度溶解し、電解精錬するという方法を繰り返した。
その結果、サイクルを重ねる毎に、電析効率が高くなる一方、溶解速度は遅くなり、20サイクル目で溶解させることができなくなった。この原因を調査した結果、溶液中の過硫酸アンモニウムが減少していることに起因することが判明した。そこで、20サイクル毎に新たに過硫酸アンモニウムを補充し、更にサイクルを重ねたところ、60サイクル目では過硫酸アンモニウムが溶けきらずに沈殿してしまい、沈殿物の増加により検証を続けることができなくなってしまった。
【0013】
上記のように、過硫酸アンモニウムが陰極で還元分解され、溶液中に硫酸イオンが大量に蓄積することが液寿命の原因となることが判明したが、湿式法の工業的利用には液寿命を長くすることが不可欠であるため、本発明者等は当該問題点を解決すべく更なる検討を重ねた。
【0014】
その結果、溶液中の電極間に陽イオン交換膜を設け、過硫酸アンモニウムが分解されないようにすることが有効であることを見出した。そして、陽極側では還元剤を再生させることが可能となり、更に、電位窓の広いダイヤモンド電極を陽極に用いることで水の分解を抑制され、過硫酸イオンの再生効率が非常に高くなることを見出した。また、これらの操作は銅以外の金属を電解精錬する場合にも有効であることを確認し、本発明を完成させた。
【0015】
本発明の構成は以下の通りである。
(1)陽イオン交換膜により、陰極を備えた陰極室と、板状のダイヤモンド電極を備えた陽極室と、に仕切られた電解槽の、
前記陰極室に金属イオンを含む溶液を供給し、
前記陽極室に還元された状態の酸化剤を含む溶液を供給し、
前記陰極と前記ダイヤモンド電極とを前記陽イオン交換膜を介して対向させて配置し、
前記陰極と前記ダイヤモンド電極との間に20V以上、40V以下の電圧を印加して、前記陰極室では陰極表面に金属を析出させ、前記陽極室では溶液中の酸化剤を再生させる
ことを特徴とする金属の製造方法。
(2)前記金属イオンを含む溶液は、
少なくとも前記酸化剤を含む電解液中に金属含有物を添加して金属を電解液中に溶かして得られたものである
ことを特徴とする上記(1)に記載の金属の製造方法。
(3)前記金属イオンを含む溶液は、
電線、プリント基板、半導体、モーター、自動車のシュレッダーダスト及び金属を含有する電子機器からなる群より選ばれるいずれか一種以上の粉砕物を透水性の袋に詰めたものを、少なくとも前記酸化剤を含む電解液中に添加し、攪拌して得られたものである
ことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の金属の製造方法。
(4)前記金属イオンを含む溶液が、少なくとも、銅、ニッケル及び亜鉛からなる群より選択されるいずれか1種以上の金属のイオンを含んでいることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の金属の製造方法。
(5)前記陰極表面に析出する金属が、銅、ニッケル、又は亜鉛であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の金属の製造方法。
(6)前記酸化剤が、過硫酸アンモニウム又は過酸化水素であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の金属の製造方法。
(7)前記酸化剤が過硫酸アンモニウムであることを特徴とする上記(6)に記載の金属の製造方法。
(8)前記ダイヤモンド電極が、シリコン基板上にCVD法により導電性ダイヤモンド膜を形成して得られたものであることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の金属の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、環境への負荷を大きくすることなく、かつ、廃液を出さずに、純度の高い金属を湿式法により効率よく得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明を実施するための装置の構成の一例を表す概略図である。
図2】本発明を実施するための装置の別の構成の一例を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、陽イオン交換膜により、陰極を備えた陰極室と、ダイヤモンド電極を備えた陽極室と、に仕切られた電解槽の、前記陰極室に金属イオンを含む溶液を供給し、前記陽極室に還元された状態の酸化剤を含む溶液を供給し、前記陰極と前記ダイヤモンド電極との間に電圧を印加して、前記陰極室では陰極表面に金属を析出させ、前記陽極室では溶液中の酸化剤を再生させることを特徴とする。
【0019】
図1に本発明の金属の製造方法を実施可能な装置の一例として、銅を精錬可能な装置の構成の概略を示す。かかる装置は、図1に示すように陽イオン交換膜により陰極室と陽極室とが仕切られた電解槽を備えており、陰極室には金属銅を析出させるための陰極が、陽極室にはダイヤモンド電極がそれぞれ配置されている。そして、陰極とダイヤモンド電極との間に電圧を印加することができるように、両極は電源に接続されている。また、陰極室には銅イオンを含む溶液が供給され、陽極室には還元された状態の酸化剤を含む溶液が供給される。
【0020】
このような装置において陰極とダイヤモンド電極との間に電圧を印加することで、陰極の表面に金属銅を析出させつつ、陽極室では酸化剤を再生することが可能となる。陰極室と陽極室とが陽イオン交換膜で仕切られていることで、陰イオンである還元された状態の酸化剤が陽極室から陰極室へ漏れ出すことがなくなるため、陽極室で効率よく酸化剤の再生を行うことができる。
【0021】
陰極室中の溶液から充分に金属銅を電析させた後においては、陰極室中の溶液には還元された状態の酸化剤が多く含まれ、一方、陽極室中の溶液には再生された酸化剤が多く含まれる。
このため、続けて金属銅の電析を行う場合には、両室から陰極とダイヤモンド電極を取り出し、再生された酸化剤が多く含まれる方の溶液に金属銅含有物を供給して銅を溶解して陽極を設置し、更に、反対側の還元された状態の酸化剤が多く含まれる方の溶液にはダイヤモンド電極を設置し、両極間に電圧を印加すればよい。すなわち、最初に説明した操作手順における陰極室と陽極室とを入れ換えて電析を行えばよい。これにより、新たな陰極室の陰極表面には金属銅が析出し、かつ、新たな陽極室では酸化剤の再生を行うことができる。
上記のように、金属銅含有物を供給しつつ、陰極室と陽極室とを入れ替えるだけで電解精錬を繰り返すことができ、また、毎回酸化剤を再生させることができるため液寿命が非常に長く、廃液を出さずに操業することが可能である。
【0022】
上記の例では陰極室と陽極室とを入れ換える方法を説明したが、両室の溶液を入れ換える方法によっても繰り返し操業することができる。この場合には、陰極室の酸化剤が再生した溶液中に金属銅含有物を供給して銅を溶解し、この溶液と陽極室中の溶液とを入れ換えて両極間に電圧を印加すればよい。この方法は例えば図2に示すような装置を用いることで効率よく行うことができる。
【0023】
図2に示す装置は、上段に電極槽部を設け、下段に溶液槽部を設けている。上段の電極槽部は3部屋に仕切られており、中央の部屋は陰極が設けられた陰極室であり、陰極室を挟むようにして設けられた外側の二つの部屋はダイヤモンド電極が設けられた陽極室となっている。そして、中央の陰極室とその両側の陽極室とは陽イオン交換膜により仕切られている。
【0024】
また、下段の溶液槽部は2部屋に分かれており、一方の部屋には銅イオンを含む溶液が供給されており、もう一方の部屋には還元された状態の酸化剤を含む溶液が供給されている。下段の両部屋にはそれぞれ液流通パイプが接続されており、ポンプを介して、銅イオンを含む溶液は陰極室に、還元された状態の酸化剤を含む溶液は陽極室に供給されるようになっている。
【0025】
そして、上段の陰極室、陽極室に供給された溶液は、それぞれ、下段の銅イオンを含む溶液が供給されている部屋、還元された状態の酸化剤を含む溶液が供給されている部屋に戻されるようになっている。
このようにするためには、例えば、上段の電極槽部よりも下段の溶液槽部を大きくし、陰極室の陽イオン交換膜ではない方の側壁の片側のみを、対向する側の側壁よりも低く形成し、また、同様に、陰極室の側壁も、陽極室において低く形成した側壁とは反対側の側壁のみを低く形成すればよい。これにより、ポンプによって陰極室又は陽極室に供給されたそれぞれの溶液の量がそれぞれの室の容量を超えると、低く形成された側壁から溢れ出て下段のそれぞれの部屋に戻されて溶液が循環するようになり、電解精錬の効率を上げることができる。
【0026】
陽極表面に金属イオンが充分に析出した後においては、下段の一方の部屋の溶液は還元された状態の酸化剤を多く含んでおり、もう一方の部屋の溶液は再生された酸化剤を多く含むようになっている。続けて操業を行うには、上段の電極槽部を取り外し、下段の再生された酸化剤を多く含む溶液が入っている部屋に金属銅含有物を供給して銅を溶かし、再度上段の電極槽部を取付ければよい。このとき、上段の電極槽部の取り付け向きを最初とは反対にしてパイプを接続して、陽極から溢れ出た溶液は銅イオンが含まれている溶液が入っている部屋に、陰極から溢れ出た溶液は還元された状態の酸化剤が含まれている溶液が入っている部屋にそれぞれ戻されるようにする。
【0027】
以上のような装置を利用することにより、本発明の金属の製造方法を連続して実施することが可能であるが、本発明の金属の製造方法を実施することが可能である限りどのような装置を用いても構わない。また、上記では図1を用いて金属銅を製造する場合を例にして本発明を説明したが、本発明により得られる金属は銅に限られず、金属含有物に含まれている任意の金属を得ることができる。すなわち、酸化剤を用いることで電解液に溶解することができ、かつ、電圧を印加することで陽極に析出させることができる金属であればどのような金属でも得ることができる。
【0028】
続いて、本発明の金属の製造方法において使用される各構成要素の説明をする。
(金属含有物)
金属含有物としては、目的となる金属が含まれていればどのようなものでもよい。例えば、市場からの回収品を利用すれば、資源保護に資することができる。例えば、銅線、パソコンや家電製品のプリント基板、半導体、電子機器、モーター、自動車のシュレッダーダスト、ハーネスコネクタ等を利用することにより、銅、ニッケル、亜鉛、銀、鉄など金属含有物に含まれる任意の金属を得ることができる。
【0029】
金属含有物に複数種類の金属が含有している場合には、後述する電解液中に複数種類の金属が溶解することになる。この場合には複数種類の金属イオンが含まれる溶液から特定の金属を得ることになるが、純度の高い金属を得るためには、まず一番低い電圧で析出する金属を陰極に析出させて回収し、その後、陰極を別のものに交換して、より高い電圧を印加して電解精錬を行えばよい。この操作を繰り返すことで複数種類の金属が含有している金属含有物からも、それぞれの金属を高純度で得ることができる。
【0030】
また、酸化剤を多く含む溶液中に金属含有物を供給して金属を溶解する観点から、金属含有物は可能な限り細かく粉砕して用いることが好ましい。すなわち本発明では、配線等を通じて直接的に給電をすることができない材料であっても利用可能である。例えば、銅モリブデンや銅タングステンの粉末など、通電が困難な金属のみからなる粉末材料であっても、酸化剤を含む電解液中に溶解させることで利用することが可能である。なお、溶液中に溶けない粉砕物の金属以外の部分が溶液中に拡散して槽を汚染することを防止するために、金属含有物の粉砕物は不織布等による透水性の袋に詰めて用いることが好ましい。
【0031】
(酸化剤)
酸化剤は、金属含有物から金属を溶解させることができるものであればどのようなものでも使用することができ、金属含有物に含まれる金属の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、塩素、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、過硫酸ソーダ等が挙げられるが、これらのなかでも過硫酸アンモニウムが特に好ましい。
【0032】
(電解液)
電解液は特に限定されるものではなく、上記酸化剤との組み合わせにより適宜選択すればよい。例えば、硫酸、塩酸、リン酸、フッ酸、硝酸等の酸性溶液が挙げられる。これらのなかでも硫酸が特に好ましい。
上記の酸化剤との組み合わせでは、過酸化水素と硫酸の組み合わせや、過硫酸アンモニウムと硫酸の組み合わせが好ましく、過硫酸アンモニウムと硫酸の組み合わせが特に好ましい。過硫酸アンモニウムは濃度が1g/L〜飽和溶解度の範囲で用いることができるがさらに30〜100g/Lが好ましい。また、硫酸過水は硫酸と過酸化水素のモル比(H2SO4/H22)が0.61〜1.5の範囲で用いることが好ましい。
【0033】
(陽イオン交換膜)
陽イオン交換膜は、陰イオン、特に還元された状態の酸化剤を透過しないものであればどのようなものでも使用することができる。市販品としては、例えば、SF7202(旭化成イーマテリアルズ株式会社)、ナフィオン−117(デュポン株式会社)、アシブレックス(旭化成ケミカルズ)等が挙げられるが、これらの中でも耐久性の観点からデュポン株式会社製のナフィオン−117が特に好ましい。
【0034】
(陰極)
陰極としては、電極表面に金属を析出させることができるものであればどのようなものでも使用することができる。例えば、銅、白金、ニッケル、鉄、チタン等が挙げられ、対象となる金属の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0035】
(ダイヤモンド電極)
ダイヤモンド電極としては、少なくとも表面に導電性ダイヤモンドを有する電極であればどのようなものでも使用することができる。例えば、シリコン基板表面に化学気相成長法(CVD法)により導電性ダイヤモンド膜を形成したものを好ましく用いることができる。このようなダイヤモンド電極は、市場においては例えば、住友電工ハードメタル株式会社より購入することができる。
ダイヤモンド電極は、陽極側にも陰極側にも広い電位窓(>2V)を有するため強い酸化・還元力を有し、水電解以外の反応を起こすことができる。このため本発明においてもダイヤモンド電極を陽極として用いることにより、酸化剤を効率よく再生させることが可能となる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、これらの実施例は例示であって、本発明の金属の製造方法はこれらに限定されるものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲の範囲によって示され、特許請求の範囲の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0037】
(実施例1)
金属含有物として、市場から回収した細い銅線の粉砕物を用いた。当該粉砕物の組成は、銅が約38質量%、樹脂が約47質量%、水分が約15質量%であった。これをポリプロピレン製の不織布でできた袋に詰めた。
【0038】
6Nの硫酸1Lに、60gの過硫酸アンモニウムを加えて攪拌し完全に溶解させた。更に、上記で用意した金属含有物の粉砕物が詰まった袋を溶液中に浸し、スターラーを用いてよく攪拌し、銅イオンを含む溶液を用意した。
【0039】
陽イオン交換膜(ナフィオン−117、デュポン株式会社製)を中央に設けた電解槽を用意し、片方の室に上記で用意した銅イオンを含む溶液を入れ、更に、白金(Pt)製の電極(陰極)を設置し、陰極室とした。
陽イオン交換膜でしきられたもう一方の室には、6Nの硫酸1Lに60gの硫酸アンモニウムを溶かした溶液を入れ、ダイヤモンド電極(陽極)を設置して陽極室とした。ダイヤモンド電極は、住友電工ハードメタル株式会社製のダイヤ電極工業グレードを用いた。
【0040】
陰極とダイヤモンド電極を、隔膜を介して約10cm離して対向させ陰陽極間に20Vの電圧を印加して、10分間、通電処理した。
陰極の表面には金属銅が析出し、また、陽極室内の溶液からは過硫酸イオンが確認された。金属銅の純度は99.99%であり、陽極室内の溶液は濃度が80g/Lの過硫酸アンモニウム溶液であることが確認された。陰極室内の溶液は、酸化剤である過硫酸アンモニウムが還元されて硫酸アンモニウムとなっていた。
【0041】
続いて、陰極及びダイヤモンド電極をそれぞれの室から取り出し、上記と同様にして準備した金属含有物の粉砕物が詰められた袋を、陽極室として用いていた室中の溶液に浸してよく攪拌し、銅イオンを含む溶液を作製した。そして、当該溶液中に新たに用意した白金製の陰極を設置し、もう一方の還元された状態の酸化剤を多く含む溶液中に上記のダイヤモンド電極を設置し、両極間に20Vの電圧を印加して、10分間、通電処理をした。
1回目の通電処理と同様に、陰極の表面には純度が99.99%の金属銅が析出し、陽極室中の溶液は酸化剤が再生して濃度が80g/Lの過硫酸アンモニウム溶液となっていた。
【0042】
これと同様の操作を繰り返し行ったところ、100サイクル後においても処理液を交換することなく、連続して利用できることが確認された。
【0043】
(実施例2)
実施例1と同様にして、実施例1で用いたと同じ金属含有物の粉砕物を袋に詰めた。
6Nの硫酸1Lに、濃度30%の過酸化水素水0.1Lを加えて攪拌した。当該溶液に上記で用意した袋を浸し、スターラーを用いてよく攪拌し、銅イオンを含む溶液を用意した。
陽極室中の溶液を硫酸(6N)に変えた以外は実施例1と同様の陽イオン交換膜、陰極、ダイヤモンド電極を用意して各々セッティングし、両極間に、20Vの電圧を印加して、10分間、通電処理した。
陰極の表面には純度99.99%の金属銅が析出し、また、陽極室中の溶液は過酸化水素の濃度が0g/Lの硫酸過水になっていることが確認された。
【0044】
続いて、陰極及びダイヤモンド電極をそれぞれの室から取り出し、実施例1と同様にして準備した金属含有物の粉砕物が詰められた袋を、陽極室として用いていた室中の溶液に浸してよく攪拌し、銅イオンを含む溶液を作製した。そして、当該溶液中に新たに用意した白金製の陰極を設置し、もう一方の還元された状態の酸化剤を多く含む溶液中に上記のダイヤモンド電極を設置し、両極間に20Vの電圧を印加して、10分間、通電処理を行った。
1回目の通電処理と同様に、陰極の表面には純度が99.99%の金属銅が析出し、陽極室中の溶液は酸化剤が再生して濃度が5g/Lの硫酸過水となっていた。
これと同様の操作を繰り返し行ったところ、20サイクル後には酸化剤としてのH22量が減少していることが確認されたため、濃度が30%の過酸化水素水を0.1L添加して、同様の操作を繰り返した。
過酸化水素を適時補充することにより、100サイクル後においても処理液が寿命に達することはなく、連続して利用できることが確認された。なお、添加した過酸化水素は銅の溶解に伴い水となるが、水分の蒸発が起こるため体積は見かけ上過酸化水素水の添加前と変わらず、バランスさせることが出来る。
【0045】
(実施例3)
金属含有物として、銅純度が80%、残部がニッケル19%、シリコン1%からなる合金端子材をポリプロピレン製の不織布でできた袋に詰め、実施例1と同様の方法で金属の溶解、析出を行った。
その結果、電圧を20Vとして電解したところ純度99.99%の銅が陰極(Pt製)表面に析出し回収することができた。また、シリコンはSiO2粉末として濾過フィルターにより回収することができた。
銅の回収が終わった段階で陰極を新しいものに交換して、電圧を30Vまで上げたところ、ニッケルが99.9%以上の純度で陰極表面に析出し回収することができた。
さらに、電解液についても酸化剤の再生が可能であり、実施例1と同様に繰り返し使用することができることを確認した。
【0046】
(実施例4)
金属含有物として、銅純度が1%、残部がニッケル99%である合金屑をポリプロピレン製の不織布でできた袋に詰め、実施例1と同様の方法で金属の溶解、析出を行った。
その結果、実施例3と同様に、先ず20Vで99.99%以上の純度の銅を陰極(Pt製)表面に析出させて回収することができた。さらに、陰極を交換して電圧を30Vに上げて実施したところ、ニッケルを99.95%の純度で陰極表面に析出させて回収することができ、なおかつ電解液も繰り返し使用することができることが確認された。
【0047】
(実施例5)
金属含有物として銅純度が80%、残部が亜鉛である合金屑をポリプロピレン製の不織布でできた袋に詰め、実施例1と同様の方法で金属の溶解、析出を行った。
その結果、実施例3と同様に、先ず20Vで99.9%の純度の銅を陰極(Pt製)表面に析出させて回収することができた。さらに、陰極を交換して40Vまで電圧を上げたところ、激しいガス発生を伴ったが99.9%以上の純度の亜鉛を陰極表面に析出させて回収可することができ、なおかつ電解液も繰り返し使用できることが確認された。
【0048】
(比較例1)
実施例1と同様にして、実施例1で用いたと同じ金属含有物の粉砕物を袋に詰めた。
6Nの硫酸1Lに、60gの過硫酸アンモニウムを加えて攪拌し完全に溶解させた。更に、上記で用意した金属含有物の粉砕物が詰まった袋を溶液中に浸し、スターラーを用いてよく攪拌し、銅イオンを含む溶液を用意した。
この銅イオンを含む溶液中に、実施例1と同様の陰極及びダイヤモンド電極を設置し、両極間に20Vの電圧を印加して、10分間、通電処理を行ったところ、陰極表面に純度99.99%の金属銅が析出した。
続いて、陰極を新しいものに交換し、溶液中に金属含有物の粉砕物が詰まった袋を入れ、スターラーを用いて良く攪拌し、銅イオンを含む溶液を作製した。そして上記と同様に両極間に20Vの電圧を印加して、10分間、通電処理を行った。その結果、1回目と同様に陰極表面には純度99.99%の金属銅が析出した。
【0049】
同様の操作を繰り返し行ったところ、サイクルを重ねるにつれて銅の溶解処理を行うのに長時間を要するようになり、20サイクル目で銅を溶解することが出来なくなった。溶液を調査したところ、過硫酸アンモニウムの量が減少しており、濃度が6g/Lになっていた。
そこで、20サイクル毎に過硫酸アンモニウムを追加して同様の操作を繰り返したが、60サイクル目では硫酸イオンの増加により過硫酸アンモニウムが溶けなくなり、沈殿物が増えすぎてしまった。このため、処理液を交換しなければ操作を続けることが出来なくなった。
【0050】
(比較例2)
ダイヤモンド電極の代わりに白金製の陽極を用いた以外は実施例1と同様にして、装置のセッティングを行った。
両極間に20Vの電圧を印加して、10分間、通電処理したところ、陰極の表面には純度99.99%の金属銅が析出したが、陽極室においては、過硫酸イオンは生成されていなかった。
また、実施例1と同様にして操作を繰り返したところ、15〜20サイクル目で銅を溶解させることができなくなった。
比較例2と同様に過硫酸アンモニウムを追加しながら操作を続けたが、50サイクル目で過硫酸アンモニウムが溶けなくなり、液寿命となった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明により、市場から回収したスクラップ等の廃棄物からであっても、効率よく純度の高い金属を得ることができる。
図1
図2