【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、バイオレメディエーションにおいて、浄化液は微生物の栄養剤を水に溶かした非固化性水溶液であり、粘性や地中の挙動は水とほとんど同じである。また、重金属の拡散防止に用いられる不溶化剤等も固結性がない。ところで、このような浄化液(不溶化剤等も含む)は固結性がないため、地中に注入すると透水性が高い箇所へ流れ、地盤が互層の場合、シルト・粘土質には浸透させることが困難である。また、浄化液自体は土質の透水性に影響を及ぼすことなく、注入圧力により地下水と共に移動する。
【0007】
硬化性のない浄化液は注入するとゲル化しないため、どこまでも浸透してしまい、粗い層や層境に沿って逸脱しやすく、同時に汚染物質も押し出してしまう或は汚染物質が蓄積されやすい細粒土地盤には浸透しにくく原位置浄化が困難である。
【0008】
例えば、従来の一般的なダブルパッカー工法での注入は、一つの注入管において一深度(通常33cm)ごとの注入となるが、任意の注入ステージ(吐出口)で注入(通常毎分吐出量10リットル〜15リットル)した後、次の箇所の注入ステージ(吐出口)に移動して注入する際に、当該注入の圧力によって先行して注入した浄化液を押し出すため、浄化液が粗い土層へ移向し、それに伴って汚染物質が押し出されて拡散しやすく、また細粒土中の汚染物質に浄化液が作用しにくいという問題がある。
【0009】
また、ゲル化を伴うシリカグラウトと浄化材を併用して注入した場合(特許文献2)、ゲル化した浄化液中の浄化材が汚染物質に効果的に作用しない、あるいはゲルの存在により土中の微生物の活性化が阻害されるという問題がある。また、ゲル化を伴わない浄化材を注入した場合、浄化材が浸透しやすい土層に逸脱して汚染物の分布している地盤への浄化液の浸透が不十分となる。このため微生物の活性の環境が十分に整わず、汚染物質の濃度低減が進まないという問題が生ずる。
【0010】
また、自然注入は、帯水層の深度に有孔管又はスリットを設けた井戸を介して、地上から浄化液を重力によって地中に浸透させる方法であるが、自然注入では、透水性の良い土質に浄化液は浸透するものの、シルト・粘土質では浸透しないという問題がある。
【0011】
このように、従来技術の課題は、浄化液の浸透が不十分な箇所が生じて原位置浄化がしにくいという点にあった。
【0012】
特許文献3記載の技術はこのような課題の解決を図ったものであるが、地盤条件などによっては効率的な制御が難しい場合もあり得る。また、注入管のまわりに形成したシールグラウトを地盤注入材の注入圧を利用して壊し、浸透注入を図る工法もバラツキが生じるなどの問題がある。
【0013】
また、以上いずれの工法も注入管まわりにセメントやセメントベントナイト液等の固化剤を充填するため、その割裂に高い圧力を必要とし、また所定の注入ステージ全長に割裂が生じるとは限らず、柱状浸透が不十分であった。
【0014】
また、その固結はアルカリサイドで行われるため、浄化剤あるいは汚染物質がアルカリによって変質して有効な浄化が行われない問題もあった。
【0015】
本発明は従来技術における上述のような課題を解決することを目的としたものであり、土壌浄化剤を地盤中の必要な個所に大きな吐出量で低圧で土粒子間浸透により、より効率的に浸透させることができる土壌浄化剤注入装置、及び強度の高いシール材を用いることなく柱状浸透させ、かつ土壌浄化剤がシール材と化学変化を生じることのない土壌浄化工法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の土壌浄化剤注入装置は、地盤中に形成された削孔内に設置され、管軸方向の一箇所又は複数個所に注入材吐出口を有する注入管と、前記注入管の外周部と前記削孔の削孔壁との間の前記注入材吐出口位置を含む下方に充填された砂を主体とするフィルター層と、前記注入管の外周部と前記削孔の削孔壁との間の前記注入材吐出口位置より上方に充填されたシール材とからなり、前記注入材吐出口から吐出される土壌浄化剤が、前記シール材で上部が拘束された前記フィルター層を通してフィルター層の高さに応じた幅で前記削孔壁から地盤中に浸透するように構成されてなることを特徴とする。
【0017】
本発明の土壌浄化剤注入装置によって注入される土壌浄化剤としては、バイオレメディエーションにおける微生物を含む土壌浄化材や、現地の微生物を活性化するための栄養源を含む土壌浄化材や、酸素溶解水や空気混入液、空気、ヒ素あるいは重金属の拡散防止に用いられる不溶化剤などがある。
【0018】
これらは非固結性の注入材であり、注入管の注入材吐出口から注入された土壌浄化剤が砂を主体とするフィルター層で均等に分散されながら、フィルター層の高さに応じた幅で削孔壁から対象とする地層に浸透して行くため、大容量の注入材を低圧で浸透させることができる。また、その分、注入管の間隔を大きくとることができる。
【0019】
本発明の土壌浄化剤注入装置は、砂を主体とするフィルター層が高さ方向に幅を持った浸透源として機能し、大きな吐出量で単位浸透面積当たりの浸透速度は小さく注入圧が低い状態での大容量の浸透注入が可能となる。
【0020】
なお、本発明では、砂を主体とするフィルター層が浸透源としての機能を有するが、注入管の吐出口部分に従来知られている柱状浸透源を用いてもよいし、注入管の吐出部分については、1または複数の吐出口を有する複数の注入細管を組み合わせて汚染土の存在する土層ごとに吐出口が位置するように結束した結束注入細管を用いてもよい。
【0021】
フィルター層の上方に充填されるシール材は、水密性を備え、土壌浄化剤が対象とする地層以外に流出するのを防止するためのものであり、セメントベントナイトなどの水密性に加え硬化性及び強度を備えた材料を用いることが好ましい。
【0022】
本発明のもう一つの態様における土壌浄化剤注入装置は、地盤中に形成された削孔内に設置され、管軸方向の一箇所又は複数個所に注入材吐出口を有する注入管と、前記注入管の外周部と前記削孔の削孔壁との間の前記注入材吐出口位置より上方、又は上方並びに下方に形成されたベントナイトを含むシールパッカー層と、前記注入管の外周部と前記削孔の削孔壁との間の前記シールパッカー層の下方又は上下のシールパッカー層間に充填された砂を主体とするフィルター層とからなり、前記注入材吐出口から吐出される土壌浄化剤が、前記シールパッカー層で上部、又は上部並びに下部が拘束された前記フィルター層を通してフィルター層の高さに応じた幅で前記削孔壁から地盤中に浸透するように構成されてなることを特徴とする。
【0023】
なお、注入管の吐出口部分についても、1または複数の吐出口を有するもの、吐出口の高さが異なる複数の注入細管を組み合わせたものなどが適用可能である。
【0024】
シールパッカー層については、吸水膨張性のあるベントナイトペレットなどを用いることができる。ベントナイトペレットは、粒状に成型したものなどが市販されており、充填したフィルター層の上部にベントナイトペレットを投入することで、削孔内の水分を吸収して膨潤し、止水性のあるシールパッカー層が形成される。
【0025】
対象となる地盤の土質分布に応じ、透水性の高い砂層やシルト層位置に対応させて砂を主体とするフィルター層を設け、その境界部分や透水性の低い粘土層との境界部分にベントナイトを含むシールパッカー層を設け、フィルター層を通して注入材が効率よく狙った地層に浸透して行くようにする。
【0026】
また、フィルター層を形成する砂の粒度はその周辺の土よりも透水性がよいものであるのが好ましい。
【0027】
フィルター層が上下方向に形成される場合、最上部のフィルター層の上部または最上部のシールパッカー層の上部には必要に応じ、セメントベントナイトなどによるシール材を充填する。
【0028】
なお、砂を主体とするフィルター層は、施工条件にもよるが、径よりも高さが大きい柱状とすることで、その高さに応じた広い幅で土壌浄化剤としての注入材を柱状浸透させることができる。
【0029】
本発明の土壌浄化工法は、上述し
た土壌浄化剤注入装置を用いた工法であり、
(1) ケーシングを用いて地盤を掘削し、地盤中に削孔を形成する工程と、
(2) 管軸方向の一箇所又は複数個所に注入材吐出口を有する注入管、あるいは各注入細管の吐出口が異なる土層に位置するように設けた結束注入細管等を前記削孔内に設置する工程と、
(3) 前記ケーシングを引き上げながら、前記注入管あるいは結束注入細管の外周部と前記削孔の削孔壁との間の前記注入材吐出口位置より上方まで砂を充填して砂を主体とするフィルター層を形成する工程と、
(4) 前記ケーシングを引き上げながら、前記注入管の外周部と前記削孔の削孔壁との間の前記フィルター層の上方にシール材を充填する工程と、
(5) 前記注入管の注入材吐出口から
非固結性の土壌浄化剤を吐出させる工程と、
を有し、
前記注入材吐出口から吐出させた
非固結性の土壌浄化剤を、前記シール材により上部が拘束された前記フィルター層を通してフィルター層の高さに応じた幅で前記削孔壁から地盤中に浸透させることを特徴とする。
【0030】
本発明のもう一つの態様における土壌浄化工法は、
(1) ケーシングを用いて地盤を掘削し、地盤中に削孔を形成する工程と、
(2) 管軸方向の一箇所又は複数個所に注入材吐出口を有する注入管、あるいは各注入細管の吐出口が異なる土層に位置するように設けた結束注入細管等を前記削孔内に設置する工程と、
(3) 前記ケーシングを引き上げながら、前記注入管の外周部と前記削孔の削孔壁との間の前記注入材吐出口位置の下方まで砂を充填して砂を主体とするフィルター層を形成する工程と、
(4) 前記ケーシングを引き上げながら、前記注入管の外周部と前記削孔の削孔壁との間の前記フィルター層の上方にベントナイトを含むシールパッカー層を形成させる工程と、
(5)-1 前記シールパッカー層の上方に、さらに前記注入管の注入材吐出口がある場合には、前記ケーシングを引き上げながら、前記注入管の外周部と前記削孔の削孔壁との間の前記注入材吐出口位置の下方まで砂を充填して砂を主体とするフィルター層を形成する工程と、
(5)-2 前記ケーシングを引き上げながら、前記注入管の外周部と前記削孔の削孔壁との間の前記フィルター層の上方にベントナイトを含むシールパッカー層を形成させる工程、
の(5)-1及び(5)-2の工程を一または複数回繰り返す工程と、
(6) 前記注入管の注入材吐出口から
非固結性の土壌浄化剤を吐出させる工程と、
を有し、
前記注入材吐出口から吐出させた
非固結性の土壌浄化剤を、前記シールパッカー層で上部、又は上部並びに下部が拘束された前記フィルター層を通してフィルター層の高さに応じた幅で前記削孔壁から地盤中に浸透させることを特徴とする。
【0031】
本発明を土壌浄化に適用する場合において、土壌浄化の対象とする有害物としては、6価クロム、水銀、鉛、カドミウム等の重金属、土木工事等によって発生する廃泥土、焼却灰、汚泥、産業廃棄物、環境ホルモン、農薬残留物、有機溶剤、有機洗剤等の有機化合物、ダイオキシン等人体や環境に悪影響を及ぼす有害物などがあり、例として、アルキル水銀、総水銀、カドミウム、鉛、有機リン、六価クロム、ヒ素、シアン、PCB、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、13−ジクロロプロペン、チウラム、シマジン、チオベンカルブ、ベンゼン、セレン等が挙げられる。
【0032】
バイオレメディエーションでの微生物による分解例としては、一例を示すと次のとおりである。
【0033】
産業廃棄物中の有機物は細菌や糸状金菌等の微生物によって分解される。発ガン物質であるトリハロメタンの生成に関与するアンモニアは硝化菌により、工業用溶剤トリクロロエチレンはアンモニア酸化菌により分解される。また、農薬は土壌中の糸状菌、細菌、放射菌によって分解される。
【0034】
これらの微生物は地盤注入材としての浄化液によって活性化されて上記汚染物質を分解する。
【0035】
例えば、パラチオンはPseudomonas stuzeriとPseudomonas aeruginosaの共同により分解される。また、カーバメイト系殺虫剤はPenicillium、Trichodermaによって分解される。さらに、PCBはPseudomonas、Alcaligenesによって分解され、クロロベンゼンもPseudomonasによって分解される。
【0036】
本浄化液によって活性化される土壌微生物としては、植物の葉に生息する微生物や菌類、細菌類がある。典型的には酵母、糸状菌、細菌である。
【0037】
葉の表面に生息している微生物の種類としては、例えばPseudozyma属(P.antarctica、P.ruglosa、P.parantarctica、P.aphidisなど)やCryptococcus属(Cryptococcus laurenti、Cryptococcus flavusなど)、その他、Rhodotorula glutinis、Rhodotorula mucilaginosa、Sakaguchia dacryoidea、Sporidiobolus pararpseusやUstilago maydisなどが知られている。
【0038】
例えばPseudozyma antarctica JCM3941、Pseudozyma antarctica JCM10317、Pseudozyma antarctica JCM3941、Pseudozyma ruglosa JCM10323およびPseudozyma parantarctica JCM11752等が挙げられる。
【0039】
上記糸状菌としては、例えば、Acremonium属、Alternaria属、Arthrinium属、Aspergillus属、Aureobasidium属、Cladosporium属、Epicoccum属、Exophiala属、Fusarium属、Leptosphaeria属、Paecilomyces属、Penicillium属、Phoma属、Trichoderma属、Pseudotaeniolina属、Ulocladium属、Phaeosphaeriopsis属、Galactomyces属の糸状菌が挙げられる。
【0040】
また、バイオレメディエーションの場合等において、微生物による分解を促進させる目的で、土壌浄化剤に加え空気又はマイクロバブルを注入することもできる。空気又はマイクロバブルは土壌浄化剤と別々に注入することもできるが、土壌浄化液に空気又はマイクロバブルを混入して注入してもよい。
【0041】
本発明をヒ素拡散防止等の重金属等の不溶化工法に適用する場合には、土壌浄化剤としてのヒ素不溶化剤として硫酸第二鉄及び/又はポリ硫酸第二鉄を用いることができる。
【0042】
その他、本発明の土壌浄化工法に用いることができる注入材料(土壌浄化剤)としては、例えば表1に示すようなものがある。
【0043】
【表1】