【文献】
難波 亜紀 外6名,ギンブナの<i>Edwardsiella tarda</i>人為感染に対するIFNγの投与効果,平成23年度日本水産学会春季大会(日本農学大会水産部会)講演要旨集,2011年 3月27日,p.158
【文献】
村上 浩紀 外2名,魚類リンパ球の不死化と魚インターフェロン遺伝子,魚病研究,1995年 6月,第30巻,第2号,p.175−180
【文献】
Ohta T, et al.,Anti-viral effects of interferon administration on sevenband grouper, Epinephelus septemfasciatus,Fish & Shellfish Immunology,2011年,Vol.30, No.4-5,p.1064-1071
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、有効な防除法や治療法に乏しく、魚類養殖において大きな魚病被害をもたらす、細胞内寄生病原体により引き起こされる感染症、例えばヒラメ養殖において最も大きな魚病被害をもたらすエドワジエラ症を、有効性の高いワクチンにより防除する技術を提供することを目的とする。より具体的には、エドワジエラ・タルダ (Edwardsiella tarda) 等の細胞内寄生細菌に対する不活化ワクチンのワクチン効果を増強するためのアジュバントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的に鑑み、鋭意検討を行った。まず、エドワジエラ・タルダに対する不活化ワクチンの有効性が低い原因について検討を行い、この細菌が宿主の細胞内に寄生する特徴を有するため、不活化ワクチン接種により誘導されたエドワジエラ・タルダに対する抗体が、細胞内に寄生した菌体に作用できず、これを排除することが出来ないことがその原因であると考えた。そこで、ヒラメ等の魚類において、細胞内寄生病原体の排除に有効に働く免疫応答を増強するアジュバントを開発すべく、検討を進めたところ、驚くべきことに、哺乳動物では液性免疫を増強することが報告されているインターフェロンが、魚類においては細胞内寄生病原体の排除に有効に働く免疫応答を増強するアジュバントとして機能し得ることを見出した。具体的には、ヒラメの1型インターフェロンまたはインターフェロンγの組換えタンパク質を調製し、エドワジエラ・タルダに対する不活化ワクチンと同時にアジュバントとして外来的にヒラメに接種することにより、本菌に対する不活化ワクチンの効果が有意に増強された。本発明者らは、これらの知見に基づき更に検討を進め、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は以下に関する。
[1]1型インターフェロン又はインターフェロンγを含む、魚類の細胞内寄生病原体に対する不活化ワクチン用アジュバント。
[2]細胞内寄生病原体がバクテリアである、[1]記載のアジュバント。
[3]バクテリアがエドワジエラ・タルダである、[2]記載のアジュバント。
[4]魚類がカレイ目に属する魚である、[1]〜[3]のいずれかに記載のアジュバント。
[5]不活化した魚類の細胞内寄生病原体、またはワクチン活性を有する当該病原体の非感染性抗原、及び1型インターフェロンまたはインターフェロンγを組み合わせてなる、当該細胞内寄生病原体に対するワクチン。
[6]細胞内寄生病原体がバクテリアである、[5]記載のワクチン。
[7]バクテリアがエドワジエラ・タルダである、[6]記載のワクチン。
[8]魚類がカレイ目に属する魚である、[5]〜[7]のいずれかに記載のワクチン。
[9]油性アジュバントを実質的に含有しない、[5]〜[8]のいずれかに記載のワクチン。
[10]不活化した魚類の細胞内寄生病原体、またはワクチン活性を有する当該病原体の非感染性抗原、及び1型インターフェロン又はインターフェロンγの有効量を当該魚類に投与することを含む、当該魚類における細胞内寄生病原体感染の予防方法。
[11]細胞内寄生病原体がバクテリアである、[10]記載の方法。
[12]バクテリアがエドワジエラ・タルダである、[11]記載の方法。
[13]魚類がカレイ目に属する魚である、[10]〜[12]のいずれかに記載の方法。
[14]油性アジュバントを実質的に投与しない、[10]〜[13]のいずれかに記載の方法。
[15]不活化した魚類の細胞内寄生病原体、及び1型インターフェロン又はインターフェロンγの有効量を魚に投与すること、および当該魚を飼育することを含む、当該魚の養殖方法。
[16]油性アジュバントを実質的に投与しない、[15]記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、細胞内寄生病原体に対する不活化ワクチンの効果が増強される。その結果、防除法や治療法に乏しい、エドワジエラ症等の細胞内寄生病原体により引き起こされる感染症に対する有効性の高い不活化ワクチンを作製することが可能となり、養殖現場における魚病発生による経済的被害を軽減できる。
我が国において、水産用ワクチンで使用されているアジュバントのほとんどは油性アジュバントである。油性アジュバントは界面活性剤および油脂からなり、ワクチン抗原と混合し乳化して使用される。しかし、油性アジュバントは長期間レシピエントの体内に残留することから、油性アジュバントを含有するワクチン接種後は49週間の水揚げ禁止期間を設けなければならない。これに対して、インターフェロンはタンパク質であることから、ワクチン効果の発揮に必要な免疫反応を誘導した後は、速やかに宿主の体内で代謝されると考えられる。したがって、長期間の水揚げ禁止期間が不要となる。
インターフェロンは、組換え技術を利用することで安定的にかつ大量に調製できる一方で、極めて少ない用量でアジュバント効果を発揮する。従って、インターフェロンは、一度に数万匹単位でワクチンを接種しなければならない養殖魚に適した非常に効率の良いアジュバントである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、1型インターフェロン又はインターフェロンγを含む、魚類の細胞内寄生病原体に対する不活化ワクチン用アジュバントを提供する。
【0014】
本発明のアジュバントを構成する1型インターフェロン及びインターフェロンγは公知のサイトカインである。本発明において使用される1型インターフェロン及びインターフェロンγは、通常、魚類1型インターフェロン及び魚類インターフェロンγである。
【0015】
本発明において魚類としては、特に限定されないが、例えば、食用としては、カレイ目に属する魚種(例えば、ヒラメ科の魚(ヒラメ等)、マコガレイ、ホシガレイ、ターボット等)、タイ科の魚(マダイ、チダイ等)、ブリ、ボラ、アイナメ、マグロ、ティラピアサケ、コイ、マス、ニジマス、ヤマメ、アマゴ、ウナギ等が挙げられる。また、鑑賞用途としては、コイ、フナ、メダカ、キンギョ等が挙げられる。さらに、研究又は実験用途として、ゼブラフィッシュ、メダカ、キンギョ、ドジョウ等が挙げられる。魚類は好ましくは食用であり、好ましくはカレイ目に属する魚種であり、より好ましくはヒラメ科の魚(ヒラメ等)である。
【0016】
本明細書において、タンパク質について、「生物Xタンパク質Y」とは、タンパク質Yのアミノ酸配列が、生物Xにおいて天然に発現している該タンパク質のアミノ酸配列と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を有することを意味する。同様に、本明細書において、遺伝子について、「生物X遺伝子Z」とは、遺伝子Zのヌクレオチド配列(好ましくはcDNA配列)が、生物Xにおいて天然に発現している該遺伝子のヌクレオチド配列(好ましくはcDNA配列)と同一又は実質的に同一のヌクレオチド配列を有することを意味する。「実質的に同一」とは、着目したアミノ酸配列又はヌクレオチド配列が、生物Xにおいて天然に発現している因子のアミノ酸配列又はヌクレオチド配列と70%以上(好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上)の同一性を有しており、且つ当該タンパク質又は遺伝子の機能が維持されていることを意味する。
【0017】
本明細書においてアミノ酸配列の「同一性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する、同一アミノ酸残基の割合(%)を意味する。
【0018】
本明細書におけるアミノ酸配列の同一性は、NCBIのインターネットホームページ上に公開されている相同性計算アルゴリズムNCBI blastp/Blast 2 sequences(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(Short queries=off/Expect threshold=10/Matrix=BLOSUM62/Gap Costs=Existence:11 Extension:1/Compositional adjustments=Conditional compositional score matrix adjustment/filter=off/Mask=off)にて計算することができる。
【0019】
1型インターフェロンの機能としては、Mx1、ISG12及びISG15の遺伝子発現の誘導を挙げることが出来る。1型インターフェロンの機能の有無は、評価対象のポリペプチドにより、アジュバントの投与対象である魚(例えば、ヒラメ)の胚由来細胞(例えば、ヒラメであれば、HINAE細胞)を2μg/mlの用量で20時間刺激したときに、Mx1、ISG12及びISG15の遺伝子発現を誘導するか否かを評価することにより判定することができる。
【0020】
インターフェロンγの機能としては、IIP44の遺伝子発現の誘導を挙げることが出来る。インターフェロンγの機能の有無は、評価対象のポリペプチドにより、アジュバントの投与対象である魚(例えば、ヒラメ)の末梢血白血球を2μg/mlの用量で20時間刺激したときに、IIP44の遺伝子発現を誘導するか否かを評価することにより判定することができる。
【0021】
魚類1型インターフェロン及び魚類インターフェロンγの多くについては、そのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列(cDNA配列)が公知であり、公共のデータベース(例、Genbank)から入手可能である。例えば、ヒラメ1型インターフェロンの代表的なアミノ酸配列を配列番号2に、代表的なヌクレオチド配列を配列番号1に、それぞれ示す。ヒラメインターフェロンγの代表的なアミノ酸配列を配列番号4に、代表的なヌクレオチド配列を配列番号3に、それぞれ示す。尚、着目する魚類の1型インターフェロン(またはインターフェロンγ)のアミノ酸配列やヌクレオチド配列が不明な場合には、当該魚類のcDNAライブラリーまたはゲノミックライブラリーから、上述のヒラメ1型インターフェロン(またはインターフェロンγ)をコードするヌクレオチド配列からなるcDNAもしくはそのフラグメントをプローブとしてコロニーもしくはプラークハイブリダイゼーションによって、当該魚類の1型インターフェロン(またはインターフェロンγ)をコードする核酸を単離し、そのヌクレオチド配列を解析することによりこれを決定することができる。また、より迅速かつ簡便にcDNAクローンを得る方法として、RACE法を用いることができる。即ち、上述のヒラメ1型インターフェロン(またはインターフェロンγ)のcDNAの一部に相当する二本鎖DNAのセンス鎖及びアンチセンス鎖の部分塩基配列に相同なオリゴヌクレオチドをそれぞれ合成して、各オリゴヌクレオチドと適当なアダプタープライマーとを一対のPCRプライマーとして5’及び3’RACE反応を行い、各増幅断片を制限酵素とリガーゼを用いる等の方法で連結することにより、完全長のcDNAクローンを得ることができる。
【0022】
好ましい態様において、1型インターフェロン及びインターフェロンγの魚類の種類は、本発明のアジュバントの投与が意図される魚類の種類と同一である。例えば、本発明のアジュバントが、ヒラメの細胞内寄生病原体に対する不活化ワクチンの効果を増強する目的で、ヒラメに投与することが意図される場合、ヒラメ1型インターフェロンまたはヒラメインターフェロンγが用いられる。しかしながら、インターフェロンは、魚の種差を越えてクロス反応し得るので、意図される特定の魚類の細胞内寄生病原体に対する不活化ワクチンのワクチン効果を増強し得る限り、1型インターフェロン及びインターフェロンγの魚類の種類は、本発明のアジュバントの投与が意図される魚類の種類と異なっていてもよい。
【0023】
本発明において用いられる1型インターフェロン及びインターフェロンγのN末端及び/又はC末端には、少なくとも1つのタグポリペプチド又はシグナル配列が付加していてもよい。
【0024】
タグポリペプチドとは、ポリペプチドの検出や精製等を容易にならしめるために付加されるポリペプチドをいう。タグポリペプチドとしては、エピトープタグ、蛍光ポリペプチド、イムノグロブリンFc領域等を挙げることが出来るがこれに限定されない。エピトープタグとは、抗体または他の結合パートナーによって特異的に認識されるペプチドをいい、具体的には、Flagタグ、ポリヒスチジンタグ、c−Mycタグ、HAタグ、AU1タグ、GSTタグ、MBPタグ等を挙げることが出来る。蛍光ポリペプチドとしては、GFP、YFP、RFP、CFP、BFP、EGFP等を挙げることが出来る。このようなタグポリペプチドは当業者に周知であり、当該タグポリペプチドを特異的に認識する多様な抗体が市販されている。
【0025】
シグナル配列とは、ポリペプチドの翻訳と同時にまたは翻訳後に、合成部位から細胞内部の特定部位、又は細胞外部へのポリペプチドの運搬や局在を指示するポリペプチド配列をいう。シグナル配列には、ポリペプチドの分泌を誘導するリーダー配列、核移行シグナル配列(例えば、SV40 T抗原の核移行シグナル配列)、核外移行シグナル配列、核小体局在シグナル等を挙げることが出来るがこれに限定されない。このようなシグナル配列は当業者に周知であり、目的に応じて適宜選択することが出来る。
【0026】
本発明において用いられる1型インターフェロン及びインターフェロンγは修飾されていてもよい。該修飾としては、脂質鎖の付加(脂肪族アシル化(パルミトイル化、ミリストイル化等)、プレニル化(ファルネシル化、ゲラニルゲラニル化等)等)、リン酸化(セリン残基、スレオニン残基、チロシン残基等におけるリン酸化)、アセチル化、糖鎖の付加(Nグリコシル化、Oグリコシル化)、PEGの付加等を挙げることが出来る。
【0027】
また、本発明において用いられる1型インターフェロン及びインターフェロンγは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(例:
125I、
131I、
3H、
14C等)、酵素(例:β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)、アフィニティタグ(例:ビオチン等)などで標識されていてもよい。
【0028】
また、本発明において用いられる1型インターフェロン及びインターフェロンγには、その塩の形態も包含される。塩としては生理学的に許容される酸(例:無機酸、有機酸)や塩基(例:アルカリ金属塩)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが挙げられる。
【0029】
本発明において用いられる1型インターフェロン及びインターフェロンγは、好ましくは単離されている。「単離」とは、目的とする成分以外の因子を除去する操作がなされ、天然に存在する状態を脱していることを意味する。「単離された1型インターフェロン(またはインターフェロンγ)」の純度(総タンパク質重量に占める1型インターフェロン(またはインターフェロンγ)の百分率)は、通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは実質的に100%である。
【0030】
本発明において用いられる1型インターフェロン及びインターフェロンγの製造方法については特に制限はなく、公知のペプチド合成法に従って製造してもよく、また公知の遺伝子組み換え技術を用いて製造してもよい。ペプチド合成法は、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれであってもよい。
【0031】
遺伝子組み換え技術を用いて本発明のポリペプチドを製造する場合には、先ず1型インターフェロン(またはインターフェロンγ)をコードするポリヌクレオチドを取得し、該ポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクター(プラスミドベクター、ウイルスベクター)で宿主を形質転換し、得られる形質転換体を培養することによって、該ポリペプチドを製造することができる。
【0032】
宿主としては、例えば、エシェリヒア属菌(エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等)、バチルス属菌(バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)等)、酵母(サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等)、昆虫細胞(夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)等)、昆虫(カイコの幼虫等)、哺乳動物細胞(サル細胞(COS-7等)、チャイニーズハムスター細胞(CHO細胞等)等)などが用いられる。
【0033】
形質転換体を、宿主の種類に応じて、自体公知の方法で培養し、培養物から1型インターフェロン(またはインターフェロンγ)を単離することにより、本発明において使用される1型インターフェロン(またはインターフェロンγ)を製造することが出来る。培養物からの1型インターフェロン(またはインターフェロンγ)の単離又は精製は、例えば、菌体溶解液や培養上清を、逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーなどの複数のクロマトグラフィーに供することにより達成することができる。
【0034】
1型インターフェロン及びインターフェロンγは、魚類の細胞内寄生病原体感染を排除する免疫を増強するので、本発明のアジュバントは、魚類の細胞内寄生病原体に対する不活化ワクチンのワクチン効果(即ち、当該魚類における当該細胞内寄生病原体感染の予防効果)を増強するために使用することができる。1型インターフェロンまたはインターフェロンγのワクチン効果増強量を、魚類の細胞内寄生病原体に対する不活化ワクチンを投与した、あるいは投与することが予定された魚類へ投与することにより、当該不活化ワクチンの効果が増強される。
【0035】
魚類の細胞内寄生病原体には、バクテリア及びウイルスが含まれる。魚類の細胞内寄生バクテリアとしては、エドワジエラ・タルダ、ミコバクテリウム等を挙げることができるが、これらに限定されない。魚類の細胞内寄生ウイルスとしては、コイヘルペスウイルス、ウイルス性出血性敗血症ウイルス等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0036】
本発明のアジュバントの投与対象魚類は、不活化ワクチンが標的とする細胞内寄生病原体が感染する魚類であれば制限されず、細胞内寄生病原体の種類に依る。例えば、エドワジエラ・タルダを標的とする場合、カレイ目に属する魚種(例えば、ヒラメ、マコガレイ、ホシガレイ、ターボット等)、ウナギ、マダイ、チダイ、ブリ、ボラ、アイナメなどが投与対象として挙げられる。特に養殖されることの多いヒラメ科に属する魚種(ヒラメ等)、タイ科などに属する魚種(マダイ等)については、養殖時にエドワジエラ症による死亡率を低下させることができ歩留まりを上昇させることができるため、本発明のワクチンの有用性は高いと考えられる。ミコバクテリウムを標的とする場合、多くの淡水魚、海水魚が投与対象となり得るが、特に養殖されることの多いブリ類については、養殖時にミコバクテリウム症による死亡率を低下させることができ歩留まりを上昇させることが期待される。コイヘルペスウイルスを標的とする場合、コイが投与対象として挙げられる。ウイルス性出血性敗血症ウイルスを標的とする場合、サケ、マス、ヒラメ等の冷水性魚類が投与対象として挙げられる。
【0037】
不活化ワクチンとは、非感染性の(不活化された)ワクチン活性(病原体に特異的な免疫を惹起することにより、当該病原体への感染を防御する活性)を有する病原体抗原を有効成分として含有するワクチンをいう。
【0038】
本発明は、非感染性の(不活化された)ワクチン活性を有する魚類の細胞内寄生病原体抗原、及び上記1型インターフェロンまたはインターフェロンγを組み合わせてなる、当該細胞内寄生病原体に対するワクチンを提供する。非感染性のワクチン活性を有する魚類の細胞内寄生病原体抗原、及び1型インターフェロン又はインターフェロンγのワクチン有効量を当該魚類に投与することにより、当該魚類における細胞内寄生病原体感染を予防し、当該感染により引き起こされる疾患の発症を予防することができる。
【0039】
ワクチン活性を有する魚類の細胞内寄生病原体抗原としては、上述の細胞内寄生病原体(例、エドワジエラ・タルダ)の完全病原体、不完全病原体、病原体構成タンパク質、病原体非構造タンパク質などが挙げられる。
【0040】
尚、エドワジエラ・タルダには、ヒラメなどのカレイ目魚類およびウナギにおけるエドワジエラ症の原因菌である、原型(prototype)(「定型」とも呼ぶ)のエドワジエラ・タルダと、マダイ、チダイ、及びブリから分離される変種(variant)のエドワジエラ・タルダが知られており(楠田理一ら(1977)、日水誌、43、129−134.)、いずれのタイプをもワクチンに含有させる細胞内寄生病原体抗原として使用することができる。原型エドワジエラ・タルダとしては、NUF251株、NUF806 株などの定型菌が知られている。変種エドワジエラ・タルダとしては、022661株などが知られている。原型エドワジエラ・タルダは、マダイ、チダイ、及びブリ等に病原性は示さず、一方、変種エドワジエラ・タルダはヒラメなどのカレイ目魚類およびウナギに病原性を示さないことが知られている。その一方で、不活化した原型エドワジエラ・タルダは、病原性を示すヒラメなどのカレイ目魚類およびウナギ等のみならず、病原性を示さないマダイ、チダイ、及びブリ等に対してワクチン効果を奏し、不活化した変種エドワジエラ・タルダは、病原性を示すマダイ、チダイ、及びブリ等のみならず、病原性を示さないヒラメなどのカレイ目魚類およびウナギに対してワクチン効果を奏することが報告されている(特開2007-238505号公報)。
【0041】
細胞内寄生病原体の不活化処理は、当該病原体の病原性、すなわち当該病原体の感染対象である魚類(例えば、エドワジエラ・タルダであれば、ヒラメ科に属する魚等)に対する感染力を消失させる処理であれば特に制限されず、ホルムアルデヒドやクロロホルム等の有機溶媒処理、酢酸などを用いた酸処理、加熱処理等、不活化ワクチンの調製に用いられるあらゆる不活化処理を使用することができる。これらの不活化処理のうち、抗原性が比較的安定に保たれるという理由でホルムアルデヒド処理が好ましい。ホルムアルデヒド処理として具体的には、ホルムアルデヒドを35〜40%、好ましくは36〜38%含有するホルマリンを培養液中に0.05〜1.0%(例、0.1%)の濃度で添加し、培養液を4〜30℃ で、24〜72時間(例、48時間)保持する方法を挙げることができる。不活化処理した病原体は、有機溶媒や酸等の不活化剤を除去し、生理食塩水や緩衝液などで洗浄後、遠心分離によって不溶性沈殿物として回収される。
【0042】
なお、本発明のワクチンは、上記細胞内寄生病原体抗原、及び1型インターフェロンまたはインターフェロンγのみを含有するものに限定されず、薬学的に許容される液状又は固体状の担体をさらに含有してもよい。液状の担体としては水、リン酸緩衝液(PBS)、生理食塩水等が挙げられる。固体状の担体としては、タルク、シュークロースなどの賦形剤が挙げられる。本発明のワクチンの形態は特に制限されず、注射剤、経口剤、浸漬剤のいずれであってもよいが、少量の投与で長期間にわたって効果の持続性がある注射剤の形態を採用することが好ましい。また、経口剤の形態である場合には、通常の魚類の飼料に上記細胞内寄生病原体抗原、及び1型インターフェロンまたはインターフェロンγを混合してもよい。
【0043】
本発明のワクチンは、水産用ワクチンにおいて通常用いられる手法、例えば、注射法、浸漬法、経口法等により、投与対象に対して投与される。注射法においては、注射可能な大きさの魚に、本発明のワクチンを、腹腔内、筋肉内、皮下、皮内、静脈内等(好ましくは腹腔内)へ接種する。浸漬法においては、本発明のワクチンの構成成分を含む液中に、魚を0.05〜24時間程度浸漬する。浸漬法は、注射法と比較してワクチン効果が低下する可能性があるため、必要に応じて追加免疫を行ってもよい。経口法では、本発明のワクチンの構成成分を含有する飼料を自由摂餌させる。経口法を採用する場合には、5〜14日間の連続投与が望ましい。
【0044】
注射用ワクチンは、上記細胞内寄生病原体抗原、及び上記1型インターフェロンまたはインターフェロンγを滅菌した魚類用生理食塩水等に懸濁して調製することができる。なお、当該注射用ワクチンには、上記細胞内寄生病原体抗原、及び上記1型インターフェロンまたはインターフェロンγ及び生理食塩水の他、当該注射剤に通常用いられる懸濁化剤、安定化剤、乳化剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤またはその他の適当な添加剤を配合することもできる。
【0045】
従来からワクチン効果等を向上させるために種々のアジュバントが用いられている。本発明のワクチンは、アジュバントとして既に、1型インターフェロンまたはインターフェロンγを含むため、これ以外のアジュバントを使用するまでもなく、十分なワクチン効果が得られる。しかしながら、本発明は1型インターフェロンまたはインターフェロンγ以外のアジュバントの使用を何ら制限するものではなく、所望に応じて、上記成分に加えて他のアジュバントを配合することもできる。
【0046】
他のアジュバントの例としては以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:油性アジュバント(鉱物、植物及び動物性油脂、ビタミンEなどの油溶性ビタミン等)、これらを添加するための界面活性剤、ミョウバン、アルミニウム化合物、ベントナイト、ムラミルジペプチド誘導体、インターロイキン、内毒素。
【0047】
一態様において、本発明のワクチンは油性アジュバントを実質的に含有しない。本発明のワクチンは、アジュバントとして1型インターフェロンまたはインターフェロンγを含有し、十分なワクチン効果を発揮することができるので、油性アジュバントの添加は不要である。食用魚の養殖において油性アジュバントを含むワクチンを使用した場合、レシピエントの体内に残留した油性アジュバントを除去するのに十分な水揚げ禁止期間を設ける必要があるが、油性アジュバントを実質的に含有しないワクチンを用いることにより、この水揚げ禁止期間が不要となる。尚、「実質的に含有しない」とは、油性アジュバントの含有量がワクチン効果増強量を下回ることを意味する。好ましい態様において、本発明のワクチンは油性アジュバントを含有しない。
【0048】
本発明のワクチンに含まれる非感染性のワクチン活性を有する魚類の細胞内寄生病原体抗原の量は、本発明のワクチンとして用いられた際に、当該魚類における細胞内寄生病原体感染の予防を達成し得る範囲で特に限定されず、病原体の種類、抗原の態様、投与ルート、投与対象等により適宜選択することができる。例えば、エドワジエラ・タルダの不活化処理菌体を、注射により投与する場合には、通常10
3〜10
11CFU/mL、好ましくは10
8〜10
11CFU/mLとする。
【0049】
本発明のワクチンに含まれる1型インターフェロンまたはインターフェロンγの投与量は、本発明のワクチンとして用いられた際に、当該魚類における細胞内寄生病原体感染の予防を達成し得ることができ、且つ非感染性のワクチン活性を有する魚類の細胞内寄生病原体抗原のみを投与した場合と比較してワクチン効果を増強し得る範囲で特に限定されず、病原体の種類、抗原の態様、投与ルート、投与対象等により適宜選択することができる。例えば、注射によりエドワジエラ・タルダ等の不活化処理病原体とともに投与する場合には、通常0.01〜100μg/mL、好ましくは0.1〜10μg/mLとする。
【0050】
なお、魚に投与するワクチンの体積を増減することによって、有効量を適宜調節することができるので、本発明のワクチン中の細胞内寄生病原体抗原、及び1型インターフェロンまたはインターフェロンγの含有量は、上記のものに限定されることはない。
【0051】
本発明のワクチンを魚に腹腔内注射する場合の望ましい投与量は、投与するワクチン中に含有される有効成分の量、魚の種類、年齢及び体重などの種々の要因によって異なり、一概に規定することはできない。しかし、投与量が多すぎると、投与作業が煩雑になり、また、投与量が少なく過ぎると、投与毎の投与量の誤差が増大する懸念があるので、体重5〜100gの魚に対して通常0.025〜0.5mL程度を体重に応じて腹腔内注射することが好ましい。
【0052】
本発明のワクチンは、免疫応答を発現する魚類であれば、魚の体重や年齢等に特に制限はされることなく投与することができる。ワクチンをより有効に利用するためには、標的とする細胞内寄生病原体に感染する前、例えば稚魚の段階で投与することが好ましい。
【0053】
本発明のワクチンの投与回数は、そのワクチン効果(細胞内寄生病原体感染予防効果)が持続する限り1回でよいが、複数回投与してもよい。複数回投与により、ワクチン効果の増強が期待できる。複数回投与の場合の投与間隔は、通常1〜30日である。また投与回数は、通常2〜5回である。
【0054】
本発明のワクチンの投与対象魚類は、標的となる細胞内寄生病原体が感染する魚類であれば制限されず、細胞内寄生病原体の種類に依る。例えば、エドワジエラ・タルダを標的とする場合、カレイ目に属する魚種(例えば、ヒラメ、マコガレイ、ホシガレイ、ターボット等)、ウナギ、マダイ、チダイ、ブリ、ボラ、アイナメなどが投与対象として挙げられる。特に養殖されることの多いヒラメ科に属する魚種(ヒラメ等)、タイ科などに属する魚種(マダイ等)については、養殖時にエドワジエラ症による死亡率を低下させることができ歩留まりを上昇させることができるため、本発明のワクチンの有用性は高いと考えられる。ミコバクテリウムを標的とする場合、多くの淡水魚、海水魚が投与対象となり得るが、特に養殖されることの多いブリ類については、養殖時にミコバクテリウム症による死亡率を低下させることができ歩留まりを上昇させることが期待される。コイヘルペスウイルスを標的とする場合、コイが投与対象として挙げられる。ウイルス性出血性敗血症ウイルスを標的とする場合、サケ、マス、ヒラメ等の冷水性魚類が投与対象として挙げられる。
【0055】
尚、本発明のワクチンの有効成分である(I)非感染性のワクチン活性を有する魚類の細胞内寄生病原体抗原と、(II)1型インターフェロンまたはインターフェロンγとの組み合わせ使用に際しては、(I)と(II)の投与形態は、特に限定されず、投与時に、(I)と(II)とが組み合わされていればよい。このような投与形態としては、例えば、
(1) (I)と(II)とを同時に製剤化して得られる単一の製剤の投与、
(2) (I)と(II)とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での同時投与、
(3) (I)と(II)とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での時間差をおいての投与、
(4) (I)と(II)とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での同時投与、
(5) (I)と(II)とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での時間差をおいての投与(例えば、(I)→(II)の順序での投与、あるいは逆の順序での投与)
等が挙げられる。これらの投与形態全てが、本発明のワクチンに包含される。例えば、浸透法や経口法では、1型インターフェロンやインターフェロンγが十分に投与対象の魚の中に移行しない可能性も考えられるので、(I)を浸漬法又は経口法で投与し、(II)を注射法で投与する態様が考えられる。好ましくは、上記(1)〜(3)のいずれかの態様で、(I)及び(II)が注射法により投与対象へ投与される。
【0056】
本発明のワクチンによれば、従来のワクチンと比較してより効果的に魚類の細胞内寄生病原体への感染を防止することができる。特に、アジュバントとして1型インターフェロンまたはインターフェロンγを用いることにより、不活化ワクチンのワクチン効果が増強される。とりわけ、これまで有効な防御法に乏しかったエドワジエラ・タルダに対して、有効性の高い不活化ワクチンが提供される。
【0057】
また、本発明は、上記本発明のワクチンのワクチン有効量を魚に投与すること、および当該魚を飼育することを含む、当該魚の養殖方法を提供する。
【0058】
魚の飼育方法は、魚の種類に応じ、適宜設定することが可能であり、適切な人為的な条件下で給餌しながら、市場への出荷に十分な大きさになるまで飼育する。
【0059】
一態様において、油性アジュバントを実質的に含まない本発明のワクチンが魚へ投与される。このようなワクチンを用いることにより、油性アジュバントを用いた場合に設けることを要する水揚げ禁止期間(例えば、ワクチン投与後49週間)の経過前に水揚げを行い、市場へ出荷することが可能となる。
【0060】
刊行物、特許文献等を含む、本明細書に引用されたすべての参考文献は、引用により、それらが個々に具体的に参考として援用されかつその内容全体が具体的に記載されているのと同程度まで、本明細書に援用される。
【0061】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0062】
[実施例1]
組換えヒラメインターフェロンの調製、およびその活性の確認
ヒラメ1型インターフェロンまたはインターフェロンγ遺伝子をほ乳類用の遺伝子発現ベクター(pSecTagベクタープラスミド)に組込み、ほ乳類細胞(HEK293)に一過的に導入した。この形質転換細胞から培地中に分泌された組換えインターフェロンを、ヒスチジンタグを利用したアフィニティー精製により濃縮・精製した。精製した組換え1型インターフェロンまたはインターフェロンγをヒラメ胚由来細胞(HINAE 細胞)またはヒラメの末梢血白血球の培地中に添加することでこれらの組換えタンパク質が活性を有するかどうかを確認した。
【0063】
(1)濃度依存的に組換えヒラメインターフェロン(IFN)を作用させた際の免疫関連遺伝子の発現変動
ヒラメ胚由来培養細胞を15% ウシ胎児血清を含むLeibovitz’s L-15培地で培養し、0〜2μg/mlとなるように組換えヒラメインターフェロンを添加した。陽性対照としてpoly I:Cを0〜2μg/ml添加する試験区も設けた。インターフェロン添加後、20時間経過した時点でtotal RNAを抽出し、目的遺伝子のmRNA蓄積量を測定した。測定は、SYBR greenを使用したインターカレーター法によるリアルタイムPCRで行った。
【0064】
図1〜4に示されるように、組換えヒラメ1型インターフェロンを上記の細胞に作用させるとMx1、ISG12およびISG15の遺伝子発現が誘導された。また、組換えヒラメインターフェロンγを作用させるとIIP44の遺伝子発現が強力に誘導された。図中、縦軸のFold inductionは、無刺激の細胞内に蓄積した目的遺伝子のmRNA量と刺激を行った細胞内に蓄積した目的遺伝子のmRNA量の比を示す。
【0065】
(2)組換えインターフェロン(IFN)を作用させたヒラメ末梢血白血球における免疫関連遺伝子の経時的発現変動
ヒラメ末梢血白血球を15% ウシ胎児血清を含むLeibovitz’s L-15培地で培養し、0.2μg/mlとなるように組換えヒラメインターフェロンを添加した。陽性対照としてpoly I:Cを0.2μg/ml添加する試験区も設けた。陰性対照には無刺激の末梢血白血球を用いた。インターフェロン添加後、1、3および6時間後に末梢血白血球を回収しtotal RNAを抽出した。目的遺伝子のmRNA蓄積量の測定は、SYBR greenを使用したインターカレーター法によるリアルタイムPCRで行った。3個体のヒラメより抹消血白血球を分離し別々に解析を行った。
【0066】
図5〜8に示されるように、組換えヒラメ1型インターフェロンを上記の細胞に作用させるとMx1、ISG12およびISG15の遺伝子発現が誘導された。また、組換えヒラメインターフェロンγを作用させるとIIP44の遺伝子発現が強力に誘導された。縦軸のFold inductionは、無刺激の細胞内に蓄積した目的遺伝子のmRNA量と刺激を行った細胞内に蓄積した目的遺伝子のmRNA量の比を示す。
【0067】
ISG15はRNAウイルスの感染防除に関わることが報告されている(Comp Immunol Microbiol Infect Dis. 2011;34:83-91, Fish Shellfish Immunol. 2007;23:531-541)。また、IIP44遺伝子を高発現するヒラメ家系では、エドワジエラ・タルダ等の細胞内寄生細菌感染に対して高い抵抗性を示すことが報告されている(Fish Shellfish Immunol. 2010;29:747-752)。従って、以上の結果から、調製した組換えヒラメ1型インターフェロンおよびヒラメインターフェロンγが、ヒラメの免疫を増強する活性を有する可能性が示唆された。精製したインターフェロンは無菌状態のリン酸緩衝液中であれば、2週間から1ヶ月程度、4℃で保存可能であった。
【0068】
[実施例2]
不活化ワクチンの有効性の増強
1997年に長崎県でヒラメの病魚より分離されたエドワジエラ・タルダ NUF806株をワクチン株に使用した。本菌株を、28℃にて7.8×10
8colony forming unit (cfu)/mlに達するまで、ハートインフュージョン(HI)液体培地(2% NaCl含)で震盪培養した。培養後、ホルマリンを0.1%となるように添加し、4℃で48時間以上放置したものを不活化ワクチンとして使用した。ワクチン接種では、2μg/mlとなるようにPBSで希釈した各々の組換えインターフェロンを平均魚体重15gのヒラメ稚魚の腹腔内に100μl接種した(魚体重1gに対し10〜20ngの組換えインターフェロンを接種した)。次いで、時間差を設けずに上記の不活化ワクチンを100μl腹腔内に接種した。また、対照区として、リン酸緩衝液のみを接種した区画と不活化ワクチンのみを接種した区画を設けた。ワクチンを接種したヒラメ稚魚の免疫期間は3週間とし、25℃の調温海水で飼育した。
【0069】
不活化ワクチン有効性の増強効果を確認するための攻撃試験は以下の条件で行なった。HI寒天平板上(2% NaCl含、28℃にて36時間培養)で培養したNUF806株を白金耳で1mg掻き取り、1mlのリン酸緩衝液中に懸濁したものを希釈し攻撃試験に供した。生菌数が7.0×10
4cfu/mlとなるようにリン酸緩衝液で希釈・調製し、腹腔内に100μl接種することで攻撃を行った。攻撃後、25℃の調温海水でヒラメを飼育しながら8週間死亡を観察した。
【0070】
不活化ワクチン有効性の増強効果を以下に示す。攻撃試験後の各ワクチン試験区の累積死亡率は、不活化ワクチンのみ接種区(NUF806区)、不活化ワクチンおよび1型インターフェロン接種区(NUF806/IFN1区)、不活化ワクチンおよびインターフェロンγ接種区(NUF806/IFNγ区)およびリン酸緩衝液接種区(PBS区)で順に、100%、60%、44%および100%であった。NUF806/IFN1区およびNUF806/IFNγ区の免疫有効率(RPS)は順に40%および56%となった(
図3)。Fisherの正確確率検定(片側検定)ではNUF806区とNUF806/IFN1区の死亡数に有為差(p=0.043)が認められた。同様にNUF806区とNUF806/IFNγ区においても有為差(p=0.01)が認められた。以上の結果より、不活化ワクチンに組換えヒラメ1型インターフェロンまたはインターフェロンγを添加することで不活化ワクチンの有効性が有意に増強されることが示された。
【0071】
尚、免疫有効率の定義は下式の通りである。
免疫有効率(relative percent survival; RPS)=(1-(ワクチン区の死亡率 / PBS区の死亡率)) ×100 (%)