特許第5971773号(P5971773)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5971773
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】面形状可変装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 35/00 20060101AFI20160804BHJP
   B62D 25/02 20060101ALN20160804BHJP
   B64C 1/12 20060101ALN20160804BHJP
【FI】
   B62D35/00 Z
   !B62D25/02 A
   !B64C1/12
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-78271(P2014-78271)
(22)【出願日】2014年4月6日
(65)【公開番号】特開2015-199393(P2015-199393A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2015年4月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下川 真之介
(72)【発明者】
【氏名】板倉 英二
(72)【発明者】
【氏名】得竹 浩
(72)【発明者】
【氏名】大前 集
【審査官】 林 政道
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第03/068584(WO,A1)
【文献】 特表2010−500895(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0121945(US,A1)
【文献】 特開2007−212436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 35/00
B62D 17/00−25/08
B62D 25/14−29/04
B64C 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの面に沿って並列的に延在する複数の弾性変形可能な帯状要素を含む板状部材と、少なくとも一部の帯状要素に応力を付与することにより、前記少なくとも一部の帯状要素を含む帯状要素を弾性変形させる変形制御手段と、を有し、前記少なくとも一部の帯状要素の一端は拘束されており、前記変形制御手段は帯状要素の他端を一端に対し変位させるよう構成された面形状可変装置において、
前記面形状可変装置は、帯状要素の他端が前記変形制御手段により一端に近づくよう変位せしめられる際に、帯状要素が前記面を横切る所定の方向へ弾性変形するよう案内する変形案内手段を有することを特徴とする面形状可変装置。
【請求項2】
請求項1に記載の面形状可変装置において、前記応力は、帯状要素の延在方向に沿う応力、帯状要素の延在方向に垂直な方向に沿う応力、帯状要素の延在方向の周りの回転応力、帯状要素の延在方向に垂直な方向の周りの回転応力、及びこれらの二つ又は三つの応力の組合せの何れかであることを特徴とする面形状可変装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の面形状可変装置において、前記板状部材は、第一の方向に沿って並列的に延在する複数の第一の帯状要素と、前記第一の方向を横切る第二の方向に沿って並列的に延在する複数の第二の帯状要素とを含み、前記第一及び第二の帯状要素は織物状に織られていることを特徴とする面形状可変装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一つに記載の面形状可変装置において、前記変形制御手段は、帯状要素の他端を駆動する駆動手段と、前記駆動手段により駆動される他端の変位量及び前記駆動手段により帯状要素に与えられる応力の少なくとも一方を検出する検出手段とを含んでいることを特徴とする面形状可変装置。
【請求項5】
請求項に記載の面形状可変装置において、前記駆動手段は一つで二つ以上の帯状要素の他端を一括して駆動することを特徴とする面形状可変装置。
【請求項6】
請求項又はに記載の面形状可変装置において、前記駆動手段は圧電体、形状記憶合金及び形状記憶樹脂の少なくとも一つにて構成された部分を含んでいることを特徴とする面形状可変装置。
【請求項7】
請求項乃至の何れか一つに記載の面形状可変装置において、前記面形状可変装置は、帯状要素の他端が一端に対し相対変位することを阻止することにより前記板状部材の形状を保持する形状保持手段を有することを特徴とする面形状可変装置。
【請求項8】
請求項1乃至3の何れか一つに記載の面形状可変装置において、前記少なくとも一部の帯状要素は、温度に応答して少なくとも前記面を横切る方向へ弾性変形する形状記憶合金及び形状記憶樹脂の少なくとも一方にて構成された部分を含み、前記変形制御手段は、帯状要素の温度を制御することを特徴とする面形状可変装置。
【請求項9】
請求項1乃至の何れか一つに記載の面形状可変装置において、前記板状部材の少なくとも一方の面には、変形可能な膜部材が接合されていることを特徴とする面形状可変装置。
【請求項10】
請求項1乃至の何れか一つに記載の面形状可変装置において、互いに積層された複数の前記板状部材と、各板状部材に対応する複数の変形制御手段とを有することを特徴とする面形状可変装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の面形状の変形(モーフィング)の技術に係り、更に詳細には物体の面形状を変形させるための面形状可変装置に係る。
【背景技術】
【0002】
車両や航空機などの移動体の空力特性を変化させるために、移動体の外形を変化させるための構造が研究されている。例えば、下記の特許文献1には、車両の外板を可撓性のある材料にて形成し、外板に対し車両の内側に配置された機械的な位置調整装置によって外板の形状を変化させるよう構成された面形状可変装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−516188号公報
【発明の概要】
【0004】
〔発明が解決しようとする課題〕
従来の面形状可変装置においては、変形されるべき外板のような面部材がそれを横切る方向へ移動せしめられることにより変形される。そのため、変形されるべき面部材自体は非常に薄いものであっても、それに隣接する位置に面部材を変位させる機械的な装置が配置されなければならず、機械的な装置は面部材を変形させる方向へ移動可能な部分を有している。よって、従来の面形状可変装置は、それを設置する際に空間上の制約を受け易く、用途は機械的な装置の存在及び作動が許容される用途に限定されるという問題がある。換言すれば、面部材の近傍に機械的な装置が存在し作動することが許容されない用途に従来の面形状可変装置を適用することはできない。
【0005】
本発明は、従来の面形状可変装置における上述の如き問題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の主要な課題は、帯状要素(ストリップ)の座屈などによる弾性変形現象を利用することにより、従来に比して空間上の制約を受け難く、様々な用途に適用可能な面形状可変装置を提供することである。
【0006】
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
上述の主要な課題は、本発明によれば、一つの面に沿って並列的に延在する複数の弾性変形可能な帯状要素を含む板状部材と、少なくとも一部の帯状要素に応力を付与することにより、前記少なくとも一部の帯状要素を含む帯状要素を弾性変形させる変形制御手段と、を有し、前記少なくとも一部の帯状要素の一端は拘束されており、前記変形制御手段は帯状要素の他端を一端に対し変位させるよう構成された面形状可変装置において、前記面形状可変装置は、帯状要素の他端が前記変形制御手段により一端に近づくよう変位せしめられる際に、帯状要素が前記面を横切る所定の方向へ弾性変形するよう案内する変形案内手段を有することを特徴とする面形状可変装置によって達成される。
【0007】
上記の構成によれば、変形制御手段により、少なくとも一部の帯状要素に応力が付与されることにより、少なくとも一部の帯状要素を含む帯状要素が弾性変形せしめられ、これにより板状部材が弾性変形してその面形状が変化する。よって、変形制御手段は、面を横切る方向へ板状部材を押圧する必要はなく、典型的には一部の帯状要素の延長上に配置されればよい。従って、従来の面形状可変装置に比して板状部材の厚さ方向に見た面形状可変装置の大きさを低減し、面形状可変装置を適用する際の空間上の制約を受け難くし、適用可能な用途の範囲を拡大させることができる。
【0008】
また、従来の面形状可変装置においては、変形されていた面部材が元の形状に復帰することは、面部材自体の弾性に依存している。そのため、面部材は元の形状に復帰することを可能にする比較的高い弾性を有していなければならず、これに起因して変形前後の形状が面部材の弾性により決定される形状にならざるを得ない。
【0009】
これに対し、上記の構成によれば、帯状要素に対する応力の付与が解除されれば、帯状要素は元の形状に復帰する。よって、例えば膜部材が帯状要素に接合される場合にも、膜部材自体が高い弾性を有する必要はない。従って、変形前後の形状が面部材の弾性により決定される度合を低減することができる。
【0010】
また、従来の面形状可変装置においては、面部材に当接して押圧する機械的な装置の押圧部の形状は変化しないので、押圧部が当接する部位及びその近傍における面部材の形状は押圧部の形状により決定され、該部分の形状を押圧部の形状による制約を受けない形状に変化させることができない。
【0011】
これに対し、上記の構成によれば、変形されるべき帯状部材は機械的な装置の押圧部により変形せしめられる訳ではないので、帯状部材の変形形状が機械的な装置の押圧部の形状によって制約されることを回避することができる。
また、上記の構成によれば、変形制御手段により帯状要素の他端を一端に対し変位させることにより、帯状要素に応力を付与することができ、また一端に対し他端を変位させる方向及び量により板状部材の変形形状や変形量を推定することができる。更に、変形制御手段によって帯状要素の両端に応力が付与される構成の場合に比して、変形制御手段の数を低減することができる。
更に、上記の構成によれば、帯状要素の他端が変形制御手段により一端に近づくよう変位せしめられる際に、変形案内手段によって帯状要素が面を横切る所定の方向へ座屈により弾性変形するよう案内することができる。よって、帯状要素が座屈により弾性変形する際に、所定の方向とは逆の方向へ弾性変形することを効果的に防止することができる。
【0012】
なお、上記の構成において、「一つの面」は平面に限らず、曲面を含む概念である。また、「一つの面に沿って並列的に延在する」は、複数の帯状要素が完全に一つの面内にて延在することだけでなく、一つの面に対し垂直な方向へ僅かに隔置された状態にて延在することが許容される概念である。更に、「並列的に延在する」は、複数の帯状要素が完全に平行に延在することだけでなく、他に対し僅かに傾斜して延在することが許容される概念である。
【0013】
また、本発明によれば、上記の構成において、前記応力は、帯状要素の延在方向に沿う応力、帯状要素の延在方向に垂直で帯状要素の幅方向に沿う応力、帯状要素の延在方向に垂直で帯状要素の幅方向に垂直な方向に沿う応力、帯状要素の延在方向の周りの回転応力、帯状要素の延在方向に垂直で帯状要素の幅方向に沿う方向の周りの回転応力、帯状要素の延在方向に垂直で帯状要素の幅方向に沿う方向に垂直な方向の周りの回転応力、及びこれらの二つ又は三つの応力の組合せの何れかであってよい。
【0014】
上記の構成によれば、変形制御手段により、少なくとも一部の帯状要素の他端に与えられる応力に応じて帯状要素を弾性変形させ、帯状要素の弾性変形により板状部材を弾性変形させてその面形状を変化させることができる。特に、帯状要素の他端に少なくとも延在方向に沿う圧縮応力が付与される場合には、帯状要素を座屈により面を横切る方向へ弾性変形させ、これにより板状部材の中央部が面を横切る方向へ変位するよう板状部材を弾性的に湾曲変形させることができる。
【0015】
また、本発明によれば、上記の構成において、前記板状部材は、第一の方向に沿って並列的に延在する複数の第一の帯状要素と、前記第一の方向を横切る第二の方向に沿って並列的に延在する複数の第二の帯状要素とを含み、前記第一及び第二の帯状要素は織物状に織られていてよい。
【0016】
上記の構成によれば、板状部材は互いに横切る方向に延在する第一及び第二の帯状要素を含み、これらの帯状要素は織物状に織られている。従って、帯状要素が第一又は第二の帯状要素のみである場合に比して、板状部材の変形形状を多様化することができ、また板状部材の強度を高くすることができる。
【0019】
また、本発明によれば、上記の構成において、前記変形制御手段は、帯状要素の他端を駆動する駆動手段と、前記駆動手段により駆動される他端の変位量及び前記駆動手段により帯状要素に与えられる応力の少なくとも一方を検出する検出手段とを含んでいてよい。
【0020】
上記の構成によれば、駆動手段によって帯状要素の他端を駆動することにより、板状部材の変形を可変制御することができる。また、検出手段によって他端の変位量及び帯状要素に与えられる応力の少なくとも一方を検出することにより、板状部材の変形形状や変形量を推定することができるので、板状部材の変形形状や変形量を正確に制御することができる。
【0021】
また、本発明によれば、上記の構成において、二つ以上の帯状要素の他端が一つの駆動手段によって一括して駆動されるようになっていてよい。
【0022】
上記の構成によれば、二つ以上の帯状要素の他端が一つの駆動手段によって一括して駆動されるので、複数の帯状要素の他端がそれぞれ個別の駆動手段によって駆動される場合に比して、駆動手段の数を低減することができる。また、二つ以上の帯状要素の他端に同時に同一の応力を付与し、これにより二つ以上の帯状要素を同時に同一の形状に変形させることができる。
【0023】
また、本発明によれば、上記の構成において、前記駆動手段は圧電体、形状記憶合金及び形状記憶樹脂の少なくとも一つにて構成された部分を含んでいてよい。
【0024】
上記の構成によれば、駆動手段は、圧電体、形状記憶合金及び形状記憶樹脂の少なくとも一つにて構成された部分の体積、長さ又は形状の変化により、帯状要素の他端を駆動して帯状要素に応力を付与することができる。従って、駆動手段が例えば圧縮空気や高圧油により作動され、高圧供給源や弁装置などを要するピストン-シリンダ式の装置である場合に比して、必要な部品点数を低減し、構造を単純化することができる。
【0027】
また、本発明によれば、上記の構成において、前記面形状可変装置は、帯状要素の他端が一端に対し相対変位することを阻止することにより前記板状部材の形状を保持する形状保持手段を有していてよい。
【0028】
上記の構成によれば、形状保持手段によって帯状要素の他端が一端に対し相対変位することを阻止することにより、板状部材の形状を保持することができる。よって、変形制御手段により帯状要素に付与される応力が一定に維持されることによってのみ板状部材の形状が保持される場合に比して、板状部材の形状を保持する状況において板状部材の形状が変化することを効果的に防止することができる。
【0029】
また、本発明によれば、上記の構成において、前記少なくとも一部の帯状要素は、温度に応答して少なくとも前記面を横切る方向へ弾性変形する形状記憶合金及び形状記憶樹脂の少なくとも一方にて構成された部分を含み、前記変形制御手段は、帯状要素の温度を制御するようになっていてよい。
【0030】
上記の構成によれば、変形制御手段によって帯状要素の温度を制御することにより、少なくとも一部の帯状要素を予め設定された方向へ弾性変形させたり、帯状要素の形状を元の形状に戻したりすることができる。また、帯状要素の他端を一端に対し変位させる必要がないので、帯状要素の他端を駆動する駆動手段が必要な構成の場合に比して、面形状可変装置の構造を単純化することができる。
【0031】
また、本発明によれば、上記の構成において、前記板状部材の少なくとも一方の面には、変形可能な膜部材が接合されていてよい。
【0032】
上記の構成によれば、板状部材に膜部材が接合されていない場合に比して、面形状可変装置の形状が変化する部分の表面の平滑性を向上させることができる。また、膜部材により、気体、液体又は粉粒体が板状部材を横切って通過したり、帯状要素の間に侵入したりすることを阻止することができる。
【0033】
また、本発明によれば、上記の構成において、互いに積層された複数の前記板状部材と、各板状部材に対応する複数の変形制御手段とを有していてよい。
【0034】
上記の構成によれば、互いに積層された複数の板状部材をそれぞれの板状部材に対応する変形制御手段によって変形させることができる。よって、板状部材が一つである場合には達成困難な変形形状を達成することができ、また変形させる板状部材の数や組合せを変えることにより、積層された板状部材を種々の形状に変形させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】帯状要素が織物状に織られた板状部材を有する本発明による面形状可変装置の第一の実施形態を示す平面図である。
図2】第一の実施形態の面形状可変装置を示す縦断面図である。
図3】第一の実施形態の板状部材を示す拡大部分平面図である。
図4】第一の実施形態の板状部材の湾曲変形形状の例を、X方向の縦断面(X)及びY方向の縦断面(Y)にて示す断面図である。
図5】帯状要素が一方向にのみ平行に配列された板状部材を有する本発明による面形状可変装置の第二の実施形態を示す平面図である。
図6】第二の実施形態の板状部材の湾曲変形形状の例を、X方向の縦断面にて示す断面図である。
図7】三つの板状部材の積層体を有する本発明による面形状可変装置の第三の実施形態を示す縦断面図である。
図8】(A)は、互いに積層される三つの板状部材の弾性変形の形状を分解して示す縦断面図であり、(B)は、三つの板状部材の積層体の弾性変形の形状を示す縦断面図である。
図9】第三の実施形態において、積層体を構成する板状部材のうち、弾性変形せしめられる板状部材の数や組合せを変えることにより、積層体の弾性変形の形状及び量が様々な形状及び量になることを示す縦断面図である。
図10】変形制御装置の図示を省略して、本発明による面形状可変装置の第四の実施形態を示す平面図である。
図11】本発明による面形状可変装置の第五の実施形態における変形制御装置を示す説明図である。
図12】本発明による面形状可変装置の第六の実施形態を示す縦断面図である。
図13】本発明の第七の実施形態にかかる面形状可変装置の要部を示す拡大部分縦断面図である。
図14】帯状要素の他端に与えられてよい種々の応力Fx〜Fz及び回転応力Mx〜Mzを示す斜視図である。
図15】帯状要素の他端に応力の組合せが与えられる場合に於ける板状部材の変形の例を示す縦断面図である。
図16】帯状要素の他端にX方向の圧縮応力Fxが与えられる共に、中央部の帯状要素の密度を低下させるZ方向の周りの回転応力Mzが与えられる状況を示す平面図(A)、及び板状部材の湾曲変形を示す縦断面図(B)である。
図17】フレーム部材の変位案内部による帯状要素の案内方向が所定の方向へ傾斜された修正例を示す拡大部分縦断面図である。
図18】標準状態において板状部材が全体として所定の方向へ僅かに湾曲する他の一つの修正例を示す縦断面図である。
図19】板状部材が極部的に所定の方向へ湾曲した予備変形部を有する更に他の一つの修正例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0037】
[第一の実施形態]
図1および図2は、それぞれ本発明の第一の実施形態にかかる面形状可変装置10を示す平面図及び縦断面図である。面形状可変装置10は、標準状態に於いて平板状をなす板状部材12と、板状部材の外周部を保持するフレーム部材14とを有している。図3に示されているように、板状部材12は、X方向(第一の方向)に沿って互いに平行に延在する複数の第一の帯状要素16と、第一の方向に垂直なY方向(第二の方向)に沿って互いに平行に延在する複数の第二の帯状要素18とを含んでいる。フレーム部材14の大きさや第一の帯状要素16及び第二の帯状要素18の数などは、面形状可変装置10の用途に応じて適宜に設定されてよい。
【0038】
第一の帯状要素16及び第二の帯状要素18は、多数の炭素繊維(図示せず)が帯状要素の長手方向に沿って延在する炭素繊維強化樹脂(CFRP)にて形成され、所要の弾性及び剛性を有している。第一及び第二の帯状要素16及び18を形成する炭素繊維強化樹脂は、同一であってもよく、また異なっていてもよい。帯状要素16及び18は、それらの長手方向に圧縮応力が付与されると、板状部材12の平面Pに垂直な方向、すなわちX方向及びY方向に垂直なZ方向へ座屈により弾性変形し、圧縮応力が解除されると、元の形状に復帰する。帯状要素16及び18の寸法は面形状可変装置10の用途に応じて適宜に設定されてよいが、例えば幅Wは5〜数十mmであり、厚さTは0.01〜数mmであり、長さLは数十〜数百mmであってよい。
【0039】
図3に示されているように、第一及び第二の帯状要素16及び18は、互いに距離Sだけ隔置された状態にて平織りの織物状に織られており、これにより互いに共働して板状をなしている。距離Sは帯状要素の幅Wと同程度又はそれよりも小さいことが好ましいが、幅Wよりも大きくてもよい。また第一の帯状要素16同士の間の距離Sは、第二の帯状要素18同士の間の距離Sと異なっていてもよい。
【0040】
なお、第一及び第二の帯状要素16及び18の織り方は平織りに限定されるものではなく、帯状要素に応力を付与することによって弾性変形させることができる限り、例えば綾織りのような他の織り方であってもよい。また、板状部材12は少なくとも部分的に立体的に織られた部分を含んでいてもよい。更に、第一及び第二の帯状要素16及び18の交差角、従ってX方向及びY方向の交差角は90度であるが、この交差角は90度以外の角度であってもよい。
【0041】
第一及び第二の帯状要素16及び18の表面は、それらが弾性変形する際の相対変位を許容する程度に平滑である。また、帯状要素16及び18の表面は、弾性変形した状況において帯状要素に付与されている圧縮応力が多少変動しても、それらが相対変位を許容しない程度の表面粗さを有している。更に、互いに係合する側における帯状要素16及び18の表面性状は、互いに係合する側とは反対の側における表面性状と異なっていてもよい。
【0042】
板状部材12を横切って気体、液体又は粉粒体が通過することを阻止すると共に板状部材の表面平滑性を確保し得るよう、板状部材12の一方の面(図2で見て上面)には変形可能な膜部材20が接着などの手段によって接合されている。膜部材20は、可撓性及び弾性を有する任意の材料にて形成されていてよいが、ラテックスシート、ポリウレタンフィルム、PEEKフィルムなどであることが好ましい。
【0043】
第一及び第二の帯状要素16及び18が互いに対し、また膜部材に対し比較的容易に相対変位し得るよう、膜部材は、各帯状要素の全面に接合されるのではなく、各帯状要素の互いに隔置された部位にて接合されていていることが好ましい。更に膜部材は、板状部材12の両面に接合されていてもよい。その場合には、帯状要素の間に粉塵などの異物が侵入する虞れを効果的に低減することができる。
【0044】
フレーム部材14は正方形をなしているが、例えば長方形、台形、平行四辺形、円、楕円形のような他の形状であってもよい。第一の実施形態においては、フレーム部材14は平板部材14Aと枠部材14B、14Cとを有している。枠部材14Bは平板部材14Aに固定され、枠部材14B及び14Cは板状部材12の外周部を挾持する状態にて取り外し可能に互いに固定されている。なお、枠部材14B、14Cは、帯状要素の一端側及び他端側にそれぞれ位置する板材であってもよい。
【0045】
第一及び第二の帯状要素16及び18の一端は、例えばビス22によりフレーム部材14に固定されている。第一及び第二の帯状要素16及び18の他端側の部分は、フレーム部材14を貫通して延在している。帯状要素がフレーム部材14を貫通して延在する領域の枠部材14B及び14Cは、帯状要素16及び18が平面Pに沿ってフレーム部材14に対し相対的に変位し得るよう帯状要素を支持する変位案内部として機能する。
【0046】
枠部材14B内にてその中央には、台座平板24が配置されており、台座平板24は平板部材14Aに固定されている。板状部材12が標準状態にあり平板状をなすときには、台座平板24は板状部材12に当接する。よって、台座平板24は、第一及び第二の帯状要素16及び18が座屈により弾性変形する際に、板状部材12が平板部材14Aへ向けて湾曲変形するのではなく、平面Pに対し平板部材14Aより離れるZ方向へ湾曲変形するよう変形を案内する変形案内手段として機能する。
【0047】
各第一の帯状要素16及び第二の帯状要素18の他端には、それぞれ変形制御装置26及び28が取り付けられている。変形制御装置26及び28は、対応する帯状要素に延在方向に沿う圧縮応力を付与し圧縮応力を制御することにより、平面Pに垂直に図2で見て上方へ帯状要素を弾性変形させ、これにより板状部材12の湾曲変形を制御する変形制御手段として機能する。図示の第一の実施形態においては、変形制御装置26及び28の一部は、それぞれ複数の第一及び第二の帯状要素16及び18に一括して圧縮応力を付与するようになっているが、変形制御装置は全ての第一及び第二の帯状要素に個別に設けられていてもよい。
【0048】
なお、フレーム部材14に隣接して平行に延在する帯状要素の弾性変形は、フレーム部材により制限されるので、図1に示されているように、フレーム部材14に隣接して平行に延在する帯状要素には、変形制御装置26及び28が設けられていなくてよい。また、フレーム部材14に隣接する領域においては、フレーム部材平行に延在する帯状要素が省略されてもよい。
【0049】
第一の実施形態における変形制御装置26及び28は、駆動手段として機能するピストン‐シリンダ式のアクチュエータ26A及び28Aと、変位センサ26B及び28Bとを有している。第一の帯状要素16及び第二の帯状要素18の他端は、それぞれアクチュエータ26A及び28Aのピストンのロッド部の先端に連結され、各アクチュエータ26A及び28Aのシリンダは平板部材14Aに固定されている。変位センサ26B及び28Bは、アクチュエータのシリンダに対するピストンのロッド部の相対変位量を検出することにより、それぞれ帯状要素16及び18の他端の変位量を検出する検出手段として機能する。
【0050】
アクチュエータ26A及び28Aは空気圧式及び液圧式の何れのピストン‐シリンダ装置であってもよい。アクチュエータ26A及び28Aの伸縮及びそれらの量は、図には示されていない電子制御装置によりピストン‐シリンダ装置のシリンダ室に対する圧縮空気又は高圧油の給排が制御されることによって制御される。電子制御装置は、予め求められている各帯状要素16及び18の他端の変位量と板状部材12の湾曲変形量との関係を記憶しており、他端の変位量に基づいて板状部材12の湾曲変形量を制御するようになっていてよい。
【0051】
変形制御装置26及び28によってそれぞれ帯状要素16及び18に付与される圧縮応力を制御することにより、板状部材12の湾曲変形の形状を制御することができる。また、変形制御装置によって帯状要素に付与される圧縮応力を維持することにより、板状部材12の湾曲変形の形状を維持し、圧縮応力を解除することにより、各帯状要素16及び18の弾性により板状部材12を平板状に復帰させることができる。例えば、帯状要素16及び18に付与される圧縮応力が、X方向及びY方向の中央において最も高く、中央より離れるにつれて低くなるよう制御されると、図4に示されているように、板状部材12を一つの山形に変形させることができる。また、帯状要素16及び18に付与される圧縮応力の維持及び解除により、それぞれ板状部材12の山形を維持し消去することができる。
【0052】
なお、帯状要素の剛性、寸法や膜部材20の弾性、張力などを部分的に異なるよう設定したり、帯状要素の弾性変形を部分的に制限又は抑制したりすることにより、ある程度の自由度を持って板状部材12の変形形状を設定することができる。例えば、帯状要素の中央部の剛性を他の領域よりも高くすることにより、弾性変形の山形のピークを低くすると共に、ピーク周辺の変形量を大きくし、これにより弾性変形の形状をなだらかな山形にすることができる。
【0053】
[第二の実施形態]
図5は、本発明の第二の実施形態にかかる面形状可変装置10を示す平面図である。この実施形態の面形状可変装置10も、標準状態に於いて平板状をなす板状部材12と、板状部材の外周部を保持するフレーム部材14とを有している。しかし、板状部材12は、X方向に沿って互いに平行に延在する複数の第一の帯状要素16を有しているが、X方向に垂直なY方向に沿って互いに平行に延在する複数の第二の帯状要素18を含んではいない。板状部材12の一方の面には変形可能な膜部材20が接着などの手段によって接合されており、これにより複数の第一の帯状要素16は互いに他に対しある程度の相対変位が可能であるよう、一体的に接続されている。
【0054】
板状部材12のX方向の長さはフレーム部材14の内法寸法よりも大きいが、Y方向の長さはフレーム部材14の内法寸法よりも小さい。よって、図5に示されているように、板状部材12のX方向の両端部はフレーム部材14により支持されているが、板状部材12のY方向の両端部はフレーム部材14により支持されていない。なお、この実施形態においても、板状部材12のY方向の両端部がフレーム部材14により支持されていてもよい。
【0055】
また、この第二の実施形態においては、フレーム部材14に隣接する領域にある帯状要素16を含むすべての帯状要素16に、それらの延在方向に沿う圧縮応力を付与し圧縮応力を制御する複数の変形制御装置26が設けられている。しかし、第一の実施形態における変形制御装置28に対応する装置は設けられていない。各変形制御装置26は第一の実施形態の場合と同様にそれぞれ複数の第一の帯状要素16に圧縮応力を付与するようになっているが、第二の実施形態においては、全ての第一の帯状要素16に同一の圧縮応力が付与されるようになっている。
【0056】
よって、第二の実施形態においては、変形制御装置26により帯状要素16に付与される圧縮応力を制御することにより、板状部材12の湾曲変形形状を制御することができる。例えば、図6に示されているように、X方向に沿う断面形状は山形であり、その断面形状はY方向の何れの位置においても同一であるよう、板状部材12を変形させることができる。
【0057】
なお、第二の実施形態において、変形制御装置26により帯状要素16に付与される圧縮応力がY方向に見て異なるよう制御されてもよい。例えば、帯状要素16に付与される圧縮応力が、X方向の中央において最も高く、中央より離れるにつれて低くなるよう制御されよい。その場合には、X方向に沿う断面形状は山形であり、山形の高さがY方向の中央より離れるにつれて小さくなるよう、板状部材12を変形させることができる。
【0058】
[第三の実施形態]
図7は、変形制御装置の図示を省略して、本発明の第三の実施形態にかかる面形状可変装置10を示す縦断面図である。この実施形態の面形状可変装置10は、第一の実施形態の板状部材12と同様の三つの板状部材12a〜12cがZ方向に積層された積層体12Sを有している。フレーム部材14の領域における板状部材12aと12bとの間及び板状部材12bと12cとの間には、それぞれ枠部材14B及び14Cと同様のスペーサ14D及び14Eが介装されている。
【0059】
図には示されていないが、板状部材12a及び12cの変形制御装置(26及び28)は、板状部材に対し第一の実施形態の場合と同一の位置に設けられている。これに対し、板状部材12bの変形制御装置(26及び28)は、板状部材に対し第一の実施形態の場合とは反対側の位置に設けられている。
【0060】
板状部材12a〜12cは、例えば帯状要素の剛性、寸法や膜部材20の弾性、張力などを部分的に異なるよう設定することにより、例えば図8(A)に示されているように、互いに異なる形状に弾性変形するようになっている。なお、積層体12Sを構成する板状部材の数は、3に限定されるものではなく、面形状可変装置10の用途に応じて適宜に設定されてよい。
【0061】
第三の実施形態によれば、積層体12Sの弾性変形の形状は、板状部材12a〜12cの弾性変形の形状により決定されるので、一つの板状部材によっては達成することが困難な形状に積層体12Sを弾性変形させることができる。例えば、板状部材12a〜12cが図8(A)に示されているように弾性変形する場合には、積層体12Sを図8(B)に示されているような形状に弾性変形させることができる。
【0062】
また、第三の実施形態によれば、積層体12Sを構成する板状部材のうち、図には示されていない変形制御装置によって弾性変形せしめられる板状部材の数や組合せを変えることにより、積層体の弾性変形の形状及び量を様々な形状及び量に変化させることができる。例えば、板状部材12a及び12bが弾性変形せしめられる場合には、積層体12Sは図9(A)に示されているような形状に変形する。また、板状部材12a及び12cが弾性変形せしめられる場合には、積層体12Sは図9(B)に示されているような形状に変形する。更に、板状部材12b及び12cが弾性変形せしめられる場合には、積層体12Sは図9(C)に示されているような形状に変形する。
【0063】
[第四の実施形態]
図10は、変形制御装置の図示を省略して、第二の実施形態の修正例として構成された本発明の第四の実施形態にかかる面形状可変装置10を示す平面図である。この実施形態の面形状可変装置10は、第二の実施形態の板状部材12と同様に構成された第一の帯状要素16のみを含む板状部材12dと、第二の帯状要素18のみを含む板状部材12eとが互いに積層された積層体12Tを有している。
【0064】
図10には示されていないが、フレーム部材14の領域における板状部材12dと12eとの間には、枠部材14B及び14Cと同様のスペーサが介装されている。また、この実施形態においては、板状部材12dの変形制御装置は、複数の第一の帯状要素16に互いに異なる圧縮応力を付与し、板状部材12eの変形制御装置は、複数の第二の帯状要素18に互いに異なる圧縮応力を付与するようになっている。
【0065】
第四の実施形態によれば、複数の第一の帯状要素16に互いに異なる圧縮応力が付与され、複数の第二の帯状要素18に互いに異なる圧縮応力が付与される。よって、板状部材12d及び12eは、それぞれY方向及びX方向に沿う位置によって断面形状が異なるよう弾性変形するので、積層体12Tを、第二の実施形態の場合のような一定断面形状の変形ではなく、第一の実施形態の場合のように変形させることができる。
【0066】
また、積層体12Tの弾性変形の形状及び量は、板状部材12d及び12eの弾性変形の形状及び量により決定される。よって、板状部材12d及び12eの弾性変形を制御することにより、積層体12Tの弾性変形の形状及び量を制御することができる。
【0067】
更に、この第四の実施形態によれば、複数の帯状要素を織物状に織らなくてもよいので、第一の実施形態の板状部材12に比して板状部材12d及び12eの構造を単純化し、その製造コストを低減することができる。
【0068】
[第五の実施形態]
図11は、本発明の第五の実施形態にかかる面形状可変装置10の変形制御装置30を示す説明図である。変形制御装置30は、第一ないし第四の実施形態における変形制御装置(26、28)に代えて使用されてよいものである。よって、変形制御装置30以外の面形状可変装置10の構造は、第一ないし第四の実施形態の何れかの面形状可変装置10の構造であってよく、またこれらの実施形態の面形状可変装置とは異なるものであってもよい。
【0069】
この実施形態においては、変形制御装置30は、変位発生装置32と変位拡大装置34とを有している。変位発生装置32は、油圧式のピストン-シリンダ装置であり、相対的に往復動可能に嵌合するフリーピストン36とシリンダ38とを有している。フリーピストン36及びシリンダ38により形成される一方のシリンダ室40Aには、圧電素子の積層体42が配置され、他方のシリンダ室40Bはオイル44にて充填されている。圧電素子の積層体42は、制御電圧が印加されると、シリンダ38の長手方向に体積を増大させ、これにより他方のシリンダ室40Bの容積が減少するようフリーピストン36をシリンダ38に対し駆動する。
【0070】
変位拡大装置34も相対的に往復動可能に嵌合するピストン46とシリンダ48とを有する油圧式のピストン-シリンダ装置であるが、その断面積は変位発生装置32の断面積よりも小さく設定されている。ピストン46及びシリンダ48により形成される一方のシリンダ室50は、連通路52により変位発生装置32のシリンダ室40Bと接続されている。ピストン46のロッド部46Rはシリンダ48を貫通して延在し、図には示されていないが、ロッド部46Rの先端には連結部材を介して帯状要素の他端が連結されるようになっている。ピストン46及びシリンダ48により形成される他方のシリンダ室54には、ロッド部46Rの周りに巻回された状態で復帰用の圧縮コイルばね56が弾装されている。
【0071】
この実施形態によれば、圧電素子の積層体42に印加される制御電圧を制御することにより、変位拡大装置34のピストン46を駆動し、これにより帯状要素に圧縮応力を付与し圧縮応力を制御することができる。
【0072】
変位発生装置32の断面積に対する変位拡大装置34の断面積の比をRincとすると、ピストン46の変位量はフリーピストン36の変位量のRinc倍になる。よって、この実施形態によれば、例えば変位拡大装置34のピストン46が圧電素子の積層体により駆動される場合に比して、帯状要素に付与される圧縮応力の変化範囲を大きくして、板状部材の変形範囲を大きくすることができる。更に、帯状要素に所要の圧縮応力を付与するために必要な圧電素子の積層数を低減することができる。
【0073】
また、この実施形態によれば、上述の第一ないし第四の実施形態における変形制御装置(26、28)のように、ピストン-シリンダ装置に対する圧縮空気や高圧油の給排は不要である。よって、圧縮空気や高圧油の供給源や給排を制御する弁も不要であり、変形制御装置の作動に必要な構成を単純化することができる。
【0074】
なお、上述の第四の実施形態においては、変位発生装置32のフリーピストン36は圧電素子の積層体42により駆動されるようになっている。しかし、フリーピストン36は温度変化により形状が変化する形状記憶合金又は形状記憶樹脂により駆動され、形状記憶合金又は形状記憶樹脂の温度の制御によりフリーピストン36駆動が制御されるよう修正されてもよい。
【0075】
[第六の実施形態]
図12は、本発明の第六の実施形態にかかる面形状可変装置10を示す縦断面図である。この実施形態の面形状可変装置10においては、帯状要素16及び18は形状記憶合金又は形状記憶樹脂にて形成され、通常時には平坦な形態をなしており、これにより板状部材12は通常時には平板状をなすようになっている。帯状要素16及び18は、一端にてフレーム部材14に固定され、他端にてそれらの長手方向に相対変位可能にフレーム部材14により支持されている。
【0076】
図12には示されていないが、この実施形態の平板部材14A及び台座平板24には、帯状要素16及び18を加熱してそれらの温度を制御するヒータが内蔵されている。帯状要素16及び18は、予め設定された温度以上に加熱されると、それらが記憶している形状に変化し、これにより板状部材12は図12において仮想線にて示されているように湾曲した形状に変形する。
【0077】
なお、平板部材14A又は台座平板24には、板状部材12の温度を検出する温度センサ58が設けられていてよい。そして、温度センサ58の検出結果に基づいて図12には示されていない電子制御装置によってヒータが制御されることにより、板状部材12の温度、従って板状部材の形状が制御されてよい。よって、ヒータを内蔵する台座平板24及び温度センサ58は、電子制御装置と共働して帯状要素16、18の温度を制御する温度制御装置60を構成している。温度制御装置は他の構成であってもよい。
【0078】
この実施形態によれば、帯状要素16及び18の記憶形状の設定によって板状部材12の変形後の形状を設定することができる。従って、帯状要素16及び18の記憶形状の設定により、板状部材12を様々な形状に変形させることができ、他の実施形態の場合に比して、板状部材12の変形形状の自由度を高くすることができる。
【0079】
この実施形態によれば、帯状要素16及び18の温度を制御することにより、板状部材12の形状を平板状と湾曲した形状との間で変化させることができる。よって、帯状要素の他端を一端に対し変位させる駆動装置を省略することができるので、他の実施形態の場合よりも面形状可変装置の構造を単純化することができる。
【0080】
なお、上述の第六の実施形態においては、帯状要素16及び18の全体が形状記憶合金又は形状記憶樹脂にて形成されているが、形状記憶合金又は形状記憶樹脂にて形成された帯状要素の表面が耐熱樹脂などにてコーティングされていてもよい。帯状要素は、形状記憶合金又は形状記憶樹脂にて形成された層と耐熱樹脂などの層とが一体に接合されたラミネート構造を有していてもよい。
【0081】
また、上述の第二又は第四の実施形態の帯状要素(16及び18)の少なくとも一部が、この第六の実施形態又は上述の修正例と同様に、形状記憶合金又は形状記憶樹脂にて形成されてもよい。
[第七の実施形態]
【0082】
図13は、本発明の第七の実施形態にかかる面形状可変装置10の要部を示す拡大部分縦断面図である。この実施形態の面形状可変装置10においては、フレーム部材14の枠部材14Cの四つの角部の上方には、押圧板62が配置されており、押圧板62は平板部材14Aと一体的に連結されている。押圧板62と枠部材14Cとの間には圧電素子の積層体64が介装されている。圧電素子の積層体64は、制御電圧が印加されていない通常時には枠部材14Cを枠部材14Bに対し押圧せず、それらの枠部材が帯状要素16、18の変位を案内することを許容する。これに対し、圧電素子の積層体64は、制御電圧が印加されると、枠部材14Cを枠部材14Bに対し押圧し、これにより帯状要素16、18が枠部材14B及び14Cに対し相対的に変位することを阻止する。
【0083】
よって、押圧板62及び圧電素子の積層体64は、フレーム部材14と共働して、板状部材12の形状を保持する際に帯状要素16、18の他端が一端に対し相対変位することを阻止することにより板状部材12の形状を保持する形状保持装置66を形成している。なお、形状保持装置66は、必要に応じて帯状要素16、18の他端が一端に対し相対変位することを阻止することにより板状部材12の形状を保持することができる限り、任意の構造を有していてよい。
【0084】
この実施形態によれば、形状保持装置66を作動させることにより、帯状要素16、18の他端が一端に対し相対変位することを阻止することができる。よって、変形制御装置26,28により帯状要素16、18の一端に与えられる応力が維持されることによってのみ板状部材12の形状が保持される場合に比して、板状部材の形状の保持時に板状部材の形状が変化することを効果的に防止することができる。
【0085】
以上の説明から解るように、上述の各実施形態によれば、変形制御装置(26、28)により、帯状要素(16、18)に延在方向に沿う応力が付与され、これにより帯状要素が座屈により面を横切る方向へ弾性変形せしめられる。よって、変形制御手段は帯状要素の延長上に配置されればよいので、従来の面形状可変装置に比して空間上の制約を受け難くし、適用可能な用途の範囲を拡大させることができる。
【0086】
また、帯状要素に対する応力の付与が解除されれば、帯状要素は元の形状に復帰する。よって、例えば膜部材(20)が帯状要素に接合されることにより板状部材が形成される場合にも、膜部材自体が高い弾性を有する必要はない。従って、変形前後の形状が膜部材の弾性により決定される度合を低減することができる。
【0087】
また、変形されるべき帯状部材は、それに機械的な装置の押圧部が当接して押圧されることにより変形せしめられる訳ではないので、帯状部材の変形形状が機械的な装置の押圧部の形状に制約されることを回避することができる。
【0088】
また、板状部材12の少なくとも一方の面には、変形可能な膜部材20が接合されている。従って、板状部材12に膜部材20が接合されていない場合に比して、面形状可変装置10の形状が変化する部分の表面の平滑性を向上させることができる。また、膜部材により、気体、液体又は粉粒体が板状部材を横切って通過したり、帯状要素の間に侵入したりすることを阻止することができる。
【0089】
また、上述の第二又は第四の実施形態以外の実施形態によれば、板状部材12は互いに横切る方向に延在する第一及び第二の帯状要素16及び18を含み、これらの帯状要素が織物状に織られている。従って、帯状要素が第一又は第二の帯状要素のみである第二の実施形態の場合に比して、板状部材の変形形状を多様化することができ、また板状部材の強度を高くすることができる。
【0090】
以上においては、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0091】
上述の各実施形態においては、帯状要素(16、18)の他端にはそれらの延在方向であるX方向の応力しか与えられないようになっている。しかし、図14に示されているように、帯状要素の他端に与えられる応力は、X方向の応力Fx、Y方向の応力Fy、Z方向の応力Fz、X方向の周りの回転応力(モーメント)Mx、Y方向の周りの回転応力My、Z方向の周りの回転応力Mz、及びこれらの二つ又は三つの応力の組合せの何れかであってよい。
【0092】
帯状要素の他端に応力の組合せが与えられる場合にも、組合せの応力の種類、それらの方向や大きさに基づいて板状部材12の変形形状を推定し制御することができる。なお、組合せの応力は、帯状要素に座屈変形が発生するよう、X方向の圧縮応力Fxと他の二つ又は三つの応力との組合せであることが好ましい。
【0093】
例えば、X方向の圧縮応力Fx及びY方向の周りの回転応力Myが帯状要素の他端に与えられる場合には、板状部材12は図15(A)に示されているように湾曲変形する。また、X方向の圧縮応力Fx及びX方向の周りの回転応力Mxが帯状要素の他端に与えられる場合には、板状部材12は図15(B)に示されているように湾曲変形すると共に厚さが変化する。更に、X方向の圧縮応力Fx及びZ方向の応力Fzが帯状要素の他端に与えられる場合には、板状部材12は図15(C)に示されているように湾曲変形する。
【0094】
また、図16(A)に示されているように、帯状要素16、18の他端にX方向の圧縮応力Fxが与えられる共に、中央部の帯状要素の密度を低下させるZ方向の周りの回転応力Mzが帯状要素の他端に与えられる場合には、板状部材12は図16(B)に示されているように中央部の湾曲度合が小さくなるよう湾曲変形する。
【0095】
また、上述の各実施形態においては、帯状要素(16、18)の一端は固定されている。しかし、帯状要素の一端がX方向に変位しないよう拘束された状態にて、帯状要素の一端にX方向の周りの回転応力Mx、Y方向の周りの回転応力My、Z方向の周りの回転応力Mzの何れかが与えられてもよい。例えば、X方向の圧縮応力Fx及びY方向の周りの回転応力Myが帯状要素の他端に与えられると共に、Y方向の周りの逆方向の回転応力Myが帯状要素の一端に与えられる場合には、板状部材12は図15(D)に示されているように湾曲変形する。
【0096】
また、上述の各実施形態においては、第一及び第二の帯状要素16及び18の寸法はそれらの全長に亘り一定であるが、厚さや幅が領域によって他の領域の値とは異なっていてもよい。例えば、第一及び第二の帯状要素16及び18が互いに交差する部分において、それらの厚さが他の領域よりも小さくされていてもよい。
【0097】
また、上述の各実施形態においては、フレーム部材14は平板部材14Aを有しているが、平板部材14Aは省略されてもよい。その場合には、帯状要素にX方向の圧縮応力が付与されることにより板状部材12が所定のZ方向へ弾性変形するよう、図17に示されているように、フレーム部材14の変位案内部による帯状要素の案内方向が所定の方向へ傾斜されていてよい。また、図18に示されているように、標準状態において板状部材12が全体として所定のZ方向へ僅かに湾曲していてもよく、また図19に示されているように、板状部材12が局部的に所定のZ方向へ湾曲した予備変形部12Zを有していてもよい。
【0098】
図17ないし図19に示された何れの構造も、帯状要素にX方向の圧縮応力が付与される際に、帯状要素が所定のZ方向への弾性変形するよう案内する変形案内手段として機能する。よって、上述の各実施形態における台座平板24は不要である。なお、ばね、弾性を有するひもや帯材などにて板状部材12又は帯状要素の少なくとも一部を所定のZ方向へ付勢することにより、変形案内手段の機能が達成されてもよい。
【0099】
また、上述の各実施形態においては、板状部材12は標準状態においては平板状をなし、帯状要素にX方向の圧縮応力が付与されると所定のZ方向へ湾曲変形するようになっている。しかし、板状部材12は標準状態において湾曲しており、帯状要素に圧縮応力又は引張り応力が付与されることにより、平板状になったり湾曲度合が変化したりするようになっていてもよい。
【0100】
また、上述の第一ないし第五の実施形態においては、検出手段は、帯状要素の他端の変位量を検出するようになっているが、変形制御装置により帯状要素に与えられる圧縮応力を検出する荷重センサなどであってもよい。
【0101】
また、上述の各実施形態においては、変形制御装置により圧縮応力が帯状要素に与えられ、板状部材12が変形せしめられる際にも帯状要素は加振されない。しかし、特に板状部材12の変形状態の維持が良好に行われるよう、帯状要素の表面の摩擦係数が比較的高く設定される場合には、板状部材12の変形開始時及び変形解除時に帯状要素の間の相対変位が容易に行われるよう、板状部材12が加振されるよう修正されてもよい。
【0102】
また、帯状要素を形成する樹脂などの材料は、温度が高いほど硬度が低下するので、温度が高いほど帯状要素の剛性や弾性が低下し、帯状要素同士が当接して相対変位する際の摩擦係数が低下する。よって、図には示されていないが、例えば第六の実施形態の温度制御装置と60と同様の温度制御装置によって帯状要素の温度が制御されることにより、帯状要素の剛性、弾性、摩擦係数などが変化され、これにより板状部材12の変形容易性、形状保持性、帯状要素同士の摩擦による振動減衰性能などが制御されるように修正されてもよい。
【0103】
また、上述の各実施形態においては、変形制御装置(26、28)によって全ての帯状要素の他端に応力が付与されているが、他端に応力が付与されない帯状要素が存在し、それらの帯状要素が他端に応力が付与される帯状要素の変形によって従動的に変形せしめられるようになっていてもよい。
【0104】
また、上述の第一の実施形態においては、全ての第一の帯状要素16の一端がフレーム部材14の同一の側に設定され、変形制御装置26がフレーム部材14の反対の側に設置されている。同様に、全ての第二の帯状要素18の一端がフレーム部材14の同一の側に設定され、変形制御装置28がフレーム部材14の反対の側に設置されている。しかし、例えば隣接する第一の帯状要素16が交互に逆向きに配設され、隣接する第二の帯状要素18が交互に逆向きに配設され、これにより変形制御装置26及び28がそれぞれフレーム部材14の両側に設置されてもよい。
【0105】
また、上述の第五の実施形態においては、変位発生装置32のフリーピストン36の変位量が変位拡大装置34によって拡大されるようになっている。しかし、変位発生装置の変位は、例えば四節リンク式のトグル機構のような他の変位拡大機構により拡大されてもよい。
【符号の説明】
【0106】
10…面形状可変装置、12…板状部材、14…フレーム部材、16…第一の帯状要素、18…第二の帯状要素、20…膜部材、26,28…変形制御装置、30…変形制御装置、32…変位発生装置、34…変位拡大装置、42…圧電素子の積層体、58…温度センサ、60…温度制御装置、66…形状保持装置

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