特許第5971804号(P5971804)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5971804ビスオキサゾリジン配位子およびそれを用いた触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5971804
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】ビスオキサゾリジン配位子およびそれを用いた触媒
(51)【国際特許分類】
   C07D 413/14 20060101AFI20160804BHJP
   C07D 519/00 20060101ALI20160804BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20160804BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20160804BHJP
   C07F 1/08 20060101ALN20160804BHJP
【FI】
   C07D413/14CSP
   C07D519/00
   B01J31/22 Z
   !C07B61/00 300
   !C07F1/08 C
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-263878(P2012-263878)
(22)【出願日】2012年11月30日
(65)【公開番号】特開2014-108942(P2014-108942A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人 千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121658
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 昌義
(72)【発明者】
【氏名】荒井 孝義
(72)【発明者】
【氏名】住友 透
(72)【発明者】
【氏名】荻野 雄大
【審査官】 小川 由美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−111426(JP,A)
【文献】 特開2012−092066(JP,A)
【文献】 Organic Letters,2008年,10(18),4121-4124
【文献】 Organic Letters,2010年,12(1),80-83
【文献】 Journal of the American Chemical Society,2010年,132(15),5338-5339
【文献】 Inorganic Chemistry,2008年,47(22),10575-10586
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D,C07F,B01J
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)又は(2)のいずれかにて示される配位子。
【化1】
(ただし、RはCH、CH(CH、CHCH(CH、CH(CH)C、C(CH、Ph、CHPh、のいずれかであり、RはCH、C、Ph、のいずれかであり、RはH、CH、Br、NOのいずれかである。ここで、Phは芳香環を示す。)
【請求項2】
下記式(3)又は(4)のいずれかにて示される触媒。
【化2】
(ただし、RはCH、CH(CH、CHCH(CH、CH(CH)C、C(CH、Ph、CHPh、のいずれかであり、R2はCH3、C2H5、Ph、のいずれかであり、R3はH、CH、Br、NOのいずれかであり、Mは銅、ニッケル、コバルト、ルテニウム、ロジウム又は鉄である。ここで、Phは芳香環を示す。)
【請求項3】
ニトロアルケンとインドールのFriedel−Crafts型反応に用いられることを特徴とする請求項2記載の触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスオキサゾリジン配位子およびそれを用いた触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性なアミノ酸や糖を基本構成単位とする生体高分子は、高度な不斉空間を構築しており、この生体高分子を受容体とする医薬品も光学活性を有している必要がある。このような光学活性な物質を合成する方法は不斉合成法と呼ばれており、不斉合成法の中でも少量の不斉源から理論上無限の光学活性体を合成することが可能な触媒的不斉合成法は極めて有用、重要なものとなっている。
【0003】
現在、触媒的不斉合成法は様々な金属触媒を用いることにより達成されている。有用な触媒的不斉反応を実現する不斉配位子として、C2対称な光学活性ビスオキサゾリンは、広く研究されている。中でも、下記非特許文献1に記載されている光学活性ビスオキサゾリン配位子、非特許文献2に記載されている光学活性ビスイミダゾリン配位子、さらには、特許文献1に記載されている光学活性ビスイミダゾリジン配位子は、ピリジン環に連結することで三座の配位子として開発が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011―111426号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nishiyama,H.;Sakaguchi,H;Nalamura,T.;Horihata,M.;Kondo,M.;Itoh,K.Organometallics1989,8,846.
【0006】
【非特許文献2】Bhor,S.;Anilkumar,G.;Tse,M.K.;Klawonn,M.;Dobler,C.;Bitterlich,B.;Grotevendt,A.;Beller,M.Org.Lett.2005,7,3393.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の非特許文献1記載のビスオキサゾリンや非特許文献2記載のビスイミダゾリンは、様々な反応に有用ではあるものの、その平面性の高い構造故に、配位場が平面四配位という、単純な配位場になっている。これらの配位子は合成に三段階以上を必要としている。また、非特許文献2や特許文献1記載の配位子では、市販の光学活性ジアミンは種類が少なく、高価であるため、実用性に欠ける。
【化1】
【0008】
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、オキサゾリンをオキサゾリジンと変化させることで、より複雑な配位場(ゆがんだ平面四配位場)の構築を目指し、また、多彩な反応に対応できる安価で実用的な触媒的不斉合成を実現する配位子の開発を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を行なっていたところ、容易に入手可能なアミノ酸エステルから、光学活性アミノアルコールに誘導し、その後アルデヒドと反応させることで二段階での合成に成功し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明の一観点に係る配位子は、下記化学式(1)又は(2)にて示されるものである。
【化2】
【0011】
上記式において、RはCH、CH(CH、CHCH(CH、CH(CH)C、C(CH、Ph、CHPh、のいずれかであり、RはCH、C、Ph、のいずれかであり、RはH、CH、Br、NOのいずれかである。ここで、Phは芳香環を示す。
【0012】
また、本発明の他の一観点に係る触媒は、下記化学式(3)又は(4)にて示されるものである。
【化3】
【0013】
上記式において、RはCH、CH(CH、CHCH(CH、CH(CH)C、C(CH)、Ph、CHPh、のいずれかであり、RはCH、C、Ph、のいずれかであり、RはH、CH、Br、NOのいずれかである。ここで、Phは芳香環を示す。
【0014】
また、本発明に係る触媒は、限定されるわけではないがニトロアルケンとインドールのFriedel−Crafts型反応に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上、本発明により、二段階で効率的な配位子を合成することができる。不斉源とする種々のアミノ酸から誘導されるアミノアルコールの構造を変化させることで、電子的効果、立体的効果により種々の触媒反応や基質に応じて最適な不斉配位場を提供することができる。また、平面配位子の問題点を克服し、より複雑な配位場を構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本実施形態に関わる配位子は、上記化学式(1)又は(2)で示されることを特徴とする。アミノ酸を構築単位としてもつ2分子のオキサゾリジン骨格は、アミノ酸から誘導されるアミノアルコールと、2位と6位にアルデヒド基を有するピリジンとを反応させることで構築することができる。また、不斉源とするアミノ酸を変化させることでオキサゾリジン環4位の側鎖をCH、CH(CH、CHCH(CH、CH(CH)C、C(CH、Ph、CHPh等で置換することができる。プロリンを用いる場合は、上記化学式(2)で示される配位子となる。その結果、電子的、立体的効果により、配位能力、配位場の複雑さを変化させることができる。(ここでPhは芳香環を示す。)
【0018】
配位子は、空気中室温でアモルファス状であり、冷暗所にて1ヶ月以上保存することができる。また、多くの有機溶媒(アセトン、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、クロロホルム、トルエン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、アセトニトリル、ジオキサン等)に可溶であり、これらを溶媒として用いる錯体形成ならび触媒的不斉反応に用いることができる。
【0019】
また、本実施形態に係る配位子は、以下の方法により合成できる。
【化4】
【0020】
また、本実施形態に係る配位子は、金属に配位することで触媒として用いることができ、特に、Friedel−Crafts型反応に好適に用いることができる。
【0021】
また、本実施形態に係る配位子を金属に配位させる方法としては、目的の金属塩に対し、等量の配位子を用いて有機溶媒中で反応させる方法が考えられる。また、配位子を配位させる金属としては、配位させることができる限りにおいてこれに限定されるわけではないが、例えば銅、ニッケル、コバルト、ルテニウム、ロジウム又は鉄を例示することができる。また配位子を金属に配位させる方法としては、周知の方法を採用することができ、限定されるわけではないが、金属塩と配位子を混合することで配位させることができる。金属塩としては、限定されるわけではないが、金属が銅である場合、CuOTf、CuCl、CuOAc、CuCl、Cu(OAc)、Cu(OTf)等を用いることができる。
【0022】
以上、本発明によると、多様性と汎用性のあるビスオキサゾリジン配位子の合成を達成でき、自由度の高い配位子及びこれを用いた触媒を提供することができる。
【実施例】
【0023】
ここで、上記実施形態に係る配位子及び触媒を作製し、その効果を確認した。以下具体的に示す。
【0024】
(実施例1)
上記実施形態に係る一例として、下記式に示すようにビスオキサゾリジン(6)を合成した。以下説明する。
【化5】
【0025】
(実験項1)
[(S)−2−amino−3−methyl−1,1−diphenylbutan−1−ol](5)の合成:
上記(5)は、J.Org.Chem.2009,74,2541−2546.記載の手法により合成した。
【0026】
(実験項2)
[2,6−bis((4S)−4−isopropyl−5,5−diphenyloxazolidin−2−yl)pyridine](6)の合成:
【0027】
アルゴン雰囲気下、2,6−ピリジルアルデヒド(67mg,0.5mmol)を無水塩化メチレン(2ml)に溶解し、上記(5)(255mg,1mmol)を加え、室温で6時間攪拌し、反応の進行を薄層クロマトグラフィーで確認した(展開溶媒3:1 n−ヘキサン/酢酸エチル)。その後減圧濃縮し、白色アモルファス状の(6)を94%収率で得た。
【0028】
(6)の機器データ:
HNMR(400MHz,CDCl)δ 7.89(t,J=7.6Hz,1H)7.59(d,J=7.6Hz,2H), 7.53(d,J=7.2Hz,4H), 7.39(d,J=7.8Hz,4H), 7.34−7.28(m,6H), 7.21−7.11(m,6H), 5.64(s,2H), 4.05(d,J=3.7Hz,2H), 1.99−1.93(m,2H), 1.19(d,J=6.9Hz,6H), 0.34(d,J=6.9Hz,6H);
13CNMR(500MHz,CDCl) 155.04, 146.38, 143.76, 138.10, 128.14, 127.77, 127.56, 127.47, 127.23, 126.71, 124.56, 90.22, 87.99, 73.01, 28.60, 23.26, 16.82;
FT/IR 2956.34, 2924.52, 2854.13, 1456.96, 1377.89, 1003.77, 938.20, 813.81, 755.96, 728.96, 700.03cm−1
[α]26=−42.9(c=1.05,CHCl);
FTMS(ESI)calcd for C4945Na(M+Na) 726.3567;found726.3567.
【0029】
以上により、下記構造式(6)で示される配位子を得ることができた。
【化6】
【0030】
(実施例2)
をメチル基とした以外は上記実施例1と同様にして下記構造式(7)を二段階で合成した。
【化7】
【0031】
(7)の機器データ:
HNMR(400MHz,CDCl3) 7.90(t,J=7.6Hz,1H), 7.61(d,J=7.6Hz,2H), 7.55−7.53(m,4H), 7.43−7.39(m,4H), 7.35−7.31(m,6H), 7.21−7.09(m,6H), 5.70(s,2H), 4.29(q,J=6.6Hz,2H), 1.14(d,J= 6.6Hz,6H);
13CNMR(500MHz,CDCl)δ 155.33, 145.70, 143.57, 138.22, 128.19, 127.50, 127.33, 127.09, 126.68, 124.46, 90.64, 88.23, 63.73, 53.40, 18.07;
FT/IR 2952.48, 2922.59, 2853.17, 1458.89, 939.16, 700.03cm―1
[α]26=−82.1(c= 1.01,CHCl);
FTMS (ESI+)calcd for C4945Na(M+Na) 726.3567;found 726.3567.
【0032】
(実施例3)
をイソブチル基とした以外は上記実施例1と同様にして下記構造式(8)を二段階で合成した。
【化8】
【0033】
(8)の機器データ:
HNMR(400MHz,CDCl)δ 7.88(t,J=7.6Hz,1H),7.59(d,J=7.6H,2H), 7.52−7.55(m,4H), 7.41(t,J=7.8 Hz,4H), 7.35−7.10(m,12H), 5.67(s,2), 4.20(d,J=9.5Hz,2H), 2.06−2.00(m,2H), 1.43−1.36(m,2H), 1.12(d,6H), 0.91(d,6H), 0.83−0.75(m,2H);
13CNMR(500MHz,CDCl)δ 155.40, 146.02, 143.95, 138.04, 128.19, 127.44, 127.37, 127.10, 126.65, 124.60, 91.03, 87.64, 66.70, 42.46, 26.69, 24.09, 21.69;
FT/IR2922.59, 2853.17, 1451.17, 1377.89, 992.20, 700.03cm―1
[α]26=−99.3(c=1.17,CHCl);
FTMS(ESI)calcd for C4945Na(M+Na) 726.3567;found 726.3567.
【0034】
(実施例4)
をsec−ブチル基とした以外は上記実施例1と同様にして下記構造式(9)を二段階で合成した。
【化9】
【0035】
(9)の機器データ:
HNMR(400MHz,CDCl)δ 7.89(t,J=7.4Hz,1H), 7.57(d,J=7.4Hz,2H), 7.52(d,J=7.2Hz,4H), 7.39(t,J=7.2Hz,4H), 7.34−7.29(m,6H), 7.19−7.10(m,6H), 5.61(s,2H), 4.08(s,2H), 3.77(brs,2H), 1.71−1.68(m,2H), 1.19(d,J=6.8Hz,3H), 0.81−0.77(m,2H), 0.69−0.64(m,2H), 0.47(t,J=7.2Hz,3H):
13CNMR(500MHz,CDCl)δ 154.96, 146.56, 143.77, 138.08, 128.14, 127.65, 127.49, 127.45, 127.21, 126.59, 124.64, 90.27, 87.89, 73.20, 35.02, 23.63, 19.18, 11.61;
FT/IR 2923.56 2854.13, 1459.85, 1376.93, 992.20, 700.03cm―1
[α]26=−37.7(c=1.16,CHCl);
FTMS(ESI)calcd for C4945Na(M+Na)726.3567;found726.3567
【0036】
(実施例5)
下記構造式(2)を、上記記載の手法に基づき合成した。
【0037】
【化10】
【0038】
(2)の機器データ:
HNMR(400MHz,CDCl)δ 7.94−7.88(m,3H), 7.59(d,J=7.2Hz,4H), 7.49(d,J=7.2Hz,4H), 7.35−7.17(m,12H), 5.59(s,2H), 4.59(brs,2H), 2.58−2.47(m,4H), 1.87−1.80(m,2H), 1.64−1.48(m,4H), 1.34−1.26(m,2H);
13CNMR(400MHz,CDCl)δ 156.44, 145.50, 144.01, 136.68, 128.19, 127.97, 127.23, 126.45, 126.17, 121.07, 91.75, 88.11, 72.48, 48.84, 29.92, 25.99;
FT/IR 2925.48, 2854.13, 1462.74, 1446.35, 1377.89, 1006.66, 701.00cm―1
[α]26=−177.6(c=1.14,CHCl);
FTMS(ESI)calcd for C4945Na(M+Na) 726.3567;found 726.3567.
【0039】
(実施例6)
次に、本実施例において得られた配位子を2価の銅塩に配位させ、触媒とした。そして、この触媒としての効果を確認した。具体的には、実施例1にて得た上記(6)を用いる銅錯体の調整を行い、触媒的不斉Friedel−Crafts型反応に応用した。
【0040】
(ビスオキサゾリジン(6)を用いる銅錯体の調整)
アルゴン雰囲気下、Cu(OTf)(3.6mg,0.01mmol)とビスオキサゾリジン(6)(0.011mmol)を無水塩化メチレン1mlに溶解し、室温にて1時間以上攪拌し、溶液中で銅錯体を調製した。
【0041】
((6)−Cu(OTf)錯体を用いる触媒的不斉Friedel−Crafts型反応の確認)
【化11】
【0042】
銅錯体を無水塩化メチレン1mlに溶解し、trans−β−ニトロスチレン(60mg,0.4mmol)、インドール(23mg,0.2mmol)を加え、室温で撹拌した。22時間後、シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒9:1 n−ヘキサン/酢酸エチルから 2:1)により、91%収率、得られた生成物の光学純度は、75%eeであった。(分析条件:DAICEL CHIRALCEL OD−H,flow rate=0.7 ml/min,hexane:2−propanol=70:30)
【0043】
以上により、本実施例により本触媒の効果を確認することができ、汎用性が高い新規なピリジン環と連結したビスオキサゾリジン配位子及びそれを用いる触媒が得られることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明で提供する触媒は、不斉反応を行うことができ、工業化に耐えうるほどの安定性を有していることから産業上の利用可能性がある。