(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、一般的な点火プラグは、絶縁体の先端部が主体金具の先端部よりも突出している。そのため、絶縁体の先端部は、燃焼室内に流入される新気が直接接触することで冷却され、絶縁体の先端部の過熱は十分に抑制される。
【0008】
しかしながら、プラズマジェット点火プラグにおいては、絶縁体の先端部は主体金具の内部に配置されるため、絶縁体の先端部に対して新気はほとんど接触しない。そのため、絶縁体の先端部が過熱されてしまいやすく、絶縁体の先端部を熱源とした早期着火(いわゆるプレイグニッション)が生じてしまうおそれがある。特に、上述のように、プラズマジェット点火プラグの先端部が燃焼室の内壁面から突出するように構成した場合には、主体金具の先端部(円筒部)や接地電極の受熱量が増加する。そのため、絶縁体の先端部もより過熱されやすくなり、プレイグニッションの発生がより懸念される。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、内燃機関等に取り付けられた際に、先端部が燃焼室の内壁面から突出するプラズマジェット点火プラグにおいて、絶縁体の先端部における過熱を極めて効果的に抑制し、プレイグニッションの発生をより確実に防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記目的を解決するのに適した各構成につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果を付記する。
【0011】
構成1.本構成のプラズマジェット点火プラグは、軸線方向に延びる軸孔を有する筒状の絶縁体と、
前記絶縁体の外周に設けられ、内燃機関に取付けるための取付ねじを有するとともに、前記取付ねじの前記軸線方向先端側に、円筒部を有する筒状の主体金具と、
先端が前記絶縁体の先端よりも後端側に位置するようにして前記軸孔内に挿設される棒状の中心電極と、
前記円筒部の先端部に設けられる接地電極と、
前記軸孔の内周面及び前記中心電極の先端側表面により形成され、先端側に向けて開口するキャビティ部と、
前記接地電極に設けられ、自身の少なくとも一部が、前記キャビティ部の開口を前記軸線方向先端側に延ばしてなる仮想面の内側に位置する貫通孔と、を備えるプラズマジェット点火プラグであって、
前記接地電極は、前記絶縁体の先端部から離間し、
前記円筒部は、外周から内周に貫通し、周方向に沿って間欠的に複数設けられる開口部を有し、
前記開口部の開口面積をS(mm
2)とし、前記取付ねじから前記接地電極の先端面までの前記軸線方向における長さをP(mm)とし、前記絶縁体のうち前記中心電極の先端側表面よりも前記軸線方向先端側に位置する部位の前記軸線と直交する方向に沿った最大肉厚をT(mm)としたとき、
S≧{4(mm)×ln(P−1)}+{4(mm)×ln(T)}
かつ、P>1
を満たすことを特徴とするプラズマジェット点火プラグ。
【0012】
尚、lnは自然対数を示す。
【0013】
一般の内燃機関においては、プラズマジェット点火プラグの取付ねじが螺合される雌ねじ部の先端(燃焼室側の端部)から燃焼室の内壁面までの距離が約1mmとされる。ここで、上記構成1によれば、取付ねじから接地電極の先端面までの長さPが1mmよりも大きなものとされている。そのため、上記構成1のプラズマジェット点火プラグを内燃機関に取付けた際には、プラズマジェット点火プラグの先端部が燃焼室の内壁面から突出することとなる。従って、絶縁体の先端部の過熱、及び、これに伴うプレイグニッションの発生がより懸念される。
【0014】
この点、上記構成1によれば、接地電極は絶縁体の先端部から離間するように構成されている。従って、接地電極から絶縁体の先端部に伝導する熱量を効果的に低減させることができる。
【0015】
さらに、上記構成1によれば、燃焼室内に配置される円筒部には、周方向に沿って間欠的に複数の開口部が設けられており、開口部の開口面積をS(mm
2)としたとき、S≧{4(mm)×ln(P−1)}+{4(mm)×ln(T)}を満たすように構成されている。すなわち、開口面積Sは、主体金具(円筒部)の内部に対する新気の流入量ひいては絶縁体先端部の冷却効果の大きさに相当するところ、上記式を満たすことにより、絶縁体先端部の受熱量(最大肉厚Tや長さPの大きさに対応する)を上回る冷却効果が奏されるように構成されている。これにより、絶縁体の先端部における過熱を効果的に抑制することができ、接地電極が絶縁体の先端部から離間していることと相俟って、絶縁体先端部の過熱を極めて効果的に抑制することができる。その結果、プレイグニッションの発生をより確実に防止することができる。
【0016】
尚、最大肉厚Tや長さPと、絶縁体の先端部における受熱量との関係は、次の通りである。すなわち、絶縁体のうち中心電極の先端側表面よりも軸線方向先端側に位置する部位は、内周面が中心電極から大きく離間している部位である。従って、中心電極によって熱が引かれにくく、過熱がより懸念される部位であり、この部位の最大肉厚Tが大きいほど、絶縁体先端部の受熱量は増大する。また、燃焼室の内壁面に対する接地電極の先端面の突出量は、長さPから1mmを減算した値(P−1)とほぼ等しく、長さPの値が大きいほど、絶縁体先端部の受熱量は増大する。上記構成1では、これらの点を鑑みた上で、開口面積Sを上記式により規定することで、良好な耐プレイグニッション性を実現している。
【0017】
構成2.本構成のプラズマジェット点火プラグは、上記構成1において、前記接地電極と前記絶縁体の先端部との間の最短距離が0.10mm以上1mm以下であることを特徴とする。
【0018】
上記構成2によれば、接地電極と絶縁体の先端部との間の最短距離が0.10mm以上とされている。従って、接地電極の熱が絶縁体の先端部に対してより伝わりにくくなり、絶縁体の先端部の過熱をより一層確実に防止することができる。その結果、耐プレイグニッション性の更なる向上を図ることができる。
【0019】
また、上記構成2によれば、前記最短距離が1mm以下とされているため、中心電極及び接地電極間において火花放電を生じさせるために必要な電圧(放電電圧)を十分に小さくすることができる。従って、火花放電に伴う中心電極や接地電極、絶縁体の消耗をより確実に防止することができ、耐久性の向上を図ることができる。
【0020】
構成3.本構成のプラズマジェット点火プラグの製造方法は、前記主体金具と前記接地電極とが別部材により構成された、上記構成1又は2に記載のプラズマジェット点火プラグの製造方法であって、
前記円筒部の先端部に前記接地電極を接合する接合工程を含み、
前記接合工程においては、前記絶縁体と前記接地電極との間に所定の治具を挟み込んだ状態で、前記円筒部の先端部に前記接地電極を接合することを特徴とする。
【0021】
上記構成3によれば、絶縁体と接地電極との間の最短距離をより確実に、かつ、より容易に所期の値とすることができる。
【0022】
また、円筒部には開口部が設けられているため、開口部を通過させることにより、治具を絶縁体及び接地電極間に対して容易に配置することができるとともに、治具を絶縁体及び接地電極間から容易に取外すことができる。すなわち、プラズマジェット点火プラグの使用時において、絶縁体先端部の冷却に寄与する開口部は、プラズマジェット点火プラグの製造時において、治具の通過口とすることができ、絶縁体及び接地電極間に所期の隙間をより確実に、かつ、より容易に形成するために利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、プラズマジェット点火プラグ(以下、単に「点火プラグ」と称す)1、及び、当該点火プラグ1が取付けられた内燃機関ENを備えてなる点火システム101を示す一部破断正面図である。
【0025】
内燃機関ENは、点火プラグ1が挿通される取付孔PHを有しており、内燃機関ENのうち取付孔PHを形成する部位には雌ねじ部FSが形成されている。そして、点火プラグ1は、後述する取付ねじ15が前記雌ねじ部FSに螺合されることで、内燃機関ENに取付けられている。尚、内燃機関ENに取付けられた点火プラグ1は、その先端部(
図1中、下側の部位)が内燃機関ENの燃焼室ER内に配置されている。また、着火性の向上を図るべく、点火プラグ1の先端部は、燃焼室ERを形成する内壁面RWよりも燃焼室ERの中心側へと比較的大きく突出するように構成されている。
【0026】
次いで、点火プラグ1の構成について詳述する。
図2に示すように、点火プラグ1は、筒状をなす絶縁体としての絶縁碍子2、これを保持する筒状の主体金具3などから構成されるものである。尚、
図2では、点火プラグ1の軸線CL1方向を図面における上下方向とし、下側を点火プラグ1の先端側、上側を後端側として説明する。
【0027】
絶縁碍子2は、周知のようにアルミナ等を焼成して形成されており、その外形部において、後端側に形成された後端側胴部10と、当該後端側胴部10よりも先端側において径方向外向きに突出形成された大径部11と、当該大径部11よりも先端側においてこれよりも細径に形成された中胴部12と、当該中胴部12よりも先端側においてこれより細径に形成された脚長部13とを備えている。加えて、絶縁碍子2のうち、大径部11、中胴部12、及び、脚長部13は、主体金具3の内部に収容されている。そして、中胴部12と脚長部13との連接部にはテーパ状の段部14が形成されており、当該段部14にて絶縁碍子2が主体金具3に係止されている。
【0028】
さらに、絶縁碍子2には、軸線CL1に沿って軸孔4が貫通形成されており、当該軸孔4の先端側には、棒状の中心電極5が挿設されている。中心電極5は、熱伝導性に優れる金属〔例えば、銅や銅合金、純ニッケル(Ni)等〕からなる内層5A、及び、Niを主成分とする合金〔例えば、インコネル(商標名)600や601等〕からなる外層5Bにより構成されている。さらに、中心電極5は、全体として棒状(円柱状)をなし、その先端が絶縁碍子2の先端よりも後端側に位置している。また、中心電極5の先端部は、軸線CL1方向先端側に向けて先細るテーパ状とされている。
【0029】
また、軸孔4の後端側には、絶縁碍子2の後端から突出した状態で端子電極6が挿入、固定されている。
【0030】
さらに、軸孔4の中心電極5と端子電極6との間には、導電性金属及びガラスを含んでなる円柱状のガラスシール部9が配設されている。ガラスシール部9により、中心電極5と端子電極6とがそれぞれ電気的に接続されるとともに、絶縁碍子2に固定されている。
【0031】
加えて、前記主体金具3は、低炭素鋼等の金属により筒状に形成されており、その外周面には点火プラグ1を内燃機関に取付けるための取付ねじ(雄ねじ部)15が形成されている。また、取付ねじ15よりも後端側には鍔状の座部16が形成され、取付ねじ15後端のねじ首17にはリング状のガスケット18が嵌め込まれている。さらに、主体金具3の後端側には、主体金具3を前記燃焼装置に取付ける際にレンチ等の工具を係合させるための断面六角形状の工具係合部19が設けられるとともに、後端部において絶縁碍子2を保持するための加締め部20が設けられている。
【0032】
併せて、主体金具3のうち取付ねじ15の軸線CL1方向先端側には、円筒状の円筒部21が形成されている。円筒部21は、点火プラグ1を内燃機関ENに取付けた際に、その大部分が前記内壁面RWよりも燃焼室ERの中心側に突出するようになっている(
図1参照)。また、燃焼室ER内に配置される円筒部21の先端部に対して後述する接地電極27が設けられている。
【0033】
また、主体金具3の内周面には、絶縁碍子2を係止するためのテーパ状の段部22が設けられている。そして、絶縁碍子2は、主体金具3に対してその後端側から先端側に向かって挿入され、自身の段部14が主体金具3の段部22に係止された状態で、主体金具3の後端側開口部を径方向内側に加締めること、つまり上記加締め部20を形成することによって固定されている。尚、段部14,22間には、円環状の板パッキン23が介在されている。これにより、燃焼室内の気密性が保持され、絶縁碍子2の脚長部13と主体金具3の内周面との隙間に入り込む燃料ガスが外部に漏れないようになっている。
【0034】
さらに、加締めによる密閉をより完全なものとするため、主体金具3の後端側においては、主体金具3と絶縁碍子2との間に環状のリング部材24,25が介在され、リング部材24,25間にはタルク(滑石)26の粉末が充填されている。すなわち、主体金具3は、板パッキン23、リング部材24,25及びタルク26を介して絶縁碍子2を保持している。
【0035】
また、主体金具3の先端部には、Niを主成分とする合金により形成されるとともに、円板状をなす接地電極27が接合されている(つまり、主体金具3と接地電極27とは別部材である)。接地電極27は、前記円筒部21の先端部に係合された状態で、自身の外周部分が前記円筒部21に対して溶接されることで接合されている。尚、接地電極27は、絶縁碍子2の先端面から若干離間した状態で主体金具3に接合されている。
【0036】
さらに、絶縁碍子2の先端部には、軸孔4の内周面と中心電極5の先端側表面とにより形成され、先端側に向けて開口する空間であるキャビティ部31が形成されている。本実施形態では、中心電極5及び接地電極27間に電圧を印加し、両電極5,27間で火花放電を生じさせた状態で、両電極5,27間に短時間に大電流を投入することにより、キャビティ部31内においてプラズマが生成されるようになっている。尚、本実施形態において、キャビティ部31は、その内径(本実施形態では、1.0mm以上3.0mm以下)が軸線CL1方向に沿って一定とされているが、必ずしもキャビティ部31の内径を軸線CL1方向に沿って一定とする必要はない。従って、例えば、キャビティ部31が先端側に向かって先細り形状、又は、先端側に向かって先太り形状をなし、キャビティ部31を形成する軸孔4の内周面が軸線CL1に対して若干(例えば、±5°程度)傾いていてもよい。
【0037】
また、接地電極27には、接地電極27の板厚方向に貫通する貫通孔28が形成されている。貫通孔28の少なくとも一部は、
図3(尚、
図3は、絶縁碍子2の先端部、及び、接地電極27のみを示す)に示すように、キャビティ部31の開口(軸孔4の先端)を軸線CL1方向先端側に延ばしてなる仮想面VCの内側に位置するように構成されている。つまり、貫通孔28の少なくとも一部は、キャビティ部31の開口上に形成されており、キャビティ部31は貫通孔28を介して外部へと連通されている。そして、キャビティ部31内において生成されたプラズマは、貫通孔28を通って外部へと噴出するようになっている。
【0038】
さらに、本実施形態では、
図4及び
図5に示すように、円筒部21は、外周から内周に貫通し、周方向に沿って間欠的に設けられた複数(本実施形態では、等間隔に4つ)の開口部33を有している。各開口部33は、主体金具3の径方向と直交する断面において矩形状をなし、その開口領域が主体金具3の径方向に沿って内周側から外周側に向けて徐々に拡大するように構成されている。そして、各開口部33の開口面積S(mm
2:尚、本実施形態のように、径方向に沿って開口面積が変化する場合、開口面積Sとあるのは、開口面積の最小値であり、本実施形態では、主体金具3の内周における開口面積をいう)が、次の構成を満たすように構成されている。すなわち、
図6に示すように、取付ねじ15から接地電極27の先端面までの軸線CL1方向における長さをP(mm)とし、絶縁碍子2のうち中心電極5の先端側表面よりも軸線CL1方向先端側に位置する部位の軸線CL1と直交する方向に沿った最大肉厚をT(mm)としたとき、S≧{4(mm)×ln(P−1)}+{4(mm)×ln(T)}を満たすように構成されている。尚、lnは、自然対数を示す。
【0039】
また、本実施形態では、P>1を満たすように構成されている。尚、一般の内燃機関ENでは、雌ねじ部FSから内壁面RWまでの距離は約1mmとなる。そのため、本実施形態において、P>1を満たすように構成することで、
図1に示すように、内燃機関ENに点火プラグ1を取付けた状態において、接地電極27の先端面が内壁面RWよりも燃焼室ERの中心側に突出することとなる。そして、P−1とあるのは、軸線CL1に沿った内壁面RWに対する接地電極27の突出量を示す。尚、着火性をより確実に向上させるべく、長さPを所定値以上(例えば、3mm以上)とすることが好ましく、接地電極27や主体金具3の過熱をより確実に防止すべく、長さPを所定値以下(例えば、6mm以下)とすることが好ましい。また、絶縁碍子2を貫通する放電の発生を抑制すべく、最大肉厚Tを所定値以上(例えば、1.5mm以上)とすることが好ましい。尚、最大肉厚Tは、主体金具3の内径や中心電極5の外径に応じて、その上限が設定される。
【0040】
さらに、本実施形態では、
図6に示すように、接地電極27と絶縁碍子2の先端部との間の最短距離Lが0.10mm以上1mm以下となるように構成されている。
【0041】
また、本実施形態では、円筒部21の先端部に接地電極27を接合する接合工程において、
図7に示すように、絶縁碍子2と接地電極27との間に、厚さ0.1mm以上1mm以下の平板状の治具JGを挟み込んだ状態で、抵抗溶接、又は、レーザー溶接により、円筒部21の先端部に接地電極27が接合される。これにより、絶縁碍子2の先端部と接地電極27との間に隙間がより確実に形成されるとともに、前記最短距離Lが0.10mm以上1mm以下とされる。尚、治具JGは、接地電極27の接合前に、開口部33を通って円筒部21の内側へと差し込まれ、接地電極27と絶縁碍子2の先端部との間に配置される。また、治具JGは、接地電極27の接合後に、開口部33を通って円筒部21の外側へと抜き取られ、接地電極27と絶縁碍子2の先端部との間から取外される。
【0042】
以上詳述したように、本実施形態によれば、接地電極27は絶縁碍子2の先端部から離間するように構成されている。従って、接地電極27から絶縁碍子2の先端部に伝導する熱量を効果的に低減させることができる。
【0043】
さらに、本実施形態では、燃焼室ER内に配置される円筒部21には、周方向に沿って間欠的に複数の開口部33が設けられており、各開口部33の開口面積をS(mm
2)としたとき、S≧{4(mm)×ln(P−1)}+{4(mm)×ln(T)}を満たすように構成されている。すなわち、開口面積Sは、主体金具(円筒部)の内部に対する新気の流入量ひいては絶縁碍子2先端部の冷却効果の大きさに相当するところ、上記式を満たすことにより、絶縁碍子2先端部の受熱量(最大肉厚Tや長さPの大きさに対応する)を上回る冷却効果が奏されるように構成されている。これにより、絶縁碍子2の先端部における過熱を効果的に抑制することができ、接地電極27が絶縁碍子2の先端部から離間していることと相俟って、絶縁碍子2先端部の過熱を極めて効果的に抑制することができる。その結果、プレイグニッションの発生をより確実に防止することができる。
【0044】
また、接地電極27と絶縁碍子2の先端部との間の最短距離Lが0.10mm以上とされている。従って、接地電極27の熱が絶縁碍子2の先端部に対してより伝わりにくくなり、絶縁碍子2の先端部の過熱をより一層確実に防止することができる。その結果、耐プレイグニッション性の更なる向上を図ることができる。
【0045】
一方で、最短距離Lは1mm以下とされているため、中心電極5及び接地電極27間において火花放電を生じさせるために必要な電圧を十分に小さくすることができる。従って、火花放電に伴う中心電極5や接地電極27、絶縁碍子2の消耗をより確実に防止することができ、耐久性の向上を図ることができる。
【0046】
さらに、絶縁碍子2と接地電極27との間に治具JGを挟み込んだ状態で、円筒部21の先端部に接地電極27が接合されるため、前記最短距離Lをより確実に、かつ、より容易に所期の値とすることができる。
【0047】
また、円筒部21には開口部33が設けられているため、開口部33を通過させることにより、治具JGを絶縁碍子2及び接地電極27間に対して容易に配置することができるとともに、治具JGを絶縁碍子2及び接地電極27間から容易に取外すことができる。すなわち、点火プラグ1の使用時において、絶縁碍子2先端部の冷却に寄与する開口部33は、点火プラグ1の製造時において、治具JGの通過口とすることができ、絶縁碍子2及び接地電極27間に所期の隙間をより確実に、かつ、より容易に形成するために利用することができる。
【0048】
次いで、上記実施形態によって奏される作用効果を確認すべく、取付ねじから接地電極の先端面までの長さP(mm)と、絶縁碍子のうち中心電極の先端側表面よりも先端側に位置する部位の最大肉厚T(mm)と、開口部の開口面積S(mm
2)とを種々変更した点火プラグのサンプルを作製し、各サンプルについて、耐プレイグニッション性評価試験を行った。耐プレイグニッション性評価試験の概要は次の通りである。すなわち、サンプルを、排気量1.6L、4気筒DOHCエンジンに取付けた上で、点火角度を所定の初期値として、全開状態(5500rpm)にて前記エンジンを2分間動作させた。その後、エンジン動作時にプレイグニッションが発生したか否かを確認し、プレイグニッションが発生した場合には、そのときの点火角度をプレイグニッション発生角度として特定した。一方で、プレイグニッションが発生しなかった場合には、点火角度を1度進角させた上で、再度エンジンを全開状態にて2分間動作させ、次いで、プレイグニッションの発生の有無を確認することを、プレイグニッションが発生するまで繰り返し行い、プレイグニッション発生角度を特定した。ここで、プレイグニッション発生角度が32度以上となったサンプルは、良好な耐プレイグニッション性を有するということができる。尚、各サンプルともに、円筒部に軸線CL1を挟んで対向する2つの開口部を設け、また、最短距離Lを0.1mmとした。
【0049】
図8〜
図11に、上記試験の結果を示す。尚、
図8〜
図11では、プレイグニッション発生角度が32度以上となったサンプルを丸印にて示し、プレイグニッション発生角度が32度未満となったサンプルをバツ印にて示す。また、
図8は、最大肉厚Tを4mmとした上で、長さP及び開口面積Sを種々変更したサンプルの試験結果を示し、
図9は、最大肉厚Tを1.5mmとした上で、長さP及び開口面積Sを種々変更したサンプルの試験結果を示す。さらに、
図10は、長さPを4mmとした上で、最大肉厚T及び開口面積Sを種々変更したサンプルの試験結果を示し、
図11は、長さPを6mmとした上で、最大肉厚T及び開口面積Sを種々変更したサンプルの試験結果を示す。尚、
図8〜
図11には、良好な耐プレイグニッション性を有するサンプルの試験結果から得られた近似曲線と、当該近似曲線の式を示す。尚、前記近似曲線は、良好な耐プレイグニッション性を有するサンプルとその他のサンプルとの境界を示すといえる。
【0050】
尚、最大肉厚Tを4mmとした場合において、ln(T)は約1.3863mmであり、4(mm)×ln(T)は約5.5452である。また、最大肉厚Tを1.5mmとした場合において、ln(T)は約0.4055mmであり、4(mm)×ln(T)は約1.6219である。さらに、長さPを4mmとした場合において、ln(P−1)は約1.0986mmであり、4(mm)×ln(P−1)は約4.3944である。加えて、長さPを6mmとした場合において、ln(P−1)は約1.6094mmであり、4(mm)×ln(P−1)は約6.4378である。
【0051】
図8に示すように、最大肉厚Tを4mmとしたサンプルは、開口面積Sが、4(mm)×ln(P−1)+5.5452〔=4(mm)×ln(4)〕以上となったときに、耐プレイグニッション性がより確実に良好となり、
図9に示すように、最大肉厚Tを1.5mmとしたサンプルは、開口面積Sが、4(mm)×ln(P−1)+1.6219〔=4(mm)×ln(1.5)〕以上となったときに、耐プレイグニッション性がより確実に良好となることが明らかとなった。
【0052】
さらに、
図10に示すように、長さPを4mmとしたサンプルは、開口面積Sが、4(mm)×ln(T)+4.3499〔=4(mm)×ln(3)〕以上となったとき、耐プレイグニッション性がより確実に良好となり、
図11に示すように、長さPを6mmとしたサンプルは、開口面積Sが、4(mm)×ln(T)+6.4378〔=4(mm)×ln(5)〕以上となったとき、耐プレイグニッション性がより確実に良好となることが分かった。
【0053】
すなわち、上記試験結果から、S≧{4(mm)×ln(P−1)}+{4(mm)×ln(T)}を満たすことで、プレイグニッションの発生を効果的に抑制できることが明らかとなった。これは、長さPや最大肉厚Tの大きさは、絶縁碍子の先端部の受熱量に相当し、開口面積は、主体金具の内部に対する新気の流入量、つまり、絶縁碍子先端部の冷却効果の大きさに相当するところ、上記式を満たすことで、主体金具の内部に流入した新気により、絶縁碍子の先端部が十分に冷却されたためであると考えられる。
【0054】
上記試験の結果より、プレイグニッションの発生を効果的に抑制するという観点から、円筒部に、周方向に沿って間欠的に複数の開口部を設けるとともに、開口部の開口面積Sが、S≧{4(mm)×ln(P−1)}+{4(mm)×ln(T)}の式を満たすように構成することが好ましいといえる。
【0055】
次に、S≧{4(mm)×ln(P−1)}+{4(mm)×ln(T)}を満たし、最短距離Lを種々異なるものとした点火プラグのサンプルを作製し、各サンプルについて、上述の耐プレイグニッション評価試験を行った。尚、当該試験では、点火角度が34度以上となったサンプルは、非常に優れた耐プレイグニッション性を有するとして「◎」の評価を下すこととした。一方で、点火角度が34度未満となったサンプルは、「△」の評価を下すこととした。
【0056】
表1に、上記試験の結果を示す。尚、サンプルとして、長さPを2mmとし、最大肉厚Tを1.5mmとし、開口面積Sを2mm
2としたものと、長さPを11mmとし、最大肉厚Tを4.0mmとし、開口面積を15mm
2としたものとを用意した。また、各サンプルともに、軸線CL1を挟んで対向する2つの開口部を設けた。
【0058】
表1に示すように、最短距離Lを0.10mm以上としたサンプルは、非常に優れた耐プレイグニッション性を有することが分かった。これは、接地電極から絶縁碍子へと伝導される熱量が十分に低減したためであると考えられる。
【0059】
上記試験の結果より、プレイグニッションの発生を一層効果的に抑制するという観点から、最短距離Lを0.10mm以上とすることがより好ましいといえる。
【0060】
尚、最短距離Lを過度に大きなものとすると、中心電極及び接地電極間で火花放電を生じさせるために必要な電圧が過度に増大してしまい、着火性や耐久性の低下を招いてしまうおそれがある。従って、着火性や耐久性の低下をより確実に防止すべく、最短距離Lを1mm以下とすることが好ましいといえる。
【0061】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0062】
(a)上記実施形態における開口部33の数は例示であって、その数は2つ以上であれば特に限定されるものではない。従って、
図12に示すように、開口部34を周方向に沿って間欠的に2つ設けることとしてもよいし、
図13に示すように、開口部35を周方向に沿って間欠的に6つ設けることとしてもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、開口部33が等間隔に設けられているが、必ずしも開口部を等間隔に設ける必要はない。但し、開口部33を通って新気が主体金具3の内部へとより確実に流入するようにするという観点から、開口部は次の位置に設けることが好ましい。すなわち、軸線CL1と直交し1の開口部を通る断面において、軸線CL1と前記1の開口部の周方向に沿った中心とを結ぶ第1仮想線を引くとともに、軸線CLを通り前記第1仮想線に直交する第2仮想線を引く。このとき、第2仮想線を基準として、前記1の開口部側を一方側としたとき、他方側に前記1の開口部と異なる開口部を形成することが好ましい。
【0064】
(b)上記実施形態において、開口部33は矩形状をなしているが、開口部の形状は特に限定されるものではない。従って、例えば、開口部が円形状であってもよい。
【0065】
(c)上記実施形態において、中心電極5の先端部はテーパ状とされているが、中心電極5の先端部の形状は特に限定されるものではない。
【0066】
(d)上記実施形態では特に記載していないが、耐久性の向上を図るべく、中心電極5や接地電極27のうち火花放電の起点となり得る部位に、耐消耗性に優れる金属(例えば、白金合金やイリジウム合金等)からなるチップを設けてもよい。
【0067】
(e)上記実施形態において、工具係合部19は断面六角形状とされているが、工具係合部19の形状は、このような形状に限定されるものではない。例えば、Bi−HEX(変形12角)形状〔ISO22977:2005(E)〕等とされていてもよい。