特許第5971851号(P5971851)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5971851エアゾール缶胴用アルミニウム合金板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5971851
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】エアゾール缶胴用アルミニウム合金板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/04 20060101AFI20160804BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20160804BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20160804BHJP
【FI】
   C22F1/04 C
   C22C21/00 L
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 673
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 686A
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 691C
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-206181(P2012-206181)
(22)【出願日】2012年9月19日
(65)【公開番号】特開2014-58735(P2014-58735A)
(43)【公開日】2014年4月3日
【審査請求日】2015年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000176707
【氏名又は名称】三菱アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】鷲山 宏治
(72)【発明者】
【氏名】野口 祐太
(72)【発明者】
【氏名】原田 俊宏
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−169417(JP,A)
【文献】 特開2000−256774(JP,A)
【文献】 特開2011−214107(JP,A)
【文献】 特開昭63−028850(JP,A)
【文献】 米国特許第06280543(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 − 21/18
C22F 1/04 − 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mgの含有量を1.1質量%以下としたJIS A3104合金の鋳塊を均質化処理した後、熱間圧延を行い、その後、冷間圧延を行うとともに、少なくとも1回の中間焼鈍を連続焼鈍炉を使用して到達温度505〜565℃で行い、最後の中間焼鈍後、最終板厚に至るまでの最終冷間圧延における圧延率を8〜18%とすることを特徴とするエアゾール缶胴用アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項2】
前記最終冷間圧延後に安定化焼鈍を行うことを特徴とする請求項記載のエアゾール缶胴用アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項3】
前記安定化焼鈍は、190〜210℃×1〜4時間の条件で行うことを特徴とする請求項記載のエアゾール缶胴用アルミニウム合金板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアゾール缶胴用アルミニウム合金板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エアゾール缶は、薬剤などの内容物と噴射剤との混合物が密閉収容されており、使用時には、噴射バルブが開放されることで、缶内の噴射剤の圧力で内容物が霧状または泡状に噴射されるものである。エアゾール缶は、消臭剤、化粧品、クリーナー、医薬品、塗料などに多岐にわたる製品の容器として利用されている。
このようなエアゾール缶胴の材料としては、これまで、例えばAl−Mn系合金などのアルミニウム合金が用いられている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
エアゾール缶胴は、絞り加工(Drawing)としごき加工(Ironing)とを組み合わせて実施するDI(Drawing and Ironing)加工などにより、アルミニウム合金板を缶胴状に成形することにより得られている。エアゾール缶胴用のアルミニウム合金板に要求される特性としては、耐圧性、耐食性、低耳率などの種々の特性が挙げられる。また、近時では、エアゾール缶の軽量化、アルミニウム資源の節減などを図るべく、エアゾール缶胴の薄肉化が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−169417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、エアゾール缶胴の薄肉化を進めると、従来のアルミニウム合金板では、十分な耐圧性を確保することが困難になる。また、従来のアルミニウム合金板では、薄肉であると、絞り加工などの際に耳率が高くなってしまい、その結果、材料の無駄が発生するのみならず、耳切れによる破胴、ピンホールの発生などの不具合が生じるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、高い耐圧性を有するとともに、耳率が低く、薄肉化が可能なエアゾール缶胴用アルミニウム合金板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
の本発明のエアゾール缶胴用アルミニウム合金板の製造方法は、Mgの含有量を1.1質量%以下としたJIS A3104合金の鋳塊を均質化処理した後、熱間圧延を行い、その後、冷間圧延を行うとともに、少なくとも1回の中間焼鈍を連続焼鈍炉を使用して到達温度505〜565℃で行い、最後の中間焼鈍後、最終板厚に至るまでの最終冷間圧延における圧延率を8〜18%とすることを特徴とする。
【0009】
の本発明のエアゾール缶胴用アルミニウム合金板の製造方法は、前記第の本発明において、前記最終冷間圧延後に安定化焼鈍を行うことを特徴とする。
【0010】
の本発明のエアゾール缶胴用アルミニウム合金板の製造方法は、前記第の本発明において、前記安定化焼鈍は、190〜210℃×1〜4時間の条件で行うことを特徴とする。
【0011】
本発明のエアゾール缶胴用アルミニウム合金板の成分などの限定理由について説明する。なお、以下の含有量はいずれも質量%で示される。
【0012】
JIS A3104合金
本発明のエアゾール缶胴用アルミニウム合金板を構成するアルミニウム合金は、JIS A3104合金のうち、Mg含有量を1.1%以下とするものである。
JIS A3104合金は、Si:0.6%以下、Fe:0.8%以下、Cu:0.05〜0.25%、Mn:0.8〜1.4%、Mg:0.8〜1.3%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる組成を有するものである。
また、JIS A3104合金は、Znを0.25%以下、Tiを0.1%以下で含有してもよく、所望により、Ga、V、Ni、B、Zrをそれぞれ0.05%以下含有してもよく、不可避不純物を個々に0.05%以下、総量で0.15%以下含有してもよい。
【0013】
Mg:1.1%以下
Mgは、アルミニウム合金の強度を向上させるのに必要な元素であるが、JIS A3104合金でMgの含有量が1.1質量%を超えると加工性が劣化し、その結果、耳率が高くなる。このため、Mgの含有量は、上記のように1.1質量%以下に制限する。これにより、JIS A3104アルミニウム合金であっても、アルミニウム合金板の加工性が良好なものとなり、耳率を低く抑制することができる。
なお、同様の理由により、Mgの含有量は、0.85%以上であるのが望ましく、0.95%以下であるのが望ましい。
【0014】
板厚:0.6〜0.8mm
本発明のエアゾール缶胴用アルミニウム合金板は、板厚が0.6〜0.8mmのものに限定される。なお、高い耐圧性を確保する観点からは、アルミニウム合金板の板厚は、0.65mm以上であることが望ましく、更に、0.7mm以上が望ましい。
【0015】
耳率:2%以下
上記板厚において耳率2%以下を達成することで、軽量化とDI加工性とを両立することができる。本発明における耳率は、深絞り試験において、絞り比1.67のときの山高さの平均と谷高さの平均との差を、谷高さの平均で割って求めた比率(%)で表す。
【0016】
次に、本発明の製造方法における条件の限定理由について説明する。
【0017】
均質化処理
上記組成のアルミニウム合金鋳塊に均質化処理することで、析出物のα−Al(Fe,Mn)Si相への変態を促進し、絞り成形性を向上する。
なお、均質化処理の条件は、本発明としては特定のものに限定されるものではないが、例えば540〜580℃×5〜10時間が好適なものとして示される。
【0018】
熱間圧延
熱間圧延は常法により行うことができ、本発明としては特定の条件に限定されるものではないが、好適な条件としては、熱間圧延性及びその後の冷間圧延性を考慮すると、300℃以上の熱間圧延仕上り温度が好ましい。
なお、アルミニウム合金板の熱間圧延による仕上がり板厚は、3〜8mmであることが望ましい。これは、3mm未満では、冷間圧延率が低くなり十分な機械的特性が得られなくなり、また、8mmを超えると、冷間圧延率が高くなり耳率が悪化するためである。
また、熱間圧延後の冷間圧延率が70%超となるように熱間圧延での圧延率を定めるのが望ましい。
【0019】
冷間圧延
冷間圧延は、常法により行うことができるが、冷間圧延前または冷間圧延の途中で少なくとも1回の中間焼鈍を行うものが望ましい。冷間圧延の途中でのみ中間焼鈍を行う場合、最初の中間焼鈍前の冷間圧延率は70%超であるのが望ましい。この冷間圧延率を70%超にすることで、最終板および製缶後の機械的性質が向上し、高い耐圧性が確保できる。
なお、最終の中間焼鈍時後、最終板厚に至るまでの最終冷間圧延における冷間圧延率は8〜18%に限定する。
この冷間圧延率が8%未満であると、アルミニウム合金板の強度が不足する。一方、最終冷延率が18%超になると、耳率が高くなる。このため、上記冷間圧延率を規定する。なお、同様の理由により、上記冷間圧延率は10%以上であることが望ましく、14%以下であることが望ましい。
【0020】
中間焼鈍
上記冷間圧延前または冷間圧延の途中に、少なくとも1回行われる中間焼鈍は、連続焼鈍炉を使用して到達温度505〜565℃で行う。
中間焼鈍の際の到達温度を505℃以上にすることにより、溶体化効果を期待することができ、中間焼鈍の際の到達温度が565℃を超えると材料が溶融するおそれがあるため、中間焼鈍の際の到達温度は、565℃以下にする。
なお、同様の理由により、中間焼鈍の際の到達温度は、530℃以上であることが好ましく、550℃以下であることが好ましい。
また、中間焼鈍では、溶体化効果を得るために、昇温の際は常温から設定到達温度まで、冷却の際は最大到達温度から100℃まで10分以下とすることが望ましい。
【0021】
安定化焼鈍
上記最終冷間圧延後に、安定化焼鈍を行うようにしてもよい。安定化焼鈍を行うことにより、アルミニウム合金板に対してDI加工を実施する際に底抜けの発生を低減することができる。
安定化焼鈍の条件は、190〜210℃×1〜4時間の条件を好適なものとして示すことができる。焼鈍温度190℃未満では底抜け性の改善効果が得られず、210℃を超えると耐圧性が低下する。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明のエアゾール缶胴用アルミニウム合金板によれば、Mgの含有量を1.1質量%以下としたJIS A3104合金からなり、板厚が0.6〜0.8mmで、耳率が2%以下であるので、薄肉においても、高い耐圧性を有するとともに、優れたDI加工性が得られる。
また、本発明のエアゾール缶胴用アルミニウム合金板の製造方法によれば、Mgの含有量を1.1質量%以下としたJIS A3104合金の鋳塊を均質化処理した後、熱間圧延を行い、その後、冷間圧延を行うとともに、少なくとも1回の中間焼鈍を連続焼鈍炉を使用して到達温度505〜565℃で行い、最後の中間焼鈍後、最終板厚に至るまでの最終冷間圧延における圧延率を8〜18%とするので、高い耐圧性を有するとともに、耳率を低く抑制することができるエアゾール缶胴用アルミニウム合金板を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態のエアゾール缶胴用アルミニウム合金板およびその製造方法について説明する。
本実施形態のエアゾール缶胴用アルミニウム合金板は、JIS A3104アルミニウム合金であって、Mgの含有量が1.1質量%以下の組成を有する。該アルミニウム合金板を構成するアルミニウム合金は、例えば、質量%で、Si:0.2〜0.35%、Fe:0.35〜0.55%、Cu:0.05〜0.25%、Mn:0.8〜1.15%、Mg:0.8〜1.1%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる組成を有している。
【0024】
また、本実施形態のエアゾール缶胴用アルミニウム合金板は、板厚が0.6〜0.8mmの薄肉のものである。
【0025】
また、本実施形態のエアゾール缶胴用アルミニウム合金板は、耳率が2%以下である。なお、ここにいう耳率は、深絞り試験において、絞り比1.67のときの山高さの平均と谷高さの平均との差を、谷高さの平均で割って求めた比率(%)として測定された値である。
【0026】
次に、上記エアゾール缶胴用アルミニウム合金板の製造方法について説明する。
エアゾール缶胴用アルミニウム合金板の材料となるアルミニウム合金の鋳塊は、常法により鋳造することができ、例えば前記成分範囲となるように成分調整し、鋳造することにより得ることができる。
【0027】
次いで、得られたアルミニウム合金の鋳塊に対して均質化処理を実施する。均質化処理は、例えば540〜580℃×5〜10時間の条件で行い、均質化処理後、熱間圧延を行う。熱間圧延の条件は、例えば熱間仕上り温度として300〜350℃の間に制御して行う。
上記熱間圧延では、アルミニウム合金板の仕上がり板厚を3〜8mmにすることが好ましい。また、上記熱間圧延後、最初の中間焼鈍までの冷間圧延率が、70%超となるように仕上がり板厚を設定するのが望ましい。
【0028】
上記熱間圧延後、熱間圧延材に対し冷間圧延を行う。
また、冷間圧延の前または途中には、少なくとも1回の中間焼鈍を実施する。
中間焼鈍の焼鈍炉として連続焼鈍炉を使用し、焼鈍条件としては、例えば505〜565℃の到達温度、昇温時間および冷却時間共に10分以下とするのが望ましい。
【0029】
冷間圧延途中でのみ中間焼鈍を行う場合、冷間圧延は最初の中間焼鈍前の冷間圧延率が70%超になるように行うのが望ましく、最終の中間焼鈍後、最終板厚に至るまでの最終冷間圧延率を8〜18%とする。
これにより、0.6〜0.8mm板厚のアルミニウム合金板を得る。該アルミニウム合金板は、耳率が2%以下になっている。
なお、上記最終冷間圧延の後に、アルミニウム合金板に対して安定化焼鈍を実施する。安定化焼鈍の条件は、例えば190〜210℃×1〜4時間とする。
【実施例】
【0030】
以下に、本発明の実施例について説明する。
まず、表1に示す組成(残部はAlおよび不可避的不純物)となるように、アルミニウム合金を溶製してアルミニウム合金鋳塊を得た。次いで、565℃×7時間で均質化処理を行い、表1の仕上がり板厚になるように熱間圧延を行った。
さらに冷間圧延を行いつつ、中途で表1に示す製造条件による中間焼鈍および最終の冷間圧延を実施して、板厚0.75および0.67mmの各供試材のアルミニウム合金板を得た。
表1には、最初の中間焼鈍までの冷間圧延率と、中間焼鈍条件、最終の中間焼鈍時の板厚を記載した。なお、これらの供試材では、中間焼鈍は1回とした。
実施例3〜6の供試材については、最終冷間圧延の後、180、190、200、220℃×各2時間での安定化焼鈍をさらに行った。
【0031】
上記各供試材のアルミニウム合金板について、以下のようにして耳率、耐底抜性、および耐圧強度の各特性を評価した。
【0032】
(耳率)
各供試材のアルミニウム合金板について、絞り比1.67で絞り加工を行い、得られたカップについて、山高さの平均と谷高さの平均との差を谷高さの平均で割った比率(%)として耳率を測定した。
【0033】
(耐底抜性)
各供試材のアルミニウム合金板を用い、それぞれについてDI加工により直径53mm、高さ170mmのエアゾール缶を200製缶し、以下の基準に従って耐底抜性を評価した。なお、製缶は、DI成形にて絞り比2.2として行った。
○:底抜が1缶もなかったもの
△:底抜が1〜3缶あったもの
×:底抜が4缶以上あったもの
【0034】
(耐圧強度)
各供試材について上記で得られたエアゾール缶内に圧力をかけて該圧力を上昇させていき、エアゾール缶が変形したときの圧力を測定し、各供試材につき3缶の平均値を耐圧強度(MPa)とした。
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示すように、本発明材は、耳率、耐底抜性、および耐圧性のいずれも良好な特性を示した。なお、実施例3は安定化焼鈍温度が180℃であるため、耐底抜性が若干劣る。また、実施例7〜9も耐底抜性が若干劣る。実施例6は安定化焼鈍温度が220℃であるため、耐圧性および耳率がやや悪い。
一方、本発明の上記条件を満たさない比較材は、比較例1〜3において、Mg量が高く耐底抜性および耳率が悪い。