(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5971854
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】工作機械の主軸装置
(51)【国際特許分類】
B23B 19/02 20060101AFI20160804BHJP
B23Q 11/12 20060101ALI20160804BHJP
F16C 27/00 20060101ALI20160804BHJP
F16C 35/12 20060101ALI20160804BHJP
F16C 37/00 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
B23B19/02 B
B23B19/02 A
B23Q11/12 C
F16C27/00 A
F16C35/12
F16C37/00 B
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-245497(P2012-245497)
(22)【出願日】2012年11月7日
(65)【公開番号】特開2014-94420(P2014-94420A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年5月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】小池 一成
【審査官】
村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】
特表2004−508509(JP,A)
【文献】
米国特許第06505972(US,B1)
【文献】
特開平08−174306(JP,A)
【文献】
特開平07−024687(JP,A)
【文献】
特開平05−138408(JP,A)
【文献】
特開2011−167799(JP,A)
【文献】
米国特許第3664718(US,A)
【文献】
実開平06−021803(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 19/02
F16C 21/00−27/08
F16C 35/00−39/06
B23Q 11/12
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の主軸を回転自在に支持する複数の軸受が、前記主軸の軸方向との直交方向へ移動可能な受圧部材を介してハウジングの内部に配置され、該ハウジングに、前記直交方向における前記軸受側へ前記受圧部材を押圧する圧力媒体が供給される圧力室が形成される工作機械の主軸装置であって、
前記受圧部材は、自身の内周面と前記主軸の外周面との間に全ての前記軸受を介在させる1つの中空円筒状部材であり、
前記ハウジングには、各前記軸受毎に独立させて前記圧力室がそれぞれ形成されて、各前記圧力室毎に独立して前記圧力媒体の圧力を調整可能な調整手段が備えられることを特徴とする工作機械の主軸装置。
【請求項2】
前記複数の軸受は、前記軸方向で互いに異なる位置にそれぞれ配置されると共に、各前記軸受と各前記圧力室とは、前記直交方向で前記受圧部材を介して対向配置されて、
前記軸方向における各前記圧力室の全長は、前記軸方向における各前記軸受の全長以上に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の工作機械の主軸装置。
【請求項3】
前記ハウジングには、各前記軸受に近接する位置で軸受冷却媒体が循環する循環路が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の工作機械の主軸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械の主軸を回転自在に支持する複数の軸受を、受圧部材を介してハウジングの内部に配置して、該ハウジングに、前記軸受側へ前記受圧部材を押圧する圧力媒体が供給される圧力室を設けた工作機械の主軸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、主軸を回転自在に支持する複数の軸受の外輪と、主軸ハウジングとの隙間を簡単な構成で制御可能として、低速回転域での主軸の剛性の低下を防止した工作機械の主軸装置が開示されている。特許文献1の主軸装置では、主軸ハウジングと外輪間座との間に、薄肉リング形状部材の凹部と前記主軸ハウジングとで圧力室を形成して、この圧力室に圧力流体を供給することで弾性変形した薄肉リング形状部材が、各軸受の外輪と主軸ハウジングとの隙間をなくすことにより、低速回転域での主軸の剛性が低下することを防止できる。
【0003】
一方、特許文献2には、主軸の剛性の低下を防止するために、ハウジング内で主軸を回転可能に支持する複数の軸受に予圧を加える予圧調整装置を備えた工作機械の主軸装置が開示されている。特許文献2の主軸装置では、各軸受の外輪の外側に、主軸の中心軸方向に外力を加えるための環状押圧体を設けて、主軸の低速回転時に、該環状押圧体に各軸受の外輪と対向するように形成された各加圧室に対して圧油を供給することで、変形した環状押圧体が各軸受の外輪を押圧する。その結果、この押圧力が主軸の中心軸方向に向けて働いて各軸受を主軸に対して押え付けるので、主軸の剛性が低下することを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−138408号公報
【特許文献2】実開平6−21803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1の主軸装置では、圧力室は、主軸ハウジングと外輪間座との間で主軸の軸方向に長い形状とされて容積が大きいことから、これが原因で、圧力流体の圧力を均等に制御できないことが考えられる。この場合には、圧力流体の圧力が作用する薄肉リング形状部材も均等に弾性変形できないため、各軸受の外輪と主軸ハウジングとに隙間が残る部分が存在すると、該隙間が残る部分では軸受を主軸に対して十分に押え付けることができず、主軸の剛性を高めることができないことが懸念される。
【0006】
また特許文献2の主軸装置では、一つの油通路から分岐した各分岐油通路を通じて各加圧室に圧油を供給しており、圧油の供給源から近い加圧室内と該供給源から遠い加圧室内とでは、圧油の油圧力が揃わないことが考えられる。この場合には、前記油圧力によって各軸受を主軸に対して押え付ける力が一様にならないため、各軸受を主軸に押え付ける力が弱い部分では、主軸の剛性を高めることができないことも懸念される。
【0007】
この発明は、このような状況に鑑み提案されたものであって、各軸受を主軸に対して均等に押え付けて該主軸の剛性を高めることができる工作機械の主軸装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明に係る工作機械の主軸装置は、工作機械の主軸を回転自在に支持する複数の軸受
が、前記主軸の軸方向との直交方向へ移動可能な受圧部材を介してハウジングの内部に配置
され、該ハウジングに、前記直交方向における前記軸受側へ前記受圧部材を押圧する圧力媒体が供給される圧力室
が形成
される工作機械の主軸装置であって、
前記受圧部材は、自身の内周面と前記主軸の外周面との間に全ての前記軸受を介在させる1つの中空円筒状部材であり、前記ハウジング
には、各前記軸受毎に独立させて前記圧力室
がそれぞれ形成されて、各前記圧力室毎に独立して前記圧力媒体の圧力を調整可能な調整手段
が備えられることを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1において、前記複数の軸受
は、前記軸方向で互いに異なる位置にそれぞれ配置
されると共に、各前記軸受と各前記圧力室
とは、前記直交方向で前記受圧部材を介して対向配置
されて、前記軸方向における各前記圧力室の全長
は、前記軸方向における各前記軸受の全長以上に設定
されていることを特徴とする。
とを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は2において、前記ハウジング
には、各前記軸受に近接する位置で軸受冷却媒体が循環する循環路
が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明に係る工作機械の主軸装置によれば、各圧力室毎に、調整手段によって圧力を調整した圧力媒体をそれぞれ供給することで、受圧部材を、各圧力室内の圧力媒体の圧力で軸受側へ均等に押圧することが可能になる。よって、受圧部材が各軸受を主軸に対して均等に押え付けて該主軸の剛性を高めることができる。
請求項2の発明によれば、各圧力室内の圧力媒体の圧力を、受圧部材を介して、主軸の軸方向で各軸受の全長に対して均等に加えることが可能になる。よって、前記軸方向における各軸受の全長を、主軸に対して均等に押え付けることが可能になる。
請求項3の発明によれば、循環路を循環する軸受冷却媒体によって、例えば主軸の回転時に主軸と各軸受との摩擦によって発生する熱を抑えることができる。よって、各軸受が熱膨張することを抑制して、各軸受の焼き付きを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態の主軸装置を備えたマシニングセンタの要部構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態を
図1を参照しつつ説明する。
図1には横型のマシニングセンタ1の主軸装置2を示した。この主軸装置2は、主軸3と、受圧部材4と、転がり軸受5,6と、ハウジング7と、蓋部材8とを備えている。なお、マシニングセンタ1は本発明の工作機械の一例である。
【0014】
図1に示すように主軸3は、マシニングセンタ1の前後方向(
図1の左右方向)に延びる中空形状で、主軸3の前端に、工具(図示せず。)が着脱可能に装着される。受圧部材4は、中空円筒状であって主軸3と同軸で該主軸3を取り囲むように配置されている。この受圧部材4は、前方側を薄肉円筒部4Aとし、後方側を該薄肉円筒部4Aに連続する厚肉円筒部4Bとして、薄肉円筒部4Aの基端部に段部10が設けられている。厚肉円筒部4Bには、厚肉円筒部4Bに一体とされて該厚肉円筒部4Bの外側へ突出する円環状の突出部11が設けられている。転がり軸受5,6は、主軸3の軸方向Xに間隔をおいて互いに異なる位置で主軸3の外周面と受圧部材4(薄肉円筒部4A)の内周面との間に介在している。本実施形態では、後述の圧力室20,21に圧油を供給しない状態で転がり軸受5,6の各外輪5B,6Bと受圧部材4との間に僅かな隙間(12μm〜15μm)を設けている。後述するように圧力室20,21に圧油を供給した場合には受圧部材4は、該圧油の油圧力を受けて、前記軸方向Xとの直交方向Yにおける両転がり軸受5,6側へ移動することになる。また前記軸方向Xで、転がり軸受5の内輪5Aと転がり軸受6の内輪6Aとの間に内輪間座12が装着されて、前記軸方向Xで、転がり軸受け5の外輪5Bと転がり軸受6の外輪6Bとの間に外輪間座13が装着されている。
図1中の符号14は、主軸3の外周面に装着されて前記内輪6Aに当接するカラーである。なお、圧油は本発明の圧力媒体の一例である。
【0015】
さらに
図1に示すようにハウジング7は、前端に開口部15を備える金属製の中空円筒状であって、主軸3と同軸で受圧部材4の外周面に装着されている。このようにすることで
図1に示すように、主軸3を回転自在に支持する転がり軸受け5,6を、中空円筒状のハウジング7内に配置した。加えて蓋部材8は、筒部16と、該筒部16の前端に周設された円環状のフランジ部17とを備えて、ハウジング7の前端と受圧部材4の前端とに取り付けられる。
図1に示すように蓋部材8をハウジング7の前端と受圧部材4の前端とに取り付けた状態では、筒部16は、主軸3を挿通させた状態で前記開口部15に嵌着されて、転がり軸受5を介して内輪間座12及び外輪間座13を、転がり軸受6に押圧する。そしてこの転がり軸受6は段部10に押し付けられる。一方、フランジ部17は、ハウジング7の前面に当接して該ハウジング7を該ハウジング7の後方側へ押圧する。これにより、ハウジング7の後端面は前記突出部11に突き当てられる。
【0016】
また
図1に示すようにハウジング7には、圧力室20,21と、循環路22,23,24とが形成されている。圧力室20は、軸方向Xの前方側(
図1の左側)でハウジング7の内周面の全周に亘って形成された環状溝25と受圧部材4とで囲まれた空間によって構成されている。圧力室21については、軸方向Xの後方側(
図1の右側)で前記内周面の全周に亘って形成された環状溝26と受圧部材4とで囲まれた空間によって構成されている。軸方向Xにおける環状溝25の中央部と環状溝26との中央部との間隔を、軸方向Xにおける転がり軸受5の中央部と転がり軸受6の中央部との間隔と同間隔にした。このため、
図1に示すように、直交方向Y(ハウジング7の径方向)で、圧力室20は受圧部材4の薄肉円筒部4Aを介して転がり軸受5と対向配置され、圧力室21は該薄肉円筒部4Aを介して転がり軸受6と対向配置されている。その上、本実施形態では、軸方向Xにおける圧力室20の全長Aを、該軸方向Xにおける転がり軸受5の全長B以上に設定した。さらに軸方向Xにおける圧力室21の全長Cを、該軸方向Xにおける転がり軸受6の全長D以上に設定した。さらに、受圧部材4とハウジング7との間には、圧油を圧力室20に密閉するOリング27,28や、圧油を圧力室21に密閉するOリング29,30が設けられている。
【0017】
加えて
図1に示すようにハウジング7に、ハウジング7の外部と圧力室20とを連通させた圧油供給路32が形成されている。さらにハウジング7に、ハウジング7の外部と圧力室21とを連通させた圧油供給路33が、圧油供給路32とは独立して形成されている。圧油供給路32は、減圧弁35を介して圧油を供給可能な油圧ユニット36に接続されている。この油圧ユニット36は、減圧弁37を介して圧油供給路33にも接続されている。
【0018】
上記の油圧ユニット36及び両減圧弁35,37には、制御装置38が接続されている。この制御装置38には、主軸回転速度検出装置39と、温度検出センサ40と、記憶装置41とが接続されている。主軸回転速度検出装置39は、マシニングセンタ1の操作者が操作盤(図示せず。)を操作して設定した回転速度指令値に基づいて主軸3の回転速度を検出する。温度検出センサ40は、受圧部材4の内部に収容されて該受圧部材4の温度を検出する。この温度検出センサ40は、検出した受圧部材4の温度から間接的に両転がり軸受5,6の温度を検出する。記憶装置41は、主軸回転速度検出装置39で検出した主軸3の回転速度や温度検出センサ40で検出した受圧部材4の温度に対応させて各圧力室20,21毎に、各圧力室20,21にそれぞれ供給する圧油の油圧力のデータを予め記憶している。制御装置38は、前記主軸3の回転速度や前記受圧部材4の温度に基づいて、記憶装置41から前記油圧力のデータを選択して、この選択したデータに応じた動作指令信号を油圧ユニット36に送信すると共に、該選択したデータに応じた開閉制御信号を各減圧弁35,37にそれぞれ送信する。これにより、後述するように圧力室20内の油圧力と圧力室21内の油圧力とを、記憶装置41から選択した所定の油圧力に揃えるように調整する。
【0019】
さらに
図1に示すように循環路22〜24は、ハウジング7に形成されて各転がり軸受5,6の冷却に用いる冷却油を循環させる。循環路22は、軸方向Xで圧力室20の前方側で該圧力室20に隣接してハウジング7に形成されている。この循環路22は、軸方向Xにおける上記の環状溝25(
図1参照。)の前方側でハウジング7の内周面の全周に亘って形成された環状溝44と受圧部材4とで囲まれた空間によって構成されている。受圧部材4とハウジング7との間にはOリング47が設けられている。このOリング47と上記のOリング27(
図1参照。)とによって、冷却油を循環路22に密閉する。
図1に示すように循環路22は、受圧部材4を介して転がり軸受5と対向する圧力室20に隣接することから、該転がり軸受5に近接する位置でハウジング7に形成できる。
【0020】
循環路23は、軸方向Xで圧力室21の後方側で該圧力室21に隣接してハウジング7に形成されている。この循環路23は、軸方向Xにおける上記の環状溝26(
図1参照。)の後方側でハウジング7の内周面の全周に亘って形成された環状溝45と受圧部材4とで囲まれた空間によって構成されている。受圧部材4とハウジング7との間にはOリング48が設けられている。このOリング48と上記のOリング30(
図1参照。)とによって、冷却油を循環路23に密閉する。
図1に示すように循環路23は、受圧部材4を介して転がり軸受6と対向する圧力室21に隣接することから、該転がり軸受6に近接する位置でハウジング7に形成できる。
【0021】
循環路24は、軸方向Xで圧力室20と圧力室21との間に挟まれてハウジング7に形成されている。この循環路24は、軸方向Xで上記の環状溝25と上記の環状溝26との間でハウジング7の内周面の全周に亘って形成された環状溝46と、受圧部材4とで囲まれた空間によって構成されている。
図1に示すように軸方向Xにおける環状溝46の幅寸法は、軸方向Xにおける圧力室20の後壁と圧力室21の前壁との間隔よりも僅かに小さく設定されている。軸方向Xで環状溝46の前壁が、圧油を圧力室20に密閉するOリング28に隣接し、該軸方向Xで環状溝46の後壁が、圧油を圧力室21に密閉するOリング29に隣接する。このためOリング28とOリング29とによって、冷却油を循環路24(環状溝46)に密閉できる。
図1に示すように、軸方向Xで循環路24の前壁を、受圧部材4を介して転がり軸受5と対向する圧力室20の後壁に隣接させたことから、循環路24は、転がり軸受5に近接する位置でハウジング7に形成できる。さらに、軸方向Xで循環路24の後壁は、受圧部材4を介して転がり軸受6と対向する圧力室21の前壁に隣接させたことから、循環路24は、転がり軸受6に近接する位置でハウジング7に形成できる。
【0022】
加えて
図1に示すようにハウジング7の内部に、後端がハウジング7の後端面に開口して軸方向Xに沿って延びる主冷却油通路50が形成されている。これに加えてハウジング7の内部に、主冷却油通路50から分岐させて循環路22と連通する第1分岐冷却油通路51と、該主冷却油通路50から分岐させて循環路23と連通する第2分岐冷却油通路52と、該主冷却油通路50から分岐させて循環路24と連通する第3分岐冷却油通路53とが形成されている。
【0023】
また受圧部材4の突出部11の内部に、冷却油供給路54が形成されている。この冷却油供給路54の前端は、突出部11に対するハウジング7の後端面の突き当て部で主冷却油通路50の後端と接続されている。ハウジング7の後端面と突出部11との間には、Oリング55が、主冷却油通路50の外周と冷却油供給路54の外周とに配置されるように設けられている。さらに冷却油供給路54に、各転がり軸受5,6の冷却に用いる冷却油を供給可能な冷却油供給装置56が接続されて、該冷却油供給装置56に上記の制御装置38が接続されている。この冷却油供給装置56は、制御装置38から動作指令信号を受信すると、冷却油供給路54を通じて主冷却油通路50に冷却油を供給する。この冷却油は、主冷却油通路50から各分岐冷却油通路51〜53を通じて各循環路22〜24に供給された後に、冷却油回収路(図示せず。)を通じて冷却油供給装置56に戻される。その後冷却油供給装置56は、冷却油を冷却して冷却油供給路54、主冷却油通路50、各分岐冷却油通路51〜53、各循環路22〜24、冷却油回収路を順次循環させる動作を繰り返す。なお、冷却油は本発明の軸受冷却媒体の一例である。
【0024】
次に主軸装置2の動作を説明する。
図1に示す主軸3の前端に工具を装着して、主軸3と共に回転させた工具によって、例えばワーク(図示せず。)に切削加工を行う。この切削加工の際にびびり振動が発生した場合には、以下のようにして主軸3の剛性を高めることでびびり振動の発生を抑制する。びびり振動が発生した場合にマシニングセンタ1の操作者は、操作盤を操作して制御装置38に油圧力付加指令信号を送信する。すると、制御装置38は、油圧力付加指令信号を受信した後に、主軸回転速度検出装置39によって検出された主軸3の回転速度や温度検出センサ40によって検出された受圧部材4の温度に基づいて、記憶装置41に記憶された所定の油圧力のデータを選択する。その後制御装置38は、この油圧力のデータに応じた動作指令信号を油圧ユニット36に送信すると共に、この油圧力データに応じた開閉制御信号を各減圧弁35,37にそれぞれ送信する。その結果、各減圧弁35,37を独立してそれぞれ開閉制御して各圧油供給路32,33内の油圧力をそれぞれ独立して調整する。これにより、圧油供給路32と連通する圧力室20内の油圧力と、圧油供給路33と連通する圧力室21内の油圧力とを、記憶装置41から選択した所定の油圧力に揃えて調整する。
【0025】
各圧力室20,21内の油圧力が前記所定の油圧力に高まると、これらの油圧力が均等に受圧部材4の薄肉円筒部4Aを押圧して、該受圧部材4は、直交方向Yにおける両外輪5B,6B側へ一様に移動する。すると、各外輪5B,6Bと受圧部材4との間の隙間がなくなった上に、前記油圧力は、受圧部材4を介して各外輪5B,6Bに均等に加える結果、各内輪5A,6Aを主軸3の外周面に対して均等に押え付ける。これによって、主軸3の剛性を高めることができる。特に本実施形態では軸方向Xで、圧力室20の全長Aを転がり軸受5の全長B以上に設定したことにより、圧力室20内の油圧力を、薄肉円筒部4Aを介して前記軸方向Xで外輪5Bに対して均等に加えることができる。さらには軸方向Xで、圧力室21の全長Cを転がり軸受6の全長D以上に設定したことにより、圧力室21内の油圧力を、薄肉円筒部4Aを介して前記軸方向Xで外輪6Bに対して均等に加えることもできる。なお、両減圧弁35,37、油圧ユニット36、制御装置38、主軸回転速度検出装置39、温度検出センサ40、記憶装置41は、本発明の調整手段の一例である。
【0026】
加えて、本実施形態では油圧力を、厚肉円筒部4Bより重量が軽い薄肉円筒部4Aに作用させたことから、受圧部材4を両外輪5B,6B側へ移動させ易いという利点がある。さらに受圧部材4は金属製であることから、該受圧部材4の機械的強度は、例えば弾性材料で成形した受圧部材よりも優れている。よって、受圧部材4は疲労強度が高いという利点を有する。
【0027】
また、ワークに切削加工を行う場合に冷却油供給装置56は、制御装置38から動作指令信号を受信すると、冷却油を冷却して冷却油供給路54、主冷却油通路50、各分岐冷却油通路51〜53、各循環路22〜24、冷却油回収路を順次循環させる動作を繰り返す。切削加工の際に例えば主軸3と各転がり軸受5,6との摩擦によって発生する熱は、各転がり軸受5,6と当接する受圧部材4に伝導する。そして、各循環路22〜24を循環する冷却油が、この熱を奪うことで該熱の発生を抑えることができる。したがって、各転がり軸受5,6が熱膨張することを抑制できるため、例えば転動体58が内輪5Aに焼き付くことや転動体59が内輪6Aに焼き付くことを防止できる。特に本実施形態では、循環路22〜24が薄肉円筒部4Aに接してハウジング7に形成されているため、厚肉円筒部4Bよりも速やかに薄肉円筒部4Aを伝導する熱を、各循環路22〜24を循環する冷却油によって効果的に奪うことができる。したがって、前記熱の発生を効果的に抑えることができる。
【0028】
<本実施形態の効果>
本実施形態の主軸装置2では、各圧力室20,21毎に、所定の油圧力に調整した油圧をそれぞれ供給することで、受圧部材4を、各圧力室20,21内の油圧力で両転がり軸受5,6側へ均等に押圧することが可能になる。よって、受圧部材4が各転がり軸受5,6を主軸3に対して均等に押し付けて該主軸3の剛性を高めることができる。
【0029】
また、軸方向Xで圧力室20の全長Aを転がり軸受5の全長B以上に設定したことにより、圧力室20内の油圧力を、薄肉円筒部4Aを介して前記軸方向Xで外輪5Bに対して均等に加えることができる。さらには軸方向Xで、圧力室21の全長Cを転がり軸受6の全長D以上に設定したことにより、圧力室21内の油圧力を、薄肉円筒部4Aを介して前記軸方向Xで外輪6Bに対して均等に加えることもできる。よって、軸方向Xにおける転がり軸受5の全長B及び転がり軸受6の全長Dを、主軸3に対して均等に押し付けることが可能になる。
【0030】
さらに、各循環路22〜24を循環する冷却油によって、例えば主軸3の回転時に主軸3と各転がり軸受5,6との摩擦によって発生する熱を抑えることができる。よって、各転がり軸受5,6が熱膨張することを抑制できるため、転動体58が内輪5Aに焼き付くことや転動体59が内輪6Aに焼き付くことを防止できる。
【0031】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨を逸脱しない範囲内において構成の一部を適宜変更して実施できる。上述した実施形態では、油圧力によって、受圧部材4を両外輪5B,6B側へ移動させるようにしたが、これに代えて、例えば空気供給装置よって供給される圧縮空気の圧力で、受圧部材4を両外輪5B,6B側へ移動させるようにしてもよい。また、上述した実施形態では、主軸3の回転時に発生する熱を冷却油によって抑えているが、これに代えて、例えば冷却水やクーラントで、前記熱の発生を抑えるようにしてもよい。
【0032】
さらに、上述した実施形態では両転がり軸受5,6の温度を、受圧部材4の内部に収容した温度検出センサ40によって間接的に検出したが、これに代えて、各転がり軸受5,6に取り付けた温度検出センサで、両転がり軸受5,6の温度を直接的に検出するようにしてもよい。加えて、上述した実施形態では、制御装置38から送信された動作指令信号や開閉制御信号に基づいて油圧ユニット36や両減圧弁35,37を自動で制御することで各圧力室20,21内の油圧力を調整したが、これに代えて、例えば制御装置38が記憶装置41から選択した所定の油圧力のデータを表示する表示装置を設けて、操作者が、油圧ポンプや減圧弁を手動で操作することで各圧力室20,21内の油圧力が前記所定の油圧力になるように調整してもよい。さらに加えて、転がり軸受5,6の各外輪5B,6Bと受圧部材4との間の隙間寸法は、12μm〜15μmに限らず適宜の値に設定してもよい。
【符号の説明】
【0033】
1・・マシニングセンタ、2・・主軸装置、3・・主軸、4・・受圧部材、5,6・・転がり軸受、7・・ハウジング、20,21・・圧力室、22〜24・・循環路、35・・減圧弁、36・・油圧ユニット、37・・減圧弁、38・・制御装置、39・・主軸回転速度検出装置、40・・温度検出センサ、41・・記憶装置、A,C・・主軸の軸方向における圧力室の全長、B,D・・主軸の軸方向における転がり軸受の全長、X・・主軸の軸方向、Y・・主軸の軸方向との直交方向。